菩薩累乗会～この戦艦竜を終の棲家とする！

■リプレイ

●いざ戦艦竜の背へ！
　沖に浮かぶ巨大なシルエット――『オスラヴィア級戦艦竜』。
　死を目前としていながらも、やはりドラゴン、見事な巨体と迫力だ。しかしそれを目前にして、心中複雑なケルベロスも少なくない。
「前々から思っていたけど、ビルシャナって色んな意味で節操ないね……！」
　海岸から戦艦竜の姿を望み、アンセルム・ビドー（蔦に鎖す・e34762）は呆れたような声を上げた。まさか本物のドラゴンまで取り込むとは、と。
「ゲドムガサラといい今回といい、バーゲンセールが過ぎる。ホントに」
　ガロンド・エクシャメル（災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925）は眉間に深々と皺を刻んだ。
「うん、戦艦竜。凄いわね、こんなものまで持ち出して」
　矢島・塗絵（ネ申絵師・e44161）は素直に感心を零すと、海辺に視線を翻した。
「ただこちらは無駄に戦うつもりはないわ」
　海辺には数隻の小舟が用意されていた。いずれも人間らしく飾り付けられたマネキンが座らされている。
「準備、つつがなく。完了……発進、させます」
　櫂・叔牙（鋼翼朧牙・e25222）が船のエンジンを起動し、無線操縦を開始した。小舟が次々と発進していく。沖の戦艦竜へ向かって。
　のろのろと接近する小舟の群れに、戦艦竜が首を重たげにもたげて反応した。背に据えられた巨大砲台が回頭し、小舟の群れに向けて砲身にグラビティを蓄え始める……。
「よし、そろそろこっちも発進だ！」
　レイ・ジョーカー（魔弾魔狼・e05510）が一声上げると共に、海岸隅の岩陰に隠されていた最後の一隻が発進した。
　八人のケルベロスを乗せた高速艇だ。小舟の進軍とは別方向から大きく回り込むようにして、凄まじい速度で海面を滑っていく。
　――ドンッ、ドンッ、ドドンッ！
　戦艦竜の砲台が次々に火を噴いた。打ち上げられた砲弾は雨の如く降り注ぎ、小舟の一群を薙ぎ払っていく。攻撃を掻い潜れたのは、わずか二隻。
「今が契機でございますね」
　スコープ越しに状況を読み取り、ラーヴァ・バケット（地獄入り鎧・e33869）は絶妙のタイミングで遠隔スイッチを押し込んだ。
　残った二隻がたちまち起爆し、派手に海水をぶちまけながら爆散した。轟音と蒸気が立ち込める。
「今よ！　後ろに回り込んで！」
　一式・要（狂咬突破・e01362）が激しいモーター音に負けず声を張り上げた。囮の陽動を横目に、高速艇は首尾よく戦艦竜の船尾へと回り込んでいく。
「……随分と悪趣味な棲家だな」
　海に浮かぶ要塞然とした質量を間近に見上げ、リューデ・ロストワード（鷽憑き・e06168）は小さく呟いた。ドラゴンには因縁深いが、立ち向かうことに恐れはない。
　高速艇を船尾に横付けし、次々と竜の背に飛び乗っていく一同。ダブルジャンプで真っ先に甲板に躍り出たアンセルムの眼前には、女性的なフォルムのビルシャナが立ちはだかった。即座にガロンドが皆を庇うように前へと歩み出る。
「銀河随一の、お節介。ケルベロス……只今、推参です」
　叔牙はウイング状のエネルギー放出フィンを背に展開しながら、たどたどしくも冷然と名乗りを上げた。
「……豪胆な到着だな、番犬どもよ」
　『ケルベロス絶対殺す明王』は吐き捨てると、背後へと声を投げかける。
「出番だぞ」
「フッ、やはり来たか、オレの夢を奪わんとする無粋者が……」
　『ガンナー・ビルシャナ』はすっかりゲームの登場人物になりきって、目深にかぶった帽子のつばを銃口で押し上げて見せた。
「いいだろう、相手してやる。さぁ、始めようか……！」
　つばの下から覗ける瞳がグラビティを灯して、鷹の目の如く煌めいた。

●三体の猛攻
「――殺ス」
　炎色の翼が刃のように硬質化したかと思えば、明王の肢体が弾丸の如く飛び出した。鋭く体を捻り、斜めに斬り上げる。
　正確な軌道を描いた斬撃はしかし、黄金の鱗に阻まれた。
「まったく……アドウィクス！」
　敵の斬撃との拮抗に、些か億劫そうに目を細めるガロンド。傍らのミミックが命に従いエクトプラズムで武具を具現化させると同時、明王の刃を押し返し、惨殺ナイフの刀身にトラウマを閃かせる。
　続けて攻撃を仕掛けようとしたケルベロス達の足元で、亀の甲羅の如き装甲が、唐突に雷のグラビティを走らせた。前衛は余さず電流に呑み込まれていく。
「俺が癒す」
　要へ端的に声を投げながら、そつのない動きで雷の壁を構築するリューデ。事前の備えの甲斐あって、全体のダメージはまだまだ軽い。
「オーケー。まだ余裕はありそうね……守るよか攻める方が断然楽しいってね」
　テレビウムの赤提灯に攻撃を任せ、要は水鏡の名を持つバトルオーラを水の力に変じた。叔牙へと付与された水のオーラは、涼やかに透き通って幻想的に空に映える。
「感謝を。……友より得た、力。その身に、刻め……！」
　叔牙の振り上げたドラゴニックハンマーが水のオーラを纏いながら加速し、的確かつ強烈な一撃を明王へと叩き込んだ。
　巧みな蹴りと共に魔法の矢を撃ち出すアンセルム。
「skytte――！」
　シューティングスター。まっすぐに突き進む『流星』は、明王に命中すると同時に砕け散り、無数の星屑となってその動きを阻害せんと留まり続ける。
「行くぜ相棒！」
　ライドキャリバーのファントムと共に敵へと肉薄するレイ。流星の煌めき放つ飛び蹴りと炎纏う突撃が、次々と明王を打ち据える。
「……ふむ？　皆様、少々安定を欠いておりますかな。それではこちらをば」
　仲間達の攻勢の様子をじっくりと見極めていたラーヴァは、大仰な身振りでファミリアロッドを振るった。射出された攻撃に打ち据えられた明王の周囲に、茶蝙蝠が適当に付き纏い、身に刻み込まれた弱体化を増殖させていく。
「重ねていくわよ！」
　塗絵はドラゴニックハンマーを砲撃形態に変形させ、竜砲弾で明王の足元を破砕した。敵はさらに動きを鈍らせる。……が。
「小賢しい――今すぐ死ネ」
　明王の殺意は決して揺らがない。グラビティを漲らせた全身でアンセルムの懐に飛び込み、強力な体術の連撃を繰り出す。
　しかし拳は紙一重で虚しく空を切った。厄介な防護に舌打ちする明王。
「フッ、なんてザマだ。まさしくオレの出番だな」
　ガンナー・ビルシャナは気取って帽子のつばを弾くと、腰元に構えたアサルトライフルで掃射し始めた。底上げされた狙撃力で、的確に前衛の足元を傷つけていく。
　さらに砲台が再び動いた。撃ち出された砲撃の雨は、今度は後衛を蹂躙し始める。轟音、振動、焼けるような衝撃。
　防具に助けられて衝撃をやり過ごしながら、塗絵は吐息を零す。
「……これはもう、いるだけでダメージ受けるステージみたいな感じ？　死にかけててくれてよかったと思うしかないわね」
　ドラゴンは語らない。ただそこにあるだけで伝わる存在感は、死に瀕してなお強力だった。

●悲願は果たせず
　ガンナー・ビルシャナの銃捌きに注目していたレイは、にやりと軽薄に笑う。
「へえ、ガンシュー好きだけあってまあまあやるじゃねぇか。銃使いとして、ここは負けられねぇな」
　構えた銃は、魔狼銃フェンリル。巨大な銃口から照射される凍結光線が、明王の体温を奪う。
　明王の消耗は確実に加速していった。しかし全体の火力は圧倒的に敵方が勝る。防護を整えたケルベロス達はなんとか耐えるも、時が経つほどに戦況はままならなくなってくる。
　とりわけ、攻撃の通りの悪い前衛を捨て、完全に後衛を標的にし始めた戦艦竜の猛攻と、それに乗っかって銃弾を浴びせてくるガンナー・ビルシャナが厄介だった。要とリューデは治癒にかかりきりとなり、それでも間に合わない場面がちらほら散見し始めた。
「シまらねぇなぁ。そろそろキメてくれよ？」
「黙れッ、わかっている……！」
　余裕綽々のガンナー・ビルシャナに煽られ、得意の近接攻撃が決定打とならぬ苛立ちを含めて声を荒げる明王。
　両腕の翼を大きく振るうと、幾枚もの羽根が散ったそばから炎と化すと、最初の一手で『怒り』を自ら買いにいった赤提灯を焼き捨てた。その体力が早くも危険水域に陥り始めているのを感じ、後衛の立て直しに忙しい要は眉を顰める。
「ちょっとまずいかしらね……誰か頼めない！？」
「俺がやる」
　応えたガロンドは、アドウィクスの作り出した真実を映す「魔法の鏡」の偽物を高々と掲げた。愚者の覗きし魔の鏡。そこに映し出された『己が望む自分自身』を見出した者は、身に降りかかる困難を不思議と跳ね除けていく。
「少し牽制してみますか。――我が名は光源。さあ、此方をご覧なさい」
　味方の回復に余裕がないと見て、ラーヴァは眩しく輝くほどに灼けた重い金属矢をつがえ、砲台の根元の一点に、連続して叩き込んだ。ラーヴァ・ルミナンス。秘められた膨大な痺れが、砲台の動きをぎこちなく鈍らせる。
　戦艦竜の抑えが増えたことで、ドラゴンの攻勢が乱れ始めた。ミミックが地道に蓄積してきた石化や催眠も、追加される攻撃で増幅されていく。
「オイオイ頼むぜドラゴンさんよ――うわぁっ！？」
　中央の最も巨大な砲台にグラビティが集中したかと思えば、突如ガンナー・ビルシャナに向けて重い一発が撃ち込まれた。
「催眠が効いたかな。これは、なおさら急がないと……！」
　アンセルムは己が身を覆う攻性植物を蠢かせる。kedjaは食虫植物の如く変じ、明王の胴部に喰らいついた。
　注入される毒に呻く明王。命脈尽きるのも間近。それでもなお、彼女は足掻いた。
「せめて――せめて、一人でも――！」
　毒が回るのも構わず、傷だらけの肉体は最速で動き、刃と化した翼が叔牙を深々と斬りつける。
　しかしその傷は、唐突に展開された緊急手術によって、瞬く間に回復していった。
「貴様にケルベロスは殺せない」
　冴え冴えと明王を見据え、容赦なく断言するリューデ。
「ゲーム菩薩とカタルシスとはようできてる。そのくせ残機が９９っぽいのが玉に瑕よな。それはゲームじゃねぇだろ」
　明王よりも、その背後にいる存在と今後を見越してぼやきながら、ガロンドは幸運のブーツを輝かせ、グラビティを鋭く蹴り込んだ。
　星型の致命傷を腹部に押印されたケルベロス絶対殺す明王の肉体は、グラビティの輝きに呑み込まれるように消滅した。

●メンタルフルボッコタイム
「嘘だろッ！？」
　驚愕するガンナー・ビルシャナを、目にも止まらぬ速さの弾丸が襲った。一瞬にして手元の銃に罅を入れられ、悲鳴じみた声が上がる。
「俺のマグナムが――！？」
「早撃ちは俺の十八番なんでね」
　硝煙たなびかせる冥淵銃アビスを掲げて、レイはニッと笑ってみせた。
「くっ、クソ！」
　咄嗟にアサルトで掃射するビルシャナ。動きの鈍くなった戦艦竜と共に、執拗に後衛を狙い続けるが、戦力低下は明らかに致命的だった。
「攻撃リソースが足りてないっつの……！　これじゃじり貧――」
「どうです、今はたのしいですか」
　Bow with Flame & Infinityを構え、問いかけるラーヴァ。
「これもゲームのようなものと思いたいならかまいませんが。ゲームの邪魔には武力行使？　自分の楽しみのために戦艦を差し向けますか。それでは貴方のほうが『討伐対象』でございますねえ」
　容赦ないフロストレーザーが照射され、情けない奇声が上がる。
「確かに、ゲームで鍛えたとはいえ、オマエの腕はそれなりのモンだ……。だが、コレはゲームじゃねぇ。正真正銘の撃ち合い……殺し合いなんだよ」
　高密度のエネルギーを差し向けるレイ。
「テメェが望んでたゲームってのはこんなものなのか？　こんなところまで来やがって……ゲームに釣られて命捨てに来てんじゃねぇよ！　馬鹿野郎が！」
　光葬魔弾・ブリューナク。分裂したエネルギー弾が追尾する先で、大きな泣き言が連発される。オレはゲームだけして一生過ごすんだぁ～とかなんとか。
「そんな都合のいい嘘に騙されてどうするんですか。ずっとそこにいて食事とかはどうするんですか。新作ゲームとかもたぶん手に入らないんですよ」
　呆れて肩をすくめつつ、プラズムキャノンを撃ち込む塗絵。
「全くだ、その菩薩が多様なゲームを持ってると思うな。どんなに飽きても新作ゲームが出ても、お前はそのゲームだけしか遊べんぞ。つまらないと思うがね」
　淡々と諭しながら、ケイオスランサーで貫くガロンド。
「目標があるからこそ今まで受験勉強に耐えてきたのだろう。その全てを無駄にして良いのか」
　嗜好自体は否定せず、厳しく無愛想に説き伏せるリューデ。
「何より、人に銃を向ける行為はゲームではなく犯罪だ」
　混沌の赤。はらりはらりと舞う花弁が、敵の傷に降り積もり、内からちりりと焼いていく。
「誰だって大変な事から逃げて、ずっと遊んで暮らしていたいさ」
　森暮らし森育ちの自身の境遇を思いつつ、自虐に近いものを吐き出すアンセルム。
「でもね、幾ら面倒くさくても今の内に頑張っておかないと、学もない資格も無い、まともな職にも就けない、全然カッコよくない大人になるよ？」
　輝くljudから、フォーチュンスターが叩き込まれる。
　続けて、エネルギー放出フィンを震わせながら、宝石の如き光学攻撃用励起体を露出させる叔牙。
「ゲームに耽溺、したいなら。まず……自力で。稼げる様に、なってからだ！」
　RayCrisis。誘導レーザーによる無数の光条が、厳しい言葉と共に敵を貫き撃ちのめす。
　どうやらシンプルな喝が一番効いたらしいビルシャナは、心身共に青息吐息。もうどうにでもしてくれとばかりの様子に、要は小さく苦笑した。
「さっさとお家帰んなさい。ここじゃ誰もご飯なんて作ってくれないからね」
　優しげな言葉に反して、気咬弾は深々とビルシャナに喰らいついた。

　……戦艦竜の背が、大きく振動した。
「――！　撤退を……！」
　臨戦態勢を崩さぬままに、叔牙が声を上げた。
　人の姿に戻った高校生の無事を確かめていた塗絵は、傍らに視線を翻した。
「飛べそう？」
「ああ。……受験が終わったらどのゲームを遊びたいか、考えておけ」
　リューデはへろへろに意識朦朧とした高校生を担いで、モノトーンの翼を広げた。
「コンティニューはこれ１回きりでございますよー」
　空に運ばれていく高校生を見送るように声を上げるラーヴァ。
　かくてケルベロス達は次々に戦艦竜の背を脱した。
　海底へと向かうドラゴンの姿を振り返り、要は静かに微笑んだ。
「乙姫様によろしく。次は夏場に来てって、ね」
　竜は決して答えることも応えることもなく、ただ、己の死すべき場所へと深く深く沈んでいった……。

作者：そらばる	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年4月6日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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