夜の町を我が手の中に

作者:幾夜緋琉

●夜の町を我が手の中に
 深夜の宵闇に包まれたビルの屋上。
 当然ながら人の影はほとんど無く、屋上から見える繁華街のイルミネーションがキラキラと瞬いている。
 ……そして、そんなイルミネーションを見つめているは、綺羅びやかな白いスーツに身を包んだイケメン男性。
 煙草を吹かしながら……ふぅ、と幾度となく溜息を吐く彼。
 そんな彼の下へ、背後からそっと近づいてきたのは……エキゾチックで露出度の高い服装に身を包んだ『青のホスフィン』。
「ふふ……」
 と、僅かな笑い声に気づいた彼が振り返るが……次の瞬間、彼を包み込むは、蒼い炎。
「な……!」
 と驚きの言葉を上げる事も出来ず、炎に飲まれ……そして、炎が消えると共に、そこに現れたのは、巨躯のエインヘリアル。
 勿論、そのイケメンな顔立ちは変わる事無く、スタイルもいい。
 そして、青のホスフィンは。
「ふふ……なかなか、良い見た目のエインヘリアルが出来たわね。やっぱり、エインヘリアルなら外見に拘らないと♪」
 何処か楽しげに笑う彼女は、エインヘリアルの下へ近づくと共に。
「でも、見かけ倒しなのはダメよ。とっととグラビティ・チェインを奪ってくるの。そしたら、迎えに来てあげる」
 と言うと、彼はこくりと頷き、地上へと飛び降りていった。

「皆さん、集まっていただけましたね? それでは、早速ですが、説明させて戴きますね」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロス達に一礼すると、早速。
「有力なシャイターンが、動き出している様なのです。彼女等は、死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性を、其の場でエインヘリアルへと仕立て上げる事が出来る様なのです」
「出現したエインヘリアルらは、グラビティ・チェインが枯渇している状況の様で、人間を殺し、グラビティ・チェインを奪おうと暴れ出す様なのです。そこで、皆さんには急ぎ現場へと向かい、暴れるエインヘリアルの撃破をお願いします」
「ただ、一つ注意しないといけないのは、エインヘリアルが現れる前に対応する事は出来ません。現れた所に割り込み、市民の方々に被害がない様に対応戴ける様、お願い致します」
 そして、更にセリカは、詳しい情報を説明する。
「今回、青のホスフィンによって産み出されたエインヘリアルは、どうやら顔立ちの整ったイケメンエインヘリアルの様です。そして、その手には巨大な剣を持ち、縦横無尽に振りかざす事で攻撃してくる様です」
「又、彼と相対出来るのは、ビルの地上……彼が屋上から飛び降りてきた瞬間に対峙することとなりそうです。回りにはまだまだ多くの一般人がいる様ですから、戦闘開始前に周りの人達をそこから避難させるようにお願いします」
「尚、エインヘリアル自体は自分自身の顔にとても自信を持っている様です。逆にそこを否定するような発言などをすれば、彼は怒り、攻撃を仕掛けてくる様なので、上手い具合に挑発しつつ、退治する様にお願いします」
 そして、最後に。
「多くのシャイターン達が、次々と人々をエインヘリアルを作り出してしまうという事件……この事件を放置しておく訳にはいきませんので、皆さんの力で、確実に仕留めてきて頂けます様、お願い致します」
 と、頭を下げるのであった。


参加者
夜刀神・罪剱(星視の葬送者・e02878)
浦戸・希里笑(黒蓮花・e13064)
バフォメット・アイベックス(山羊座の守護の下・e14843)
四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
御忌・禊(憂月・e33872)
安海・藤子(道化は嘲笑う・e36211)
浜野・真砂(本の虫・e41105)

■リプレイ

●その顔の利用価値
 とある都心近郊の繁華街……美しくイルミネーション瞬く中で、青のホスフィンが作り出ししイケメンのエインヘリアル。
 彼女によって、人を殺す事を指示されたエインヘリアルは、意気揚々と人間殺戮をしようとしている……そんなエインヘリアルとシャイターンの関係に、浜野・真砂(本の虫・e41105)が。
「シャイターンのエインヘリアル……記録で見たことはありますが、現実に見るのは初めてになりますね……」
 と真砂の言葉に対し、安海・藤子(道化は嘲笑う・e36211)も。
「あら、そうなのね? まぁ、最早色んなのをエインヘリアルに変えるシャイターンも、残りは二体……このエインヘリアルなんてイケメンに固執している様なのよね。顔だけでエインヘリアルにさせられた人間には悪いんだけど、これがあたしたちの仕事なのよね。だから、死んで頂戴な? 哀れな犠牲者さん、ってね」
 面の下、くすりと微笑む藤子、とその言葉に浦戸・希里笑(黒蓮花・e13064)は。
「しかし、青のホスフィンはうろついているんだね……」
 と言うと、雪城・バニラ(氷絶華・e33425)と御忌・禊(憂月・e33872)も。
「イケメンだからって何をしても良い訳では無いわ。私も、見た目よりも内面を重視して彼氏を選びたいしね」
「……そうですね……見た目がどれだけ美しくても、こうなってしまっては形無しですね……」
 そんな二人の言葉に四条・玲斗(町の小さな薬剤師さん・e19273)と夜刀神・罪剱(星視の葬送者・e02878)も加わり。
「まぁこれ以上の被害を増やさないためにも本体を叩きたいところだけれど、まずは目の前の問題から片付けないといけないわね?」
「……暇潰しにはなるかも知れないが……まぁ、だからと言って手加減はしない」
「……そうですね……荒らそうことは嫌いですが、僕は無辜の方々のために、この身を使い果たしましょう……」
 静かな口調ながらも、強い意志の一言。
 と、その言葉にふと。
「本当は、エインヘリアル化した相手を戻す術があればいいのだけれど……シャイターンなら何か知って居るのかしら?」
 小首を傾げる玲斗に、バフォメット・アイベックス(山羊座の守護の下・e14843)は。
「人をエインヘリアルにする事が出来るのですから、逆にエインヘリアルを人にする事も出来そうな所ではありますが……」
「そうね……まぁ、仕方ないわね。確実にここで倒しましょう」
 そう頷き合い、そしてケルベロス達は、人の往来がまだ激しい繁華街へと急ぐのであった。

●綺羅びやかさと醜さ
 そして、繁華街に到着したケルベロス達。
 ……人でごった返す、とまではいかないが、流石に夜の繁華街となれば、中々の人手。
 そして……ビルの上の方からは。
『ハァッハッハッハァ……!!』
 と、声高らかに笑いながら、落下してくるエインヘリアル。
 咄嗟に藤子が。
「みんな、逃げて!!」
 エインヘリアルの落下地点を予測し、叫び、その場からの緊急退避を指示。
 そしてその場所を取り囲むように、残るケルベロス達は包囲網で迎え撃つ。
 ドシン、と地面へと到達したエインヘリアル……アスファルトがひび割れ、埃が舞う。
 ……そして、身体と同じ位に巨大な剣を掲げたエインヘリアルに、更なる悲鳴が上がる……。
「皆、落ち着いて! 私達はケルベロスよ! すぐにここから落ち着いて避難して頂戴! お年寄りや動けない人は、手を貸し合って!」
 的確に指示を与え、其の場からの避難を促す。
 一方、残るケルベロス達は、完全にエインヘリアルを包囲。
『アァン? 何だよ、邪魔すんじゃねぇ!』
 と怒りを露わにする彼。
 確かに……その顔立ちは整っており、黙っていればイケメン、で通るだろう……が、性格は全くもって最悪。
 そんなエインヘリアルの真っ正面に立ったバフォメットが、仲間達へ。
「さて、まずは一般の方達の避難が完了するまで、この2.5枚目を足止めしないとですね」
 と言うと、それに頷き、希里笑が口火を切って。
「ふぅん……『イケメン』をエインヘリアルにしているみたいだね。でも、よく解らない。顔の造形は確かに整っているのは解るけど、それでもカッコイイとは思わないなぁ。中身が伴ってないからかな? まぁ、言われるがままになって虐殺をするようなヤツを評価なんて出来ないけど」
 溜息、肩を竦めて呆れた様を装うと、更にバニラ、罪剱、禊らも。
「そうね。貴方、自分の顔がどれだけカッコイイと思ってるの? そういうのをナルシストって言うのよね」
「……お前は正直言ってつまらない……ただ殺したいからとか、グラビティ・チェインを奪う為とか、そんなくだらない理由はもう聞き飽きた。もっと戦うに相応しい理由をもってこい」
「……そうですね。……僕に美醜は解らない……けれども、真に美しいものを知って居ます……それと比べれば、あなたはきっと……とても醜いのでしょう……」
『あぁん!? 何だとコノヤロウ! ふざけた事抜かすな!!』
 と、更に怒りの表情で怒鳴り散らすエインヘリアル。
 それを挑発するが如く、希里笑、禊、罪剱が。
「本当、顔に性格の悪さがにじみ出てて、ひどく醜いよ。イケメンで押すより、顔芸で笑いをとった方が受けがいいんじゃない?」
「……? ……まぁ……醜いのは、望んでそうなったとは思いません……」
「……本当、面白くない……星空を眺めている方が、余程暇つぶしになるだろう。ほら、見逃してやるから大人しく何処かに消えろ」
 シッシッ、とばかりに手を仰ぐ罪剱……。
『ウルセェェ!!』
 怒りと共に、その巨大剣を掲げる。
 ……幸い、先ほど迄のケルベロス達の挑発と時間稼ぎで、回りの人達もほぼ避難済み。
「……絶対に、通しません」
「そうね。さぁ……始めましょう」
 と真砂、玲斗の言葉に皆も頷く、そして先陣切るは希里笑……穿つように繰り出すスパイラルアームがエインヘリアルの胸を串刺しにする。
 が……流石にその巨躯からして、体力の方も多い様である。
 その攻撃を受けつつも、力一杯の横薙ぎで振り回しての反撃。
 かなりのダメージではあるが、その攻撃を即座に分身の術で、禊が回復。
「……大丈夫ですか……」
「うん、ありがとう」
 軽い会釈でもって、意思を伝える希里笑。
 そして、敵の大振りに入れ替わる様に、バニラが。
「その防具ごと、破壊してあげるわ!」
 と破鎧衝で、更に護りをこそぎ落としつつ、更にスナイパーに属する罪劔がスターゲイザーで足止めを行い、真砂がペトリフィケイションによる石化を付与。
 そして、バフォメットが。
「お薬の時間です!」
 と、殺神ウイルスを放ち、アンチヒール効果を付与した上の、玲斗が。
「本当、弱い相手しか狙えないなんて、根性も容貌同様に残念なのね」
 と更に煽りつつ、月光斬の一閃を叩きつけて希里笑からのターゲットを外す。
 そして……ほぼ一巡した所に、一般市民の避難誘導を終えた藤子が合流。
「さて、始めましょうか……と、その前に、っと」
 殺界形成を発動し、周囲からの人払い。
 その殺気に対し、エインヘリアルは。
『ホゥ……』
 と、僅かなる笑み。
 殺気に闘争心が掻き立てられたのだろうか、目は嬉々とし始める。
 そして次の刻、面を外した藤子はじっとエインヘリアルを見据え。
「さぁ、こっちだぞ」
 と一気に間合いを詰め、懐からのブレイズクラッシュ。
 身体が一瞬燃え上がり、炎に苦悶の表情。
 ただ、すぐにまた顔は嬉々となり。
『やってやらぁ!!』
 と全力全開。
 ……とは言えども、攻撃手段に変わりは無く、その剣閃を振り回すのみ。
 そんなエインヘリアルの大振りの攻撃を、身を挺するは禊。
 胸元に刻まれる一閃から血飛沫が噴き出すが。
「……痛みなど、人々を護れるならば大したことではありません……!」
 自分自身へインフェルノファクターを付与し、踏ん張る。
 そして、次なるは希里笑とバニラ。
 希里笑が旋刃脚を頭部に叩きつけ、ふらついた隙にバニラが。
「この死角からの一撃、見切れるかしら?」
 とシャドウリッパー。
 そして、罪劔がサイコフォースを仕掛け、そして真砂が。
「きたれ、極夜よりの魔弾」
 『Freikugel』の弾丸を穿ち、同時にバフォメットが高らかにハウリングの咆哮を上げる。
 そして、玲斗がレゾナンスグリードの捕縛を付与し、行動を阻害。
 ……2刻の内に、多くのバッドステータスを積み上げられたエインヘリアル。
 かなり、動き辛そうにしている彼へ、ニッと笑いながら。
「ほら、動きが鈍いんじゃないか? それじゃ届かねえぜ?」
 と更なる挑発を仕掛ける藤子。
 当然ながら、更に怒り狂うエインヘリアルであるが……その他の攻撃手段を持って居る訳でも無い。
 そして……戦闘開始から数分経過した、その時。
 その身体は血にまみれ、呼吸も荒い。
 そんなエインヘリアルへ、すっと近づき。
「……貴方の葬送に花は無く、貴方の墓石に名は不要……まあ、安らかに眠ってくれ」
 と『零刻弔』が放たれる、その腕が落下。
 そして。
「我が言の葉に従い、この場に顕現せよ。そは静かなる冴の化身。全てを誘い、静謐の檻へ閉ざせ。その憂い晴れるその時まで……」
 と、藤子の『蒼銀の冴・馮龍』が決まると共に……エインヘリアルは、言葉無く……その場に崩れ墜ちて行った。

●一筋の煌めきと
 そして……エインヘリアルの亡き後。
 動かなくなり、そして消え行く骸に跪く真砂。
「この青年は……助ける事は出来ないのですね……」
 ぽつりぽつり、と紡がれる言葉。
 彼の性格的な所はあったかもしれないが……青のホスフィンによってエインヘリアル化させられなければ、死ぬ事も無かったはず。
 ビルシャナ達とは違い、助ける事の出来ない一般人による犠牲者……自らの手を汚す事無く、利を得ようとするその行動は、真砂にとっては、一番嫌いな行動でもある。
 そして、その傍らですっと跪き、胸で十字を切るバフォメット。
「……さようなら。せめて、その魂に安らかな眠りを……」
 と、神への冥福の祈りを捧げ、彼が苦しまぬ様に言葉を紡ぐ。
 その祈りの言葉に、真砂も軽く手を握りしめる……そして、目を開くと共に。
「青のホスフィンですか。名前、覚えましたよ……」
 と、怒りをその拳に、ぐっと握りしめる。
 ……そして、バフォメットの神への祈りを捧げ終えると。
「それにしても……エインヘリアルの事件が絶えないわね。どうにかして根本から断てれば良いのだけれど……中々難しいのかしらね?」
 空を見上げてバニラがぼやくと、希里笑が。
「そうだね。中々尻尾も捕まえさせてくれないし……尻尾を捕まえて、切っ掛けを掴めれば、多少は事態は変るのかもしれないけどね」
「ええ……まぁ、その為にも、次々と現れるエインヘリアルを、一つ一つ対処為て炙り出すしかないわね」
「うん」
 こくり、と頷く希里笑。
 そして、藤子が。
「まぁ何でもいいわ。ほら、皆、辺りの後片付けが残ってるわよ?」
 と言うと、禊と玲斗は。
「……そうですね……街の人達が……安心出来る様に……しないと……」
「流石に繁華街ど真ん中で暴れられてしまったものね。まぁヒールグラビティがあるからこそ、そこまで大変ではないけれど」
「……ええ」
 こくりと頷き、そして周囲の後片付けを一通り実施。
 大方済んだ後に、藤子が。
「さて、と。それじゃなんか美味しいものがあれば、買って帰るとしましょうか」
 と提案すると、罪剱が。
「……そうだな。それ位はいいだろうさ」
 と頷き、そしてケルベロス達は、その場を後にするのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。