「いい加減、菩薩累乗会にも決着をつけるときがきたようだ」
星友・瞬(ウェアライダーのヘリオライダー・en0065)は集まったケルベロスたちに向けてそう切り出した。
「自愛菩薩、恵縁耶悌菩薩、闘争封殺絶対平和菩薩、芸夢主菩薩……幾度となく日本各地に災いを振りまいてきたビルシャナたちが占領地域に『精舎』を建立しようとしているのが、一部のケルベロスたちの調査によって判明したんだ」
もしこの占領地域に『精舎』が建ってしまえば、難攻不落の拠点となる上、なんらかの大規模儀式の拠点となる事が予測される。
瞬は部屋の隅に置いていたホワイトボードをめくる。そこには4つの点に赤い丸がつけられた日本地図が貼られていた。
「この4か所、それぞれの占領地域で菩薩が『精舎』を建てようと企てているわけだ。それを防ぐために、ケルベロスも大規模なミッション破壊作戦を決行する運びとなった」
現状使用可能なグラディウスを全て投入しての占領地域への強襲、菩薩への撃破を目的とする電撃作戦。瞬はその作戦の重圧に一度目を瞑り、呼吸を整える。
「皆にはどこか1か所の占領地域に赴いてもらうわけだが……その判断を任せるために、各地域の説明に移ろう」
最初に瞬が指さしたのは関東地方の点、埼玉のものだった。
「埼玉県秩父山地。うっそうと茂る森の中で自愛菩薩、エゴシャナ、幻花衆、輝きの軍勢、ちっぱい絶対殺す明王といった軍勢が『精舎』の建立に動いている。確実に破壊するには、君たちを1チームと計上して合計3チームが必要になるだろう」
もちろん、これより少ない数のチームでもミッション破壊が成功する可能性はある。あくまで目安だと瞬は補足する。
「次は、東北の2か所だな」
瞬の指が日本地図上を滑り、北上していく。
印がつけられた場所は岩手県と青森県だ。
「岩手県奥州市、胆沢城。かつての征夷大将軍、坂上田村麻呂が築城したという城跡に『精舎』を建立しようとしているのは闘争封殺絶対平和菩薩、カムイカル法師、幻花衆、輝きの軍勢、鳳凰光背武強明王だ。確実に破壊するのに必要なチーム数は12……かなり堅牢だな」
指はさらに北上し青森県の下北半島、その根元で止まる。
「青森県上北郡おいらせ町……下田町と百石町が合併してできた町で、おいらせ川を由来とする。芸夢主菩薩、ケルベロス絶対殺す明王、幻花衆、輝きの軍勢、フリーダムビルシャナが『精舎』の建立を目指している。確実に破壊するのには9チームほど必要だろう」
北上していた指は、一気に南下する。指が止まった先は九州、宮崎県だ。
「宮崎県高千穂峡。阿蘇山の噴火が生んだ風光明媚なその峡谷を、恵縁耶悌菩薩、デラックスひよこ明王、幻花衆、輝きの軍勢、アヴァリティアが『精舎』に変貌させようとしている。12チームあれば、確実に破壊できるだろうな」
4つの占領地域について説明したところで、瞬はここまでが第1段階だと告げる。
「占領地域を破壊したことで、敵が混乱した隙をついて菩薩を撃破する。これが今回の最終目的となる。菩薩の周囲には菩薩直属のビルシャナ達と、協力組織のデウスエクスが居る」
瞬はホワイトボードの余白にいくつかのマグネットを使い、図解する。
大きく書かれた『菩薩』の字を囲むように配置されたマグネットたち。
「この磁石が手下や仲間のデウスエクスだと思ってくれ。彼らは菩薩を守っているが……」
瞬は別の場所にケルベロス陽動チームとマジックで書き加えていく。
「ミッション破壊に加えて陽動作戦などを行うことで菩薩の周囲から戦力を引き離せる」
続いて、マグネットを菩薩の周囲からケルベロス陽動チームの側へと散らばらせる。
「このとき、混乱している敵は『より派手な攻撃を行っているチーム』の所に殺到する。陽動側のチームが派手に襲撃して菩薩の周囲の敵をより多く引き付ける事ができれば、菩薩を急襲するチームの成功率をあげる事が可能というわけだ」
瞬は陽動チームとは反対側に急襲チームと書き加え、急襲チームから伸ばした矢印で菩薩を刺し貫く。
「多くの敵を引き付けたチームは、戦力的に厳しい状況に置かれるが、全ての敵と戦うのではなく、うまく敵を引きずり回し、可能ならば各個撃破を行った上で、ミッション地域から撤退する事になる。引き付けた敵が少数ならば、当面の敵を撃破した上で撤退する事も可能だが、この場合、菩薩を攻撃するチームはより多くの敵と戦う事になってしまうな……」
更にマジックを走らせる瞬。陽動チームと急襲チームを線でつなげて10の数字を書き加えた。
「ちなみに1地域につき10チーム以上の戦力を集中させる事ができれば、その地域の菩薩を倒せる確率が高くなる。力押しができるのならそれに越したことはないが……そうでない場合は適切な地域に適切な量の人員を割り振る、皆の連携力が問われることとなるだろう」
そこまで説明して、瞬はマジックを置く。
「まあ、長々と説明してきたが……結局のところ『うまいこと連携しろ』ということだな……」
やや難度のある作戦だが、この作戦を成功させれば菩薩累乗会を止めることができる。
「我々には光の使徒、ビルシャナの悟りは必要ない。それを示すときは、今だ」
最後にそう締めくくって、瞬はよろしく頼むと頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103) |
ミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193) |
椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768) |
月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953) |
葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315) |
天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503) |
神楽火・天花(灼煌の緋翼・e37350) |
鷹崎・愛奈(天の道を目指す少女・e44629) |
●ミッション破壊、成功
「救世なんて……大きなお世話だあああっ!!」
ミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193)らの絶叫と共に、グラディウスがバリアを粉々に打ち砕いていく。
9チーム、70人超によるケルベロスたちの攻撃には、ビルシャナ達の堅牢な防護も成す術がなかったのだった。
「ふう……やったわね」
夕焼け空のように鮮やかな橙色の翼を広げて着地した神楽火・天花(灼煌の緋翼・e37350)は、安堵の溜め息をつく。既に戦闘モードに入っており、あどけない少女の顔は鳴りを潜めているようだ。
破壊できる確率は8割ほど。分の良い賭けではあったが、それでも実際に成功して一安心といったところだろう。
「まだまだ! こっからだよ!」
鷹崎・愛奈(天の道を目指す少女・e44629)は地図を開き、降下地点と陽動に適したポイントの確認をする。
「そうですね。私達の役割を、きっちりと果たしましょう」
両手をぐっと握りしめ、気合を入れ直す赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)。
今回のチーム、役目は陽動だ。
隠密班が菩薩を撃破できるよう、できるかぎり多くの敵を引き離し、可能なら撃破していかねばならない。
「だいふく」「頼むな」
天泣・雨弓(女子力は物理攻撃技・e32503)と月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)が同時に自らのサーヴァントであるナノナノへと呼びかける。
呼びかけに答えるように、電飾を巻いたナノナノたちも力強く頷いていた。
「それではさっそく……始めさせてもらってよろしいでざんすかねぇ?」
懐に手を差し込みながら、誰にともなく尋ねる椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)。
細くうねる渓谷のあちらこちらから、爆発音や歌声、剣撃の音が木霊のように聞こえてくる。どうやら別チームも陽動作戦を開始したようだ。
「ええ。暴れてやりましょう……!」
葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)も光の翼を広げる。
体力が続く限りの陽動作戦が、始まろうとしていた。
●燃える未来
谷底、切り立った両断崖へ反射するように破裂音が鳴り響く。
「さあ、出てきてください……!」
「いつでも相手になるざんし」
上空、それぞれの翼で飛行している雨弓や笙月たちが爆竹をばら撒いているのだ。
「あんまり、見上げないでよね……」
恥ずかしそうにしつつ爆竹をばら撒いている天花、巫女服をアレンジようないでたちをはだけて夕焼けのように鮮やかな橙色の翼を広げている。服装的に下から覗かれると困ってしまうということもありそうだ。
もっとも、グラディウスから発生したスモークやら爆竹の煙、近くの滝からあがった水飛沫で出来た霧やらでまず見えないのだが……。
「まだまだ、爆竹は沢山ありますよ!」
一方で、雨弓の光の翼は飛沫を受け虹色に煌めいている。
「さあ、菩薩の手下のひとたち~♪ 来てくださ~い~♪」
更には地面ではいちごが薄い胸に手を当てて、高らかに歌い上げていた。
伴奏が無くても爆竹の音に負けない、透き通るようなソプラノボイスだ。
「こんな状況じゃなきゃ、思わず見とれちゃいそうなんだけどね」
そんな光景を眺めて呟く愛奈。その視界の隅に、向こうから騒ぎを聞きつけてやってきている一団も入り込んでいた。
「デラックスひよこ明王1体! 幻花衆2体! 輝きの軍勢5体です!」
同じく上空を哨戒していた風流が敵の数を確認、情報の共有をする。
「了解だ! 後退して峡谷の開けたところまで誘い出すぞ!」
目立つようにLEDライトや赤色灯を腰に下げた宝の指示を受け、電飾を身体に巻いた彼のナノナノも敵を引き付けるように下がっていく。
「地の利を得るよー!」
愛奈も地図を見ながら歩調を合わせる。スーパーGPSにより、地図に天花の位置が表示されている。場所は峡谷の出入り口近くだ。拓けた部分に地上のメンツが半円型に展開し、出入り口から突出した敵を包囲する。
更に、上空から空を飛べるメンツも合わせての集中砲火。それがケルベロスたちが取った選択だった。
「これは……罠ですね」
デラックスひよこ明王についていた幻花衆のひとりは、自らが誘い出されていることに気づいていた。
「このまま進んで良いのですか?」
「ええんやで、ええんやで」
そこで確認したのだが、デラックスひよこ明王は恵縁耶悌菩薩特有の寛大な精神で前進を許してしまっていた。
上官が突撃といえば部下もついてこざるを得ない、嘆息する幻花衆へ輝きの軍勢の一人が声をかける。
「何、見たところ数は同数だ。地形では不利でも、彼我の戦力差的にはこちらの方がまだ押している。各個撃破で数を減らしていけばまだ勝機はある」
「……そうですね。励ましてくれてありがとう」
「勘違いするな、別に励ましたわけではない……そんな精神状態で戦って、足手まといになられては困るからな」
「な、なーに良い雰囲気になってるの!」
やりとりを聞いていたミライがびしっと指を突き付ける。その顔と耳がやや赤くなっていた。恋愛方面にはウブらしい。
「天より来たるは地獄の番犬! 神伐執行、ケルベロス!」
ポーズを取り、前衛の幻花衆と輝きの軍勢を挑発する。予定していたおびき寄せポイントまで到達していた。
「悪いがお前たちに構ってはおれん!」
輝きの軍勢が剣を掲げ、ミライへと斬りかかる。
振りかぶられた一撃を、二丁持ちのガトリングガンを眼前で交差するように受け止めた。
「嫌だね! 構ってもらうよ!」
防ぎながら、ガトリングガンをぶっ放す。
排出される薬きょうに立ち上る煙。銃弾は嵐となり敵前衛へと襲い掛かる。
「ぐっ、これは……!」
庇おうとするも弾幕の圧力に押し戻される幻花衆。そこへ、頭上から別の詠唱が聞こえてきた。
「麗かなる香り、清浄なる謳、苛烈なる燃ゆる想い、静謐なる静寂の刻印。汝、契約に従い、はるか時の歪『カルマ・カルラ』より招来せし給え」
頭上から、何かしらの災いが降り注ぐ。その予感があるものの、弾幕のせいで身動きが取れない。
開かれた門から顔をのぞかせる一角の雷獣。その咆哮が、幻花衆を襲った。
「召喚しているのは上空の女だ! 集中砲火で止めさせろ!」
輝きの軍勢のうちの後衛、本を持った者やデラックスひよこ明王。それに中衛にいる幻花衆がそれぞれの得意武器から遠距離攻撃を繰り出し、上空の笙月を狙う。
「女……私は男ざんしが……まあ、いちいち訂正する必要もないざんしょ」
「だ、大丈夫ですかっ! アリカさんはカバーに回ってください」
性別が曖昧な笙月を、慌てた様子のいちごが防衛へ回る。
「私の力を貴方に。聞いてください、この歌を」
歌で癒し、アリカと呼ばれたボクスドラゴンが矢面に立つ。
自らを守り育ててくれる大切な人達のために唄いあげられる歌は、力に変えた快楽エネルギーを歌声に乗せている。
その歌を聞いた守護者たちに癒しを与え、敵対する者の力を打ち破る力を授けていくのだ。
「歌なら私も負けていられません!」
風流は中衛に着地すると、おもむろに戦歌を唄い始める。
「眠いのじゃ~、疲れたのじゃ~、もぉ、やめるのじゃ~♪」
かつて五月病の病魔が唄いあげたメロディをリスペクトして生まれたその曲は、やる気のなくなる五月病エネルギーを歌声に乗せている。
その歌を聞いた敵前衛に怠けを与え、攻撃を当てにくくする力を押し付けていくのだった。
「く、くそっ……なんで俺は、こんなところで、眠く……」
ひとり、またひとりと前衛が無気力に襲われる中、ひとり気を吐くのは先ほど励ましていたツンデレ輝きの軍勢だ。
「おまえら、しっかりしろ!」
実質的な司令塔ともいえるこの個体を先に倒すべきだ。
そう判断した雨弓が、自らのナノナノと共に宙を切り裂くように急降下していく。
「この斬撃、あなたに見切ることができますか?」
剣舞神楽。両の手にぶら下げた鉄塊剣を無造作に振る。そう見えてその剣劇は鋭く、実は何倍も速い。左腕の一撃が輝きの軍勢を浅く斬りつけたかと思えば、身体を捻って遠心力を加えた右腕の一撃が脇腹の肉を抉るようにこそぎ取っていく。
肉体へ穿たれた穴へ、ナノナノが尖った尻尾を突き刺して愛の心を注入する。デウスエクスにとっては毒のような、過激な感情を。
「ぐっ、ここまで、かっ……」
愛の心に戸惑って、一瞬、輝きの軍勢の動きが鈍る。雨弓にとって、それだけの時間があれば充分だった。
舞の締めくくりに、鉄塊剣が輝きの軍勢の身体を貫く。ぐったりと、司令塔めいた個体から力が抜けていく。
リーダー的存在を失った輝きの軍勢はその動きが目に見えて悪くなっていく。ひとり、またひとりとケルベロスたちにより打ち取られていく。
「まずいな、このままでは……」
「ええんやで、ええんやで」
幻花衆の一人が臍を噛む後ろで、デラックスひよこ明王は気にせず炎と氷を上空のメンツへと打ちこんでいる。
打ち出された氷を旋回で避けた天花、リボルバー銃に光が充填されていく。
「我が手に集え、天穹の光。輝く白銀の槍となりて、闇を穿ち悪を砕き神を滅ぼせ!」
雷撃の御業とグラビティチェインが融合し、強大なエネルギーとして束ねられていく。
「あれは……」
収束する光を見た幻花衆の背中に悪寒が走る。濃厚な死の香りが鼻孔をくすぐる。
「Time judges all 裁きの時だよ!」
同じく、上空の愛奈も強大な炎を練り上げていく。
2つの強大な力はデラックスひよこ明王を狙っている。
補佐役として、そして盾役として、幻花衆は庇わなければならない。
しかし、その先に待っているのは死の未来……いや、そんな未来すらも愛奈の炎が焼き尽くしてしまいそうで、身体が動かなかった。
「地獄がアナタを待ってるわ……ここから消えなさい」
「貴方達には未来すら残さない!」
雷撃と炎撃、二条の蛇が絡み合い、互いに食らい合うようにデラックスひよこ明王へと向かう。
「え、ええん、やでーっ!!」
閃光と火柱。黎明期の地球、天地創造を想起させる一撃が叩き込まれてデラックスひよこ明王は消滅した。
「やられた、か……」
生き残った幻花衆はきつく唇を噛む。旗印を失い、烏合の衆になりかけたデウスエクスたちへと声をかける。
「別隊の生き残りと合流、戦力を再編成します!」
「立ち直ってきてますね……」
上空から敵の動きを確認しながらつぶやくいちご。
「まだいけるけど、どうする?」
ガトリングガンを軽々と振り回しながら確認をとるミライ。
天花が地図を確認し、ゲームで鍛えた戦略を巡らす。
「残党とはいえ、あの動きは侮れないわ。あの幻花衆なら別の隧道から二方面作戦を展開する可能性もあるし……地の利を失うことになるけれど、この戦場を放棄。緩やかに後退しつつ、少しでも多くの敵を『精舎』から引きはがしましょう」
「承知したでざんし」
以前逃亡を許したデラックスひよこ明王を倒すことができ、笙月としては納得の成果だ。他の面々も異論はない。
「よし。いくぞ、白いの」
「大変だけどもうひと頑張りです、だいふく」
宝と雨弓はナノナノへ声をかけ、下がっていく。
隠密行動組が菩薩を倒してくれることを願い、敵の増援を引き受けつつ撤退戦へと身を投じていくのだった。
作者:蘇我真 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年4月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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