
●某教会
「俺は常々思うんだ! 一年中、冷やし中華が食べたい、と! だって、そうだろ! どうして、夏だけなんだ! 夏しか食べちゃいけない法律なんてないだろ? それなのに、どうして冷やし中華だけ……。かつては肉まんも冬だけだった。おでんだって、そう。だが、今は違う。いつでも食べる事が出来る。好きな時に、好きな場所で! それなのに、冷い中華だけ冷遇されているのは、何故だ! 俺には、どうしても納得する事が出来ない! だからこそ、俺は言いたい! 一年中、冷やし中華を食べる事こそ至高である、と!」
羽毛の生えた異形の姿のビルシャナが、10名程度の信者を前に、自分の教義を力説した。
ビルシャナ大菩薩の影響なのか、まわりにいた信者達は、ビルシャナの異形をまったく気にしていない。
それどころか、信者達は何かに取り憑かれた様子で、狂ったように冷やし中華を食べるのであった。
●都内某所
「ルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)さんが危惧していた通り、ビルシャナ大菩薩から飛び去った光の影響で、悟りを開きビルシャナになってしまう人間が出ているようです。悟りを開いてビルシャナ化した人間とその配下と戦って、ビルシャナ化した人間を撃破する事が今回の目的です。このビルシャナ化した人間が、周囲の人間に自分の考えを布教して、信者を増やそうとしている所に乗り込む事になります。ビルシャナ化している人間の言葉には強い説得力がある為、放っておくと一般人は信者になってしまいます。ここで、ビルシャナ化した人間の主張を覆すようなインパクトのある主張を行えば、周囲の人間が信者になる事を防ぐことができるかもしれません。ビルシャナの信者となった人間は、ビルシャナが撃破されるまでの間、ビルシャナのサーヴァントのような扱いとなり、戦闘に参加します。ビルシャナさえ倒せば、元に戻るので、救出は可能ですが、信者が多くなれば、それだけ戦闘で不利になるでしょう」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が、教室ほどの大きさがある部屋にケルベロス達を集め、今回の依頼を説明し始めた。
「ビルシャナは破壊の光を放ったり、孔雀の形の炎を放ったりして攻撃してくる以外にも、鐘の音を鳴り響かせ、敵のトラウマを具現化させたりするようです。信者達を説得する事さえ出来れば、ビルシャナの戦力を大幅に削る事が出来るでしょう。ただし、信者達は冷やし中華を食べる事を優先するかも知れません」
そう言ってセリカがケルベロス達に資料を配っていく。
「また、信者達はビルシャナの影響を受けているため、理屈だけでは説得することは出来ないでしょう。重要なのは、インパクトになるので、そのための演出を考えてみるのが良いかもしれない。また、ビルシャナとなってしまった人間は救うことは出来ませんが、これ以上被害が大きくならないように、撃破してください。それでは、よろしくお願いします」
そして、セリカはケルベロス達に対して、深々と頭を下げるのであった。
参加者 | |
---|---|
![]() 弓曳・天鵞絨(イミテイションオートマタ・e20370) |
![]() シェリー・シュヴァイツァー(花紬の氷晶姫・e20977) |
![]() ルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360) |
![]() ウェイン・デッカード(鋼鉄殲機・e22756) |
![]() 尽影・ユズリハ(ロストブレイズ・e22895) |
![]() 神桜木・光理(雷光剣理・e36081) |
![]() 斬崎・冬重(天眼通・e43391) |
![]() 柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471) |
●教会前
「なんとも説得し難い教義を持ってくるビルシャナと信者だな!? 俺は冷やし中華は好きだ、特に胡麻だれ。最近は娘も作ってくれるんだ。だが、そこは置いておいて説得をせねばなるまい」
斬崎・冬重(天眼通・e43391)は複雑な気持ちになりながら、仲間達と共にビルシャナが拠点にしている教会の前にやって来た。
ビルシャナは一年中冷やし中華が食べたいと訴えているだけあって、教会の外観も中華料理店風で、『冷やし中華あります!』と力強い文字で書かれた張り紙が貼られていた。
「確かに、冷やし中華はいけるからな」
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)が、ヘリの中で食べた冷やし中華の味を思い出す。
信者達を説得するため、試しに食べてみたのだが、ビルシャナ達が虜になるのも、何となく納得する事が出来た。
「……とは言え、冷やし中華って、夏の名物よね。アイスならいいけど、暖かい部屋で冬に冷たい食べ物を食べるのは遠慮したいわね。冬ならパスタやラーメン食べればいいのに……」
ルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)が、苦笑いを浮かべる。
「夏だから良いのに。冬に冷たいもの食べても、ねえ……?」
シェリー・シュヴァイツァー(花紬の氷晶姫・e20977)も、納得した様子で答えを返す。
どちらにしても、冷やし中華は夏場に食べるから美味しいのであって、それ以外の時期に食べても美味しさが半減してしまうと言うのが共通の考えのようである。
「私も好きだが夏に食べるのが一番美味しいな。料理には旬というものがあり、一番美味しく食べることこそ、冷やし中華を愛するという事だろう。まあ、それで納得できなかったせいで、こんな事になっているのかも知れないが……」
尽影・ユズリハ(ロストブレイズ・e22895)が、何処か遠くを見つめた。
もう少し柔軟な考えを持っていれば、こんな事にはならなかったが、ビルシャナと化すほどアレな人物だった以上、これも仕方のない事なのだろう。
「別に冷遇はされてないですよね。需要の問題だけで……。でも、そういえば冷やし中華って冬には無いかもしれませんね。スーパーとかコンビニとかでも……」
神桜木・光理(雷光剣理・e36081)が、ボソリと呟いた。
あまり気にしていなかったが、冬場には見かけないような気が……する。
「定食屋等で食べたいなら兎も角、スーパーなどで冷やし中華の生麺は年中売っている気もするでございますが……」
弓曳・天鵞絨(イミテイションオートマタ・e20370)が、その言葉を否定した。
もしかすると、売っている事は売っているものの、何処でも気軽に買えるレベルではないのかも知れない。
「おそらく、その事実に気づいていないんだろうね、この様子だと……」
そう言ってウェイン・デッカード(鋼鉄殲機・e22756)が、仲間達を連れて教会の中に入っていった。
●教会内
「おお、よく来たなッ!」
ビルシャナがケルベロス達の存在に気づいて、上機嫌な様子で声を上げた。
まわりにいた信者達も愛想笑いを浮かべ、ケルベロス達を席まで案内し、手慣れた様子で冷やし中華を並べていく。
それは『ここに入った以上、冷やし中華を食べるのが常識』と言わんばかりの雰囲気だ。
その証拠に他の信者達も席に座って、美味しそうに冷やし中華を食べていた。
「すごく単純な話なんだけど、寒い時期に冷やし中華食べても、美味しくないのよ。例えば、きゅうりとか、体を冷やす作用があるでしょ? 食べたら体も冷えちゃうし……。あと、アレって夏の野菜ですから、冬場に食べても美味しくないのよ。温かい食べ物なら味も誤魔化せるんだけど、冷たいものになると難しいの。わざわざ、まずーい冷やし中華を食べたいの? それって本当に、冷やし中華を愛してるって言えるのかなー?」
シェリーが問題点を口にしながら、冷やし中華を口にした。
その味は……普通に美味い、美味である。
「どうだ、美味いだろ? 俺達だって、冷やし中華にはこだわりがある。故に、その時々に一番美味いヤツを使っている。だから、美味いッ! 金に糸目をつけず、冷やし中華の美味さを追求した結果が……コレだ!」
それに気づいたビルシャナが、自信満々に語っていく。
もしかすると、ビルシャナによって洗脳されているせいで、美味く感じているのかも知れない。
だが、洗脳されているかどうか知る術は、今のところ存在していなかった。
「ところで、日本には四季があるんだけど、知っているかな? 僕は最近知ったんだけど、その季節にあったものを食べたり、見たりして、季節感……って言うものを感じるらしい。……風流だよね。自然と一緒に生きている、という感じがして僕は好きだけど……。君達は? そもそも日本人じゃないのかな? ……悲しいね、この気持ちを理解できないなんて……。日本にいるのに、とてももったいないことをしていると思うよ。今からでも遅くないから、季節感じていかない?
それはそれとして僕はつけ麺が好きだから、別に冷やし中華はいいや」
ウェインがビルシャナ達に語り掛け、冷やし中華を手渡した。
「おい、お前! ここに来て、冷やし中華を食べないとは……。銭湯に行って、牛乳を飲んで帰るようなものだぞ! あ、あり得ないぞ、本当に……!」
その途端、ビルシャナが驚いた様子で声を上げる。
既に、季節感など、どうでも良くなっているのか、その質問に答えるつもりはないようだ。
「ねえ、話を聞いてた? 冷やし中華は夏限定だからこそレアリティがあるのに、一年中食べれたら、マンネリ化するわよ。 それに、暖かい部屋でも冬に冷たい麺は辛いわよね? 冷やし中華の具も、体を冷すのが多いし……。だから、パスタや暖かいラーメンの方が美味しいわ」
ルリィがビルシャナ達に対して、カルボナーラを振舞った。
「ふざけるなァ! こんなモノが食えるかァ!」
ビルシャナが殺気立った様子で、キィシャーッと叫び声を響かせた。
それとは対照的に、まわりにいた信者達は興味津々だったようだが、ビルシャナの目があるせいか、みんな引き気味である。
「いいか、お前達……。冬に冷やし中華は合わない。常識的に考えてそう思わないか? 常識的に考えられないから、そちら側にいるのか、信者よ。冷やし中華なんて冬に食べたら震えて震えて仕方ない。温めたら『あっため中華』で、単なるラーメンもどき、美味しくもなんともない。想像してみてくれその絵面、俺は勘弁願いたいスイカだって夏食べるからこそいい、食べ物というのには旬がある。その事実をそろそろ理解したら、どうなんだ?」
冬重が呆れた様子で、ビルシャナ達に視線を送る。
「確かに、どんな食べ物にも旬がある。だが、俺は……それでも……冷やし中華が食べたいんだああああああああああああああ!」
ビルシャナが駄々っ子オーラを身に纏い、魂の雄叫びを響かせた。
まわりにいた信者達も『その通りだああああああああ!』と言わんばかりに、雄叫びを上げる。
「そこまで言うなら、ラーメンさんにちゃんと需要で勝ってから言ってくださいっ。しょせん夏限定のなんちゃってラーメン扱いだから一時的にしか扱われないんですっ。ラーメンと冷やし中華ならラーメン。これが世の常識なんですっ!」
光理がビルシャナ達をからかうようにして、皮肉混じりに呟いた。
「光理……。いや、なんでもない」
ウェインも『いつものキャラと違う気が』と思いつつ、軽く動揺した様子で光理に発しようとしていた言葉を飲み込んだ。
「何か勘違いをしているようだが、それは違うッ! 実際にはラーメンが冷やし中華の存在を恐れ、その売り上げを制限したのだから……!」
ビルシャナが俺様路線全開で、ラーメン陰謀説をぶち立てた。
もちろん、単なるでっち上げ。
そんな事実は微塵もないのだが、とにかく自信満々なせいで、いかにも事実のような雰囲気が漂っていた。
「年がら年中販売中にも関わらず、夏以外ほぼ食べられない素麺を見ても、そう言えるでございますか? 素麺も美味しいのに夏以外食べられないのは、冷やし中華以上におかしいと思うでございます」
天鵞絨がキリッとした表情を浮かべ、ビルシャナ達をビシィッと指差した。
「うぐぐ……、素麺など敗者ッ! 戦いに負けた哀れなピエロだ!」
ビルシャナが冷やし中華の事は棚に上げ、素麺の存在を頭ごなしに否定した。
まわりにいた信者達もノリと勢いで何とかなると思ったのか、『そうだ、そうだ!』と連呼した。
「まあ、自分で作っている分、マシな気もするが、ここまでこだわる必要があるのか? それだけを食べる必要が……!」
ユズリハが腑に落ちない様子で、ビルシャナ達に問いかけた。
ビルシャナ達がいかに冷やし中華を愛しているのか、十分に理解する事が出来たものの、それだけを食べる理由としては弱い感じである。
「ああ、そう思ってしまう程、冷たい中華は美味いッ! 美味過ぎるから、これだけを食べる価値があるッ!」
ビルシャナが拳をギュッと握り締め、キッパリと言い放つ。
まわりにいた信者達も冷やし中華を頬張りながら、『そうだ、そうだ』と連呼した。
「だからと言って、一つのものばかり食べて、チャレンジしないのはもったいないぜ。食に限らず、ある程度のこだわりはいいが、行きすぎると他のものを全く知らないってなる。知らないと、語れるものが少なくなる。要は人間としての幅がなくなっちまう。健全な精神は健全な肉体にのみ宿るじゃねえけどさ、お前さん達……同じものばかり食ってると肉体も精神もダメになるぜ」
それでも、まったく気にせず、鬼太郎がビルシャナ達に意見を述べる。
「うるさい、黙れ! 冷やし中華を否定する奴など、この世に存在する価値などないッ!」
次の瞬間、ビルシャナが怒りを爆発させ、まわりにいた信者達を嗾けた。
●ビルシャナ
「自分の考えが通らないからって、暴力に訴えるなんて……最低ですッ!」
光理が嫌悪感をあらわにしながら、信者達を迎え撃つ。
信者達は冷やし中華とケルベロスを交互に見た後、どうするべきか悩んでいるようだった。
「ええい、何をやっている! 後で腹いっぱい食わせてやるから、早く殺れえええええええええ!」
それに気づいたビルシャナが、信者達を蹴り上げていく。
そのため、信者達も冷やし中華を食べずに、半ばヤケになりながらケルベロス達に攻撃を仕掛けていった。
「そんなパンパンになった腹で、俺達を倒せると思っているのか?」
冬重がゲンナリした様子で、信者達に手加減攻撃。
これには信者達も『うぷっ』と口を押さえ、必死に吐き出さないようにしながら、青ざめた表情を浮かべて床に突っ伏した。
「そこまで冷やし中華が好きなのも、ちょっと……」
シェリーもドン引きした様子で、信者達に手加減攻撃を放っていく。
信者達は頑張る気持ちだけはあるものの、身体の方が悲鳴を上げ、次々と地面に突っ伏した。
「お前等、冷やし中華の喰い過ぎだあああああああああ!」
これにはビルシャナも腹を立て、何やら矛盾した事を口にした。
「さあ、懺悔の時間だ」
その間にウェインが手加減攻撃で信者達を倒し、ビルシャナの逃げ道を塞ぐ。
「それ以上、こっちに来るなァ! それ以上近づけば、痛い目に遭うぞ!」
ビルシャナが全身の羽毛を逆立て、警告混じりに呟いた。
実は単なるハッタリではあるのだが、綿アメ並みに柔軟な脳ミソで、何か逃げる方法を考えているようだ。
「近付かなけりゃあ、安全だとでも思ったのかよ!」
すぐさま、鬼太郎が得物を力一杯振り下ろし、突風を発生させてビルシャナの身体を切り裂いた。
「グギャアアアアアアアア! そんな馬鹿なァ!」
ビルシャナは予想外の攻撃に驚きつつ、傷口を庇いながら後ろに下がっていく。
「どうせなら冷やし中華に鶏のから揚げをトッピングしたいわね」
ルリィが含みのある笑みを浮かべ、ズタズタラッシュでビルシャナの羽毛を毟る。
「い、一体、何を考えている!?」
それだけでビルシャナがすべてを察し、慌てた様子で逃げ道を探す。
どちらにしても、このままでは勝ち目がない。
勝ち目がないなら逃げるしかない。
綿アメ的な脳こそが導き出した答えが、それだった。
「それでは、これでおしまいだ」
次の瞬間、ユズリハがビルシャナを蹴り上げるようにして、グラインドファイアを放つ。
「グギャアアアアアアアアアアアア!」
その一撃を食らったビルシャナが、こんがり唐揚げの匂いを漂わせ、床に落下した後、動かなくなった。
「売ってあるラーメンや、つけ麺の生麺に冷やし中華の盛り付けをすれば冷やし中華と言えなくもないでございます。まあ、それが嫌なら夏まで我慢するでございますよ。まあ、それが無理だったせいで、こんな事になってしまった事は明白でございますが……」
そう言って天鵞絨が複雑な気持ちになりつつ、ビルシャナの死体を見下ろした。
作者:ゆうきつかさ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2018年4月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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