累乗会反攻作戦～翼の衆園

■リプレイ

●流星
　――天が、砕け散る。
　岩手県奥州市、胆沢城上空より降り注がれた流星雨の如き輝きの全てはグラディウスだ。
　４精舎中最大兵力が結集する事となったこのミッション地域においては、もはや、ケルベロスがこの小剣型兵器を携えて通過するだけでも容易くバリア破壊は成就する。
「なすべき事は一つ……鳥人間どもに絶望を与えろ！」
　それでも浦葉・響花（未完の歌姫・e03196）を始めとして、全力の叫び込めて叩きつけるケルベロスは多かった。

「まさかあたしの見つけた場所がこんな事になるとは思わなかったゼ！」
　自慢の爆乳をぶるるんと豪快に揺らしての着地を華麗に決めた直後。
　鳳凰光背武強明王殿の第一発見者である除・神月（猛拳・e16846）の漏らした声は、退却を余儀なくされた過去の怨みに決着をと燃えながらも何処か楽しげだった。
「……そういえバ、降下中に前は無かったハズの仏塔を見かけたゾ」
　慣れない慎重さを発揮して丁重な手つきでグラディウスを仕舞いながら神月が告げた其れこそが『精舎』に違いあるまい。
「どうやらまだ建立途中だったみたいだけど、かつての鎮守府跡にどんどん勝手に違法建築を拡げるなんてまったくノーサンキューだ」
　ありしの日の古代城柵の光景をとの想い込めた小剣をベルトに収納した豊田・姶玖亜（ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077）の手に今度は３８口径の拳銃が握られる。
「……さて覚悟して貰おうか」
　ガンスリンガーの眼が見据えた敵地に吹き荒れる、雷光と爆炎。
　光剣の遣い手たるケルベロスにとってその煙幕は常ならば撤退を助ける隠れ蓑――だが、今回ばかりは話はまったく異なる。
　累乗会反攻作戦において彼らの役割は陽動班。そして、迎え討つべき敵は雑兵に到るまでいずれも無力化の効かぬ精鋭揃いだ。
　四方より既に潜入を開始したであろう隠密班の菩薩包囲網構築を援護する為、実に７つもの班が巨大寺院周辺へと散開しての陽動作戦を各々開始する手筈と為っている。
　予め伝え合った自他の陽動降下ポイントと地形図とを脳内で照らし合わせた後に。
「ついに反撃の時が来たか……ならばこの機に乗じて奴らに一撃喰らわせてやるッ！」
　戦いの口火は、シータ・サファイアル（パンツァーイェーガー・e06405）の派手な啖呵とミサイルランチャー全門発射から切られるのだった。

「さーあ、かかって来なさい鳥野郎！　私達ケルベロスが相手をしてやるわ」
　翻るは白フリル。
　ビルシャナの企みを止められる上に侵略された地域も救い出せる一石二鳥だとビルシャナ占領地域への大規模ミッション破壊作戦という形式に対して橘・芍薬（アイアンメイデン・e01125）の士気は高い。
（「……一石二鳥って何か微妙にはまってるわねこの場合」）
　チラリそんな考えも過ぎらせながら赤髪のメイドさんは石ならぬ大量の花火をメイドテレビウムさん・九十九の手も借りて過激に投じ始めた。
　遠く強く――響き渡る遠吠えは狼とパンダの二重奏。
（「さぁおいで……沢山の敵と戦えるなんて、凄く、楽しみだ」）
　大陸風の紫の漢服に身を包むロイ・リーィング（見兔放犬・e00970）の涼やかないでたちは寺院の風景に相応しく溶け込んでいたが、その雄叫びからは神月同様、只管闘いを求める獣の血臭さが色濃く漂う。
　立ち込める煙幕すら押し退けんばかりの勢いの弾幕と爆破とがケルベロスの一団から振り撒かれ明王殿の外壁を次々と毀してゆく。
「幻花衆の一隊、それと……カムイカル法師か」
　妙にイキイキと愚者の黄金をバラ撒いて破壊活動に勤しむ桐箱ミミックの横からニケ・セン（六花ノ空・e02547）がまんまと誘引され押し寄せる敵手勢の内訳を告げればケルベロス一行は速やかに次の作戦フェイズへと移行する。
「とにかく足を止めちゃダメ」
　殺到する敵デウスエクスと味方の全てを引き連れるようにして草薙・ひかり（闇を切り裂く伝説の光・e34295）が駆け出したのは菩薩が鎮座する中枢部とはまったく逆の方角。
　しばしの追走劇を繰り広げたのち頃合いと見たひかりは反転して、突如、幻花衆戦闘員のひとりをその白銀の左で制するや黄金の右を叩き込むワンツーを電光石火で炸裂させた。
『！？　……ぐっ……』
「今回のお客さんは、仲間の皆とアナタ達、だよっ！」
　それは防具特徴のみに非ず。
　ボディも笑顔も……彼女が其処にあるという存在感そのものが、まさにダイナマイト。
　爆風に煽られたひかりの黒髪が、闘いの始まりに、いっそう艶やかに舞い靡く。

●衆園
「――――『漂うモノ達よ……我の元に集い皆を救え』」
　恩師よりの口伝で諳んじた祝詞の一字一句を唱えるごとに戦場の霊的密度はハネ上がる。
　敵軍を率いるカムイカル法師が中衛位置から齎す状態異常の数々に対しメディックである響花はその防護や浄化への専念を余儀なくされていた。
　だが当初より回復優先で戦う芍薬＆九十九のメイドコンビにロイを加えたディフェンダー勢が時に起こるヒールやキュアの不足を補う。
「これ以上、お前たちの好きなようにはさせない。いい加減、菩薩とやらのエゴに付き合うのはうんざりなのさ」
　ひかりから刻まれた指天殺の痛手がカムイカル法師の行動を阻む、その隙を逃さぬ姶玖亜の早射ちは眼にも留まらぬ神速の業。
『おのれ絶対平和を阻む暴虐の徒らめが……』
「そうね、累乗会だか何だか知らないけれどもういいかげん見飽きたのよ」
　侵略のお題目などどうだっていい。とにかくビルシャナもビルシャナに加担するデウスエクスももう辟易だとシータから射ち放たれた竜砲弾。万全の火力支援の中――。
「幻花衆、だっけ。あぁ、たしかに、まるで紅い花のようだね」
　根無し草に鉢を与えた加護主に対して技と術の総てで応えた彼らを、雑兵などとは決して侮るまい。
　鮮血滴る喰霊の刃を躍らせて、縦横に戦場を馳せるロイから振り下ろされた渾身の一刀が螺旋忍軍の肉体を両断する。

　敵陣中枢から戦力を引き剥がし、釘づけ、そして一体ずつ着実に擂り潰してゆく。
　ケルベロス達は陽動役としてまさに申し分ない働きで戦果を上げつつあった。
　順調にして順当、だが――と、神月は手近な幻花衆を旋刃脚で叩き伏せながら割り込みヴォイスで戦場に吼えた。
「おらァ！　鳳凰だか光背だか知らねーガ、あたしが帰って来たゾ！　武強明王、てめーを完膚ねーまでに叩き潰しにナァッ！」
　今この地へと集うデウスエクスの任はいずれも菩薩守護。
　その点で、狙いは闘争封殺絶対平和菩薩の命ではないとあっさり明かす神月のこの口上はあまり得策とは言えないものである……が。
「ラブコールはちゃんと届いたみたいだね、徐さん」
　狙撃手として戦場を俯瞰する視野の端。
　法師を弱体化の光弾で貫いた後ニケが指し示したその先に、泰然と。

『己等鳳凰光背武強明王を――己等との闘争を求むるが衆生の声は此処か』
「応ヨ！　だがあたしはしゅじょーなんかじゃねーゼ、除・神月ダ！」
　あるいは、戦闘狂は戦闘狂を喚ぶものなのであろうか。
　宿敵との邂逅はあたりまえな常識や定跡などあっさり飛び越えて果たされる事となる。

●最強
　鳳凰の羽撃きが生み出した眩き黄炎光は、灼熱に圧を重ね、前衛列を強かに炙る。
　舞い降りた武の翼の破壊力を目の当たりにした敵軍は、法師の指揮の下、かの明王の支援にと廻り始めた。

『――赦し給え、ただ力だけを求むる事を』
「ハハ！　最強を目指すとはビルシャナにしちゃー見込みがあるじゃねーカ。でもよ『目指してる』時点であたし以下だナ」
　読経の言を嗤い飛ばした神月はクラッシャーである明王のみならず螺旋忍軍までをも大味に巻き込んだ制圧射撃で前衛列へ攻撃を加えた。
　彼の明王にとっては未だ微傷……である筈が僅かに覗かせた身動ぎ。
「鳳凰光背武強明王の弱点は、斬撃力だ」
　看破したニケ自身に該当するグラビティの活性は無かったがその言葉を受けたロイが瞬時に間合いへと踏み込む。さやりと抜刀された霊刀。
　清浄たる『空』の斬撃を閃かせれば武強たる鳳翼の枷傷はより深き痛苦と化す。

「――それは何の真似かしら」
　此処に来てカムイカル法師が、敢えて手損の不利を冒してまでもジャマーからメディックへとポジションチェンジを図る。
　響花が尽力した甲斐あって今やケルベロスを取り巻く霊的加護と物理防御、双方とも不動たる厚みを備えている。それを厭い破却する為の苦肉の策であろうか。
　返答のかわり、鳴り響く木魚の音色と乱舞する八寒氷輪。
「イタチごっこね……いいわ、とことん付き合おうじゃない」
　黒豹の性秘める癒し手は、不敵な笑みを浮かべ、盾の護り与える治癒術を再び紡ぎ出す。
「……菩薩の身に何かが起きて……今すぐ馳せ参じるべきか、俺たちを食い止めるべきか――迷っている？」
　ぽつり、ぽつり。幻花衆との鍔迫り合いの最中ロイから零れた囁きを耳にした法師の狼狽は誰の眼からも明らかだった。
　絶対の主戴く者同士だからこそ、守護も救済も棄て去った明王よりもむしろ法師の在り様と其処から生じる逡巡を紫狼は即座に理解し得た。
（「けど……俺なら、迷わない」）
　我が主に恥じぬ気高き戦いを、強さを――其れこそが彼の存在証明。

「もう次はない。今度会うときは……地獄だろう。先に行って、ボクの席も取っておいてくれないか」
『救い難しケルベロスめ……』
　ヒップに自信がないから椅子取りゲームは苦手でねとウインクで嘯きながら、早打つ鐘の如くに連射されるセレスティアル・ベルが既に損耗激しいカムイカル法師に死への銃弾舞踏を強いる。
「その代わり、すぐ楽にしてやるよ」
　そして――最期の弾丸の行き先は足元ではなく不死たる心臓へ、狙い違わず。

　指揮を採るカムイカル法師を殺され、俄かに浮き足立つ幻花衆戦闘員達。
　法師以上の強者である鳳凰光背武強明王へ指揮をあるいは撤退命令をと求めたが聞き入れられず、彼等もまた歯切れの悪い中途半端な戦闘を無為に続ける事となってしまう。
　もはや有象無象たる螺旋忍軍の敵群へ草木を薙ぎ払うかの如く容赦無く、鋼鞭形態へと変化したシータのガジェットが振るわれる。
「お気の毒さまだけど同情はしないわよ。ひとたび私の前に立ち塞がったのはあなた達の方なのだから……全て撃ち貫くのみッ！」

『――武強仏恥義理斬』
　紅き重瞳に闘志を滾らせた求道者の一撃は、神月の肩口を斬り裂きその活力を啜る。
「てめーのその貧相なクチバシなんかにゃこのあたしのすべテ、喰らえはしねーヨ！」
　傷つけ傷つく程に、奔放なる悪党が纏う『殺意』はその漆黒を増してゆく。
「これ以上鳥野郎の犠牲になる人を増やすわけにはいかない……それはケルベロスも含めての話よ、神月」
　芍薬から発せられた赤熱のオーラがすっかりと闘争の悦びに満ちて狂喜する神月を癒しへと包む。
　待ち望んだ大喧嘩へと没入するのは大いに結構だが、それにしても、他のケルベロスと比べて単騎突出しがちな功夫使いの身をレプリカントは案じた。

「らしく、派手に、真っ直ぐに！　私が架けるとびっきりの虹の橋、その大仰なその翼にもしかと『魅せて』あげるわ！」
　防具には心許無いとすら思えるゼブラ柄のコスチュームから覗く豊満な肢体は、しかし、見る者が見れば其れを創りあげた数知れぬ鍛錬と実戦とを窺い知れる事だろう。
　草薙・ひかりの輝きが引き裂くは闇のみにあらず。絶対平和を謳い地球を脅かす恐るべき光明すらもその『伝説』は打ち砕く。
『ならば――此れも又ケルベロスが魂より放つ仏恥義理也』
　次々に繰り出される七色のスープレックスを前にホールドこそ逃れたものの明王の命運は既に『死』の目前。
　大敵を物ともせぬプロレスラーの投げ技を目の当たりにして神月の――降魔拳士たる彼女の内なる深淵へと宿る龍が俄かに熱を帯びる。
「あたしのサイキョーっぷリ、しっかり覚えていきやがれヤ！」
　煽られるようにバリア喪われた天へと思いっきりその片腕を突き上げれば、雷雲招来。
　――降魔「天地殲滅龍」・天地壊滅の雷。
　一条の雷撃はさながら先のグラディウス降下の再現を想起させる輝きと衝撃を以って明王たる敵の頭上へと降り注ぎ、其の闘争を永劫に終わらせた。
『……己等鳳凰光背武強明王は……竜、をも凌ぐ……』
「サイキョーは見上げて追い求めるもんなんかじゃねーヨ！　己のこの両腕で縋り付いテ、引き摺り降ろしテ……そしテ、喰らい尽くすもんダッ！」
　神月とっておきの八重歯スマイルは凶悪そのものだったが、死にゆく此の明王を看取るのならばあるいは、『猛拳』のそれこそが何よりも相応しいのかもしれない。
『……然れば其の泡沫の命と心の限り只何処までも仏恥義理るがいいケルベロスよ、そして――除・神月よ』
　淡々とそう言い終えると同時。
　鳳凰光背武強明王の体は瞬く間に塵と化し、ビルシャナとしての守護を続けたこの地へと帰してゆくのだった。

●開放
「もしもし……え！　それは大変！」

　突如、携帯を取り出した響花がそんな大声を張り上げる。
　アイズフォンでの通信すらままならぬ環境下で始まったそんな遣り取りにシータは思わず怪訝な表情を浮かべるも、途中で何かを察した彼女はそのまま無言を貫いた。
「今連絡があって、何とかの菩薩様が倒れたみたいよー。私達の事は気にせずに、菩薩様の見舞いに行って来なさい」
　響花のそれはむろん空通話相手の独り芝居だったが、此処まで足止めを続けていた張本人であるケルベロスから行けと言われれば幻花衆の側に去らぬ理由は無い。
　なお実際にはこの時点での闘争封殺絶対平和菩薩はいまだ交戦中だったが、既に健在とは言い難い状態にあり、更にその数分後には本当にケルベロスの刃の前に倒れる事となる。
　が、現時点で彼女らにそれらは知る由も無い。
「彼等を見逃すのかい？　こちらの余力は、まだ、充分だと思うけど」
「ま、あのザマじゃ何も出来ないだろうし……敵増援が来る前に戦域離脱って判断も悪くはないんじゃないかな」
　答えたのは響花ではなく姶玖亜。注意深く潜めた小声で問うたロイ自身も端から深追いをするつもりは無かった。

　こうして見事託された任務をやり遂げた一行は、誰ひとり欠けることなく、グラディウスを手に引き上げる事となる。
　彼等ケルベロスが掴み取った反攻も勝利もこれら凡ては大いなる衆合無（カタルシス）迄の暇に過ぎぬなどとは――それが何者であろうと決して誰にも言わせはしない。

作者：銀條彦	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年4月13日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 8／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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