累乗会反攻作戦~菩薩強襲

作者:七尾マサムネ

「シルフィディア・サザンクロスさん、軋峰・双吉さん、大成・朝希さん、アビス・ゼリュティオさん、フィオ・エリアルドさん、館花・詩月さん達の調査活動によって、菩薩累乗会を起こしていた4体の菩薩の動向を察知できました」
 地図を広げ、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)が示したのは、埼玉県秩父山地、青森県上北郡おいらせ町、宮崎県高千穂峡、岩手県奥州市胆沢城の4か所だった。
「菩薩達は、これらビルシャナの占領地に『精舎』を建立するつもりのようです。これが成立すれば、難攻不落の拠点となるでしょう。更には、大規模儀式を行うことも可能になるかもしれません」
 これを防ぐため、大規模なミッション破壊作戦が敢行される。
 現在使用可能なグラディウスを全て投入。4か所の占領地を同時に破壊し、精舎を建立中の菩薩の撃破を目指すのである。
「4か所のミッション地域には、菩薩が1体ずつと、直属の配下ビルシャナがいます。更に、そのミッション地域のボスであるビルシャナや、幻花衆と輝きの軍勢が菩薩を守護しているようですね」
 各ミッション地域の戦力の内訳は、以下の通りだ。
 1つ目、埼玉県秩父山地には、自愛菩薩、エゴシャナ、幻花衆、輝きの軍勢、ちっぱい絶対殺す明王。
 2つ目、宮崎県高千穂峡には、恵縁耶悌菩薩、デラックスひよこ明王、幻花衆、輝きの軍勢、アヴァリティア。
 3つ目、岩手県奥州市の胆沢城には、闘争封殺絶対平和菩薩、カムイカル法師、幻花衆、輝きの軍勢、鳳凰光背武強明王。
 そして、4つ目、青森県上北郡おいらせ町には、芸夢主菩薩、ケルベロス絶対殺す明王、幻花衆、輝きの軍勢、フリーダムビルシャナ。
「各ミッション地域を確実に破壊するには、埼玉県秩父山地は3チーム、青森県上北郡おいらせ町は9チーム。宮崎県高千穂峡と岩手県奥州市の胆沢城は、12チームが必要でしょう」
 参加チームが必要数の1/3程度だった場合でも、50%の確率で破壊は可能。参加チーム数が多ければ多いほど、破壊の確率を上げる事ができる。
「今回の作戦はまず、グラディウスによるミッション破壊を成功させる事が目標です。それが成功したら、敵軍の混乱に乗じて、菩薩の撃破を目指してください」
 役割は、『陽動』と『菩薩の急襲』の2つに分かれる。
 まずは陽動チームが、菩薩を守るビルシャナ達や協力組織のデウスエクスに陽動作戦などを仕掛けて混乱を起こし、菩薩の周囲から引き離す。
 混乱した敵は、『より派手な攻撃を行っているチーム』を狙ってくる。陽動チームが目立つように行動し、周囲の敵を多く引き付ける事ができれば、菩薩急襲チームが菩薩との戦いに専念できるようになる。
「多くの敵を引き付けたチームは苦しい状況となりますが、全ての敵と正面から戦う必要はありません。敵を引き付けたまま移動して、出来る範囲で敵の撃破を行った上で、ミッション地域から撤退してください」
 引き付けた敵が少なければ、全て撃破して撤退する事も可能だが、菩薩を攻撃するチームに、より多くの敵が向かう事になってしまう。
 そして、隠密行動で菩薩に近づくチームが急襲に成功した場合、菩薩と、周囲に残った戦力を相手にする事になる。
 菩薩は安全に撤退する事を優先するので、菩薩の撃破が無理だと判断した場合、すぐに撤退を選ぶ必要があるかもしれない。
 また、菩薩に接近する途中で隠密行動がバレた場合、敵の迎撃を受け、菩薩にはたどり着けない。
「菩薩達の動きを調査してくださった方々のためにも、この作戦は何とか成功させたいと思っています。そのために、是非、皆さんのお力を貸していただきたいのです」
 イマジネイターの言葉には、強い思いがこもっていた。


参加者
マイ・カスタム(ゼロと呼ばれたカスタム・e00399)
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)
マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)
山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)
ナイン・クローバー(青薔薇と歯車・e51019)

■リプレイ

●砕きの先に
 宮崎県は高千穂峡に、ケルベロス達の叫びが轟いた。
 突き立てられるグラディウス……直後、四方八方へとまき散らされる爆風と閃光。
 破壊成功率は100%には満たなかったはず。だが、足りない確率を補ったのは、ケルベロス達の魂の熱量だろう。
 かくして、ミッション破壊は完遂された。だが、今作戦において、それは第一段階。
 第二段階として、ケルベロス達は複数のチームに分かれ、行動を開始した。その目的は、この地に精舎なる拠点を建立せんと企む、恵縁耶悌菩薩の撃破である。
 すぐさまビルシャナの軍が、こちらを迎撃すべく展開してくる。対する陽動班が派手な戦闘を開始したところで、隠密気流をまとったナイン・クローバー(青薔薇と歯車・e51019)達は、ひそかに進軍する。目指すは菩薩の首1つ。
 隠密気流組として先行するマイ・カスタム(ゼロと呼ばれたカスタム・e00399)が、周囲の敵の気配を探る。
 安全が確保されたとみるや、アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)が、後続の仲間達を手招きする。
 それを受け、マキナ・アルカディア(蒼銀の鋼乙女・e00701)達が追随した。シィカ・セィカ(デッドオアライブ・e00612)が、足元の植物達に道を開けてもらう事で、わずかでも時間を短縮する。
 速やかに移動するテレサ・コール(黒白の双輪・e04242)は、はた目には無表情で何を考えているかわからないところがある。だが、今日のテレサはメイドにして仕事人、きっちり仕事をこなすつもりだ。
 気流に身をゆだね、先行を続ける中村・憐(生きてるだけで丸儲け・e42329)。陽動班が菩薩の護衛を引きつけてくれていることに感謝しつつ、道ならぬ道を行く。
 進行ルートを逐一確認し、堅実に進む山之内・涼子(おにぎり拳士・e02918)。今回の作戦にかける意気込みは十二分だが、今はそれを内に秘め、ひそやかに歩を進める。

●菩薩強襲!
 ひたすらに戦闘を避け、一行がたどり着いたのは、広場のような場所だった。
 数十もの構造物……石灯籠に囲まれている。こここそが、建設中の精舎なのだろう。
 それを裏付けるように、複数種のデウスエクス達が集結していた。物陰に身を隠してうかがう先には、デラックスひよこ明王や幻花衆、輝きの軍勢、アヴァリティア。
 そしてそれらに守られ、悠然と構えた1体のビルシャナがいる。ビルシャナの中でもひときわ特徴的なその風貌……間違いない、恵縁耶悌菩薩だ。
 見たところ、護衛の数は総勢30体ほどにものぼる。
 だが、ここで仕掛けない、という選択はなかった。意を決し、急襲を仕掛けるケルベロス達。
 敵陣の右側から攻めかかったのと同時、反対側から、もう1班が飛び出す。ちょうど、左右から敵を挟撃する形となる。
 隠密班は3つの予定だったが、残る1班の姿はまだない。
「ええんやでで済んだら警察いらんのじゃ! 警察作った偉大な先人の皆さんにワビ入れんかぁ!」
 先陣を切って突撃をかけたのは憐だ。若干三下臭いが、テンション充分、といった趣。数と単体戦力ではいざ知らず、気持ちで負けてはいられない。
 両面から迫る2チームに対し、それぞれ10体ほどの護衛が差し向けられた。一方、恵縁耶悌菩薩自身は残り10体を随伴とし、全く戦闘に参加する素振りを見せない。
 万全の布陣、不動の菩薩。この襲撃は既に察知されていたという事か、とマイは眉をひそめた。だが、陽動に奮戦してくれている仲間達のためにも、退く訳にはいかないし、
「退くつもりはない!」
 そうだろう、とマイが一瞬うかがった仲間達の瞳には、表に現れた度合いの差こそあれ、それぞれに闘志が宿っている。
 テレサにも、譲れないもの、ええんやでなどでは済ませられないこだわりがある。それは眼鏡。眼鏡は全てを見通し、世を浄化に導くと信じている。その思いは先ほど、魔空回廊を砕いてきたばかりだ。
 だがそれは、恵縁耶悌菩薩の教義のように狭いものではない。
「人生の行い、赦す、赦されるのではないわ。背負って向かい合っていくのよ、この限られた命の限りを使って、ね」
 恵縁耶悌菩薩に言葉を投げたマキナに、グラディウスにこめた思いが蘇る。
 この地球の人々は、欲を律し、夢に変えてきた。その夢を皆と共有して叶えてきた事で、今がある。強き欲望を全て肯定するのはただの我欲、独りよがりに過ぎないのだ。
 やがて、乱戦の激しさが加速していく。

●防衛ラインを突破せよ!
 こちらのチームと刃を交えているのは、4体の輝きの軍勢を筆頭に、アヴァリティアが1体、幻花衆が3体、そしてデラックスひよこ明王が2体。これを破らなければ、恵縁耶悌菩薩の喉元に刃を突きつける事は叶わない。
 シィカの戦意は、既にギアの上がった状態だ。叫びの余韻であろう。
 自分勝手な、強い欲望だけが叶えられるなんて、ノーロック。皆の欲望が叶うのは、助け合ってこそ。『ええんやで』の一言などでは、絶対済ませてやらない!
 そして、シィカの口元に竜の力が収束すると、炎の一閃となって、敵前衛を焼き払った。
「ビルシャナや菩薩の侵攻は、みんなで頑張って食い止めないとね!」
 隠密行動中は封じていた気合が、涼子の体から溢れ出た。
 中衛から飛びかかってきた幻花衆の攻撃を、空手仕込みの体術でさばく涼子。淀みのない一撃で、本来の標的を一気に吹き飛ばした。
 だが、味方を一瞥すらせず、アタッカーの輝きの鎌2体が前に出る。
 ナインが戦うのは、人命を守るという使命がプログラムされているから。だが、それだけではない。
 自らも解決に関わった恵縁耶悌菩薩の事件で、知ったのだ。許されたいという思いにつけ込み、人をビルシャナに変えてしまうビルシャナの行いを。
「許しも救いも、本人が享受出来なければ意味がない。人の心を弄び、救いを求めた者の心を消し去る貴方を、私は何よりも許せない……」
 仲間と狙いを合わせ。ナインの全身から、無数のミサイルが射出された。再度攻撃を仕掛けようとしていた敵陣に炸裂すると、行動阻害をばらまいた。
 荒れ狂う爆風の中から飛び出したのは、ひよこの群れだった。次々と着弾すると、ケルベロス達を火の海に沈めていく。
 後方に陣取る2体のデラックスひよこ明王が、体を取り巻くひよこ達を、四方に解き放ったのだ。戦場のカオス度が一気に増す。
 輝きの鎌の巨大鎌が、ケルベロス達の守りを切り裂き、アヴァリティアがホールドしたケルベロスから体力を簒奪していく。更には、前衛をフォローする幻花衆達が、氷の螺旋や掌底を撃つ。
 ケルベロス達にも負けぬ多彩な攻撃に、アリスは臨機応変に対応する。
「恵縁耶悌菩薩は『回れ右して帰ってもええんやで』とおっしゃっているようです。引き返すなら今のうちですよ」
「皆さん、菩薩さんや明王さんの変てこな言い回しに惑わされないで……頑張って下さい……!」
 明王の言葉を遮ったアリスの金の髪に花が咲く。花……白薔薇が戦場に咲き誇り、花園を為す。舞い散る白の花弁が、仲間達の傷を優しく包み、痛みを取り除いていく。
「底の見えないお笑い集団かと思ったら、とんだ食わせ物だったな。こいつらの好きにはさせない!」
 マイの胸にも、叫びの熱がまだ残っている。
 この地に住まう人々の平穏と幸せ、そして愛する仲間達を、侵略者であるビルシャナの都合で好きになどさせてなるものか。
 ガード役を務める輝きの書に、マイがクローアームを突きこんだ。インパクトと同時に叩きこまれたグラビティ・チェインが、敵の盾にひびを入れる。
「今回の作戦に合わせて任侠映画観てきたっす! リスペクトじゃけん!」
 意気込みとともに、何やら怪しげな広島弁を操る憐。仲間の攻撃で態勢を崩したアヴァリティアを無慈悲に踏み台にすると、流星蹴りを繰り出した。向かうは輝きの書。
 かざした一対の盾と、憐の足先がぶつかり合い、飛散するエネルギーが石灯籠を照らす。
 ジャイロフラフープを駆り、敵を翻弄するテレサ。黒きライドキャリバー・テレーゼが自らのボディを炎弾と化して、敵陣に飛び込んだ。
 そしてテレサは、フープから狙いすました弾丸を射出。被弾した輝きの鎌を、更にもう一撃が襲う。
「心のあらんかぎりを許容出来ない貴方達は悲しい存在ね」
 石灯籠を蹴り、マキナが標的を狙う。襲来する氷の螺旋に身を白く染めながらも、胸部装甲を展開し、ブラスターを照射した。
 着弾。吹き付ける熱と煙をものともせず、マキナは次の攻撃へと移る。
 戦端が開かれ、既に数分が経過している。だが、加勢が来る気配はなかった。
 その一方で、ケルベロス達は次第に消耗していく……。

●苦闘の果てに
 石灯籠の間に舞い散るビルシャナの羽毛を払ってアリスが手をかざすと、仲間達の前に防盾が招来された。飛来する敵の攻撃を受け止め、減衰させる。
 アリスの叫びは、この高千穂という神々とも縁の深い場所を、自分勝手な教義によって穢させはしない、というものだった。その思いは力となり、仲間達の傷を、穢れを浄化していく。
 回復能力を持つアヴァリティアに向け、シィカがカプセルを投じた。敵眼前で自壊するように弾け、粒子を散布する。まとわりついた成分が、アヴァリティアの治癒力を乱調させる。
 マキナは蒼のクリスタルを生成。それは、飛び交うひよこをかわしつつ、前方の仲間達の元に届く。マキナの意に従い、回復と防御を両立させる端末として。
 ナインのケルベロスチェインが、戦場を駆け巡る。急制動をかけ方向転換すると、石灯籠の陰から輝きの書を捕縛した。
 ナインの作り出した好機をつかみ、涼子が駆ける。クラッシャーとして、チームのダメージソースたる自分が行かずしてどうするか。
 涼子のグラビティ・チェインを乗せたガントレットが、輝きの書を襲う。その身をコーティングしていた防御の加護が、一瞬で破砕された。
 塵に熱、衝撃……フラフープに戦闘の余波の露払いを任せ、テレサは狙撃を敢行した。だが、矢面に立ち敵を食い止めてくれていたテレーゼが、遂に横転し、動きを止めた。
 その奮闘を無駄にせぬよう、テレサがトリガーを引けば、砲撃が輝きの書のシールドを打ち砕く。
 味方を庇って被弾するマイ。ひよこボムの爆風に穴をうがって接敵、損傷していた輝きの書に突撃、その四肢をホールドした。
 双の盾に挟まれるより早く、零距離での爆砕を発動する。
 だが攻撃後の隙を狙い、アヴァリティアが来た。地を転がるマイ。
 明らかに劣勢だ。敵は余裕をのぞかせるものの、対するケルベロス達は回復にかける時間が増えていく。
 戦況をうかがっていたアリスが、もう1つのチームに視線を向けた。そちらの戦況も同様に厳しいのが見て取れる。
 倒れそうな仲間を支えながら、全身全霊をこめた歌で皆を癒し続けるシィカ。
「この調子じゃ、護衛をやっつけても、その頃にはボク達もへとへとデス……!」
 思わずつぶやくシィカの顔にも、疲労の色が濃い。
 菩薩を撃破する、という目的は果たせそうにない。ならば、と皆が視線をかわした。
 もう一方のチームから、目くらましのようにバイオガスが噴射されたのとほぼ同時、拳を突き出す涼子。残る力をこめ、ガ迫りくる輝きの鎌に拳を叩きつけ、押し返す。
 そして自己回復を終えた憐も、拳をぐっ、と握りこむと、グラビティ・チェインが収束していく……その目に。
「ケルベロスビィィィーム!!」
 明王が。菩薩が。そして仲間が見た。憐の目から光線が射出される様を。
 光と衝撃が溢れる中、ケルベロス達は一斉に撤退に転じた。
 負傷者には肩を貸し、石灯籠の広場から離脱しながら、陽動班に自分達の撤退を連絡する。
 刹那、恵縁耶悌菩薩を振り返るナイン。無機質なはずのナインの双眸に、悔しさが滲んだようにも見えた。それは仲間達も同じ。ミッション破壊にこそ成功したが、菩薩撃破は果たせなかったのだから。
 隠密行動にもっと万全を期していれば、そして連携を密にしていれば、あるいは……そんな悔しさを噛みしめる一同だった。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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