肉の器、螺旋纏う凶刃

作者:柊透胡

 東京都墨田区――両国国技館の近くに、刀剣博物館はある。
 1年を通して、様々なテーマで展覧会が催されているが、月に1度、第2土曜日は本部定例鑑賞会。鑑賞刀や鑑定刀等、実物の刀剣を手に持って鑑賞出来る機会だ。
 その、帰り道だった。
「~♪」
 足取りも軽く、墨田川沿いを往くケルン・ヒルデガント(銀に槍を華に風・e02427)。刀剣愛好家にとって、文句なしに愉しい一時だったようだ。
 その歩みが、徐に止まる。
「……何じゃ?」
 遠目には、OLのように見えた。だが、髪はざんばら、スーツのあちこちが破れ裂け、全体的に薄汚れた雰囲気は否めない。
 そして、何よりの奇矯は――その右手が引き摺る、剣。禍々しく輝く刃に、刺々しい暗紫の柄。その柄に嵌め込まれた目玉のような宝玉が、ギラリと輝いた次の瞬間。
「……っ!」
 ガキィッ!
 舗装された歩道が抉れた。女の細腕に振るわれ、否、剣自体が気儘に躍るように、ケルンを襲ったのだ。
「くわばらくわばら……で、やはり、本体は『剣』の方じゃな?」
 反射的に身構えたケルンは、既に気付いている。
 そろそろ夕方になるとは言え、隅田川沿いのこの界隈を人っ子1人通らないなんて、尋常ならばあり得ない。
 そして、よくよく目を凝らせば、『剣』から伸びた細い触手は、OLの全身に及んでいる。茫とした表情は、抜け殻のように空虚。恐らく、彼女はもう傀儡と成り果てている。
「うむ……螺旋の技、か」
 痛ましげな面持ちも束の間。歩道に刻まれた傷跡に、螺旋忍軍の片鱗を見て取るケルン。ゆうらりと構え直された螺旋纏う刃を真っ向から見返し、少女は不敵に、愉しげに笑んだ。

「ヘリオンの演算により、ケルン・ヒルデガントさんがデウスエクスに襲撃される事が判明しました」
 険しい表情で、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)はケルベロス達に緊急事態を告げる。
「連絡を取ろうとしましたが……未だ、音信不通です。一刻の猶予もありません。至急、ヒルデガントさんの救援に向かって下さい」
 デウスエクスは、恐らくは屍隷兵と思われる。ベースとなった女性の名前は知れないが、「試作業――付与『忍』」と、製作者には呼称されているらしい。
「魔剣を持つ螺旋忍軍の様な技を使いますので、略して『試作忍』とでも」
 女性の身体は既に魔剣を振るう為の器に過ぎず、残念ながら、彼女を助ける事は出来ない。
「襲撃場所は、隅田川沿いの歩道です。時刻は夕方。ヒルデガントさんは刀剣博物館のイベントの帰りを狙われたようですね」
 敵が人払いしたのか、周辺に一般人の姿は無く、避難誘導は不要だ。
「幸い、救援に向かったとして、戦闘に支障のない広さはあります。駆け付けるタイミングは交戦の直前ですので、速やかに割って入って下さい。春分を過ぎて、日は長くなりつつありますが……日没前の決着を推奨します」
 試作忍の武器は右手に握られた魔剣、というよりも剣こそが本体のようなものだ。
「螺旋纏う一撃はバランス感覚を損ない、冷気帯びた斬を飛ばしてきます。又、斬り付けた者の生命力を啜る技もあるようですね」
 何れも単体技ながら、それ故に威力は高そうだ。配下等はいないが、油断は禁物だろう。
「予知の限りでは……試作忍や魔剣が何かを喋った形跡はありません。故に、ヒルデガントさんとの因縁ははっきり判りませんでした」
 屍隷兵の製作者の正体も判然とせず、或いは、通り魔的な襲撃かもしれない。
「何れにせよ、まずはヒルデガントさんの救援が最優先です……ヘリオンより、健闘をお祈りしています」


参加者
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
ケルン・ヒルデガント(銀に槍を華に風・e02427)
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)
獅子鳥・狼猿(スペースカバ・e16404)
セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)
工藤・千寛(御旗の下に・e24608)
火縫・千狐(クロイロチコキツネ・e40533)
病院坂・伽藍(アプローズ・e43345)

■リプレイ

●試作業――付与『忍』
 ガキィッ!
 女の細腕が、否、剣自体が繰り出した螺旋纏う一撃に、舗装された歩道が抉れた。
「くわばらくわばら……で、やはり、本体は『剣』の方じゃな?」
 ケルン・ヒルデガント(銀に槍を華に風・e02427)が反射的に身構えた、その時。
「その戦い。ちょっと待った~~~!!」
 鍛えられた声量が、黄昏の歩道に響き渡った。若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)が、ナノナノのらぶりんと並んで駆けて来る。
「ケルンちゃんは大事な友達なのです。助太刀させて頂きますね」
 やはり、サーヴァントであるビハインドのイヤーサイレントを伴い、セデル・ヴァルフリート(秩序の護り手・e24407)もケルンを庇うように割って入る。
(「その節は、私もデウスエクスとの接触を救出された身。その恩を返す気持ちで挑ませて頂きます」)
 セデル自身、継ぎ接ぎの悪夢を乗り越えたばかり。誠実なヴァルキュリアは、今度は同胞の手助けをすべく武装を手繰る。
(「一にも二にも、ケルンさんの安全確保を……」)
 青き燐光を散らし、蒼炎の翼を広げるレクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)。エアシューズで滑走し、優美に回りこむ。
「間に合った! 援護、入ります!」
「ああ、縁の下の力持ちこそ吉、だな」
 敵に向かって今にも地を蹴らんとするトリテレイアの花騎士に、ネクロオーブの託宣を告げたのは病院坂・伽藍(アプローズ・e43345)だ。
「ケルン、助けに来たぜ」
「それは感謝じゃが……いつもと様子が違うかの?」
 小首を傾げる彼女の視線に、伽藍は唇に薄笑みを佩く。
「今は、あっちの口調はちょっと止めだ」
 友が襲われた現実に、全てを喪った過去が重なる――切迫詰まった恐怖心は億尾にも出さない。
「彼奴は試作業――付与『忍』というそうじゃが、如何様の縁じゃろうか?」
 ひょこりと顔を出した火縫・千狐(クロイロチコキツネ・e40533)の古めかしい口調に、ケルンは考え込む表情。あちこちと首を巡らせ、中々忙しい。
「多分……リティお姉ちゃんの係累と思うのじゃ」
 ケルンの召喚に、刹那現れた呪剣――姉妹と親しむ内の一振りは、確かに敵の魔剣と似ているようにも見える。
「ふむ、ケルン殿の……うむ、姉の姉妹と言ったところか。ともあれ、我が友の命を狙うのであれば、何とかせねばの」
「はい、協力して退けましょう」
 愛槍を手に、工藤・千寛(御旗の下に・e24608)は生真面目に頷く。「剣」を止めねば更なる被害が出るだろうし、「傀儡」となってしまったOLの尊厳も守らなければならないと思うから。
「ケルン生きてるかー。バカが来た、じゃないカバが来たぞー!!」
 最後の助っ人は、獅子鳥・狼猿(スペースカバ・e16404)。師団の誼の無事に、表情を緩めるのも束の間。剣を引き摺る敵影に、カバの面を顰めて見せる。
(「魔剣を持った屍隷兵か……」)
「魔剣なんかに負けんぞ」
 …………。
「カバさんジョークだ」
 一気に気温が下がったような何とも言えない空気に、狼猿は取り繕うように頬を掻く。
「……と、兎に角! 仕切り直し。ケルンちゃん、試作業――付与『忍』、略して試作忍さんに一言どうぞ」
「は? えっと……」
 無理矢理に軌道修正を図るめぐみ。唐突に話を振られたケルンは、思わず紫の双眸を瞬かせる。
「……っ!」
 ケルベロスの空気など全く読まず、魔剣が放つ氷結の斬を、セデルが咄嗟に遮る。
「……その、今回ばかりは、リティお姉ちゃん1本だけで勝ちたいのじゃな」
 早速、黄金の果実を掲げるセデルの背中を申し訳無さそうに見詰め、ケルンも又、改めて身構えた。

●肉の器、螺旋纏う凶刃
「キャスターじゃな」
 断言したのは、千狐。眼力が示す命中率は、常よりも相当に低い。となれば、敵――試作忍が回避に長けるのはすぐ見当が付いた。
「動きが素早そうなので、命中率上げますね」
 他を窺えば、既にめぐみは打ち合せ通り、らぶりんがセデルを癒す間にメタリックバーストを放出している。一方で、レクシアは眉を顰めていた。千狐に比して歴戦、にも拘らず。
「……くっ!」
 果たして、滑走しながらのレクシアの蒼炎の連弾は、上回る速度でかわされる。セデルのビハインド、イヤーサイレントの金縛りは辛うじて捕らえたようだが、麻痺に至らず振り払われた。
「これは……!?」
「うむ、油断大敵じゃな」
 続いて、千寛とケルンのスターゲイザーが奔ったが……2人の反応からして、スナイパーであって尚も万全と言い難い命中率のようだ。
(「……これは、気を引き締めて掛からねば」)
 些か迷うも、列ヒールの強化も完璧でなければ、予定通り前衛へメタリックバーストを掛ける千狐。
「及ばずながらオレっちも力を貸すぞ! カバの如き慈悲の心で戦わん!!」
 降り注ぐオウガ粒子に目も醒める思いで、飛び蹴りを敢行する狼猿だが……やはり初撃からは厳しかったようだ。
 ――――!!
 螺旋の渦がギュルリと耳障りに空を裂く。寧ろ力技に通じる豪快さが、居並ぶディフェンダーを越えてケルンに突き刺さった。
 すかさず、伽藍が気力を注ぐ。呵責なく友を害する凶刃への一瞥は研ぎ澄ました刃のようだが、堪えて支援に徹する心算でいる。
 そして、セデルは、3人+2体ものディフェンダーの中で最も積極的に盾たらんと動く。
「秩序と規律を乱す者は、この私が許しません!」
 天高く飛び上がるや、虹纏う急降下蹴りを浴びせんと。攻撃はまず命中してこそであり、厄付けは更に使役修正を越えた先。だが、1度で諦める気はない事は、強い眼差しが物語る。
 それは、ケルベロス全員が同様だ。一刻も早く敵影を捕えるべく、攻撃を繰り出す。喩え序盤の命中率が芳しく無くとも、零ではないのだ。攻め手を控える道理は無い。
 レクシアが高機動戦を仕掛ければ、セデルはストラグルヴァインで試作忍の脚を鈍らせんとする。そして、ケルンはスターゲイザーにグラインドファイアと、格闘戦で挑む。
(「人の意思に無関係で動かすなんて許せません。絶対に止めます」)
 ゲシュタルトグレイブに結わえた旗を勇ましく翻し、千寛もケルンと同じ技を繰り出す。
「さて、カバのカバーを甘く見るなよ」
「う、うん……」
「カバさんジョークだ」
 ディフェンダーの庇う行動は寧ろ反射的で、そこに技や目標を選ぶ猶予は無い。だが、敵は専らケルンを狙い、結果的に狼猿の目論見は達せられた。庇われた当人が、ちょっと凍り付いたように見えたのは、きっとキノセイだ。
 そして、伽藍は早々に回復に専念している。試作忍の攻撃は何れも単体攻撃。その威力は侮れないが、めぐみも回復の支援に回りらぶりんと奮闘している。攻撃に徹するレクシアとは対照的に、同じジャマーでも千狐は強化優先。順々に列ヒールを繰り返し、じわじわと戦力の底上げを図っていった。

●宿剣邂逅
「秩序を乱す者に、清き制裁を!」
 転機は、セデルのファナティックレインボウ――頭上からの急降下蹴りに打ち据えられ、魔剣の宝玉がギラリと輝く。
 ――――!!
 『傀儡』を引き摺り躍り出た魔剣がセデルを捕えるや、柄から伸びた触手の束を一斉に突き立てる。
「……ぐっ!?」
 身の内から爆ぜるような痛みと、無理矢理に何かを引き抜かれる不快感。魂喰の凶刃はヴァルキュリアの息吹を啜り、傀儡の傷を塞いでいく。
 初のドレイン技は、怒りを煽られた所為か、或いはダメージの蓄積故か。
「……」
 屍隷兵の情失せた眼差しが、セデルを睥睨する。怒りの発動率は五分。1つの付与でも、比較的発動は易い。
「危ない!」
 次の攻撃は、めぐみが庇った。螺旋を帯びた刃が少女のバランス感覚を損なうが、慌てず「ブラッドスター」を歌い上げる。
 序盤、ケルンを標的にしていた故に遠距離攻撃を繰り返していた試作忍だが、セデルに怒りを向けた時は魂喰の凶刃を突き立てる。
 サーヴァントを除き、前衛と中衛がドレイン技を警戒する防具耐性の中、セデルのみが異なっているのを回復量で察したのだろう。
「蝕む害悪よ、砕け散れ!!」
 時にイヤーサイレントを始め、肩並べるディフェンダー達に庇われながら、自らの厄を文字通り掌握粉砕して凌ぐセデル。だが、ヒールにも限度がある。このままでは更に戦闘が長引き、ケルン、或いはセデルが倒れかねない。
「これ以上、好き勝手させるつもりはありませんので」
 響く言葉は玲瓏として勝気。序盤よりの耐戦の末、漸く一斉攻撃が調ったと眼力を以て察したレクシアは、不敵に笑んで蒼翼を広げる。
「追い縋る者には燃え立ち諌め、振り離す者には燃え上り戒めよ。彼の者を喰らい縛れ」
 地獄化した翼より青い燐光の尾を引き、滑走するレクシア。散弾する迦楼羅の炎は、今度こそ試作忍を穿ち、燃え立たせ、動きを鈍らせる。
「こゃっほ、少し暖かくするかの」
 メタリックバースト、サークリットチェイン、火縫流支援術『昼行燈』――根気強く、強化を繰り返してきた千狐は、漸く、燃え上がる尻尾の炎を後衛に放ち、ホッと一息吐いた。
 ジャマーの強化は付与出来れば強いが、列ヒールとの兼ね合いで、千狐ももどかしい思いを随分とした。それでも弛まず続けた成果は、仲間の戦いぶりにしっかと顕れている。
「我々に加護を!」
 声高らかに千寛の、続いて、ケルンのグラインドファイアが追撃すれば、氷縛の斬撃を放つ試作忍自身が更なる延焼でその身を焦す。
「この絶対防御の構え!!」
 ケルンに氷斬が届く寸前、割り込んだ狼猿は脇を閉めて顎を引き、顔の前に両腕を構えた。『アフリカの重戦車』の異名で知られるカバの防御力は、盾たる役割を全うさせる。
「辛抱するカバに花が咲く、てな」
 伽藍はバトルプロフェシーを狼猿へ。デウスエクスへの殺意は変わらず胸を食むが、堪え切ってメディックに専心した。
 そして、セデルはあくまでも強気のファナティックレインボウを放つ。イヤーサイレントは、ポルターガイストで駐輪していた自転車を投げ付けた。
 敵影を捕えてしまえば、手数は圧倒的にケルベロスが上だ。忽ち、戦況は傾いていく。
「彼の地の友に願う、我に助力を……シロちゃん、お願い」
 めぐみが投げ付けた菌糸の牢獄は列攻撃であり、使役修正も重なり、敵に然したる痛痒を与えなかったが、或いは、ケルンにトドメを譲る配慮だったのかもしれない。
「……」
 いよいよ満身創痍の様相ながら、敵はあくまでもだんまりだ。操り人形めいた屍隷兵を、千寛は痛ましげに見詰める。
(「操られていた女性には看取りを、これくらいしかできない事が心苦しいですが……」)
 千寛の視線に頷き返し、ケルンは静かに後衛から前衛へ。クラッシャーの武威で、確実に引導を渡すべく。

●タビダツキミヘノシュクフク
「さて、ここは譲らねばの。リティお姉ちゃん」
 ケルンの手に忽然と現れる呪剣――だが、ケルベロスと同様に、デウスエクスとて倒れる最期まで攻撃力に遜色はない。
「……っ!」
 クルリと、女の腕を捻るように剣が旋回する。ギラリと目玉の如き宝玉が輝くや。
 ――――!!
 ポジション移動したばかりのケルンを、魂喰の凶刃が襲い掛かる!
「らぶりん、えらい!」
 辛うじて遮ったのは、白い小柄。真っ向からの一撃にへなへなと地に墜ちた相棒に、めぐみは労いのサキュバスミストを放出した。
 ストラグルヴァインを手繰るセデルに小さく頷き、イヤーサイレントは前後からの挟撃で、ビハインドアタックを敢行する。
「竜をも屠る一撃、その身に受けなさい!」
 ドラゴンスレイヤーたる聖剣とその使い手たる英雄の力を自らに降し、千寛の鋭撃が唸りを上げる。
「宙返りできない河馬は唯の馬鹿だ。だからオレッちは爪を隠すのさ」
 シリアスに(意味不明を)呟いて、狼猿は(律儀にも)宙返りして降魔真拳を叩き込んだ。
「恨んではくれるなよ? これも友人の為じゃ」
 短刀【黒縄】を握る千狐の斬撃がジグザグに閃くや、伽藍より呪詛が滲み出る。
「狂い咲け! 黒百合!」
 迸る呪いは、蔓を形作り華開く。非業に刻まれた怨念が、凶刃をも苦しめんと。
 仲間の攻撃が敵のドレイン分を消し飛ばす間に、ケルンは呪剣――リティを構える。
「皆、すまんの」
「いいえ。ケルンさんが、為したいと思う事を」
 レクシアからの手向けの爆風を背に、ケルンの紫の瞳は青みを帯び、肌は白皙から褐色に、白翼は黒く、銀髪に咲く白いブーゲンビリアは黄色のアルストロメリアに、変じていく。
「睦言が如く。名も知らないキミへ――受け取ってね?」
 眼前の魔剣と姉と想う呪剣が、真実、縁が在るか否かは、ケルンとて断言し切れない。それでも。
 過去は切れずとも未来を切り裂き、あらゆる守り、あらゆる因縁、因果すら切り裂く――その刃に負う数多の少女の血と怨嗟と憎悪を、唯一の祝福に反転させたその技の名は「永久のアルストロメリア」。未来への憧れを描き続ける、旅立ちへの祈り。
「これはキミのお姉ちゃんとしての餞別――次は」
 誰かと一緒にいられる剣になるんだよ、いいね――。

「皆、助けてくれてありがとうなのじゃな!」
 リティを還し、元の姿に戻ったケルンは明るく仲間に感謝を告げた。
「銀狐師団一の地味キャラなオレッちだけど、役に立てて何よりだな」
 しれっと言い切った狼猿の超自称は、まあさて置いて。
「とりあえずは危機は去ったみたいですね……。で、あれは何だったんですか?」
「ケルン殿の『姉君』の係累、という話じゃよ、めぐみ殿。ま、本人の意向もあろうし、今はあれやこれやと言うのも無粋じゃろう」
 度重なる攻撃にダメージ残るセデルをヒールしながら、千狐は小さく肩を竦める。
 周囲は、戦闘の爪痕もそれなりに。立ち尽くすケルンに気遣いの眼差しを向けながら、伽藍は街路樹やガードレールに癒しの花弁を撒く。一方、レクシアが爆破スイッチを押す度にカラフルな爆風が巻き起こり、歩道を修復していった。時々、地面のタイルまでカラフルになってしまうのは、ご愛嬌だ。
 そうして、ヒールが完了して、千寛はケルンと並んで、もう何も無い歩道を見下ろす。
「願わくば、家族の元へ返してあげたかったのですが」
 倒れた試作忍は、魔剣も傀儡も、忽ち霧散した。屍隷兵として、最期まで使い潰された犠牲者の女性を想い、千寛は静かに黙祷する。
(「落ち着いたら、ローレのお墓を作ろうかの……妾に勝手に名を付けられるのは、不服かもしれぬが」)
 そして、ケルンは……邂逅を成した宿縁は、或いは己が妹になれたかもしれない魔剣、と。そう信じて止まない。もし、次の形があれば、良き担い手と共にあらん事を――。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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