菩薩累乗会~沈むは竜か番犬か

作者:成瀬

「俺はきっと、生まれる世界を間違えたんだ。現実なんてポイだポイ。ゲームの世界に転生したい! 魔法使いになってダンジョン探索して、きれいな精霊とかもっふもふの守護獣とか召喚したりしてみたい!」
 ゲーム廃人となって数年が経った頃、青年は『ケルベロス絶対殺す明王』に連れられて海岸へやって来た。
「ただの寂しい海岸だろ。一生ゲームだけして過ごせる楽園なんて、マジであるのかよ」
 明王が合図すると波が大きく海岸に打ち付け、海底より浮き上がってきた戦艦竜が水面にその姿を現した。およそ二十メートルはあるだろう。
「……はは、すげぇ。俺のゲーム漬けの日々、邪魔する奴は皆殺してやる!」
 青年の姿は羽毛に包まれたビルシャナの姿へとすっかり変わり、興奮した様子で騒ぎ始める。それゆえ気付かなかった、聞こえはしなかった。明王の小さな呟きが。
「――餌だ。お前はただの餌、ケルベロスを誘き寄せる為のな」

 ビルシャナの菩薩達が実行しようとしている恐ろしい作戦『菩薩累乗会』について、ミケ・レイフィールド(薔薇のヘリオライダー・en0165)が話し始める。
「強力な菩薩を次々に出現させ、その力でまた新しい菩薩を生み出し最終的にはこの地球を菩薩の力で制圧しようって。……絶対に何とかしないと、大変なことになるわね」
 この計画を完全に阻止する方法は、現時点では分かっていない。今できることは出現する菩薩が力を得るのを阻止し、進行を食い止める事だけ。そして現在活動が確認されているのは『芸夢主菩薩』。
「ゲームのやりすぎで、現実とゲームの境界線が曖昧になってしまったり、俗世を捨ててゲームだけをしていたいと思っているゲーマーを導いてビルシャナにしてしまう菩薩ね。もしこの菩薩の勢力が強まれば、多くの一般人の意識に影響が出る。現実とゲームの区別がつかなくなり、ビルシャナと化してしまう危険があるわ」
 芸夢主菩薩は、これまでの戦いで菩薩累乗会を邪魔してきたケルベロスを警戒し、『ケルベロス絶対殺す明王』と『オスラヴィア級戦艦竜』、『ビルシャナ化した信者』を戦力としてケルベロスたちの襲撃を待ち構えている。
「今回の戦場となるのは海岸近くの海上よ。敵は戦艦竜の背に乗っているので、砲撃を掻い潜って小型の船などで戦艦竜に上陸し戦う必要があるわ」
 対峙する敵は『ケルベロス絶対殺す明王』『ビルシャナと化した信者』『ドラゴン(オスラヴィア級戦艦竜)』の計三体。
 明王を倒した後はビルシャナ化した青年の救出が可能となる。説得の言葉があれば決して難しくはないだろう。現実あってことのゲームだ、ゲームばかりしてないで早く寝ろなどやんわり叱るようでも構わない。それぞれの考えで言葉をかけた後に撃破する事で、救出ができるはずだ。
「定命化によって弱り死にかけていたとはいえドラゴンは強敵。でも無理に戦う必要は無いわ。他の二体を撃破してしまえば、制御を失って海底に帰って行く。……皆、気をつけてね」


参加者
繰空・千歳(すずあめ・e00639)
シェリアク・シュテルン(エターナル主夫・e01122)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)
フィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)
大成・朝希(朝露の一滴・e06698)
御影・有理(灯影・e14635)

■リプレイ

● 
 見上げれば青、千切れた白が浮かんでいる。
 濃い潮風がケルベロスたちを撫で過ぎ去っていく。ある者は長い銀糸の髪を風に揺らし、またある者は冴え冴えとした金の瞳で前を見据えていた。
 御影・有理(灯影・e14635)は相棒のボクスドラゴンが海に落ちてしまわぬよう慌てて抱き上げる。
 ケルベロスたちが乗っているのは小型の船だ。機動力を重視した結果、水上スクーターは積み込まずその分軽量化させ、スピードを上げることにした。
「語るに落ちましたね。自らの教義を信じる者を『餌』だなんて」
「ね。本気で救ってるつもりで事件起こす印象で不気味だったけど、悟りが足りてないんじゃない?」
「しかしドラゴンまで引き込むなんて、連中も侵略に本気ってことなのかな」
「だとしたら、僕たちも本気にならないとね」
 大成・朝希(朝露の一滴・e06698)とフィー・フリューア(赤い救急箱・e05301)がそう話していると、視界の向こうに戦艦竜が見えたと繰空・千歳(すずあめ・e00639)が皆に告げる。
「随分と厄介なものに乗ってきたのね。見えて来た。朝希、頼りにしてるわ」
「はい、千歳さん。ありがとうございます。来たからには、力を尽くすだけです。最上の結果を持ち帰る為に」
 距離が近付いて来たせいか、船の左側に大きな水しぶきが上がり船が揺らいだ。バランスを崩した朝希の肩を千歳が抱き留める。
「大丈夫?」
 ふふ、と浮かべられる柔らかな笑みが朝希へ向けられる。
「緊張するのは良いこと、でもし過ぎれば実力を出せなくなる事もある。でも心配しないで。私もいるから。……あなたの成長が間近で見られて嬉しいわ」
「皆、何処かに掴まっていてくれ。あと少しの辛抱だ」
 船を操舵する神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)が全員に声をかけた。
「存外、何とかなるものだな」
 晟は短く息を吐き、呟く。砲撃で小波を被ったり揺られたりはしているが、直撃には至っていない。こんな日でなければ海を眺めながらのんびり船旅も良いものだと思うが、それも一瞬。すぐに意識を現実へ引き戻す。戦いの時がすぐそこまで迫っていた。
 いざという時は仲間を運べるよう、地獄化した翼をいつでも広げられるよう心に留めていたシェリアク・シュテルン(エターナル主夫・e01122)は、船の行先を見て小さな安堵を得る。
「よっと、到着ー」
 船が戦艦竜に着くと、猫の如くしなやかな動きでとんっと一番に上がったのは月鎮・縒(迷える仔猫は爪を隠す・e05300)だった。右耳を飾る四葉のピアスが、陽の光を受けて小さく煌めく。
「うちらが来たからには、もう好き勝手させないんだから!」
「何やら企んでいたようですが……その企みごと、打ち砕いてみせましょう!」
 一点の曇りも無いセレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)の青き瞳。映し出されるのは三体の敵。
「来たか、ケルベロス。ここがお前たちの墓場となる」
 明王の声にScutum Argenteumを携えたセレナが抗う。
「いいえ。誰も死なせはしません。『彼』も救い取り戻し、皆で帰ります」


 高波が戦艦竜に当たり、足元を濡らす。
「沈むはどちらか、今日此処で決まる。海の藻屑となるがいい、ケルベロスよ」
「ゲーム漬けの日々を邪魔する奴は皆ぶっ殺す!」
 全員が戦艦竜の背に乗り、ビルシャナたちと対峙すると戦いが始まった。
 地響きのような唸り声が響く。戦艦竜の背中に備えられた砲台より、毒を含んだ砲弾が撃ち出され、前衛の足元に着弾し毒の飛沫を散らす。
「ふふふ、はははは! 羨ましいなあ! ゲーム漬けの日々! それこそある種の涅槃であろうよ!」
 毒を吸い込みながらもシェリアクが不敵に笑う。だが、と細めた瞳がビルシャナへ向けられた。
「この世界そのものがゲームだとしたら?」
 思いもしなかった問いかけにビルシャナは身を強張らせる。
「そしてお前が逃れたその世界も、逃れようとしたらその先もゲームだとしたら?」
 容赦無く切り込んだ問いに答える代わり、不毛がぶわりと膨らむ。それを見てシェリアクは笑うのだ。高らかに、愉しげに。
 続くビルシャナは一心不乱に経文を唱え思考にノイズを走らせようとするが、朝希は意識を集中させ音波を寸でのところで避ける。
「海の上だっていうのに、これじゃせっかくの潮風も台無しね」
 防御姿勢を取りながらも明王が吐き出した毒霧を受けた千歳が、風に乱された前髪を押さえながら言う。
「まずは私を倒してからにしてちょうだい。……まだまだ、いけるわよ。ねえ、鈴」
 傍らの鈴にそう声をかけると、賑やかに動いて千歳に応える。宿した攻性植物に黄金の実を宿らせ、前衛へ耐性の力を与えた。
 事前の相談通りにケルベロスたちは攻撃対象を明王に絞り撃破することに集中するが、朝希は戦艦竜の牽制役を務める。雷や重力を自在に操り火力を削ぎ落とそうと、妨害を重ねていく。
「フィーちゃんが守ってくれてるんだから負けるわけないし!」
 ジャマーの能力を十分に生かして縒は命中率の底上げや守護の力を前衛に与え、サポートする。中衛、後衛には守り手についたラグナルが援護の任を。
「回復はお任せ。いこっか、相棒。ビシッと決めるよ!」
 霊力を帯びて淡く光る紙兵が消えると同時、フィーがタイミング良く掌に溜めた光の塊を縒に飛ばし精神の不調を僅かに整える。
 更に前衛への援護は続く。晟に重い衝撃、守り手ながら戦艦竜の砲撃はまともに食らえば笑えないダメージを叩き出す。だが壁の如き巨躯は、どんな傷を追おうが一歩も引くことはない。傷を負いながらもドローンを飛ばし前衛の防御に当たらせていた晟は、その合間に攻撃を挟み明王に向かう。
「溶かし刻むは我が焔刃。灼焔と共にその肉叢を穿たん!」
 ――蒼炎。
 明王は咄嗟に腕で体躯を守ろうとするが、それよりも蒼竜之戟『漣』が肉を貫くのが速かった。筋肉の乗った腕から繰り出された一撃は、大きく明王の傷を広げ耐久値を削り取る。
(「戦艦竜を放っておきたくはない。できれば此処で撃破したかったが、……今はその時じゃない。だがいずれは、竜勢力との決着を」)
 ボクスドラゴンのリムは船上とは違い、主に忠実に戦いスナイパーとして命中率の高いブレスを明王に浴びせかける。命中するとくるりと回り、今の見た?というように有理を振り返る。
「確かに手段を選ばないタイプのようだ、己が最奥に引っ込むとはな」
 最初の一、二発はふわりふわりと軽やかに動く明王に攻撃を避けられてしまうも、仲間からの援護を受け鋭くなったシェリアクの感覚は、確かに敵の動きを捉える。回復より攻撃を選択、ドラゴニックハンマーを意思の力で変化させると、竜砲弾を食らったビルシャナが痛みに呻く。
「傘をおひとつ、お入りくださいな」
 機械で構成された左腕から放たれた飴色の華が、セレナを包む。降り注ぐ全てのものから守り、癒す、優しく優しい飴の華傘。飴屋の店主が生み出した華たちを見上げ、ミミックの鈴がぴょんと飛び跳ねエクトプラズムを酒瓶型にふんわりと変えて、逃れようとした明王を上手く捕らえて包み込む。じわり、と二人を毒が苛んだ。


「死ね、ケルベロス。殺し殺して殺し尽くしてやる」
 序盤確かな優位を得たビルシャナたちは余裕のある空気で戦いを進めていくが、ケルベロスたちはしっかりと守りを固め命中力を上げ、決して焦らず勝ちを手にいる為一手を進める。血走った目をした明王は、闇を封じたような黒い塊を弾丸のようにセレナへ撃ち出す。一発では終わらない。二発、三発と追撃が入る。避けることも叶わず腕や肩を貫かれたセレナは、それでも苦痛の声を喉奥で殺した。
「何故堪える。悲鳴を上げ、痛いと嫌だと泣き叫べば良いだろう」
「そんなことはしません。――私は、騎士ですから」
 ぎらり、とナイフの刃が鋭く光を反射する。
「我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴殿を倒します!」
 ナイフが横薙ぎに払われ、淡い紅色をした羽毛が血に塗れて辺りに散らばる。明王がその刀身に何の幻を見たのかは定かではない。ただその最後の表情は、悪夢でも見たかのように強張っていた。
「いきます」
 仲間の動きに常に注意を払っていた朝希は追撃のタイミングを逃さなかった。
(「ほんとうは――多くを望みたい。後に続く災禍を今砕きたい」)
 幼い身に似合わぬ大きなバスターライフルを構え、標準を合わせる。
「けどその砲塔を壊すのは今日じゃない。大人しく、水底に帰って貰います」
 引き金を引く指に迷いは無い。収束された光が戦艦竜の頭を焦がし、竜の苦痛に満ちた鳴き声がごうと響く。
「ここが何処だかわかるかな? 竜の……デウスエクスの背中の上、戦場だ」
 明王の気配が消えた。菩薩の影響を受けない今が説得の時、そう感じた有理が口を開く。
「ここで閉じ籠ってしまえば、本当にあるかもしれないその世界を見逃すことになるかもしれんぞ?」
「そだよ。ゲームだから楽しいで済むんだよ。実際大変なんだ、命がけなんだよ! 現実で少しぐらいは頑張らないと課金だってできないんだから。ね、早くこっちに戻ってこようよ!」
「は、働きたくないけど課金はしたい……」
(「うわぁ」)
(「それはさすがに」)
(「何て」)
(「駄目な」)
(「男であろうか」)
 声には出さないが何人かがそう思ったとか何とか。
「人生と化したゲームは苦痛だろうよ。人生はクソゲーだ、だがそのプレイヤーを放棄しても繰り返すだけだ」
「クソゲー……そうだよ、クソゲーだ」
 ビルシャナはシェリアクに視線を向け、都合よく切り取ったその部分に同意したように大きく頷く。
「心から楽しく遊びたいなら、現実とのメリハリってやつもいいスパイスだよ」
「ゲームだけではなく、現実の世界も楽しむ。そんな欲張りな生き方は、きっと素敵ですよ!」
「最新情報も入って来るって、楽園はこの竜沈んでも壊れないってあいつが言ってた。……現実の世界……」
 明王が撃破された後も、連れて来られた時のことを覚えているのだろう。ビルシャナがそう返す。が、その返事も少しずつ揺らいでいる。目が泳ぎ始めた。
「そうです。現実の世界だって、捨てたものじゃありません。例えば、ゲームの物語の元となった国の景色とか、見たくありませんか? それに美味しい食べ物を食べられるのは、現実の世界だけですよ」
「粘土みたいなカロリーバー食ってばっかりなのもなぁ……ゲームの元となった国……」
「結局は現実世界の人間が作っているものよ。捨て去ってしまったら、新しい楽しさがなにもないと思わない?」
 ゲームの楽しさと現実世界の重み、生々しさ。ビルシャナがうじうじ迷っている中、朝希がある意味トドメの一言を放つ。
「デウスエクスが地球を席巻したらゲームを作ってる会社だってなくなってしまうんですよ! アップデートもありません!」
「無いの、アプデ!?」
 ビルシャナが羽毛を恐怖に震わせながら食い気味で問い返す。
「ありません」
「嘘だろ、嫌だ……」
 がっくりと肩を落としたビルシャナへ縒がにっこりと笑う。
「それじゃ……おしおき! 猫の牙だからって侮ったら後悔するよ……!」
 獅子にも負けぬ気は見えぬ力となり、獣と化して牙となり爪となりビルシャナの腕や足に食らいつき動きを鈍らせる。
「縒……容赦ないな。では私も、……おしおきといこう」
 ふわり、と体勢を崩したのを見て間髪入れずに有理が動いた。複雑な響きの竜語で有理が詠唱を始める。
「何処に在す、此処に亡き君。鎮め沈めよ、眠りの底へ。形無くとも、届けと願い。境の竜よ、御霊を送れ」
 掌をビルシャナへ向け、具現化したのは哀しみと鎮魂の願いが込められし幻影竜。歌声にも似たその響きはビルシャナの身を心を震わせその動きを阻害する。
 ――戦艦竜、健在。
 はっとして晟が拳を握り締め、溜めたオーラをシェリアクへ飛ばし傷を癒す。
 明王を失ったことを知ってか知らずしてか、低く咆哮を上げ砲台から斬裂砲弾を発射する。着弾先はシェリアク。その一撃は本来ならば耐えるには余りにも重い。が、その間に巨躯が割り込んだ。
「む、……間に合ったな」
 戦いが始まった時より攻撃力が削がれていたこともあり、斬裂砲弾を正面から受け止めても致命傷には至らない。
 ビルシャナの放つ眩い光が後衛の仲間を襲う。
 反射的に目を瞑った有理は、哀しげな鳴き声と共にリムが姿を消したのを察する。思わず名前を呼ぶが、いつものような可愛らしい応えは無い。
 光を上手く回避したフィーはそれを見て心を傷め胸の辺りをきゅっと掴むも、ここが正念場と仲間の回復に動く。立ち止まってはいられない。
「終わらせないよ。君の物語の続きを見せて」
 七色秘薬『陽』(オーバードーズ・イエロー)。
 フィーの持つ薬瓶から黄金の光が溢れ出した。その光は暖かな日差しのよう。技術と知識を全て込めた特別調合の薬は希望へ繋がる光明の一手。傷に痛みに、決して折れることがないようにと作り出されたそれが、縒の傷と同時に身体に回っていた最後の微量な毒を完全に打ち消す。
「そろそろ、クライマックスといきましょうか」
 頬の血を拭ってセレナが告げる。
 身体に血と、魔力とが巡るのを感じる。全てが引き上げ高められていく。騎士の一族であるアデュラリア家、その血に連なる者しか扱えぬ剣術奥義の一つ。瞬間的に限界まで引き上げられた運動能力を一撃に注ぎ込み、星月夜がビルシャナの身体を切り裂く。
「アデュラリア流剣術、奥義――銀閃月!」
 真昼。ゆえに宵闇は遥か、月夜は遠く。
 しかしこの瞬間、確かに此処には月があった。


 明王とビルシャナ、二体が撃破されたことで戦艦竜は海底へと戻っていく。
「本来なら戦艦竜もこの場で倒しておきたいところだが、二兎を追って1兎をも得ずでは意味がないからな」
 晟がビルシャナから人の姿へと戻った青年を抱えると大きく翼を広げ、セレナやシェリアクと共に来る時に使った船へと戻る。
「今回は仕方のないことだ、神崎殿。彼を救えた。それで今回の目的は達成されたと思う。……良かった」
 リムはいつになく大人しく有理の足元から離れようとしない。
「そだね。有理さん。誰も大怪我してなくてほっとしてる」
 戦友の言葉に、フィーが微笑む。
「一応これ着せとくね。大丈夫だと思うけど」
 意識は失っているが、青年の呼吸は規則的で乱れはない。縒がアイテムポケットからライフジャケットを着せ、傍に黒猫の絵が描かれた可愛らしい浮き輪を置いておく。
「可愛い浮き輪ね。夏になったら私が使いたいくらい」
 千歳が屈み込むと、鈴が浮き輪のまわりをくるりとまわる。
 船はスピードを上げ、竜のいた場所から遠ざかっていく。振り返った朝希はいつまでも、海底に潜る竜を見詰めていた。

作者:成瀬 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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