幻想、フィクション、ファンタジー。そういった現実からかけ離れた創作という物は、つらい現実を一時忘れさせてくれる、良き人生の友である。しかし、それはあくまでも日々生きてゆく上での一助にすぎず、断じてそれが人生の全てになり替わってはいけない……のだが。
「どうせ現実に生きていたって、先なんか見えないし……そう思ってついてきたけれども、本当にこんなところにあるんだろうな? ゲームだけをし続けられる楽園が」
往々にして、そうした世界にのめり込んでしまう者は何時の時代も存在する。3月のまだまだ寒さの残る海辺に集められた青年は、その典型ともいうべき人間であった。彼の視線の先には、白い羽毛に身を包んだデウスエクス……ケルベロス絶対殺す明王が佇んでいる。彼はこのビルシャナに「ずっとゲームをし続けられる楽園がある」との誘いを受け、ここにやってきたのである。
「ええ、もちろん。我ら、己の信条には嘘は吐きませぬゆえ……ほら、来ましたよ」
半信半疑の視線を受けても、ケルベロス絶対殺す明王は涼しい顔。投げかけられた問いかけに海を指し示すと、青年もつられてそちらに視線を向ける、と。
ーーオオオオオオォォォォッ!
にわかに海面が盛り上がったと思うや、水しぶきを上げて何かが浮上する。それは亀のような甲羅に、無数の砲台を取り付けたドラゴン……オスラヴィア級戦艦竜であった。
「見よ、これこそが汝らの楽園にして城塞! いかなる手も跳ね除ける理想郷ぞ!」
「こいつぁすげぇ! こんなの誰にも邪魔なんて出来ねぇぜ! 戦艦の上で戦略ゲームなんて最高だ!」
戦艦竜という誰にも邪魔されぬ楽園を前に、青年は狂喜と共にゲームを信ずるビルシャナへと変貌してゆく。
「ええ、嘘は吐きませんよ。己の信条に対しては決して、ね」
その光景を前に、『ケルベロス絶対殺す明王』は静かに呟く。
「貴方は所詮囮……闘争封殺絶対平和菩薩が呼び寄せてくれた戦艦竜を使い、ケルベロスを絶対に殺してみせましょう」
漏れ出たその言葉が、喜びにはしゃぐビルシャナの耳へ届くことはなかった。
●
「予知によって、ビルシャナの菩薩たちが企んでいた作戦を察知したっす!」
集ったケルベロスたちへ、オラトリオのヘリオライダー・ダンテはそう口火を切った。
「その名は『菩薩累乗会』。強力な菩薩を次々に地上に出現させ、その力を利用して、更に強大な菩薩を出現させ続け、最終的には地球全てを菩薩の力で制圧するというものっす」
この『菩薩累乗会』を阻止する方法は現時点では判明していない。我々が今できる事は、出現する菩薩が力を得るのを阻止して、菩薩累乗会の進行を食い止める事だけだ。
「現在、活動が確認されている菩薩は『芸夢主菩薩』っす」
これはゲームと現実の区別がついていなかったり、俗世を離れてゲームだけをしていたいと思っているゲーマーの人を導いてビルシャナにさせてしまう菩薩だ。この菩薩の勢力が強まれば、多くの一般人が現実とゲームの区別をつけることができなくなり、次々とビルシャナ化してしまう危険があるらしい。
「『芸夢主菩薩』はこれまでの菩薩累乗会を邪魔してきたケルベロス達を警戒して、『ケルベロス絶対殺す明王』と『オスラヴィア級戦艦竜』を戦力として、ケルベロスを待ち構えているっす」
その為、戦場は海上となる。菩薩たちは戦艦竜の背に乗っており、直接対峙するためには戦艦竜の砲撃を掻い潜り接近する必要があるだろう。
敵は前述の戦艦竜とビルシャナが二体、ケルベロス絶対殺す明王とゲーム好きの青年が変じてしまったビルシャナが相手となる。
「戦艦竜は背中の砲塔による砲撃と格納された兵装による近接防御、その巨体を生かした肉弾戦法が主な攻撃方法っすね」
ケルベロスとの距離があれば大火力の砲撃を、近づいて来れば手足や兵装で迎撃を仕掛けてくる。上陸さえしてしまえば近すぎるがゆえに攻撃のほとんどは封じられるが、近接防御兵装での妨害は行ってくるだろう。
「上陸してからはビルシャナ2体との戦闘がメインっすね。ケルベロス絶対殺す明王は近接戦を、もう一体のビルシャナは……元々戦略ゲームが好きだったのか、それらしい技を使うみたいっすね」
ケルベロス絶対殺す明王は左腕の刃状の羽による斬撃、背負った法輪による法力攻撃、そして捨て身の全力特攻を使用してくる。その名にふさわしく、絶対にケルベロスを殺さんと猛攻撃を仕掛けてくるだろう。
もう一体のビルシャナ、戦略ゲーム系ビルシャナとでも呼ぶべき個体は遊んでいたゲームに準じた攻撃を行う。無数の戦闘機を呼び出しての範囲支援攻撃、ミサイルや砲弾での狙い撃ち攻撃、補給物資をどこからか取り出して体力を回復させる技の三つである。
「戦略ゲーム系ビルシャナは、先にケルベロス絶対殺す明王を倒し、説得に成功した上で打倒せば元に戻すことが可能っす」
ビルシャナ2体を倒しさえすれば、制御を失った戦艦竜はそのまま海底へと戻ってゆく。だがもし、入念な作戦と万全の準備を整え、ビルシャナを倒す前であれば、撃破出来る可能性も極めて低いがゼロではないだろう。
「オスラヴィア級戦艦竜は、多くのドラゴンが螺旋忍軍の主星スパイラスに隔離された余波で命令を受けられず、そのまま海底で定命化に蝕まれていたみたいっす」
自らの死が目前に迫っている状況をビルシャナの菩薩に利用されてしまったのだろう。少なくとも、ビルシャナが健在な内は攻撃を仕掛けてくるため、長期戦はケルベロスの不利となる。
「どんどん敵も強くなってきますが、ここが踏ん張りどころっす!」
そう話を締めくくると、ダンテはケルベロスたちを送り出すのであった。
参加者 | |
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エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486) |
椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768) |
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308) |
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707) |
猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868) |
愛澤・心恋(夢幻の煌き・e34053) |
信田・御幸(真白の葛の葉・e43055) |
ベリリ・クルヌギア(不帰の国の女王・e44601) |
●砲撃突破戦
冬も気配も遠のく春の海。嵐の前の静けさとも想える程穏やかな海を、二艘の船が疾駆していた。
「ビルシャナとドラゴンの共闘……同時に来ると厄介さも酷いものですねぇ」
僅かに揺れる小型船の縁より、テレビウムと共に進行方向を眺める愛澤・心恋(夢幻の煌き・e34053)。その先には、海上に悠然と佇む戦艦竜の姿があった。
「さて、出来る限りの事はしたつもりだけど、どこまで通用するか」
「死死死っ、こればかりは出たとこ勝負とならざるをえぬな。無論、妾は万全であるが!」
水着に身を包み不敵な笑みを浮かべるベリリ・クルヌギア(不帰の国の女王・e44601)の横で、信田・御幸(真白の葛の葉・e43055)が併走するもう一隻に視線を向ける。衣服を着せたマネキンを乗せた攪乱用の囮船だが、効果の程は未知数だ。
「どうやら、すぐにその結果が分かりそうですわ……気付かれましたわよ!」
そうして、相手の変化にまず真っ先に気付いたのは操縦桿を握っていたエニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)であった。戦艦竜を見やると、相手の視線が船を捉えていると一目でわかった。戦艦竜はその顎を開くと。
ーーオオオオオォォォッ!
咆哮により開戦の狼煙を上げる。刹那、背中に搭載された三基二連装砲から濛々と硝煙が立ち上がっていた。
「回避行動をっ! こちらもバイオガスいくぞ!」
フィスト・フィズム(白銀のドラゴンメイド・e02308)は砲撃されたと気づいた瞬間、白煙を噴出させ視界を遮ってゆく。船そのものを完全に隠せはしないが、ある程度の欺瞞は見込めるだろう……だが。
「あんたらにとっちゃ本物だろうが偽物だろうが、全部沈めれば関係あらへんか!」
幾つもの水柱が立ち上り、その内の一本には船体やマネキンの残骸が混じっていた。その光景に猫夜敷・千舞輝(地球人のウェアライダー・e25868)が思わず叫ぶ。定命化の最中といえど、その暴威に些かの翳りはなかった。
「戦艦竜と戦うのは2年ぶりですが……火力、耐久力共にあの時と遜色在りませんね。真正面からぶつかれば苦戦は必死でしょう」
「本音で言えば、戦艦竜も一緒に片づけてしまいたいざんすがね。今回はビルシャナ優先でありんす……よっ!」
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)の言うとおり、戦艦竜とまともに戦えば敗北もあり得る。その可能性は敵砲弾を竜戦槌の砲撃で迎撃していた椏古鵺・笙月(蒼キ黄昏ノ銀晶麗龍・e00768)が肌で感じ取っていた。
「速度はこれ以上出ないざんすか!? 至近弾でも船がひっくり返るざんしよ!」
「砲弾を避けながらではこれが限界ですわ!」
堪らずエニーケに叫ぶ笙月だが、返答は苦しいもの。戦艦竜との距離は数分ほどだが、いまはそれが絶望的な程長かった。
「幸いこちらの攻撃も届く距離だ、全力で攻撃し狙いを定めさせるでない!」
「猫の手も借りたい状況や、火詩羽も頼むで!」
ライフルを構え、砲塔を狙って狙撃を行うベリリだが、相手は意にも介さず砲撃を続ける。第二射のうち、直撃しそうなものを千舞輝と供の羽根猫が迎撃に向かう。両者は攻撃を加えることにより軌道を逸らそうとするも、空中で爆発した砲弾の衝撃が至近距離から襲いかかった。
「ぐ、防いだにも関わらずこの威力……洒落にならんで!」
「動き回っていれば、ガスと相まって狙いを付けにくくなるはずだ。だが……気を付けろ、そろそろ防御兵装の射程圏内に入る!」
フィストの警告とほぼ同時、煙を突き破って無数の銃弾が降り注いだ。散らされた煙の先には、幾つもの機関銃座が蠢く光景があった。
「砲弾のまぐれ当たりも怖いが、機銃の弾幕も着実にダメージが蓄積する。何とか持ちこたえてくれ!」
「ああ、任された!」
爆風で吹き飛ばされた千舞輝へ治療を施しつつ、御幸がフィストに戦線維持を任せる。彼女は全てを防ぐのではなく、バイタルパートを中心に相棒の羽猫と供に攻撃を受け止め、叩き落としてゆく。
「厳密には戦艦そのものとは違うでしょうが……誘爆の一つでも期待したいですね」
それでもこのままでは浸水の危険もありえる。僅かでも攻撃の手数を減らす為、ウィッカは機銃の中心へ意識を集中させ、爆破スイッチのボタンを押す。瞬間、甲羅上が爆炎に包まれ、一瞬だけ機銃の雨が止んだ。
「っ、ここ! 一気に距離を詰め、上陸しますわよ!」
いまが好機、エニーケは直線起動へと進路を切り替える。残り僅かだった距離は瞬く間に詰まるも、視界を覆うのは戦艦竜の巨大な腕。眼前に迫ったそれは、このままでは直撃を免れない。
「私が攻撃を防ぎます、その隙に戦艦竜へ飛び移ってください!」
「直撃を遅らせるだけで構わぬ、無理はするなよ!」
無数の鎖を相手の腕へ絡みつかせ、テレビウムとともに少しでも威力を減衰させようとする心恋を背に、ベリリ達が船を脱出する。生まれた猶予はほんの数秒だが、それにより船は戦艦竜の甲羅へと到達していた。
「くぅ、っきゃあ!」
だが一方、心恋は攻撃に耐え切れずに弾き飛ばされる。あわや海面に衝突しかけた彼女だったが、仲間たちが得物の鎖を手繰り寄せ、翼で飛行していた笙月が空中で受け止めた。
「ここからが本番ざんしよ。その前には誰一人だって欠けられないでありんす」
かくして、辛くも戦艦竜上陸を成し遂げたケルベロス達。そんな彼らを待ち受けていたのは。
「よくぞたどり着きましたね。ま、そうでなくては殺し甲斐がない」
「ヒャッハー、リアル攻城戦? テンション上がるぜー!」
万全の体制で待ち受けるケルベロス絶対殺す明王と戦略ゲーム系ビルシャナの姿であった。
●明王討伐戦
ケルベロス達は戦艦竜の攻撃に加え、上陸直後ということも相まって陣形を整え切れていない。
「戦艦竜も良い仕事をしました。さぁ、すぐに殺して差し上げましょう!」
「それはこちらも同じでありんす! 大地に滴り満ルは水ノ龍、天つ風に轟き満ルは雷ノ龍、地を裂き天を覆い渦巻く業火なる火ノ龍!」
その好機を見逃すほど相手も甘くない。初撃から全力でくる明王に対し、真っ先に対応したのは笙月だった。封じられた三匹の龍御霊を解放、大火力に対し大火力をぶつけ相殺するも両者ともに浅からぬ傷を負った。
「制空権は頂きだぜ!」
間髪入れずに襲い掛かるのは戦略系の航空攻撃。プロペラ音を響かせた戦爆連合が頭上より機銃の雨を降らせてゆく。
「戦艦竜と比べたら、こんなの豆鉄砲や! ネコマドウの三十八、『寄らば猫の影』……モフれぇぇぇぇぇ!」
だがそれも、千舞輝が虚空へ弾いた50円と引き換えに現れた巨大猫のモフモフとした毛皮に阻まれた。攻撃を意にも介さず寝ころぶ巨猫にやる気をあふれ出させた千舞輝が次々航空機を落としてゆく。
「さてと、先ほどから一方的に撃たれてばかりですからね。ようやくこちらの手番です」
「先程は操縦に専念しておりましたからね、ここからが本領発揮ですわ! 空想と妄想の力、お借りします!」
機先を制されたケルベロスだが、攻撃を凌ぎ切るとすかさず反撃に転じる。ライフルを構えたウィッカと体の前で腕を十字に交差させるエニーケ。凍えるような煌めきと眩い輝きを纏った光線、二条の光が攻撃直後の明王へと命中する。ピキパキと右足が凍てつき、その動きを阻害した。
「ふん、小癪な。逃げなどせん、貴様らを殺すことこそ我が願い故に!」
「つまり、足を止めての殴り合いならばお前も望むところだろう。援護する、お見舞いしてやれ。其は焼き払われ、其は過去へ葬られし美しき我が故郷の思い出のひと欠片……幼き我が記憶を以ってここに顕現せよ! グリューン……サルヴ!」
次いで変化が現れたのは、甲板の上。無機質な甲羅が、フィストを中心として金色の輝きに包まれる。
「死死死っ、明王だがなんだか知らぬが不敬極まりない。妾の姿を仰ぎ見るがよい!」
黄金色の葦原と化した戦場から大きく飛び出したのは、ベリリの黒い姿であった。頭上高く飛び上がった彼女は明王を睥睨しつつ、重力を纏わせた蹴りを叩き込む。
「ぐ、む……この程度、想定内だ!」
右腕で攻撃を受け止めつつ、左腕の翼刃を振るう明王。返す刀で反撃しつつ、失われた体力を少しでも取り戻す。
「攻撃後こそが反撃チャンス、カウンタースナイプ!」
飛び退るベリリを狙い戦略系は大小の砲を召還、一斉に砲撃を行う……が。
「飽く迄も遊び気分ですか。今起きてるのは……ゲームではなく実戦なのですよ?」
すかさず心恋が色取り取りの爆発を発生させ、砲弾の勢いを殺してゆく。それでも何発かが命中し鮮血を散らすが、テレビウムの応援動画を背に耐えきった。
「何とか渡り合えているが、こちらも戦艦竜戦のダメージが残っている。早々に明王を落としたいが……っ!?」
後方から戦場を俯瞰し、仲間達の陣形へ破魔の力を付与していた御幸だったが、それゆえに変化に真っ先に気付くことが出来た。競り上がる無機質なソレは、戦艦竜の防御兵装。
「あれは……っ!? 気をつけろ、周りから攻撃が来るぞ!」
御幸の叫びに仲間達が周囲へ視線を向けた瞬間、四方八方より銃弾が降り注いだ。各々咄嗟に回避行動を行うも、必然それにより陣形が崩れ、連携も一瞬断ち切られてしまう。
「壁役に粘られると面倒なのでね……まずは一匹、仕留めましょうか」
「っ、此方に来たか!」
がしりと明王の左手が掴んだのはフィストだった。仲間の支援が断絶した一瞬に、ビルシャナの拳が彼女の腹部へと突き刺さった。骨を砕く音が響き、純白が紅に染め上げられる。
「フィスト!?」
「不味いですわ、いま前衛が欠けたら流れが一気に傾きます!」
恋人が崩れる姿に思わず駆け出す御幸の横では、エニークがマスケット型のライフルを構えてすかさず射撃を行う。止めを刺さんと左腕を振り上げていた明王だが、エネルギー光弾が命中し、一時的に攻撃が無力化されて目論見が外れる。
「あと一歩のところだったが……こちらも支援要請だ」
「アイ、マム!」
だらりと左腕を下ろす明王の言葉に、戦略系が信号弾を打ち上げる。すると補給物資が投下され、手早く傷を治療していった。
「まだ動けるかい!?」
「ああ……辛うじてな。返礼したい、援護を頼めるか?」
一方で御幸もフィストへ治療を施していた。援護が間に合い、何とか戦闘可能な状態で踏みとどまれている。体を起こす恋人の問いかけに、御幸は力強く頷いた。
「勿論さ……六根清浄、急々如律令!」
「いくぞ!」
援護を背に、フィストが敵陣目掛けて飛び出してゆく。竜殺しの名を関する刃に星座の重力を纏わせつつ肉薄する。
「死に損ないが、一人二人では防ぎきれんぞ!」
対する明王は背負った法輪より光弾をばら撒いてゆく。治療したとはいえ、ダメージは危険域であることには変わりない。
「さっきは動けませんでしたが、今度こそ……メロディと一緒なら!」
防御と支援に専念するからには、必ず役目を全うする。仲間を庇うべく身を晒す心恋の傍らには、テレビウムとフィストの羽猫が固めていた。心恋とテレビウムが攻撃を受け止め、羽猫が羽ばたきで痛みを和らげてゆく。
「っ、くぅ……!」
「はっ、そちらが先に落ち……はっ!?」
だがそれでもこれまでのダメージは消し切れず、心恋の体力が限界を迎えた。嘲る明王だが、その背後に身をひそめていたフィストによる斬撃が直撃する。
「だが……耐えてやったぞ!」
「ええ、攻撃がこれで終わりであれば」
体を切り裂かれながらも、紙一重で命を繋いだビルシャナ。その視界に映るのは崩れる心恋と駆け抜けるフィスト、そして……最後尾で五芒星を展開するウィッカ。
「破滅もたらす悪魔の弾丸よ。我が敵を撃ち抜け!」
「く、まだ一人しかっ! おい、支援を」
言葉を紡げたのはそこまで。体を貫いた弾丸が炸裂し、明王に絶対の死をもたらすのだった。
「さぁ、お前が下らんことをお願いしたもんだから明王は消えた。次はお前の番だが、覚悟完了したか?」
「お、俺は指揮官であってなぐり合うのが専門でなくてでな!」
「それでよく指揮官を名乗れるな。お前に耐えられるか? 迫りくる死の恐怖に」
戦略系は元が元だけに、明王と比べて地力は高くない。言い訳を並べながら航空機を発進させるも、笙月に悉く叩き落され、返す刀で呪詛を籠めた一閃を刻まれる。
「話が違うぞ、こんなの聞いていない! クソゲーだ、駄作だ!」
「生きておれば一寸先は闇、人生はクソゲー。実に上手い言葉だと妾も賛同しよう。では、試しにこのまま死してみよ」
のた打ち回る戦略系を見降し、嘲り笑うベリリ。左中指に嵌められた指輪に魔力を籠め、瘴気の渦を召還する。
「ーー齎された訃報。示された凶兆。もはや人の集いに憩いは無く、黒き風が滅びを運ぶ。喜べ、果てなき痛絶は絞首の縄にて解放されよう」
瘴気の渦が縄へと変じ、戦略系の魂魄諸共に締め上げ引きちぎる。絶叫が海上に響き渡ると同時に、無数の火砲が戦略系の周囲に呼び出された。
「畜生、畜生が! みんな死ね! 俺はただゲームがしたいだけなのに!」
「あんなぁ、好き勝手できる空間はな、そこら辺に転がっとるモンやないんや」
最後まで己の欲望を喚く相手に、悲しげにそう告げる千舞輝。砲弾が装填される直前、彼女の集中させたグラビティが火砲の群れの中で弾ける。
「自分で作り上げるしか無いんやわ、楽園(じたく)はな……悲しいけどな」
「あ、あ、あ、あああぁあぁっ!」
刹那、無数の火薬が暴発し、戦略系を巻き込む。紅蓮の炎が消え去った後には、黒焦げになりながらも五体満足な青年の姿だけが残されていた。
かくして、ケルベロス達はビルシャナ2体の討伐と青年救出という、当初の目的を果たすことに成功した。
「なんとか全員無事で終わらせられましたね……」
「じゃが、一息つく暇もない。戦艦竜が沈むぞ!」
深々と息を吐くウィッカの横で、ベリリが叫ぶ。彼女の言葉通り、明王の制御を離れたことによって戦艦竜が海底へと沈降を始めていた。
「船は……よかった、形は保っておりますわ」
上陸時放棄した船の無事を確認するや、エニーケは水中呼吸を利用して船まで泳いでゆく。
「無事な者は負傷者を担ぐざんす!」
笙月が黒焦げの青年を担ぎ、エニーケが引き寄せてくれた船へと放り込む。その横では千舞輝が心恋に肩を担いで船へと乗り込んでいた。
「うぅ、すみません」
「かまへん、かまへん。お互い様や」
全員が乗り込むと同時に、戦艦竜が完全に海中へと没する。追撃の心配はないが、船は全力で海域を離脱してゆく。
「何とか、勝てたな」
「ええ……私たちの勝ちです」
フィストと御幸が背後を見やる。戦艦竜の消えた海上は、先程の戦闘が嘘だったかのように穏やかだ。ケルベロスたちは戦いの終わりを噛み締めながら、帰路に就くのであった。
作者:月見月 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年4月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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