累乗会反攻作戦~菩薩死すべし

作者:沙羅衝

「さて皆、3月の間ずっと続いとったビルシャナの『菩薩累乗会』も、どうやら落ち着いた見たいや」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)が少し安心した表情で、ケルベロス達を見る。
「んで、や。実はシルフィディア・サザンクロスちゃん、軋峰・双吉くん、大成・朝希くん、アビス・ゼリュティオちゃん、フィオ・エリアルドちゃん、館花・詩月ちゃん達が調査した結果や、この菩薩達の動きが分かったで!」
 思わず感嘆の声が上がる。いつまで続くのかという不安に駆られていたケルベロスもいただろう。
「今までの菩薩達はやな、どうやらビルシャナの占領地、つまりミッションのあるところやな、埼玉県秩父山地、青森県上北郡おいらせ町、宮崎県高千穂峡、岩手県奥州市胆沢城、この占領地に『精舎』を建立しようとしているっちゅうことがわかったんや。
 当然、そんなんさせるわけにもいかへん。で、ミッションっちゅうたらあれや」
 ざわつくケルベロス達。
「何人かはぴんと来たみたいやな。せや、ミッション破壊作戦をやる。しかも、全グラディウスを投入するで!
 目的はミッション地域の破壊、且つ精舎建立中の菩薩の撃破を目指す!」
 またとない大規模なミッション破壊作戦となる。いつまでもビルシャナにやられたままでは無く、こちらから仕掛けるという事だ。
「今回はまず皆に何処に行くかを決めてもらう。場所はさっき行った4拠点。それぞれのボスのビルシャナに加えて、菩薩、今まで出てきた敵が守護についとる」
 敵が多すぎる。と一人のケルベロスが言う。いつものミッション破壊作戦とは異なる点がそこだった。
「ん、鋭いな。でもまあ、ひとまず聞いといて。
 勿論他のケルベロス達も動いているわけや、その辺の連携も必要になってきそうやねんけど、まず肝心なミッション破壊そのものについて説明するで。
 まず、こちらの試算によったら、埼玉県秩父山地で3チーム、青森県上北郡おいらせ町は9チーム。宮崎県高千穂峡と岩手県奥州市、胆沢城は12チームがグラディウスで攻撃すれば、確率は100%。でもまあ、そんな簡単に全部が全部数を集めるのは難しいとは思うけど、そのチーム数に満たなかっても、1/3のチーム数があれば、何とか確率は50%ある。それを多いか少ないかと見るのは皆次第。せやからもし万が一、チームが100%の数に足らへんかっても、それだけの確率は確実にあると思って欲しいかな。希望は0やないで!」
 絹の言葉を聞き、ケルベロス達は顔を見合わせる。それを見ながら、絹は説明を続けた。
「んで、さっきの敵についてや。今回の作戦は基本的に、ミッション破壊作戦を成功させた上で、敵が混乱している隙をついて、菩薩撃破を目指すというのが基本になっとる。
 さっきも言うたけど、菩薩の周囲には、菩薩直属のビルシャナ達と、協力組織のデウスエクスが居る。せやから更に陽動作戦とかで混乱を助長して、菩薩の周囲から戦力を引き離す必要があるで。
 混乱した敵は『より派手な攻撃を行っているチーム』を目指してくる。もし陽動を請け負ったんやったら、兎も角派手に動き回るのが重要や。当然、沢山の敵を引き付ける事になるから、そのチームはめっちゃ大変になる。せやから出来るだけ敵を倒して撤退すること、これが任務になるな。
 で、本体。つまり隠密行動で菩薩に近づくチームは、その残りと戦う事になる。勿論、隠密行動が途中で発見される可能性もあるから、隠密行動をするチームはそのあたりも考えなあかんやろ。あと、菩薩は基本的に安全優先。すぐに撤退行動に移る。せやから菩薩の周りにいる敵が多かったら、この菩薩にたどり着くこともできへん。要はバランスや。その辺、ちょっと考えたってな」
 絹はそう言って話を締めくくった。そして、これからケルベロス達に預ける為に用意していたグラディウスを見る。
「そうそう、今回グラディウスを全力で投入するわけやから、暫くの間、ミッション破壊作戦は出来へんようになる。でも、今回のビルシャナの作戦は、放っておいたらやばいタイプの作戦や。せやからこっちもそれくらいの覚悟見せる時や! 気合い入れて頑張ってな。そんで、此処で止めるで、おー!」


参加者
黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)
アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
十六夜・うつほ(囁く様に唱を紡ぐ・e22151)
藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
浜本・英世(ドクター風・e34862)

■リプレイ

●たとえ、それが全てでは無いのだとしても
 身を切る風が、心なしかいつもより寒い気がした。
「ふう……」
 クノーヴレット・メーベルナッハ(知の病・e01052)はそんな事を感じながら、眼下に広がる街、青森県上北郡おいらせ町を見る。視線の先には自由の女神像と思しきものが映った。まだ高度は千メートル程。かなたに見えるのは八甲田山。そして、戸来岳と同じくらいの高さ。当然ながら、その自由の女神像は点である。
 4月になったとは言え、青森は実際にまだ寒い。ましてや上空だ。当たり前といえば当たり前である。
 そんな事は分かっているのだが、クノーヴレットが感じた寒さの原因は精神的なものが大きいのだろう。
「ふう……」
 もう一度彼女は息を吐いた。白い息の行方はちぎれ、自分よりはるか上空の、自分がさっきいた場所においていかれた。そんな事を感じつつ、此処に来た意味を考えた。
「正直、菩薩累乗会で何を為そうとしてるのか、気になります。人々に害なすものなら阻止したい、以上に、何より純粋に『私は知りたい』のです……!」
 すると、彼女のグラディウスが想いに共鳴し、輝き始めた。
『そこに謎が、秘密が、『私の知らないこと』があるのなら!!』
 絹の話していた、確実に破壊する為のチームの数には足りなかった。計算するに、その確率は五分よりも少し良い程度だ。彼女の感じた精神的なものとは、その数の少なさ故だったのだろう。その事を理解しつつも、ケルベロス達は挑んだのだ。
「この辺りには、白鳥の飛来地もあると聞く。冬場にはその優美な姿が見られるらしいが」
 浜本・英世(ドクター風・e34862)が身を細くし、空気の抵抗を和らげると、その空力の効果で一気に降下を開始した。そして彼はグラディウスを抜き放つ。
 キラリと輝きを放つ光が見えた。
『人心を惑わす鳥モドキが。季節問わず居座っていい場所ではない……! 早々に、立ち去りたまえ!』
 英世がそう言い放つと、グラディウスから雷光が迸り始めた。
「そろそろこの地域も、自由にしなくてはいけません。それに、この後が控えていますからね。こんなところで止まるわけにはまいりません」
 そう呟くのはラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)。彼のバケツヘルムから、声と共に地獄の炎が吹き出す。
『私達の目標はこの先だ。引っ込んでいてもらおうねえ!』
 バリッ! バリバリバリ!!
 雷光が雷鳴を伴い、光る。
「始まったわね……」
 黒住・舞彩(鶏竜拳士・e04871)は周囲を見渡し、そう呟いた。自らの周囲には同じようにヘリオンから飛び降りた仲間達。そして少し離れた場所に、ぽつりぽつりと同じように他のチームが見えた。自らの仲間達と同じように、雷光がそれぞれのチームから打ち放たれ始めていた。
「少し、無謀だったでしょうか?」
 アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)が舞彩の表情を見て、そう呟く。すると、舞彩が首を振り、グラディウスを握り締める。
「……宮元の100%からは約半分足りなかったわ。それでも、私は信じる。私達には帰る場所があるから。それに、この先、救えなかったなんて思いをしなくていいようにする為にも、ね」
 そう言った舞彩は、顔を上空に向け何かを言うが、アゼルにはそれは聞こえなかった。その意味は知らない。知っているのは彼女の言った言葉だけ。アゼルはその言葉に対して頷く。
「そうしましょう。ではまずは、第一段階として、自由という言葉をはき違えたアホウドリの結界を破壊してしまいましょうか」
 アゼルは意を決してグラディウスを輝かせる。
『義務と責任を伴ってはじめて自由です。それを伴わない単なるワガママを自由とはき違えるな、このアホウドリが!』
 その叫びを聞きながら、篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)は自らのアクセサリ達に手を触れ、心を整える。それは彼の儀式かもしれない。自分が選び、自分で身につけたモノ達への思い。
(「法の下に生きるのも自分で選んだのなら、それもまた自由なんす。それを邪魔するのは自由の敵っすよ」)
 佐久弥の思いは、大切な魂の一つだ。それは、為したい事があるから。その為に思いを馳せるのだ。
『自由を謳いながら――自由を奪うな!!』
『次の菩薩は呼ばせない。ここで終われ、累乗会!』
 佐久弥の叫びと同時に舞彩も続く。
「ほう、頼もしいのう。それに……帰る場所、か」
 十六夜・うつほ(囁く様に唱を紡ぐ・e22151)は先ほどの舞彩の言葉を少し反芻する。
「藍凛殿」
 そして、隣にやってきた藍凛・カノン(過ぎし日の回顧・e28635)に顔を向ける。
「十六夜さん、如何されたかの?」
 カノンは彼女に向き合い、問われた理由を聞く。だが、うつほは少し微笑みながら首を少し振る。
「いや……無事に帰ろう」
「勿論じゃ」
 カノンも笑顔でそう返すと、二人はグラディウスを光らせる。
「信仰等というものは人を救いもするが……。彼奴らのものはどうも、人を惑わせる度合いが強い様じゃの、藍凛殿」
「全くじゃ。春うらら……心が安らぐ季節に、このような諸行……おいたが過ぎるのぉ……。桜をはじめ、自然が多いこの場所をこれ以上荒させるワケにはいかんのじゃ」
 うつほの言葉に、うむうむと頷き、同意するカノン。
「その様な振る舞いを、見逃す訳にゆくものか」
 ガチリ……。
 うつほとカノンがグラディウスを交差させると、その輝きがはじける。
『早々に退場してもらうぞい』
『覚悟するがよい!』
 数の足りなさは、全てではない。それを補う想いの力が、具現化したのだった。

●あきらめない
 それは奇跡だったのか。地に降り立ったケルベロス達は、思わず仲間を見渡し、そしてもう一度攻撃したバリア、そして魔空回廊の方角を見た。
「……やった、の?」
 舞彩は思わず、素直に思った事を口に出した。
「やって見るもんじゃのぅ……」
 うつほも、少し放心しているようだった。
 そう、魔空回廊はケルベロス達の目の前で崩壊したのだった。そして更にグラディウスの効果は続いているようで、爆音を轟かせながらこの地にいるデウスエクスたちを強襲していった。
「じゃあ、いくっすか」
 佐久弥はそう言って、鉄塊剣『以津真天』を担ぎ上げ、誘うように走り始めた。
「とかく派手に立ち回り暴れて、注目いただきましょう」
「まだまだ分からないことは多いですが、今は反攻の時。兎に角やっつけてしまいましょう!」
 ラーヴァとクノーヴレットが佐久弥に続く。クノーヴレットのミミック『シュピール』は、彼女の指示により後方に下がった。
「陽動を受け持つわけですから、隠密性は放棄してもかまわないでしょうか」
 アゼルが紙兵を放ちながら、派手な音が響きそうな武器を用意し始める。
 ケルベロス達は、集まった他のチームとの話し合いから、自ら陽動を買って出ていた。与えられた道は、出来るだけ敵を引き付ける事。
「十六夜さん、黒住さん、吾輩が全力で回復支援する故……存分に暴れておくれ」
 そう、カノンの言う通り、派手にやれば良いのだ。
 すると、目の前に一体のケルベロス絶対殺す明王の姿が見えた。英世はその姿を見るや否や即座に動いた。
『さて……君達も私の記憶(コレクション)に加わって貰おう。』
 禍々しい詠唱と念波が、明王に突き刺さる。
「キサマら……!」
 襲い来る念波に、ギリっと嘴を鳴らして、明王は抜刀した。しかし、その攻撃を境に、ケルベロス達は一気に攻撃を加えていく。
 ドゥン!!
 クノーヴレットが燃え盛る火の玉を放ち、佐久弥が口から熱線を吐く。すると、派手に炎が立ち上った。
「おい! いたぞ!!」
「ケルベロス……殺す!!」
 すると直ぐに、2体の明王が戦線に加わり、戦いは激戦の様相となる。

 陽動すると作戦を立てていたケルベロス達は、派手に動いた。敵に攻撃を与えつつも、周りの建物を破壊する。
『我が名は熱源。炎をお見せ致しましょうか』
 ラーヴァの高熱を宿した矢が、前線の明王に突き刺さり、また炎を上げる。
 加えてうつほがブラックスライムを解き放ち、舞彩が『竜殺しの大剣』で強烈な旋風を巻き起こす。
 すると、更に続々と集まってくるケルベロス絶対殺す明王に加え、輝きの軍勢の姿も現れ始めた。
 ケルベロスの作戦は、兎に角引き付ける事に特化した。当然それだけの敵を引き付ける事は承知の上だ。防御の力を施すことも怠らなかった。カノンがケルベロスチェイン『Geldevi』を張り巡らせ盾にし、アゼルが更に紙兵で覆う。
 ケルベロス達は、諦めるそぶりを見せなかった。現に回廊は壊れたのだ。不可能は無い。
 少しでも、隠密部隊の目的を果たすため。それは、我々の目的でもある。
「では諸君、其方の相手をお願いするよ」
 続々と集まってくる敵に、あえて余裕の表情を作り、割り込みヴォイスの効果でもって声を届ける英世。
 確かに此方のチームは少なく、勝ち目、即ち隠密部隊における菩薩の撃破が出来るかどうかも怪しかった。
 だが、こちらの総数など、グラディウスのスモークや雷光による効果もあり、相手にはわからないのだ。混乱させるだけさせてしまえば良い。
 その思い一身で、大群に怯むことなく立ち向かい、敵を引き付けたのだった。

●帰る場所が有る限り
 しかし、思いと、現実は必ずとも一致しない。
「ああ!!」
 最前列で身体を投げ出したクノーヴレットが、輝きの軍勢と、明王の刀で切り伏せられると、彼女は膝から崩れ落ちた。
 集まった明王は5体。そして輝きの軍勢は6体に及んでいた。
『遠き地より来れ同胞…妾の前に立ち塞がる者に永遠の後悔を味あわせてやるが良い!逃げる事も立ち向かう事も許さず消え失せよ…同胞怨嗟!』
 うつほが前衛で向かってくる明王3体と輝きの鎌2体に対し、真紅のオーラを絡み付かせ、その動きを阻害する。
「今じゃ……!」
 そこに舞彩が飛び込み、一番ダメージを与えた明王を袈裟切りに切り裂く。
「コ……ころ、す」
 そうすると、漸く明王の1体が倒れた。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ねェエェェェ!!!」
 だが、デウスエクス達の勢いは衰えない。それどころか、増すように猛攻をかけてくる。
 ドドドドド……!
 英世が大量のミサイルの雨を降らせ、超加速突撃で戦場を駆け抜けるアゼル。
『天より降り来る天ツ狗――万物喰らい万象呑まん』
 そして、佐久弥が二本一対の鉄塊剣を、目の前の動きが鈍った輝きの盾に対して打ち込むと、そのまま声を上げる事無く消滅する。
「……ぐぅ!!!」
 しかし、次の瞬間ラーヴァが輝きの鎌2体の攻撃を受け、倒れた。
(「これまで、じゃの……」)
 最後尾で支援をし続けていたカノンは、自らの回復が追いついていない現状を、確りと把握していた。他のチームはどうだっただろうか。隠密は成功したのか? そんな事を冷静に理解しつつ、引き際を見極める。
「皆さん。もう十分じゃ! 黒住さんはメーベルナッハさんを。浜本さんはラーヴァさんをお願いするのじゃ!」
 ケルベロス達は、これでは足りていないと言うことを密かに感じていたのだが、誰一人それを言葉にはしない。カノンの言葉に素直に動く。
 悔しかったが、最大の目的は叶えられたのだ。来るべき決戦に備える。これで終わりと言うわけではない。
 それに、我々には帰る場所があるのだ。
『さて…お主の動き、少しばかり止めさせて貰うとしようかのぉ? 吾輩と…この蝙蝠達の歌でのぉ…。』
 無数のコウモリが、今にも切りかからんとする明王を襲う。それが、撤退の合図だった。
 ガキン!!
 すると佐久弥が、更に横から飛び込んできた明王の刃を受け止めた。
「行って下さい……っす」
 そのまま殿を務めるつもりだ。乱戦になってしまっては、じりじりと引き下がるわけにも行かない。誰かが引き付けなければ、撤退は成功しない。
「馬鹿! 貴方も帰るのよ!」
 その危険を察知した舞彩が、クノーヴレットを担ぎながら叫ぶ。
『ユニット固定確認…炸薬装填…セーフティ解除…目標捕捉、これより突撃する!』
 アゼルが佐久弥に切りかかっている明王に、超近接仕様のパイルバンカーを打ち込む。
 ド……ドゥン!!
 鈍い音を立てた後、派手に爆発するパイル。
「貴方一人ではないのです。私も援護します」
「後方確保じゃ! 皆、今じゃ!」
 うつほが、脱出経路を確保し、先頭を切って飛ぶ。続き、次々と離脱していくケルベロス達。
「コロス!!!」
「逃がすものかぁ!!」
 しかし、明王が追撃に動く。ギラリと爆炎を反射し紅く輝く明王の刀。
「待て!」
 その時、輝きの軍勢の声が聞こえ、
「何故だ!?」
 という声が続けて聞き取れた。だが、その反応に構っている暇はない。
 最後に残った佐久弥とアゼルは、じりじりと距離を取りながら、大きく跳躍した。
 徐々に視界から遠ざかるデウスエクス達。明王が何かを叫ぶが、それ以上動く事は無かった。その様子を視界に入れながら、気を抜かず、駆け抜けた。
 そして数刻の後、全員が戦闘区域外への脱出に成功したのだった。

「他の皆さんは、どうだったのでしょう……?」
 カノンに傷を癒してもらったクノーヴレットが、煙の晴れてきたおいらせ町を見て呟いた。
「ちょっとまだ通信が出来ないみたいなので、まだ分かりませんが、恐らくは……」
 アゼルはそう言って遠くを見る。その先の言葉は、言わなかった。確証が無いからに他ならないが、余り結論を付けたくも無かったのだろうか。
 先ほどの爆音とはうって代わって、静けさとともにまだひやりとした風がそよぐ。アゼルが敵地に向かい、敵の冥福を祈り、黙祷を捧げる。
「これで終わりじゃない」
「ですが、回廊は壊せました。ひとまずは、と言ったところでしょう」
 英世の言葉に頷きながら、こちらも回復したラーヴァが頷く。
「そうね、まずはその事を祝いましょ」
 舞彩がそう言うと、緊張がほぐれてきたのか、全員が少しの笑みを浮かべた。
「……少し、腹が空いたのぅ」
「妾もじゃ」
 カノンが少しお腹を押さえて呟くと、うつほもまた同意して頷いた。

「宮元のご馳走が待ってるわ。早く帰らないと冷めちゃうしね」
 叫びの前に言葉を発したのは、ヘリオンに向かっての決意だった。それが叶うことに喜びを感じながら、舞彩はまた同じように上空を見る。
「食べて、力を付けるの。お腹が空いたら力は出ないし。なんてね」
 迎えのヘリオンが見えた。
 ひやりとした風の中に、少し温かさを感じる事ができた。
 春を運ぶ風。その事にほっとした表情を浮かべるケルベロス達だった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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