累乗会反攻作戦~破戒浄土

作者:黄秦


 ビルシャナらによる『菩薩累乗会』との攻防が続く中、新たな敵の動きが判明した――そう、セリカ・リュミエールは告げた。
 菩薩累乗会の首謀者である4体の菩薩が、ビルシャナの占領地域に、『精舎』を建立しようとしているのだと言う。
「シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)さん、 軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)さん、大成・朝希(朝露の一滴・e06698)さん、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)さん、フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)さん、館花・詩月さん(咲杜の巫女・e03451)達の調査が実を結びましたね。
 菩薩たちが拠点としているのは、埼玉県秩父山地、青森県上北郡おいらせ町、宮崎県高千穂峡、岩手県奥州市胆沢城の4か所です。
 ビルシャナに占領された地域に『精舎』が建立されてしまえば、難攻不落の拠点となる上、なんらかの大規模儀式の拠点となる事が予測されます。
 これを防ぐ方法は、大規模なミッション破壊作戦を行うしかありません。
 そこで、現在使用可能なグラディウスを全て使い切り、ビルシャナの占領地を強襲。その後、皆さんに精舎建立中の菩薩の撃破を目指していただきます」
 思い切った作戦に、ケルベロス達の間にどよめきが走った。
 全てのグラディウスを使用する。それは他のミッション地域の破壊をも、暫くは行えなくなるという事だ。


 その動揺を受け止めつつ、セリカは言葉を続ける。
「4か所のミッション地域について説明します。
 菩薩と直属の配下ビルシャナの他、そのミッション地域のボスであるビルシャナに加えて、幻花衆と輝きの軍勢が菩薩の守護の任についているようです。
 これらの敵を確実に破壊するには、埼玉県秩父山地で3チーム、青森県上北郡おいらせ町は9チーム。宮崎県高千穂峡と岩手県奥州市、胆沢城は12チームが必要となります。
 このチーム数が1/3の場合でも50%の確率で破壊が可能で、チーム数が多い程、破壊の確率は上昇するでしょう」


 基本の作戦は、グラディウスによるミッション破壊を成功させる事。そして、敵が混乱している隙をついて、菩薩撃破を目指すというものだ。
「菩薩の周囲には、菩薩直属のビルシャナ達と、協力組織のデウスエクスがいますから、更に陽動作戦などを行って混乱を助長し、菩薩の周囲から戦力を引き離す必要があります。
 混乱している敵は『より派手な攻撃を行っているチーム』の所に殺到してきます。
 つまり、陽動側のチームの菩薩への攻撃が派手であればあるほど、菩薩の周囲の敵をより多く引き付け、菩薩を急襲するチームの成功率をあげる事ができるのです。
 多くの敵を引き付けたチームは、戦力的に厳しい状況に置かれるでしょう。
 全ての敵と戦う必要はありません。うまく敵を引きずり回し、可能ならば各個撃破を行った上で、ミッション地域から撤退してください。
 引き付けた敵が少数ならば、当面の敵を撃破した上で撤退する事も可能ですが、この場合、菩薩を攻撃するチームはより多くの敵と戦う事になってしまいます。
 よく作戦を考えてください。

 一方、隠密行動で菩薩に近づくチームは、菩薩と周囲に残った戦力と戦う事になります。
 菩薩は、安全に撤退する事を優先する為、戦力的に撃破が不可能という場合は、その時点で撤退を選ぶ必要があるかもしれません。
 また、隠密行動が途中で発見された場合は、敵が迎撃してくる為、菩薩のところまで辿り着く事はできなくなってしまいます。
 1地域につき10チーム以上の戦力を集中させる事ができれば、7割以上の確率で菩薩の撃破が可能となるはずです。
 菩薩の撃破確率は、チーム数と連携の内容が大きく影響しますので、確実な撃破を目指す場合は、戦力の集中が重要かもしれません。
 ただ、10チーム未満の戦力では菩薩撃破の可能性は大きく下がってしまういます。
 派手に攻め込んで敵の防衛戦力を引き付けるチームと、隠密行動で菩薩に攻撃を仕掛けるチームの連携が上手くできるかが、作戦の成否をわけるでしょう」


「最初に言いましたが、この作戦には用意できるグラディウスを全てを投入しますから、暫くの間、ミッション破壊作戦を行う事はできなくなってしまいます。
 失敗すれば、菩薩の精舎建立を防ぐことは出来なくなり、菩薩累乗会は恐ろしい災厄となるでしょう。
 調査してくださった皆さんの働きを無駄にしないためにも、慎重な行動をお願いします。必ず、勝利を掴んでください」
 セリカはそう締めくくり、一礼したのだった。


参加者
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
浅川・恭介(ジザニオン・e01367)
連城・最中(隠逸花・e01567)
藤・小梢丸(カレーの人・e02656)
アリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)
渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)

■リプレイ


 岩手県奥州市、胆沢城。
 この地にて『精舎』を建立せんとする、4体の菩薩が1体、『闘争封殺絶対平和菩薩』を撃破するため、数多のケルベロスたちが集結していた。
 作戦のうちでも最大の戦力がこの地に集っており、猛烈な勢いで魔空回廊は破壊されていく。
 爆音と怒号が地を揺るがす。それらをも凌駕するほどの祈りと叫びを、ケルベロスたちは響かせ、それに応えたグラディスが力を放つ。
 無数の雷光が迸り炎が爆ぜて、黒煙は天まで上り全て覆いつくさんばかり。それは、救済者を騙るものらに降り注ぐ、裁きの光にも似ていた。
「グラディウス、久しぶり♪ また、力を貸してもらうね」
 ヘリオンから勢いよく飛び降りるシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)。蒼風の申し子は、吹き荒れる爆風すら味方につけて、宙に舞った。
「……菩薩かなんだか知らないけど、人を害するものは、わたし達ケルベロスがその企みをかみ砕くっ! さぁ、勝負ッ!!」
 シルの叫びに共鳴したグラディウスが、雷光を迸らせ、魔空回廊を破壊する。
 続いてグラディウスを振るったのは、連城・最中(隠逸花・e01567)とアリシスフェイル・ヴェルフェイユ(彩壇メテオール・e03755)だ。
「救済なんて言葉は傲慢だ。傲慢な説法は形を変えた暴力だ。その驕りも企みも、此処で叩き潰す!」
「いたいけな少年唆したり、惑わせたり追いこんだり、ほんとそういうの許せない、見過ごせないもの!」
 渡羽・数汰(勇者候補生・e15313)の怒りは、鳳凰光背武強明王に向いている。
「救済も慈悲も不要なら、俺達の怒りで貴様を『断罪』してやる。輝け、俺のグラビティ!」
「あんたらの題目は聞き飽きたわ、必ずこの地は解放するッ」
 ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)が渾身の力でグラディウスを振るい、たちまちに轟雷と爆炎が魔空回廊を襲った。
 魔空回廊がどんな堅牢であろうと、数多のケルベロスたちが想いを込めて刃を振るえば、ひとたまりもない。
「カレーが食べたぁああああいいいいい」
 と藤・小梢丸(カレーの人・e02656)が叫びつつ着地したあたりで、魔空回廊は完膚なきまでに破壊されたのだった。
 ありったけのグラディウスを投入しただけの成果はあった。
 しかし、喜んでばかりもいられない。
 隠密班が、闘争封殺絶対平和菩薩を倒すために行動を起こしている。
 彼らが菩薩を撃破するまで守護者たちを引き付けるのが自分たちの使命だ。
「さて、僕は僕に出来ることを……」
 浅川・恭介(ジザニオン・e01367)はケルベロスチェインを派手に展開し始めた。テレビウムの『安田さん』が早くもピカピカと応援動画を流している。
 混乱している敵は、動きの派手な方を目指してくる目算が高いからだ。
「さー、派手に暴れてやりましょう……っと、えいっ!」
 アリシアフェイルは、怪力無双で大岩を持ち上げると、近くの気配めがけて投げつける。煙幕の向こう側で、『グエッ』と、鶏を絞めたような声がした。
「この岩を投げたのはどこのどいつだぁああああおるぁああああ!!!」
 怒れる鳳凰光背武強明王が3体ほど釣れた。
 レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)は敵の注意を引くため、ダイナマイトモードに変形した。


 恭介(ジザニオン・e01367)はケルベロスチェインをわざと大きく派手に動かして魔法陣を描いた。
 鎖同士の撃ち合う音と金属の輝きは、敵を引き寄せる目印になり得た。
 似て非なる、黄金の輝きを纏ったダモクレスが3体、黒煙の中から現れる。
 敵であるケルベロスを認識した輝きの軍勢は、大量のミサイルを撃ちだし雨あられと浴びせて来た。
 その足元で、最中の仕掛けた不可視の地雷が炸裂する。
「『灼き尽くせ、箱の中のインフェルノ!』 」
 キューブを取り出し攻撃しようとするレスターへ、どこからか螺旋手裏剣が飛んだ。その刃をアリシスフェイルが叩き落とす。
「そこね!」
「チッ」
 アリシスフェイルの気咬弾で煙幕に紛れていた幻花衆の姿が露わになる。敵に囲まれぬよう注意を払っていたために、潜む忍者に気づいたのだ。
 レスターの投擲したキューブが展開する。広がったそれは明王を取り込み、閉じ込めてしまった。
 その明王めがけて、数汰はスターゲイザーを放った。
「一撃必殺、わたしの最大火力受けてみてっ!」
 シルは敵陣真っただ中に切り込み、精霊収束砲を放つ。射程の短い技も、間合いを詰めてしまえばどうという事はない。
「貴様ぁああ!」
 レスターと数汰によって動きを止められていた明王の極至近から強大な魔力の砲弾を撃つ。
 まともに食らって吹き飛ぶ明王へ、シルはさらなる砲撃を見舞った。
「菩薩守護を怠る程力と喧嘩を求めた明王が、闘争を忌む平和主義な菩薩を守るとは……憐れですね!」
 恭介は、明王たちをわざと大声で煽る。
「大人しく道を開けた方が身の為ですよ」
 最中も調子を合わせて挑発した。
「やっぱり、派手な方が合うわ。さぁ大暴れよ!」
 ジェミは魔法攻撃(物理)でスタイリッシュに殴りかかる。渾身の力での掌打は明王を狙うも、輝きの軍勢の1体が、立ちふさがった。
 対象が変われど威力が衰えることはなく、ダモクレスの鋼鉄の身体を衝撃が貫き、その内部を破壊した。
「極寒の海氷より現出せし絶対なる青よ、ビキビキっとやっちゃってくだしあ!」
 小梢丸が超巨大でロシアンなロリ幼女を召喚した。カレーとの関係はよくわからないが、蔑んだ目から繰り出されるブリザード攻撃に、敵は凍り付けだ。
 ここまでに最もダメージの大きかった鳳凰光背武強明王が、凍り付いたまま果てた。

 鳳凰光背武強明王は現在2体、輝きの軍勢が2体に、幻花衆の1体がここまでに現れた敵だ。
 今のところ、これ以上敵の数が増える気配はない。
 明王たちが印を組む。
 奇怪な経文を唱えて翼を広げれば、羽根が炎弾となってジェミやシル、最中らに降り注いだ。
 手にした剣で斬り払い、アリシスフェイルの命を啜る。
 幻花衆は影分身で目標を散らし、輝きの軍勢たちは一斉にミサイルを後方へと撃ちだした。
「さすがに群れると、回復で手一杯だな……」
 恭介は『えとのっくす』によって不可視の帳を作り出し、その膜で傷付いた彼らを包み込み癒す。
 安田さんの応援動画でアリシスフェイルを鼓舞した。
「『天石から金に至り、潔癖たる境界は堅固であれ。海原沈み深き底、天空昇り遥か果、累ねた涯の青を鏤める――蒼界の玻片』」
 アリシスフェイルの詠唱により、灰と黄の光で描かれた六芒星が現れる。その光は数汰と恭介の傷を癒し、同時に青と白の障壁で守る。
 動けずにいたレスターには、最中が星の霊力を振るい、癒した。
 最中に礼を言うと、レスターは立ち上がった。銃弾に炎纏わせて撃ちだし、明王の1体を業火で包む。
「カレー食わせろー!!」
 とは、小梢丸のハウリングである。よくわからない言霊に、ダモクレスの思考回路が乱されて、刹那、動きを止めた。
「『冥府の最下層、陽の光届かぬ牢獄に汝を繋ぐ。全てが静止する永劫の無限獄にて魂まで凍てつけ!』 」
 数汰はマイナスのエネルギーを帯びた掌撃を浴びせて輝きを凍らせる。駆動部が凍り付き、黄金の腕部が砕け散った。

 恭介の言う通り、数の多さは厄介だ。
 鳳凰光背武強明王の斬撃を、ジェミは腹筋で真っ向から受け止めた。癒し手たちの守護は、その力を十二分に発揮している。
 幻花衆の投げた手裏剣がいくつにも分裂して数汰と小梢丸へ降り注ぐ。動けない2人に、輝きは追撃とばかりに掃射する。
 超加速で突撃して来る輝きの攻撃を、レスターは辛うじて躱した。
(「負けるものかっ」)
 レスターにも意地がある。反撃のバスタービームは、輝きの脚を捉えて破壊する。その気迫、感情に乏しいダモクレスにさえプレッシャーを与えていた。
 最中は乱戦状態にエスケープマインを炸裂させる。前衛に固まっていた明王と輝きの軍勢をまとめて爆破する。ダメージこそ大きくないが、混乱を引き起こし、動きを止める。
 ダメージの重なっていた輝きの軍勢の一体へ、数汰は惨殺ナイフで躍りかかった。破壊された部分へ切先を捻じ込み、滅多切りに斬り裂いた。
 ダモクレスの身体のあちこちがショートし、連鎖爆発を起こす。数汰が跳び退くと同時に、それは大爆発した。
「まだまだ! この腹筋、砕けるものならかかってらっしゃい!」
 ジェミは拳を振るう。吸われた分を取り返さんと、ドレインスラッシュを目前の明王に見舞った。
 生命力を吸われてよろめく明王を、小梢丸がキャバリアランページで突撃し、踏みつぶした。
 敵を菩薩から引き剥がし、出来る限り長く引き付けかき回す。陽動、それが役目。
「でも……もちろん、存分に倒したって構わないものね?」
 幻花衆が突き出した刃を紙一重で避けて、アリシスフェイルは二刀斬霊波で反撃する。
 深々と斬り裂かれて、幻花衆は真赤な血を吐いた。身を引くこと刺さった刃を引き抜き、間合いを取る。睨めつける赤い瞳を、アリシスフェイルも真っ向から見返した。
 レスターが制圧射撃で幻花衆を釘付けにする。
「ぐぁっ!……あぐぅ」
 最中のサイコフォースが炸裂し、幻花衆に止めを刺した。

 2体を落とせば、一段と楽になる。
 とは言えまだ油断できる状況でもない。
 残るは輝きの軍勢が1体に鳳凰光背武強明王明王が2体。
 手ごわい相手に対し、ケルベロスらも徐々に傷を深めている。
(「誰一人欠けることなく終えられますよう」)
 恭介はマインドシールドで、もう一つ盾を重ねる。
 明王が剣を構え直し、まさに突撃するかに見えた。応戦しようと身構えるシルとそのフォローに立つ最中。
「……」
(「え?」)
 ほんの僅か明王の動きが止まった……ように見えた。しかし次の瞬間には猛然と突撃する。
「あっ、しまった……」
 タイミングを外されて、最中のフォローが間に合わず、シルは明王の切先を防ぎ損ねる。
(「あれ? なんか威力が弱い?」)
 しかし、不思議と思ったよりも傷は浅かった。炎を安田さんが消してすぐに傷は癒される。
 不審に思ったのは最中も同じだ。体勢を崩したこちらに追撃が来ない。輝きの軍勢も、もう1体の明王も、どこか戸惑った様子を見せている。
 ケルベロスたちの胸に期するものがあった。
 ――隠密班が、菩薩の元へたどり着いたのではないだろうか。
 そう思ってみれば、何かどこか、空気が変わり始めている気がする。
 恭介は、まごつく明王へ向けて、ドラゴニックミラージュを叩き込んだ。
「菩薩守護を怠る程力と喧嘩を求めた明王が、闘争を忌む平和主義な菩薩を守るとは……憐れですねぇ」
 こちらを猛烈な殺気で睨みつける明王を、恭介はことさら響く声で煽る。援護に行ってもらっては困るのだ。
「救済を捨ててこれだだけ? ビルシャナの力はこんなものかしら!」
 ジェミが挑発的に筋肉を誇示する。
「赦し給え……力を断罪に振るうを赦し給え」
 明王は呪を唱えれば身を包む頬はさらに燃え上がる。
「とにかくっ! ぶっ飛ばすわっ!!」
 全ての力を掌に込めて、ジェミは渾身の掌打を明王へ叩きつける。
「おお……っ」
 明王の剣先がジェミの頬を掠め、炎が焼き焦がすのも構わず放たれた膨大なグラビティが明王の内部で破裂し、裡と言わず外と言わず、散々に破壊した。
「お前らの齎す偽りの平和も救いも要らない。人間を、なめるなよ」
 淡々と盾に徹しても、最中の深奥にはビルシャナへの怒りが熱く燃えていたのだ。螺旋氷縛波を放てば、その激情はいっそ冷たく明王を襲い、身に纏う炎ごと凍てつかせたのだった。
「さあ、次来なさい!」
 輝きの軍勢は少しばかり後退した。
「逃がすと思うかっ!」
 数汰はスターゲイザーで輝きを足止めする。ダモクレスは、弾丸を浴びせるも、狙いが定まらず、誰にも当てることが出来ない。
 シルの魔法光線を浴びて、輝きの軍勢は体を動かせない。
「ヤッっちゃってくだしあ!」
 小梢丸のカレー以外の発言にはっと上を見る明王。
 再び召喚されたロシア幼女風魔神が彼らを冷たく見下ろしていた。
 明王は慌てて避けるも、動けない輝きはその視線を避けることが出来なかった。ブリザードに巻かれたダモクレスは、凍てつきボロボロに砕け散るのだった。
「さあ、あなたで最後ね!」
「むむ……」
 人を惑わし、追い詰める敵に『赦し』はない。
 アリシスフェイルの音速を越える拳が明王の真芯を捉え、吹き飛ばした。
 逃げ場を失い、最後のあがきとばかり明王は燃えさかる翼を広げた。
 しかし、最早何もかも手遅れだった。
 シルの精霊収束砲が、明王を貫く。
 ケルベロスたちの一斉攻撃を受けて、最後の鳳凰光背武強明王はついに力尽きた。
「衆合無(カタルシス)よ己等を赦し給え。……菩薩守護を怠り、然して救済もせず……赦したまえ、力求めながら……得ること……能わず…………」
 鳳凰光背武強明王の唱える経文は、風に乗って空へ昇って行った。


 噴煙が薄れゆくと同時に、満ち満ちていた敵意も殺気もまた薄れていくと感じた。
 闘争封殺絶対平和菩薩が撃破されたのだろうと、誰しもが確信していた。
 ケルベロス達の勝利の凱歌が、あちらこちらから聞こえている。
「やったあ!」
「よし、大きな戦い前に景気よくできたわね!」
 シルとジェミはハイタッチで喜んだ。
「やったな」
「いぇーい」
「うぇーい」
「カレーィ」
 さらに皆でハイタッチを交わし合う。
 多くの敵を引き付け、脱落者なくこれを撃破、大きな戦果と言えるだろう。

 戦いは収束し、天を覆う煙が晴れて、青空がはっきりと見え始めている。
 グラディウスを大切にしまい込み、ケルベロスたちは戦場を後にした。
 いつか来るだろうビルシャナとの決戦に、少しは有利になったならよい。
 レスターは高く広がる空を見上げて、そんな事を考えていた。

作者:黄秦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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