菩薩累乗会~電脳世界は裏切らない!?

作者:雷紋寺音弥

●夢のゲーム王国
 春先とはいえ、未だ少しばかり冷たい風が吹く早朝の海岸。打ち寄せる波の音以外、何も聞こえず誰もいないその場所に、降り立ったのは一般人を引き連れたビルシャナだった。
「おい! 本当に、こんな場所に一生ゲームだけして暮らせる楽園があるのか?」
 連れて来られた一般人の青年が、眼鏡の位置を直しながらビルシャナに尋ねた。既に何日も風呂に入っていないであろう風体と、徹夜を繰り返して深く刻まれた目元の隈が、彼が生粋の廃人ゲーマーであることを物語っていた。
 果たして、そんな彼の問いに答えるかの如くビルシャナが合図をすれば、海底から水柱を伴い現れたのは、巨大な戦艦を思わせるドラゴンだった。
「うぉっ! こいつは凄い! これなら誰にも邪魔されず、365日ゲーム三昧できるぞ!」
 仮に邪魔する者がいても、この戦艦竜の砲撃で皆殺しだ。弾幕ゲームよりも密な砲撃で、徹底的に追い払ってやる。
 そう、青年が口にしたところで、彼の姿もまたビルシャナと化していた。その後ろで、自分を連れて来たビルシャナが、眼光鋭く不敵な笑みを浮かべているとも知らないで。

●偽りの楽園
「召集に応じてくれ、感謝する。ビルシャナの菩薩連中が計画している『菩薩累乗会』に、新たなる動きが予知された」
 今度の作戦は、今までのものとは格が違う。そう結んで、クロート・エステス(ドワーフのヘリオライダー・en0211)は集まったケルベロス達に向かい、自らの垣間見た予知について語り始めた。
「現在、活動が確認されている菩薩は『芸夢主菩薩』というビルシャナだ。こいつはゲームと現実の区別がついていなかったり、俗世を離れてゲームだけをしていたいと思っていたりするゲーマーの人間を導いて、ビルシャナにさせてしまう菩薩だな」
 この菩薩の勢力が強まれば、多くの一般人が現実とゲームの区別をつけることができなくなり、次々とビルシャナ化してしまう危険がある。おまけに、これまでの戦いで菩薩累乗会を邪魔してきたケルベロス達を警戒し、芸夢主菩薩は『ケルベロス絶対殺す明王』と『オスラヴィア級戦艦竜』の戦力を用いて、ケルベロスの襲撃を待ち構えているという念の入れようだ。
「今回、戦場となるのは海岸近くの海上だ。2体のビルシャナは戦艦竜の背に乗っているからな。こいつらを撃破するためには戦艦竜の砲撃を掻い潜って、お前達も背に飛び乗らなければならないんだが……」
 問題なのは、やはり戦艦竜の砲撃である。定命化が迫り弱体化しているとはいえ、それでも敵は20m級の巨大な相手。当然、砲撃の威力も半端ではなく、複数の相手を纏めて狙い撃てる技を、多数用意しているのは厄介である。
「お前達に相手をしてもらいたいのは、あくまで2体のビルシャナだ。ケルベロス絶対殺す明王を先に倒せば、ゲーム系ビルシャナになった男を説得して、撃破後に人間に戻すことも可能だぜ」
 ケルベロス絶対殺す明王は、その名の通りケルベロスを殺すことに命を燃やしているビルシャナだ。背中の後光と巫女のような服装が特徴で、巫術士や光輪拳士、阿頼耶識に似たグラビティを得意とする。
 一方、ゲーム系ビルシャナに変貌した青年だが、こちらはその名の通り、ゲームを連想させるような技を得意とする。シューティングゲームの弾幕の如く弾をばら撒いたり、なにやら魔法剣っぽい光の剣で攻撃したりして相手を退けようとする他、現実逃避によって体力を回復させ、状態異常に対する耐性まで付与して来る。
 唯一の幸いは、説得の言葉をそこまで選ばなくとも良いということだろう。『人間を辞めたら、いずれは大好きなゲームができなくなる!』等といった、一般的な正論を叩き付けるだけで構わない。
「ビルシャナ2体を撃破すれば、オスラヴィア級戦艦竜は闘争封殺絶対平和菩薩の制御を失って、海底に帰っていくぜ。まあ、1体だけ撃破して撤退する場合は、帰り際に砲撃の雨を掻い潜って逃げることになるから注意が必要になるんだが……」
 ちなみに、オスラヴィア級戦艦竜の撃破を試みる場合、こちらはビルシャナ2体を撃破してしまう前に戦艦竜を倒す必要がある。正直なところ、これを狙うのはかなり困難を極めるため、無理して狙う必要はない。
「戦艦竜を撃破しない場合も、その攻撃を受け続ける状態では、長期戦は不利になるからな。短期決戦でビルシャナ2体を撃破できればいいが、くれぐれも無理は禁物だぜ?」
 目標は、あくまで『菩薩累乗会』の阻止。ビルシャナを1体以上撃破すれば可能なので、そこを見誤らないで欲しい。
 最後に、そこだけ念を押して、クロートは改めてケルベロス達に依頼した。


参加者
水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)
ジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)
水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
キーア・フラム(憎悪の黒炎竜・e27514)
日向・灯理(ダブルブリード・e44910)

■リプレイ

●開幕! リアル弾幕ゲーム!?
 荒々しい波を越え、沖へと進むボートの群れ。クルーザーを中心に、無数の無人ゴムボートを配置して、ケルベロス達はビルシャナを乗せた戦艦竜を目指していた。
「また戦艦竜に突撃することになるとはねー」
 船の舳先近くから、葛城・唯奈(銃弾と共に舞う・e02093)が敵との距離を計っている。こちらが仕掛けられる間合いに入っていない以上、敵もまた砲撃が届く距離ではないのは救いだが。
「戦艦竜までお出ましとは、正直驚きました。ですが、敵にとってそれだけ重要な局面なのですね」
「確かに、何とも難しい仕事だ。だがまあ、全くもって問題ない。負ける要素が見つからねえな」
 緊張した面持ちを崩さない羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)に、ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)がにやりと笑ってみせた。頼れる仲間に、護るべき人。それら全てが揃っている戦いで、無様に負けることなど考えられないと。
(「しかし……大型含む三体同時……私に何が出来るのか」)
 もっとも、それでも日向・灯理(ダブルブリード・e44910)のように、不安を隠しきれない者がいるのも事実。そんな彼女達の想いを見透かしたかのように、沖合の戦艦竜から轟音と共に火砲が放たれた。
「……来るっ!? だったら……」
 こちらも最大火力で迎撃してやろう。そう意気込んで掌に黒炎を集約させるキーア・フラム(憎悪の黒炎竜・e27514)だったが、しかし何故か砲弾は天を貫いたまま、ミサイルの一つも降っては来ず。
「これは……いかん! 総員、退避だ! 水上バイクに乗り移れ!!」
 操舵を担っていたジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が、空の様子から何かを察して慌てて叫んだ。次の瞬間、上空の雲が紅の色に染まったかと思うと、凄まじい轟音を伴って、爆薬と焼けた金属の塊が降り注いで来た。
「……遅燃性の榴弾砲ですか。まさか、ここまで広範囲に焼き尽くされるとは……」
 済んでのところで脱出に成功し、水沢・アンク(クリスティ流神拳術求道者・e02683)が思わず額の汗を拭う。
 見れば、クルーザーは既に撃沈され、囮のボート達もまた見る影もない。全方位を射程に捉え、絨毯爆撃の如く焼き尽くす能力を持った戦艦竜相手では、囮を用意しようとしまいと、大して変わりなかったのかもしれない。
 正直、これはとんでもない弾幕ゲームだ。だが、これがゲームではなく現実である以上、直撃を食らえばそこで終わりだ。
「何か来るところまで来ちゃったっていうか……。ケルベロス絶対殺す明王とかゲームビルシャナとか……」
 突っ込みどころは満載だが、それは後回し。とにかく今は敵が次弾を装填する前に、距離を詰めようと水守・蒼月(四ツ辻ノ黒猫・e00393)が急かすようにして言った。
 海上を疾走する水上バイク。ビルシャナの待つ戦艦竜との距離は、既に目と鼻の先まで縮まっていた。

●非情の確殺ゲーム
 多数の船を犠牲とし、辛うじて着艦に成功したケルベロス達。だが、彼らを待ち受けていたのはケルベロス絶対殺す明王による苛烈な攻撃と、恐るべき誘導性能を誇る機銃の雨だった。
「弾の雨が降る中で戦闘ですか……。なかなか厳しいですね、これは……」
 帽子を片手で抑えつつも、軽やかなステップで灯理は周囲に花をばら撒いて行く。だが、ともすれば彼らの回復量を上回る形で、戦艦竜の砲弾が着実にこちらを狙って来る。
「ちょっ……! そんなに纏めて来たら、受け止められな……!?」
 ライフルで戦艦竜を牽制する蒼月だったが、降り注ぐミサイルの量が多過ぎる。味方を庇って盾となり続けるのも、このままでは直に限界だ。
「大丈夫か、紺? まだ、やれるよな?」
「はい、なんとか……。ムギさんと一緒なら、私は大丈夫です」
 ムギの言葉に頷く紺だったが、そう言っている彼女自身、ムギのことが心配でならなかった。
 先程から彼女を庇うため、ムギは身体を張り続けている。このままでは、彼の方が集中攻撃を受け、先に倒れてしまうのではあるまいかと。
「フハハハッ! 非力なり、ケルベロス! 今こそ我が悲願を……貴様達の抹殺を果たさせてもらう!」
 この一撃で地獄へ行け。そう叫んで、絶対殺す明王が、恐るべき闘気を纏った拳を繰り出して来た。おまけに、それに合わせるようにして、ゲーム系ビルシャナが凄まじい弾幕を撒き散らすが。
「面白れぇ……どっちが先にくたばるか、チキンゲームを始めようか!」
 こうなれば、正面から受けて立ってやる。上着を脱ぎ捨て、ムギは敢えて敵の攻撃の最中に身を躍らせて。
「教えてやる、筋肉に不可能はないって事をな! 攻撃は任せたぜ、紺! 舐めるなぁぁあああ!!!」
 真正面から激突する拳と筋肉。おまけに多数の弾幕までムギの身体を襲い、衝撃で彼の身体は天高く打ち上げられて吹っ飛んだ。
「あぁっ、ムギさん!?」
 戦艦竜の甲板に落下したムギへ、思わず紺が駆け寄ろうとする。が、それよりも早く、ムギは気合で起き上がると、自らの肉体に宿る力を活性化させて復活した。
「活性化せよ筋肉、不屈の意思を持って立ち上がれ!」
 悪いが、ゲームオーバーには、まだ早い。こちらにもコンティニューする権利はあると、不敵な笑みを浮かべて絶対殺す明王を睨み付け。
「やってくれましたね……。これは、ムギさんの分のお返しです!」
 代わりに敵の懐へ飛び込んだ紺が、超高速の拳を絶対殺す明王の鳩尾に叩き込んだ。
「ガハッ……! ば、馬鹿な……貴様達、まだこのような力を……」
 思わず身体をくの字に曲げ、絶対殺す明王が崩れ落ちる。そのチャンスを、敵を倒す格好の機会を、他の者達もまた逃さない。
「変幻自在の『魔法の弾丸』……避けるのはちーっと骨だぜ?」
 そちらの逃げ場は、既に封じた。唯奈の放った銃弾が不可解な軌道を描いて絶対殺す明王の後頭部に直撃したところで、残る者達もまた一斉攻撃!
「さっさと決めるわよ。これ以上は、長引かせるとこっちが危ないからね」
「無論だ。ビルシャナよ……我が魔眼を以て……貴様の妄執を破断する!」
 黒き炎を紡ぐキーアと、その力を瞳へと凝縮するジョルディ。情け容赦なく放たれる一撃は、敵を捕捉したが最後、逃さない。
「エネルギーチャンバー頭部接続! 視線誘導ロック完了! 喰らえ! 全てを貫く魔眼の一撃……Mega Blaster!! ”Balor”!!」
「黒炎の呪縛は決して敵を逃さない……。呪いの黒炎に囚われたまま燃え尽きろ……!」
 ジョルディの瞳から放たれし、限界まで圧縮されたエネルギーの奔流。それに重ね、キーアもまた黒き炎の呪縛を解き放つ。全てを貫く必殺の閃光が、全てを焼き尽くす地獄の業火が、それぞれに絶対殺す明王を追い詰めて行き。
「……本当は、貴女も救えなければならないのですが……力不足でまたも犠牲を出す事をお許しください……」
 このビルシャナも、かつては人間だったはず。それを想いつつも、敢えて心を鬼にして、アンクが止めの一撃を。
「決めます……! 外式、双牙砕鎚(デュアルファング)!!!」
 足刀で敵の身体を天高く打ち上げ、そのまま白き炎の拳で追撃する。黒炎と白炎。二つの炎に飲み込まれれば、さすがの絶対殺す明王も無事では済まず。
「……あの世で田中芳夫という男性に出会ったら、伝えてください。申し訳ありませんでした、と。そして、仲良くなってあげてください……」
「な、何を言って……? 私が、貴様達の願いを聞く筋合いなど……ぐぁぁぁっ!?」
 全身を覆う無数の炎に、焼き尽くされて行く絶対殺す明王の身体。果たして、最後のアンクの言葉は、彼に届いていたのだろうか。

●本当のゲーマー魂
 ケルベロス絶対殺す明王を撃破し、残すはゲーマービルシャナと戦艦竜のみ。未だ砲撃の雨が止まぬ中、ケルベロス達は改めて、ビルシャナと化した青年へと声を掛けた。
「貴方……ゲームがしたくてこんなトコまで来たみたいだけど、こんな殺し合いがしたかったの? それがお望みなら私が今すぐ燃やしてあげるけど」
 いずれにせよ、このままでは確実にゲームができなくなる。いい加減に目を覚ませとキーアが凄んだが、当の青年は挑発されたと思ったのだろうか。
「なんだとぉ!? 貴様……俺の楽しみを力づくで邪魔しようってのか! 上等だぜ! ぶっ殺してやる!!」
 何者にも、自分の邪魔はさせはしない。なにやら無駄に神々しい光の剣を生成し、ビルシャナと化した青年は、そのままキーアに向かって斬りかかって来た。
「……っと! とりあえず、落ち着けって! 新作ゲームが出てもビルシャナじゃ買えねえし、一緒にやってくれる人もいなくなるぞ?」
 振り下ろされた光剣を胸板で受け止め、ムギが青年に告げる。同じく紺も、このままでは家族も友達も失って、たった一人になってしまうが良いのかと尋ね。
「今は楽しいかもしれませんが、これからもたった一人で過ごす時間に、本当に耐えられますか?」
 ゲームを極めた結果、リアルな人間関係を失っては本末転倒。そう言って聞かせようとしたのだが、青年の思考は完全にゲーム中毒の猛毒電波に侵されていたのだろうか。
「うるせー! 別に、リアルに他人と合わなくたって、ネトゲの世界で繋がっていられんだろーが! 時代はオンラインゲーム、オンラインプレイだ! それに、ネット仲間なら俺がビルシャナかどうかなんて、関係なく遊んでくれるしな!」
 今の時代、ゲームは誰かと同じ部屋でやらずとも、通信プレイが楽しめる。だからもう、こっちのことは放っておいて欲しいと、青年はドヤ顔で言い返して来た。
 これは、なかなか手強い相手だ。だが、どんなに楽しいことであっても、やがては飽きる。それを伝えるべく、今度は灯理が諭すようにして語り掛けた。
「君は時間の恐ろしさを分かっていない。余暇も10年100年続けば最早ゲームはストレス解消ではなく義務。今、君が逃げようとしている仕事と同じだ。苦痛でしかない」
 元より、ゲームは楽しむために行うもの。しかし、それが『やらなければならないもの』や『それしかできないこと』に変わった瞬間、その魅力も色褪せてしまうのだと。
「ふっ……確かに、そうかもしれないな。だが、今の俺にはコイツがある! これさえあれば、新作ゲームはダウンロードし放題! 新しいソフトも、ネット販売で一発購入だぁっ!!」
 そう言って青年が取り出したのは、どこにでもあるスマートフォン。まあ、確かにスマホゲーなら無料でダウンロードできるものも多く、ネットに繋げばゲームソフトもオンラインで購入できるかもしれないが……こんな辺鄙な場所まで宅配便を届けてくれる業者が、果たしてどこまでいるのだろう。
「見ての通り、ビルシャナである限りは好きなゲームも出来なくなりますよ。……私に貴方の事を教えて貰えませんか?」
 とりあえず、否定してばかりでも話は始まらないので、アンクは相手の趣味について尋ねることにした。
 ゲーム好きと一口に言っても、実に様々な人間がいる。どんなジャンルのゲームが好きで、どんなプレイを好むのか。まずは、それを教えて欲しいと尋ねられ、ビルシャナと化した青年の顔にも少しばかり変化が見られた。
「俺の好きなゲームか? そうだなぁ……何でも色々手は出すが、特にシューティングとかRPGとか……後は、そうそう! 最近は、ソシャゲでパズルやタワーディフェンスも楽しんでるぜ!」
 そこまで青年が言った時、これは好機だと蒼月と唯奈が畳み掛けた。
「こんな所に居たら新作ゲームも買えないし、限定版も買えない。店舗特典も貰えないよ!」
「それに、働かないとゲームを買うお金も手に入らないよ。そうなったら、ゲームを続けることも、新しいゲームを買うこともできなくなるけど……それでもいいの?」
 最近のゲームは便利であり、ネットもまた利便性が極めて高い。しかし、それらも結局は、お金があって始めて使えるもの。活動資金を失ってしまえば、細々とゲームを続けることはできても、色々と極めることはできなくなってしまうと。
「……ハッ! そ、そうだ! そうだった! 金がなければ、ソシャゲのガチャも回せない! 限定版の特典も、ソシャゲの推しキャラも手に入らないじゃないか!」
 ここに来て、青年は自分が大切なことを忘れているのに気が付いたようだ。ならば、これは駄目押しだとばかりに、最後はジョルディが極めつけの一言を。
「そもそも、地球が征服されたらゲーム会社も無くなるぞ! そうなれば……」
「うわぁぁぁっ! や、やめてくれぇぇぇっ! 折角……折角、ランキング上位に食い込めるまでやり込んで、推しキャラも全部コンプしたんだ! ゲーム会社がなくなったら、そのデータも全部消えちまうじゃねぇかぁぁぁっ!!」
 ネット上にデータが置かれているソーシャルゲームは、ともすれば泡沫の夢の如き脆さも併せ持っている。それを水泡に帰させないために必要なのは、なによりもゲーム会社の存続だ。が、しかし、このままデウスエクスの侵略が続けば、今にゲーム会社など全て潰れ、ゲームどころの世界ではなくなってしまう。
「た、頼む! 俺を元に戻してくれ! もうじき、新しいイベントが開催されるんだ! それに間に合うように課金しないと、限定キャラを取り逃してしまうぅぅぅっ!!」
 ついに、ビルシャナと化した青年は、頭を抱えてその場にしゃがみ込んでしまった。
 人間を辞める理由もゲームなら、人間に戻りたいと思う理由もゲーム。なんとも筋金入りのゲーマーなようだが、今は突っ込んでいる時間も惜しい。
 お望み通り、元の人間に戻してやろう。そのためには、多少の痛みを伴うが覚悟はいいか。
 未だ戦艦竜の砲撃が続く中、ケルベロス達は唖然として固まっているビルシャナ目掛け、一斉に渾身の一撃を叩き込んだ。

●限定アイテムを手に入れた!?
 ケルベロス達が青年を抱えて浜辺に戻ったときは、既に夕陽が水平線の向こう側に傾きかけていた。
「現実も、結構スリリングで楽しいだろ?」
 ずぶ濡れになりながらも帰還したジョルディが、助け出した青年に改めて尋ねる。もっとも、青年の方は既にゲームのイベントが気になるようで、それどころではなかったが。
「とんだゲームジャンキーね。まあ、無事だったから別にいいけど……」
 呆れたように肩をすくめるキーア。そんな彼女の横では、なにやら灯理が巨大な鉄の塊を握っている。どうやら、戦艦竜を攻撃した際に欠けた装甲の一部を、ドサクサに紛れて拾って来たらしい。
「もう二度と繰り返しませんよ。彼の様な犠牲は……」
 かつて救えなかった青年のことを想いつつ、最後にアンクが天を仰ぐ。作戦を成功させて帰還したケルベロス達の背中を、夕陽が赤々と照らしていた。

作者:雷紋寺音弥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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