累乗会反攻作戦～精舎建立を阻止せよ！

■リプレイ

●思いのたけをぶちまけて
　青森県上北郡おいらせ町。
　そこは今、ビルシャナの支配下に置かれており、この地の自由の女神像もビルシャナ風になってしまっていた。
　そのビルシャナの起こす大規模作戦を食い止めつつ、逆転の一手を仕掛ける今作戦。
　この地の上空を飛ぶヘリオンは４機。
　この地は４チームのみでミッションの破壊、さらに芸夢主菩薩の討伐を目指す。
「チームで陽動をつとめるにゃ」
　志穂崎・藍（蒼穹の巫女・e11953）が言うように、こちらのメンバー達は、隠密班が菩薩を撃破できるようできる限り多くの敵を引き付けることとなる。
（「一斉に動くとか疲れそぅ」）
　マイペースを崩さぬラトゥーニ・ベルフロー（至福の夢・e00214）は他班と連絡を試みていたが、メンバー達はギリギリまで作戦のすり合わせを行う。
　それに参加していた、モモ・ライジング（神薙画竜・e01721）。
　一口サイズの飴をなめていた彼女は、現場到着のアナウンスを聞き、スイッチを切り替えて作戦に臨むのである。

　ヘリオンから降下するケルベロス。眼下にはバリアに覆われた魔空回廊がある。
「散々いいように遊んできたわね？　だけど、これでもうおしまいよ！」
　パトリシア・シランス（紅蓮地獄・e10443）はグラディウスを携えて。
「さぁ、受けてみなさい。私たちの力を！！」
　眩く煌いたその刃を、深く突き入れていく。
　続くラトゥーニは、のほほんとしながら切りかかった。
　傍のミミックが叫んでくれないかと彼女は期待していたが、さすがにそんなことはなかったようだ。
　チームメンバーは続々と光る刃で襲撃してくる。
「ビルシャナの分際で『精舎』を建立しようとか、ボク達ケルベロスも舐められたものだにゃ」
「あなた達が全てを絶対許すのなら、私達はあなた達を絶対に許さない！」
　ほぼ同時に、藍とモモが続く。
　驕り、秩序なき自由を求めるビルシャナ。その聖域は破壊せねばならない。
「絶対、『精舎』建立を阻止するニャ！」
「下らない累乗会を終わらせてあげる！　失せろ、ビルシャナー！」
　さらに突き立てられた刃から雷光と爆炎が発せられ、濃いスモークが周囲を包み込む。
　他のチームも同様に魂の叫びをぶちまけ、魔空回廊を傷つける。こちらも負けてはいられない。
「何が自由だ！　衆合無とやらを待つ暇つぶしに自由を語ってるような奴らに、自由の何が分かる！」
　次に叫びながら落ちてきたのは、自由、救いを見せてやると豪語するセット・サンダークラップ（青天に響く霹靂の竜・e14228）だ。
「ここを解放して、侵略者から自由を勝ち取る姿を見せてやるっすよ！」
「お前らの馬鹿げた教えのせいで、何人の人間が犠牲になってきたと思っている？」
　一太刀浴びせたセットの次に、雑賀・真也（不滅の守護者・e36613）も声を荒げて光る短剣を構えて。
「その負の連鎖の１つを、ここで断ち切ってくれる！」
　真也が刃を突き刺し、魔空回廊からはさらに爆炎が巻き起こった。
　各チームも降り立ち攻撃を仕掛けており、あちらこちらからスモークが噴出している。
「オレ達は現実に生きている。今を生きて、明日に繋げる。それが生きるって事だろ？」
　熱く語りながら、ロディ・マーシャル（ホットロッド・e09476）も降り立ってきて。
「ビルシャナの言葉に耳を貸すのは、死ぬのと同じ。だからビルシャナを倒し、本当の意味でみんなを解放する！」
　そばには、辰・麟太郎（臥煙斎・e02039）の姿もあった。
　――二度と己の道を踏み外さぬように。
　あれこれ言葉を並び立てるのは性に合わないと考える彼は誓いを抱いたまま、ただ吼えたてる。
「剣よ、光を呼べ！　そして闇を斬り拓け！」
「即ち、絶対に、ぶっ壊すってな！！」
　ロディ、麟太郎がほぼ同時に刃を突き立て、地面へと降り立つ。
　メンバー達が頭上を見上げていると、魔空回廊に異変が起こる。
　大きな音を立てて亀裂が走り、瓦解していく。
　その消滅を見届け、ケルベロス達はそれぞれ笑顔を浮かべていた。
「ひとまず、主目標の１つは達成したか」
　ミッションの破壊成功に小さく息を漏らす真也は、仲間と共にさらなる作戦に臨む。

●思いっきり暴れて陽動を！
　降り立つケルベロス達はスモークの中、態勢を立て直す。
　普段のミッションならば、強敵を倒して離脱という作戦が基本となるが、今回はそういうわけには行かない。
　こちらのメンバーの役目は、陽動。
　菩薩の元へと向かう隠密班２チームの為、いかに暴れるかが見せ所だ。
「ここは任せて、先にいくにゃ」
「奴等がキッチリ仕事出来るよう、精々気張るとするさ」
　隠密班に呼びかける藍。麟太郎も彼らの為にと身構えた。
　セットも隠密班の友人を気にかけながらも、スモークの中に敵が集まっていたのを見て、割り込みヴォイスで呼びかける。
「かかってこい。こちとらビルシャナの適当な妄言に付き合わされて、もうてんやわんやなんすよ！！」
　ロディと一緒にセットは敵影へと焼夷弾をばら撒き、爆音と炎で相手の注意を集めようとしていた。
「……っと、こんなもんでいいか？」
　同意を求めるロディに、セットは大きく頷く。
　彼らの陰となるラトゥーニはミミックのリリを前面に出し、この場をうろうろ。
　そうしている間にも、スモークの中から敵群が現れる。
「ケルベロス、生かしてはおかん……！」
　ビルシャナ、ケルベロス絶対殺す明王６体に、補佐役として螺旋忍軍、幻花衆が３体同行していた。
「ここから先には通さないにゃ」
　そいつらの行く手を遮るように、藍、そして、パトリシアと彼女の赤いライドキャリバーが布陣する。
「ＧＯＧＯＧＯ！」
　敵を見据えたモモは一口サイズのチョコを口に放り込み、デウスエクスのグループ目掛けてグラビティを発していく。

　多くの敵をうまく引き付けられたのは、作戦としては上々だろう。
　ケルベロス達は連携して、ビルシャナと幻花衆の確実な撃破を目指す。
　ビルシャナ、ケルベロス絶対殺す明王は比較的前のめりに責めてくる。
　藍は裂帛の気合を重力震動波に変換し、そいつらへと浴びせかけていく。
「逃がさないって決めてるのよ。覚悟はいいかしら？」
　モモも引き付けた相手をこの場に留める為、グラビティによって弾丸を精製し、限界までグラビティ・チェインを込めていく。
「私からの『金の雨』で、血の雨を降らせてあげるわ！」
　指鉄砲でそれらの弾丸を頭上に発射したモモが一斉に破裂させると、黄金の弾丸の雨が敵陣へと降り注いでいく。
　ロディは仲間に確認とりながらも、ファイヤーボルトからいつも以上に弾丸を礫のようにバラ撒き、相手の足止めを図る。
　パトリシアは攻めくる相手の攻撃をライドキャリバーに防いでもらいながら、相手に有効な攻撃を見定めようとしていた。
「回復は任せるわ」
　後方支援を仲間に託し、パトリシアは全力で相手を攻める。
「燃え上がれ、悲しみを焼き尽くせ」
　できるだけ高火力の攻撃を。パトリシアは焔の魔力を込めた弾丸を相手へと放つ。
　着弾した弾丸は勢いよく燃え広がり、瞬く間に紅蓮の炎に包まれた。
　その中を、彼女のライドキャリバーは駆け抜け、機体を燃え上がらせて近場のビルシャナへと突撃していく。
「「「ケルベロスは殺せぇぇっ！！」」」
　口々にそう叫びながら、襲い来る鳥人間。
　手にする刀、大鎌、あるいは直接拳を繰り出し、こちらの命を奪おうとしてくる。
　鬼気迫る相手へとラトゥーニはミミックのリリを雑に投げ飛ばし、敵の抑えを任せていた。
「長くなりそぅだ、しこまめにメンテナンスしなぃと」
　彼女は地面より魔力を抽出し、前線の癒しに当たりながら戦場をうろうろとして敵をかく乱させていたようだ。
「覚悟しやがれ、ニワトリ共！　一体残らず、たたっ斬ってやるぜ！」
　こちらは直接麟太郎が敵の抑えに当たっており、全身に雷にも似たグラビティを纏って。
「俺にゃ、似合いのやり方だ。真正面から突き崩す！」
　そのまま、敵陣へと特攻した彼は相手へとぶつかっていき、かすっただけであってもビルシャナ達へと痺れを与えていく。
　真也も近場のビルシャナ目掛け、雷を纏わせた『誠義兼定』を素早く突き出す。
　多少、相手が怯んだものの、敵はすぐに手にする刃を振り上げてくる。
　そこに飛び込んできたのは、セットだ。
　彼は相手を弾きつけつつ盾形のヒールドローンを展開し、仲間達の護りと回復に当たっていく。
　ただ、敵の後方からは幻花衆が螺旋の力を使い、手裏剣を飛ばしてくる。
　こちらはビルシャナより能力が劣るようだが、それでも相手はデウスエクス。
　ビルシャナを援護するように螺旋の力を操る彼らもまた、得意とする遠距離攻撃でケルベロス達に傷を増やす。
　戦況は芳しいとはお世辞にも言えず、ケルベロス達の旗色は徐々に悪くなっていく。

●数に圧されて……
　強襲型魔空回廊の破壊もあって、序盤は勢いに乗っていたケルベロス達。
　前線を抑えるのは、ドラゴニアン２人。
　防御と自らの回復に徹する麟太郎。そして、セットも回復の為、すでに展開している盾形ドローンを使って。
「演算速度最大、同調生体制御開始！　傷も不調も、全部見逃さないっすよ！」
　鎧装騎兵の使用するドローンの機能とウィッチドクターの技術を合わせ、セットは仲間の傷に対して的確な治療へと当たっていく。
「ほらほら、そんな物じゃないでしょ！　もっともっと、私達を楽しませなさい！」
　モモは大きな口を叩き、ドラゴニックハンマーから轟竜砲を発射してビルシャナへと叩き込んでいく。
　前線メンバーが盾となってくれはするが、何せ敵の数が多い。
　ビルシャナの刃や、幻花衆の氷の螺旋が前線をすり抜けてモモにも襲い掛かる。
「いつも以上にタフに思えるわね」
　しぶといビルシャナに、モモは辟易としてしまう。
　それは、火力となるパトリシアや真也もまた感じていたところ。
「数が多すぎて、攻めの糸口がつかめないわ」
　有効な攻撃を探すパトリシアだが、相手もどうやら個々で弱点は異なる。
　メンバー達の狙いが分散している状況も相まって、弱点を指摘するのが難しい。
　また、パトリシアも敵の攻撃にさらされることとなる。
　回復を当てにしていた彼女だが、チームにメディックはいない。
　とはいえ、仲間は回復支援にも動いており、パトリシアもその恩恵に預かってはいたのだが、それでも徐々に体力の減少を感じてしまう。
「わたしは攻撃の要、倒れるわけにも、攻撃の手を緩めるわけにもいかないわ」
　この場を少しでも好転させる為に。パトリシアは黒色の魔力弾を撃ち出す。
　ただ、彼女は相棒であるライドキャリバーが、ビルシャナの拳で消し飛ぶのを目の当たりにしてしまっていたようだ。
　日本刀『誠義兼定』を操る真也もビルシャナへと刃に纏わせる霊力を空、雷と切り替えながら浴びせかけ、さらに弧を描いて切りかかる。
「殺せ、殺せぇっ！！」
　相手は殺意を抱いて襲い来る。真也もそれに少しずつ押されていくのを実感し、己の感覚を増幅させて態勢を立て直そうとしていた。
「おい、大丈夫か」
　ロディは専守防衛へとシフトする形で、この場を耐えきるよう意識して立ち回っていた。
　機動性特化タイプのアームドフォート『モビルディフェンサー』で、ビルシャナを撃ち抜く。
「このリボルバーの炸裂音は、霧に彷徨う者を導く霧笛だ。そして弾丸は祈りだ！」
　さらに、神業めいたファニングで、銃弾をビルシャナへと叩き込む。
　そうして、ようやくビルシャナ１体を切り崩すことに成功はしたが、ケルベロスの劣勢は変わらない。
「いつかドラゴンをもきっと倒すのを目標にしているんだから、ビルシャナごときなんかに負けるわけないニャ」
　藍は仲間と共に連携も行い、派手に暴れている。
「「殺せ殺せ殺せぇーーっ！！」」
　ただ、殺意を抱くビルシャナは前のめりに襲い来る。その勢いは止まる気配を見せない。
「…………」
　逆に後方の幻花衆どもはほとんど声すら発さず、いつの間にか迫ってこちらの体力を削っていく。
　こうなれば奥の手と、藍は蒼穹の色に瞳を輝かせて。
「呪われし槍よ、敵を射殺せ」
　彼女の視線は槍となり、手前のビルシャナを打ち貫くが、倒すには至らない。
　藍も体力の減少を感じ、裂帛の気合で叫び声を上げる。
　この頃になると、ケルベロスは明らかな劣勢を悟っていた。

　芸夢主菩薩討伐の知らせは入ってこない。
　いつまで続くとも分からぬ戦いで、徐々にメンバー達は戦線を維持できなくなってきている。
　逃げ惑っていたラトゥーニもミミック、リリを手裏剣によって消し飛ばされてしまう。
「ぅぅ、帰りたぃ」
　ラトゥーニも度重なる攻撃を避けられず、全身が傷ついてしまっている。
　ケルベロス絶対殺す明王、幻花衆の混成軍を相手にジリ損となってきており、メンバーは防戦を強いられていた。
「多勢に無勢……か」
　全身防御と気力での治癒で麟太郎もなんとか持たせはしていたが、敵の攻勢がこちらの回復を大きく上回っている。
「おい、大丈夫か」
「ここまで……っすか」
　麟太郎の呼びかけも虚しく、ビルシャナに囲まれる形となっていたセットが意識を失い、音を立てて地面に伏せてしまう。
「ぅ、げんか、ぃ……」
　程なく、ラトゥーニも敵の殴打を腹に食らい、その場に倒れこむ。
　メンバー達は隠密部隊の成功を信じて交戦を続けるが、敵の数を減らすことすら難しい。
　数が少なければ、まだ攻め落とす可能性はあっただろうが……。
「貰ったぞ、ケルベロス！！」
　ビルシャナの凶刃が真也の体に食い込む。
　最悪、暴走も考えていた彼だったが、残念ながらそこまで耐えられそうにない。
「俺はまだ……やれ、る……」
「……限界、だな」
　真也もまた崩れ落ちた直後、膝をついていた。麟太郎もこれ以上は戦えないと判断する。
　芸夢主菩薩討伐は失敗。隠密班からそんな連絡が入ってきた。
「撤退ね」
　潮時だと考えたモモもはグラビティで作り出した塗料を撒き散らし、ビルシャナどもの足を止める。
「仲間は一人だって、欠けさせやしない！　それがボクの矜持にゃ！」
　藍もそれに従って殿を請け負うと、ロディも銃弾をばら撒き、相手の動きを制しながら後退する。
「覚悟を決めるニャ」
　小声で告げた藍は気合を入れ直し、敵軍を牽制していった。
「勝利の一服はお預けね」
　あがいても、この状況では勝ちは絶望的。
　パトリシアは口元にタバコを加えたまま、火をつけることなくこの場から離れる。
「逃がすか！！」
　追いすがろうとするビルシャナだが、幻花衆がそいつらを後ろから止める。
「次はその息の根、止めてやるぞ！」
　ビルシャナの挑発を背にし、メンバー達は悔しげな表情を浮かべつつおいらせの地を離脱していくのである。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年4月13日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 4
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