累乗会反攻作戦~反撃の狼煙

作者:澤見夜行

●調査報告
 集まった番犬達にクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が資料を配付すると、早速話を始めた。
「シルフィディア・サザンクロスさん、軋峰・双吉さん、大成・朝希さん、アビス・ゼリュティオさん、フィオ・エリアルドさん、館花・詩月さん達の調査活動によって、菩薩累乗会を行っている、菩薩達の動きを見つける事ができたのです。
 これまでの菩薩累乗会を引き起こしていた四体の菩薩は、ビルシャナの占領地である、埼玉県秩父山地、青森県上北郡おいらせ町、宮崎県高千穂峡、岩手県奥州市胆沢城を拠点として、占領地に『精舎』を建立しようとしているようなのです」
 ビルシャナに占領された地域に『精舎』が建立されてしまえば、難攻不落の拠点となる上に、なんらかの大規模儀式の拠点となることが予測されるとクーリャは続ける。
「これを防ぐ方法は、大規模なミッション破壊作戦を行うしかないのです!
 現在使用可能なグラディウスを全て使い切り、ビルシャナの占領地を強襲。その後、精舎建立中の菩薩の撃破を目指すのが、今回の作戦となるのですよ」
 クーリャは続けてミッション地域の説明に移る。
「各ミッション地域の戦力は以下の通りなのです。菩薩と直属の配下ビルシャナの他、そのミッション地域のボスであるビルシャナに加えて、幻花衆と輝きの軍勢が菩薩の守護の任についているようなのです」
 埼玉県秩父山地には、自愛菩薩、エゴシャナ、幻花衆、輝きの軍勢、ちっぱい絶対殺す明王。
 宮崎県高千穂峡には、恵縁耶悌菩薩、デラックスひよこ明王、幻花衆、輝きの軍勢、アヴァリティア。
 岩手県奥州市、胆沢城には、闘争封殺絶対平和菩薩、カムイカル法師、幻花衆、輝きの軍勢、鳳凰光背武強明王。
 青森県上北郡おいらせ町には、芸夢主菩薩、ケルベロス絶対殺す明王、幻花衆、輝きの軍勢、フリーダムビルシャナが待ち構えている。
「各ミッション地域を破壊するために必要なチーム数も算出されているのです。
 確実に破壊するには、埼玉県秩父山地で三チーム、青森県上北郡おいらせ町は九チーム。宮崎県高千穂峡と岩手県奥州市、胆沢城は十二チームが必要となるのです。
 チーム数が三分の一の場合でも五十パーセントの確率で破壊が可能で、チーム数が多い程、破壊の確率が上昇するのです」


 資料を読み進めるクーリャは次の項目に移る。
「今回の作戦は、グラディウスによるミッション破壊を成功させ、敵が混乱している隙をついて、菩薩撃破を目指すというのが基本作戦となるのです」
 菩薩の周囲には、菩薩直属のビルシャナ達と、協力組織のデウスエクスが居るため、更に陽動作戦などを行って混乱を助長し、菩薩の周囲から戦力を引き離す必要があるだろう。
 また、混乱している敵は『より派手な攻撃を行っているチーム』の所に殺到してくるので、陽動側のチームが派手に襲撃して菩薩の周囲の敵をより多く引き付ける事ができれば、菩薩を急襲するチームの成功率をあげる事が可能だろう。
 多くの敵を引き付けたチームは、戦力敵に厳しい状況に置かれるが、全ての敵と戦うのではなく、うまく敵を引き摺り回し、可能ならば各個撃破を行った上で、ミッション地域から撤退する事になる。
「引きつけた敵が少数ならば、当面の敵を撃破した上で、撤退する事も可能なのですが、この場合、菩薩を攻撃するチームはより多くの敵と戦うことになってしまうのです」
 隠密行動で菩薩に近づくチームは、菩薩と周囲に残った戦力と戦う事になる。
 菩薩は、安全に撤退する事を優先する為、戦力的に撃破が不可能という場合は、その時点で撤退を選ぶ必要があるかもしれない。
 また、隠密行動が途中で発見された場合は、敵が迎撃してくる為、菩薩のところまで辿り着く事はできなくなってしまう。
 各チームの連携が重要だとクーリャは念を押すと、必要戦力についての詳細に移る。
「一地域につき十チーム以上の戦力を集中させることができれば、七割以上の確率で菩薩の撃破が可能となるはずなのです。
 菩薩の撃破確率は、チーム数と連携の内容が大きく影響するので、確実な撃破を目指す場合は、戦力の集中が重要かもしれないのです」
 ただし、十チーム未満の戦力では菩薩撃破の可能性は大きく下がってしまうと、クーリャは付け加えた。
「派手に攻め込んで敵の防衛戦力を引きつけるチームと、隠密行動で菩薩に攻撃を仕掛けるチームの連携が、上手く出来るかが、作戦の成否をわけるのです!」
 クーリャは読み終えた資料を置くと番犬達に向き直る。
「用意できるグラディウスは全て投入したこの作戦に失敗すれば、菩薩の精舎建立を防ぐ事は出来なくなるのです。
 今回グラディウスを大量投入する事で、暫くの間、ミッション破壊作戦を行う事はできなくなってしまうのですが……。この作戦を阻止する為にはやむを得ないのです」
 最後になりますが、とクーリャが番犬達を真剣な眼差しで見つめる。
「ビルシャナの菩薩達の動きを調査してくれた皆さんの為にも、この作戦は成功させたいのです。
 菩薩累乗会は、ここで阻止しなければきっと恐ろしい災厄になるに違いないのです。どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 ぺこりと頭を下げたクーリャが、祈りを込めて番犬達を送り出した。


参加者
翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)
キサナ・ドゥ(夭桃灼灼・e01283)
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
上里・藤(黎明の光を探せ・e27726)
服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)
病院坂・伽藍(這い寄る絶望・e43345)
ベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)

■リプレイ

●絶対平和主義の教え
「てめぇらの心臓が! これ以上動くことを! オレは認めねぇっ!」
「……返してもらいます! 衆合無の一部になんてなりはしないのです!」
 番犬達の魂の叫びが、グラディウスを通し力を増大する。
 纏い、束ね、放射するグラビティの奔流が胆沢のミッション地域、鳳凰光背武強明王殿を直撃し、大地を揺るがせた。
 果たして、ミッション破壊は成功した。
 番犬達の想い、叫びは結実し、神をも殺す雷となって降り注いだのだ。
 爆煙が場を支配する中、番犬達は即座に次の行動に移る。隠密にて行動し、菩薩を討つ。
 菩薩がいるという寺院の右側面を回り込むようにして近づいていく。
 斥候の病院坂・伽藍(這い寄る絶望・e43345)とそれをフォローする愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)の注意力は遺憾なく発揮され、一切の無駄、失敗無く進むことができた。そう、隠密にて菩薩に接近する作戦は成功したのだ。
 建設中の仏塔ストゥーパに辿り着く。一階部分のみが完成し、建設中のその上に、闘争封殺絶対平和菩薩の右後背が見える。周りを見渡せば、菩薩の四方に他班の仲間達の姿を確認することができた。翡翠寺・ロビン(駒鳥・e00814)が他班に連絡を取れば、確かに菩薩だと確認できた。
 ――ここから先は隠れて進むわけにはいかない。他班とともに、意を決して前へと進む。即座に、番犬達に気づいた菩薩の護衛が四方に広がり現れた。計二十四体。戦いは避けられないだろう。
「いくぞ――!」
 武器を構え戦いに臨もうとしたその時、それを見守る菩薩が威厳在る声で訴えかけた。
「お待ちなさい――よくここまで辿り着きました。ですが、これ以上の戦いは無益です。この地域は解放され、精舎の建設は失敗に終わりました、戦わずとも私たちは、この地より立ち去りましょう」
「なにをバカなッ!」
 番犬達のみならず菩薩を囲む他班の仲間達も声を上げる。当然だ。敵の言葉を信じられるわけがなかった。
「そんなわけにいかないわ」
 ロビンが声を上げ反論するものの、不思議と手は武器を下ろし始めてしまう。心ではいけないとわかっていても、菩薩の言葉を聞くとどうしてか戦意が失われていった。
「戦いは何も生み出しません。『絶対平和教義』に従い、疾く立ち去りなさい」
 菩薩は平和を説く。無益な戦いは必要無いのだと。その声に番犬達はついに顔を見合わせて、本当に戦う必要がないのでは? と疑問を持ち始めた。
「――俺達の勝ちでいいのか……?」
「どうしよう……、撤退、でいいのかな?」
 進むべきか、退くべきか。判断に迷う。失いかけた戦意をどう処理すれば良いのか、悩んでしまった。菩薩はただ平和を説き続ける。
 そのとき、菩薩の左後背を取る隣の班の嶋田・麻代から声があがった。
「闘争封殺は困ります! 私はめっちゃ困ります!」
 我が儘を言うように言う麻代の意志は強く固い。その声に呼応するように、意を決した上里・藤(黎明の光を探せ・e27726)が菩薩へと叫びをぶつける。
「お前らビルシャナのせいでこれまで何人犠牲になったと思ってる。
 人間は餌じゃないしヒマつぶしの道具でもない――!」
 想いは伝播する。戦意を閉じ込める菩薩の後光に陰りが差した。
「ぬぅあああああああーーーッッ!!」
 服部・無明丸(オラトリオの鹵獲術士・e30027)が咆哮を上げ駆け出すと同時に、麻代が天高く舞い上がり急降下蹴りを放つ。
「一方的に殺されろというのか、一方的に斬れというのか……どっちにしろ困ります!」
「寺銭も説法もいらぬ! ただただ出て失せるがよい!!」
 大声で菩薩の平和主義の教えを否定し、麻代の蹴りに合わせ、無明丸も菩薩の護衛を一人、殴り飛ばした。
 その動きに、ミライと別班のワルゼロム・ワルゼーが呼応した。ミライの放つオーロラの光と、ワルゼロムの額に浮かび上がった梵字から放たれる光線が番犬達を包み込み、破邪の力を与えていく。
 菩薩の声による戦意の喪失が失われ、作戦開始の時にもっていた熱が戻ってきた。
 その姿を確認した護衛の一人、鳳凰光背武強明王が強く頷くと、
「良くぞ言ったケルベロス。我ら、鳳凰光背武強明王、ここで戦い果てる覚悟也。いざ勝負」
 覚悟を決めた明王が、戦意を高め構えをとると、番犬達に向かって走り出した。
「鳳凰光背武強明王、おやめなさい!」
  闘争封殺絶対平和菩薩の威厳ある声はすでに届かず。番犬達と菩薩を守護する護衛達との戦いの火蓋は切って落とされた。

●退かぬ心
 菩薩の四方を守る護衛達。菩薩の右後背に位置する番犬達は左後背に位置する別班と共に、菩薩後背を守る護衛達にその牙を突き立てる。
 番犬達が相手取るは、鳳凰光背武強明王、カムイカル法師を中心に、幻花衆、輝きの軍勢三体で構成された護衛達だ。
 乱戦となる戦いが続き、互いに致命打を避けながらの攻防が繰り広げられる。番犬達は数的優位を存分に発揮しながら護衛を少しずつ追い詰めていった。
「お相手願おう――!」
 明王と幻花衆がこちらに向かい突撃してくる。その突撃をコロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)と伽藍が強固な守護をその身に宿し迎え撃つ。
「ここで会ったが百年目! 貴様らの企みそれより先へは一歩たりとも進ませぬ! 一歩たりとも退かせもせぬ! ここが終点と心得い!!」
 力強い言葉と共に無明丸が幻花衆を殴りつける。素手の肉弾戦から繰り出されるグラビティが連続で迸る。
「オォォ――!」
 幻花衆の反撃の一打を気合いと共にコロッサスが真紅の聖鎧で受け止め、破邪の神雷と八雷の輝きを宿す神剣――【黄昏】をもって反撃する。
「皆を守りたい――だから届いて、私の歌! KIAIインストール!」
 戦場に響くミライの歌。番犬達を支え戦う力を与え、戦士たちを震い立たせる。共に戦場を往く癒やし手達が、グラビティのウェーブを生み出した。
「歪みしものよ、我が奇跡を見るがいい」
「――わたくしが居る限り、いかなる戦況であろうと、倒れるものなど決して出させません」
 別班のワルゼロムと空木・樒の治癒グラビティだ。仲間達の「助かる――!」という礼に、
「気にするでない。お題は後で請求する」
「わたくしに為せることを為しただけです」
 と、余裕をもって返した。
「くひひ、良い歌だ――オレもいくぜ!」
 ミライの歌を聴くキサナ・ドゥ(夭桃灼灼・e01283)が敵群に飛び込み肉弾戦上等に、ロックに歌いあげる。定められた未来からの解放を求めた歌が敵群の攻め手を封じると、ベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)が優雅なドレスを翻し戦場を駆ける。
「紅き奔流よ、醜悪なる者を打ち砕け! ――紅の拒絶!」
 詠唱の後放たれる力ある言葉。急激に膨張する空気が大爆発を引き起こし、明王を巻き込んだ。
「――狂い咲け! 黒百合!」
 伽藍が黒百合の花言葉――呪いを体現する。グラビティの奔流を受けた幻花衆の身体からグラビティ・チェインが溢れ、蔓を形作り、華開いた。刻み混まれた怨念が膨れあがり、幻花衆を苦しめていった。
 ――番犬達が仲間と共に護衛を追い詰める。こちらもダメージは負っているが、輝きの軍勢はすでに倒れ、残すは三体。それもあと一歩だ。
「わけのわからん主張と論戦はうんざりだ。カレーパンに揚げパンの良さを語る羽目になった恨みは忘れてないぞ……!」
 別班のティーシャ・マグノリアが声を上げる。その『全て破砕する剛腕』がダモクレスを引き千切った。敵の数を減らし番犬達の士気が上がる。
「人の想いをねじ曲げる、てめえらを許す訳にはいかねえんだよなあ!」
「ここは我々の世界、我々が守るべき場所――去れ! 悪しき終焉を齎す者達よ!」
 コロッサスと伽藍が突撃する。チャンスを物にするその身を盾とした突撃が、仲間達に又とない機会を生み出した。
 体勢を崩す、護衛達。
「これで止めだ――!」
 藤がその手に雷神の畏れを顕現させる。生み出された一定の形を持たない雷の槍が、数本の雷を束ねたほどの光と轟音を放ちながら幻花衆を撃ち貫く。
「かはっ――!」
 短い呼吸を最後に幻花衆がグラビティの塵となる。その塵の中をロビンが疾走する。
「やるじゃない、藤」
 表情は変わらねど呟く言葉は暖かい。良い土産話ができたとロビンは思った。
 駆けるロビンは一切の躊躇なく明王へと肉薄する。敵の首筋めがけて、『死』の力纏う刃を振り下ろした。ロビンの放った必殺の一撃は、明王に凌駕する機会を与えずその命を刈り取った。
 明王は眉一つ動かさずに、言葉を溢す。
「良き死合いであった。我に悔いはなし――」
 呟く言葉は風に消え、鳳凰光背武強明王はグラビティの塵と消えた。
 同時に戦場に歓声があがる。別班の神崎・晟が蒼炎を纏う竜頭の如き獲物を持って超高速の突きを繰り出し、カムイカル法師を討ち取ったのだ。
 額を零れる汗を拭う。護衛を倒し、菩薩を守る壁はなくなった。
 視線を巡らせれば、後方以外の三方を守る護衛達との戦いはまだ続いている。
「あと少しだ、あと少しで俺達の刃が菩薩に届くぞ!」
 ――今がチャンスだ。共に戦った仲間達と共に、菩薩へ牙を突き立てんと番犬達は駆けだした。

●決着
「戦うのは本意ではありません」
 闘争絶対封殺平和菩薩へと辿り着き、番犬達が襲いかかると、菩薩は武器を収めるようにと声をあげた。威厳に満ちた声色で番犬達に『平和主義教』の教えを説く。
 されど、戦いにて呼応した戦意は収まることを知らない。菩薩の精神攻撃に抗い、番犬達は菩薩へと攻撃を重ねる。
 菩薩はあまり戦闘が得意な様子ではなかった。だがそれでも強敵であり、放たれる経典の光が番犬達を焼き払い、与えたダメージは潤沢なヒールグラビティによって即座に回復されてしまっていた。
 だが、番犬達も負けていない。二班の連携は、護衛との戦闘経てさらに良くなっている。めまぐるしい連続攻撃が菩薩を徐々に追い詰め苦しめる。
「今すぐ闘いを止めるのです」
「もはや菩薩の名に何の感慨もないけれど、あなたが名乗るのは許せない。絶対、倒す」
 別班の千手・明子の闘志に呼応し、オウガメタル『磨上無銘』がオウガ粒子を振りまく。番犬達の集中力が鋭敏化し、さらなる攻撃の機会を生み出していく。
「これ、これですよ! どんな理屈並べようと、結局あなたも今戦っているわけだ!」
 別班の麻代が菩薩との命の奪い合いを楽しみながら、自らの刃物で腹部を貫き、わき出る地獄の炎で傷をいやしながら前進し菩薩へと肉薄しグラビティを振るう。それに呼応し無明丸が疾駆し大声を張り上げる。
「わははははっ! その通りじゃ! 力ある物が勝利を手にするのじゃ! ぬぅああああああ――ッッ!」
 大上段から振り下ろされる素手の打ち付けが菩薩の身体を大きく揺らす。続けて、二発、三発と、グラビティを帯びた拳が菩薩の身体を打ち付ける。たまらず後退する菩薩を逃がすまいとベルベットが巻き付けた血染めの包帯を伸ばしていく。伸びる包帯が意志を持つように揺らめいた。
「醜き者よ、せめて最後は美しく散りなさい!」
 ベルベットの言葉と同時、揺らめく包帯が菩薩へ向けて超スピードで放たれる。硬化する包帯は槍となって逃げる菩薩を追いかける。逃れること不可能なその一撃が菩薩に突き刺さり、硬く厚い羽毛を散らせていった。
 蹌踉めきながらも菩薩が羽根を広げ、後光とともに光を生み出す。番犬達を焼き払わんとする熱線を二人の戦士が押しとどめる。
「去れ! 悪しき終焉を齎す者達よ!」
「てめえに仲間はやらせねえんだよ!」
 経典の光から仲間を庇うコロッサスと伽藍が声を上げる。その肌が焼け、血が蒸発していった。
「大丈夫だよ――支えてみせます!」
 一歩も退かない二人をミライが歌とともにオーロラの光を生み出し、支援する。番犬達は皆、度重なる戦闘でダメージは限界まで蓄積していた。だが、瀬戸際で持ちこたえる――!
「戦うことが愚かだと、なぜわからないのです――!」
「おまえらが撒いた種だろう! 覚悟しろ、ケルベロスが噛みついてやるよ、人間の力を思い知れ!」
 仲間達の攻撃に合わせ、藤が収束した雷光を放つ。神雷が菩薩の身体を焼き貫き、光と轟音が菩薩を覆う。
「わたしたちケルベロスがいる限り、この地球は決して落ちない。それを、思い知りなさい――」
 すかさずロビンが疾駆する。菩薩の側面に周り込むように肉薄すれば、即座に爆光の中に飛び込んでいく。だが菩薩もその動きに反応して、経典の光を放つ。熱光が一条の帯となってロビンに迫る。
 ロビンは止まらない。菩薩の放つ光の帯を、目を見開き集中し、紙一重で躱すと一足飛びに肉薄し影のごとき視認困難な斬撃を幾重にも振るった。
「ぐっ……くっ――!」
 菩薩から苦悶の声が上がる。追い詰めているのだ。
「この歌を聴くならば 死を思え敵対者! 流れ出る命脈の鼓動 その弱拍に 死の呪いは突き刺さる! ――オール・ザット・レイ・デッド!」
 畳み掛けるように、キサナが喉を開く。全身全霊を持った魂のカース・ソング。どこからともなく生み出された巨大な骨剣の群れが、キサナに呼応し菩薩へと飛びかかる。
 突き刺さる骨剣の群れ。滅多刺しの直撃は、瞬間、菩薩の動きを止めた。
 ――その瞬間を別班の仲間達は逃さなかった。
 フローネ・グラネットの宙を駆ける光の盾が多重展開し、動きを止めた菩薩を拘束する。
「やめなさい。戦うことが愚かだと、なぜわからないのです――」
「お前に止める気はないのだろう? なら、お互い様だ……グラネット!」
 上空へと逃れようとする菩薩を追いかけ、アジサイ・フォルドレイズが声を上げ飛ぶ。フローネは察し、合わせるように飛んだ。二匹の番犬が、上空で牙を研ぐ。
「吼えなさい、ダイヤモンド・ハンマー……!」
「墜ちろ!」
 フローネのダイヤモンド・ハンマーとアジサイのグラビティ『飛竜ノ鉄槌』が同時に菩薩の頭上から振り下ろされる。
「飛竜」
『――鉄槌!』
 竜のごとき迸るグラビティの奔流が周囲の空気を揺さぶった。
 後に残るはグラビティの塵芥。二人の一撃により叩きつぶされた闘争封殺絶対平和菩薩は断末魔の言葉を風に散らせ、消滅した。
 一呼吸の間。本当に菩薩を倒せたのかという疑問が、生まれては消えていく。
「わははははっ! この戦い、わしらケルベロスの勝ちじゃ! 鬨を上げい!」
 空気を打ち破るように、無明丸がその拳を突き上げ、朗々と勝利宣言をした。
 歓声が、広がっていく。
 視線を巡らせれば、周りで戦っていた仲間達も護衛を片付け、駆けつけようとしているところだった。
 菩薩累乗会を引き起こした菩薩の一体、闘争封殺絶対平和菩薩は倒された。
 その目論見であった『精舎』建設は頓挫し、岩手県奥州市胆沢城を巡る戦いは、番犬達の完全勝利を持って決着したのだった――!

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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