累乗会反攻作戦~全てのグラディウスを掲げよ

作者:ハッピーエンド

「皆さん、遂に菩薩累乗会の動きをつかむことに成功しました。
 情報をつかんでくださったのは、シルフィディア・サザンクロスさん、軋峰・双吉さん、大成・朝希さん、アビス・ゼリュティオさん、フィオ・エリアルドさん、館花・詩月さん達です。
 この報告によれば、菩薩達は『精舎』を建立しようとしているようです。
 対象となる地域は4地点。『埼玉県秩父山地』、『青森県上北郡おいらせ町』、『宮崎県高千穂峡』、『岩手県奥州市胆沢城』。
 もし、これらのビルシャナ占領地に精舎が建立されてしまうと、難攻不落の拠点となる上に、なんらかの大規模儀式の拠点となってしまうことでしょう。
 これを防ぐためには、こちらも大掛かりなミッション破壊作戦で対抗するしかありません。
 私たちは、現在使用可能なグラディウスを全て使用し、ビルシャナの占領地を強襲します。ことがうまくいった暁には、 菩薩を撃破するチャンスが訪れるでしょう。反撃の時です」
 そう言うと、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はグッと力を込めた。
「確実にミッション地域を破壊するために必要となるチームの数は、『埼玉県秩父山地』が3チーム、『青森県上北郡おいらせ町』が9チーム。『宮崎県高千穂峡』と『岩手県奥州市、胆沢城』は12チームと試算されています。
 それだけの部隊が用意できなかったとしても、チーム数が1/3に満ちていれば50%程度の確率は見込めます。
 無事ミッション破壊が成功すれば、いよいよ菩薩を強襲。ですが、失敗した場合は撤退作戦となります。
 菩薩は先に説明した4ヶ所のミッション地域に現れ、それぞれ多くの敵軍勢を守護として抱えていることが分かっています。撃破を目指す場合は10チーム以上の戦力を集中させ、うまく連携する必要があるでしょう」
『連携というと、陽動と強襲かな?』。手を上げたケルベロスに、セリカは頷いた。
「陽動作戦を行い、菩薩から護衛を引き離すチームと、隠密行動を行い菩薩に強襲を仕掛けるチーム。この2手に分かれて連携することが、菩薩撃破の鍵となります。
 陽動部隊は、うまく敵を引きずり回し、可能ならば各個撃破を行った上で、ミッション地域から撤退する事が任務となります。あくまで菩薩と引き離すことが目的ですので、全ての敵と戦う必要はありません。
 引き付けきれなかった敵は、そのまま隠密部隊が菩薩と共に相手をすることになりますので、陽動チームがどれだけ敵の戦力を引き付けられるかは重要です。
 敵は『より派手な攻撃を行っているチーム』に殺到してくる傾向がありますので、どのように注意を引くか。腕の見せ所ですね。
 隠密部隊が途中で敵に発見された場合、迎撃されて菩薩のところまで辿り着く事はできなくなってしまいますので、その点でも陽動部隊が多くの守備を引き付けることは価値のある行動です。
 菩薩の撃破は、1地域につき10チーム以上の戦力を集中させる事ができれば、7割以上の確率で可能となるはずです。
 撃破確率はチーム数と連携の内容が大きく影響しますので、確実な撃破を目指す場合は戦力の集中が重要かもしれません。
 10チーム未満の戦力では菩薩撃破の可能性は大きく下がってしまいます。戦力的に撃破が不可能という場合は、残念ですが撤退を選ぶ必要もあるかもしれません」
 セリカは説明を終えると、真剣な瞳でケルベロス達を見つめた。
「陽動と隠密。2つの連携が作戦の成否を分けるでしょう。菩薩累乗会はここで阻止しなければ恐ろしい災厄となってしまうかもしれません。この作戦、必ず成功させましょうね」
 そして深々とお辞儀をしたのだった。


参加者
ラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199)
ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)
月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎・e15316)
ヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676)
岩櫃・風太郎(閃光螺旋の紅き鞘たる猿忍・e29164)

■リプレイ


「後の影響も大きいだろう戦だ。お互い派手に暴れてやろうぜ!」
 漆黒に身を包んだ最年長の男、雪村・達也(漆黒纏う緋色の炎・e15316)の鼓舞と共に、ヘリオンから次々と人影が舞い降りた。
 周りを見れば、他の部隊も次々と降下している。総勢96人。12部隊の流星。
 風斬り音を纏い、それぞれの想いを込めた一撃が、雷光と爆炎を撒き散らし、魔空回廊を震わしていく。
「カルトのような教義の押し売りも今日までだ! 自分の道は自分たちで決める! 焼き討ちさせて頂く!」
 碧い髪の乙女、ソロ・ドレンテ(胡蝶の夢・e01399)が激烈な爆炎を刻みつけ、
「私は守るために強さを求めて戦う! なにも無い強さなんかに負けたりしない!」
 黒髪の乙女、月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)が雷光を打ち付ける。
「平和の為に握ったこの拳が争いを招くのだとしても! 地球の平和を脅かす貴様等を殴り殺す事は躊躇せぬ!」
 ニホンザル型ウェアライダー、岩櫃・風太郎(閃光螺旋の紅き鞘たる猿忍・e29164)の巨躯が揺れ、
「そこは元々俺達のモンだ。いつまで我が物顔で振舞ってやがる! いい加減返してもらうぞ!」
 達也の右腕から、地獄の炎が猛々しく踊った。
 その衝撃たるや天地鳴動。轟音が鳴り響き、上空は龍の巣のように荒れ狂う。
 ミッション破壊は成功。8人はそれぞれグラディウスを大事そうに身に着けると、次なる任務へ移った。すなわち菩薩の撃破。その陽動。
 雷煙の中、二つの影が正面から敵の上空へと滑空して行った。赤茶けた短髪の男、峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)と、その身体を持ち上げ飛行する、特徴的なゴーグルを身に着けたヒスイ・ペスカトール(銃使い時々シャーマン・e17676)。
 雅也は息をスゥッと吸い込み、
「闘争封殺絶対平和菩薩くーん!! あーそびーましょー!!」
 声の限りに叫んでみせた。
 薄くなっていく煙の中、敵がその姿を確認する。
 まず飛んでいる奴。体中に電飾を纏っているゴーグル男。そして大声で叫んだであろう奴。光るメガネに、眩く光るサイリウムをタスキのように繋いで身に着けている。
 呆気。敵は言葉を失った。
 その反応を見て、ヒスイが顔を真っ赤にしながら雅也に抗議する。
「ドン引きじゃねーか!」
「そんなことないさ。似合ってるぜ!」
 菩薩のような声でサムズアップする雅也。
「ありがとよ! お前も似合ってんぜ!」
 ヒスイはヤケクソ気味に答えた。
 ザワつき乱れる敵の前に、高貴な翼が舞い降りた。ラハティエル・マッケンゼン(マドンナリリーの花婿・e01199)。黄金胸甲を身に纏い、ロイヤルブルーに染まったマントをはためかせている。
「私のカンネー、私のワーテルロー、私のノルマンディー……激戦よ、今こそ私を満足させてくれ!」
 グラディウスを掲げ大声で叫ぶと、愛用のカタナソードを構え、勢いよく突撃を開始した。
 その後ろから、味方を突出させぬように影が続く。長身揃いのメンバーの中でも、一際大きく、彫りの深い顔をした男。リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)。
「欺瞞に満ちた教義と偽りの救済で人心を惑わし、異形へと変えるビルシャナの所業、決して許すわけにはいかん。貴様らの企みも今日が最後と知れ……!」
 その口上が、敵の心にさざ波を作る。
 風太郎は体に括り付けたミニラジカセから、『グラディウス』を大音声で流していた。歌詞に合わせ、携帯するミラーボールで敵の目をつぶして回る。
「我等は地球の守護者ケルベロス! 闘争封殺絶対平和菩薩の首を頂戴しに参った! 行く手を阻むのならば闘争の果てに討ち取る所存!」
 闘争という言葉を聞きつけ、好戦的な鳳凰光背武強明王の瞳が怪しく光った。
 友が大物の注意を引いたことに気づいたのは、漆黒の男。
「正義の味方の登場だ! 全員まとめてぶちのめしてやるぜ!」
 達也はその拳を力強く大地に叩き付けると、力を汲み取るようにアルティメットモードで変身した。地獄の炎が逆巻き、力強くヒーローのように胸を張る。
 その横で漆黒の乙女が、愛用のバトルガントレットを構えた。
「やぁやぁ! われらはケルベロス! 君たちの大将の首をもらいに来たよ。いざ勝負!」
 割り込みヴォイスを活用する京華の声は、良く響く。
 臨戦態勢を取った2人の姿を好まし気に見た明王は、腕を鳴らし、こちらも臨戦態勢を整えた。京華が跳んだ。
「鉄拳制裁!」
 宙返りをしながら反動をつけると、地面を抉るように蹴りつけ、一足飛びに懐へ。全力の一撃を叩きつける。
「むぅ!」
 クロスガードで受けた明王は、嬉しそうに笑みを零した。
「さぁ親玉を獲って、焼き鳥パーティーといこうぜ!!」
 空中から降りてきた電飾男が、割り込みヴォイスを活用してダメ押しに叫んだ。
 一緒に地上へ降りていたサイリウム男は、流れる音楽にノリながらダブルジャンプで目立つように跳び回り、煽るように合いの手を入れていく。
 ソロの放った大量のミサイルが大爆発を巻き起こし、ざわついていた敵は明王につられるように戦いの構えを取った。気がつけば戦況は8対8。引き付けられるだけ敵を引き付けることに成功していた。


「敵の攻撃が多すぎるだろ!」
 唯一のMdであるヒスイが、爆発を巻き起こしながら悲鳴を上げていた。
 なかなか経験したことのない戦いが、番犬を待っていた。敵が連携を組んでくる。多角的な攻撃は味方だけのものではなく、鎌の攻撃をいなしている後ろから螺旋手裏剣が飛来する。
「まぁそう言うなって。俺たちもフォローするからさ!」
 回復手を護るように、雅也が身体をひねった。
 明王の放った炎に覆われる前衛から、一つ飛び出した影がある。
「胸に燃える不滅の焔は天下御免のフラムドール、人呼んで黄金炎の天使ラハティエル!」
 金髪の天使が、明王めがけ蹴り足を上げた。
 咄嗟に幻花衆が割り込み、ディフェンスの構え。
(「なるほど」)
 そのまま胴を狙うと見せかけ、顎を砕く。思わず幻花衆がたたらを踏んだ。
 達也が仲間に目配せする。まずはあのDfを落とす。
 風太郎がニッと笑いながら敵陣に飛び込んでいった。
 乱れ飛ぶ手裏剣をかいくぐり、幻花衆の懐へ。
 法師の掌が閃光を放った。
「ぐっ!」
 身を挺したリューディガーの身体が弾け飛ぶ。
「風さん、今だ!」
「かたじけない!」
 幻花衆の虚を突くように脚下から背後に回った風太郎は、振り向きもせず幻花衆を銃撃で弾き飛ばした。
「ナイスパス!」
 ソロが禍々しい闇の拳でメキメキっと敵を叩き付けると、
「ナイスパスだね」
 京華のブラックスライムが大口を開けて、敵を呑み込んだ。
「フッ。美しい連携だ! 我が鮮朱の炎こそ、殲滅の焔! 揺らぐとも消えないその劫火は……地獄の中でも、燃え続ける!」
 ラハティエルの放った灼熱の炎が、拘束された幻花衆を一息に焼き尽くす。
 敵に緊張がはしった。
「何人群れようとも所詮貴様らは烏合の衆。俺たちの敵ではない!」
 リューディガーが、ダメージなど一切ないかの如く余裕の表情をもって敵を挑発し、
「なんなの? こんなもの? もっと本気だしなよ!」
 京華の挑発も良く響く。
「名乗る前にもう退場でござるか。せっかちでござるな~」
 やれやれといった表情で風太郎も被りを振った。
 討ち取られた仲間。罵りの数々。敵の心から防衛の迷いが消えていった。


 戦いは流れる。炎に手裏剣、斬撃、爆雷。
 最初の一体こそ手早く倒すことができたが、敵は多勢。攻撃は圧倒的に苛烈。Dfを狙ってはいるが、残り3体のDfにダメージが分散され、頭数を削れない。あと一押しで3体とも倒せそうではあるが、それまでこちらが持つだろうか。陽動が巧くいった分、支えるだけでも消耗していく。
 3体のダモクレスが動いた。鎌を回転させ、タイミングを計るように同時に駆け出す。狙いは風太郎。損傷が酷い。一撃でも貰えば、もう立ち上がることはできないだろう。
 動きに気づいた者がいた。視線が絡み合う。
 初撃、雅也が、ど派手なモーター音をかき鳴らしながら疾風の鎌を弾き飛ばし、
 次撃、死角から襲い来る横薙ぎの一撃を、達也が受け止め地を滑る。
 終撃、必殺の一撃を放とうと飛び上がった鎌を、さらにその上からソロが流星のようなかかと落としで叩き落した。
「決めてやれ! 風太郎!」
 達也の叫びに、エイプの顔が嬉々と輝く。
「銀河の輝きを螺旋に変えて、裁きの光で貴様を貫くッ! ギャラクシィーブライトォッ! ニンジャッ! スパイラルドライバァァーッ!」
 ど派手な轟音をぶち立てて、ダモクレスは空中に爆散した。

 隠密班は巧くやったでござろうか? 膝を付きながら、ふと風太郎は考えた。
 不意に、口角が上がる。
 なにが巧くやったか、でござるか。やっているに決まっているでござろう。
 斬撃が鼻先をかすめ、爆炎が鮮やかにその瞳に映る。硝煙の匂い。鉄の香り。襲い来る疲労感。脳髄まで痺れて来る。
 大規模戦。まさに、命と命のぶつかり合い。ここを制したものが、明日を制するのだ。敵もまた、修羅の形相。
 五体満足で帰る気などさらさら無い。
「イヤー!」
 風太郎は気を吐きながら、敵陣のど真ん中で光と共に踊った。

「美しい光景だ。命が燃えている」
 ラハティエルの瞳の中で、紅蓮が燃え盛っていた。
 信念。愛。覇権。己の求めるものを護るため、仲間も、敵も、必死で戦っている。一切の惰性の無い、命の獲り合い。濁り無き生存競争。フッ。信ずる者のために、私も戦おう。
「汚れてしまったか。純白の翼……」
 愛する妻が整えてくれた、大切な翼。そうだ。この戦いを終え、誇り高き戦いの顛末を、妻に語ってやらねばな。
「愛する妻のために! 必ず、無事で戻るぞ!」
 想い、叫びと相反する行動。ラハティエルは最後の力を振り絞り、激戦の中に身を投じた。

 敵も味方も満身創痍。だが、ただ一人余裕の表情を浮かべる男がいた。
 無傷。という訳ではない。むしろこの中でも一際ダメージを受け止めている。
 痛覚は置いて来た。身体の軋み、悲鳴、今は黙っていろ。それ以上に優先すべきものがあるのだ。
「邪悪を穿つケルベロスの牙は決して折れることはない!」
 リューディガーはその身体が動きを止めるまで、力の限り敵を挑発し、仲間を護り抜いた。
 皆の笑顔を守る。それが俺達の使命なのだから。

 まだやれる。まだ戦える。戦場に舞うサイリウムの光。
 雅也は一瞬の躊躇いもなく、敵の攻撃へと身体を投げ出した。
 砕け散るほどの衝撃が襲う。
 しかし、まだ倒れない。まだ身体は動く。信念のおかげ。といいたいが、今のは違う。
 ゴーグルの男が、札を構えて笑っている。雅也の身体を半透明の鎧が包んでいる。まったく、なんて頼りになるやつなんだよ。
「後で一杯奢るぜ!」
「ひゅう。それじゃあ、もっと汗をかいとかないとな」
 どこまで持つか分からない。次の瞬間には倒れているかも分からない。だが、俺たちは笑う。不思議と心は、どこまでもやれるような気がしていた。

 限界が見えてきた。これ以上の戦いは危険水域。拮抗した戦いは、一角が崩れれば土石流の如く決壊する。戦闘不能者が出る寸前。まさに今。ここで撤退すれば、五体満足のまま戦いを終えることも可能だろう。
 愉快なものだった。自分も、仲間も、誰もかれも、一人として撤退を考えている者がいない。どいつもこいつも、限界の限界まで戦い抜くことを腹に決めている。
 愉快なものだ。なぁ、ビルシャナ。俺たちは、それだけお前達のしてきたことに、煮えくり返っているんだよ。
 どれだけ多くの弱った命を、お前たちは甘言や催眠で取り込んで、化け物へと変貌させた。死へと追いやった。
 救いたかった命。救えなかった命。お前たちの命では、償いきれるものではない。
「ただ一つ、明日のために、お前たちは消えればいい」
 仲間を護り血を流す達也の拳から、信念を燃やす灼熱の地獄がゴウゴウと猛り狂っていた。

 眼下で仲間が倒れていく。この戦線はいつまで維持できるのだろうか。ソロはそれでも闘志を枯らすことなく戦場を駆けた。
 こいつらの教義にはいい加減辟易してるんだ。
 心がザラつく。チリチリする。なぜこいつらの教義は、こうも心を逆なでするのだろう。独り善がりなんだよお前たちは。融通が無く、誰かを受け止める度量がありゃしない。そりゃあ戦争にもなる。
「そろそろ鳥共に現実ってものを教えてやらないとな」
 機械の身体を発光させ、羅刹の如き気迫で敵へと迫る。その姿、まさに弾丸。
「くたばれ! メガトンソロちゃん落とし!」
 轟音を立て、天空から脳天を叩き落とす。敵の身体が四散した。

 1人が倒れた後は、早かった。2人、3人、4人。
 でもまだだ。まだ戦える。まだいける。京華は最大火力を放出するのを止めようとはしなかった。
 ゾワッ。
 不意に、得体のしれない寒気が彼女を襲った。意識がなにかを感じる前に、身体が動く。
 仲間を抱えて跳び退った瞬間、自分が今なにをしたのか、京華はようやく気がついた。
 5人倒れている。明敏に感じ取った死の気配。ここがデッドライン。
 横を見れば、同じように撤退の合図を送る仲間がいる。そうだ。私が欲したのは守るための強さ。絶対に仲間を無事に逃がすこともまた使命。

「ここまで……だな」
 ヒスイは仲間を担いで敵から距離を取った。引き付けた敵は8体。稼いだ時間は長大。充分だ。隠密班のやつらは、うまくやってくれるだろう。
 身体にのし掛かる仲間の体重。本当に良くやったよ。
 ヒスイは思わず、自分を護って笑いながら倒れた仲間の、赤茶けた髪をゴシゴシと撫でた。
 頼りになるやつらだ。失っていい命じゃない。
 必ず、安全なところまで撤退してみせるからな。それが今日の最後のミッションだ。
 死にさえしなけりゃ、こっちの勝ちなのだから。

 残った3人は退避する。それすら作戦であるかのように。
 敵は判断に悩んでいる。追撃か、防衛か。
 その逡巡もまた戦いの結末を左右した。決断を下した敵は、旋風のごとき速さで菩薩の元へと疾駆する。結果を見れば、決して間に合うことのない救援。だが敵もまた必死だったのだ。

 歓声が上がった。
 セーフゾーンで勝利の報告を聞いたメンバーたちは、あるいは抱き合い、あるいは踊り、あるいは杯を酌み交わした。
 笑い声が響く。
 今となっては激戦の疲労も心地よい。勝利の美酒は、乾いた大地に染み渡るように、その身体を潤していった。
 ミッション破壊作戦は成功。菩薩の討伐も成功。戦死者は0。まさに最高の結末だった。
 大戦争が来る。だが、俺たちは戦える。今日の日を戦い抜いたのだから。
 誰かがグラディウスを掲げた。誰もがグラディウスを掲げた。待っていろビルシャナ。俺たちはケルベロス。力無き者たちの牙だ。

作者:ハッピーエンド 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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