「ここが、ゲームの楽園?」
人気のない海岸で、少年は導き手に呼びかけた。
「然り。それはすぐに来る」
振り向く顔は人間ではない。赤眼と烏めいた口ばしの純白の鳥人……ビルシャナ。明らかに異常な相手も気にせず、少年は指さされる沖合をトロンとした目で見つめた。
「本当にずっと過ごせる世界なんて……」
大人へ向かう途中のよくある理想と現実の隔絶……自分は特別で、ついていけない勉強、クラス、家族こそが間違っているという自惚れ。それを満たしてくれた架空が現実になると、このビルシャナは言った。
そんなことあるわけがない……ふと我に返る自問は、現れた光景に失われた。
「あれは……竜……戦艦!?」
「両方だ。あれがキミの自機となる」
出現する巨大な竜の戦闘艦は、少年の目にどのように映ったか?
「『戦艦竜オスラヴィア』、巨大な戦艦竜を操って戦うコンバット・シューティングだ……さて、えいる君。我は君を、ゲームだけできる楽園に招待するといったが」
「おっと、皆まで言うな。見たいんでしょ、実力? お決まりのパターンですよね」
失礼極まりない遮りだが、ビルシャナは頼もしいな、と笑った。
「話が早くて助かる。難易度はヘル、ナビゲートはいるかね?」
「平気っすよ。僕、マニュアルとか読まないほうなんで」
少年だったものの嘴がさえずる。促され、二人のビルシャナが飛んだ。
「闘争封殺絶対平和菩薩が呼び寄せてくれた戦艦竜……生かさせてもらう。コイツを餌に、我、ケルベロス絶対殺してみせる」
ビルシャナ……ケルベロス絶対殺す明王の呟きは、もはや少年に届く事はなかった。
「『菩薩累乗会』に新たな動きがあった。戦艦竜だ」
集まったケルベロスにリリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は恐るべき強敵の再来を告げた。
「菩薩累乗会は強力な菩薩を次々に地上に出現させ、その力で更に強大な菩薩を出現させることを繰り返し、世界を制圧するというものだ。阻止する方法は現時点ではわからない」
今は出現する菩薩が力を得るのを阻止して食い止めるしかなく、そして今回出現した『芸夢主菩薩』は妨害に対しても警戒を強めている。
「その警戒策がビルシャナ『ケルベロス絶対殺す明王』、そして戦艦竜だ」
芸夢主菩薩はゲームと現実の区別がついていなかったり、俗世を離れてゲームだけをしていたいと思っているゲーマーの人を導いてビルシャナにさせてしまう菩薩。
芸夢主菩薩はビルシャナと化した人々をケルベロス絶対殺す明王と共に戦艦竜へと乗せ、ケルベロスを待ち構えているという。
もし阻止に失敗した場合、多くの一般人が現実とゲームの区別をなくし、更に多くの被害が出るのは間違いない。
「ビルシャナ達を倒せば戦艦竜は制御を失い、深海へと戻るだろう。だがそのためには砲撃を掻い潜り、戦艦竜の元まで乗り込む必要がある」
二体のビルシャナに戦艦竜、戦いはこれまで以上に厳しいものになるだろう。
「今回の作戦目的はビルシャナの撃破……可能ならビルシャナ化した少年の救出だ」
ビルシャナ化した少年はまだ夢現といった状態にあり、救出はそう難しくない。ケルベロス絶対殺す明王を倒したうえ、言葉や行動で現実を訴えて説得、撃破すれば元の人の姿を取り戻すことができる。
攻撃はプレッシャー効果と癒し、二つの閃光、トラウマを呼び起こす浄罪の鐘の三つで、命中率以外はそう強い方ではない。
ケルベロス絶対殺す明王も火力こそあるが、攻撃は羽型の火炎と催眠効果の経文とビルシャナとしてはオーソドックスなものにとどまっている。
問題はビルシャナの狩る戦艦竜だ。
「オスラヴィア級戦艦竜。上位のドラゴンたちからの命令が途絶え、定命化で弱っていたものを拾ったようだが……能力は過去に出現した戦艦竜とそう変わらない。つまりまず勝てない」
一、ニ撃でケルベロスを戦闘不能に追い込む火力と、それに抗靭する装甲。過去に出現した個体は数度に渡る攻勢か、三十人ものケルベロスによる総力戦でようやっと撃沈されている。
「幸い、今回の個体はビルシャナたちに制御されているだけだ。二体のビルシャナを倒せば制御を失って深海に戻っていくはずだ」
同時に相手取るには戦艦竜はあまりにも強い。無理に狙うよりはビルシャナ二体に絞り、短期決戦を挑むのが上策だろうか。
「定命化の進んでいる戦艦竜の殲滅は急務ではない。ケルベロス、今は菩薩累乗会の阻止を優先してほしい」
参加者 | |
---|---|
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023) |
天崎・ケイ(地球人の光輪拳士・e00355) |
天尊・日仙丸(通販忍者・e00955) |
シェスティン・オーストレーム(無窮のアスクレピオス・e02527) |
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827) |
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079) |
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895) |
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558) |
●難易度:ヘル
着水する砲弾が水柱を上げ、小舟を揺らす。二年前、相模の海を暴れた戦艦竜の火力は出鱈目に……比喩抜きで滅多やたらにケルベロスへと今放たれている。
「あれから二年、か。また戦艦竜を見る日が来るとは思わなかったな……」
「短くない月日だが、彼我の火力差は未だ埋めがたい、か」
かつて挑んだ強敵に思いを馳せた鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)の沖合に上がる水柱。分析するティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)もまた過去に戦艦竜と戦ってきた身だが、今回は勝手が少々違いそうだ。
「へぇ、エイムは遅いけど連射は効いて、あと弾速は……」
その砲撃こそ戦艦竜のものだが、それを駆るのは提督の如く艦上に陣取るビルシャナ。殺し合いに身を置いているとは思えない、楽しげな声が風に乗って聞こえてくる。
「情報通り、砲撃メインで突っ込んでくる気配はなし。どのような術か知らぬが、完全にビルシャナたちの制御下のようでござるな」
「ついにドラゴンまで……最も底が知れない勢力はビルシャナなのかもしれませんねえ……」
分析する天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)と天崎・ケイ(地球人の光輪拳士・e00355)が唸るのと同時、炸裂する砲弾が船を吹き飛ばした。
「あれ、ラッキーヒット?」
「いいや、まだだ。飛んででも、泳いでもやってくるのがケルベロスという連中だ。まして……左舷見た前!」
あくまで軽い芸夢ビルシャナに対し、気色ばるケルベロス絶対殺す明王は執念深く、注意深い。その名の通り、ケルベロスたちの屍が自らの前に転がるまで警戒を解く気はなさそうだ。
「執念深く、敵の火力は折り紙付き、突っ込み甲斐があるっすね」
本命の船の中、ブルーシートを跳ねのけ篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)が立ち上がる。囮はそう役に立たなかったが、ここまで来たら突っ込むのみだ。
「前は、お願いします、佐久弥お兄さん」
船を庇うようマインドシールドを展開した彼へ、更にシェスティン・オーストレーム(無窮のアスクレピオス・e02527)のライトニングウォールが展開される。
「左舷へ回してください、この時間なら引き潮が味方してくれます!」
懐中時計と海図を手にしたアーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)のアームドフォートが戦艦竜をけん制。僅かなれど、意識させられればいい。僅かでも反撃を遅らせられるなら。
「背には頼りになる仲間がいて……ならば俺は俺の役目を果たすのみっす」
あと一歩、迫る最後の砲弾めがけ、佐久弥は『フェアリーブーツ“足洗邸”』を蹴りあげる。
闘気の流星が炸裂させた砲弾の爆風を突き抜け、船は竜の舷側へと喰らいついた。
「えーっ、それあり? 迎撃とか聞いてないんスけど」
「一々うるさい奴め……まだゲームは終わりではないぞ。直に――」
どこか浮世離れしたビルシャナたちの会話を阻み、明王の横っ面を螺旋掌が叩く。
「ケルベロス八名、時間指定なしゆえ最速にて配送に参った」
日仙丸の遠当て『螺旋掌・疾空』による過激なノック。重厚な打撃が第二ステージの開幕を告げた。
「ケルベロス! 殺す! ころっ、ぐ!」
身構えるビルシャナに絡みつくマイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)の攻性植物『結晶花『Amber Mistelten』』のストラグルヴァイン。挨拶無用の先制打が動きを封じたなか、二人を起点に投げられたフック付きロープが次々とケルベロスたちを引き上げる。
「辿り着きましたよ、えいるさん」
「なんで、こう海に入るのがつらい時期にトカゲ共は海に出てくるのかしらねぇ……」
武装を展開するアーニャと並んだマイアがぼやく。呼びかけられた芸夢ビルシャナは……振り向いて、その姿に一言。
「え、名前知ってるってそういうゲームなの? 僕、硬派オタなんで安易な萌えはちょっと」
マイアを筆頭に、女性陣の衣装とスタイルは、ビルシャナと化しても青少年には刺激が強すぎたのかもしれない。
申し訳程度のマイクロビキニに『煽情のシャドウコート』を羽織ったマイアの艶姿を見せつけられたビルシャナの心中は察するに容易かった。
「……なんですか、そういうゲームって」
何をどう勘違いをしたのか、あるいは一種の逃避なのか? 現実味の薄そうな問答を続けるビルシャナに、ケイは息を吐きライフルを突き付けた。
「……こんな馬鹿げたゲームは、終わりにしましょうか。えいるさん、ここからは遊びではありませんよ」
「うわ、言いやがった。僕らは遊びでゲームやってんじゃないっすよ」
表情は読み辛いが、その反応は苛立ち……何度も言われてきたことなのかもしれない。ビルシャナの感情を示すように、その後光が激しく輝いた。
●地獄VS絶殺
「ここは貴方が好きなゲームではありません! 命を懸けた本物の戦場なんです! 死んでしまえばそれでお終いなんですよ! 貴方はそれを……」
「あーもう、うっさいなぁ! 死ねば終わりなんてゲームも人生も一緒でしょっ!」
アーニャの声もかき消し、破壊の光が甲板を走る。その火力は足場である戦艦竜も焼けそうなものだが、動じる様子はまるでない。
「頑丈なのか、そういう能力なのか……どちらでも反則的だぜ」
「生き残りの再利用とは、とても言えないっすね」
散開し、転がり起きる勢いを乗せてヒノトは佐久弥に頷く。
無言の連携、吹き上がる明日への誓いのマグマが左翼を封じ、すかさず右から『衝実』から留め具の柘榴石にも似たフォーチュンスター。明王の烏めいた羽根と火花が飛び散った。
「殺せ! 倒せ! 永遠の楽園への門は勝者のみに開かれる!」
転がりながらもわめく明王。呼応するように戦艦竜の背が開く。
「攻撃指令!? 皆のもの、上方注意にござる!」
日仙丸の声と同時、流の背中が火を噴いた。それは火山弾の如く、垂直にUターン軌道を描いて降り注ぐ無数の焼夷ミサイル。
「戦艦竜は私が! 明王をお願いします!」
火力は圧倒的にデウスエクスが上。それでもアーニャは炎の中、アームドフォートの砲塔を、二挺の銃を旋回させ、連打で踏み止まる。仲間たちを包む炎の中、シェスティンのヒールドローンが飛んだ。
「今、暫しご辛抱を……ドローン!」
「なに、通販道も忍耐の道と見つけたゆえ!」
炎を吹き飛ばす日仙丸のシャウト。彼とドローンに守られ、アーニャの照準が戦艦竜を追った。
「感謝します……これで!」
よろめきながらもアーニャの放つゼログラビトン弾のバースト射撃が、ミサイル数発を制止させる。無数のうちのせいぜい数基、だが全弾でなければ隙は空く。
「ちょっとシラける真似やめてほしいなぁ!」
もちろんビルシャナも黙ってはいない。少年のビルシャナが今度は癒しの輝きを放ち、その停滞を解放しようとする。
「いいぞそうだ! その苛立ち憎しみ見どころあるッ」
「嘴を閉じろ。貴様の相手は我々だ」
勝ち誇るケルベロス絶対殺す明王だが、その声はティーシャの砲撃に阻まれた。
専用ライフル『Mark9』に、砲撃形態のドラゴニックハンマー『カアス・シャアガ』。変則的な二挺銃で、ティーシャは明王の孔雀炎と激しい銃撃戦を交わす。
「邪魔はさせませんよ。あなたの相手は私だ」
「片追い阻止っての? やるじゃん」
いまいち状況を読めない声色と共に放たれる後光が、マインドシールドと衝突。閃光のプレッシャーを受け流すケイは、阿頼耶識の光をもって対抗した。
戦艦竜の気紛れな防御くらいにしか連携を取らないビルシャナ……特に元少年の芸夢ビルシャナは戦うには楽な事だが、ケイの神経質さと闘いへの求道心はそれを由とできなかった。
「ゲームを否定する気は毛頭ありませんが、ここでゲームをする事が貴方のすべき事ではないでしょう? 貴方にも貴方を心配して待っている人達が……」
「心配なんて……されるわけないだろ」
「そうだ殺す! 絶対こーろーす!」
跳ねのけられる説得。横目に見れば、ケルベロス絶対殺す明王とぶつかりあう仲間たち。
短期決戦の目論見通り、押してはいるが地形と化した戦艦竜の護りが決定打を邪魔してくる。この状況では無理だ、彼を助けるためにも今は耐えるしかない。
「面倒をしてくれること……!」
縦横無人な軌道からの孔雀炎がマイアの艶めいた肌を痛々しく焼いた。
血を舐めさせられたマイアの反応は、はたして真逆。
「いい加減、うっとおしいわ」
鋭く、声が冷たさを増す。伸びあがる肢体から呼応するように胸を跳ねるは漆黒の粘液『使い魔『Mucus dubh』』。
主の殺意を体現するようにスライムは襲い掛かる絶対殺す明王にべたりと絡んだ。
「邪魔が入らないうちに、今よ」
「殺す、殺すと……その言葉そっくり返してやるぜ! 穢身斬り裂くは双の閃雷!」
ヒノトの両の手、エネルギーが紫電の閃光槍を形成する。ヒノトの切り札『エテルナライザー』がケルベロス絶対殺す明王に十字を切った。
●一気攻勢
「くそ、浅いかっ……!?」
「よくもっ、貴様……殺す殺して殺してやる殺るヤル……!」
烏のような黒羽を更に黒く焼かれてなお、ケルベロス絶対殺す明王は耐えた。その傷まれた傷は十字に僅か届かず……戦艦竜の砲塔が庇うように動かなければ、止めまで持ち込めていただろう。
「セッ! コロッセ! コロコロクルク、クルルルルゥゥゥー!」
「この、声……このまま、では……!」
シェスティンが警戒を叫ぶ間も、筆舌しがたい明王の経文がガンガンとケルベロスの意識を揺さぶってくる。手にした『癒杖「アスクレピオス」』が震え、癒しの白蛇が明王へと向いていく。
照準を逸れたアームドフォートが仲間たちへと放たれる。
「ほら、女々しいこと言ってる場合? もうすぐ全滅だぜ?」
「勝手に決めつけないでほしいっすね」
煽る少年ビルシャナの期待に反し、爆風の向こうからは静かな声。ダメ押しと降り注ぐ焼夷ミサイルの雨の中を、佐久弥は血を炎と噴き上げて立ち上がった。
「俺は捨てられたモノども率いる敗者達の王。この背を見つめるモノがある限り――再起を誓い、不屈を約さん」
不屈の誓い、『誓約・塵塚怪王』が彼を支え、デウスエクスの猛攻を拒絶する。その背に守られるシェスティンは雷の防壁をドームの如く重ねあげた。
「助けられる命は、助けたい、です……あなたの、事も」
シェスティンの合わせた目、声にビルシャナは目に見えて動揺していた。人の色を戻す瞳に、ケルベロス絶対殺す明王が何事か叫ぼうとするが、その嘴は唐突に背後からの剛腕に封じられた。
「戯言は終わりだ、デウスエクス」
ティーシャの『全て破砕する剛腕』が、もがくケルベロス絶対殺す明王を高々と持ち上げる。破砕のための膂力の前に脱出は不能、機は十分。
「あらステキ。それじゃ……少し力を借りるわよアナスタシア」
マイアの指が未だ腰に佩いたままの『白銀の選定者』を抜く。託した忠信の戦乙女の力を確認するように一振りすれば、銀光が白羽のごとく舞う。
彼女でもまぁ、解放への戦いに反発はしないだろう。
「モ、ゴッ、ころっ、こっここっコココッ……!」
「……終われ」
「星辰の輝きの元に砕け散りなさいな」
閃光が明王を貫き、一文字に裂く。同時、閉じる破砕アームがビルシャナだったものを戦艦竜の背にぶちまけた。
●芸夢オーバー
明王の最後を確認し、佐久弥が溜まらず膝をつく。
庇い立つケイは改めて呆然とする少年のビルシャナへと向き直った。
「……もう一度、いいますよ。あなたを心配して待っている人は、います。ここから帰る事こそが、貴方のすべき事ではありませんか?」
「う、うるさい……うるさいうるさいっ!」
少しビルシャナは嘴をめくり上げるほどに叫ぶ。呼応した戦艦竜のミサイルが起動し、問答を塗りつぶしていく。
「ずっと過ごせる楽園とやらをビルシャナは約束したらしいけど今の状況はどうかしら? のこの状況は貴方の求める楽園とは乖離していると思うのだけどっ?」
舞うように身をかわすマイア。その気高さは火傷や煤に汚れてなお薄れず、言葉以上に少年を追い詰めていく。
「ゲームとは安全を保証されているからこそ楽しめるもの。 自身がこうして戦場に立ち危機に瀕し、それでもまだお主はゲームを楽しめるでござるか?」
日仙丸の螺旋掌がビルシャナの頬を張る。浸透する痺れ、思わず抑えた手と、そこにあった感覚。言葉を失った嘴があえぐように開閉した。
「どうっすか、血の匂いは――眼、冷めたっすか?」
力なくおちたビルシャナの手を佐久弥が握る。既に身の炎は冷めていた。
「佐久弥お兄さん、手当てを……!」
「ごめん、シェスさん。少しだけ」
知らせなければいけない、彼のやった事の意味を。
「君のやったことっす……気持ち、悪いっしょう」
「う、うぅぅぅわぁぁぁぁぁッ!?」
高ぶる感情がビルシャナを暴走させる。閃光とミサイルが辺り一面を吹き飛ばした。
「説得は十分だ! シェスティン、佐久弥を!」
「なら速攻だ! 明王に駒として利用されて、ゲームだって殺し合って、楽園だなんて言えるのかよ……!」
事態を察したティーシャが佐久弥を後方へ投げる。迎撃と着弾の暴風の中、ヒノトの想いと魔力を蓄えた、『穹鼠 アカ』がロッドからネズミの使い魔へと姿を変えて喰らいつく。
「キケッケケケケェーッ!」
引き千切れる羽毛に叫ぶビルシャナ。もはや声に少年の意志はなく、奇怪な叫びと出鱈目な閃光だけがほとばしる。
「私は足を止めます、後は」
「わかりました。火力、斉射!」
ビルシャナへと掲げられるケイの手から溢れる、薔薇の香気と深紅の花吹雪。
「紅はお好きですか……と、聞く状況でもありませんか」
わずか遅れ、飛来するアーニャの一斉射が香気を巻き上げ、花片が無数の傷を刻み込む。だが、爆発はない。
「……テロス・クロノス」
一瞬の美を切り取るように世界が静止した。
少年ビルシャナが口を聞けたら、チートだマスター強権だと喚いたかもしれない。ゲームではある種定番の必殺技、時間停止こそがアーニャの本懐。
「デュアル……バーストっ」
静止した時の中からの砲撃と同時にタイムアウト。多重化した飽和火力がビルシャナを一気に滅ぼした。
「竜が、沈むぜ……!」
攻撃とは違う振動にヒノトは慌てて叫んだ。ビルシャナを討ち取ればというが、それにしても早い。
「こらえ性のない子だこと……長居は無用ね。彼は?」
「ここに。梱包万端、傷なく……とは言い難いでござるが、無事に候」
マイアは日仙丸が手に抱いたものの姿を一瞥、攻性植物を伸ばし、ロープアクションのごとく船へと飛んだ。
辿り着き、振り返ればもうオスラヴィア級戦艦竜の姿はない。
「菩薩累乗会……さて、どうなるか」
芸夢は終わり、現実はまだ続く。目を覚ました少年にも、もちろん自分たちにも。
作者:のずみりん |
重傷:篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年4月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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