累乗会反攻作戦~応報の時

作者:寅杜柳

「みんな、菩薩達の次の動きを捉えることができたぞ!」
 やや興奮した調子で雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)が集まったケルベロス達に向けて話し始める。
 シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)、軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)、大成・朝希(朝露の一滴・e06698)、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)、フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)、館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)らケルベロス達の調査活動が実を結んだのだ。
「彼ら六人のケルベロス達の調査活動の結果、これまでの『菩薩累乗会』を引き起こしていた菩薩達がビルシャナの占領地を拠点とし、『精舎』を建立しようとしている事が判明したんだ」
 『精舎』が建立されてしまえば、難攻不落の拠点となる上、なんらかの大規模儀式の拠点となる事が予測されるのだと、知香は言う。
「これを防ぐために、大規模なミッション破壊作戦……現在使用可能なグラディウス全てを使い切ってビルシャナの占領地を強襲して、その後に精舎建立中の菩薩の撃破を目指す今回の作戦が立案された」
 これ以上の『菩薩累乗会』を食い止めるために力を貸してほしい、そう言うと彼女は資料を広げ、作戦の詳細について説明を始める。
「今回菩薩の出現する地域は埼玉県秩父山地、宮崎県高千穂峡、岩手県奥州市の胆沢城、青森県上北郡おいらせ町となる。埼玉県秩父山地には自愛菩薩、エゴシャナ、ちっぱい絶対殺す明王が出現し、宮崎県高千穂峡には恵縁耶悌菩薩とデラックスひよこ明王にアヴァリティアが。岩手県奥州市の胆沢城には闘争封殺絶対平和菩薩、カムイカル法師と鳳凰光背武強明王が、青森県上北郡おいらせ町には芸夢主菩薩、ケルベロス絶対殺す明王とフリーダムビルシャナがそれぞれ出現するようだ。そしてこれらのどの地域にも幻花衆と輝きの軍勢が菩薩の守護に当たっている」
 つまりは菩薩とその直属配下、それから元々その地にいたビルシャナに加えて幻花衆と輝きの軍勢が今回戦う相手になるのだと知香は説明する。
「確実に破壊するために必要なチーム数は埼玉県秩父山地で3チーム、青森県上北郡おいらせ町は9チーム。それから宮崎県高千穂峡と岩手県奥州市、胆沢城は12チームが必要となるみたいだ。その三分の一でも半々の確率で破壊はできるが、チーム数が多い程、破壊の確率が上がるだろう」
 そして各地での具体的な作戦内容についての説明に移る。
「今回の作戦はグラディウスによるミッション破壊を成功させ、敵が混乱している隙をついて菩薩撃破を目指す、それが基本となる。菩薩の周囲には護衛のデウスエクスが居るため、陽動チームと隠密チームに分かれ、陽動側のチームが混乱を助長し、菩薩の周囲から戦力を引き離した隙に隠密側のチームが菩薩を直接狙うという作戦だ」
 まず陽動側のチームについてだが、と知香が続ける。
「混乱している敵は『より派手な攻撃を行っているチーム』の所に殺到してくるので、陽動側のチームが派手に襲撃して菩薩の周囲の敵をより多く引き付ける事ができれば、菩薩を急襲するチームの成功率をあげる事ができるだろう。……勿論多くの敵を引き付けたチームは戦力的に厳しい状況に置かれるので、全ての敵と戦うのではなく、上手く敵を引きずり回して可能なら各個撃破も行った上でミッション地域から撤退する事になる」
 引き付けた敵が少数ならば、当面の敵を撃破した上で撤退する事も可能だが、その場合菩薩を攻撃するチームはより多くの敵と戦う事になってしまうだろう、と知香が付け加える。
「隠密行動で菩薩に近づくチームは、菩薩と周囲に残った戦力と戦う事になる。菩薩は、安全に撤退する事を優先する為、戦力的に厳しい場合は、その時点で撤退を選ぶ必要があるかもしれない」
 それに隠密行動が途中で発見された場合は、敵が迎撃してくる為、菩薩のところまで辿り着く事はできなくなってしまうだろうと知香は言った。
「菩薩撃破の為に必要な戦力だが……1地域につき10チーム以上、戦力を集中させる事ができれば7割以上の確率で撃破できるはずだ。チーム数と連携内容が大切だから確実に撃破するなら戦力の集中が重要かもしれない。ただ、10チーム未満の戦力では戦力的に撃破の可能性は大きく下がるだろう」
 戦力の配分、そして陽動チームと隠密チームの連携が上手くいくかが重要になると白熊の女は言い、資料を閉じる。
「これまで何度も阻止してきた『菩薩累乗会』だけど、ここで阻止できなければ恐ろしい災厄となるだろう」
 そうなる前に、どうか頼んだ。信頼の籠った言葉で締め括り、知香はケルベロス達を送り出した。


参加者
流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
タンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)
レシタティフ・ジュブワ(フェアリー・e45184)

■リプレイ

●世界を照らすように
 青森県、おいらせ町。
 ビルシャナに占領されていたこの地の上空から八人のケルベロス達が降下する。狙いはこの地に存在する魔空回廊、そして『精舎』を築かんとする菩薩の撃破。
 グラディウスを掲げ、飛び込みのように一直線降下するのは流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)。
「あちしたちケルベロスがいる限り好き勝手はさせないっす!」
 菩薩を狙うにしてもまずは魔空回廊を破壊せねば始まらない。シルフィリアス・セレナーデ(紫の王・e00583)が想いを込めグラディウスを構える。
「自由の女神はね、アメリカが独立によって得た弾圧からの自由と移民への寛容のシンボル。何でもしてもいいという自由だけを示す証ではないんだよ!」
 ビルシャナの掲げる歪んだ自由に対し抱いた怒りをグラディウスに込めたスノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)が叫ぶ。
「自由をはき違えて、語るんじゃないよ! 大体、これがあること自体、自由じゃないやい!」
 真っ当に怒りを見せるのはレプリカントの風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)。見た目はその、少々不審者ルックになっているが言葉は正論。
(「自由とは『欲望の開放』ではない、己の因果を全てを自分で背負う『決意』です」)
 落下しながらもタンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342)は精神を乱すことなく、グラディウスに精神を集中。
「おいらせ村を占領したままだなんて、許せません!」
 普段のおどおどした様子はどこへやら、憤慨して魔空回廊を見つめるのは相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799)。この地の素晴らしさを知る彼女の解放させるという意志はとても強い。
 初めてのミッション破壊にクレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)の整った顔立ちには僅かの緊張が滲んでいる。
「自由と混沌は似て非なるものだよ。そんな自分勝手な事に……人を巻き込むなー!」
 その緊張を跳ね除けるように口にし、節度ある自由を取り戻そうと想いを込め、グラディウスを構え、
「グラディウス、フル起動! 全てを込めて、破壊しろ!」
 錆次郎が叫ぶと同時、ケルベロス達の手から一斉にグラディウスが放たれ炸裂。
 一瞬置いて、その真価を発揮したことを示す強烈な閃光と爆音が発生。共に降下していたレシタティフ・ジュブワ(フェアリー・e45184)がその鋭い眼を開けば、そこに存在していたはずの魔空回廊は跡形もなく消滅していた。

●混乱を進む
 グラディウスを回収し、大切にしまい込んだケルベロス達は隠密気流を纏い、歩みを進める。
 狙いは菩薩の撃破、この地に向かった戦力は少なくとも、最初から諦めるつもりは彼らにはない。混乱の中、明確に特定の方向に向かうデウスエクス達がいる。それはおそらく、陽動班を迎撃する為の戦力。
 ならばその逆に菩薩がいる、そう考えたケルベロス達は進路を決める。
 機会があればグラディウスを陽動を行う他の班に託そうともしていたが、それを果たそうとするには隠密班の目的と逆方向、その上この混乱の中では不可能だろう。
 小型の白獅子、動物変身を発動しているタンザナイトが木陰や建物に身を隠し先行、索敵しつつ歩みを進める。
(「小柄なことはいい事だな」)
 口を開かねば儚げな少女にしか見えないが、その内面は年にそぐわぬ老成した軍人そのもののレシタティフが彼を見やり思う。彼女自身も小柄だからこその実感か。
 タンザナイトが振り向き前足で合図を出す。それを見た清和は、後方に停止のハンドサインを出す。
(「数が多いな」)
 魔空回廊破壊により齎された動揺でビルシャナは混乱している。その混乱があるからこそ菩薩を狙う機会でもあるのだが、この数のデウスエクス達に一斉に狙われたら間違いなく酷いことになる。
(「今でも被害が出てるんだから、このままにしておけない、必ず……」)
 好き勝手やってきたビルシャナに打撃を与えるチャンス、それに逸る気持ちを抑えスノーエルは合図を見て足を止める。その腕には白く、ふわふわとした毛並みの箱竜マシュが抱えられている。
 いつものようなドジは踏まないように注意しつつ、愛は翼猫のつばさと共に仲間達にぴったりとついている。
「この一連の騒動を最初から戦ってきたけどさ、暇の間の出来事って割には、ビルシャナの力の入れ方に違和感を感じるよ」
 錆次郎が小声で愛に話しかける。
「一体、この一連の騒動にどんな悟りが有るのか……それにどんな救いが有るのかって、もし相対したら、聞いてみたいよ。ほんとに」
「ビルシャナはよく分からないですからね……け、けどどんな理由でも、名産品とか桜とか動物さん達を独り占めしてるとか本当に許せないです!」
 ぷんすかと擬音が付きそうな感じに怒るが、緊張に強張っていた先程までからは少し気楽になったようだ。
 戻ってきた白獅子を見、迂回ルートを提案しようとレシタティフが小声で仲間に伝えたその瞬間、
「そこにいるのは、ケルベロスか?」
 その声は明らかに此方に向けられたもので、何よりも遠くではなくかなり近く、後方から発せられた。
 振り向いたケルベロスの前には灯火を掲げたどこかの像にも似たビルシャナ、そしてその後ろには四人の螺旋忍者と十を超えるダモクレスの群がいた。
 すぐさま周囲に視線をやるが、他の班は少なくとも合流できるような近場にはいない。
 全員が油断せず隠密行動する事を心掛けていたのは間違いない。しかしここは敵地、絶対数が少ないという不利を覆す程の効果は発揮できなかった。
「これ以上進むのは難しいっすねー……」
 シルフィリアスが杖を振るうとその先端の宝石が輝き、自身に電気ショックを流し発光。
「……魔法少女ウィスタリア☆シルフィ参上っす」
 光の消えた後にはひらひらした華やかなミニスカドレスの魔法少女が一人。
「……さぁここに、おいでっ!」
 シルフィリアスの変身に合わせ、スノーエルがわざと大きな声を上げ恐ろしげな竜の幻影を召喚し、注意を惹く。
 見つかってしまった、ならできる事はより多くの注意を惹く事で他の班の仕事を助けようと考えた彼女の判断は正しいのだろう。
 どこかマシュにも似た風貌の竜の幻影が唸り、威嚇。さらにシルフィリアスがポーズを決めた流れでフリーダムビルシャナに向けてマジカルロッドから雷を放つ。しかしそれは幻花衆に庇われ本来の目標までは届かない。それでも口火を切るには十分だ。
 タンザナイトが振り返り仲間を見やり、敵の数との差に一瞬表情に不安が顕れるが、すぐに表情を戻し敵に向き直る。
「自由とは『自分』を『理由』とする、です。数の大小なんて言い訳にならない。……来なさい、タンザ達が本物の「自由」を見せてあげます!」
 純白のコートを纏うサキュバスの青年は、コートの内で無意識に指輪に触れる。それは彼にとって、とても大切なもの、絶対に生きて帰るのだと強く意識させるもの。
 切り抜けて必ず帰る、そう決心した彼と錆次郎が銀の粒子を散布し、前で構える仲間達の感覚を活性化。さらにクレーエの周囲に清和がオウガ粒子を展開する。
「いくっすよー」
 シルフィリアスが普段の調子を崩さず言うと、ロッド先端の宝石に魔力が集中、光線として放たれ幻花衆を撃ち抜く。それに続いてクレーエがビルシャナに飛び蹴りを喰らわせ足を鈍らせるが、間を置くことなくビルシャナの像がぶれる。
 後衛の幻花衆のその術は、ポジションに付随する効果で呪縛を祓うと同時に耐性を与える。完全に治療される前に白獅子が悪しき神を祓う光芒を放つがダモクレスに妨害、レシタティフもビルシャナの頭を撃ち抜くタイミングを測っていたが、鋭敏になった感覚でも上手く掴めない。攻撃を途切れさすまいと止む無く狙いの甘いまま発砲するが、それは回避されてしまう。
「まだまだよっ!」
 スノーエルの流星の飛び蹴りがさらに続くが、別の機兵に阻まれ金属的な音が響く。その傷すらも即座に仲間のダモクレスが癒やしてしまう。
 輝きの軍勢のグラビティが一斉に放たれ前衛のケルベロス達を撃つ。
「か、回復します!」
 愛が灰と白の粒子を展開し、前衛を癒やし、つばさが清浄なる風を起こし耐性を与える。
 輝きの書が放った光線が錆次郎を撃ち抜くが、彼はすぐに腕から展開した機械腕で自身を治療する。ちょっと危ない見た目だがその技術は正確無比。
「貴様……!」
 レシタティフが光の翼を広げ追撃しようとしていた輝きの夢へと突撃、妨害する。其方は任せ、タンザナイトが重力を宿した獣の腕をビルシャナに叩きつけようとするが、幻花衆が割り込み衝撃を殺される。少し遅れ、華美な獅子の剣と茨の意匠の乙女の細剣、その二刀に宿る重力を宿した十字の斬撃が続くが、ダモクレスに阻まれる。
 これは長期戦になる。ケルベロス達の頭にその考えが過った。

●乱戦
 一進一退の攻防が暫く続く。
 錆次郎がビルシャナに抱いていた疑問を問いかけてみたが、
「質問に答える……これは、不自由! 我は自由である!」
 鳥が掲げる灯火の勢いが増し、火炎の返答。つまり、まともに会話は成立しなかった。
 それに合わせ、書を持つ輝きの軍勢が光線を放つ。
「まだまだっすー」
 標的となっていたシルフィリアスがそれをロッドから放つ光線で相殺、狙ってできるものではないが、当然の結果とでもいうようにポーズを決める。反撃としてタンザナイトが足にぐっと力を込め、超加速の突撃を食らわせるが、敵数の多さに本来の勢いを発揮できない。
「数の力は大したものです。ケルベロス側が、身を持って味わう事になるとは。ですが!」
 それでも彼の瞳から闘志は消えることはない。
 ビルシャナが自由と好き勝手を履き違えたような経文を唱え、ヴァルキュリアの少女の精神を惑わせようとするが、そこにつばさが割り込み吹き飛ばされるが、飛ばされた先にいた愛がナイスキャッチ。が、ほぼ同時にさらに道化風の機兵がナイフを閃かせ、レシタティフを切り裂く。苦い表情を浮かべる彼女がそろそろヒールを頼むと口にしようとするも、その前に錆次郎の破壊のルーンの加護が宿る。
 助かる、と端的に礼を言うと早撃ちでビルシャナを狙う。回避されそうになるが、活性化された彼女の知覚はその先を読み、正確に命中させた。
「つばさの方は頼んだよぉ」
「は、はい!」
 愛が応え、集中攻撃を受け消耗した竜に魔導金属片を含んだ蒸気を吹き付け癒す。清和も共に花のオーラを降らせ援護に専念。火力を上げる為の回復手段も持ち合わせているが、それを使う余裕もない程に敵の手数が多く、絶え間なく誰かに何かしらの呪縛がかけられている状態で、中々回復以外に手が回らない。
(「攻撃自体はそこまで厳しくないのは幸いですけど……」)
 菩薩の護りを優先しているからか、敵へのダメージは庇い庇われ分散し、さらに即座に癒されているが攻撃の方はそこまで踏み込んではこない。それに対して癒し手と護り手が連携し、支援しているからこそ戦力差に崩されることなく持ちこたえている。
 それと入れ替わりにクレーエの流星の飛び蹴りがビルシャナに直撃。さらにスノーエルの音速の拳が間を置くことなく続き、ビルシャナが纏う分身を霧散させた。
 思うように相手に呪縛を与え続ける事はできずとも、癒される前に効果を発揮する類のものであれば有効に作用する。クレーエを起点として続く攻撃は他のデウスエクスに阻まれることはあれど、徐々に回復しきれないダメージをビルシャナに積み重ねていく。
 しかし、このままではケルベロス達に戦闘不能者が出て戦線が崩れるのが早いだろう。どこかで勝負に出ねばならない。
「……全パーツ射出っ、超合金合体!」
「なにっ!?」
 清和の叫びと共にどこからか巨大ロボのパーツが飛来、そのパーツと合体した彼が脚部のローラーを唸らせ大剣で弱った幻花衆を一閃。序盤から回復に専念していた彼の奇襲に、デウスエクスは一瞬気をとられる。
「冷たさに抱かれ、凍り付くまで良き夢を」
 彼の意図を察したクレーエが、コートの色に似た純白の雪を解き放つ。ビルシャナの体に纏わりつくそれは体温を奪い、その思考を鈍らせる。
 反撃に灯火を掲げるが、そこにレシタティフの早撃ちが挟まり勢いを減弱化させる。
「さぁ、惨めに死にさらせ、蛆虫め」
 千載一遇のチャンス、罠にかかった獲物を見るようなレシタティフの冷徹な表情を見たのは正面にいたデウスエクスのみ。
「そこっす!」
 よろめいたビルシャナに紫の魔法少女の雷の一撃が奔り、スノーエルの幻影の竜の咆哮がそれに続く。が、数に任せた敵の守りはそれらを防ぎきる。
「炎――氷――光の矢――巨人の腕――お掃除道具――」
 しかしここを通さねばチャンスはない。そう判断し焦る愛が言葉を紡ぎ唱えたのは彼女が今持つ秘技の全て。個別に召喚すれば問題ないそれらを魔女として未熟な彼女が全てを同時に発動したその結果、大量の掃除道具の津波が溢れだし、ビルシャナを押し流さんとする。
 倒させまいとダモクレスが一斉に前衛にグラビティを放つが、倒される前に錆次郎とボクスドラゴン達のグラビティが癒し、持ちこたえさせる。
「さあ、一矢報いてやるです! 天地を……繋げっ!」
 大水晶より削り出された剣をタンザナイトが掲げ、ビルシャナの足元に光が走る。
 そして間を置くことなく立ち上った地から天への光芒が、一体のデウスエクスを消し飛ばした。

●また、次の機会を
「やった……?」
「……仕留め損ねた!」
 確認するようなスノーエルの言葉にタンザナイトが呻くように呟く。光が薄れた後には少しずれた位置に倒れたビルシャナの姿があった。
 しかし敵を見渡せば幻花衆が一人減っている。直前に突き飛ばし庇ったが、本人は耐え切れずに消滅したのだろう。
「い、今が撤退のチャンスです!」
 十分な時間は稼いだ。ケルベロス達自身に重なった消耗を考慮しても、隙のできた今が好機だろう。
「ついてくんなっすー」
 シルフィリアスが氷河期の精霊を召喚し、デウスエクス達を氷で封じつつくるりと反転、撤退を開始。
 それから混乱も収まりつつある地域を暫く走り続け、時には遭遇したデウスエクスをやり過ごしつつどうにか安全な場所まで撤退した。
「みんなちゃんといるねぇ~」
 錆次郎が振り返り、はぐれた仲間がいない事を確認。菩薩の護衛の優先順位が高いのか、敵が追ってくる様子のない事に清和はほっと胸をなでおろす。
 無事に帰れる、ここまで来てようやく安心できたクレーエの緊張も解ける。
「まあ敗走ではないな」
 レシタティフが呟く。戦力は少なくとも、魔空回廊破壊という結果を得られた。十分な仕事を果たしたと言って間違いないだろう。

 そしてケルベロス達はこの地域を後にした。
 大きな戦いは、すぐそこに。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月20日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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