累乗会反攻作戦~今、反撃の時

作者:地斬理々亜

●精舎建立を阻止せよ
「シルフィディアさんに双吉さん、朝希さんやアビスさん、フィオさんに、詩月さんといった、多くのケルベロスの皆さんが調査を行ってくださいました。おかげで、菩薩累乗会を実行している菩薩達の動きを発見できました!」
 白日・牡丹(自己肯定のヘリオライダー・en0151)は嬉しそうに告げ、それから表情を引き締めた。
「見つかった4体の菩薩は、ビルシャナの占領地に『精舎』を建立しようとしているようでした。すなわち、埼玉県秩父山地、青森県上北郡おいらせ町、宮崎県高千穂峡、岩手県奥州市胆沢城、の4か所です。これらの地域への『精舎』建立を許せば、難攻不落の拠点が出来上がってしまうでしょう。その上、何らかの大規模な儀式に使われることも考えられます」
 そこで、と牡丹は言葉を発した。
「大規模なミッション破壊作戦を行いましょう。現在使用可能なグラディウスは全て使い切って、ビルシャナの占領地を襲撃するんです。それによってミッション破壊に成功したら、そのまま、菩薩の撃破を目指してください。それが、今回の作戦です」

 牡丹の説明は続く。
「各地域の戦力としては、まず、4つの地域全てに、幻花衆と輝きの軍勢がいるようです。その他は、以下の通りです」
 彼女はホワイトボードを出し、ペンで書きつけた。

 埼玉県秩父山地に、自愛菩薩、エゴシャナ、ちっぱい絶対殺す明王。
 宮崎県高千穂峡は、恵縁耶悌菩薩、デラックスひよこ明王、アヴァリティア。
 岩手県奥州市胆沢城が、闘争封殺絶対平和菩薩、カムイカル法師、鳳凰光背武強明王。
 青森県上北郡おいらせ町には、芸夢主菩薩、ケルベロス絶対殺す明王、フリーダムビルシャナ。

「戦力は以上です。また、各ミッション地域を破壊するためには、チーム数を集めることが必要です。確実に破壊するのに必要なチーム数は、以下の通りになります」

 埼玉県秩父山地は3チーム。
 青森県上北郡おいらせ町は9チーム。
 宮崎県高千穂峡と、岩手県奥州市胆沢城は、12チーム。

「仮にチーム数が3分の1でも、五分五分で破壊可能です。チーム数が多ければ、それだけ破壊の確率は上がるでしょう」

●ヘリオライダーの語る作戦
「それから、今回の作戦についてです。まずグラディウスでミッション破壊を成功させ、それにより敵が混乱している隙を突いて、菩薩撃破を目指す。これが基本となります」
 牡丹はさらに説明を続行した。
「菩薩の周囲には、前述のデウスエクス達がいます。そこで、菩薩の周囲から戦力を引き離すため、さらに陽動作戦などを行って、デウスエクス側の混乱を助長してください」
 つまり、と彼女は述べる。
「まず、派手な攻撃を行うことで、敵の防衛戦力を引きつけるという、陽動に回るチームが必要です。菩薩を急襲するチームの側は、敵に発見されないように隠密行動で菩薩に近づいてください。このチームの連携が、作戦の成否を分けるでしょう」
 陽動と急襲、双方のチームの協調。それが重要なのだ。
 牡丹は続ける。
「ミッション破壊に成功すれば、混乱している敵は、『より派手な攻撃を行っているチーム』のところに殺到してきます。派手な襲撃によって、菩薩の周囲の敵をより多く引きつけられれば、菩薩を急襲するチームの成功率を上げられるでしょう。陽動チームは、多くの敵を引き付けたなら、全ての敵と戦うのではなく、上手く敵を引きずり回し、可能ならば各個撃破を行ってください。それから撤退することになります。もし、引き付けた敵が少なければ、目の前にいる敵を撃破し撤退することもできますが、この場合は菩薩を急襲するチームが多くの敵を相手にすることになってしまいますから、気をつけてください」
 最後に、と牡丹は言葉を紡ぐ。
「菩薩撃破のための必要戦力は、1地域につき10チームが目安になります。10チーム以上集められれば、7割以上の確率で撃破が可能になるはずです。確実な菩薩撃破のためにはチーム数を集中させることも必要でしょうし、連携の内容も大きく影響するでしょう」
 牡丹は祈るように手を組んだ。
「菩薩累乗会は、ここで必ず阻止してください。恐ろしい災厄となる前に。ケルベロスの皆さん、今こそ反撃を。どうか、お願いします!」


参加者
倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)
アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・e01880)
アウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)
氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)
長船・影光(英雄惨禍・e14306)
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)
リョウ・カリン(蓮華・e29534)
ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)

■リプレイ

●成否
 宮崎県高千穂峡。
 ヘリオンよりこの地に降下したケルベロス達は、魂の叫びと共に、グラディウスを振るった。
 結果、ミッション破壊は成功。
 次なる目標は、恵縁耶悌菩薩の打倒である。
 そのために、隠密行動による接近を選んだのは3班。その内の1班として、8名のケルベロスが峡谷を進んでいた。
(「こっち、だめ。あっち、行こう」)
 スーパーGPSによって現在地の表示された地図を手に、ルートを選び、ハンドサインで仲間に伝えるのは、アウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)の役目。
 長船・影光(英雄惨禍・e14306)は頷くことで了解の意を示し、8名の先頭を進んだ。彼の前方では、植物が自ら避けていく。防具特徴の一種、隠された森の小路である。
 迷彩を施した装備を身に纏い、時には峡谷を流れる川の水底を進む。
 息を殺し、気配を殺して、ケルベロス達は菩薩の元を目指した。菩薩がいると思しき広場へと、少しずつ、少しずつ、近づいていく。
 だが、彼らの隠密行動に穴があったのは間違いない。例えば、隠密気流は非戦闘時に使う能力である。今回のように、既に戦闘態勢に入っている敵に気づかれないようにしながら、戦場内を移動するような作戦では、頼りにすべきではないものだ。
 また、他班との連絡手段をいくつも用意し、有用なものを使うようにする、という準備の仕方も良くはなかっただろう。戦場に着いてから全て試す余裕など、ないのだから。
(「なんだか胸騒ぎがするね……」)
 そう心に浮かべた、氷霄・かぐら(地球人の鎧装騎兵・e05716)。彼女の視界は、不意に黄色に染まった。
「え?」
 直後、ぽふっ、というキュートな音を立てて、かぐらの顔面に衝突したのは……大きなひよこだ。見た目にそぐわない痛みは、それが攻撃グラビティであると彼女に教える。
「見つけましたよ! ケルベロス!!」
 ケルベロス達の斜め前方で声を上げたのは、敵たるビルシャナの1体、デラックスひよこ明王。脇には、2体の幻花衆が控えている。
「いけない!」
 リョウ・カリン(蓮華・e29534)は思わず声を上げた。これでは、菩薩のいる場所まで移動することは不可能だ。
「こうなった以上、仕方ないかしらね」
「ええ、無念ですが……」
 スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)と、倉田・柚子(サキュバスアーマリー・e00552)が視線を交わし、戦闘の構えをとった。
「やるしかない」
 アルディマ・アルシャーヴィン(リェーズヴィエ・e01880)もまた武器を構える。菩薩の急襲は残る2班に託し、自分達は敵を引きつける……そうする他ないのだ。
 そんな中、ソルヴィン・フォルナー(ウィズジョーカー・e40080)はメガホンを取り出した。じっと静かにしているべき時間は終わったのだ。
「貴様らは欠片も残さず消してやるわい! ふはは、ははははは!」
 煽る、煽る――陽動の効果を少しでも上げるため。
「汝、強欲なる者よ」
 ばさり、と、翼を広げる音がした。
「その欲望、満たしたいと願うか」
 音の聞こえた方向に立っていたのは、黒い羽毛と赤い瞳を持つビルシャナ。アヴァリティアである。
「こいつは……なかなかの大物が釣れたようじゃな!」
 にやりとソルヴィンは不敵な笑みを浮かべる。残り2班となってしまった隠密班が、これで少しでも楽になったはずだと、そう信じて。

●衝突
「汝らよ、強欲を肯定せよ」
 アヴァリティアが発した言葉は、前衛のケルベロス達の精神を揺らす。それは、催眠を伴う高威力の攻撃グラビティだ。
 次に動いたのは幻花衆である。2体の螺旋忍軍は、氷結の螺旋と、螺旋を籠めた掌を、共にソルヴィンに向かわせる。
「フォルナー、危ないわ!」
 かぐらが飛び出し、幻花衆の片方がソルヴィンの胸へと突き出した掌を代わりに受けた。
「すまんの。さて……」
 ソルヴィンは幻花衆を見据える。一撃で倒せるか否か、敵の見た目から判断することはできそうにない。
「ま、やってみるかのう! ふはは!」
 超常への憎しみは、深い深い虚無を呼ぶ。爆縮と爆裂を繰り返すそれは、幻花衆を呑み込んだ。絶大な威力をもって敵を襲った、『Harrow Hollow(ハロウホロウ)』。だが、幻花衆が膝を折ることはなかった。
「回復するよ! ――大鷲陣!」
 メディックたるリョウが、九尾扇を前へ突き出す。百戦百識陣、それによってリョウは前衛の仲間達に力を与えた。
「お受けなさいな!」
 スノーが、炎纏う蹴りを幻花衆へ叩き込む。
「エンチャント、まかせて」
 アウィスがバイオレンスギターの弦へと白い指先を伸ばした。奏でられるのは、立ち止まることなく戦い続ける者達の歌、『紅瞳覚醒』。その音楽は、仲間達を力づける。
「足止めは私が!」
 アルディマが、ハンマーを変形させ、幻花衆を砲撃する。影光も同じく、轟竜砲の砲弾を幻花衆へ撃ち出した。
 柚子の爆破スイッチによって、前衛の仲間を鼓舞する爆煙が上がる。ウイングキャット『カイロ』は羽ばたき、清浄の風を送った。
「油断しないで戦わないとね」
 呟くかぐら。彼女は、仲間を警護するドローンを展開した。
 直後、アヴァリティアの両腕がかぐらを襲う。欲望を掴むその腕は、かぐらの体に鋭い痛みをもたらした。
「やってくれるわね!」
 かぐらは叫ぶ。
「羽毛の癒しを、あなたに」
 アヴァリティアの後方では、デラックスひよこ明王が、幻花衆をひよこで包み、傷を塞いでいた。それによって活力を取り戻した者と、元より無傷の者、2体の幻花衆達は、再び、ケルベロス達へと襲い掛かる。
「いけません!」
 仲間を庇い、螺旋の餌食になったのは、柚子、それにカイロであった。
「幻花衆は2体ともジャマーですか……」
 身を蝕む複数の状態異常を感じながら、柚子は呟いた。

●戦況
「世に満ち充ちる影に立ち。人に仇なす悪を断つ。骨には枯木を、肉には塵を、濁る血潮は溝鼠」
 どこか自嘲的な詠唱を紡いだのは、影光。彼は、自らが憧れた、今は亡き養父の力を、ほんの一瞬再現するため、強制的なダウンロードと展開を行う。
「擬い物の手にて、散れ。偽・管理者権限実行」
 『偽・管理者権限実行(クラッキング・イミテーションヒーロー)』――まだ使いこなせていない、激しく劣化してもいる、英雄の力を影光は振るう。その一撃は、消耗した幻花衆の1体、その生命を終わらせた。
 最初の敵の撃破。だが、そこから戦いは長引いた。
 『恵縁耶悌菩薩に集中攻撃を行う』。それは、この班のケルベロス達の共通認識であったと言えよう。
 しかし。菩薩の元にたどり着けなかった場合、どの敵から撃破するか。それは、方針を統一できていなかったのだ。
 デラックスひよこ明王がメディックであると判断したソルヴィンは、主な攻撃対象をそちらにチェンジ。
 アルディマがターゲットにしたのは、体力が低そうな、もう1体の幻花衆。
 このようにケルベロス達がバラバラな相手を狙った結果、速やかな各個撃破は成り立たなくなった。
 敵と味方、双方ともに、じりじりと疲弊してゆく。
 やがて、アヴァリティアが振るった両腕によって、カイロが限界を迎え、消滅した。
「く……」
 柚子が悔しげに奥歯を噛み締める。
 けれど、今はヒールが不要な状況になったと言えた。クラッシャーのアヴァリティアによる猛攻を、カイロがその身で引き受けたがゆえだ。
「今しか、ありませんね」
 柚子は黒色の魔力弾を形成し、撃ち出した。トラウマボールが向かった先には、ソルヴィンやスノーの攻撃で消耗しきっていた、デラックスひよこ明王。
「ひゃあー!?」
 甲高い断末魔を上げ、デラックスひよこ明王は倒れる。そのまま、二度と起き上がることはなかった。

●撃破
 残った幻花衆に、アウィスが小動物を飛ばす。そのファミリアシュートに続いて、かぐらが精神を極限まで集中させる。見つめたその先で、ぱん、と幻花衆の体が爆破された。サイコフォースである。
「アルシャーヴィン、とどめを」
「引き受けた、氷霄」
 かぐらへと頷いたアルディマが、ドラゴニックハンマーを構える。再び砲撃形態に変形したその鎚は、砲口から弾を幻花衆目がけて撃ち出した。吹き飛ばされた幻花衆はそのまま動かなくなる。
「あとはお前だけだ」
 影光が言う。見据えた先には、アヴァリティア。
 このビルシャナとケルベロス達は、激しくぶつかり合った。
 スノーの、ガトリングに火を噴かせ、時に自らを光の粒子に変え突撃する様は、まるで戦闘狂。ビルシャナという存在への怒りゆえだ。弟が手作りしてくれた防具……無事であるようにと祈りの籠められた、『スノーの美しさをより一層引き立てる着物』の裾を翻しながら、彼女は戦った。
「ふはははは!」
 ソルヴィンは、炎や氷を伴う高威力の攻撃を繰り出し続ける。
 影光とアルディマの、足止めを軸とした、地道だが確実な攻撃は、じわじわと敵の動きを鈍らせていった。
「華色鮮やかに咲き誇り、蝶嬉しげに舞い踊る、風仄かに香り、月清らかに照らす」
 リョウの魔術、『華蝶風月』。炎が現れ、華の形となる。溢れる魔力は蝶となって、仲間に月の加護をもたらした。彼女によるヒールは、前線を支える要となっている。
「これが私の万能薬です」
 柚子が、サキュバスミストを濃縮した液体、『恋愛色塗料(ピンクインク)』で、傷ついたかぐらを癒す。かぐらと柚子は共にディフェンダーとして、仲間を護るように動いていた。
 アウィスの、月光を思わせる銀色の髪が、さらりと流れる。
「Trans carmina mei, cor mei……Viduo.」
 彼女が透き通るような声で紡ぐのは、短調の小即興曲、『束縛のインベンション』。アヴァリティアへ向けて謳われるその詩は、相手を音へと捕らえようとする。
「ふむ、我を束縛せんと欲するか……だが!」
 幾重にもかけられたパラライズだったが、それでもアヴァリティアは動いた。何かを鷲掴みするように、アヴァリティアの両腕が動かされる。
 直後、柚子が苦しげな声を小さく上げたかと思うと、彼女は自分の胸を押さえて倒れた。欲望を掴む両腕の標的となり、積み重なった負傷に耐えきれなくなったのだ。
「ちと不味いのう!」
 ソルヴィンが、再度、虚無を呼び、アヴァリティアにぶつける。
 ぐらり、アヴァリティアがよろめいた……だが、まだかろうじて倒れない。
「ひとつ、聞かせて」
 アヴァリティアへと言葉を投げかけたのは、リョウ。ビルシャナの赤い瞳が彼女を見た。
「あなたは、元人間?」
「……そのような些事、聞いてどうする」
 アヴァリティアは問いに答えない。リョウは、こう言った。
「あなたを、救いたい」
 その言葉に、アヴァリティアは。
「それが汝の欲望か、ケルベロスよ!」
 ただ、笑った。
 このビルシャナが元人間かは不明だが、少なくとも、救出できる余地はなさそうだ。
「……」
 とん、とリョウの足が地を蹴る。
 着地と共に、アヴァリティアの首が落ちた。視認困難な斬撃、シャドウリッパーである。
 リョウの瞳には、涙が光っていた。

●撤退
 その時、ケルベロス達は察知した――複数の気配が接近してくると。
 戦闘に気づいた敵が集まってきているのだ。
 サーヴァントを除いた戦闘不能者はまだ1名。事前に決めた撤退条件は満たしていない……だが。
「これ以上は、無理だな」
 影光が口にした。
「でも……」
「まだ行けるようにも思うわ」
 かぐらとスノーが迷いを見せる。
「いや、あの数の敵と再度戦闘に入ったら、戦闘不能者4名などあっという間だ。大した時間稼ぎにもなるまい」
 アルディマがきっぱりと言う。
 事実、ディフェンダーの最後の1名であるかぐらの負傷が特に著しい。盾役が全員倒れたらどうなるかは、想像に難くない。
「迷ってる暇はないよ! このままじゃ柚子が!」
 意識を失っている柚子を抱き起こしながら、リョウが声を上げる。
「そうじゃな、潮時じゃろう。撤退じゃ!」
 ソルヴィンの決断に対し、なお異を唱える者はいなかった。
「他の班に、連絡しないと」
 悔しげにアウィスが言う。その言葉通りに、ケルベロス達は発煙弾を打ち上げた後、素早く撤退を開始した。
 戦場の空を白煙が彩る。その色は、隠密班の撤退を示す合図。
 その煙が、菩薩撃破を意味する緑の色であったなら、と、ケルベロスの誰もが願っていたはずだ。
 撤退しながらも、彼らは時折振り返り、空を確認する。
 だが――この班のケルベロス達が、緑に染められた空を目にすることは、とうとう叶わなかった。

作者:地斬理々亜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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