累乗会反攻作戦~如是我聞

作者:刑部

「シルフィディア・サザンクロスさん、軋峰・双吉さん、大成・朝希さん、アビス・ゼリュティオさん、フィオ・エリアルドさん、館花・詩月さんらの調査活動で、菩薩累乗会を行っとる菩薩らの動きを見つける事ができたで」
 と、杠・千尋(浪速のヘリオライダー・en0044)が口を開く。
「これまでの菩薩累乗会を引き起こしとった4体の菩薩は、ビルシャナの占領地『埼玉県秩父山地』『青森県上北郡おいらせ町』『宮崎県高千穂峡』『岩手県奥州市胆沢城』を拠点にして、そこに『精舎』を建立しようとしとるみたいや。
 ビルシャナの占領地域に『精舎』が建立されてもうたら、なかなかに難攻不落の拠点となってまうし、今後なんらかの大規模儀式の拠点となってまう事が予測されるわな」
 頷くケルベロス達の顔を見回す千尋は、
「せやからこれを防ぐには、ミッション破壊作戦を大規模にして行うしかあれへっちゅー訳や」
 と胸を張り、
「現在使用可能なグラディウスは全部投入や。それでビルシャナの占領地を強襲して、精舎建立中の菩薩の撃破を目指すのが今回の作戦や」
 と作戦概要について説明を続ける。

「さっきも言うた4か所にそれぞれ菩薩がおる。
 埼玉県秩父山地には元々居た『ちっぱい絶対殺す明王』のところに、自愛菩薩がエゴシャナらと共に現れ、『アヴァリティア』のおる宮崎県高千穂峡には、恵縁耶悌菩薩がデラックスひよこ明王を連れて現れとる」
 広げた地図を指し千尋が説明を続ける。
「岩手県の胆沢城、『鳳凰光背武強明王』が爪を研ぐこの地には、闘争封殺絶対平和菩薩とカムイカル法師。『フリーダムビルシャナ』が居る青森県上北郡おいらせ町に、は芸夢主菩薩にケルベロス絶対殺す明王が現れ精舎の建立を進めとる。
 この4つの地のどれにも幻花衆と輝きの軍勢が菩薩の守護の任についとるみたいや」
 指が青森県のおいらせ町に止まり、千尋が顔を上げる。
「敵の規模は同じぐらいなのか?」
「敵の規模から言うと同じぐらいやけど、ミッション破壊という事だけ考えたら、秩父山地が一番脆く、次がおいらせ町。胆沢城と高千穂峡はなかなかに硬い感じやな。
 あくまでミッション破壊だけ考えたらの話で、菩薩撃破は連携は当然として、数も必要になってくると思うわ」
 ケルベロスから発せられた質問に答えた千尋の指が、再び地図の上をせわしなく動く。

「作戦の根幹としては、まずグラディウスによるミッション破壊を成功させる。
 ほんで、敵が混乱している隙をついて、菩薩撃破を目指すっちゅー形やな」
 地図を畳みながら説明を続ける千尋。
「菩薩のまわりには、菩薩直属のビルシャナらと協力組織のデウスエクスが居るから、更に陽動作戦とかして混乱を助長させて、菩薩の周りから戦力を引き離す必要があるやろ。
 混乱しとる敵は『より派手に攻撃を行ってとるチーム』の所に殺到してきよるから、陽動部隊のチームが派手に襲撃して、菩薩の周りの敵をよーさん引き付ける事ができたら、菩薩を急襲するチームの成功率が上がる訳や」
 簡単な絵図を描きながら説明を続ける千尋。
「もちろん多くの敵を引き付けたチームは、単に戦っとったら戦力的に厳しい状況に置かれてまうから、正面から迎え撃つんやのうて、うまいこと敵を引きずり回して、出来るんやったら敵さんを各個撃破した上で、ミッション地域から撤退したらえぇ。
 引き付けた敵が少なかったら、当面の敵を正面から撃破した上で撤退する事も出来るやろうけど、その場合、菩薩を急襲するチームは、よーさんの護衛に護られた菩薩と戦う事になってまうから、撃破は難しなるわな」
 と肩を竦める千尋。
「で、その隠密行動で菩薩に近づくチームは、菩薩と周囲に残った戦力と戦う事になる。
 菩薩は安全に撤退する事を優先しよるから、戦力的に撃破が難しい時はその時点で撤退を選ぶ必要があるかもしれへん。
 また、隠密行動が露見した場合は、敵が迎撃してくる事になるから、菩薩のとこまで辿り着く事は厳しすぎる状況になってまうわ」
 いずれにしても連携が鍵やと話を纏める千尋。

「出る杭は、二度と出てけーへんように打っとく必要がある。使えるグラディウスを全部投入するし、暫くミッション破壊がでけへんからな、それに見合うだけの成果は上げたいところや、みんな頑張ってや!」
 と最後に笑った千尋の口元に八重歯が光るのだった。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
ジークリンデ・エーヴェルヴァイン(幻肢愛のオヒメサマ・e01185)
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)
村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)
八久弦・紫々彦(暗中の水仙花・e40443)

■リプレイ


 岩手県奥州市、胆沢城上空。
 一定の間隔を空け、計12機のヘリオンが展開していた。
「状況は揃ったな。……行くか」
「相手が強大だろうが、ねじ伏せサマ使ってでも勝ちに行く、そうだろ?」
 他班と連絡を取り合っていた端末をしまい村雨・柚月(黒髪藍眼・e09239)が振り返ると、親指ではじき上げたコインを掴んだ卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)は、そのコインが表を向いている事を仲間に晒し、ヘリオンの縁から飛び出した。
 泰孝に続く様に仲間達が飛び出すと、他の11機のヘリオンからも次々とケルベロス達が飛び出し、重力に引かれるが如く降下してゆく。
「オレ達ケルベロスの集合武、ただ力だけ求めたそこの明王の武、強い方が勝つ、そして精舎と菩薩を制するってモンだろ?」
「『精舎』の建立はなんとしてでも阻止せねば。……人様の星であまり好き勝手しないでもらいたい」
 その泰孝と銀髪を躍らせた八久弦・紫々彦(暗中の水仙花・e40443)が、グラディウスの切っ先を力一杯叩き付けると、迅雷が迸り胆沢城周辺に雷撃が降り注ぐ。
「お前らに天下は絶対取らせねぇ! 消えちまえ!」
 続いて柚月もグラディウスを叩きつけ、
「菩薩が累乗会に力を使った今こそが好機、いざ魔空回廊、頂戴!」
 眼鏡を押し上げた据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)がそれに続く。
 既に他の班も次々とグラディウスを叩き付けた為、胆沢城周辺は凄まじい数の雷撃に撃たれ白煙を上げている。
「狭義で世界を縛ってどうするのです。適度なバランスによってこそ世界は保たれるのです、中庸を知りなさい! そんな視野狭窄に陥った主張のビルシャナ達が作る精舎など百害あって一利なし! 完膚なきまでに破壊して消滅させます!」
「貴様らのそのやり口、反吐が出る! 人の意思を捻じ曲げ、操り、私利私欲のために手駒にして、自らの手は汚さない……地獄に落ちろ……この、糞鳥モドキが!」
 赤いツインテールと黒いマントを風に棚引かせたウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)の一撃と、眼前にビルシャナが居るかの如く吐き捨てたシルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)の一撃が、追撃を掛ける様に新たな雷撃を生じさせ、
「死ね……死ねばいい! すべて! 何もかも! この地獄の手足の代償として。もう帰ってこない四肢と、帰ってこない一族と、父と母の代償として! お前ら如き塵芥、総て業火で燃やされ果てるがいい!」
「闘争封殺絶対平和菩薩ニ死ヲ!」
 地獄化した四肢の炎を陽炎の如く揺らめかせたジークリンデ・エーヴェルヴァイン(幻肢愛のオヒメサマ・e01185)と、柔和な笑みを浮かべたフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)のグラディウスの切っ先が叩きつけられる。
 泰孝から始まりフラッタリーがグラディスを叩き付けるまでの時間は、僅か4秒。
 他のケルベロス達も同タイミングでグラディスを叩き付けた為、奥州市周辺には凄まじい閃光が空を灼き、地響きの如き轟音が轟いた。
 そして、強襲型魔空回廊はガラスが弾けた様な音を立てて破壊され、アイコンタクトを交わしたウィッカや赤煙達は、重力にひかれ解放された白煙の中へと落ちてゆく。


 薄れゆく白煙の中、直ぐに合流した8人は胆沢城目指し足早に歩を進める。
 遠くから微かな剣戟の音が聞こえて来る中、焦げた大樹の影を回った少し先のところで、額から血を流しながらせわしなく辺りを見回していたカムイカル法師とシルフィディアの目が合った。
「ちいっ! 貴様ら雑魚に用はないんですよ!」
 フルフェイスの下で舌打ちしたシルフィディアが、『断骸剣・灰燼』を肩に担いで地面を蹴ると、
「いざ、この香気に身を委ねて」
 即座に紫々彦が水仙の花を咲かせて甘く澄んだ香気を周囲に漂わせ、その匂いに後押しされた柚月達がシルフィディアに続き、
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ! 我らこそケルベロス、人心惑わす自称菩薩に引導を渡す番犬なり! おぬしら雑魚に用はない、狙うは菩薩よ!」
 名乗りを上げた赤煙がそう続けると、カムイカル法師も意味不明の叫声を上げ経文を唱えて来る。
 前衛陣が一気に距離を詰め、後衛陣もカムイカル法師を射程に捉え、攻撃行動に移ろうとした瞬間、カムイカル法師の後ろ……白煙の向こうから、迫る前衛陣に白煙を払って烈風が叩きつけられた。
「散れッ!」
 眼鏡の奥の赤眼を見開いたジークリンデの声に散開する前衛陣達。
 払われた白煙の向こうに見えたのは2体の鳳凰光背武強明王の姿。
「己等は鳳凰光背武強明王なり、いざ力を求めん!」
「火宅で遊ぶ雛鳥はー、早く焼いてしまいたいですわねぇー、数も少ないですしー、ここはー押し通り……」
 殺気を放つ鳳凰光背武強明王に対し目を細めたままフラッタリーが言葉を紡ぐも、次の瞬間サークレットが展開し額の弾痕から地獄が迸り、
「唯是、磨潰し肉塊トセン」
 金色瞳を開眼させ、笑みを哄笑に変え獣じみた動きでフラッタリーが踊り掛る。
「3体か……もう少し引き付けたいところです」
「正面突破だ! ♪~~」
 そう呟いたウィッカが手にした物を投じると閃光が辺りを照らし、その閃光と共に柚月が叫ぶ様に歌声を張り上げる。
「さぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。菩薩を狙う悪逆非道の輩はここですよっと」
 続いた泰孝が呼ばしたマルチプルミサイルが次々と爆ぜ、先程のグラディウスには劣るものの轟音を響かせる。
 その音と剣戟の音に引き寄せられる様に、更に3体のカムイカル法師と1体の鳳凰光背武強明王が、ほぼ消えつつある白煙の向こうから向かって来るのが見て取れる。
「おっと、もしかしてオレ達大人気?」
「役目としては万々歳だろう」
 肩を竦めた泰孝にそう返した紫々彦は、愛用のルーンアックス『玄帝』をくるりと回すと、敵の攻撃が集中する仲間を助ける為、香気に後ろ髪を引かれながら最初に居たカムイカル法師へと距離を詰めた。


 カムイカル法師4体に鳳凰光背武強明王が3体の合計7体。
 陽動部隊として護衛を引き付けるという点では大成功と言って良かったが、菩薩の護衛の中では強い部類に入る、鳳凰光背武強明王とカムイカル法師が集中した事で、戦力的にはかなり苦しいものとなった。
「シルフィディアさん、下がって」
 声に従ったシルフィディアが後ろへ跳ぶと、つんのめる形になったカムイカル法師に、声の主であるウィッカのブラックスライムが、大きな口を開けて丸呑みにする。
 その隙に、フラッタリーの殺戮衝動に感染し、前のめりにカムイカル法師を攻撃していた前衛陣達が、鳳凰光背武強明王達に追い立てられる様に、じりじりと後退し始める。
「外から仕掛ける!」
「さぁ、みどもについてまいれ」
 下がる柚月とジークリンデがそれぞれ左右に散るが、鳳凰光背武強明王とカムイカル法師達はそれを無視し、真直ぐ下がったフラッタリーとシルフィディア、紫々彦を追う形でそのまま一団となって追い縋る。
「ならばこうです」
「調子に乗るな! これは貴様らが苦しめた人達の分!」
 その一団目掛け赤煙が御霊殲滅砲を放ち、シルフィディアが振り向き様にカムイカル法師に『貫猿棒』を突き入れる。
「衆合無よ、己等を赦し給え」
 だが、そこに3体の鳳凰光背武強明王が炎の翼を広げて突っ込んで来る。……のを、
「やらせるかよ!」
「肉を幾ら削げ落とされようと、この白磁細身は砕かれじ如何な翼風の後も独歩してミセよう」
 紫々彦とフラッタリーが防ぎ止め、左右からジークリンデと柚月。
「ついて来なければこちらから参るだけよ」
 半円を描く様に駆けたジークリンデが思いっきり振り被った『Love me do』を叩き付け、
「数を減らしておくに越した事はないからな、時よ、凍り付け!」
「まだまだです」
 柚月の放った藍色の魔弾が、鳳凰光背武強明王の身に爆ぜ、紫々彦の頭上を飛び越えたウィッカがその鳳凰光背武強明王の頬を蹴りぬいた。
 その押し留めた鳳凰光背武強明王の後ろからカムイカル法師。
 1体をブラックスライムに呑まれ3体になったカムイカル法師の攻撃がフラッタリーに集中する。
「チッ、しまった!」
「間に合いますか……」
 泰孝は紫々彦に溜めた気力を飛ばしており、フラッタリーへの回復が一呼吸遅れ、赤煙が慌ててオウガ粒子を放出する。
「此身、其れ盾也、退かじ倒れじ不倒の楯ナリ、嗚呼ゝ、愉快ナリ」
 その身を羽に刻まれながら、愉悦の笑みを浮かべたフラッタリーは、口から溢れる血反吐を眼前のカムイカル法師に浴びせ、仰向けに倒れながらも最後の力を振り絞り『野干吼』を叩きつける。
 一人倒れた事で勢いづき、更なる攻勢に出ようとする鳳凰光背武強明王とカムイカル法師達が、ビクンと震えて互い顔を見合わせた。
「フラッタリーを下げて」
「調子に乗ってくれるじゃないのよ」
 その隙に紫々彦とジークリンデが倒れたフラッタリーを庇う様に前に出て、赤煙がフラッタリーの体を下げる。次の瞬間、鳳凰光背武強明王とカムイカル法師達は、ケルベロス達を放置し撤退する構えを見せた。
 菩薩への襲撃を何らかの方法で察知したのだろう。
「! ……逃がすかよ!」
「紅き死の雨、天より降りて焼き尽くせ!この世を煉獄へと変えよ!」
 直ぐに反応したのは柚月。放たれた竜砲弾がカムイカル法師に爆ぜ、ウィッカの投じたガーネットが空中で砕け、炎上しながら敵の頭上に降り注ぐ。
「風通し良くしてやりますよ……!」
 足止めされたカムイカル法師に片腕を大型杭打ち機に変えたシルフィディアが仕寄り、圧出された灼熱の鉄杭が言葉通り、カムイカル法師の胸に風穴を開け、そのまま仰向けに倒れ伏す。
 2体目のカムイカル法師倒され、いきり立った鳳凰光背武強明王とカムイカル法師は、踵を返して再度攻勢に転じケルベロス達に苛烈な攻撃を見舞ってくる。
「攻めるなら攻める、退くなら退く。その判断を過ってる奴がギャンブルに負けるのさ」
 味方達を懸命に回復で支えながら泰孝がそう口にした時、攻撃を集中された紫々彦が片膝をつくも、次の瞬間、鳳凰光背武強明王とカムイカル法師の体が硬直し、追撃されるのも構わず算を乱して逃げ始めた。
「やったか!?」
 その敵の動きに菩薩の撃破を感じ取った一行は追撃を掛けるも、既に満身創痍だった事もあり、成果は鳳凰光背武強明王1体を仕留めるだけに留まった。

「終わったなあ……お疲れ様」
「兵法は詭道から。今日も良い嘘をつきました」
 大きく息を吐いた柚月に、そう赤煙が応じる。
 フラッタリーの傷も重傷という程ではなく、しばらくすれば回復するだろう。
 こうして、鳳凰光背武強明王1体とカムイカル法師2体を撃破し、陽動の役目を果たしたケルベロス達は、敵の気配が消えつつある胆沢城を後にしたのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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