●巨竜戦艦現る
仁科かなみはゲームが好きだ。他の誰よりもゲームを愛しているという自負がある。
故に、他の何もかもを捨て去ってでもゲーム漬けの日々を送りたいと考えていた。
「ほ、本当に、こんなところに一生ゲームだけができる楽園なんてあるんでしょうね?」
人気のない海岸。
かなみはデウスエクス――ケルベロス絶対殺す明王に連れられその場所へやってきていた。
かなみの言葉に、ケルベロス絶対殺す明王が一つ頷き合図する。
波が揺れる。大地が震動し、ゆっくりと海がせり上がる。
首をもたげるように、それが現れた。
全長二十メートルにも及ぶ巨大な影――戦艦竜だ。
「う――っは! すごい! 素敵! 最高じゃない! これなら誰にも邪魔されずにゲームに没頭できるわ――!!」
声をあげるかなみの姿が変貌していく。羽毛が生え鳥の嘴が生えていく。ビルシャナだ。
変貌したかなみは羽ばたくように羽根を広げゲーム漬けの日々を夢見てはしゃぎ廻る。
それを尻目にケルベロス絶対殺す明王が静かに呟いた。
「お前達は、ケルベロスを招き寄せる餌に過ぎない。
闘争封殺絶対平和菩薩が呼び寄せてくれた戦艦竜を使い、ケルベロス絶対殺してみせる」
ケルベロス絶対殺す明王。その瞳に決意が宿る――。
●
菩薩累乗会。
強力な菩薩を次々に地上に出現させ、その力を利用して、更に強大な菩薩を出現させ続け、最終的には地球全てを菩薩の力で制圧するものだ。
阻止する方法は現時点では判明していない。
我々に今できる事は、出現する菩薩が力を得るのを阻止して、菩薩累乗会の進行を食い止める事だけだ――。
「新たな菩薩の活動が確認されたのです。その菩薩は『芸夢主菩薩』」
クーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が集まった番犬達に説明を始めた。
この菩薩はゲームと現実の区別がついていなかったり、俗世を離れてゲームだけをしていたいと思っているゲーマーの人を導いてビルシャナにさせてしまう菩薩だという。
「この菩薩の勢力が強まれば、多くの一般人が現実とゲームの区別をつけることができなくなり、次々とビルシャナ化してしまう危険があるのです」
芸夢主菩薩は、これまでの戦いで菩薩累乗会を邪魔してきたケルベロス達を警戒しており、『ケルベロス絶対殺す明王』と『オスラヴィア級戦艦竜』の戦力でもって、ケルベロスの襲撃を待ち構えているようだ。
「戦場は海岸近くの海上となるのです。
ビルシャナ達は、戦艦竜の背に乗っているので、戦艦竜の砲撃を掻い潜って戦艦竜に上陸して戦う必要があるのです。大変かもしれませんががんばってほしいのです」
続けてクーリャは敵の詳細情報を伝えてくる。
「敵は、ビルシャナ二体とドラゴン――オスラヴィア級戦艦竜一体になるのです」
ケルベロス絶対殺す明王は守護を打ち払う閃光に、素早く氷の楔を放つ技、炎纏う格闘戦を得意とするようだ。
ビルシャナ化した一般人も戦闘に参加する。
相手を催眠状態にする経文に、トラウマを具現化させる鐘を鳴らす。光を放ち傷を癒やす事もしてくるようだ。
「オスラヴィア級戦艦竜は強敵なのです」
大火力の戦艦主砲に、追尾するミサイル。その巨竜の口かはら業火が吐き出される。
クーリャは資料を置くと、真剣な眼差しで番犬達を見渡した。
「ビルシャナの菩薩の事件も、遂に、ドラゴンまで動員してきたようなのです。
オスラヴィア級戦艦竜は、多くのドラゴンが螺旋忍軍の主星スパイラスに隔離された余波で海底で定命化に蝕まれていたようなのです。
命令を出すはずの上位のドラゴンからの命令が絶え、自らの死が迫っているという状況を、ビルシャナの菩薩に利用されてしまったのだと思うのです」
一つ息を整えると、最後になりますがとクーリャは言葉を紡ぐ。
「戦艦竜の戦闘力は高いですが、定命化により死に瀕している為、無理に戦う必要はないのです。ビルシャナ二体を撃破すれば再び海底に沈んでいくはずなのです。なので、ビルシャナ撃破後に離脱する作戦が妥当だとおもうのです。
戦艦竜を撃破しない場合も、その攻撃を受け続ける状態では、長期戦は不利になってしまうのです。短期決戦でビルシャナ二体を撃破できればよいのですが……難しい依頼かもしれませんが、どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
ぺこりと頭を下げたクーリャは祈るように手を合わせ番犬達を送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
ミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193) |
京極・夕雨(時雨れ狼・e00440) |
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986) |
円谷・円(デッドリバイバル・e07301) |
鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685) |
ティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448) |
ベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622) |
赤月・夕葉(黒魔術士・e45412) |
●掻い潜る
「これでよし……」
「準備できたか?」
鈴原・瑞樹(アルバイト旅団事務員・e07685)が最後のスイッチを入れると同時、ティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)が顔を覗かせ確認する。
「ええ、皆さんの所に合流しましょう」
瑞樹は一つ頷くと踵を返して操舵室から脱出する。
そこは船艦竜に乗り込むために用意した囮用のボートの上だ。
周囲はすでに煙幕によって視界が通らない。瑞樹とティリルは仲間の待つボートの方角を確認すると、翼を広げ低空飛行で飛び立った。
二隻の囮ボートがゆっくりと音を立てこの先にいる船艦竜に向け進み出した。
二人は、煙幕に巻かれながらも無事に本命のボートへ辿り着く。甲板には仲間達が待っていた。
甲板へと降り立つ瑞樹に、コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)が手を差し出して迎え入れる。
「お疲れ様。怪我は無いかい?」
差し出された手を掴んで着地した瑞樹はその言葉に「はい」と笑顔で返した。
「よかった」と微笑み返すコロッサスは自然とその手を瑞樹の頭に向けて、
「さあこれからが本番だ。背中は任せたよ」
と、愛らしいと思う瑞樹の頭を優しく撫でた。
「はい、コロッサスさんは安心して攻撃に集中してください」
瑞樹は擽ったそうにしながら、元気に返事する。
「おっと、こっちまで熱くなっちまうな。……夕雨の姉御、私にはなにかないのかい?」
「突然愛を囁けと言われてもこっちが困ってしまいますよ。えだまめを貸すので我慢してください」
ティリルの言葉に冗談めかして答える京極・夕雨(時雨れ狼・e00440)はサーヴァントのえだまめを持ち上げティリルに手渡した。
「美しい愛を語らうのも素敵だけれど、そろそろ出発しましょう。戦艦竜が手ぐすね引いて待っているわ」
「ああ、そうだな、いっちょやってやろうぜ!」
ベルベット・ソルスタイン(身勝手な正義・e44622)の言葉に、赤月・夕葉(黒魔術士・e45412)が同意する。
「明王を倒してかなみを助けないとなの」
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)がぐっと手を握りしめると、
「そうだね、我が儘いってる悪い子を叱りつけて元に戻してあげなきゃ」
と、ミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193)が元気に声をあげる。
「よし、行こう」
コロッサスが合図し音を立てボートが動き出すと、グングンとその速度を上げていく。
それと同時、遠方より飛来した轟音が天を揺るがした。
「戦艦竜の砲撃だ!」
それは囮ボートを狙ったものだろう。熾烈な爆音が轟き煙幕の先に光が迸る。
まだこちらは狙われてはいない。だがそれも時間の問題だろう。
囮ボートが狙われ居るうちに、使える防具特徴を駆使して、できるだけ速度を上げた上で一気に近づく。
轟音と共に、爆発音が広がった。
「囮が一つやられました――!」
続けて、もう一度爆発音。自動操縦の囮は為す術無く海の藻屑と消えていった。
ボートが煙幕を抜ける。眼前に立ちはだかる巨大な戦艦竜。その主砲が確かにこちらを捕らえたことを番犬達は感じ取った。
「回避――!」
誰かのあげたその声に、操舵を担当していたコロッサスがすかさず反応する。大きく船体を揺らしながら波を切る。轟音が隣で爆ぜた。続けて、
「ちっ、ミサイルだ。あれは避けきれねぇ、できるだけ落とすしかねぇぞ! 夕雨の姉御ッ!」
「水上での戦闘なんて考えたくもありませんでしたが、仕方在りませんね。できるだけ叩き落とします――!」
白煙をあげながら迫り来るミサイルを、番犬達はグラビティを駆使して相殺していく。落としきれなかったミサイルを、夕雨が可能な限りその身をぶつけ叩き落とした。
攻撃は止まらない。放たれる主砲、追いすがる誘導ミサイル、吐き出される火炎の渦。夥しい量の弾幕を掻い潜り、戦艦竜への牽制を加えながら死にものぐるいで、戦艦竜の懐を目指す。
波を切りボートが疾走する。船体は限界を迎えようとしていた。……だが番犬達の尽力が功を奏した。船体が破壊されるよりも前に、船艦竜の懐へと辿り着いたのだ。
「一気に上へ!」
ボートを停止させた番犬達は戦艦竜の足を駆け上り、その背に、遂に辿り着いたのだ。
「待ちわびたぞ、ケルベロス」
休む間もなく、威圧感のある声が番犬達を出迎える。振り返る鳥にも似たその風貌は――ケルベロス絶対殺す明王。
その横にはキョロキョロと挙動不審な動きで番犬達を見渡すビルシャナが一体。仁科かなみだ。
「一般人を人質にして私達をおびき寄せようだなんて、なんて浅はかで愚かなのかしら」
「だが目論見通りお前達は現れた――我に殺される為にな」
ベルベットの蔑みにも心動かすことなく、明王は決意籠もる瞳を睨めつける。
「ここまでだケルベロス。お前達はここで死ね。絶対に殺す――ッ!!」
膨れあがる殺気が死の気配を運ぶ。明王がその拳を構え襲いかかってきた!
「ぴぃ!? え、え、どういうこと? なんでケルベロス――!?」
仁科かなみが事態を理解できず、情けない声をあげた。
●現実への目覚め
尋常ならざる速度でありながら、パワーファイターにも比類する破壊力を持ってその拳を振るうケルベロス絶対殺す明王。
「オォォ――ッ!!」
低く唸るような咆哮はそれだけで死を与えかねない。普段相手取るビルシャナからは想像できない程、殺意滾らせる化物だ。
番犬達にとって不利な状況はそれだけではない。その背にいるというのに戦艦竜はお構いなしに主砲を放ち、ミサイルを連射する。前方に生えた首が背を覗き込めば火炎が撒き散らされる。
「足を止めるな! 出来るだけ動き続けるんだ!」
コロッサスが仲間に向け声を上げる。明王と立ち回りながら戦艦竜の猛火を掻い潜る。言うは易く、行うは難し。圧倒的な不利を背に番犬達は立ち向かっていた。
さらに面倒な事態もある。仁科かなみだ。
対して役に立っていないのは明白だが、明王の傷を癒やす光が面倒なことこの上なかった。
「仁科さん今しているのはゲームなんかではありません。あとできっと後悔すると思います……」
瑞樹が持てる全ての力を振るって仲間達を治癒する傍ら、かなみに言葉を投げかける。
「だ、だって、こうしないとゲームがー!」
半べそかきながら悲鳴染みた声をあげるかなみ。今はまだ、声は届かない。
守護の盾を生み出し、破邪の力を広げていく瑞樹。予期せぬ一撃を喰らい危機的状況にある仲間を見れば、聖王女に祈りを捧げ治癒能力を高め、危機をぬぐい去っていく。
「やり方が狡いんだよ、鳥ヤロウがッ!」
駆けるティリルが明王の側面を奪う。勢いそのままに身体を回転させ流星を思わせる蹴撃を持って重力の楔を叩き込むと、狂刃鳳凰を閃かせその腕を呪詛とともに刺し貫く。振り払うと同時振るわれる明王の拳を鼻先に掠らせながら躱すと距離を取った。
「ちっ、邪魔だ――ッ!」
仲間を狙う戦艦竜の砲台を遠隔爆破で爆破させると、空中に大魔方陣を描き出す。
「プレゼントだ、受け取りなッ!」
大魔方陣によって召喚された巨大な氷剣が明王を穿った。
鎖で作られた守護の魔方陣の効力の確認と同時に、ベルベットが明王へ肉薄し星形のオーラを蹴り込む。ドレスが翻り、ハイヒールが明王を幾度となく蹴り飛ばす。倒れる事無く吹き飛ぶ明王。
「命を蝕む紅き吹雪よ、吹き荒びなさい! 鮮血の狂嵐(ヴェノムブリザード)!」
そこに、自身の血液から生成した猛毒の雪を吹き付ける。治癒を阻害する毒が明王の全身を蝕んでいった。
「ひんひん。明王さーん。元気だしてくださいー」
かなみが明王に治癒の光を与えるもその効果は下がっている。そんなかなみにベルベットが口を開いた。
「一生ゲームだけをしていたいなんて……。ああっ、なんて怠惰で美しくない考えなのかしら! その間違いは正さなければいけないわ」
「ぴぃ!? な、なんですかぁ!」
シュッシュッと拳を突き出すかなみ。
「一生遊んで暮らせるなんて都合のいい話、あるわけないでしょう?
うまくあなたを乗せて捨て駒にするつもりなのよ。
それに、電気も来ていないのにどうやってゲームをするつもりなのかしら」
「ぴぃ! そ、そういえば……でもでもなんかそれっぽい機械とかあったしぃぃ」
呆れ顔で伝えるベルベットの言葉にも抵抗を示すかなみ。
「ふん、今となればもはや無用だが、少しは役に立つか」
明王がかなみの傍のベルベットを攻撃し間合いを離させる。
そこに夕葉が不可視の『虚無球体』を放った。
「チィ――ッ!」
「それ、俺の魔法を食らうと良いぞ、当たれー!」
いくつもの『虚無球体』が明王の羽根を消滅させていく。しかし明王は不可視であるにも関わらずまるでそれが見えているように走り躱していく。
「逃がさないぜ」
夕葉の喉が震え、奇蹟を請願する外典の禁歌を奏でる。神経を汚染するその一曲に、明王が顔を歪ませた。
「次――主砲狙ってるぞ!」
夕葉は戦艦竜の攻撃にも注意を払い、声を出して仲間達に注意を促していた。混乱の直中にある戦場において頼もしいその声は仲間達の士気をあげる。
「ええ。わかってはいましたが貴方の態度も言動も、つくづく癪に障りますね」
明王に気を咬む弾を叩きつけながら苛立ちをぶつける夕雨。それは明王の言葉端から伝わるかなみを餌として扱う態度についてだ。所詮はデウスエクス。人間のことなど歯牙にも掛けないのはわかってはいるが、だとしても許せる物ではなかった。
「だとしたらなんとする。我に殺されるべく集まったお前達になにができると?」
明王に絶対殺す拳を振り抜かれ、衝撃に奥歯を噛み締める。戦艦竜からの砲撃が追い打ちかけてくるが倒れるわけにはいかない。夕雨はこのチームの盾だ。見栄と言われても、最後まで盾として在り続けるのだ。
「――私達にだって貴方を倒すことくらいはできますよ」
否、必ず倒すのだ。
「ならばやってみせろ――ッ!」
明王が傷ついた夕雨目がけて必殺の拳を振るう。音速を超える一撃を前にしかし夕雨は、
「おいで」
悪趣味な豪腕を象る縛霊手を用いてその拳を骨ごと粉砕する。
たたら踏む明王に神経焼き切る稲妻の如き突きを突き出す。繰り出される連続突きに明王の間合いが開いた。
「夕雨の方は任せて! 蓬莱援護なの!」
その隙をつき円が桃色の霧を夕雨へと飛ばす。回復の無駄打ちにならないよう瑞樹としっかり連携を取っていた。
戦艦竜の砲撃とミサイルが雨のように降り注ぐ。自身も傷を追いながら、しかし前衛を支えるべく円はグラビティを迸らせる。
壮絶な戦いの様相を呈してきた状況に、かなりがオロオロとし始める。円はかなみに聞こえるように言葉を投げかける。
「ゲームはとっても楽しいけれど、何でも『それだけ』をやってちゃ駄目だよ。
他の事にも目を向けてみて。そうしたらきっとよりゲームが好きになれるから」
世界を広げろという言葉にかなみはしかし、首を振る。
「ゲーム以外って言われてもわからないよぉ」
大丈夫、きっと見つかるから。優しく円が諭す。
「無駄、無駄である――ッ!」
明王が駆ける。砕かれた拳を振るい、番犬達を追い詰める。だが、番犬達の心は折れない。
「ヘルズゲート、アンロック! コール・トリカラード!」
「我、神魂気魄の剛撃を以て獣心を討つ――」
ミライとコロッサスが同時に力ある言葉を放つ。ミライの地獄の炎が魔方陣を描き出し、この世ならざる場所から大きな三本の鎖を召喚する。三原色の鎖が執念深く明王を追い詰める。
――同時にコロッサスの元に顕現する炎の神剣。抜き放たれた夜明けの刀身が【黎明】を映し出す。
「逃がさないよ――!」
ミライが喚び出した鎖が明王の腕を、脚を、そして首を捕まえる。魔方陣へと引き釣り込もうとする鎖に抗う明王。
「グゥゥ、おのれぇ――!」
「終焉だ――ッ!」
コロッサスの剣が明王を一刀の元に斬り伏せる。か細く息を残すその身体をミライの鎖が魔方陣の中へと引き釣りこんだ。一瞬にして、色濃くあった明王の殺意が消える。ケルベロス絶対殺す明王は倒されたのだ。
「ぴぃ!? 明王さん!?」
残されたかなみが泣きそうになりながらへたり込む。コロッサスが近づいて、
「仮想の山海珍味は現実の粥一杯、絢爛な荘園も薔薇一輪の香りに劣る。
貴族令嬢の如き生活もその身で享受出来ねば虚しいだけであろう。
そもそも己が命と引き換えにする程のものではあるまい……!」
と、一喝するとかなみが身をひくつかせる。
まぁまぁ、と夕葉が近づいて、
「ゲーム三昧の日々か、それは現実から目を背けているだけじゃないか?
もっと、現実の世界を見てみるんだ!」
その言葉に合わせるようにティリルが言葉を重ねる。ゲーム三昧ではそれ以外を斬り捨てることになるのだと。
「お前が過ごしてきた日常も、共に過ごした家族や友人も全て失う事になるんだぜ。
お前にとって本当に大切なものがなんなのか、それを見失うんじゃねぇ!」
ぺちんと、かなみの頭をはたく。
「うぅ、だって、だって私ゲームしかないしぃ、それしかないしぃ……」
瞳に涙を浮かべるかなみに、夕雨が辛辣に言葉を叩きつける。
一生ゲームだけしたいのなら、その為の設備を全部自分のお金で買って、一生独りぼっちで生きたらどうかと。
「そうすれば絶対に誰にも邪魔をされませんよ。
それが嫌なら、少しは勉強くらいしなさい!」
夕雨もまたぽこん、と番傘型の槍の番傘部分で頭を叩く。
「う、うぅ……だってぇ、だってぇ……ここにくれば貴族令嬢になれるってぇぇ……」
番犬達の説得に言い詰められてかなみの涙腺は崩壊間近だ。
止めにミライが激昂して、
「あーもう間怠っこしい! ゲームは一日一時間! ずっと遊びたいなんてワガママ言っちゃだめ!
それとちゃんと勉強すること! テストの点数がひどかったらゲーム禁止になるよ!」
と、ゲンコツを落とすとかなみはとうとう我慢出来なくなって、
「う、うわーん! ごめんなさーい! でもゲームは一日五時間までにしてくださいー!」
と大泣きすると同時にビルシャナだった身体が人間に戻っていった。
●竜は沈み消えていく
「よかった、まだ動きます」
潜入に使ったボートが辛うじて息を吹き返す。これなら乗って帰る事もできるだろう。
救助したかなみをつれボートを動かす。ゆっくりと戦艦竜から離れていく。
一際大きい波に揺られると、後方にいた戦艦竜がゆっくりと海底に沈んでいく。
「もう会いたくないけど、次があったら今度は倒してやるんだからね!」
ミライの言葉に、でも、と瑞樹が続ける。
「きっと定命化からは逃れられないでしょうね……もう会う事はないでしょう」
沈み往く戦艦竜に別れを告げ、番犬達を乗せた船はゆっくりと岸へと向かう。
頭上高い陽光が、波に反射し眩しかった――。
作者:澤見夜行 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年4月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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