●海岸にて
「おい!」
怒り心頭といった様子で、青年は叫んだ。
「一生ゲームだけできる夢の国とか何処にあんだよ! つーか海じゃねーか! マジでありえねー! もう帰るわ! ギルメンが俺を待ってんだよ!」
「……まあ、少し待て」
ぐっと堪えつつ返したのは――どう見ても人でなく、ビルシャナ。
ビルシャナは海に向かって合図を送る。それを訝しむように見ていた青年だが……直後に揺れた水面と、やがて姿を現したものに一転、歓喜の声を上げた。
「すっげー! マジで、こいつの上でゲームだけしてていいの!?」
「ああ」
ビルシャナは頷き、青年はさらに喜ぶ。
そして……その勢いのまま、自身もビルシャナに変わってしまう。
だが、己の姿などもはやどうでもよい。青年だったビルシャナにとって、今や目の前に浮かぶ『戦艦竜』でゲーム三昧の暮らしが出来る事以外、考えることなどない。
「……バカなやつめ」
青年を導いたビルシャナこと『ケルベロス絶対殺す明王』は、何も知らず戦艦竜へと乗り込んでいくその姿を見やり、呟く。
「貴様を餌にケルベロスをおびき寄せ、この戦艦竜の力で皆殺しにしてくれるわ……!」
●ヘリポートにて
菩薩累乗会が、ついにとんでもないものを出してきた。
「……螺旋忍軍からダモクレスときて……今度は、ドラゴンよ」
正しくは『オスラヴィア級戦艦竜』だと言い直し、ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は予知を語る。
「強力な菩薩を次々と地上に出現させて、その力で更に菩薩を喚び、いずれは地球全てを制圧する。この厄介で、未だに阻止する方法が判明していない作戦に、また新たな菩薩の活動が確認されたわ」
それが、闘争封殺絶対平和菩薩に導かれた戦艦竜までをも作戦に加えてしまった『芸夢主菩薩』である。この菩薩はゲームと現実の区別がついていなかったり、俗世を離れてゲームだけをしていたいと思っているゲーマーの人を導き、ビルシャナにさせてしまう菩薩だ。
「芸夢主菩薩の勢力が強まれば、多くの一般人が現実とゲームの区別をつけることができなくなって、次々とビルシャナ化してしまうかもしれないの。今度は間違いなく大変な戦いになるけれど、なんとか芸夢主菩薩の思惑を打ち砕いてちょうだい」
敵は芸夢主菩薩の配下である『ケルベロス絶対殺す明王』と、明王に唆されてビルシャナ化した青年、そして件のオスラヴィア級戦艦竜の三体。
「まずケルベロス絶対殺す明王は、その名の通りに強烈な攻撃性をもっているわ。繰り出す技も武闘派といった感じで、一人ずつ確実に撃破していくような戦い方をするはずよ」
なお絶対殺す明王と名乗ってはいるが、まず狙うのはケルベロスたち全員の戦闘不能。まだ戦えるケルベロスを放置して一人を殺しにかかるような真似はしないので、間違っても戦闘不能者を何処かへ運ぼうなどとは考えなくてよい。
一方、唆されてビルシャナになった青年はさすがゲーム漬けというべきひょろりとした雰囲気で、自らは最後方より戦いに臨む。しかし元の青年の思考にやや難があるのか、明王の支援をするような嫌らしい戦法を用いるようだ。
「そして何より、オスラヴィア級戦艦竜。さすがドラゴンだけあって高い戦闘力を誇るわ」
これを倒すのは非常に困難極まる。ミィルは度々、予知の段階で無茶無謀を諌めたりするが、戦艦竜の撃破などまさしくその無茶無謀に等しい。幸いなことにビルシャナ二体を倒せば海底に帰っていくので、今回はそうしてもらうのが無難である。
「そもそも、オスラヴィア級戦艦竜は指揮系統から外れて目的を見失ってしまったまま、定命化に侵され、放っておいても死に絶えるだろうと予知されているの。だから、ここで急ぎ撃破する必要性は薄いのだけれど」
勿論、今ここで始末できてしまえば快挙には違いない。そうするべきだとケルベロスが望むのなら、止めはしないとミィルは言った。
「ただ、作戦の主目的が『ビルシャナを撃破して菩薩累乗会の進行を阻む』というものであることは、忘れないでね。たとえ戦艦竜を倒せても、ビルシャナを逃せば作戦失敗よ」
また、例によってケルベロス絶対殺す明王が撃破された段階で、ビルシャナと化した青年には救出できる可能性が生じる。
「今回、彼を人に戻すのは難しくないわ。誰かが厳しく叱りつけてあげれば、すぐ我に返るでしょうから」
それに、長々と説得している暇などないのだ。戦艦竜という存在が、それほど厳しい戦いを強いるだろう。
「戦場は海岸近くの海上となるわ。ビルシャナ達は、戦艦竜の背に乗っているから、砲撃を掻い潜って戦艦竜に乗り上げる必要があるわね」
それ自体はケルベロスなら何とでもなるだろうが、とにもかくにも問題はその後である。
「どのような結果を目指すにしても、長期戦は間違いなく不利になるわ。戦闘面をしっかりと詰めて、菩薩累乗会が進行しないように頑張りましょう」
参加者 | |
---|---|
守屋・一騎(戦場に在る者・e02341) |
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771) |
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143) |
ラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691) |
一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537) |
イリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555) |
プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432) |
クライン・ベルブレッド(導く光・e53250) |
●
「ふっふっふっ、爆裂閃光囮ボートを喰らいやがれ! です!」
不敵に笑う一津橋・茜(紅蒼ブラストバーン・e13537)の号令一下、数隻のボートが海上の戦艦竜に向かっていく。
乗り手は不在。代わりに積んだのは閃光弾と発煙弾、救命設備一式。
これを囮として、戦艦竜に乗り上げるまでの時間と隙を作るのがケルベロスの作戦だ。
「うおっまぶしっ、間違いなし! ですよ!」
成功を確信したか悦に入る茜。それを見やった東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)が「さて、がんばっていこー」と緩く宣して、ケルベロスたちは海岸を進んでいく。
向こうが此方に気付いたかは定かでないが、此方からは敵の威容がハッキリと伺えた。
「まさか戦艦竜まで出てくるなんて……」
「話には聞いた事あったけど初めて見たよ、すごく大きいね」
ルーチェ・プロキオン(魔法少女ぷりずむルーチェ・e04143)と、プラン・クラリス(愛玩の紫水晶・e28432)が口々に述べる。
「中々熾烈な戦いになりそうですね」
クライン・ベルブレッド(導く光・e53250)も予測しながら、しかし「絶対に負けませんよ」と不屈を誓う。
――そして間もなく、彼らには砲撃が雨あられと降り注いだ。
ボートは全て瓦礫と化し、幾らかの名残が水面に揺蕩っている。それに載せていた諸々が意味を成したかと言えば――四方を見渡せる風通しの良い海上で、端からケルベロスを誘き出そうと構えるデウスエクスたちに対しては、毒にも薬にもならなかったと評するしかない。
また隠密気流も特殊な気流を“纏う”能力であって“場に流す”わけではなく、効果は使用者及びサーヴァントに限られる。意図した通りには使えない以上、クラインとイリス・ローゼンベルグ(白薔薇の黒い棘・e15555)の二人だけが発動したところで、さしたる意味はなかった。
したがって、ケルベロスたちは銘々に泳いでいく。砲撃を報せようとするラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)の叫びが、爆音の合間、途切れ途切れに聞こえていた。
だが策が不発に終わったからと言って、八人が戦艦竜に乗り上げる前に海の藻屑となったわけでもない。
そもそもが元より知らされていたことだ。問題は乗り上げた後である、と。
一団から先行して、真っ先に竜の背へと乗ったのは守屋・一騎(戦場に在る者・e02341)であった。
そしてまた、真っ先に攻撃を受けたのも一騎。
「防衛ゲームは得意じゃないんで、明王様やっちまってください!」
そんな叫びを上げてから、ビルシャナが両腕を天に向けた。
なにやらぴこぴこという効果音が鳴る。直後、魔法のように忽然と噴き出した炎が、一騎の身体を焼く。
「ケルベロス絶対殺すッ!」
鳴き声なのか自己紹介なのか、とにかく哮る明王は続けざま猛然と詰め寄って、熱に悶える一騎へ殺意に満ち満ちた蹴りを打った。黒犬ウェアライダーの少年は吹き飛ばされ、紺碧の海へと逆戻りしていく。
しかし殺したと断言できる手応えではなかったのだろう。明王は地団駄を踏んで吠える。
そんな敵を茶化すかのように、入れ替わりで上がってきた苺は呑気な感想をもらした。
「今時の子はこんなところでもゲーム出来るんだねー」
幼い見かけの割に年寄りじみた発言をするのは、苺がドワーフであるからに他ならない。
だが、彼女の容姿も言葉も戦場においては些細なこと。それよりも余程重要な事実がすぐそこから突きつけられていて、また口を開こうとした苺は瞬く間に光に呑まれた。
「すっげー! さすがドラゴン!」
自らが優位にあると見て、ビルシャナも苺に劣らない呑気さを覗かせる。その視界から消えたドワーフの姿は一騎同様、広がる青に落っこちて小さな水柱を上げる。
それでも二人が先行して作った時間を無為にはしないと、残る六人は竜の脚に取り付き背甲を掴み、或いはフック付きのロープを投げて舞台に上がった。
奇襲こそならなかったが、今度はケルベロスの手番。
「お肉にな~れ♪ です!」
高々と跳び上がった茜が水飛沫の合間に虹の尾を引いて、明王の背を蹴りつける。
続けざま、プランも回し蹴りを打つように見せかけた脚を軸に置き、下から重力に逆らって蹴り上げる。
「格闘ゲームみたいでしょ?」
ちらりとビルシャナを流し見て、プランが言ったのも束の間。
「菩薩累乗会とやらは完遂させません!」
明王への怒りを露わに、ルーチェも飛び蹴りを見舞う。
さらにはラギアが百郡色の剛斧をルーンの呪力で光り輝かせつつ、狙い定めて振り下ろす。連続攻撃は着実に明王の命を削ぎ、機動力を奪っていった。
その間、一度は水面に叩き落とされた一騎と苺が、竜の背に登り直し。
「大丈夫ですか」
クラインが気遣って声かけながら、より苦しんで見える一騎へと光輝く掌をかざす。
「背中は任せて、貴方は攻撃に集中して下さい」
「助かるっス」
全快とはいかなくても痛みが和らぐのを感じて、一騎は礼を述べた後、攻性植物に力を注いだ。
そこにイリスがオウガ粒子を振り撒き、超感覚を覚醒させる。
「あいつを捕まえるっス!」
そう命じるや、蔓草の如く伸びた攻性植物が明王に絡みついた。
「マカロン、行くよ!」
茜はボクスドラゴンにブレス攻撃の指示を出してから、自らも纏った闘気で大地を断ち割るように強烈な一撃を放つ。
「くっ……おのれ、ケルベロス!」
避けることは出来ず、両腕で身体を覆うようにして堪えた明王は、血走った目でギロリと茜を睨みつけた。
攻勢の起点となった彼女に怒りを抱いたのだ。しかし茜は隊列の中で後衛に位置しており、己の肉体のみを武器とする明王が攻撃を届かせるまでに、何人ものケルベロスが障害となる。
そうと分かってなお茜を狙うなら、その攻撃は意味を失くすはず。ケルベロスたちは仕掛けた作戦の成否を伺い――そして、すぐに結果を知った。
ビルシャナが明王に向けて、不可思議な術による回復を行ったのだ。デウスエクスに成り立てとはいえ、明王に怒りを募らせてはならないと判断できたのだろう。
ならば怒りを度々付与することで、敵の行動と連携をある程度崩せるのではないか。ラギアは当初から想定していた通り、クロスボウへと変じた武器に氷の矢を六本番えて、明王を撃った。
さすがに見切りを無視してまでは続けられないが、それでも二分に一度、明王には無視できない怒りが植え付けられる。ビルシャナは回復を重視せざるを得ず、その頻度はケルベロスたちが与える怒り以外の不調も相まって、次第に一辺倒となっていく。
「ふん。ザコには回復役がお似合いだな。ヘボゲーマー」
「うるせぇ! ヒーラーは下手くそには務まんねぇよ!」
売り言葉に買い言葉。ラギアの挑発に、ビルシャナは口角泡を飛ばして反論する。
一方、イリスと明王も睨み合い。
「いい加減、貴方たちの顔も見飽きたの。そろそろ消えてくれないかしら?」
「それは此方の台詞だ! 我らの邪魔ばかりしおって、死ね!」
恨み辛みをぶつけ合うように容赦なく言い合った後、互いに殺すための力を行使する。
そうして論争だけでなく闘争も激化の一途を辿り、一刻も早く明王を退けようとするケルベロスに対して、ビルシャナから絶えずキュアされる明王はひたすらに殺意を叩きつけてきた。
また、定命化に侵されて弱化しているとはいえ未だ究極の戦闘種族と自称するに十分な力を保っている戦艦竜も、その圧倒的な攻撃力を何に遮られることなく撃ち放ってくる。
どちらが先に音を上げるかといえば――言うまでもない。個の力で勝るのはデウスエクス側。特に最も戦闘力の高い戦艦竜を自由にさせていた為、ディフェンダーを務めるケルベロス二人とボクスドラゴン・マカロンの体力は、容赦なく削られていく。こればかりは、クラインが必死に黄金掌を始めとするヒールグラビティを繰り返しても、埋めきれない。
ものの数分でマカロンが露と散り、続けざま苺も明王の蹴技を受けてから戦艦竜の副砲を叩き込まれ、甲羅のような背を舐める羽目となった。
しかし、ケルベロスもやられてばかりではない。
イリスが操る、茨に似た漆黒の攻性植物。そこから振り撒かれる毒花粉が、明王を蝕んで回復力を奪っていく。
それもビルシャナの治癒によって取り除かれはするが、回復が滞ることに変わりはない。じわりじわりと、まさしく毒のように明王を苦しめる自らの技に手応えを感じて、イリスは嘲笑する。
そして、さらに明王を死へと近づけていったのは、プランの力。
「私と私の騎士が相手してあげる」
言葉少なに語り、プランはほんの一時、雪の女王のような姿に変じる。
同時に氷属性の騎士のエネルギー体が数多召喚され、それらは一糸乱れず隊列を組むと、槍の穂先を敵に向けて“その時”を待つ。
「――行って」
姿と同じく、静かに冷たく号令を下せば、プランを女王と仰ぐ騎士たちは竜の背を猛然と駆け、明王を文字通り押し潰すように蹂躙していく。
それは直接的な傷ばかりでなく、騎士たちが孕む氷の力によって敵に新たな傷の種を与えていく。ケルベロスが攻撃する度、その種は樹氷の如く忽然と明王の身体を突き刺し斬り裂き、治癒されるまでの僅かな間に予想以上のダメージをもたらす。
「小癪な! ケルベロスめ、殺す、殺す殺すッ!」
「どうしてあなたはそこまでケルベロスを……!」
並々ならぬ殺意に当てられて、ルーチェは思わず呟く。
だが、それを知る術はない。なにより明王を早く葬らなければ、自分たちが海に屍を晒すことになる。
「至急、早急、大至急! 超特急の上、可及的速やかに退散して頂きます!」
また幾度かの応酬を経た後、茜がこれ以上無いくらいに焦燥を表しながら、封じていた紅獣の力を解き放った。
赤いオーラを纏った茜は残像を作りながら滑るように竜の背を走り、明王と肌が触れるほどまでに近づいてから、爪の形を成したオーラでひたすらに敵を穿つ。最後に渾身の力を込めて両腕を交差させるように振るうと、明王はケルベロスへの敵意を満たしたまま、十字に裂けて海に散っていった。
●
「さあ、もうあんたを守ってくれる盾はいないっスよ!」
明王の名残からビルシャナに目を移して、一騎が言い放つ。
「ふ、ふざけんな! おいドラゴン! なんとかしろ!」
苦し紛れに叫べば、それに応えたわけではないのだろうが、砲撃が一つ飛んできた。
戦艦竜には一撃たりとも浴びせていない以上、その力は変わらず絶大。仲間を庇いながら戦っていた一騎の身体は限界を迎え、意識こそ失わなかったもののガックリと膝を折る。
「……あんたが生きてるのは三次元だ。いい加減、画面じゃなくて現実を見ろ!」
最後に一言、吐き捨てる一騎。
「一騎さんの仰る通りです。現実を見なさい、ゲームで遊ぶのはただの現実逃避ですよ」
クラインも淡々と言い聞かせれば、続けて苺が窘めるように言う。
「こんなおっきな竜とかと一緒にいたら、そのうちゲームも出来なくなるからねっ」
「そもそも、こんな所でゲームばかりしてちゃ体に良くないですよ!」
茜が言葉を重ねて、広げた腕でぐるりと辺り一面を示す。
「周り海しかないですし、食べ物もろくにありません! 特に肉!」
「食事や睡眠もそうですが、情報収集や快適に遊ぶ為の環境づくり……本当にゲームが好きならばこそ、ずっとそれだけと言う訳にはいかないと分かっているハズです!」
ビルシャナになった康雄の望みを多少は理解できるからこそと、ルーチェも言った。
「さあ、愛するゲームの為に少しだけリアルに戻りましょう!」
「……い、いやだ!」
「まだ分からない? ううん、もうわかってるよね? 『一生ゲームだけできる夢の国』なんてないよ。ご飯は食べないといけないし、ご飯を食べるためにはお金が要るから働かないといけない。それにゲームを買うのだってお金が要るよ」
説教と誘惑の半ばくらいを思わせる声音で、プランが語る。
「オンラインゲームでも周りが廃課金で固めてる中、自分は何も買えないって辛くない? やっぱりゲームを楽しむためにも、ゲームだけしてたらダメだよ」
「うっ……うるさい! ここなら金の代わりに時間があるからいいんだ!」
「強情な奴だ」
ラギアは呆れて呟く。
しかしビルシャナの声には、負けと分かってなお意地を張る子供のような震えが混ざっていた。
もうひと押しだろう。ラギアは言葉と力の両方で、ビルシャナを叱りつける。
「ゲームばっかしてんじゃねぇ。仕事しろっ!」
「うわっ!」
大斧の一撃に身体を、仕事という単語でモラトリアムに浸りきった心を、それぞれ斬り裂かれて呻くビルシャナ。
そこにイリスが詰め寄って、厳しく蹴りを浴びせながら言い聞かせる。
「いい加減に目を覚ましなさい! いい? ゲームだけで生きていけるほど世界は甘くないの。それに、貴方がビルシャナになったらケルベロスが黙っていないわよ。安息なんて絶対訪れないんだから!」
「ひぃっ……」
教義に唆されてビルシャナになったといえど――いや、むしろ不死になったからこそ、己に唯一、死を与えられるケルベロスの存在は恐ろしく見えただろう。
戦艦竜がケルベロスたちを追い立てているにも関わらず、ビルシャナの攻撃は力ないものとなっていき、程なく教義への信奉も完全に失って、ケルベロスに撃破された。
そして息つく暇もなく、足場が大きく揺れる。
二体のビルシャナを失い、菩薩の影響下から外れた戦艦竜が、海底に帰ろうとしているのだった。
「こいつは俺が運ぶ!」
ラギアが人に戻った康雄を担ぎ上げ、ドラゴニアンの翼を広げて空に飛び上がる。
残りのケルベロスたちも余力のあるものが戦闘不能者に肩を貸す形で、次々に海へと飛び込んで戦艦竜から離れていく。
「スタコラサッサ~、です!」
最後に茜が竜の背を蹴って跳ぶと、青い海に浮かぶのはケルベロスだけになった。
彼らはそのまま海岸まで半ば流される形で泳ぎ渡り、先に辿り着いていたラギアの元で康雄の無事を確かめると、一先ず任務が果たせたことで安堵して深く息を吐くのだった。
作者:天枷由良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年4月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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