菩薩累乗会~ゲーム・オブ・ビルシャナ

作者:七尾マサムネ

 人気のない海岸に、2つの人影がある。
 1つは、ごく普通の青年。クマのできた目は、手元のスマホから離れない。
 もう1つは、鳥人・ビルシャナだ。
「……おい、マジか」
 レアアイテム獲得を示すBGMを聞きながら、青年が問うた。
「もちろんさ青年。こここそ君の求める、ゲームだけしていればいい楽園だ。今から証拠を見せよう」
 ビルシャナが両翼を広げると、海が隆起した。海水を押しのけ威容を現したのは、一隻の巨大な戦艦竜だった。
 これにはさすがの青年も、スマホから顔を上げざるを得ない。
「リアル戦艦……確かにこんなもんがあれば、誰からもジャマされずにゲームできる!」
 歓喜する青年が光に包まれると、彼もまた、ビルシャナへと生まれ変わった。
 ひゃっほい、と小躍りする元青年は、気づかなかった。自分を導いたビルシャナが、ほくそ笑んでいたことに。
「ふ、ケルベロスをおびき出すエサにされているとも知らずに。ケルベロスは絶対殺す。闘争封殺絶対平和菩薩が招き寄せてくれた、この戦艦竜の力で」
 ビルシャナの名は、ケルベロス絶対殺す明王。

「強力な菩薩をどんどん出現させて、地球全てを菩薩の力で制圧しようとする恐ろしい作戦、『菩薩累乗会』……その新しい攻撃が予知されました!」
 笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)によって新たに活動が確認されたのは、『芸夢主菩薩』。
 ゲームと現実の区別があいまいだったり、社会生活を放り出してゲームだけしていたいと思っていたりするゲーマーを導き、ゲーム系ビルシャナに変えてしまう。
「この菩薩の勢力が強まれば、多くの一般人が現実とゲームの区別がつかなくなってしまって、次々ビルシャナ化してしまいます……!」
 これまでの菩薩累乗会を邪魔してきたケルベロス達を警戒する芸夢主菩薩は、『ケルベロス絶対殺す明王』と『オスラヴィア級戦艦竜』を用意し、迎撃する構えだ。
「戦場は、海岸近くの海上です。戦艦竜の砲撃をよけながら、戦艦竜に上陸して、そこで待つケルベロス絶対殺す明王たちと戦ってください」
 敵は、ケルベロス絶対殺す明王1体と、それに導かれ誕生したゲーム系ビルシャナ1体。そして、オスラヴィア級戦艦竜1体だ。
 ケルベロス絶対殺す明王は、背にした光輪から光の矢を放ったり、砲塔を召喚して砲撃する技、翼で切り裂く技を得意としている。その全てが追尾能力を持っている。
 一方、ゲーム系ビルシャナは、武器として召喚した剣から、様々な攻撃範囲の斬撃を放ってくる。
 明王の方を先に倒すことができれば、ゲーム系ビルシャナを人間に戻すことができる可能性があると、ねむは言った。
「戦いながら説得すれば、きっと救い出せます」
 そして戦艦竜は、ドラゴンだけあって強大な火力を誇る。主砲や爆雷による射撃は脅威だ。
「戦艦竜はとても強いですけど、2体のビルシャナをどちらも倒せば、海の底に帰っていくみたいです。今回は菩薩累乗会の阻止が目的……無理せず頑張ってください!」
 力強く、ケルベロスたちを励ますねむだった。


参加者
朝倉・ほのか(フォーリングレイン・e01107)
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)
ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)
ユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)
一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)
アミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)
神冥・飛燕(アニマートポルカ・e45124)

■リプレイ

●蒼海の戦艦竜
「菩薩累乗会は恐ろしい計画です。必ず明王を倒してビルシャナを説得、戦艦竜を退けましょう」
 仲間達とともに敵の攻略を開始した朝倉・ほのか(フォーリングレイン・e01107)が、海上に戦艦竜の威容をとらえた。その瞬間、スイッチが入ったように、瞳がクールさを帯びた。
「戦いを始めます」
 だが、戦艦竜側でもケルベロスを捕捉している。背に備えた砲の狙いを調整し、射撃を開始した。
「最近のビルシャナって元気すぎだよねー! ここは踏ん張りどころって感じだし、頑張っちゃうよ!」
 立ち昇る水柱の飛沫を浴びつつ、神冥・飛燕(アニマートポルカ・e45124)が気合を入れた。
「戦艦竜、冗談じゃない程大きいのね。手駒にされる姿は可哀想だけど、同情してる暇はないわよね」
 徐々に、目標との距離を詰めるアミル・ララバイ(遊蝶花・e27996)。
 不意に、砲撃が止む。だが、今度は戦艦竜の口元が赤熱化したかと思うと、蓄えていたエネルギーを吐き出した。
 数秒にも及ぶ連続照射をくぐり抜け、一之瀬・瑛華(ガンスリンガーレディ・e12053)やハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)達は、戦艦竜への着艦を成功させた。
 そこで待ち受けていたのは、二体のビルシャナである。
「戦艦竜まで持ち出してくるとはな。けどな、うちらが返り討ちにしてやるで」
 小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)の不敵な言葉を一笑に付すと、ばさぁ、と明王が片翼を広げた。
「我は、ケルベロス絶対殺す明王。その名にかけて、貴様らは絶対にここで殺す!」
「いい度胸だ。番犬が己の為だけに牙を剥けるんだからなぁ」
 明王の宣言に応じ、ルース・ボルドウィン(クラスファイブ・e03829)が、愛杖で肩をとん、と叩いた。
「こちらには下僕たるビルシャナ、そして戦艦竜という大戦力もある。ここが貴様らの墓標となるのだ!」
「そちらがそう思うならば、相応に対処するまで」
 ユーカリプタス・グランディス(神宮寺家毒舌戦闘侍女・e06876)がスカートのすそをつまみ、折り目正しく一礼すると、
「神宮寺家筆頭戦闘侍女、ユーカリ参ります」
 戦闘を開始した。

●バード&ドラゴン
「ケルベロス絶対殺す明王、て……明王もいい加減、やめてほしいで」
 うんざりしたように告げる真奈に、戦艦竜の牽制に向かうルースが、声をかけた。
「竜に一発、足止め頼めるか」
「まかしとき」
 請け負うと、真奈はドラゴニックハンマーを変形させた。標的を戦艦竜に定めると、エネルギーの奔流を叩きつける。
 万全を期したルースから、雷撃がほとばしる。戦艦竜の全身を光が駆け巡り、その動きを鈍らせる。
「ロックオン」
 揺れる足場をものともせず、ほのかの射た矢は、明王を追尾する。バックステップ気味に回避しようとする相手をとらえ、その翼を貫通した。
「いい攻撃だ! それでこそ殺しがいもある」
 笑う明王。
「さあ、どんどんいきましょう」
 ユーカリプタスの色彩豊かな爆煙が、前線に立つ仲間の攻勢を強めていく。
 一方、ビルシャナは、ミミックのトラッシュボックスがばらまく疑似宝物を見て、テンションを上げていた。
「アイテムー!」
「君は何をやっているのだ……!」
 明王はビルシャナを一喝すると、胸元に収束させたエネルギーを放射した。その先にいたアミルは、羽ばたき回避しようとするが、執念すら感じさせる追尾性能を発揮し、強引に着弾する。
「さあ竜よ、その力を示せ!」
 明王の呼び掛けに応じ、戦艦竜が砲撃した。轟く音、上がる炎柱。
「けほっ、さすがに、戦艦竜の攻撃はつらいな」
 爆煙の中から姿を現した真奈は、何とか無事であった。
 艦上を吹き抜ける爆風を払ったハンナが、つぶてを速射した。明王が技を繰り出そうとした翼を打ち、狙いを逸らす。
「君も攻撃せよ! ゲームの時間を邪魔されていいのか」
 明王に叱咤されたビルシャナは、翼を天に掲げた。
「顕現せよ我が力、剣となって敵を断て!」
 口上に応えて現れた剣による粗削りな斬撃が、ケルベロスを切り裂く。
 後方から援護のタイミングをうかがっていた瑛華が、敵軍の猛攻にさらされる仲間のため、気を練った。浴びせられたオーラが、即座に傷を塞いでいく。
 数でこそケルベロスが勝っているとはいえ、単騎戦力では、相手の方が上だ。
「せめて戦艦竜は邪魔しないで見てて欲しいなー、ってダメかぁ」
 敵のいい的にならぬよう、甲板上を駆け回る飛燕。武器から噴き出す蒸気で、仲間達の負傷箇所を浄化、回復していく。
 サーヴァント達も奮戦している。飛燕のシャーマンズゴーストの振り下ろした爪が、明王の足の爪と火花を散らす。
 そして、アミルのウイングキャット・チャロの翼から放たれた加護が、仲間を包む。
「絶対殺すと言われても、そう簡単に殺されるつもりはないのよ。そこに居るお兄さんを捕まえて、あなたを倒して帰らせてもらうわ」
 そばにあった戦艦竜の砲塔を蹴って、アミルが跳んだ。炎をまとったキックの衝撃が、明王を叩き、焼いた。

●殺意の翼
 戦闘は続く。
 明王が翼で鎌鼬の如く切り裂けば、ビルシャナが大振りながら威力のある広範囲斬撃を飛ばしてくる。そこに、戦艦竜から爆雷が投下される。
「私が回復しましょう」
 負傷者の体を焦がす炎が、ユーカリプタスの気力によって瞬時に吹き飛ばされる。
 一方、砲撃を受け、舌打ちするハンナの元に、光の盾が飛んで来た。瑛華の声と共に。「前衛の回復に注力したいんだから、もっと避けてよ」
「生憎お転婆なモンでね。すぐ怪我しちまうのさ」
 相棒の軽口に、ハンナはシニカルに笑って返した。すすを掃うと、再び立ち上がる。
 それを見た瑛華は、信頼をにじませる笑みをちらりと浮かべ、再び被弾状況の注視に戻った。
 敵の攻撃は苛烈で、回復担当を厚くしたのは、好判断だったようだ。もちろん、ケルベロスも押されているばかりではない。
 たんっ、と竜の背を踏んで、舞いを披露する飛燕。殺伐とした艦上に、即席の花園を作り出す。降り注ぐ花弁で仲間たちの傷を癒しながら、明王に、
「逃さないよ! ここで決着をつけるんだからね!」
「望むところ!」
 応じた明王に、真奈のエクスカリバールが強襲した。生えた無数の釘が、激突と同時、明王の傷口をえげつなくえぐった。
 悶える明王を、黒い疾風が抱きすくめた。風の主、ほのかが、明王から活力を奪いながら、ビルシャナを振り返る。
「貴方は明王に騙されています。誰からも邪魔されずにゲームができるどころか、私達と戦う羽目になっています」
「言われてみれば!」
「それに、せっかくならゲームの話を他の人としたくありませんか? レアアイテムがドロップしても、戦艦竜は話し相手にはなってくれないです」
 ちらり、とビルシャナは、巨大竜を見た。
「確かにコイツとは話が合う気がしねえ……でも、SNSとかあるし!」
「……なら、物理的にはどうだ。竜の上ってのは、風呂や便所はあるのか。コンセントは? 禁煙か?」
 ルースの矢継ぎ早の問いかけが、ビルシャナを精神的に追い詰める。
「どうでも良いが、この環境に女は呼べぬな。哀れな男よ」
 そしてルースは、明王を標的とすると、バスターライフルのトリガーを引いた。機動性が低下した明王にはそれをかわしきれず、胴をえぐられる。
「くっ、猟犬どもの言葉に耳を傾けるな!」
 明王がビルシャナに声を飛ばした矢先、ハンナの狙撃を受けた。被弾した片足が、瞬時に氷漬けとなる。バランスを崩し転倒しそうになるところを、かろうじて踏みとどまる。しかし、焦りは隠しきれない。
 そんな明王の視界を、チャロが塞いだ。小さな体を追い払えば、その向こうに、立ち昇るオーラを収束させたアミルが見えた。直後、オーラの牙が、明王を噛み砕く。
「バカな……こちらの戦力は申し分なかったはず……!」
 艦の外に投げ出された明王の体が、海面に叩きつけられ、消滅した。

●ゲームは一日……
 ビルシャナを惑わす明王はもういない。後は、元の人間に戻してやるだけだ。
「来んな、来んなよ! 俺はここでゲームだけしてたいんだ!」
 ぶんぶん、と剣を振り回すビルシャナ。なり立てであり、後ろ盾ともいえる明王を失って、その勢いは大分削がれているようだ。
 だが、戦艦竜の方は、律儀に攻撃を続ける。パラライズを受け十全でない中、砲塔を何とか動かし、火を噴かせた。
「どうだ! こっちにはチート級の召喚獣がついてるんだよ!」
 戦艦竜の火力を見て、再び増長するビルシャナ。当然召喚獣ではないのだが、戦艦竜が何も言わないので良いか。
「ですが、我々を倒したら誰がゲームを作る人を守るのでしょうか? それに、その鳥の格好のままだとゲームしづらくありません? ゲーム機はビルシャナ規格にできていませんよ?」
 ユーカリプタスが問いかけながら、虚空に星座を描いた。蠍座から降り注ぐ星光が、皆の傷を癒し、体の乱れを整えていく。
「スマホの充電が切れたらどうするの? 電気代とデータ代滞ったら、そのゲーム遊べなくなっちゃうわよ。ちゃんと社会生活に勤しみなさいな」
 アミルが、現実を付きつけながら撃ち出した凍結弾は、剣ごとビルシャナの腕を凍結させた。
 瑛華が、戦艦竜の砲撃をかいくぐり、幾条もの鎖を放った。それは仲間達に巻き付くと、瑛華の回復力を直接注ぎ込んでいく。
「しっかり現実を見てください。この殺人ゲームがあなたの望む世界ですか。現実とゲームを、混同しないでください」
「ううっ……!」
 瑛華の言葉に動揺しつつも剣をかざすビルシャナを見て、ユーカリプタスが武装したミミックを蹴り飛ばした。
「トラッシュボックス、仕事です」
 ユーカリプタスの鮮やかなシュートが、ビルシャナの斬撃とぶつかり合い、小爆発を起こす。ビルシャナの手を離れた剣が、戦艦竜の背に刺さる。
 爆発の煙を突っ切り、ハンナが接敵する。突き立った剣に映るビルシャナの姿を指さし、
「お前がやるゲームの勇者はそんな姿かよ。違うんならお前の行動の良し悪しの答えが出てるんじゃないか」
 衝撃波を伴う連続ジャブを繰り出しながら、ハンナが言った。相手の目をのぞき込めば、迷いに揺れている。
「それにな、ゲームばかりしてると飽きんか? ゲームはちゃんとやることやってからやで」
 あとこれはお返しや、と、真奈が拳を繰り出した。先ほどビルシャナに喰らった斬撃を炎に変えて。
「目や体だって悪くなるよ! ご飯を食べてお風呂に入って、気分をリフレッシュした方が楽しくゲームできるんじゃない? あんまり没頭しすぎると作業みたいでつまらないよ」
 そう言って、飛燕が砲撃態勢を整えた。シャーマンズゴーストとタイミングを合わせた炎が、ビルシャナを戦艦竜の縁まで吹き飛ばした。
「お前ら俺のオカンかよ! わかったよ、ゲーム三昧は諦めるよ……」
 うなだれ、現実世界への復帰を認める青年。あとは、鳥人の呪縛から解放するだけだ。
「ボルドウィンさん、合わせます!」
 ほのかが駆ける。その横を、ルースの投じた銀閃が追い越し、ビルシャナを穿つ。銀閃……痛みすら感じさせず突き立った一本の針が、ビルシャナの動きを止めていた。
「さぁ、環境は整った」
 その声に後押しされたほのかの鎌が鮮やかな弧を描き、ビルシャナの命を刈り取った。残ったのは、人の姿を取り戻した青年だ。
 すると、戦艦竜の爆雷発射口が、次々と閉じられていく。二体のビルシャナが倒れたのを見て、戦闘行動を中止したのだ。
 ほっと胸をなでおろす飛燕。だが、戦艦竜が海中への潜航を開始したものだから、さあ大変。
 慌てて脱出に移る一行。もちろん、元ビルシャナの青年も連れて、だ。
「ふう、皆さんお疲れ様でした」
 海岸にたどり着いたほのかは、皆の無事な姿に一息つく。
 勝利の余韻を味わいながら、瑛華は、ハンナにライターを放った、
「余裕だったでしょ?」
「見ての通りさ。そうだろ?」
 そう答え、ハンナがルースにも煙草を投じた。
「あぁ、今夜の酒は美味そうだ」
 紫煙をくゆらせ、ルースが言う。
 穏やかさを取り戻した海が、きらきらと輝いていた。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。