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シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)は、桜並木の下見てはいけないものを見てしまった気がした。しかして、それは探し求めていた影。
「やあ、シエラ」
ふわり、と優しく微笑んだ青年の背の翼は、薄桃色の桜の下で夜を広げたように蒼く、黒く。
「オル……カ」
その名を呼ばれ、オルカシセロは更に笑みを深める。
「やっと見つけた。ずっと探してたよ」
その優美な姿が、憎悪のオーラに包まれるのにそう時間はかからなかった。昏い微笑みのまま、オルカシセロは続ける。
「――死んでよ」
こちらにないものを全て持つ、己の対極であるシエラシセロへの憎しみを込めて、鎌を振るう。
「っ!」
声もなく、シエラシセロは転がるように初撃を避けてその背の翼をはためかせた。
「気に入らない。その金の髪、薄紅の翼、青い瞳、幸せそうな君が……大嫌いだよ」
だから、この手で殺さなければ気が済まないんだ。オルカシセロは地を蹴る。シエラシセロはその姿に、覚悟を決めた。――今こそ、皆の仇を討つべきと。
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「シエラシセロさんが襲われるのを予知したんだ、急いで準備をお願い!」
秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)は焦った様子で説明を始めた。
「桜並木をお散歩しているところを、いきなり襲われたみたいなんだ。連絡もつかないし……敵の名は、オルカシセロ。死神だよ」
なんだか、シエラシセロさんのことを酷く憎んでいるみたいだけれど、と祈里は視線を落とす。
「危険ですね、強い殺意があると見ていいんですね」
ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)は静かに問う。
「うん。シエラシセロさんを殺すことが目的だ。それから……シエラシセロさんがそうだからかわからないけれど『オラトリオ』を妙に敵視しているみたいだ。気を付けるんだよ」
「敵はどのような攻撃を?」
ナズナの質問に、祈里は小さく唸る。
「鎌を手にしていたから……それを用いるということは確かだね。配下はいないし、あたりに一般人も見当たらないから、皆はオルカシセロに集中できるはずだよ」
今から向かえば、シエラシセロさんはまだ無事だから急ごう、と祈里はケルベロス達をヘリオンへと促した。
「危険な相手ではあるけれど……信じているよ」
参加者 | |
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ベルカント・ロンド(医者の不養生・e02171) |
キーリア・スコティニャ(老害童子・e04853) |
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414) |
伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015) |
柚野・霞(瑠璃燕・e21406) |
ジェミ・ニア(星喰・e23256) |
アウレリア・ドレヴァンツ(瑞花・e26848) |
日下・魅麗(ワイルドウルフ・e47988) |
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オルカシセロの姿をまっすぐに見据え、シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)は込み上げる想いと高ぶりそうになる感情をおさえながら、静かに口を開いた。
「オルカ、やっと会えた」
「ああ」
「あの日からずっとキミを忘れたことなかった。故郷を滅ぼしたキミにやっと復讐できる」
深く息を吸って、吐く。閉じた瞳が開かれ、青い瞳がその決意を表すように鋭く煌めいた。
「みんなの仇とらせてもらうよ」
言葉と共に樹騎を突き出す。オルカシセロは己の鎌でそれを受けると、昏く笑った。
「仇? おかしなことを言うね。……皆の所へ行けばいいだろう? 君が!」
シエラシセロの槍を絡め取るように鎌を振るう。
「っ……」
その時、声が聞こえた。
「見つけたーッ!」
日下・魅麗(ワイルドウルフ・e47988)の声だ。仲間たちの到着を知らせる声だ。シエラシセロは駆け寄ってくる9人の影に、跳ねるように振り向く。
「みんな……!」
「私達が来たからには安心だよ! 怪我は……してないね?」
魅麗の問いに、シエラシセロは大きく頷く。
「無事で良かった! さぁ、反撃開始です」
ジェミ・ニア(星喰・e23256)はシエラシセロの無事を確認すると、安堵のため息をついてオルカシセロに向き直る。
「シェラ」
その名だけを呼び、ベルカント・ロンド(医者の不養生・e02171)は安心させるようにそっとシエラシセロに寄り添う。そして、大丈夫ですよと言うように優しい眼差しを向けた。
「うん」
オルカシセロは不愉快そうにため息をつくと、集まったケルベロス達をひとりひとり値踏みするように見た。
「ぞろぞろと……束になったって無駄だよ。君たちはシエラと同じく、死ぬんだ」
いいでしょう、と涼やかな声で答えたのは、柚野・霞(瑠璃燕・e21406)だ。オルカシセロのそれに近い暗色の翼をふわりと広げ、普段は隠している髪を彩るカスミソウを咲き乱れさせる。
「さあ、オラトリオはここにいますよ。殺したいなら、掛かってきなさい」
見せつけるように翼をひとつはためかせると、オルカシセロはその端正な眉を顰めた。
「馬鹿にされたものだ」
でも、確かに憎いのは事実だな。そう呟くと、オルカシセロは鎌を振り上げる。
「レライエよ」
霞が静かに詠唱を始めた。ざくり、と音を立てて霞の肩をオルカシセロの鎌が切り裂く。痛みにひるむことなく、霞は続けた。
「30の軍団を統率する、偉大なる地獄の大侯爵よ。願わくば我が敵に、汝の一矢が与えられんことを」
どこからともなく現れた矢が、オルカシセロを貫く。
「っ……」
「止まってもらいます!」
ジェミがエアシューズを走らせて、オルカシセロの背に蹴りを放った。アウレリア・ドレヴァンツ(瑞花・e26848)は真っ直ぐに敵を見据え、それから前衛に在るシエラシセロの背を見つめる。
(「――憂いが晴れますよう、に」)
「――月よ、月よ、どうか聞き届けて」
甘く優しい声色で、請うように白銀の月を呼ぶ。Seiriosをくるりと回すと、アウレリアは前衛に立つ仲間へ月の雫を落とした。
●
「忌まわしいオラトリオめ……お前たちから先に葬ってやる」
そう言い放ったオルカシセロの言葉を聞いて、キーリア・スコティニャ(老害童子・e04853)はやれやれと肩を竦めた。
(「あそこまで行くとオラトリオと相容れる気はなさそうじゃ。気に食わないからと手を出されては適わん。此処で仕留めるしかないのう」)
自分を含めた最前に立つ仲間にメタリックバーストを施しながらキーリアは言う。
「憎かろうが、そうじゃなかろうが、わしはデウスエクスであるお主を屠るのみじゃよ。シンプルでいいじゃろ?」
オルカシセロはその言葉を聞いて低く笑った。
「そうだね。でも屠られるのはそっちだ」
「千罠箱、一気にゆくぞ!」
指示に合せるように、千罠箱はオルカシセロに噛みつく。振り払うように取回された鎌、その勢いのまま、オルカシセロはキーリアの首筋目掛けて振り下ろした。
「っと」
「目障りだなあ」
直撃を免れたキーリアを横目で見て、ちっ、とひとつ舌を打つ。
(「ケルベロス個人を狙う輩との戦いは何度か経験しているか……」)
伽羅楽・信倖(巌鷲の蒼鬼・e19015)はぼんやりと過去の敵を思い出しながらオルカシセロ目がけてブレイズクラッシュを放つ。
(「……どれも殺意が強い者ばかり……」)
しかし、ただひとつ信倖が確信していること。――どのような敵でも、勝たなければならない。オルカシセロはまともに強烈な一撃を浴びせられて、咳き込んだ。駆け付けたラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)は、その様子に一瞬息を飲む。それは、オルカシセロが優しかったころを知っているから。
(「オルカ、様……」)
オルカシセロは視線の端にラグナシセロを捕えると、にこりと笑った。
「ああ、ラグナ。来てくれたのか。……なぜそんなところに?」
こちらへおいで、というような優しげな声色に、戸惑いを振り払う。
「僕はもう、迷いません」
「……」
「シェラの事を支えて一緒に生きるって、決めました。……さようなら、オルカ様」
オルカシセロの懐に飛び込むようにエアシューズを走らせ、炎を纏う蹴りを叩きこむ。
「ぐっ……かはっ」
ベルカントの声が静かに響く。
「オルカシセロ、貴方がシェラやオラトリオを憎む理由は知りません。しかし今後起こり得る被害を此処で断つのがケルベロスの使命ですから……負けませんよ」
ざぁっ、と風が舞う。オルカシセロはくつくつと肩を揺らした。ベルカントが展開したサークリットチェインが、前衛に立つケルベロスの足もとに魔法陣を描く。
「傑作だ。……やってごらんよ! 君たちにできるものか!」
オルカシセロが、シエラシセロ目がけて鎌を振り下ろした。
「シェラ!」
いけない、と思う前に、霞がシエラシセロの前に飛び出した。
「!!」
「霞さん!」
すかさずナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)が祝福の矢を放つ。
「ありがとうございます、大丈夫です」
振り返り無事を伝える霞。けれど、傷は深い。それを見て、シエラシセロはヒュッと胃の奥が冷たくなる心地がした。ふるり、と首を横に振る。
(「守られてばかりでみんなを守れなかった昔の自分じゃないから。大切な人を家族を仲間を今度は全部守ってみせる」)
「なかよしごっこは楽しいかい!?」
オルカシセロが追撃をと振りかぶったところへ、魅麗の声とともにプラズムキャノンが飛ぶ。
「霊弾よ、敵の動きを封じる力となれ!」
大きな霊弾を受け、オルカシセロはその場に膝を着いた。
「ぐ……っ」
●
(「何があったのかは、わたしにはわからない……第三者であるわたしが、推し量れるものでもないけれど――」)
アウレリアは、再度月を請う。雫が後衛に立つ仲間にゆっくりと零れた。
(「それでも、微力であってもちからになれるのなら」)
「逃がさないよ」
シエラシセロは熱くなりすぎないよう己をおさえながら、降魔真拳を放つ。
「ぅ、あぁっ」
悲鳴を上げたオルカシセロに、眉を寄せる。
(「……でも少しだけ感謝もしてる。オルカが村を壊したからボクはルカや兄のラグに会えた」)
それでも、オルカシセロは仇だ。シエラシセロの故郷を奪い、そして、――大切な人と引き合わせた存在。
(「……複雑だよ。ラグの気持ち考えるとさらに」)
「……シエラ、本当に……仇を討てるなんて思ってる?」
至近距離のオルカシセロが笑った。
「え……」
口の端から血を流しながら、ゆるりと唄を紡いだ。前衛に立つケルベロス達の耳に、心地よく、精神を蝕むように染みわたっていく。
「や、め……」
足が、竦む。
「穿て!」
ジェミは、歌声を止ませるように日本刀を振るった。白鷺のビジョンを纏ったエネルギーが、オルカシセロを打つ。
「ぁ……」
シエラシセロは目を見開いたまま、震えている。
「シェラ……、シェラ!」
ベルカントは呼び掛けと共に、前衛のケルベロスへ向けて白い薔薇の花びらを舞わせる。追撃が来る前に、と霞はGlaciesで弧を描くようにオルカシセロを斬りつけた。
「それ以上は許しません」
「ほれ、大人しくするがよい」
キーリアがペトリフィケイションを放つ。オルカシセロは低く呻き、鎌を杖にするようにしてようやっと立っている状態だった。ベルカントはシエラシセロにただ寄り添い、信じる。
(「彼女がその手でこの宿縁を絶ち、忌まわしい過去の影に打ち克つ」)
自分が出来ることは、その支えになること。
「ありがとう……」
小さく礼を告げ、シエラシセロは顔を上げる。
「もう甘い嘘に騙されたりしない」
きつとオルカシセロを見据える。故郷のあたたかな夢に足が竦んだのは事実だ。けれど、失くした痛みが力になる。
(「――それに幸せは傍にあるから」)
背を支えてくれる大切な人達の想いをしっかりと受け取った。ならば、負けるような相手ではない。
「戯言を!」
オルカシセロが再度歌を紡ごうと唇を動かす。
「我が槍、果たして見切れるかな!」
身を屈め、信倖が放つ無数の槍の嵐。地獄化した左腕から、ごう、と蒼い炎が渦巻く。
「ぐ、ああ、あ!」
「狼の血が目覚める……この一撃を食らいなさい!」
魅麗の拳が獣のそれに変わる。小柄な彼女の身体に似つかわしくないワイルドスペースに覆われた猛々しい狼の手がオルカシセロの腹部に叩き込まれた。ごほごほと咳き込みその場に倒れ込むオルカシセロに、シエラシセロがゆっくりと近づいた。
「シエラシセロさん!」
ナズナの声とともに祝福の矢が飛ぶ。うん、とひとつ頷き、シエラシセロは光鳥の群れを呼ぶ。
「いくよ」
祈るように、ケルベロス達は見守っていた。二羽の光鳥がナイフへと変わる。シエラシセロはそれをしっかりと握りこむと、光鳥の群れと共にオルカシセロの懐へと飛び込んだ。
「シエ……ラ」
仰向けに倒れたオルカシセロの胸に、ナイフを深く突き立てる。
「……さよならだよ」
「……っ、ふ」
最後まで、憎らしい子だ。オルカシセロは悔しげに笑った。こんなにも素晴らしい仲間に恵まれ、愛され、輝いている。その髪も、眼も、翼も。――憎い。ゆるりと上げられたオルカシセロの右手が、シエラシセロの髪の一房をするりと撫でた。直後、腕は力を失いとさりと軽い音を立てて桜の絨毯に落ちる。引き抜いた光鳥のナイフが、光へ還る。シエラシセロはそれを見送ると、静かに瞳を閉じた。オルカシセロの身体も、光に包まれて消えていく。心中で、故郷へ告げる。――遂げたことを。
●
魅麗は静かに手を祈りの形に組むと、黙祷を捧げる。霞は、周囲をオラトリオヴェールで癒すとシエラシセロを振り返った。
「みんな、ありがとう」
シエラシセロはふわりと笑顔で礼を告げる。その声は、少し震えていた。
(「当人は思う所もあるだろうからな」)
信倖は、礼には及ばないと優しく首を横に振ると、そっとその場を離れた。桜が、風を受けて揺れる。皆、シエラシセロが前を向くために尽力したことを知っているからこそ、ただそっと寄り添うようにそこにいるだけ。けれど、それがどれほどあたたかい事か。
「シェラ」
ベルカントが、そっとシエラシセロの肩を抱いた。
「ルカ……」
「よく頑張りましたね」
笑顔で労う彼の声に緊張の糸が切れる。ぽろ、と大粒の涙が一粒、シエラシセロの白い頬を滑り落ちて行った。
「みんな、本当にありがとう」
泣きながら、笑う。いつも笑顔のシエラシセロの瞳が、濡れている。
「わかってたけど復讐なんて虚しいだけだね」
ざあっ、と強い風が吹き、桜が巻き上げられる。オルカシセロに憎まれた金の髪をおさえて、シエラシセロは続けた。
「憎むのは」
――苦しかったよ。
ずっと、続いたこの思いが、やっと断ち切られた。ナズナも、その言葉に静かに頷く。
「これで前へ進める」
ありがとう。
そのお礼は、誰に向けたものか。シエラシセロは、もう一度『ありがとう』と繰り返した。
作者:狐路ユッカ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年4月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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