累乗会反攻作戦~陽動と隠密と

作者:緒方蛍

 集まった顔を見るや、御門・レン(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0208)は口を開いた。
「シルフィディア・サザンクロスさん、軋峰・双吉さん、大成・朝希さん、アビス・ゼリュティオさん、フィオ・エリアルドさん、館花・詩月さん達の調査活動によって、菩薩累乗会を行っている、菩薩達の動きを見つける事ができました」
 驚くべきことに、これまでの菩薩累乗会を引き起こしていた4体の菩薩は、ビルシャナの占領地である、埼玉県秩父山地、青森県上北郡おいらせ町、宮崎県高千穂峡、岩手県奥州市胆沢城を拠点として、占領地に『精舎』を建立しようとしているのだという。
「ビルシャナに占領された地域に『精舎』が建立されてしまえば、難攻不落の拠点となる上、なんらかの大規模儀式の拠点となる事が予測されます。これを防ぐ方法は、大規模なミッション破壊作戦を行うしかありません」
 現在使用可能なグラディウスを全て使い切り、ビルシャナの占領地を強襲。その後、 精舎建立中の菩薩の撃破を目指すのが、今回の作戦となるという。
 ミッション地域は次の通り。
「ひとつ、埼玉県秩父山地。自愛菩薩、エゴシャナ、幻花衆、輝きの軍勢、ちっぱい絶対殺す明王との戦いになります」
 次は。
「ふたつ、宮崎県高千穂峡。恵縁耶悌菩薩、デラックスひよこ明王、幻花衆、輝きの軍勢、アヴァリティアとの戦いになります」
 そして。
「みっつ。岩手県奥州市、胆沢城。闘争封殺絶対平和菩薩、カムイカル法師、幻花衆、輝きの軍勢、鳳凰光背武強明王との戦いです」
 最後に。
「よっつ、青森県上北郡おいらせ町。芸夢主菩薩、ケルベロス絶対殺す明王、幻花衆、輝きの軍勢、フリーダムビルシャナとの戦いになります」
 日本各所に散らばったミッション地域。点在しているため、参加する全ケルベロスが一緒に戦うというわけにはいかない。
「確実に破壊するには、埼玉県秩父山地で3チーム、青森県上北郡おいらせ町は9チーム。宮崎県高千穂峡と岩手県奥州市、胆沢城は12チームが必要となります。チーム数が1/3の場合でも50%の確率で破壊が可能で、チーム数が多い程、破壊の確率が上昇します」
 レンはさらりと長い髪を揺らす。
「今回の作戦は、グラディウスによるミッション破壊を成功させ、敵が混乱している隙をついて、菩薩撃破を目指すというものになります。菩薩の周囲には、菩薩直属のビルシャナ達と、協力組織のデウスエクスがいるため、更に陽動作戦などを行って混乱を助長し、菩薩の周囲から戦力を引き離す必要があります」
 そして、と情報を付け足してくれる。
「1地域につき10チーム以上の戦力を集中させる事ができれば、7割以上の確率で菩薩の撃破が可能となるはずです。菩薩の撃破確率は、チーム数と連携の内容が大きく影響しますので、確実な撃破を目指す場合は、戦力の集中が重要かもしれません」
 10チーム未満の戦力では菩薩撃破の可能性は大きく下がってしまう、とレンは言う。
 派手に攻め込み、敵の防衛戦力を引き付けるチーム、隠密行動で菩薩に攻撃をしかけるチーム。その2チームを作り、連携していかねば作戦の完全遂行はできないだろう。
「ビルシャナの菩薩達の動きを調査してくれた皆の為にも、この作戦は成功させたいですし……そうでなくても、菩薩累乗会は、ここで阻止しなければ恐ろしい災厄となります。また、今回グラディウスを大量投入することで、暫くの間はミッション破壊作戦を行うことはできなくなってしまいますが……、この作戦を阻止するためには、やむを得ないですね」
 未来はあなたたちの手に掛かっています、とレンは真摯な目でケルベロスたちを見つめた。


参加者
シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)
パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)
ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
コンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)
機械式魔導少女・壱百五号(遊撃の機士・e42377)

■リプレイ


 宮崎県高千穂峡。古、天孫降臨したもうたと伝説があるこの地、跋扈しているのはビルシャナ。累乗会を行いて精舎を建てようと目論んでいる輩の野望を打ち砕かんと立ち向かう者たちをケルベロスと呼ぶ。
 今この高千穂峡の一角には8人のケルベロスが潜んでいた。彼らの狙いは、敵の只中で派手に暴れて目を引き付け、他にこの地に潜入している仲間の内、隠密に敵のボスを狙う者たちの援護――つまり陽動だ。引き付ける数は多ければ多いほどいいが、多すぎてはこちらがピンチになる危険性もある。だからといって加減をして隠密班が事を成せないのは困るので、全員が全力で行くべく、士気を上げていた。
「大丈夫、道は合っていますわ」
 位置情報を元に、シエル・アラモード(碧空に謳う・e00336)が頷く。
「このまま、まっすぐ……」
「グレインのおかげで歩きやすいのだ!」
 パティ・パンプキン(ハロウィンの魔女っ娘・e00506)が先頭を行くグレイン・シュリーフェン(森狼・e02868)に笑みかける。グレインは頬を掻き、少しはにかんだ。
「『隠された森の小路』を使ってだけさ。ロナも使ってくれてるし」
 ちらりと最後尾を行くロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)を振り返る。
 ロナはにこりと微笑んだ。
「やくにたった……?」
「歩きやすいであります。ありがたいであります」
 機械式魔導少女・壱百五号(遊撃の機士・e42377)が足許を避けてくれる植物たちを見ながら感謝する。
「ああ、たしかにね。これだけ草が生い茂っていたら、ちょっと歩くのが面倒だったろうな」
 目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)が頷くと、並んで二人で歩いていたファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)とコンスタンツァ・キルシェ(ロリポップガンナー・e07326)も頷いた。
「……見えましたわ」
 シエルの言葉に、さっと緊張が走る。素早く木々の影などに身を隠すと、各自がシエルが指さしたほうを注視した。
 またしても二人一緒に木の陰に隠れたファルケとコンスタンツァは、何事か耳打ちしあっている。どうやら戦いに勝って帰った時のことを話しているらしい。
「……約束っすよ」
「二人で無事に帰ったら、ね?」
 この場にリア充爆発しろという教義のビルシャナがいれば話がややこしくなっただろうが、幸いにしてそんな主義主張を持っている者もビルシャナもいなかった。


 戦闘の口火を切ったのはロナだった。
「戦乙女は無関心。その身が砕けて燃え尽きても、轡なんてもう無意味」
 普段のおっとりとした喋り口とは打って変わって、なめらかな彼女だけのグラビティを発動させていく。
「全て壊して、灰にして、そこには草木も花も、乙女すらも残らない……」
 光に包まれ現れたのは、鎧を纏う戦乙女。ロナが定めた敵、幻花衆の数名の中へと一直線に向かい、武器を振るう!
 派手な音を立てて幻花衆の1体の身体が跳ねたのが見て取れた。『狂乱せし軍勢の戒め(ラーズグリーズベルセルク)』の威力に幻花衆数名と、周囲にいた輝きの軍勢、デラックスひよこ明王がこちらに気付く。その時には真がヒールドローンで前衛の者たちに盾アップを付与、それを受けて飛び出したのはファルケとコンスタンツァだ。
「スタン、行くよ!」
「了解っす! これでも喰らえっす!」
 声を掛け合うと、それぞれ制圧射撃、サイコフォースを派手に叩き込みつつ、敵集団をこちら側へと誘導していく。
 上手く引っかかった敵の何人かがこちらへやってくるのが見えた。
「妖精さん、妖精さん。どうか、わたくしに教えてくださいませ」
 詠うように諳んじたシエルの言葉にはグラビティが込められていて、彼女の耳許で囁く妖精がそっと離れるや、力はまっすぐと先頭の幻花衆に叩き込まれる!
「グアアアッ」
 先程ロナの攻撃がクリティカルヒットした幻花衆だったらしく、同じくクリティカルヒットしたシエルの攻撃により打ち砕くことに成功する。
 引き付けた敵は8体、プラスでデラックスひよこ明王。恵縁耶悌菩薩はどうやら配下の幻花衆に庇われるように行ってしまった。もしかしたら目の前の8体は時間稼ぎなのかも知れないが、陽動班の仕事としては上々だ。
「貴様らに、我々の崇高な目的を邪魔させはしない」
 ひよこの群れを従えた大きなひよこがそうのたまう。愛らしいのにどこか邪悪を感じさせるひよこを、グレインは怒りを込めてキッと睨み付ける。
「それに、自然豊かなこの地で、これ以上勝手なことは許さない」
 自然を愛し、動物たちを護ってきた者として厳しい語調で言う。
 パティも指を明王へ突きつけた。
「これ以上、累乗に増やさせはせぬのだ! パティの……お菓子に賭けて!!」
「まぁ! パティ様はお菓子を賭けるだなんて! ……これは本気ですわね」
 シエルが驚きの声を上げると、パティは「当然なのだ」と肩を竦める。菓子を愛するパティの並々ならぬ気合いと本気を感じさせた。
 そこで、輝きの軍勢の1体が動いた。ポジションで言えばクラッシャーだと思われるそれが長剣から放った一撃はロナを狙っていたが――。
「させるもんか」
 ロナと輝きの軍勢の間に割って入ったのは真だ。彼女を狙った一撃を代わりに受け止め、にやりと笑む。
「オレは皆の盾だ。そして……訳のワカランことを押し付ける連中には鉄槌を下す!」
「さあ……派手にぶちかますぜ!」
 グレインが、おそらく攻撃に移ろうとした輝きの軍勢に気付き、先手を打ってエスケープマインを放つ。
 それにかぶせるように壱百五号がアームドフォートの『302口径轟爆砲「炎神」』、チェーンソー剣の『15年製78式対艦駆動剣「銃剣」』を構え、敵へと突っ込んだかと思うとアームドフォートに火を噴かせ、次いでチェーンソー剣で列ごと薙ぎ払う。
「大丈夫なのだ?」
 先ほどロナを庇った真の傷を、真の相棒・ナノナノの煎兵衛とともにパティが癒す。どうもアサルトで喰らったらしい。思ったより傷は深かったが、癒したお陰で傷は塞がった。
「見た目ほど大したダメージじゃない。大丈夫だ」
「この借りは何倍にもして返すのだ!」
「そのつもりだ」
 真はちらりとロナを見る。彼女が大怪我を負わないで良かった。大人しくて、今も目の前の敵に対して攻撃するのをどこか躊躇って見えるくらい優しいのに、その反面で無茶なことをしでかしそうで、どうにも心配になってしまう。だから咄嗟に庇えたとも言えるのだが。
 もちろん今はそんなことを言う時ではないのだけれど。


 敵の数は多いとはいえ、どれもこれもがボス並の強さというわけではない。ケルベロスたちは各個撃破を目論見、着実に敵の数を減らしていた。もちろんケルベロスたちも無傷ではいられなかったが、かといって戦闘不能になるほどのダメージを負った者はいない。
 しぶといのは、幻花衆4体のうち3体がメディックで、輝きの軍勢4体のうち3体がディフェンダーであるせいのようだった。
 ディフェンディングなら負けないとばかり、パティの相棒・ジャックもシエルを狙った一撃を肩代わりする。素早く回復するのは真の相棒・ナノナノの煎兵衛、反撃するのは壱百五号の相棒・ライドキャリバーのパワーズだ。
 彼らの息の合った活躍に、相方たちも負けてはいられないと発奮する。
「コンビネーションならアタシ達も負けてられないっす!」
 振り返ったコンスタンツァの意を汲み取ったと、ファルケがひとつ頷くと、彼女に向かって腰を低くし、手を腹のあたりで組んで構えて待つ。一度瞬きしたくらいのタイミングでコンスタンツァがファルケの手のひらに片足で飛び乗ると、ファルケは腰と腕を勢いよく上げてコンスタンツァを中空へと飛ばせる。
 見えない足がかりがあるかのようにさらに跳躍すると、くるりと華麗なバク転を披露し、リボルバー銃を構える。
「ほらほら、よそ見はなしっすよ!」
 銃口が火を噴き、敵の前列を焼く。ほぼ命中したことにニヤリと笑めば、怯む輝きの軍勢にファルケとロナが構えていた。
「スタンと一緒だと、僕はちょっとどころじゃなく強いよ?」
 ファルケは恋人を愛称で呼ぶ時には他の者にはわかりづらく嬉しそうにする。
「……ちきゅうの、みんなを……まもるのが、やくめ」
 ロナの言葉はどこか自分に言い聞かせるようでもある。
 そうしてふたりが前後して放ったのは、コンスタンツァの付けた炎のエフェクトに重ねがけしようと、ブレイズクラッシュとドラゴニックミラージュだった。たまたまだろうがふたりとも同じ輝きの軍勢に狙いを定めていたため、それがトドメになる。
「あなたの動き、さらに鈍らせて差し上げますわ!」
 幻花衆によってバッドステータスが解除された輝きの軍勢のクラッシャーに狙いを定めると、シエルが構えていた愛槌・青碧の龍戦槌のモードをチェンジさせ、砲口にさせる。放つグラビティはもちろん、轟竜砲だ。
「あなたたちの好きにはさせません!」
 凛々しくも言い放つシエルに、グレインが大きく頷く。
「この土地、自然……いい加減返してもらうぜ?」
 ちら、とグレインが仲間の一部に視線を走らせる。心得たとかすかに頷く者が何人か。
「……貸してくれ、傷つけないための力を……」
 目を閉じ、周囲の大自然の力を感じる。彼らが自分に力を与えてくれるような気がした。あたたかな息吹を感じるのはグレインだけのグラビティ『自然の護り(エレメントスフィア)』だ。
 この技の発動を隙と見たのか、いきり立った輝きの軍勢と幻花衆が一体ずつ、素早い動作で間合いを詰めてくる。
「知ッタコトカァァァアアア!!!」
 振り上げられた長剣は、しかし振り下ろされることはなかった。
「どこを見ている?」
 高く上げた脚だけで勢いを止め、オレはここだぞ、と不敵な笑みを浮かべたのは真。
「破ッ!!」
 脚を下ろす反動でもう片足を矢のように鋭く、疾く、高く回し――あたかも光の軌跡で敵を打ちのめすがごとき、その蹴りの名は『蹴剣(クルース・カリバー)』という。
「これが……自分の最大火力であります!」
 待っていたとばかり、壱百五号が『轟爆大回転斬り(ゴウバクダイカイテンギリ)』で追撃を与える。ダメージはかなり大きかったはずだが、這いつくばり、なおも戦意を途絶えさせない輝きの軍勢の前に、パティが立ちはだかる。
「お菓子は持っているか?」
 唐突な問いに、かえって輝きの軍勢と幻花衆が何事かとパティを見る。
「お菓子をくれなきゃ悪戯するのだ!」
 当然持っていないことは承知の上。つまり「倒されるのと斃されるの、どっちがいい?」と聞いているようなものだ。
 周囲が途端に幻想に変わって見えた。季節外れの、ハロウィンの街並みのような。どんな魔術が、と疑い、訝しむヒマなどない。これこそパティだけのグラビティ『Halloween Party(トリック・オア・トリート)』だ。
 彼女の背後に現れた大きなジャック・オ・ランタンが、死神のような鎌を持つ。パティが持つ鎌は、その写し身のようですらある。
「はあああっ!」
 気合い一閃。振るった鎌は輝きの軍勢を切り裂いた。
 なおも立ち上がろうとする彼らの前に立ちはだかったのは、同じように鎌を手にしていたロナ。
「……さようなら……」
 シンプルな、けれどデウスエクスの生命を終わらせることを断言する言葉。
 ギロチンフィニッシュを避けられもせず、最後の輝きの軍勢を刈り取って終わった。


 戦闘の痕跡以外が消えた場所で、ロナは大きく息を吐く。
 その様子をパティが見ていた。
「どうしたのだ? 疲れたのか? パティのお菓子を食べるか?」
「ううん……だいじょぶ」
「無理をしてはいけませんわ」
「ゆっくりするのは、ひとまずここを脱出してからにしようか」
 あたりに警戒の目を向けつつ、真がパティ、ロナ、シエルの3人に言う。
 そう、まだここは戦場で、今の派手な戦いで他の連中もおびき出されてくれるかもしれない。それでこそ、陽動としての務めも果たせるのだが。
「そうだな、ひとまずここから撤退して……一応信号弾も上げておこう」
「あっちの方角から抜けるのが良さそうであります」
「行こうか、スタン」
「最後まで気は抜けないっすね」
 皆が頷き合い、その場を速やかに後にする。他班の信号弾も確認しつつ、安全と思われる道を進んだ。

作者:緒方蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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