病魔根絶計画~笑いの果てに人生終了!?

作者:雷紋寺音弥

●最悪のサプライズ
 夕刻のホテルにて、盛大に行われている結婚披露宴。新郎新婦の挨拶も終わり、続けて新朗の友人の挨拶へ。
「……こんな大役、任せて悪いな」
「なぁに、気にするなって。お前と、俺の仲じゃないか!」
 会を開く直前、そんな会話をしていたことが思い起こされる。新朗にとって、自分は親友。ここで彼に恥をかかせるわけにはいかないと……そう、気合を入れて登場した青年が一礼し。
「それでは、新朗の幼馴染である、田原・宗次(たはら・そうじ)さんから、お祝いの言葉を頂戴したいと……」
 だが、司会の女性がそこまで言ったとき、異変は唐突にして訪れた。
「ヒャッハァァァッ! ここで、俺様渾身の一発ギャ~グ! 全裸で入刀、人間ナイフだぁっ!!」
 突然、新朗の親友が着ていた服を脱ぎ捨てると、裸のままウェディングケーキにダイブイン!!
「きゃぁぁぁっ! 変態ぃぃぃっ!!」
「ちょっ……お前、何してくれんだよ!?」
 叫ぶ新婦に、怒る新朗。しかし、暴走する青年、田原・宗次は何ら悪びれることなく、生クリームで股間を隠したまま爆笑している始末。
 そんなこんなで、盛大に披露宴をブチ壊した宗次は、気が狂ったと思われ病院に搬送された。だが、隔離病棟に放り込まれてもなお、彼の奇行は留まることもなく。
「う~む……やっぱり、頭から突っ込むんじゃなくて、股間から突っ込んだ方がナイフっぽかったかな? いや、それともいっそ、キャンドルサービスの蝋燭に向かって屁をこいて……フッ……フフフ……面白いぞ!」
 完全に斜め上の反省と、自ら考えた一発ギャグの実演を繰り返しながら、人生終了の道へ向かってまっしぐらであった。

●人生終了のお知らせ!?
「召集に応じてくれ、感謝する。今回も、お前達に病魔の退治を依頼したい……ところなんだが、今までとは違い、別の意味で少々厄介な案件でな」
 その日、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)より告げられた、新たなる『病魔根絶計画』発動の報。だが、今回の病魔は今までと違い、色々と斜め上な意味で厄介な相手だという。
「今回、根絶可能になったのは、『慢性ユーモア過剰症候群』という病気だ。この病気に感染すると、とにかく面白いことをして、他人を笑わせずにはいられなくなる。たとえ、それが冠婚葬祭に関する式の真っ最中であったとしても、な……」
 この病気で直接人が傷付く可能性は少ないが、感染した者の大半は、社会的な致命傷を負ってしまう。葬式の最中に坊さんの頭を木魚代わりにして叩いたり、結婚披露宴の式場でいきなり全裸になって暴れたり……。しかも、感染者本人は、それを最高の一発ギャグだと信じて疑わないというのだから、やってられない。
「現在、この病気の患者達が大病院に集められ、病魔との戦闘準備が進められているぜ。お前達に倒してもらいたいのは、この中でも特に強力な『重病患者の病魔』になる。患者の名前は田原・宗次(たはら・そうじ)。普段は真面目なエリート社員で、その日も親友の結婚披露宴に呼ばれて、友人代表として挨拶するはずだったんだがな……」
 結果は、お察しの通りである。宗次は全裸でウエディングケーキに突撃し、披露宴を滅茶苦茶にしてしまった。新郎側だけでなく新婦の家族からの非難も強く、これが原因で宗次は知人や会社の同僚から総スカン。巻き込まれた新郎新婦は、なんやかんやで早くも離婚の危機なのだとか。
 正直、これほどまでに傍迷惑な病気は存在しないと思われる。当然、さっさと根絶させるに限るのだが、しかし敵は腐っても病魔。グラビティでしかダメージを受けない、デウスエクスと同質の存在でもある。
「戦闘になると、この病魔は『寒い一発ギャグ』をかまして、お前達を氷漬けにしようとしてくるぞ。他にも、笑いの神が降臨したと錯覚させて相手を錯乱させる攻撃や、患者の衝動を強化することで自らの攻撃力を上昇させる技も使って来るから、注意してくれ」
 なかなかどうして、攻撃的な病魔である。しかし、そんな病魔ではあるが、対抗策は存在する。
「この病気の患者の看病をしたり、話し相手になってやったり、慰問などで元気づける事ができれば、一時的に病魔の攻撃に対する『個別耐性』を得ることが可能だぜ。耐性を得れば、病魔の攻撃で受けるダメージも減少する。立ち回り方次第では、かなり優位に戦闘を進めることが可能になるだろうな」
 病魔に頭のネジを吹っ飛ばされている宗次は、今や笑いのツボが小学校低学年レベルまで低下している。彼の披露するギャグの観客役になり、その衝動を発散させることができれば、恐らくは喜んでくれるはず。
 もっとも、演技だとバレる可能性もあるので、そうなってしまっては逆効果。最悪の場合は、こちらも宗次に便乗して『恐ろしく下らないが、しかし小学校低学年くらいの子どもにはウケそうなギャグ』を連発したり、的確なツッコミを入れたりすることで、場を盛り上げる必要があるかもしれない。
「こんなことで、今まで積み上げて来た信頼を失った挙句、果ては関係者の人間関係にまで間接的に亀裂を入れさせる……。ある意味では、史上最大に恐ろしい病魔だ。これ以上、社会的な信頼を失って泣く者が出ないように、ここでしっかりと根絶してくれ」
 本当の笑いは、誰も不幸にしないもの。悲しみの涙を呼ぶ笑いなど、所詮は無粋な偽物でしかない。そう言って、クロートは改めて、ケルベロス達に依頼した。


参加者
呂・花琳(デウスエクス飯・e04546)
アルバート・ロス(蒼枯れの森の闇医者・e14569)
白銀・夕璃(白銀山神社の討魔巫女・e21055)
エメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)
神苑・紫姫(白き剣の吸血鬼伝説・e36718)
彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)
不入斗・葵(微風と黒兎・e41843)
武蔵野・大和(魔神・e50884)

■リプレイ

●笑わせたい病
 病魔根絶の依頼を受け、患者たちの隔離されている病棟に集まったケルベロス達。だが、今までのように悲惨な病とは打って変わり、今回はどうにも微妙な空気が流れていた。
「病魔か……。初めて相手取るが、これは精神病の一種……って事になるんじゃろうな」
 思い付く限りの有名な芸人などを思い出しつつ、呂・花琳(デウスエクス飯・e04546)が呟いた。
「真面目にならないといけない場面でも、ふざけずにはいられなくなる病気……。笑ってもらおうって気持ちは、悪い事ではないのですよね」
 だが、それでも、と白銀・夕璃(白銀山神社の討魔巫女・e21055)は言葉を切る。
 人を笑顔にするのは、確かに大切なことだろう。しかし、それでも時と場合、そして限度というものがあるだろう。
「エリート社員ってことはかなり頭がよかったんだよね……きっと。そんな人が急に変な行動をとりだしたら、みんなびっくりだよね」
「人生を狂わされるほどの病気とは、笑えん話じゃの。笑い話にもならん。謝罪のみで報われればよいのぅ……?」
 不入斗・葵(微風と黒兎・e41843)と彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)が、互いに顔を見合わせつつ口にしたが……笑いは笑いでも、彼女達の顔に浮かんでいるのは乾いた笑い。
 とにもかくにも、今は患者であるエリートサラリーマン、田原・宗次の信頼を勝ち得なければ。案内された病室の扉の前に立ち、武蔵野・大和(魔神・e50884)は徐にドアノブへ手を掛け、引いてみたのだが。
「初めまして、武蔵野大和と言いま……うわぁっ!? な、なんですかぁっ!?」
「ヒャッハァァァッ! これぞ、俺様渾身の新ネタだぁっ!!」
 挨拶の言葉も言い終わらない内に、無駄にテンションの高いパンイチ姿の男が、病室から文字通り躍り出てきた。
「これが例の病気の患者か……。正直、想像以上だな」
 パンイチで踊り狂う宗次の姿に、さすがのエメラルド・アルカディア(雷鳴の戦士・e24441)も、しばし硬直したまま動けなかった。
 目の前にいる男の姿は、パンツ一丁に鼻眼鏡着用という酷いもの。それだけでも十分に馬鹿馬鹿しいのだが、この男、無駄に股間を強調したり、尻を突き出したりと、とにかく品のないポーズを取りまくるので、目のやり場に困る。
 だが、ここで退いては彼の信頼を得ることは不可能。弱体化していない病魔とまともに戦えば、こちらが苦戦するのは必至である。
 こういう時は、臆した方が負けだ。意を決し、アルバート・ロス(蒼枯れの森の闇医者・e14569)は自らもまたパンイチ姿になると、そのまま相手の尻目掛けて、自分の尻を突き付けた。
「どうも、初めまして! お尻とお尻を合わせて、お知り合いの御挨拶だよ……な~んてね!」
 どう考えても、一部の小学生男子くらいしか笑いそうにない低レベルギャグ。もっとも、病魔に魅入られた今の宗次には、こういったギャグの方が親しみ易いようだった。
「おぉっ! なかなか面白いな、アンタ!」
「いえいえ、こちらこそ、お会いできて光栄だよ! ほ~ら、ついでに僕も一発ギャグ! パンツ食いこませて、ティーバック!」
 もはや、完全にどちらが患者か解らない程に、アルバートは宗次と意気投合していた。
 果たして、これで本当にいいのだろうか。否、ここは考えた方が負けである。病魔の攻撃に耐性を得るためにも、ここは敢えて相手のネタに乗ってやらねば。
「相手のギャグに乗る……のは正直厳しいですわね、。脱ぎ芸は私の管轄外。ならばこちらから攻めましょう」
 子ども向けの冗談には、自分も少しだけ自信がある。神苑・紫姫(白き剣の吸血鬼伝説・e36718)もまた意を決して部屋に足を踏み入れたところで、なんとも珍妙な慰問が幕を開けた。

●笑え、腹の底から!
 病魔の攻撃に態勢を得るため、患者である宗次のギャグに乗ることにしたケルベロス達。だが、病気の影響で完全に頭のネジが吹っ飛んでいる宗次の行動は、ケルベロス達の予想の斜め上を行っていた。
「宗次殿宗次殿! ほらほら、鏡餅!」
「こ、こら! どこを触っているんだ!」
 エメラルドの胸の下に盆を置き、上には蜜柑を置いて花琳が見せつける。しかし、そんなお色気ネタを前にしても、宗次も何ら照れることなく、しょーもない下ネタで返して来た。
「なにおぅっ! そちらが胸なら。こちらは尻だ! 俺の鏡餅を、まとめて食らえぃっ!!」
 尻の割れ目に蜜柑を挟み、そのままこちらに突進しようとして来るから堪らない。
「ハッハッハ! あなた、面白い人ですね!」
 下ネタ全開で暴れ回る宗次の姿を見て、大和が盛大に笑っていた。どうやら、彼は笑い上戸の気があるようだ。こんなギャグでも笑えるのは、今回に限っては大いに役立っているようだが。
「さあさあ、どうしたんだい? 君達も、よかったら俺に自慢の一発ギャグを見せてくれよ!」
 もはや、完全にネタの見せ合いになっていると思っているのか、宗次はケルベロス達に更なる無茶ぶりを要求して来た。
「それでは、今度は私が。星良姉様も手伝って……って、なぜ逃げるのです姉様!? 姉様ぁぁぁぁ!?」
 ビハインドの神苑・星良が逃げ出したのを見て追い縋る紫姫だったが、時既に遅し。自分から何かをすると言ってしまった以上、やらなければ場の流れが停滞してしまう。
「で、では、改めて……くるくるくる……」
 軽く咳払いをした後、紫姫は何を思ったのか、9の字を描いて回り続けた。ご丁寧に、自分の口から擬態語まで発し、より回っていることを印象付け。
 いったい、自分はここで何をしているのだろう。だが、あんな大言壮語を並び立てた以上、ここはもう開き直ってやるしかない。引っ込みがつかない大ピンチだが、既に回り始た以上、恐れることなどあるものか。
「……くるくるくるくる、Cock-a-doodle-doo!」
 最後に、盛大な鶏の真似を一発。もう、どうにでもなれと思って、ふと横を見ると……果たして、いつの間にか紫姫の動きに合わせ、宗次も盛大に回っていた。
「ヒャッハァァァァッ! 回転、回転、回転だぁっ! もっと……もっと回って……うぷっ!? うおぇぇぇぇっ!!」
 だが、盛大に回り過ぎたのか、最後は口元を抑えたままベッドの上にぶっ倒れた。
「ぶっふぉぉぉぉっ!!」
 宗次の行動に便乗し、仮面の裏で盛大に牛乳を吹き出すたアルバート。仮面の隙間から、牛乳が激しく漏れて周囲に飛散し、汚らしいことこの上ない。
「あの……人間カッターみたいなネタを披露するなら、裸じゃなくて銀色の全身タイツ位準備しませんとっ……!」
 ドサクサに紛れ、夕璃が宗次の持ちネタである、人間ナイフについて突っ込んだ。
 ついでに言うなら、肌色の全裸だとペーパーナイフになってしまう。ケーキを切るなら全身を銀色にするのは勿論、ナイフを振り回す人間も必要だと。
「……こう、じゃいあんとすいんぐ、みたいなっ! ……はっ!?」
 調子に乗って、とんでもないことを言ったことに気づき、夕璃が思わず赤面したが……遅かった。
「そ、そうか! 確かに、その通りだな。それじゃ……早速、君が俺のことを振り回してくれ! さあ、さあ、早く!!」
 パンツ一丁の姿で、しかし爽やかな微笑みを浮かべながら、宗次が夕璃に迫る。本人はネタのつもりかもしれないが、これではどう見ても変態待ったなしだ。
「そうじゃな、それが正しい……ってなるかバカモノ!」
 さすがに、これは拙いと踏んだのか、戀が宗次に突っ込んだ。その上で、彼の第二の持ちネタである、キャンドルサービスへの放屁についても突っ込みを。
「まあ、確かに蝋燭の火を屁で消せたら面白いかも知れぬのぅ……って、それも違うじゃろ! そこは鼻息で消すべきじゃろう?」
 もっとも、そこまで言われては宗次も黙ってはいない。元より、彼も火を消すつもりはなかったようで、自信満々に戀へと反論して来た。
「ハッハッハ! 心配無用! 俺は別に、屁で火を消そうと思ったんじゃないんだ! 蝋燭に屁を食らわせたら、そのまま引火して綺麗な花火にならないかな~、なんて思ってね!」
 どちらかと言うと、消火の方がまだマシなネタであった。確かに屁もメタンを含んでいる以上、燃えることは燃えるだろうが……下手をすれば、主にネタを披露する者の尻が、大ピンチになること間違いなしである。
「それ……SNSじゃなくても大炎上だよ? 最悪お兄さんも大炎上だからね!」
 それこそ、物理的な意味で火達磨になったらどうするのかと突っ込む葵だったが、病魔に侵されネタこそ命になった今の宗次にとっては、大炎上さえ御褒美である。
「ふふふ……大炎上、上等じゃないか! そのままお尻に火が着けば、その勢いで月までロケットブーストだぁっ!!」
 まさか、本気でオナラに引火させた勢いで空を飛べるとは思っていないだろうが……否、今の宗次なら、それもやり兼ねないかもしれない。
「や……ちょっと……さ、さすがに、それは無理が……あ、駄目だ! 笑いが止まらない!!」
「ふ……ははははっ! 身体を張った一発芸、こういったノリ、嫌いではないぞ!」
 病室に置いてあった花瓶をパンツの中に突っ込み、股間を無駄に強調させている宗次の姿を見て、とうとう大和やエメラルドが盛大に笑い出した。アルバートに至っては、もはや顔面の穴という穴から牛乳を吹き出し、仮面の中がベタベタである。
「……はっ!? い、いや、こういう場面では笑わなければ逆に失礼だと聞いているからな……?」
 それでも、さすがに笑い過ぎたのか、エメラルドは軽く咳払いをすると、改めて宗次に向かい本来の目的を告げた。
「さて、しっかり笑わせて貰って元気も出た……。後は迷惑な病魔を退治するだけだ」
 戦いは、これからが本番だ。勝者不明のお笑いグランプリから一転、彼女が宗次の病魔を召喚したところで、病室内は真の意味での戦場へと、その顔を変えた。

●大爆笑の代償
 あらゆる場面でネタを披露し、人を笑わせずにはいられなくなる慢性ユーモア過剰症候群。呼び出された病魔もその名に恥じぬ、ネタの塊のような姿だった。
 ムキムキボディに、股間の葉っぱ。頭は女の子のようなツインテールだが、しかし顔面はデフォルメされたアニメキャラのような風体である。
 そんな病魔の攻撃もまた、ネタの嵐のような技ばかり。もっとも、先の交流で十分に耐性を得ていたケルベロス達にとっては、少しばかり身体に響く、単なる寒いギャグのオンパレードでしかなくなっていたが。
「そんなに燃える芸がしたいなら、葵が存分に燃やしてあげるよ!」
 股間の葉っぱを強調しながら迫る病魔に、葵が情け容赦ない熾炎業炎砲の一撃を叩き込む。股間に火が着き、妙に甲高い声を上げて跳ね回る病魔だったが、どこか喜んでいるような風にも見える気が。
「笑いとは『愛』だ !愛の無い笑いを繰り返していては、いずれ、心から笑えなくなってしまう。無味乾燥の人生を産む、この病、僕は認めるわけにはいかない!」
 だが、そんな病魔のノリもバッサリと斬り捨て、アルバートは本気モードで堂々の宣戦布告。
 愛とは心で感じるものであり、それは即ち目隠しをした者も笑わせる力を持つ。他人の人生を台無しにするような程度の低い笑いなど、真の愛ではないと告げ。
「どの子が欲しい、クチナワさん?」
 巨大な苔色の大蛇を呼び出し、アルバートは尋ねた。もっとも、今は標的が一体しかいないので、選択のしようがなかったが。
「あ~、ダメダメ。敵はあっち。選べないけど我慢して!」
 不満そうな大蛇を強引にけしかけ、病魔の身体に絡み付かせる。それを見た大和もまた、今こそ切り札を出すべき時だと、自らの制した過酷な組手のイメージを掌に乗せて叩き付けた。
「僕が制した試練の重さ……打ち克てるなら、打ち克ってみろ!」
 瞬間、全身に99個もの錘が付けられたような感覚が病魔を襲うが、やはり病魔はどこか嬉しそう。ともすれば、身体を艶っぽく捩りながら、恍惚にも似た表情を浮かべている。
「あぁん、凄いわぁ♪ もっと激しく虐めてちょうだぁい♪」
 これもまた、病魔のネタということか。正直なところ、気持ち悪いだけで全然笑えないのだが、それはそれ。
「う~む……さすがに、これは笑えんな」
「ちょと自分でも恥ずかしくなっちゃったので、手早く病魔、片付けましょう、ええ……!」
 先程とは打って変わってドン引きしたエメラルドと夕璃が、共に病魔へと鋭い突きを叩き込んだ。が、稲妻を纏った一撃は病魔の尻にクリティカルヒットし、ますます敵を嫌な方向へと悶えさせるだけだった。
「あっふぅん! 電撃浣腸とか最高! し、痺れるぅ!!」
 なんというか、これは色々な意味で長引かせたくない相手だ。もはや、技を選んでいる場合ではないと、花琳は竜の爪を敵の尻に突き刺して。
「今じゃ、梵天丸!」
 すかさず、シャーマンズゴーストの梵天丸にも爪攻撃をさせたところで、戀と紫姫が一気に仕掛けた。
「お主ら、出番じゃぞ? 往くが良い、妾の忠実なる下僕共よ……狂詩曲『殺戮の紅月光(ラプソディ アバタッジ・クリムゾン・クレール・ド・リュンヌ)』!」
「こうなれば問答無用で我が威を見せる刻! Sylvatic Aster――“Fatalis”ッ!」
 暴走する機械構成のエネルギー体が、無数の紫色の光弾が、驟雨の如く病魔へと襲い掛かる。そんな中、紫姫の攻撃に合わせる形で、最後に神苑・星良が騒霊現象を巻き起こし。
「……はうぁっ!?」
 病室に転がっていた洗面器が、病魔の頭へ金ダライの如く直撃した。その一撃が決め手となって、笑いの神を自称する病魔は、最後までネタであり続けたまま消滅した。

●爆笑の後始末
 戦いは終わり、ネタ人間と化していた宗次も、再び真面目なサラリーマンへと戻っていた。
「気分はどうじゃ?……まぁ、あのようなことをしたのだからの。すっきり、とまでは行かぬじゃろうな」
 病気が原因とはいえ、自分の行動には責任を取らねば。そんな戀の言葉に、宗次も静かに頷いた。
「この病魔で失った物もあるだろう。不本意かも知れないが、笑わせてもらったお礼だ」
「一人で不安なら、僕も一緒に謝りに行こう」
 ケルベロスカードを手渡すエメラルドに、同行を申し出るアルバート。彼らの協力があれば、宗次が立ち直るのも早いだろう。
 だが、その一方で、今回の件で色々と後遺症を負った者がいるのも事実。
「はぁー、一生分笑った気がする……フフッ」
 完全にツボに入ってしまったのか、大和は先程から一人笑いを続けている。その隣では、自分の行動を今更ながら思い出し、夕璃が赤面しながら固まっていた。
「あぅあぅあぅ……何だかやっぱり無性に恥ずかしいようなっ……! 私も病魔召喚してもらったほうがいいのかしら……」

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月20日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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