●4月15日、昼
「ねえ、アナタ。今日の夜の予定は開いていないかしら?」
天目・なつみ(ドラゴニアンのガジェッティア・en0271)は、大きく一度羽根を広げてから首を傾げて、微笑んだ。
「予定が開いているなら、――一緒に冒険に行きましょう!」
彼女の取り出したのは、ナイトミュージアムと銘打たれたチラシだ。
「暗くて、薄暗ーい誘導灯しか灯りの無い博物館を、持参したライトで照らしながら展示を見る事ができるらしいのよ。それってなんだか、とっても、楽しそうでしょっ?」
暗闇の中。
小さな明かりだけに照らされる恐竜骨格は、生きていた時以上に迫力があるかもしれない。
美しい絵画や、彫刻だって、薄闇の中では違った姿で見えるだろう。
「小さな明かりの中で見れば、ただの説明文だって貴重な文献みたいに見えちゃうかもしれないわね」
くすくすと楽しそうに笑ったなつみは、ケルベロスにチラシを差し出した。
「興味が湧いたなら、冒険の準備はバッチリしてきてよね? 装備は装備しなきゃ意味がないんだから」
じゃあ、また夜にね、となつみは手をひらひらと振った。
●
暗い博物館。昼に来ても飽かぬ場所、夜の探検に心躍らぬ訳が無い。
「みな支度は万全かっ」
「はいっ!」「わくわくしますね!」
一十と敬礼を交すミシェル。シィラは頷き、ティアンは首を傾げた。
「あとをついていけばいいのか」
サイガが否と左右に首を振り、キソラは肩を竦め。
「カズに縄付けそびれたわあ……」
「迷子ンなったら手ぇ繋ぐ刑だぞ、カズ」
「いっそ出口で待ち合わせでも良いんじゃない?」
揶揄いに笑みを深める夜。
「ええい、縄も手も不要だ、やめろやめろ」
流石に自制ができると一十が吼え。
「何だちがうのか」
ティアンは反対側に首を傾げて、掌をぐっぱ。
記録係ならお任せアレとキソラはカメラを構え、歩きだす。
夜の星燈は仲間が躓かぬ様に足元照らす道標。
「ほら今、後ろの動かなかった?」
「えっ、いま動きました? どの子?」
思わずキソラの後ろに隠れるミシェルと、真に受けて回りを見渡すシィラ。
「動いちゃいないとは思うが、ナントカサウルスだかナントカドンだか云う奴だ」
一十がランタンを掲げ、朧に照らし出される骨格模型はまるきり遺跡探索。
「大きいなあ、頭蓋など被れば雨風凌げそうなほどある」
説明文をルーペ越しに読む一十、その考古学者殿の後ろでメモを取る助手は夜だ。
「わぁ、これはトリケラトプスでしょうか……、こっちはプテラノドン!?」
「詳しいじゃんミシェル。つかザウルスてドラゴンに似てんなぁ」
ミシェルとサイガが感嘆の声音を零し。夜の手元を照らしていたティアンは一瞬眉を顰め、小さく頷いた。
「そうだな、これくらいのもいつか狩れればいい」
「うん、いつか大きい竜を狩ったら骨は此処に寄贈しましょう。その時はきっと手伝いますね」
「……手伝ってくれるの?」
もちろんとシィラは笑い、ティアンは礼を言う。
「狂戦士か君らは……?」
一十が首を傾ぎ。
「こんなデカかったらさあ、さぞかし食いでがありそうね?」
なんてキソラは笑う。
「今んうちからデウスん骨集めときゃ何百年後かに、アンタらも歴史に名ぁ残せちまうかも」
冗談めいたサイガの言葉は、どこか仲間の瞳に過る色を覗く様。
「いつかはオレらも骨が並べられる側じゃナイの?」
「丈夫な骨、今のうちに作っておかなきゃ」
キソラの相槌にシィラは絵画コーナーの傍に飾られたいなぁと呟き、サイガが吹き出した。
「俺らが展示物サイドかよ」
「いっぱいデウスエクスを倒したら、歴史に名も残るかな」
皆の語る未来の空想は、絵本を捲るよう。
夜の唇に笑みが浮かぶのは、数多の冒険譚に胸を躍らせた少年期の名残か。或いは変わらず弾む想いを抱いているからか。
骨や名とは言わずとも。未来を紡いでいけるのなら、いつか誰か遠い先で同じ様に思いを馳せるのだろう。
夢物語のような、この一夜へ。
「オレは飾られるよか見る側がイイや」
キソラは呟き、シャッターを切った。
小さな明かりが真介の歩みに合わせて揺れる。
「映画の世界よ!」
芙蓉の喜びに揺れまくる尾。楽しそう、と瞳を細めた真介は展示を照らす。
「恐竜の化石、かな。大きいなあ」
昔は地球を闊歩していただろうに。
「……滅んでしまうんだから、繁栄するかどうかは大きさじゃないんだな。きっと」
「大きい、と言うことはよく食べると言うことだもの。彼らを養う余裕がこの星にはなかったのよね」
形が残るのだから立派だわ、と芙蓉がにんまりと笑う。
「映画だったら、動きだしてガオーってするのだわ。仲良くなれるといいわね!」
「うーん、芙蓉はすぐ仲良くなれそう」
「お前のお墨付きなら間違いないわっ」
それに怖いならば耳に触れて良いと言う芙蓉に、真介は曖昧に頷き。
「多分、大丈夫」
でも、もふの我慢は大丈夫では無いかもしれない。
朧げな灯り。光の角度で、石の輝きは表情を変える。
「えっと、なつみさんの誕生石は……たしか4月はダイヤモンドでしたね」
紫睡の趣味は鉱石収拾。なつみと並んで、どこか楽しげに言葉を紡ぐ。
「コレ?」
「あっ、そちらはホワイトサファイアですね、ダイヤより落ち着いた輝きで……」
「紫睡は詳しいわねー」
その背後、ぴょんと現れた小さな影。相箱のザラキの姿。
「おめでとうございます!」
「わ」
「あら、イッパイアッテナ。ふふ、アリガト!」
夢中になっていた分不意打ちに驚いた紫睡。イッパイアッテナにプレゼントを手渡され、なつみは笑む。
「アナタも一緒にダイヤを探してくれないかしら?」
「お安い御用ですよ」
石鑑賞会はもう少し続く様。
『くらがり』の欠片が、足元を照らす。陣内に手を引かれ、ゆっくりと歩くあかり。
化石、昔の生活用品、芸術作品。
「これらは『かつて、誰かがそこに確かにいた』という証だ――このランプも……、彼は、『くらがり』は、確かに居た」
光が照らすものは、今ではない『いつか』の命の証。あかりは掌にそっと力を込める。
「これは彼の一部だけれど。幼い日を彼と過ごした君が、君こそが『くらがりが確かにそこに居た』証なんだよ」
光が揺れる。膝を折り、あかりとまっすぐに目線を合わせる陣内。
「だから『おとうさん』の話を、俺にもっと聞かせてくれ」
翠の瞳、大きな黒耳。
「……じゃあ、陣は僕に話して。あなたの大切なひとのこと、宝物のような時間のこと。僕が確かに証明できる様に」
●
空を仰げば翼竜。振り向けば巨大な恐竜。
「ほぅ……これが恐竜の。お前はとても大きいのだな、こんばんは」
キースのライトが照らし出す骨は、今にも動き出しそうだ。
「お前の翼は立派だな」
別世界を冒険する様な、夜の博物館。
「それでは、おやすみ」
骨達を起こさぬ様に、抜き足差し足忍び足。次なる出会いに思いを馳せる。
「う~ん、何をご覧になっているんでしょぉか~?」
並んだ石像の視線の先を、アンジュリーナは首を傾げて追う。
「こうして進んでいくと、忍び込んで秘密のミッションをしているような気分になるね!」
「アタシ夜目が利くから、昼とあまり変わらないのよね。――そうだ」
彗がワクワクと前を歩き、カグヤがゆっくりと離れ行く。
「そう、静かにスマートに」
「あ、これ綺麗ですねぇ~」「そ、それはあの有名な絵画じゃないか!?」
アンジュリーナが立ち止まった瞬間。彗がダッシュで滑り込み、絵画を眺め始めた。
「こほん。こうしてはしゃぐのもまた一興だよね」
慌てて取り繕う彗。
「ぐぬぬ」
その頃。先回りして驚かせようとしていたカグヤは、二人が展示に夢中過ぎてスルーされていた。
「あら?」
「わ」
後ろで突然声を上げたなつみに、カグヤは驚き跳ねる。
「あ、天目さん~」
「やあ、冒険家さん、調子はどうだい?」
「ふふ、上々よ」
驚いた胸をカグヤは押さえ込み。
「たっ、誕生日おめでとうなつみ」
そしてリボンの箱を携えた冒険仲間が一人増やし。バベッジタワーの皆の探索は続く。
頭の炎が揺れる。思い思いの灯りを頭上や手に。
「何が起こるかわかりませんからね。迷子にならないように、みんなでおててを繋ぐのはどうでしょうか?」
「いいですね、皆で繋ぎましょうか!」
かりんの提案に、燈火が頷き。アンセルムが蔦の攻性植物を伸ばした。
「身長差があるし、ボクの蔦を持ってもらえれば、それで大丈夫だよ」
「アンちゃん、私の身長ならとどきますよ!」
「そういえば朱藤は届いたね」
身長だけは年相応ですからと自慢げな環。20歳。今日も元気。
「彫像エリアの散歩もいいね、別の世界に迷い込んだみたいだ」
アンセルムは回りを見渡し。
「さて、我々はいったいどんな彫像に遭遇するのでしょう。あっ、この彫像は……動物ですね」
犬のようです、と燈火は、雰囲気を盛り上げるナレーションを口に。
「アナウンスもいい雰囲気出てるね」
「えへへ、上手ですか?」
和やかに二人が話す横。
「むむ? これは犬、ですか? もしやこの辺りは動物が多いのでしょうか?」
かりんはキョロキョロ。
「じゃあ、この隣にいるのはきっと環みたいな可愛い猫ですね! ぴゃっ!? 虎でしたっ!?」
「あ、猫もいるんです? もごー!」
かりんの驚きの声に、口を押さえて声を殺す環。
「暗い中で見ると迫力が段違いだね」
「わわわ、大丈夫ですか?」
アンセルムがゆっくりと首を傾げ。燈火が駆け寄る。
「……あっ、どうしよう。腰が抜けたかもしれません」
絶望的な環の表情。
冒険には困難がつきものなのだ。
「いざいざ、探検出発である!」
吾連と千が手を繋ぎ進む道。灯りに照らされ浮かぶ展示の数々。
「ふむ?」
「これ何だろう?」
突如まろい何かが照らされた。首を傾げて見上げると。
「うわ、でっかい恐竜の骨!」
「ふぉ! 本当だ、おっきい恐竜いた!」
ちょっとびっくり繋いだ手をぎゅっと握って。
「一人じゃちょっと怖いけど、今は吾連と一緒だからだいじょぶ!」
「二人一緒なら、何があっても大丈夫だよ!」
でも、もし動いた時のために説明文で弱点は見ておこう。
「あっ。ね、千。隣の化石見てみてよ」
「む? ……すごいすごい! とってもキレイ!」
オパール化した恐竜の牙。
「長い時間をかけて宝石に変わったんだって。すごい宝物に出会えたね」
「宝物との出会い、探検の醍醐味だな!」
骨格標本の前。
「夜な夜な展示物たちが騒ぎだし、考古学者が遺跡の謎を解くために冒険を……」
なにか違うな、と首を傾げた晟。
「入場者が展示物になってしまう感じのホラーとか」
じっとその場に立ち尽くし、考え込む。
「いや、私は展示物ではないのだがな……」
何故か展示物が動かされて変な位置に有るとの声が聞こえてきた気がした。
「わお、大迫力」
初めて見る巨大な骨格。暗闇という非日常。
「恐竜が好きなの?」
「いや、特に好きではない……でも、ここにはロマンがある」
戦場では感じる余裕は無いロマンを、今は感じる。
普段と同じ。しかし、炯介の言葉奥に僅かな高揚を感じ、俊は彼の隣へと並ぶ。
「ロマンね。男の人らしいわ」
「ねえ、急に動き出したらどうする? あの大きな口。きっと人間なんて一飲みだ」
歯を鳴らし、悪戯に目を細める炯介。
「急いで逃げなきゃ……ふふふ、ゾクゾクしちゃうね」
俊は眉を顰め、踵を鳴らした。
「そうね、なら急いで逃げましょう」
目を輝かせる彼がなんだか、おかしくて。
嬉しくて。――愛おしくて。
暗く長い道程で、貴方が迷わぬ様に。彼の手を取り、歩き出す。
炯介は瞬き一つ。
ただはぐれぬ様にと、その手を握り返した。
●
「――此処は眠らぬ夜に包まれた世界。はぐれぬ様に、どうか其の手を此方に」
「エスコートお願いしますね」
内心の緊張を芝居がかった物言いと笑みで彩り。宿利はラウルの差し出した手を取った。
揺れる淡い灯り、合わせる歩幅。
「以前、お化け屋敷では君の手を掴み損ねてはぐれちゃったよね」
「あの時は君に触れられなかったけど、今宵は繋いだこの手を決して離さないから」
笑う宿利。表情は分からずとも、気持ちは通じるよう。
そこに小さく上がる宿利の驚きの声。
「照らし方が悪いのよ……」
不気味に照らされた彫刻。
驚く様子に眦が緩ませながらも、不安を和らげる様。
「もし、お化けが居ても俺が姫君を護るから安心してね?」
「ありがとう、頼もしい私の騎士さん」
ラウルは繋ぐ手に優しく力を込めた。
「危ないですから手をつないで行きましょうか」
しっかり繋いだメリルディと漆の手。
「漆、見たいものってある?」
「んー……、そうですね。ベタですが骨格標本とかどうでしょう?」
「骨格標本かぁ、博物館の典型だよね」
カンテラで照らす骨格標本は、影が長く伸び。
普段では感じられない迫力が感じられる。
「夜の博物館ってのはなかなか雰囲気がありますね」
「昼間だったら見逃しちゃってそうなところもじっくり見られる気がするし、想像力をかき立てられるね」
繋いだ手に少しだけ力を籠めて、漆を見やるメリルディ。
「……今夜は一緒に来てくれてありがと、漆」
「なかなか面白い体験ができそうですしね。さあ、先に進みましょうか、リル」
「うん!」
暗い館内も、2人一緒なら大丈夫。
光の翼を薄ら輝かせ、レスターは彼女の手をしっかり握る。
「この絵のモデルの子、カリンに似てるね。――キレイだけど……ひとりぽっちで寂しそうだ」
赤い靴の踊り子の絵画。
「夜の闇の中で見てるからそう感じるのかな」
「ひとりぼっちかもしれませんが、扉を開けたら仲間がいるかも」
レスターの囁くような声。カリンは自らの赤い靴と絵画を見比べる。
「それに、貴方のように良いヒトが来るのを待っているのかもしれません」
記憶のほとんど無いカリン。
記録が沢山ある博物館が好ましいのは、多分そのせい。うらやましいせい。
きっと、カリンのに唯一残った綺麗なものは、隣の彼なのだろうと。
「カリン、写真を撮ろうか」
彼女はこくんと頷いた。
「えへへ、かいちゅーでんとーもちゃーんと持ってきたよ」
「よーし探検隊、出発だよー!」
マイヤと鈴の後ろ。ラーシュがやれやれとついて行く。
人の気配を感じれど、静かな闇。
「わ」
「光でキラキラしてキレーだねー」
硝子の反射にマイヤが驚いた声を上げ、鈴が首を傾ぐ。
「……でも暗いとちょーっと怖いかも」
「何かあっても、わたしとラーシュがいるから大丈夫。手繋ご?」
「うん、お手手つなぐ!」
繋いだ掌、2人と1匹の足音。
「ぴゃ」
照らし出された模型に、同時に驚いた2人。鈴はラーシュの後ろに隠れ。
「ほ、ほねほねよりラーシュの方がつよいもんね!」
胸を張る箱竜。マイヤは手を握り直す。
「鈴も負けてないよ、偉いね!」
「うんっ、今日はまだまだはっけんしちゃうぞー!」
はぐれぬ様に、手を繋ぎ。暗い道を月と星が照らす。
「ひゃっ」
巨体に、思わず声を漏らすルチル。
「ふふ、るちるんびっくりしちゃったかな?」
改めて照らされた骨。
「すごいね、こんな子でも絶滅しちゃうんだよね」
春乃はなんだか胸がきゅっと切なくなる。
「絶滅してしまったというのは悲しいことだが。こうして後世に形を遺し、伝えられるのはすごいことだ」
ルチルは瞳を細め。
「あのね、るちるん」
「む?」
「わたしね、この世界をいっしょに生きたい人ができたよ。ずっといっしょにいたい特別な人」
伝わる感情は、ルチルを不思議と安心させる。
「もちろん、るちるんともね! ずっとおともだちでいたいって思うから。これから先、何があってもこの手を離したりしないからねっ」
「うん、うん、はるるんが幸せなら、わたしもうれしい」
ああ、なんだか少し涙が出そう。
ずっと、おともだちでいて。
2人頭を寄せ合い笑い合う。
彫刻の群れの中。
「自分で照らしながら歩くってだけで、ちょっとわくわくしちゃうよね」
「……その、真っ暗ですし、なんだか、そこかしこに気配を感じるので……す、少し怖い、です」
萌花とは対照的。おっかなびっくり、あちこち照らし歩く晴。
「……晴ちゃん、大丈夫?」
「ね、姉様、絶対離れないでください、ね……?」
「暗いけど、あたしがちゃんと手繋いでるから大丈夫だよ。怖かったら、ぎゅってしてあげるから」
怯えた晴の手をしっかり握り。
「ねぇ、晴ちゃ」
「ひっ!」
不意に掛けられた声に悲鳴をあげて萌花に抱きつく晴。
「ごめんごめん、そんなにビックリさせるつもりじゃ……。大丈夫大丈夫。あたしがいるから怖くないよ」
しっかりと晴を抱きしめて、萌花は背中を撫でた。
「ガキの頃、弟達数人と夜の学校に忍び込んだ事があってな」
ヴィクトルは肩を竦めてフィストに瞳を細める。
「後でバレてガッツリ怒られた。今となっては思い出さ」
「へえ、私は学校にあまり良い思い出がなかったから、羨ましいな」
展示と話を楽しみながら、微笑んだフィストに。
「すまない、フィスト」
ふとヴィクトルが切り出した。
「あの時は悪かった。いくらお前さんに頼まれていたとはいえ、あれを届けるにはタイミングが悪すぎた」
「……良いんだ。まだほんの少ししか聴いてなくて。お前のせいじゃない、よ」
今は悩む時じゃない。
フィストは瞳を細め、ヴィクトルの手を引く。
「さて、今度は絵画でも行こう。あっちに見たい絵があるんだ、ほらほら」
「そうか……少し、安心した」
跳ねるぴよを宥めて、熾月は今来た道に思いを馳せる。
「俺のお気に入りは恐竜骨格かな」
そう、男子のロマンで医者のロマン。
「恐竜骨格かっこよかったよね! 私のお気に入りは絵画かなぁ……あそこにあったやつ」
熾月がぱ、と振り返って頷いた。
「あ、絵画も良かったよね」
「明かりが届かなくて端まではっきり見えないせいで、随分印象が変わるんだなって」
アリシスフェイルが繋いだロティの手。うんうん、と反芻する様に。
「折角だしお互いのお気に入りもう一回見に行こ?」
今度は光源を変えたり、視点を変えて。同じ場所を違う形で堪能するんだ、と熾月。
「あらいいわね。また見に行ったら違う見え方がするかもしれないし楽しそう」
2人と2匹は踵を返し。再び探検にとんぼ返り。
出口の先。売店で、ロコは標本を眺めていた。
「浪漫だよねぇ……。あ、これは一応食べ物かな?」
雲母色の金平糖の瓶。白亜紀頃の空気を固めただなんて。なんて眉唾。
「こういうのも醍醐味だね」
探掘家気分の彼女の姿。
おや、とロコは顔をあげる。
「はじめまして、誕生日おめでとう」
作者:絲上ゆいこ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年4月17日
難度:易しい
参加:43人
結果:成功!
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