累乗会反攻作戦～災厄の鐘が鳴るまでに

■リプレイ

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　宮崎県上空。
「高千穂峡は綺麗な場所じゃが起伏や川がある場所じゃからのぅ。ビルシャナがそういう場所にいるなら足場にも気をつけねばのぅ」
　ミミ・フリージア（ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679）は、高千穂峡が殊に強欲寺院とそれを覆う強襲型魔空回廊によって景観すら壊された様を眺め、眉を顰める。
「ミッション破壊と菩薩の打倒は果たさねばならんのぅ」
　力を込めた手でグラディウスを握り締め、ヘリオンから外気へ身を曝すミミ。
「よりにもよってこれほどの自然と綺麗な風景を楽しめる場所をビルシャナが制圧してるのは許さないのじゃ！」
　簡潔な叫びに怒りを孕ませ、回廊のバリア目掛けてグラディウスを突き立てる。
　箱入り娘たるミミが自然や綺麗な風景に心を寄せるのは尤もな話で、ビルシャナの制圧へ義憤を覚えるのも、うら若い少女の純粋さなれば当然だろう。
　グラディウスはグラビティを順調に流し込まれ、眩い光を発してバリアを大きくヒビ割れさせた。
（「……全ては無理でも一つは絶対止めてやる」）
　次いで、ミミ以上に内心で腹わた煮え繰り返っているのは、岡崎・真幸（脳みそ全部研究に費やす・e30330）。
　オカルト好きの延長か神社仏閣も好む為、真幸にしてみれば思い切り神聖な場所に回廊があるわ、加えて精舎まで作ろうとするわで、ビルシャナらに対する怒りのボルテージは上がりっ放し。
「強い強欲に負けた天照は天岩戸に引き篭もった……重要な役割を持つものを追い払って甚大な被害が出る良い例だ」
　有名な日本神話を引き合いに出し、グラディウスを構えた真幸が乗降口より飛び降りる。
「お前達の教義は聞き飽きた。惑わされる奴らの相手もな……もはやこの地に居座っている事自体堪え難い屈辱。お前ら、何人俺達に同士討ちさせた？」
　お前ら、とは無論ビルシャナの種全体を指している。
　となれは、同士討ちとは、人間が開眼して変貌したビルシャナを絶命させる事でしか事態解決や信者救出に至らなかった数々の依頼へ抱くやり切れなさに他ならない。
「これ以上は許さねえ、ぶっ壊す」
　真幸はなみなみと注がれてグラビティに満ちたグラディウスを振り下ろし、バリアへ相当深い亀裂を刻み込んだ。
　続いて。
「寺院に精舎……無事に破壊できたらだけど、建造物の残骸から何か情報が得られないか調べてみたいね。菩薩達の遺留品が無いかとか」
　喜屋武・波琉那（蜂淫魔の歌姫・e00313）が、事後調査にかける期待を呟いては、機敏な動きでひらりと中空へ身を躍らせる。
「私達はこの地域を解放する……教義通りに言えばこれは強い『欲望』だよね？」
　アヴァリティアの説く強欲信仰に対して、波琉那は皮肉ってから、
「……君の決めたルールだから文句は言わせないよ！」
　強い意志の篭った叫び声を上げると共に、グラビティが溜まったグラディウスの光刃を、バリアへ力いっぱいぶっ刺した。
　一方。
「いつまでも居座り続けられるのも迷惑です」
　ラーナ・ユイロトス（蓮上の雨蛙・e02112）は、一見笑顔に見えるものの相変わらず何を考えているか読めない表情で、ひょいとヘリオンの床を蹴った。
「如何な教えであろうとも、お互い敵対関係でしかありません」
　青空に融けそうな色味の翼を広げるだけ広げながら、ぐんぐん回廊目指して降下していくラーナ。
「ならば単純明快、ぶっ潰しましょう」
　ビルシャナへの立場の違いからくるシンプルな敵意を抑揚の無い声音から溢れさせ、眩い光を放つグラディウスを、バリアへ思い切り叩きつけた。
　蜘蛛の巣状に白く広がったヒビは、底知れない性格なラーナの激情の表れか。
「菩薩を倒してもらう為にも、ちゃんと注意を引き付けないとだね」
　陽動班としての役割をしっかりこなすべく気合いを入れて春空へ飛び出すのは、アストラ・デュアプリズム（グッドナイト・e05909）。
「最近はビルシャナのせいで色々な人達が迷惑をかけているし、ボクも我慢の限界だね！」
　明日こそ本気出すを地で行く自宅警備員でありぼんやりした性格のアストラが、ここまで激昂する事自体珍しい。
　本気を出したアストラの憤懣やるかたない一閃は、グラビティで満たされたグラディウスの力によって、バリアへ鋭い亀裂を疾らせた。
　他方。
「えへへ、グラディウス使うのは初めてだけど、わたしの槍のように、想いを込めて撃ち抜くよ！」
　こちらもやる気満々と言った風情でバッと宙に舞うのはイズナ・シュペルリング（黄金の林檎の管理人・e25083）。
「救済は大切だけど、無責任に肯定したり甘い言葉で誘惑するのは違うよね！」
　イズナはしっかと握り締めたグラディウスを突き出して、アヴァリティアやデラックスひよこ明王、ひいては明王を使役して手勢を増やさんとしている恵縁耶悌菩薩のやり口を、怒りも露わに非難する。
「高千穂は太陽の神様の神話がある神聖な場所なんだから、ぜったいに取り返すよ！」
　落ちるに任せてバリアへ突き刺した刃には、彼女の固い決意に呼応して溜まったグラビティが、確かな光を放っていた。
「……私は貴方達がデウスエクスの中で一番大嫌い！」
　ナレー・ション（地球人の降魔拳士・e12935）は、強襲型魔空回廊を忌々しそうに睨みつけると、ビルシャナへの強い義憤を唱えながら飛び降りた。
「人を変貌させて誰かにとっての大切な誰かを狂わせて奪って……！」
　グラディウスをきつく握り締めて叫ぶは、ビルシャナ全体への深い深い怨嗟だ。
「私のお父さんを殺して、私を浚って……挙句の果てに私のお母さんを変貌させて……！　牧師様に助けられた時は……漸く会えると思ったのに……！」
　ナレーの述懐する辛い過去は、彼女自身の戦う原動力、ひいてはビルシャナの拠点を何が何でも破壊するという強固な意志となって、グラディウスの刀身へ光輝を充填させる。
「だから、此れ以上貴方達に奪わせない！　絶対の絶対に……！」
　渾身の力を込めてバリアを斬りつけたナレー。中まで貫いた刺し傷は、生物相手なら今にも血が噴き出しそうな程に鋭く、痛々しい。
「……菩薩達は……この戦いの結末に興味はあるのかしら……？」
　月白・鈴菜（月見草・e37082）は、変わらぬ冷静さと客観的な視点で、精舎建立に懸ける菩薩達の目的の読めなさや底知れなさを呟く。
「……貴方達が毎週事件を起こすせいで……私のお昼寝の時間が……」
　そして、グラディウスを手に淡々とヘリオンから降下する鈴菜が続けて口にしたのは、如何にも掴み所のない彼女らしい、それでいて根の深そうな恨み言であった。
「……それに……彼が青空と満開の桜を眺めながらお昼寝すると、景色は綺麗で太陽は温かくて気持ち良いって言ってたのに……試す前に桜も散っちゃった……」
　果たして某落ちる男のように鈴菜自身の趣味も『青空の下での昼寝』かは定かでないが、どうやら、彼が薦めてくれたままに実践しようと思っていた矢先の菩薩累乗会だったらしい。
「……もうこれ以上騒ぎを起こさないで……」
　図らずも依頼に忙殺された鈴菜の怒りは相当なもので、その秘めた激情がグラディウスの刃を眩く輝かせ、バリアへもかなり目立つ亀裂を残した。

●
　グラディウスによる一斉攻撃をかけた９班ものケルベロスのお陰で、高千穂峡の魔空回廊はバリアもろとも見事に破壊された。
「さぁて、恵縁耶悌菩薩はどこにおるのかのぅ！」
　早速プリンセスモードにて変身を遂げたミミは、光の翼を目一杯広げて、敵のいそうな方角へ威勢良く走り出すと、
「邪魔じゃ邪魔じゃーっ！」
　ばしこーん！
　魔空回廊が破壊されて情けなくも慌てふためいていたアヴァリティアが目に入るなり、ドラゴニックハンマーをぶん回して竜砲弾を食らわせた。
「ぐ、おぇっ、よくぞきたケルベロス、汝の欲望とは何ぞ！」
　胃の内容物が喉まで込み上がる激痛に耐えながらも布教を忘れないアヴァリティア。
　すかさず欲望を掴まんと両腕を繰り出してくるのも含め、見上げた根性かもしれない。
　ミミを背中に庇った菜の花姫が、殊の外体力を奪われてふらつく。
「……このスモークにも負けねえレベルで派手に暴れるか……なかなか骨の折れる仕事だな」
　ぼやく真幸は最終決戦モードに変身、黒いフードつきコートを引き被り、僅かに大きさを増したかのように見える翼でバッサバッサと空気をかき混ぜながら歩く。
　そして、輝きの夢やデラックスひよこ明王達を見つけるや否や、黒い翼から聖なる光を放射。
　敵３体の『罪』を直接攻撃して、特に明王の全身の痺れを倍増させた。
「邪魔をするなら一人でも何人でもＯＫだからかかってきなよ！」
　波琉那もプリンセスモードを駆使して派手な見た目に変身すると、菩薩の警護を手薄にすべく、護衛と思われるビルシャナ達を挑発。
　同時に暴風を伴う強烈な回し蹴りを浴びせて、明王やアヴァリティアを守りごと薙ぎ払った。
「いざ、回廊をぶっ壊しにケルベロス参上」
　戦場の隅々まで響けとばかりに、凛とした大音声を発するのはラーナ。
　目論見通りにこちらへ向かってきたビルシャナ達を、尚も菩薩から引き離すべくラーナは後退しながら迎え撃つ。
「雨、アメ、降れ、降れ、ケロケロケロ♪」
　奴らの進路にサァッと怪雨を降らせて、少なくないダメージと毒を全身へ染み渡らせた。
「ケルベロス、我等に仇なして生きて帰れるとは思うな……！」
　デラックスひよこ明王は、自分の体を覆う黄色ひよこを、ブチブチちぎっては投げつけてくる。
「バットみたいに打ち返せたら面白いですけどね」
　イズナを庇い、黄色ひよこを杖でいなそうとして、ラーナが声だけで笑った。
「まずはバリア破壊成功だね。本気になればできない事はあんまりないかな」
　アストラも白い翼を広げてスマホを手に走り回り、懸命に敵の関心を引こうとしている。
「弾幕薄いよ、なにやってんの！」
　その上で、味方前衛陣へ果たして激励なのか煽りなのか判断し難い応援コメントを、それこそ動画を流れる弾幕のように連続送信。
　前衛陣のやる気や反発心を高めると同時に彼らの傷を癒した。
「ぎゃぁあぁ！」
　ミミックのボックスナイトは、輝きの書の細い脚へガブリと噛みついている。
　日頃アストラにお仕置きしているお陰か、牙の突き立て方が堂に入っていた。
「——緋の花開く。光の蝶」
　イズナはそっと両の手のひらを開いて、緋色の蝶を解き放つ。
（「高千穂には太陽の神様の神話があるんだよね。わたし黄金の林檎育ててて太陽の恩恵も貰ってるし、神さまの大切なところが奪われたままなんて許せないよ」）
　高千穂を守りたいという強い想いを乗せた光の蝶がひらひらと幻想的に戦場を舞う様子へ、幻花衆のみならずデラックスひよこ明王までもが目を奪われていた。
（「あまり、露骨に目立ち過ぎて陽動だと悟られるのもマズいしね……」）
　と、敵を引きつける為の戦いぶりをどこまで派手にすべきか、慎重に考えているのはナレー。
　白を基調とした聖職服へ鎧の如く纏わりついたオウガメタルから、オウガ粒子を放出。
　ぴかぴか硬質に輝く粒子が雪のように降り注いて、後衛陣の超感覚を呼び覚ました。
「……私達は菩薩を討ちにきたの……邪魔をしないなら見逃すわよ……」
　鈴菜は、こちらの気配に感づいて駆けつけてきた輝きの鎌へ、わざと挑発的な言葉をかけて、相手の戦意を煽り立てる。
　菩薩の取り巻きとの戦闘に持ち込むのが第一の目標であり、挑発自体はもし信じてくれれば御の字だが、そこまでは鈴菜自身も期待していない。
（「……ねぇ……団長……もし私と誰か、どちらかしか助からないような状況なら……貴方は私にどうして欲しいの……？」）
　九尾扇を広げた両の手を地面と平行に伸ばして、くるくる舞い踊る鈴菜。
　遠心力でそよぐ十八本の尾からそれぞれ光線が放たれ、輝きの鎌やデラックスひよこ明王の身体を貫き、かなりの衝撃を与えた。

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　戦いは続く。
「わらわのぬいぐるみを特別に貸してやるのじゃ。楽しむといいのじゃ」
　強化した猫のぬいぐるみ、みーこをバシッと投げつけるのはミミ。
　本人曰く、おぬしを追いかけてくるねこは可愛い——との事だが、実際にミミの投球もとい投みーこは高い命中精度を誇り、今も顔面にぶち当てられたアヴァリティアが、強欲を満たさぬままにご臨終あそばしたりしている。
「未来永劫ついてまわる傷を与えよう」
　真幸は業火を召喚し、デラックスひよこ明王ら敵の後衛陣目掛けて、消える事のない炎を燃え移らせる。
　ちなみに地獄の業火とは名目上だけの話らしいが、全身に密集していた黄色く丸いひよこ達を一気に燃やされた明王が、今際の際に地獄を見たのは間違いない。
「１体ずつ、確実に倒して数を減らしたいところだね」
　と、身軽に戦場を駆け巡りながら、簒奪者の鎌を振るうのは波琉那。
　露出度が高く蠱惑的な蜂のコスチュームと大きく湾曲した鎌の刃が、敵味方入り乱れる戦場でもひときわ異彩を放っている。
「……！」
　刃に硬そうな胸を抉られ、体力を根こそぎ奪われた輝きの書が、とうとう地面に墜落して息絶えた。
「思えば、螺旋忍軍と戦うのは久しぶりですね」
　ラーナはルドラの子供達含む杖２本を同時に振り下ろし、幻花衆を思いっきり殴りつける。
　そのまま体内に莫大な雷を流し込めば、重なる激痛に耐えられる筈もなく幻花衆は泡を噴いてひっくり返り、二度と起き上がる事はなかった。
「これだけ活躍すれば向こうも放っておけないよね」
　さっきとは打って変わって、誰もが優しい気持ちになれるような心温まるエピソードを投稿するのはアストラ。
　なんやかんやでラーナの傷を癒し、痺れも取り除いた。
「人にも神さまにも陰りはあるけど、なんでも好きにするなんて間違ってるんだから！」
　自らを奮い立たせるように声を張り上げたイズナは、ゲシュタルトグレイブを構えて超高速の突きを繰り出す。
　稲妻を帯びた鋭い穂先が、輝きの夢を神経回路ごとズブリと抉り抜いて、ついにトドメを刺した。
（「……彼なら……きっとこうするから……」）
　鈴菜は、回廊が破壊されて混乱中の個体には目もくれず、明確にこちらを殺しにかかってくる敵だけ応戦しようと決めていた。
　だから、九尾扇より精製した『物質の時間を凍結する弾丸』で撃ち貫いたのも、先程怒りを煽った輝きの鎌以外では輝きの華だけだ。
「此れ以上、貴方達に誰かの大切な人を奪わせない！　私のような思いを此れ以上誰にもさせない為にも絶対の絶対にっ！」
　ナレーは、釘を生やしたエクスカリバールに渾身の力を込めてフルスイング、２体目の明王の頭部を叩き潰して、死に至らしめた。
　グラディウスによるスモークはもう晴れている。
　８人は、明王２体とアヴァリティア、幻花衆、輝きの書、輝きの華の計６体を仕留め、他にも輝きの軍勢を引きつけ交戦したのち、皆自分の足で撤退する事ができた。

作者：質種剰	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年4月13日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 1／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
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