累乗会反攻作戦~菩薩の精舎建立を阻止せよ!

作者:柊透胡

「定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
 都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は、集まったケルベロス達を静かに見回した。
「コードネーム『デウスエクス・ガンダーラ』、ビルシャナの『菩薩累乗会』で降臨した4体の菩薩の動向が判明しました」
 これは、シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)、軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)、大成・朝希(朝露の一滴・e06698)、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)、フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)、館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)らの調査活動の成果と言える。
「菩薩累乗会の菩薩らは、ビルシャナのミッション地域である、埼玉県秩父山地、青森県上北郡おいらせ町、宮崎県高千穂峡、岩手県奥州市胆沢城の各地に、『精舎』の建立を目論んでいます」
 ビルシャナに占領された地域に『精舎』が建立されてしまえば、難攻不落となってしまうのは勿論の事、何らかの大規模儀式の拠点となる事も予測されている。
「これを防ぐには……大規模なミッション破壊作戦を行うしかありません」
 現在使用可能なグラディウスを全て使い切り、ビルシャナの占領地を強襲。強襲型魔空回廊の破壊を経て精舎建立中の菩薩の撃破を目指すのが、今回の作戦となる。
「4体の菩薩は、『埼玉県秩父山地に自愛菩薩』、『宮崎県高千穂峡に恵縁耶悌菩薩』、『岩手県奥州市胆沢城に闘争封殺絶対平和菩薩』、『青森県上北郡おいらせ町に芸夢主菩薩』が出現します」
 菩薩と直属の配下ビルシャナの他には、そのミッション地域のボスであるビルシャナに加え、幻花衆と輝きの軍勢が菩薩の護衛の任に就いているようだ。
「通常のミッション破壊作戦では、所謂『魂の叫び』が非常に重要ですが、今回はグラディウスの『数』を揃える事でこれに代えます」
 具体的には――埼玉県秩父山地で3チーム、青森県上北郡おいらせ町は9チーム、宮崎県高千穂峡及び岩手県奥州市胆沢城は12チームが、確実なミッション破壊に必要な数となる。
「チームが破壊確定数の1/3の場合、50%の確率で破壊が可能です。勿論、チーム数が多い程、破壊の確率が上昇します」
 尚、今回の作戦は、ミッション破壊の成功が大前提となる。強襲型魔空回廊の破壊で敵が混乱している隙を突き、菩薩の撃破を目指すのだ。
「菩薩の周囲には、菩薩直属のビルシャナ達と協力組織のデウスエクスが護りを固めています。更に陽動作戦などを行って混乱を助長し、菩薩の周囲から戦力を引き離さなければなりません」
 混乱中の敵は『より派手に攻撃しているチーム』に殺到してくる。陽動のチームが派手に立ち回って菩薩の周囲の敵をより多く引き付ける事が出来れば、菩薩を急襲するチームの成功率を上げられるだろう。
「菩薩強襲のチームは、陽動の後に残った戦力と戦う事になります」
 1地域につき10チーム以上の戦力を集中させれば、7割以上の確率で菩薩の撃破が可能と見込まれている。
「菩薩撃破の確率は、チーム数と連携の内容が大きく影響します。確実な撃破を目指すならば、戦力の集中が重要でしょう」
「菩薩は安全に撤退する事を優先する為、戦力的に撃破が不可能の場合は、その時点でこちらも撤退を選択しなければならないかもしれません」
 又、菩薩強襲に至る途中でも、隠密行動が発見された時点で敵が迎撃してくる。そうなれば、菩薩の所まで辿り着けなくなってしまう。
「派手に攻め込んで敵の防衛戦力を引き付ける陽動チームと、隠密行動で菩薩に攻撃を仕掛けるチームの連携とバランスが、作戦の成否を分けるでしょう」
 現状で使用可能なグラディウスを、全て投入する累乗会反攻作戦――この作戦に失敗すれば、菩薩の精舎建立を阻止する手立ては無くなる。菩薩累乗会が恐ろしい災厄となるのは間違いなく、ある意味、背水の陣とも言えるだろう。
「私からのアナウンスは今回が初めてではありますが……4度に渡る菩薩降臨の勢力拡大阻止と、ビルシャナの動きを調査して下さった皆さんの尽力の総決算です。ヘリオンより健闘を祈っています」


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)

■リプレイ

●累乗会反攻作戦「21―5 鳳凰光背武強明王殿」
 岩手県奥州市、胆沢城――その日、古代の城柵跡の上空に集結したヘリオンは、数えて12。ビルシャナのミッション地域の最高難易度に、本作戦の最大戦力が投入された。
「これ以上、ビルシャナの犠牲になる人を増やす訳にはいきません。菩薩の脅威をここで食い止め、そしてこの地域も救ってみせます!」
 早速、それぞれのヘリオンより、直接降下を敢行するケルベロス達。
「ここが1つの分岐点。ただ力だけを求める者にも、菩薩にも。負ける訳にはいかない」
 実に96本もの光刃が、次々と強襲型魔空回廊を穿っていく。
「古来より進攻の橋頭堡となったこの城。お前達を駆逐する足掛かりとなる地にしてみせる」
 攻撃の度、雷光が走り、爆炎が上がる。破壊成功が約束されたチーム数に達している上に、ケルベロスそれぞれが熱き想いを刃に託してグラディウスを振るうのだ。
「ビルシャナが何をする気かは判りませんが……ろくでもない事だって事は間違いないです! 力を合わせれば、壊せないものなんて!」
 最後の一撃が叩き付けられた瞬間、何かが砕け散るような感触。猛々しい勝鬨の咆哮が轟く。もうもうと立ち込めるスモークが晴れれば、果たして、魔空回廊は跡形も無く失せていた。

「随分と好き勝手暴れてくれたな。人を惑わし、鳥畜生に落としたツケ……キッチリ払ってもらおうか!」
 意気軒昂に気炎を吐く志藤・巌(壊し屋・e10136)。通常のミッション破壊作戦ならば、速やかに撤退を計るタイミング。だが、累乗会反攻作戦の本番は、これからだ。
「ったく、立て続けに厄介なことを企てやがって……! 特に絶対平和菩薩とかよ」
 豪快に言い放ちながら、鵤・道弘(チョークブレイカー・e45254)は徐に頭を巡らせる。
「こちとら生存競争の真っ只中なんだよ。お前ら邪魔だ、他の奴等共々居なくなってから主張しやがれ!」
 菩薩累乗会を執り行った菩薩が1体、闘争封殺絶対平和菩薩の撃破こそが本懐。このチームは菩薩の護衛を誘き寄せる陽動に動く。
 ミッション地域への降下時は、ヘリオライダーが位置関係を上手く調整したようだ。周辺に、他チームが居る様子は無い。
「……」
 アイズフォンの使用を試み、眉を顰める館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)。魔空回廊の破壊は果たしたとは言え、敵地の只中での通信機器の使用不可能はそろそろ定着してきた感があるが、今回も例外では無さそうだ。
 だが、首を巡らせれば、謎の巨大寺院――鳳凰光背武強明王殿の威容が、見て取れる。スーパーGPSで現在地も大凡把握出来る。菩薩を狙うかのように寺院を目指すのは比較的容易だろう。
「これまで後手に回っていた累乗会に先手を打つチャンスです。何としても、ここで菩薩達を倒し脅威を食い止めましょう」
 早速、自らのアイテムポケットから打ち上げ花火を沢山取り出す結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)。その場で派手に打ち上げて、音と光で敵を引き付ける心算だ。
 道弘にしても、陽動に道具の使用を考えていたようだ。確かに日常的に入手可能な品物であれば、作戦の告知から出発に至るまでの短時間で用意出来ようが……流石に焼夷弾はその範疇を外れるだろう。
「そうだな……待ってくれているアイツのためにもこの戦い、勝つ」
 レオナルドに頷き返しながら、四辻・樒(黒の背反・e03880)はゾディアックソードを大きく振り上げる。スターサンクチュアリ――地面に描いた守護星座の光を、敵に見せ付けんと。
「どうせビルシャナの如来居るんでしょ。ならそいつらが来ても抵抗する為に、菩薩になんか負けていられないよ」
 黒ビキニの上から羽織ったケルベロスコートを翻し、峰谷・恵(暴力的発育淫魔少女・e04366)は格納魔術回路を展開させる。
「リバースナンバー5から6000まで展開。砲撃術式構築。加速魔法陣三重設置」
 オープンファイア!! ――3つの魔法陣を貫いて放たれる鮮血色のビーム。恵が寺院の方向に圧縮魔力塊をぶっ放せば、スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)は思わず目を瞠る。
(「す、すごい攻撃です……!」)
 一方で、頭の中で目まぐるしく移動ルートを描きながら、スズナは大きく息を吸う。
「わたしはここにいるぞ、ですーっ!」
 大声を出すのは苦手だが、精一杯頑張った。古い木箱型のミミック、サイもアピールするようにガチガチと牙を鳴らす。
 地球でグラビティが使えるのは、デウスエクスかケルベロスだ。示威行動はグラビティの使用で十分だったようだ。
 果たして。ケルベロス達に向かってきたのは、袈裟纏う鳥の影。
「鳳凰光背武強明王!! こんなに早く再戦が叶うとはな!」
 歓喜の雄叫びを上げたのは、ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)だ。星を守る誓い、弱者を助ける誇り、戦闘狂としての昂ぶり、そして強者へ2度も挑める喜びを重ねて。
「今度こそ、この地を取り戻す! 弱き者の強さ、我が魂、とくと味わえ!」
 勇猛にも太い竜尾を振るうや、居並ぶ鳳凰光背武強明王を纏めて薙ぎ払わんと。
「崩れろ。爆震脚!」
 先陣を切ったヴァジュラに遅れじと、突進する巌。踏み込みと同時に気を流し込み、蹴り砕いた地面が鳴動した。

●鳳凰光背武強明王
 期せずして累乗会反攻作戦の先触れとなった、先日のミッション破壊作戦。その時、ヴァジュラが戦ったのは、唯1体の鳳凰光背武強明王だ。
「衆合無よ己等を赦し給え」
 それが、今回は実に6体。何れも紅蓮の眼差しは炯炯として、黄炎の光翼に数多の武装を舞わせる。
「大地にビルシャナの精気は満ち、救世を求む念も満ちている」
「だが、此の地は解放され、精舎の建設は失敗に終わった」
「なれば、教義は相容れぬとも、闘争封殺絶対平和菩薩は護り抜かん」
 中衛の1体が、光背興武法輪功を編上げる。注がれたのは、前に立つ4体。
「我ら、鳳凰光背武強明王、只一つ、竜をも凌ぐ仏恥義理を、只々喧嘩に注ぎ込む」
「赦し給え、ただ力だけを求むる事を!」
 謡うように念仏を唱えるように。鳳凰光背武強明王は、次々と黄炎の光翼を燃え立たせる。
「さ、さあ、来いビルシャナ! 俺達ケルベロスが相手だ!」
 声が震えないよう、腹に力を入れるレオナルド。
(「数が多いですね、陽動は成功と言ったところでしょうか」)
 ヴァジュラと巌の列攻撃、そして、敵の列ヒールから、4体が前衛と知れた。更には、殿の1体も光背興武法輪功で初撃の傷を癒していく。
「ここからが本番です……いくぞ!」
 まずディフェンダーを狙いたい所だが、まだ、前衛の内訳は知れぬ。故にレオナルドはレガリアスサイクロンを放つ。4体全てとまではいかなかったが、暴風伴う回し蹴りで敵を守りごと薙ぎ払わんと。
「1番左がディフェンダーです」
 詩月が挙動で看破した盾に、攻撃が集中する。
「かかってきてくださいっ!」
 挑戦状が閃く。スズナの名乗り口上に、視線が一斉に……とまではいかないが、一対の紅蓮の眼差しに睨み付けられた。
 返り血をも糧とせんと詩月の大振りのナイフが閃き、道弘が身構える前に――前衛の明王が一気に動く。
 『怒り』の厄は、1つの付与でも五分五分と発動率も高い。スズナに武強仏恥義理斬が唸りを上げ、黄炎の光が羽ばたくように次々と前衛を舐める。
「そう簡単には、倒されてあげません!」
 黒きゾディアックソード「檳榔子黒」を盾のように翳し、少女は歯を食い縛る。小柄に燻る炎を見て取り、すかさず恵のサキュバスミストが甘やかに立ち込める。樒は改めてスターサンクチュアリを描き直した。
「どこまで上手く引き付けるか。腕の見せ所だな」
「うーん……」
 刹那、道弘は逡巡する。歴戦揃いの今回、足止めの技は不要かとも思われたが……すぐさま、体勢を立て直す敵の様相に油断大敵と知る。豪快な見た目に違う確実を取り、轟竜砲を叩き付けた。その攻撃は、右端の明王に阻まれ、ディフェンダーは2体と判明する。
 ディフェンダー及びクラッシャー各2、ジャマー&メディック各1――前のめりの陣形は、成程、力を求める鳳凰光背武強明王らしいとも言えようが、けして蛮勇でないのは、すぐに判った。只管に攻撃する前衛を、ジャマーは厄の解除に、メディックは回復に専念して支えている。
「善哉、善哉。他が為こそ己が為、全て背負い戦う事こそ戦獄龍の魂。お前らの強さも俺が背負い、永劫共に戦おう!」
 蛮勇の極みを言い放ちながら、ヴァジュラも又、明王の喧嘩に真っ向から立ち向い、無銘真打護国大太刀を振るう。
「ビルシャナ……テメエらは一般人の身体に乗り移りやがる。光の使徒だか何だか知らねェが、やり口が姑息で悪辣なんだよ!」
 荒々しく吐き捨てながらも、巌はサークリットチェインとブレイブマインを交互に重ねていく。
 幸い見える範囲に、敵味方の姿はない。順にスターサンクチュアリを描きながら、隠密部隊の進路から引き離さんと立ち回る樒。1対8で漸く対等の敵だ。それが6体も相手では、列攻撃を重ねられるだけでも厳しい。菩薩と対決する同胞の為にも、出来得る限り、戦線を保たせねば。
「おい、大丈夫か? 無理するなよ」
「平気です! もう、子供じゃないですから!」
 怒りと庇う事で、どうしても攻撃の矢面に立つ少女を心配する道弘の言葉に、健気にシャウトするスズナ。サイも少女の黒剣を模したエクトプラズムを象る。
「ここは僕に任せて……貴方は貴方の為すべき事を」
 時に緋袴を模した可動式のスカートアーマーと戦鎌で弾き、ナイフで反撃する詩月の背中が頼もしい。
 鳳凰光背武強明王の攻撃は、近接に偏る。後衛の恵と道弘が役割に専念出来るのは幸いだったかもしれない。

●陽動激闘
 激戦となった。回復寄りの防戦傾向で戦線を維持してきたケルベロス達だが、回復には限度があり地力は明らかにビルシャナが勝る。ケルベロス達はディフェンダーから集中攻撃していたが、最初に倒れたのは――明王ではなく、スズナだった。
「わたし、は……」
 詩月やサイに時に庇われ、1度は限界を超えて踏み留まった。だが、敵の怒り任せの重撃を凌ぎ切るのは、サーヴァントと魂分かつ身では厳しい。敵の単体攻撃と防具耐性が合致していないのも痛かった。
「……ちぃっ」
 思わず顔を顰める巌。ディフェンダーの補充として前に出る事も考えたが……一斉に向けられた明王の視線に、一手を費やすポジション変更の隙を容赦なく抉られると直感する。これ幸いと畳み掛けられれば、仲間の回復の前になす術なくすり潰されよう。
 そう、続いての標的は、中衛。これでもかと炎を、或いはドレイン技を浴びせられる。ドレインの量で防具耐性を推し量られたか。明王の集中攻撃は徹底的で苛烈を極めた。
「私の技にはそこまでの派手さはないが、足りない分はお前達の傷で彩ろう」
 勿論、ケルベロス達も負けてはいない。時にマインドシールドを、時にサキュバスミストを。或いはフローレスフラワーズで花弁を散らしながら回復に専念する恵。メディックの支援を支えに、樒はゾディアックソードと惨殺ナイフを踊るように縦横無尽に閃かせ、血風巻き起こす。巌もヒールに専念して耐え凌いでいる。
「腑抜けてんじゃねぇぞ!!」
 道弘の檄は本来ヒールの技であったが、今はポジションの理を活かして、只管攻撃に専念だ。
 1人欠け、次に膝を突くのは――胴を抉る痛みに耐え、樒は最大火力、ゾディアックブレイクを叩き付ける。
「アイツの土産、も、探さないといけないのにな……」
 痛撃を喰らいながらも踏み止まった明王の武強仏恥義理斬の応酬に耐え切れず、樒の意識が遠のく。ギリッと歯噛みした巌のスターゲイザーが、満身創痍の明王の足を刈った次の瞬間。
「無の太刀なれば、断てぬもの無し」
 振り上げ、踏み込み、振り下ろす。ヴァジュラの斬撃が、漸く1体目に引導を渡す。
「さあ俺と殺し合え!」
 2人倒されながら、ヴァジュラはあくまでも戦闘に酔う。そんな様子に、巌は肩を竦め、レオナルドはビクリと身を震わせ、詩月は困惑の風情を覗かせ、道弘と恵は顔を見合わせながらも、戦闘続行は総意だ。
 続くケルベロスの標的は2体目のディフェンダー。同時に、明王の標的は巌に移った模様。ヒール専念で凌ぐ巌だが、やはり狙われながらのポジション変更は厳しかった。
 鬩ぎ合いの攻防。何れも徹底的な集中攻撃で潰し合う。となれば、やはり最後にモノを言うのは、地力の差だ。
「悪い……」
 限界を悟り、己にではなく前衛へブレイブマインを撒いて巌は倒れる。詩月もサイも少なからず庇ってきたが、全ての攻撃の盾となるのは叶わない。それでも、ギリギリまで耐え抜いての勇退であった。羽毛散らし、袈裟をズタズタに刻まれた2体目のビルシャナの様相がその証。
「玲瓏たる輝きとて照覧せよ我が氷刃。その魂散るが如くの閃きを」
 詩月の剣舞の儀、月下氷刃に続き、ヴァジュラの居合い斬り、道弘のスターゲイザーが次々と追い撃てば、レオナルドは居合いの構えで深呼吸する。
「心静かに――恐怖よ、今だけは静まれ!」
 白獅子の心臓を象る炎が陽炎い、その幻惑を切り裂かん勢いで連撃が奔る。2体目のディフェンダーの霧散に快哉の声を上げる暇があればこそ。
「……っ。すみません……」
 ヒールを挟ませぬ武強仏恥義理斬の連重撃に、レオナルドは堪え切れず膝を突いた。これで、ケルベロスの戦闘不能者は4名。潮時だ。
「……有無?」
 戦力半減したケルベロスらを追い詰める絶好の機会ながら、明王達はふと迷う素振りで肩越しに寺院を見やった――その隙を逃さず、ケルベロス達は思い切りよく転進する。
「菩薩の方を気にしたのかな?」
 詩月の推測は、恐らく正しい。かつては菩薩守護を怠り、などと謳いながら、今回は守護を務めた連中の心中は知る由もない。ヴァジュラの厳つい面に苦笑が混じる。
「語らう『暇』が、有れば良かったのにな」
 敵のクラッシャーが健在ならば、ポジション変更による棒立ちは思わぬ重撃を被りかねない。故に、道弘も恵も、後衛の位置で膝突いた者達を支えながらひた走る。
「……?」
 暫くして後、明王の追撃が途切れ、ケルベロス達はミッション地域からの離脱を知る。振り返っても、胆沢城の戦況はもう遠い。連戦すら想定していた故に、初戦での撤退は些か不満が残るかもしれない。それでも、6体もの鳳凰光背武強明王を相手によく善戦したと言えるだろう。
「本命の方も上手くやってくれたかな?」
 恵の呟きの答え――菩薩撃破の大戦果は、程なく彼らも知る所となる。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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