菩薩累乗会~ゲームの楽園は戦艦竜!?

作者:秋津透

 石川県珠洲市、能登半島の先端部。
 日本海に突き出て海流に洗われる岬は、気候の穏やかな季節にはパワースポットとして訪れる人も少なくないが、寒い時期には身を切るような猛風が吹き荒れ、迂闊に海際に出ると簡単に怒涛にさらわれてしまう。
 そんな場所に、しかも深夜、走ってきて停車する車があった。
「おい。本当にこんな場所に、一生ゲームだけできる楽園があるのか?」
 運転席に座った男が、不安そうな声で訊ねる。すると、後部座席からむくりと起き上がった異形の鳥人間……ケルベロス絶対殺す明王を名乗るビルシャナが、その姿や名乗りとは裏腹な、魅惑的な女性の声で告げる。
「心配は要りませんわ。芸夢主菩薩様の御威光は、あらゆる不可能を可能として、ゲーマーの楽園を具現化させるのです」
 そう言うと、ビルシャナは車から降り、運転席から降りた男を海岸へと導く。
 男は、荒ぶる夜の日本海を、不安そうな眼差しで見やっていたが、そこへとんでもないものが浮上してきた。
 形状としては、全長およそ二十メートルの巨大な海亀、というのが妥当だろうか。しかし、その背甲には無数の砲門が突き出て天を睨み、頭部も亀ではなく竜に近い、獰猛魁偉な面構えをしている。
 以前、城ヶ島を制圧したドラゴン勢力と死闘を繰り広げたケルベロスなら、その姿に見覚えがあるかもしれない。戦艦竜……海中、海上での戦闘に特化した強大なドラゴンである。
「おおおおおお……スゲエ! スゲエ! スゲエ!」
 叫びながら、男は海岸に接岸した戦闘竜へと飛び移る。その姿は、もはや人間ではない。異形の鳥人間、ゲームに憑りつかれたゲーム系ビルシャナと化している。
「ここなら、誰にも邪魔されずに、24時間365日、ゲーム三昧できる! まさに地上の、いや、海上の楽園だあっ!」
 歓喜の声をあげ、戦艦竜背甲の中央あたりに設けられたゲーム機エリアへ飛び込んでいくゲーム系ビルシャナを、ケルベロス絶対殺す明王は一転して冷ややかな目で見やる。
「せいぜい楽しく、ゲームに嵌っているがいい。お前は、ケルベロスを招き寄せる餌に過ぎない。闘争封殺絶対平和菩薩が呼び寄せてくれた戦艦竜を使い、ケルベロス絶対殺してみせる」
 ケルベロス絶対殺す明王の呟きは、ゲーム系ビルシャナの耳には入らなかった。

「緊急事態です。ビルシャナ菩薩たちの『菩薩累乗会』が、新しい段階に入ったという予知が得られました」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、緊張した口調で告げる。
「新たに活動が確認されたビルシャナ菩薩は『芸夢主菩薩』と称し、現実よりゲームに入れ込んで、俗世を離れてゲームだけをしていたいと願うゲーマーの人を惑わしてビルシャナにする菩薩です。この菩薩の勢力が強まれば、多くの一般人が現実とゲームの区別をつけることができなくなり、次々とビルシャナ化してしまう危険があります」
 そう言って、康はプロジェクターに画像を出す。
「恐ろしいことに『芸夢主菩薩』は何をどうやったのか知りませんが、戦艦竜を戦力にしています。戦艦竜の背にゲーム三昧のできる楽園を作り、ゲーマーをビルシャナ化して、その楽園で遊ばせる……阻止をするのは至難です。ただ、ゲーマーを惑わして連れてくるビルシャナは『ケルベロス絶対殺す明王』を名乗っており、『芸夢主菩薩』の勢力増大よりも、ケルベロスをおびき寄せて倒すことの方に傾倒してるようです。危険な罠ではありますが、撃破の好機でもあります」
 そう言うと、康は画像を地図に切り替える。
「皆さんに対処していただきたいビルシャナと戦艦竜は、ここ、能登半島の先端、石川県珠洲市の海岸にいます。ヘリオンで近づいたら即座に落とされてしまうので、海の真ん中に出られてしまったら、より対処が難しくなるところでしたが、海岸に接岸したままなので、戦艦竜の砲撃を掻い潜って背甲に乗り込み、ビルシャナを倒すという戦法が使えます。ビルシャナ2体を撃破すると、戦艦竜はビルシャナ菩薩の制御を失って、海底に帰っていきます」
 そう言って、康は画像を切り替える。
「戦艦竜の砲撃は、通常の遠距離攻撃の三倍の射程があります。つまり、乗り込むまで三ターン、砲撃を受けなくてはなりません。砲撃は列攻撃ですが、多数の砲による飽和攻撃なので、同じ攻撃が続いた場合でも見切ることも躱すこともできません。ディフェンダーのダメージ半減とかばいは有効です。通常、最も人数の多い列を狙って撃ってきますが、治癒などを使うと、狙いを変えてくる可能性もあります。なお、列減衰はなく、高命中率によるアサルトやクリティカルは生じる可能性があります」
 極端な話ですが、全員ディフェンダーで行くとかしないと、脱落者が出る可能性が高いです、と、康は難しい表情で告げる。
「戦艦竜の背甲に飛び乗ってしまえば、飽和砲撃は来なくなりますが、戦艦竜の頭部、口から発射される熱線攻撃は、首を曲げることで自分の背に撃つことができるため、そちらに切り替えて攻撃してくることでしょう。熱線は単体攻撃で、飽和砲撃ほどの圧倒的威力はありませんが、それでもディフェンダーでない未熟なケルベロスは、一撃で戦闘不能にされるおそれがあります。ビルシャナ二体は、ごく一般的なビルシャナの能力を持ちますが、ケルベロス絶対殺す明王は弱っているケルベロスを的確に狙って攻撃してくるので、注意してください。ゲーム系ビルシャナは、そもそも現実対応能力が低いので、攻撃自体できないかもしれません。そして、ケルベロス絶対殺す明王を先に倒せば、ゲーム系ビルシャナと化した人は助けることができます。たぶん、心底震え上がってると思うので、ビルシャナになってもゲーム三昧の楽園などはない、幻想を捨てて現実に戻り、適度な範囲でゲームを楽しめ、と言うぐらいでビルシャナから離れられるでしょう。ただ、注意しなくてはならないのは、ゲーマーの人がビルシャナから離れても、それでゲーム系ビルシャナが消えるわけではなく、むしろ自動戦闘機械のようになったビルシャナを撃破しないと、ゲーマーの人も助けられず、戦艦竜も解放されません。ぎりぎりの戦闘になる可能性が高いので、最後の詰めを誤らないよう気を付けてください」
 そう言って、康は首を左右に振る。
「いったいどうして、誇り高いドラゴンがビルシャナに操られる羽目になったのかわかりませんが、恐ろしい事態なのは間違いありません。ドラゴンの攻撃を耐えきり、きっちりとビルシャナを倒し、皆さん全員が無事に帰還されるよう祈っています」
 そう言って、康は深々と頭を下げた。


参加者
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)
ガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
皇・絶華(影月・e04491)
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)
螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)

■リプレイ

●降り注ぐ、砲撃(たま)の下こそ地獄なれ
「結局、一直線に行くしかなさそうだな」
 石川県珠洲市、能登半島の先端部。海岸に接舷するオスラヴィア級戦艦竜を遠くに見やり、皇・絶華(影月・e04491)が呟く。
「仕方ありませんね」
 レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)が軽く肩をすくめ、若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)が言い放つ。
「油断大敵、ですが過度の警戒も不要です」
 そう言うと、めぐみはバイオレンスギターで、立ち止まらず戦い続ける者達の歌「紅瞳覚醒」を奏でる。そして、演奏を終えると同時に走り出し、サーヴァントのナノナノ『らぶりん』が続く。レクシアと絶華が並び、ガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)とサーヴァントのボクスドラゴン『ギンカク』が続く。
 更に、蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)螺堂・セイヤ(螺旋竜・e05343)シアライラ・ミゼリコルディア(天翔けるフィリアレーギス・e00736)とサーヴァントのボクスドラゴン『シグナス』と続き、ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)がしんがりとなる。
 合計、ケルベロス八人とサーヴァント三体の十一名。この時点でのポジションは、全員、前衛ディフェンダーである。
 そして、彼らが走り出すとほぼ同時に、オスラヴィア級戦艦竜の砲が、一斉に轟音と噴煙をあげる。やがて間もなく、全力飽和砲撃が頭上から垂直に襲い来る。
「ぐあっ!」
「あうっ……」
「こいつは……ひでえな」
 八人のうち五人が被弾。サーヴァント持ちの三人は、それぞれ自分のサーヴァントに庇われ無傷だったが、代わりにサーヴァントは倍のダメージを負う。
「ディフェンダー効果でダメージ半減して、これですか……」
 レクシアが呻きながらシャウトで自己治癒、めぐみは「紅瞳覚醒」を奏でる。
 一方、深手を負ったサーヴァントたちは、それぞれ自己治癒を行う。無傷のガドとシアライラは、それぞれ自分のサーヴァントを治癒する。
(「治癒を用意してこなかったのは……失策だったか?」)
 内心呟きながら、絶華は周囲を見る。おそらく最も大きなダメージを負っているのは、サーヴァントの『らぶりん』だろうが、ケルベロスに限れば、無傷の三人と、回復量が多いシャウトが使えるレクシアとセイヤは問題なさそうだ。しかし、もともとの体力が比較的小さいゼフト、単独治癒を持たない真琴、まったく治癒のできない絶華は、場合によっては危ないかもしれない。
 そしてゼフトは気力溜めを自分に使い、真琴はオリジナルグラビティ『盟約召喚・水癒 響奏歌(サモン・ローレライ・オーバードライヴ)』を発動させる。
「慈愛深き天と水の乙女よ。我が盟約に従い、その力を顕現させよっ! ……合わせるぞ「ピアリィ」!」
 召喚された「翼を持ちし水の乙女」が歌う回復歌を真琴が巫術で増幅させ、治癒の力を広げる。
(「全快とはいかないが……次の攻撃で倒れかねないというほどではないな。……とはいうものの、「かばい」が悪い方へ出てしまったら……」)
 絶華は、声には出さずに呟く、ディフェンダーである以上、大ダメージを負っていようが瀕死だろうが、自分の意志や状態と関係なく、仲間をかばってダメージを引き受けてしまう可能性が常にある。
 その場合、かばった相手は無傷なのでそこからの治癒が期待できるが、治癒を持たない絶華や自己治癒しかできないセイヤは、かばってもらっても何もできない。
(「……その時は、その時だ。気を揉んでもはじまらん」)
 結局何も口には出さずに、絶華は歯を食いしばって走る。轟音とともに噴煙があがり、二回目の攻撃が放たれる。
 今回も、『らぶりん』はめぐみ、『ギンカク』はガドをかばったが、『シグナス』は真琴をかばい、シアライラがゼフトを、そしてレクシアが絶華をかばった。
「これほど時間が長く感じられるとは……」
 呟きながら、レクシアは続けてシャウトを使う。倍のダメージを受けたため、シャウトでも全快には至らない。
 やはり倍のダメージを受けたシアライラは、自分に護殻装殻術を施し、ガドは『ギンカク』ではなく『らぶりん』を分身の術で治癒する。
 また、ゼフトは気力溜めを『シグナス』に使う。めぐみ、真琴、セイヤ、サーヴァントたちは一回目と同じ行動。そして絶華も一回目と同様、何もできない。
(「砲撃は、あと一回……何とか、もつか?」)
 やっぱり何か治癒を用意するべきだった、という今ここで思っても意味のない反省を横へ押しのけ、絶華は走りながら周囲を見回す。
 その結論が出ないうちに、三回目の砲撃音が轟いた。

●踏み越え行けば、そこは(ゲームの)楽園?
(「何とか……脱落者なしに、着けましたね」)
 戦艦竜の背甲に飛び乗って、レクシアはふうっと溜息をついた。
 背甲の中央あたりに、けばけばしい色をしたビルシャナが二体見受けられ、そのうち一体がこちらへ向かってくる。しかしレクシアは敢えて身構えず、後ろから来る絶華を振り返って光の盾で包み、治癒と防御力の上昇を行う。
 一方、レクシアに続いて背甲に飛び乗っためぐみは、こちらへ向かってくるビルシャナに対して、美しい虹をまとう蹴りをカウンター気味に浴びせた。
「クワァッ!」
 めぐみの蹴りで吹っ飛ばされ、ビルシャナはどすんと尻餅をつく。そこへ、続いて背甲に飛び乗った絶華が声をかける。
「貴様が、ケルベロス絶対殺す明王か。貴様は何故、私達に殺意を向ける?」
「何故だと? 知りたいのか? ならば教えてやる。お前たちは、私の父親を殺したのだ!」
 ビルシャナ……ケルベロス絶対殺す明王は立ち上がり、甲高い女性の声で叫ぶ。
「私の父は、ごく普通の人間だった。少なくとも、娘の私から見て、特におかしなところはなかった。それが、なぜか街中でいきなりビルシャナに変身し……その場で、即座にケルベロスに殺された。目撃していた人の話では、ビルシャナと化した父は、何か説法だか演説だかを始めようとしたが、まるで待ち構えていたかのように現れた何人ものケルベロスに、問答無用で殺されたという」
 そう言って、ビルシャナは憎しみに満ちた目で、絶華とめぐみ、レクシアを睨む。
「なぜ父がビルシャナに変身したのか、人間に戻ることは不可能だったのか、殺す以外に対処する方法はなかったのか、疑問は山ほどあったが、誰も何の説明もしてくれない。それどころか、お前たちもビルシャナに変身するのではないかと疑われ、家族全員逮捕され、執拗に調べられた。あまりの理不尽さに私はブチ切れ……父と同じようにビルシャナになった」
 ハハハハハハ、と、ビルシャナは乾いた笑いをあげる。
「私が何をどうしようが、ビルシャナになった以上、お前たちケルベロスは父と同様、問答無用で私も殺すのだろう? ならば、殺される前に殺してやる。父の仇だ。死ね、ケルベロス!」
 ビルシャナが言い放った時、戦艦竜が首をもたげ、口から強烈な熱線を放った。あわやめぐみを直撃、と見えた瞬間、『らぶりん』が飛び込んでかばう。
「おのれ、余計な真似を!」
 咆哮し、ビルシャナは孔雀の形をした炎を撃つ。戦艦竜同様、めぐみを狙った攻撃を『らぶりん』がかばったのか、それとも最初から『らぶりん』を狙っていたのか、いずれにしてもビルシャナの炎は『らぶりん』を直撃。限界を越えた『らぶりん』は、そのまま燃え尽きるように姿を消す。もっとも、主人が生きている限りサーヴァントが死んだり消えたっきりになることはないので、実際には単に退去しただけなのだが。
「なるほど、貴様の無念、その怒りを知っておきたかった」
 ディフェンダーからクラッシャーにポジションを変え、絶華が告げる。
「その上でも……私達は死ぬわけにはいかないっ! 私達もまた……デウスエクスが起こす悲劇を止めなければならない! その行為が新たな悲劇を生むとしても……デウスエクスを野放しにはできない! 私達は……そう在るべくして今ここに在る。心が……魂がそう叫んでいる」
「勝手なことを!」
 カアアアア、と、ビルシャナは甲高い叫びをあげる。
「ならば、ケルベロス以外の地球人が全部ビルシャナになったら、お前たちは元地球人のビルシャナを皆殺しにするのか? 誰のために?」
「……まさしく、そういう事態になるのを防ぐために、俺たちはここに来ているんだよ」
 絶華と同じく、ディフェンダーからクラッシャーにポジションを変えながら、セイヤが苦々しげな口調で言い放つ。
「貴様が、ケルベロスに怨みがあるのはわかった。だが、無関係な一般人をビルシャナに仕立て、囮にするのはいただけねぇな。そういう汚い根性のデウスエクスは、元がどんな人間であれ、生かしちゃおけない」
「あんたに言うてもしゃあないけどな、ケルベロスはビルシャナを全部殺すわけやないで。まだ人に戻れるかもしれん相手には、戻って来いと勧めとる」
 こちらはディフェンダーからスナイパーに移りながら、どことなく気の毒そうにガドが告げる。
「あんたは、もう人に戻れん。戻る気もないんやろ? ポイントはそこや。あんたの親父さんも、ビルシャナになって説法始めようとした。人に戻る気なんて皆目なし、逆に、人をビルシャナに変えようという説法や。気の毒やけど、殺すしかない」
「今更、そんな説明されてたところで! 手遅れで、しかも無駄だ!」
 ビルシャナは喚くが、実のところ、ポジション変更の時間を稼いでいるので、決して無駄ではない。
 そして、三回目の砲撃の際にポジション変更を済ませている真琴が、ケルベロスチェイン『雲夜弦』で魔方陣を描き、前衛を治癒して防御力を上げる。
 一方、二体のボクスドラゴンは、変更なしのディフェンダーポジションのまま、それぞれ真琴とゼフトに治癒を行う。
 そして、シアライラはメディク、ゼフトはスナイパーにポジションを変え、これで退去した『らぶりん』を除く全員が背甲上でポジションを定めたことになる。
「さてと、めぐみの大事なサーヴァントを吹っ飛ばしてくれたお礼は、しなくてはなりませんね」
 口元には笑みを浮かべ、しかし目が全然笑っていない表情で、めぐみが告げる。
「父の仇? ビルシャナになった時点で、それはもう人でもなければ親子でもないですよ。貴方の同胞は地球を侵すビルシャナども、クレーシャとかエゴシャナとか、そいつらは皆、めぐみたちケルベロスが屠りました。貴方も、連中の後を追ってとっとと滅びなさい」
 言い放つと、めぐみはビルシャナに黒色の魔力弾、トラウマボールを叩きつける。
 続いてレクシアが、オリジナルグラビティ『迦楼羅の炎(カルラノホノオ)』を放つ。
「追い縋る者には燃え立ち諌め、振り離す者には燃え上り戒めよ。 彼の者を喰らい縛れ……迦楼羅の炎」
 詠唱とともに蒼く小さな地獄の炎弾が無数に放たれ、ビルシャナの全身に食らいつく。そこへ戦艦竜が熱線を撃ってきたが、狙われためぐみは難なく躱す。
 絶華はビルシャナに重力蹴りを叩き込み、続いてガドが、オリジナルグラビティ『黄金の禍角(ゴールド・ディアブロ)』を放つ。
「呵呵ッ、心が猛ると気持ちがええねェ。穿たれ焦がされ……両方味わえ!」
 愛用のゲシュタルトグレイブ『朽ちた黄金の槍』に炎と雷電をまとわせ、ガドは一直線に突撃する。動きの鈍ったビルシャナは、その攻撃をまともにくらった。
「キカアアアアアッ!」
 槍で胸元を貫かれ、炎と雷電で胸部をほとんど破壊されたビルシャナ……ケルベロス絶対殺す明王は、断末魔の叫びをあげて倒れる。
 そしてセイヤは背甲中央のあたりでおたおたしている、もう一体のビルシャナの方へ走った。
「見たか……? これはゲームじゃない……殺すか殺されるかの世界だ……。その覚悟があるなら止めんが、覚悟が無いのであれば平和にゲームが楽しめる世界に戻れ!」
「も……戻れるのか?」
 ゲーム機のコントローラーを手にしたビルシャナは、震える声でセイヤに訊ねる。
「俺は、ゲームがしたいだけなんだ。現実に殺すのも……殺されるのもイヤだ。覚悟なんかあるわけがない……だが、戻れるのか?」
「戻るためには、人に戻りたいと強く願うことです」
 駆けつけたシアライラが、言葉を添える。
「残念ですが、人に戻れば飲み食いも眠りもせずに24時間ゲーム三昧というわけにはいきません。ですが、人である事を棄ててしまうなら、私達は貴方にも引導を渡さねばなりません。ゲームもできなくなりますよ?」
「わ、わかりました……人に戻って、人の生活をしながら、ゲームをすることにします」
 そう言って、ビルシャナはコントローラーを手放す。
「俺は人に戻る! 死にたくないのも確かだけど、正直なとこ、人間のために作られたゲームをビルシャナの体と感覚でプレイしても、意外に面白くないってのがわかった!」
「まあ、そうだろうな」
 本当に面白いゲームは、人間と人間が顔を合わせてやるものと相場が決まってる、と、ゼフトがにやりと笑う。
 すると、ビルシャナの全身が震え、その足元に、ばたっと人間の身体が落ちる。半透明の幽体のようになったビルシャナは、手から炎を発してセイヤに叩きつけようとしたが、そこへ飛び込んできた『シグナス』が身代わりになる。
「依り代に拒否された哀れな化け鳥の幽霊には、早々に退場願おうか」
 言い放って、真琴が巫術で創った半透明の「御業」から炎弾を放つ。続いてセイヤが、オリジナルグラビティ『魔龍双牙・暴獄(マリュウソウガ・ボウゴク)』を発動させる。
「打ち貫け!! 魔龍の双牙ッッ!!」
 セイヤは漆黒のオーラを利き腕にまとわせ、全力破壊の一撃を叩きこむ。幽体のビルシャナと黒龍のオーラが互いに喰いあうかのように渦を巻く。
 そこへシアライラが、オリジナルグラビティ『Lumen de Purificatione(ジョウカノヒカリ)』を放つ。
「燃え盛る太陽よ、煌々と輝く月よ、夜空に瞬く無数の星よ。大いなる力を与えたまえ!」
 詠唱とともに、天空からの光が渦巻く幽体に降り注ぎ、浄化する。シュウシュウと煙をあげて身悶える幽体の眉間か額とおぼしき部分に、ゼフトが拳銃を突きつける。
「さあ、ゲームを始めよう。運命の引き金はどちらを選ぶかな?」
 オリジナルグラビティ『死の遊戯(ロシアンルーレット)』を発動させ、ゼフトは拳銃の引き金を引く。ばしゅ、と音をたてて、幽体の頭部が弾け散る。
 すると、不意に戦艦竜が揺れ、ゆっくりと沈下を始める。
「これは?」
「ビルシャナの呪縛が解けたってことだろ。さあ、退散だ」
 セイヤが言い放ち、倒れている男を担ぎ上げる。背甲が波に洗われる前にケルベロスたちは岸壁から陸に上がり、それぞれの面持ちで、波間に沈んでいく戦艦竜を見送った。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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