菩薩累乗会~サバイバル・ゲーム

作者:洗井落雲

●ゲーマー、大いに喜ぶ。
 鹿島元樹。高校生。趣味はゲーム。
 趣味はゲーム、と堂々と言う彼は、心底からゲームを愛していた。愛しすぎて、些か歪んだ方向に思考が傾いていた。
「一生ゲームだけして生きていたい……一生ゲームだけして生きていたくない?」
 こういう思考である。
 そんな彼であったから、芸夢主菩薩に目を付けられたのも当然かもしれない。
 さて、ここはとある海岸。季節柄、人気はなく、波の音だけが静かに響いている。
「一生ゲームができるって聞いてたけど……何で海なわけ?」
 元樹の言葉に、彼をここへと連れてきたビルシャナ、ケルベロス絶対殺す明王は、無言のまま、その翼をばさり、と広げた。
 途端。
 それを合図にするように、海面から浮上する何かがあった。
 全長にして20m。まるで巨大な亀の怪獣の様なそれは、オスラヴィア級戦艦竜。そう、デウスエクス、ドラゴンだ。
 まともな状態であれば、怯え、逃げ惑う所であろうが、元樹はすでにビルシャナの影響を受けている。
「す……すげぇ! こいつさえいればゲーム三昧だ!」
 嬉しげに叫ぶや、その姿は、かくかくとした、一昔前のゲームに登場するポリゴンで形成された鳥のような姿のビルシャナへと変貌した。
「ふん……貴様など所詮は囮」
 はしゃぐポリゴンビルシャナに気付かれぬよう、ケルベロス絶対殺す明王が呟いた。
「闘争封殺絶対平和菩薩が呼び寄せてくれた戦艦竜を使い、ケルベロス、絶対殺してみせる……」
 その瞳に明確な殺意の炎をたぎらせ、明王が邪悪な笑みを浮かべたのであった。

●戦艦竜のゲーム
「さて、ビルシャナ達の作戦、第四波と言った所だな」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)が、集まったケルベロス達に向けて行った。
 ビルシャナ達の作戦、『菩薩累乗会』も、ついに四度目の実行となった。
 菩薩累乗会とは、強力な菩薩を地上に出現させ、その力を利用し、さらに強大な菩薩を出現させ、さらに……と言った形で、次々と菩薩を呼び寄せる作戦だ。最終的には、地球全てが菩薩の力によって制圧されてしまうという。
 この作戦を、根本的に止める事は、現時点では不可能と考えられている。
 そのため、今の所、発生した事件をしらみつぶしに潰して回るしか、対処法がないのが実情だ。
 今回の首謀者は、『芸夢主菩薩』。ゲームと現実の区別がついていなかったり、俗世を離れてゲームだけをしていたいと思っているゲーマーの人を導いてビルシャナにしてしまう、と言う菩薩らしい。
「さて、今回だが……恐るべきことに、ビルシャナ達は、ドラゴンの生き残りを引っ張り出してきたようだ」
 そのドラゴンとは、『オスラヴィア級戦艦竜』。長らく海底に潜んでいたが、定命化の影響で弱体化し、静かに死を待つだけだったようだが、ビルシャナと何らかの契約でも交わしたのか、今回の作戦に参加しているらしい。
「さて、今回の作戦だが、ビルシャナ2体にドラゴン1体が相手となる、非常に危険な作戦だ」
 アーサーが、口元に手をやりながら、そう言った。
 相手となるビルシャナは、元樹と言う名の少年が変化したポリゴンビルシャナ。
 そして、ケルベロス絶対殺す明王と言うビルシャナ。この2体。
 それに加え、オスラヴィア級戦艦竜が1体。非常に強力な布陣と言えるだろう。
「ドラゴンは、弱体化しているとはいえ未だ強力な相手だ。一筋縄ではいかないだろうな。だが、幸い、このドラゴンはビルシャナ2体を倒せれば、ビルシャナの制御の手を離れて、海底に逃げ去って行くようだ。すでに定命化している存在だ。こう言っては何だが、放っておいてもいずれ死ぬ。ビルシャナを倒し、ドラゴンには退場願うのがいいだろうな」
 もちろん、ドラゴンを倒したい……と言うのであれば、止はしない。
 だが、その場合は、ビルシャナを放置しつつドラゴンを討伐する必要が出てくるため、非常に難易度が高くなると予測される。
 もし戦うのであれば、全力を以て挑んでほしい。
「戦艦竜の攻撃は脅威だ。できれば、速やかにビルシャナを撃破、離脱するのがいいだろう……。君達の無事と、作戦の成功を、祈っているよ」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出したのだった。


参加者
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
パトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)
鹿坂・エミリ(雷光迅る夜に・e35756)
名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)

■リプレイ

●疾走する番犬
 砂浜に接岸していた戦艦竜は、2人の乗員を乗せ、今まさに出港しようとしていた。
 それを追うように、11の影が砂浜を疾駆する。
「来たか、ケルベロス」
 にぃっ。と、ケルベロス絶対殺す明王が笑った。
「け、ケルベロス!? 聞いてないぞ!?」
 慌てるのはポリゴンビルシャナである。
「それはそうだろう、言っていないからな……喜べ、楽しいゲームの始まりだぞ」
 対照的に、冷静に、しかしどこか嬉し気に言う明王。恐らくは、ケルベロスを打ち倒せる、その喜びを感じているのだろう。
「さぁ、戦艦竜よ。戦いの始まりを告げる号砲を放て!」
 明王の言葉に、オスラヴィア級戦艦竜は轟、と吠えた。背部のミサイルハッチを開くや、一斉にミサイルを発射。狙うは、こちらへと向かうケルベロス達だ。
 着弾。爆炎と煙がケルベロス達を包み込む。その煙を突っ切る様に、ケルベロス達は姿を現した。この程度の攻撃では、ケルベロス達は止まらない/止められない。
「手厚い歓迎、痛み入ります」
 速度は落とさず、走りながら、霧島・絶奈(暗き獣・e04612)が言った。絶奈が手を振るうと、大量の紙兵が散布される。絶奈のテレビウムは、手にした凶器で歓迎への返礼を行う。
「ぐぅ、戦艦竜にケルベロスを絶対殺す明王にゲームビルシャナじゃと……!? ちょ、ちょっと属性てんこ盛りすぎやせんかのぅ……」
 低空を飛行し、戦艦竜目掛けて突き進みながら、アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)が言った。九尾扇を振るい、怪しく蠢く幻影を発生させ、味方ケルベロスへの援護を命じる。
「で、できれば一つに絞ってほしいが……そうはいかんじゃろうなあ」
 とほほ、と苦笑いするアデレードである。
「鳥野郎どものおかわりはもう腹一杯だ」
 ベースギターを鳴らし、ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)が言った。ギターの音に反応する様に、腰のバスターライフルが戦艦竜へと、銃口を向ける。
「これで打ち止めとしよう」
 ウルトレスがギターをかき鳴らすと、バスターライフルよりエネルギー光弾が発射された。それは戦艦竜に直撃。グラビティが弱体化する。
「サイ、いくよ!」
 スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)が、自身のミミック『サイ』へ声をかけながら、走る。一歩ごとに、フェアリーブーツ『常盤』から花びらのオーラが舞い散り、ケルベロス達に降り注いだ。一方サイは、エクトプラズムで具現化した武器にて、戦艦竜を攻撃する。
 次いで、紅いライドキャリバーと共に、浜辺を疾走するパトリシア・シランス(紅蓮地獄・e10443)が動いた。爆破スイッチ、『凛と馨しく』を取り出し、スイッチを押し込む。周囲の見えない地雷が一斉に爆発し、戦艦竜の脚部を焼いた。
「先に行っていなさい」
 パトリシアがライドキャリバーへ告げると、その車体が炎に包まれた。ライドキャリバーはその車体もろとも戦艦竜へ突撃する。
「なるほど。戦艦竜、その火力は見事なものだ……だが」
 ルーク・アルカード(白麗・e04248)は自身の狂気を解き放ち、仲間たちへと感染させる。その狂気は力となって、ケルベロス達をパワーアップさせた。
「俺達を止めるには程遠い……!」
 呟き、走る。
「皆さん、間もなく接敵です……!」
 オウガ粒子を放出し、味方の超感覚を活性化させながら、鹿坂・エミリ(雷光迅る夜に・e35756)が告げた。
「うわ、戦艦竜デカッ! 近くで見るとちょーやばじゃん! マジ卍!」
 名雪・玲衣亜(不屈のテンプレギャル・e44394)が驚きの声をあげつつ、ドラゴニックハンマーから竜砲弾をぶっ放す。
 ある程度歩調を合わせていたケルベロス達は、全員がほぼ同時に戦艦竜へと接近した。そのまま一気に駆け上がり、戦艦竜の甲羅、『甲板』へと到達する。
「ここまで来たか、ケルベロス。そう来なくてはな」
 笑いながら、明王が言った。
「ふははは、たどり着いたぞ! 貴様らの悪事もここまでじゃ! 我が正義がある限りケルベロスは決して殺させぬ!」
 胸を張りつつ、宣言するアデレードへ、
「いいや、お前達はすべて、この我の手によって葬られるのだ」
 構え、明王が答えた。
「すごい殺気、です……!」
 思わず身構えながら、スズナが言う。
「ちくしょう! 何でケルベロスが来るんだよ!」
 かちゃかちゃと羽をはばたかせ、ポリゴンビルシャナが喚く。
「あ、ほんとにカクカクしてるし! ウケる、昔のゲームみたい!」
 そんなポリゴンビルシャナを指さして、玲衣亜が言う。
「くそー、馬鹿にしやがって! 俺はただ、ゲームがやりたいだけなのに!」
「……この状況でゲームですか。なんというか……」
 思わずため息をつきつつ、エミリが言った。
「ある意味で大した胆力です。ですが、現実はゲームほど甘くはない。それを教えてあげましょう」
 絶奈の言葉に、ケルベロス達は構え直す。
 戦艦竜が、吠えた。それを合図に、ケルベロスとデウスエクス、両者は激突する。

●ビルシャナのゲーム
 戦艦竜の砲撃が降り注ぎ、ビルシャナの拳がケルベロス達を襲う。
 デウスエクス達の猛攻をかいくぐりながら、ケルベロス達は戦い続けた。
 今回、戦艦竜は相手にしない。もともとこちらの勝利条件には関係しない相手であるし、放っておいてもいずれ滅ぶ相手だ。ならば、速やかに明王を倒し、事態の終結をはかる。
 とは言え、戦艦竜、明王、共に強力な相手だ。その猛攻に、ケルベロス達も傷ついていく。一進一退の攻防が続き、そして。
 何度目かの戦艦竜からの銃撃が、ケルベロス達を襲った。思わず足を止めてしまうほどの、銃撃の嵐。
「やれやれ、大艦巨砲主義とは、前時代的にもほどがありますが……」
 仲間のケルベロスに緊急手術を行いつつ、絶奈が言う。テレビウムもボロボロになっていたものの、何とか応援動画を流して味方の援護を務めあげる。
「実際に相対してみるとなるほど。これは効果的だ、と思い込む気持ちもわからないでもないです」
 絶奈が、視線を移す。その先には、全身傷だらけで、ケルベロス達以上に疲弊した明王の姿があった。
「ですが。所詮は時代に取り残された遺物です」
「そうじゃそうじゃ! カッコいいにはカッコいいのじゃが」
 九尾扇を振るい、幻影を生み出したアデレードが言う。
「カッコいいだけじゃ勝てぬのが現実と言うものじゃぞ」
「おのれ……ケルベロス共め! 絶対に……!」
 ケルベロス達を睨みつけながら言う明王へ、
「なおも殺意に身をゆだねるか……その意気は買うが」
 静かに言いながら、ウルトレスが接近する。チェーンソー剣の刃をフル回転させ、明王に思い切り斬りつける。
「殺意だけで落とせるほど、俺達はやわじゃない」
「ぐおおおおおっ! おのれぇぇぇぇぇっ!」
 悲鳴をあげる明王。ウルトレスが退いたと同時に、明王は突撃した。
「殺す! ケルベロス! 必ず殺すぅ!」
「させない、です!」
 ゾディアックソード、『檳榔子黒』を構え、スズナが立ちはだかる。
 高速で繰り出される拳、蹴り、ありとあらゆる打撃の雨を、スズナはその黒の長剣を用いて、さばき切った。
「明王のいきおいが落ちています……! もうすこし、がんばって!」
 スズナは自分に言い聞かせるように、激励の言葉を叫んだ。『シャウト・乙』は、その叫びで傷を癒し、あらゆる不利な効果を吹き飛ばすことができる。
「サイ、追撃を!」
 スズナの言葉に、サイが動いた。エクトプラズムで生み出した武器を振るい、明王に追撃を仕掛ける。
「燃え上がれ、悲しみを焼き尽くせ」
 呟き、パトリシアが銃を構える。放たれる銃弾は焔。炎の魔力を込められた銃弾は、貫いた相手を炎の渦へと叩き込む。『紅蓮地獄』。その名の示すとおりに、明王はその身を炎で焼かれた。
 追撃する様に、ライドキャリバーが炎を纏い、突撃する。くぐもった悲鳴をあげ、明王が更に炎へと包まれた。
「うおおお! ケルベロスぅぅ!」
 瀕死の状態であろう明王は、まだ叫んだ。殺意を声に乗せて、その声だけでなおケルベロスを倒そうというように。
「……まるで、殺意が姿を持ったみたいな奴だな」
 ルークが言った。その声に反応して、明王が拳を振るう。その拳はルークに直撃。したかに見えた。
 次の瞬間、その姿は掻き消え、明王の背後に、ルークの姿があった。
 『影遁・暗夜之攻(ファントムレイド)』。分身を囮に敵の攻撃を誘発し、その隙をついて背後より奇襲を仕掛ける、ルークの技だ。
「でも、それももう終わりだ」
 ルークが明王の背中に、深々と短刀を突き刺した。
「があっ……」
 息を吐くような断末魔の声をあげて、明王が倒れた。
「そ、そんな……!」
 ポリゴンビルシャナが、うろたえたような声をあげる。
「ち、ちくしょう! ケルベロスが来るなんて無理ゲーだろ!」
 あくまで物事をゲームに例えるポリゴンビルシャナに、
「これはゲームなどではありません」
 きっぱりと、言い放つエミリ。
「れっきとした”命のやり取り”です。あなたの立っている場所を、現実を見て下さい。ここは、本来ならば、あなたが立っているべきではない場所のはずです」
 エミリの言葉には、何処か重みがあった。その重みに気圧されて、ポリゴンビルシャナが口ごもる。
「ゲームかぁ、アタシは良く分かんないんだけど、現実も楽しいことたくさんあるよ?」
 玲衣亜が言う。
「つーか、アンタ家族とかそーゆー人たちも全部捨てることになるけどいーわけ? ほらほら、逃避しないで、もっと現実見て! ゲームも楽しいかもだケド、他にも楽しいことあるっしょ!」
「そ、それは……その……」
 反論の言葉もない、まったくの正論に、ポリゴンビルシャナが立ちすくむ。同時に、ケルベロス達に向けて、戦艦竜のミサイルが降り注いだ。
「あまり余裕はないようね……」
 パトリシアが言う。
「ですが、彼を助けなければいけません」
 その言葉に、ウルトレスが返した。
「では、私から」
 絶奈が続けた。
「人生はゲームじゃありません。勘違い無き様に。以上です」
 肩をすくめ、微笑を浮かべつつ、言う。
「まったく。わがままが過ぎると、手痛いしっぺ返しが来るぞ? それくらい、わらわにもわかるわ」
 アデレードがが言った。
「自分の姿をよく見ろ。お前自身がゲームの敵キャラになってどうする」
 ウルトレスが続ける。
「さっさと人間に戻って、人生を続けるがいい。遊び甲斐はあるぞ」
「ゲームって楽しいですけれど、ずっとは流石に飽きませんか? 本とかアニメとか、他にも楽しいことはありますよ!」
 スズナが続けた。
「さあ、ゲームばっかりしてないで、出てきてください! ずっと籠ってても、体に良くないですよっ!」
「私からは……そうね」
 パトリシアが言う。
「ちゃんと現実を見なさい……かしら」
「一生ゲームしたい、か。本当にそれが夢だったのか? 幼い時は何になりたかったんだ? それを今一度思い出してみると良い」
 ルークが言った。
「過去の自分に今の自分を、胸を張って見せられるのか? 趣味に没頭するのはいいが、今一度振り返ってみたらどうだ? 仮に一生ゲームをしたいのが夢だったとしても、好きだけでプロゲーマーになれないぞ。今の君は楽したいからゲームに逃げているだけだ」
「ぐはっ」
 ポリゴンビルシャナが、思わず呻いた。
「皆さん……説得って言うか、説教になってません……?」
 はぁ。
 誰かのため息が響いた。
「…………玲衣亜さん、おねがいします」
 頭に手をやり、エミリが言った。流石に呆れた様子である。普段は感情をあまり表に出さないエミリではあったが、流石に限界だったようだ。
「おっけーエミリ。じゃ、ガツンと一発」
 玲衣亜が拳にバトルオーラを纏わせ、拳を握った。
「あ、あの……?」
 思わずポリゴンビルシャナが後ずさりするのへ、
「大丈夫大丈夫、痛いのは一瞬だし」
 玲衣亜はにこりと笑って、思いっきり、ポリゴンビルシャナをぶん殴った!
 悲鳴をあげ、ポリゴンビルシャナが、砂浜へ向けて吹っ飛んでいく。
「まぁ、これで懲りたじゃろ」
 アデレードが言った。
「……だと良いけどな」
 ルークが嘆息しつつ、答えた。
 と――。
 ケルベロス達の足元が、揺れた。戦艦竜は轟、と鳴き声をあげると、急速に潜行、沈みだしたのだ。
「いけない、まきこまれます!」
 スズナの言葉に、ケルベロス達は一気に走り出した。沈みゆく大地の上を、全速力で駆け抜ける。戦艦竜がその巨体を完全に海へと消す瞬間、ケルベロス達は跳んだ。

●戦いの終わり
「……戦わずにすみました、ね……」
 戦艦竜が沈んでいった跡、渦巻きのように動く海面を見つめながら、スズナは言った。その表情は、戦わずに済んだ安堵、ドラゴンを放置する不安、定命化によるいずれ迎えるしに対しての複雑な感情、それらが入り混じったものであった。
「まー、ドラゴンをやっつけられなかったのは複雑かもだけど。ビルシャナはやっつけたんだし、おっけーじゃない?」
 玲衣亜が答える。振り向くと、そこには、砂浜でのびているポリゴンビルシャナ……いや、鹿島元樹の姿があった。
「しかし、ビルシャナが他のデウスエクスと手を組むとは。正直、意表をつかれましたね」
 絶奈が言う。
「前々からわけのわからない連中だったけれど……全く、底が知れないわね」
 くわえたタバコに愛用のジッポで火を点けながら、パトリシアが答える。
「ビルシャナの動きもかなり活発化している。大きな戦いが始まるかもしれないな……」
 次なる戦いへの覚悟をしつつ。ルークが言った。
「しかし、ゲーム、ですか。……戦いは、決してゲームのように楽しいものではない。それを、彼もわかってくれればいいのですが……」
 エミリが嘆息するのへ、
「まぁ、彼もこれで懲りたでしょう。戦いの怖さは、十分に味わったはずです」
 ウルトレスが言う。
「少なくとも、デウスエクスの甘い言葉につられることは、もうないじゃろ」
 うんうん、と頷き、アデレードが言った。

 戦いとは、遊びではない。一瞬一瞬が死と隣り合わせの、過酷なものだ。
 それを理解し、その上で立ち向かうからこそ、ケルベロス達は強く在れる。
 戦う事の恐ろしさを知っているからこそ、ケルベロス達は戦うことができるのだ。
 今回、強大な敵と戦い、ケルベロス達は見事勝利を収めることができた。
 だが、この戦いも、さらなる大きな戦いの前哨戦に過ぎないのかもしれない。
 次なる戦いの予感を覚えつつ。
 ケルベロス達は、ひとまずの帰路へとつくのであった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。