犬の皮をかぶった鳥の皮をかぶった変態

作者:星垣えん

●わんわん
 1人の男がてくてくと街路を歩いていた。
 何の変哲もない、取り立てて注目すべきところもない普通の男だ。
 だがそんな彼にも、たったひとつ尋常ならざる一面があった。
「…………ムムッ!?」
 てくてく歩きつづけていた男が、ふと路上のゴミ捨て場で足を止めた。
 目が合った。大量の可燃ゴミに埋もれつつも、希望の光を失わない目と――。
 うん、着ぐるみの頭なんだけどね。ワンちゃん着ぐるみ一式が無造作に捨てられていただけなんだけどね。
 ちなみになぜ着ぐるみが捨てられているのか、とか気になるだろうが今はそこを考える必要はない。
 大事なのは、それを目撃した男がプルプルと震えだしたことだ。
「わんこォ……わんこォォォーーー!!!」
 トチ狂ったように絶叫し、呼吸を荒くする男。現場は人通りの少ない路地だったが、かといってまったく通行人がいないわけではなかったので、訝しげな視線がぐさぐさ突き刺さる。ひそひそ話も聞こえる。
 が、男の興奮は留まるところを知らなかった。
「やはりわんこは……我が愛するわんこ着ぐるみのモフり力は大正義ィィーーーーーー!!!」
 何か色々最高潮に達したらしい男はみるみるその姿を変容させ、いつの間にかビルシャナになっていた。
 そして――。
「わんこイズジャスティス! それを捨てるなんてとんでもない。とりあえず俺が着よう」
 捨てられていた着ぐるみを拾って、ハァハァと荒い呼吸でいそいそとフォームチェンジを試みる鳥。
 結果、犬の着ぐるみを装備した鳥が誕生した。

●もふもふ
「――という状況です」
 大惨事を説明した後だというのに、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は落ち着いた声音を崩さない。日夜起こる事件を予知しすぎたせいで心が麻痺しているのかもしれない。
 というかそう信じたい。
「このままこのビルシャナを放っておけば、周囲の一般人をも大正義の心でわんこ同志としてしまう危険性があります。なので至急対処をお願いしたいと思います」
 ここで取り逃がせば、犬の着ぐるみを着た変質者がどんどん増えてしまう。そうなったらおちおち夜道も歩けない。下手したら昼間も歩けない。ケルベロスとしては、そんな世紀末世界をもちろん容認するわけにいきませんよね?
「ビルシャナには今のところ配下はいません。ですが周囲に人がいては彼らが信者になったりする可能性があるので、まずはビルシャナから一般人を遠ざけることが重要です」
 イマジネイターいわく、大正義がどうのとかぶっこくビルシャナは自分の大正義に対する意見には反応してしまう習性があるらしい。例えばグラビティをぶっぱしたりすれば話は別だが、そういったことがなければ議論には応じるっぽい。つまりそこを利用すれば周りの一般人をサクッと避難させることも容易であるというわけだ。
 だが、相手は大正義に燃える変態……じゃなかった鳥だ。仮にケルベロスの意見がぬるかったとしたら、論ずるに値せずとして奴はハァハァすることを……じゃなかった周りへの布教を優先させてしまうだろう。こちらも相応の熱量をもって挑まねばなるまい。
「そこでこれを用意しました」
 どすっ、と重たい段ボール箱をケルベロスたちに披露するイマジネイター。
 しかも何箱もある。
 中を覗くと、何だかマスコットキャラっぽい造形のもふもふが見えた。
「動物系の着ぐるみです。こちらも着ぐるみをまとえば向こうも反応してくれるのではないでしょうか」
 相変わらずしれっと言ってくれるイマジネイター。モフれと、モフれと仰るのか。一般人を助け、ひいてはビルシャナから世界を守るためにモフモフのモフベロスになれと、そういうことですね? そういう依頼ですね!?
「ビルシャナは特に強いということはありませんが、犬を見れば我を失ってしまうほどの変質者です。気をつけて下さい」
 でしょうね。さっきの様子を聞けばそうでしょうね。
「現場の道はそれほど人通りがない場所ですが、ちらほらと通行人はいますから避難誘導はしておいたほうがよさそうです。ちなみにその際にも特別な能力は使わないほうがいいかもしれません。大正義ビルシャナに戦闘行為の一種と判断されてしまうと避難どころではなくなってしまいますからね」
 あらかたの留意点を伝えると、イマジネイターはケルベロスたちに背を向け、重々しい空気を醸し出す。
 今更だが、醸し出す!
「この大正義ビルシャナを放っておけばどれほどの被害が生まれるかわかりません……そんな未来を防ぐために、ケルベロスの皆さん、どうかよろしくお願いします」
 と言ったきり、イマジネイターは何も語らなくなった。
 何も語らなくなって、着ぐるみの詰まった段ボール箱をせっせとヘリオンに搬入した。


参加者
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)
篠宮・マコ(夢現・e06347)
スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)
オリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)
キアラ・エスタリン(導く光の胡蝶・e36085)
九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)

■リプレイ

●だから注意しろって
 犬の着ぐるみが吠え、人々が声を潜める路地。
 そしてそれを遠巻きに見つめる謎の着ぐるみが8体。
「……新しいデウスエクスかな……?」
「いや、新たなヘンタイでござろう」
 と言葉を交わすのは羊さんとラクーンさんだった。
 中身を言うならばオリヴン・ベリル(双葉のカンラン石・e27322)とクリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)だった。
「先日犬好きビルシャナさんを倒しましたが、今度は犬の着ぐるみ好きビルシャナさんですか……」
「犬なのか鳥なのかはっきりしてほしいですよね。それ以前にとてつもない変態でしょうけど……」
 そう言って遠くの犬の着ぐるみビルシャナ(以下犬シャナ)を見ているのは、赤ちゃんペンギンさんとわんこ。
 中身を言うならば地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)とキアラ・エスタリン(導く光の胡蝶・e36085)。
 ちなみにキアラは敵が変態と知りながらわんこ化したことを死ぬほど後悔する羽目になる。
「しかしまさかもふもふ着ぐるみを着ることになるとは。ケルベロスに来る依頼は本当にバリエーション豊かだね」
「今日この日のために新調したと言っても過言ではないこのモフモフワンコ着ぐるみで、思う存分語らせてもらいますわ!!」
 なんて調子でわんこ着ぐるみを満喫している九十九屋・幻(紅雷の戦鬼・e50360)とスノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)も死ぬほど後悔する羽目になる。
「もふ着ぐるみ可愛いよねー……着るのも幸せ……見るのも幸せ……あれ? 平和じゃない?」
「マコさん、目を覚まして下さい」
「あ、うそうそ大丈夫。ちゃんと戦うって」
 着替えるまでもなく自宅を出た時点で愛用のにゃんこ着ぐるみ姿だった篠宮・マコ(夢現・e06347)が、不安そうな瞳を向けてくる白兎ちゃんもといバジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)にふりふりと手を振った。けど同好の士である犬シャナを応援してあげたいっていう内心は黙っておいた。
「さ、それじゃあ手筈どおりに行きますわよ?」
「そうですね。人払いはこちらに任せて下さい」
 スノーの目配せに応じるバジル。呼応してほかの6人も静かにうなずく。
 そして着ぐるみたちは二手に分かれた。一方はわんことにゃんこで構成された『犬シャナの気を引く班』であり、もう一方は『周囲の人たちを真面目に避難誘導する班』である。
「さあ! そこのビルシャナ、こっちを見なよ!」
「!?」
 颯爽と犬シャナの前に躍り出る幻。いや、わんこ。
「見よ、この毛並み! 可愛らしい耳! そして愛らしい尻尾! くひひ……あまりのモフり力に言葉も出まい」
「わ、わんこォ……!」
 犬ハンドで耳やら尻尾やらを示す幻の愛らしさに、ぷるぷると震えだす鳥。
「敢えて言おう! 私こそが至高のモフ犬であ――」
「わんこォォ!!」
「ぐあーーっ!?」
 台詞を言いきる暇もなく、幻は興奮した犬シャナにネックブリーカードロップをぶちこまれていた。
 念のために言っておくとグラビティではなく単純にじゃれつかれただけなので安心してほしい。
 でもアスファルトに後頭部を強打した幻は頭を抱えてのたうち回っているので心配してほしい。

●あれほど言ったのに
「ま、幻お姉さん……!」
「これは急がないといけませんね……でないと向こうが大変なことに!」
 早々に強烈なスキンシップが繰りひろげられたのを見て、自分たちの責任の重さを知る夏雪とバジル。
 なので急ピッチで周りに声をかけていく着ぐるみたち。
「皆さん、すぐここから離れて下さーい」
 両手を口に添えて避難を促す白兎さん。
「珍妙な格好でござるが拙者たちはケルベロスでござる。速やかにこの場からエスケープ致すでござるよ」
 交通整理の人のごとくぐるぐる腕を回すラクーンさん。
「今怖い変態さんが居るから、逃げてね。じゃないと……本当に、変態がうつっちゃう、よ……」
 顔画面に矢印を浮かべたテレビウムの地デジを掲げてぽつぽつつぶやく羊さん。
「犬好きのビルシャナさんなので、出来るだけ犬のグッズなどは隠してビルシャナさんのいないあちらの方に避難してください……! 面白い光景なので、写メを撮ったりモフモフしたいかもしれませんが、それはビルシャナさんの脅威がなくなった後でお願いします……!」
 よちよち歩きで短い羽をパタパタさせる赤ちゃんペンギンさん。
 4体がもふもふ愛らしい姿で人々に働きかけた結果――。
「かーわーいーいー」
 彼らの周りに軽い人だかりができていた。
「ぬっ、こ、これは!」
「……もうちょっと、時間、かかっちゃうかもね……」
 色めき立った通行人(主に女性)にもみくちゃにされて「あー」とか言いながら、早急な避難完了を半ば諦めるクリュティアとオリヴン。
「まずい状況ですね……この間にもわんこさんたちは苦境に――」
 群がる手にわちゃわちゃされつつも、バジルは大変な目に遭っているだろう人たちを案じて目を向けた。
 ――氷像のように直立したスノーが、犬シャナにされるがまま顔をべろべろと舐められていた。
 『もふられるのは我慢するけど関係無い顔とかを舐めてきたりとかしたら社会的な意味で抹殺する』って忠告する暇もなく抱きつかれて変態流の愛情表現をくらっていた。
「ス、スノーさーーん!!?」
 思わず声をあげたバジル。びっくりした通行人が何人か離れていってくれた。
 同じタイミングで犬シャナもスノーから離れてくれたけど、乙女の尊厳とか根こそぎ吹き飛ぶほど舐められたスノーは両手で顔を覆って横たわり、「うぅ……うぅ……」とか嗚咽を漏らしてる。作戦開始時に余裕たっぷりに「行きますわよ?」とか言ってた人はもうそこにはいなかった。
 恐るべし犬シャナの愛。
 だがその恐怖を目の当たりにしてもケルベロスに逃走の二文字はない。
「幻さんもスノーさんもやられてしまうなんて……で、ですが怯んではいられません!」
 きゅっと服の胸をつかみ(とはいえわんこ着ぐるみなのでつかめない)、果敢に犬シャナの眼前に飛び出すキアラ。
「自分のもふもふの愛を押し付けるだけなんて言語道断、愛を説いて受け入れようとするのならきちんと相手の心を開かせてみてください! それに着ぐるみを着たところであなたは結局ただの犬の皮を被った鳥の皮を被った変た――」
「わんこォォォォ!!」
「いやあぁぁーーー!!?」
 渾身の台詞を言いきる暇もなく犬シャナに顔面ベロベロされたキアラは、数秒前のスノーとまったく同じポーズで「うぅ……うぅ……」と泣いた。カップアイスの蓋の裏を舐めるかのごとき暴虐に襲われては勇猛な戦乙女とてなす術はなかった。
「キ、キアラさーーん!!?」
 思わず声をあげたバジル。びっくりした通行人がまた何人か離れていってくれた。
「くっ……みんなやられちゃうなんて! ぴろー、3人を安全な場所に。あのビルシャナは私が食い止めるよ!」
 後頭部にでかいたんこぶを作って死んでる幻と、夜道に置いたら道行く人々がビビりそうなほどすすり泣くヴァルキュリア2人をウイングキャットのぴろーに引きずらせ、自身は厳しい目つきで犬シャナと対峙するマコ。
 経緯とか絵面に目をつむりまくれば格好いいシーンに見えた。
「もふもふなのは、わんこだけじゃないよ……! にゃんこだって……兎だって……羊だってもっふもふ!」
「……む? にゃんこに兎、羊さんだと……?」
「わんこばっかりを大正義だなんて、自分の趣味の一方的な押し付けだよ!」
「ほほう、言ってくれる!」
 両手をひろげて自身のにゃんこ姿を見せるマコに、にやりと笑む犬シャナ。
 今日初めて犬シャナから人語を聞けたね!

●無茶しやがって
 マコと犬シャナの間に緊迫した空気が流れる。
 が、そこに向こうからがやがやと話し声が聞こえてきた。
「やっとみんな、避難してくれたね……」
「大変な任務でござった」
「遅くなってしまいました。あ、ほら夏雪さん、急がないと」
「すみません……ちょっと、歩きづらくて……」
 オリヴン、クリュティア、バジルに夏雪の4人だった。わんこたちがやられている間にしっかりと人々を現場から遠ざけることができていたらしい。無駄な犠牲なんてなかったんや。
「ドーモ、初めまして、犬大好き・ビルシャナ=サン。クリュティア・ドロウエントにござる」
「? ドーモ」
 きっちり腰から曲げる挨拶をされ、つられて同じ挨拶を返す犬シャナ。
「ではモンドムヨー! 迷わずゴートゥーアノヨ致すでござる!」
「グワーッ!」
 深々とお辞儀をしたことによりさらけ出された犬シャナの後頭部に猟犬縛鎖をぶちこむクリュティア。
 ぶしゃーっと迸る鳥汁。
「おのれ不意打ちとは卑怯な!!」
「ラクーンは凶暴なのでござる!」
「これだからわんこ以外の着ぐるみはーっ!」
 戦いを仕掛けられては黙っていられない、とついに犬シャナも真の交戦状態に突入する。
 でも狙うのはやっぱりわんこだった。
「うぅ……何か悪夢を見たような……」
「わんこォォォ!!」
「えっ!? ちょっと――」
 顔面ベロベロショックからようやく立ち直ったスノーに、犬シャナの豪快なバックドロップが決まった。
 今度はちゃんとグラビティなので安心してほしい。
 でもアスファルトに後頭部を強打したスノーは頭を抱えてのたうち回っているので心配してほしい。
「な、なんて執拗な攻撃なんでしょう!」
 あまりに深いわんこへの執念にバジルは震えた。
 しかしバックドロップとは自らも体勢を崩して寝そべることになってしまう危険性を併せ持つ技。
「これは、見過ごせないよ……よいしょ」
「グワーーッ!!」
「な、なんて苛烈な攻撃なんでしょう!?」
 仰向けになった犬シャナの鳩尾に地裂撃をぶちこむオリヴンの姿にバジルは震えた。
「羊はね、とっても偉いんだよ。もこもこで可愛いのは勿論、その毛はお洋服にもお布団にもなるし、ミルクも飲めます。お肉もとっても美味しいです。だから、羊の着ぐるみも、とってもとっても偉いんだよ」
「バ、バカを言うな! 羊毛だのミルクだの着ぐるみにとってはどうでもい――」
「よいしょ」
「グワーーッ!!」
「追いうちまでも!?」
 聞き分けのない犬シャナの鳩尾に回転しつつの頭突き(垂直落下)をぶちこむオリヴンの姿に三度震えるバジル。
 そして腹を押さえて呻いている犬シャナを見て攻撃のチャンスと見た夏雪が動いた。
「マコお姉さん……僕をビルシャナさんに向けて送り出して下さい……!」
「え? 送り出すの?」
「はい……!」
 首をかしげるマコ。だが夏雪はすでにうつぶせの体勢になっており、パタパタと着ぐるみの羽を動かしてせかしてくる。
「この赤ちゃんペンギンさんの着ぐるみだと、歩幅が狭くて早く動けませんけど……お腹で滑ればスーッと動けます……」
「なるほど、わかったよ!」
 がってん、と自分の胸を叩くマコは夏雪に言われるがまま、ボブスレーのスタートのような動きでうつぶせの夏雪を押し出した。
 そりゃもう全力で押し出した。
 カーリングのストーンのようにすいーっと滑っていく夏雪。
 犬シャナめがけ……どころか犬シャナを通り越し、はるか彼方へと滑っていく夏雪。
 パタパタと羽を動かすも短すぎて地面に届かず、ブレーキがかけられない夏雪。
 赤ちゃんペンギンさんは通りの向こうに消えていった。
 だがその背中に「しまった……」とか「どうしよう……」などという狼狽は微塵も感じられなかった。むしろ仲間たちは「男には退けないときがある」みたいな潔さを垣間見たらしい。
 たぶん気のせいだと思う。

●こらえ性がない
 1人の勇者が儚く散っていった一方で、犬シャナとの戦いは熾烈を極めていた。
「さぁ、禿げさせて差し上げますワ……」
「ノォーーッ!?」
 犬シャナの着ぐるみの隙間に手刀を突っこみ、羽毛をむしるスノー。
 その目に光はない。数多の辱めを受けた女はすでに鳥を禿げさせるだけの機械と化していた。しかもグラビティじゃないからノーダメージである。完全に意味のないことにリソース全振りである。
 これはいける、とキアラは思った。
 ここまでいいところないけどこれはいける流れだと。
「い、今です! 私も追撃を――」
「わんこォォォ!!」
「いやあぁぁーー!!?」
 けど問答無用で飛びつかれ、顔を舐められるキアラ。段々と耐性がついてしまったのかちょっと舐められても平気な気がしたけど、むしろそれが悲しくてやっぱり顔を覆って「うぅ……うぅ……」と泣いた。
「キアラ君……仇は私が取るよ!」
 すすり泣きノンストップで横たわるキアラを横目に、犬シャナに敢然と立ち向かうのは出鼻でネックブリーカードロップをくらって以来ずっと気を失っていた幻だ。よかった死んでなかった。
「わんこォォォ!!」
 愛するわんこモフモフの再登場に、我を忘れて突貫する犬シャナ。
 ベロがベロベロしているさまは『遊んで!』とねだる子犬のようと形容することもできるかもしれない。
「私を求めるのかい? ならば雷光団第一級戦鬼……いや、戦犬! 九十九屋 幻、全身全霊の一撃をもってお相手しよう!」
「ぶぐわッ!!?」
 幻の渾身の一撃が犬シャナの顔面を捉えた。
 『おぉう……おぉう……!』とか呻いてのたうち回る犬シャナ。首が90度回転して元に戻らないのを見ていると大丈夫かなと心配せずにはいられない。オウガの腕力でクロスカウンターとかこれもう交通事故じゃないですかね。
「ケルベロスに同じ技は二度通用しないんだよ」
 と言ってドヤ顔を作る幻。
「キアラさん、何度も顔を舐められてますけど……」
 と言って未だ泣いて転がっているキアラを見つめるバジル。
「首、戻してあげるね」
 と言って犬シャナのひん曲がった首を地裂撃で矯正してあげるオリヴン。
 首が正常な向きに戻った犬シャナはふらふらと立ち上がった。だが見た目は直っても執拗にグラビティで顔パンされているわけであり、正直もういつ死んでもおかしくない状態だった。
 というかスノーやキアラに飛びつかないということはもう絶対瀕死だった。
 ならば楽に死なせてやるのがケルベロスとしての情け、という心でクリュティアは犬シャナの前にずいっと進み出る。
「ハイクを詠め、カイシャクしてやるでござる!」
「…………わん」
「オタッシャデー!」
「グワーッ!」
 17文字のうち2文字を言ったところで我慢できなくなったクリュティアが「えいっ」てな感じでクナイをぶちこむと、犬シャナは犬とも鳥ともつかぬ断末魔をあげて死んだ。
 ちなみにクナイなのでもちろん介錯なんてできていなかった。

 こうして事件は7人のケルベロスたちの活躍によって解決した。
 え? 8人目?
 すいーって滑ってどっか行った赤ちゃんペンギンなら、町内一周したあとちょっと誇らしげな顔で戻ってきましたよ。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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