菩薩累乗会~デスゲーム・オン・ジ・オーシャンズ

作者:木乃

●ノーゲームス・ノーマイライフ!
 冬の海は人の気配がない――まるで別世界のようだ。
 そう。この『別世界』から勇者の血を受け継ぐ者達や、スネに傷を持つ傭兵達は壮大な冒険へと旅立っていくのだ!
「私もゲームみたいな異世界に転生したいわー……こう、荒廃した未来都市とか、文明が崩壊してるタイプのやつとかさぁ」
 ボサついた茶髪を潮風に揺らされながら、ぼんやり呟く女の声に白いビルシャナはほくそ笑む。
「ねぇー、こんなところに一生ゲームだけできる楽園なんてあるのぉ?」
「あるとも。そしてお前が望む『別世界』を作る力もな」
 断言するビルシャナが翼を広げた瞬間、海中から十数メートルの水柱があがる――現れたのは、亀のような甲羅をもつ巨大な戦艦竜だった。
 背負う巨大な砲塔は街を焼き尽くし、文明という文明を焼き払うに相応しい威圧感を備えている――それが女の心を魅了してしまった。
「うっひゃああああああああ!!これよ、これこれこれぇ!これさえあれば年中ゲーム三昧間違いなし!私の求めた『世界』がやってくるぜぇぇぇ!!」
 ゲームのためなら世界だって滅ぼしてやる!! そんな怪気炎をあげる女は腕はペンギンのヒレに、脚は水かきに変容していく。
 変貌してしまったことにも気付ず騒ぎ続ける女を見つめ、ケルベロス絶対殺す明王はニヤリと口角をあげた。
「お前達は、ケルベロスを招き寄せる餌に過ぎない。闘争封殺絶対平和菩薩が呼び寄せてくれた戦艦竜を使い、ケルベロスは絶対に抹殺してやろう」
 独り言ちる明王はくつくつと肩を揺らす。

「ビルシャナ達は現在も作戦行動を続行しておりましてよ、『菩薩累乗会』……一体、どれだけの規模で実行するつもりなのでしょう」
 オリヴィア・シャゼル(貞淑なヘリオライダー・en0098)の一言に、ケルベロス達からもいくらか疲弊の色が感じられる。
「概要はこれまで通りと同じですわ。強力な菩薩を次々と出現させ、その力を利用し、さらに巨大な菩薩を出現させて、最終的に地球全土を菩薩の力で制圧すると言う人海戦術ですわね」
 残念ながら『菩薩累乗会』を阻止する方法は、現時点では判明していない。
「私達がいま出来ることは、出現する菩薩が力を得るのを阻止して、『菩薩累乗会』の進行を食い止めることだけですわ。今回、活動が確認された菩薩は『芸夢主菩薩』でしてよ」
 この菩薩は、ゲームと現実の区別がついていなかったり、俗世を離れてゲームだけをしていたいと思っているゲーマー達を導いてビルシャナに変えてしまう。
「この菩薩の勢力が強まれば、多くの市民が現実とゲームの区別を付けることが出来なくなり、次々とビルシャナ化していく危険性がありましてよ。さらに、芸夢主菩薩はこれまでの戦いで『菩薩累乗会』を妨害してきたケルベロスを警戒しておりますの」
 そこで指示を出したのが『ケルベロス絶対殺す明王』と、『オスラヴィア級戦艦竜』だ。よもやドラゴン勢力までビルシャナに協力しようとは、誰が予想できただろうか。
「明王と戦艦竜は海岸近くの海上にて、ケルベロスの襲撃を待ち構えておりますわ。ビルシャナ達は戦艦竜の背に乗っておりますので、戦艦竜の砲撃をかいくぐりつつ、戦艦竜に乗り込んで戦う必要があるでしょう」
 これまで以上に激しい一戦となるだろうが、『菩薩累乗会』を阻止するためにも正念場となる。ここが勝負どころだ。

「敵はビルシャナ化した市民と明王、オスラヴィア級戦艦竜ですが……戦艦竜は、ビルシャナが撃破されてしまうと闘争封殺絶対平和菩薩の制御を失い、海底に撤退しますわ。『どうしても戦艦竜も倒したい場合』は、ビルシャナより先に撃破することになります。腕に自身がある者でも至難となりますわよ」
 こちらの勝利条件は『ビルシャナの撃破』だ。
 よほど高度な連携のとれた、綿密な作戦が立案できない限り『戦艦竜へ乗り込むことに専念して欲しい』とオリヴィアは念押しする。
「敵の攻撃手段ですが、ビルシャナ化した一般人はペンギンのような姿で、ロボットアクション系が好きだったようですわね。氷の追尾弾や、くちばしを槍代わりに自ら突撃して追撃するようですわ」
 荒廃した世界観が好きらしいので、リアルなアーマードロボットのゲーム好きかも知れない。
「明王のほうですが、札を媒介にした呪術のような攻撃を仕掛けてきますわ。陰気を込めて動きを鈍重にさせたり、火球の嵐を起こして延焼を引き起こしてきましてよ。火炎の嵐は広範囲に飛び火しますので、特に注意を」
 そして、戦艦竜に関しては特に敵への迎撃対応に特化しているようだ。
「甲羅そのものがミサイル管扉となっており、長距離対応型の砲身で強力な狙撃で迎撃されるでしょう。接近するまで、ある程度の被弾を覚悟しておいたほうが良いかと思いますわ。背中に張り付いてしまえば、戦艦竜も砲身で迎撃できなくなりますのでミサイルでの支援しか出来なくなるでしょう」
 長い銃身そのものが対応を鈍らせるが、ビルシャナ2体を支援することは可能であることには気をつけて欲しい。
「ビルシャナ化した市民の説得はそう難しくないでしょう……そもそも、世界が荒廃したら新作ゲームも発売されませんので。叱りつけるついでに、無力化してあげてくださいませ。私から申し上げるべきは、定命化しかけている戦艦竜の撃破も狙うのは非常に難しいということです」
 ――真に狙うべきはケルベロス絶対殺す明王、明確な殺意をもって待ち構えるビルシャナだ。


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)
ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)
二藤・樹(不動の仕事人・e03613)
コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)
ヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
桔梗谷・楓(オラトリオの二十一歳児・e35187)

■リプレイ

●戦闘竜上陸作戦
 ケルベロス達は岩場に一度集合し、状況確認をしていた。
「待ち構えてるって割には、こっちを泳がせる程度に海岸と距離をとってるぞ」
「『絶対殺す』って名乗るだけに手段は選ばねぇって感じだな」
 偵察から戻ってきた峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)と、桔梗谷・楓(オラトリオの二十一歳児・e35187)は眉を寄せて顔を顰めた。
 泳いでいる隙に戦艦竜で迎撃し、自らも援護することで確実に始末する――戦術的にも理に適う。
「じゃあ、船でざざーって、いくか?」
「それが無難ね。乗り込むまで時間との勝負になるわ」
 伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)にヒメ・シェナンドアー(白刃・e12330)は頷く。本来なら戦艦竜は撃退するのも困難な相手、余計な被弾はなるべく避けたいところだ。
 ――そして、この作戦を成立させるにあたり、所持金の莫大な消耗が伴っている。
「自動操縦の設定は出来たよー。最大速力でよかったかい?」
「乗船すんのが2台なら、3台がデコイって感じかな」
 ファルケ・ファイアストン(黒妖犬・e02079)と二藤・樹(不動の仕事人・e03613)、コクマ・シヴァルス(ドヴェルグの賢者・e04813)がボート内から姿を現す。
 用意できた小型クルーザーに、これから陽動班と上陸班で別れる。
 接近するに当たって、先行する陽動班の消耗は最小限に。上陸班への注意は逸らすことが狙いだ。
「見つからなければ御の字。二藤達が陽動している間に、わしらは迅速に行動するしかあるまい」
「ビルシャナの好きにはさせられません、やりましょう!」
 コクマの懸念にギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)は勇ましく宣言する。
 上陸班はスイッチを入れたらすぐに岩場へ飛び移る――段取りを決めて陽動する雅也とヒメ、勇名、樹が小型クルーザーに乗り込む。
「樹、運転は頼んだ!」
「あんたも振り落とされねぇようにしてくれよ、っと」
 クルーザーの駆動音が反響し、3台の無人ボートと樹が波間を滑るように疾走する。
 勇名とヒメは衝撃に備え、雅也は船体を守ろうとバトルオーラで全身を滾らせた。
 その間に戦艦竜の巨体と、その背から見下ろす小さな影を確認する……白鶴とペンギンに似た鳥人間。
「敵影確認。ぶっ潰せぇッ!!」
 ビルシャナ化した女性ゲーマーが高らかに叫ぶ。
 さながら艦隊を指揮するかのようにヒレを掲げ、戦艦竜の発射管扉と砲台が動きだす……肌が粟立つほどの殺気に勇名は呟く。
「――……くる」
 容赦ない絨毯爆撃で囮のボートは一斉に大破した。樹が眼力を駆使してミサイルの軌道を掻い潜るが、進路上に円柱状のミサイルが迫り雅也が飛び出す。
 発破による爆風でボートが大きく揺れ、転覆しかけたところを樹は旋回してなんとか持ち直した。
「にゃはははははっ!デコイなんか混ぜたって、ぜーんぶ壊せばいいんだよー! これぞ大型重量級の強みィ!!」
 大笑いするビルシャナにヒメは信じられない物を見る目で見返す。
「まさか、ゲーム感覚で攻撃されてるの?」
「戦闘モノが好きっぽいこと言われてたもんな。こりゃ説得に苦労するかも、だね!」
 唖然とするヒメに操縦棍を握る樹は冷や汗を浮かべて返すと、砲撃を急旋回して回避する。
 着水の衝撃でボートが宙に浮かび、水面に落着すると、跳ねた飛沫が船内に入りこむ。
「クソッ、もう少しだけ持ち堪えてくれよ……!」
 妖刀を鞘から抜き、裂傷を抑える雅也は戦艦竜の次弾に備える――。

「どうした、お前の戦闘指揮はその程度か? それでは世界を破壊できまい」
「素人は黙っとれ! ――戦力減退させるなら、まとめてぶっ潰せェ!!」
 隣で仁王立ちするケルベロス絶対殺す明王の言葉に、ゲーマービルシャナは(おそらく中指を真上に向ける)ポーズをとって猛抗議する。
 ――しかし、本丸に潜入する4人への注意はまんまと逸らされていた。
「あなた達、そこまでです」
「助けに来たぜレディ!」
 後発のギルボークと楓、コクマ、ファルケはボートを迂回させる形で着岸し戦艦竜の背面に登っていた。
 コクマ達の姿を見て明王はニヤリと口角を歪める。
「貴様、何故ワシらケルベロスを殺す事に拘る!」
「黙せよ。お前達が口にして良いのは断末魔と悲鳴のみ……さぁ、お前好みのゲームだぞ」
 コクマの言葉を一蹴し、明王は攻撃命令を下す。
 今度は『領土から敵を追い出す陣取りゲーム』と解釈したらしく、ビルシャナは気炎をあげ腹で滑走し始めた。
「なるほどねぇ、滑って機動性を作るなんて……けど!」
 ファルケは肩を竦めて明王に呼び動作もなく蹴りつけ、直後に楓が雷光の障壁を展開して状態異常に備える。
 支援に回った楓にビルシャナはすぐさま目をつけた――ドリフト気味に急接近していく。
 前衛を維持する役割の『重要性』を彼女はゲームを通して理解していた。
「くっ、やらせません!」
 楓を狙う氷塊との間にギルボークが滑り込む。
 隕石のごとき猛烈な勢いでギルボークに直撃し、すり抜けていくビルシャナは楓の脇腹を嘴で裂いて急速離脱する。
「裏取り上等ぉ、落ちろィ!」
 もう一人のディフェンダー、雅也はいまだ海上。それまでギルボーク一人で防衛に回ることに――そして乱れている足並みはもうひとつ。
「破ァ!」
 呪詛を込めた掌打がコクマの鳩尾を捉えた。
 貼りつきかけた札はバチッ!と火花を発して飛ばされていくが、その一撃は五臓六腑に響いている。
 潮風に舞う呪符は火の玉に姿を変え、嵐となってファルケ達を巻き込む。
「わお、1対2でよくやるなぁ!」
「っ……ぐ、ぅう!!」
 猛火を走り抜け、コクマはスルードゲルミルを叩きつけると真っ白い羽毛を散らせる。余力を残す明王は再び呪詛ごと殴りつけ、ファルケの元へ打ち飛ばす。

 二人の息が合わない様子に、明王は呆れた溜め息をついた。
「まだあの小太りのほうが役立つな、早くそいつを倒せ!」
 楓に集中砲火を続けるビルシャナに、明王は仕留めるよう檄を飛ばす。無論、ビルシャナも手は抜いていない。
 ギルボークがコクマ達のカバーに向かった隙に攻撃し、着実に体力を削っていた。
「くそ、説得も回復もしてる場合じゃねぇな!?」
 裂けた皮膚を何度も縫合しても楓の体力は削られ――、
『ドゴォォォ…………ンンッ!!』
 海上から爆破音が響く。勇名達の乗るボートが直撃を受けた、とすぐに悟った。
「嘘だろマジかよ!?」
「小舟ひとつで戦艦に対抗しようとか、チワワでゴリラに挑むようなもんだし! さっさと落ちろやゴルァ!!」
 驚愕する楓に猛烈な勢いで滑走するビルシャナ。気付いたときには頭上に氷塊がいくつも迫る。
 ギルボークが間に合わない――――と思った瞬間。
「見とれてんじゃねぇぞ楓!!」
 飛び込んできた影は血混じりの水滴を飛び散らせ、氷塊をナイフで受け止める。
 ――いくつかの火傷とずぶ濡れな姿で雅也は膝をつく。
「雅也、それ以上は危険よ。大丈夫、まだ繕える――――」
 遅れて登ってきたヒメも濡れネズミ状態で、翠風を吹かせて雅也に処置を施し、続々と乗り上げて8人が揃う。
「ごめん、おくれた」
「船は乗り捨てておシャカにしたが必要経費だ。あんたら倒して報酬で補填させてもらうよ」
 形勢逆転……と、言いたいところだが別れて行動したことで、ダメージは決して見過ごせるレベルではなかった。

●『世界』
 戦艦竜の長距離砲は封殺した。
 2体のビルシャナに戦艦竜の支援砲撃が加わる形となり、爆破音は絶え間なく続いている。
 海上を旋回するミサイル群は炸裂させた破片で裂傷を増やし、直撃を防ごうと雅也とギルボークが果敢に飛び込む。
 ビルシャナは変わらず楓に狙いをつけ、勇名とヒメの処置では補いきれないレベルで蓄積していた。
「おいお前!ゲームに熱中する前に、自分がドラゴンの背中に居る現状を見な!」
「ハ、ハァ……レディに説教するのは心苦しいんだがな……」
 雅也の説教を聞きながら、ボロボロにされつつも注意が向いていることを良しとして、楓もゲーマービルシャナに叫ぶ。
「ゲームばっかりしてねぇで、現実見た方いいぜ? いまどんな『危ない目』に遭ってるか分かってるか?」
 荒廃した世界の戦場をロボットで駆け抜ける。
 そんな浪漫に思いを馳せるのは理解できても、現実で『命がけの死闘』をレディにさせられない!
 本音は心苦しくもあるが、これ以上の危険に晒す方が彼自身のポリシーに反する。
 心を鬼にする楓に、ヒメも妖精を模した治療無人機を飛ばしつつ、冷静に断言した。
「ゲームのような世界、は実際はそう楽しいばかりでは無いわよ」
 荒廃した未来都市――それは『空想』だから楽しめるだけ。実際に起きればどうなる? たしなめるように問いかけた。
「言っておくけど、君がビルシャナになっても、君が期待した展開にはならないよ」
 飛来するミサイルを撃ち落とし、回避ルートを確保するファルケはニヤリと口角をあげる。
「何故なら、砲撃をかいくぐりながら戦艦竜に突撃した僕たちのほうが、よっぽどゲーム的に燃えるシチュエーションだったからね!」
「お前もゲーム感覚で狩っているのか? ならば、そこの間抜けな女と変わりない!!」
 澱んだ瘴気をまとう拳を引き絞り、ファルケの胸部を捉える――!
「僕が、守るんです……!!」
 ビルシャナ2体の猛攻を防ぎ続けていたギルボークは、重い身体を擲つように明王の前へ……内臓が破裂する衝撃に喀血し、鞠のように跳ね転がっていく。
「カハッ、コホ……ゲームは、現実と違うから面白、ゲフ、ケホッ……滅んだ世界で遊ぶゲームは面白いのですか……?」
 血反吐を吐きながらもギルボークは訴える。
 なにもかも滅んだ世界で遊びたい、そんな妄想を実現した先になにがあるのだと。

「オンゲって面倒なことあるし、ソロでやれればいいからにゃー」
「馬鹿者!! それでは折角の友達や仲間を増やす機会も失うぞっ!というか、此処が沈んだらゲームどころではないだろうがっ!」
 一人でやれればいいとか宣うビルシャナに、さすがのコクマも一喝し始める。
 ネット上に困ったユーザーが居たとしても、一緒に楽しめるフレンドリーなユーザーだって多く存在するのだ。
「……むずかしいことは、わかんない」
 燃え盛る劫火にさらされながら、雅也達の説得を聞いていた勇名はポツリと呟く。
「でも、たぶん、ゲームみたいな世界、なったら、ゲームできない。それは、そんなにたのしくない、と、おもう」
「あーもう煩いなっ!! あんたら全員あたしのオカンか!?」
 ゲーム三昧な生活を望むビルシャナは苛立ちをぶつけるように、再び楓に照準を合わせた。
「消えろ、イレギュラー!」
 鋭角な軌道を描きながら、投擲された槍のごとき鋭い嘴が肉薄する。バックアップさえ絶てば数の問題ではない――ビルシャナの思惑は『友』によって打ち砕かれた。
「戦術だかなんだか知らねぇけど、いい加減にしやがれってんだ!!」
 大きく飛び込んで楓を押し退けた雅也を貫く。陽動の間、船を守ろうと身を挺した蓄積がここにきて大きく響いた。
 背中にまで到達した嘴は引き抜かれると同時に、真っ赤な飛沫をあげる。
「フハハッ! 追い詰めて、肥溜めにぶち込んでやれ!!」
 高笑いをあげる明王は装束を破かれながらも手を休めない。
 ファルケの極炎斬をすり抜け、両手の刃で穿とうと死角から斬り込むヒメと相討ち気味に呪詛を打ち込んで距離をとる。
「樹、このままじゃ……!」
「……なーんか想像力はないみたいだよなぁ」
 ヒメの視線に仏頂面で応える樹は「おい、ビルシャナ」と面倒そうに大声を発する。
「リアル文明崩壊した星に行ったことあるけど、どんな様子か想像できる?」
「そりゃ半壊したビルと、荒野に謎のエネルギーが発生してる?みたいな……」
「屋根無し。風呂無し。トイレ無し。ついでに電気もないしゲームもない、そんないいもんどこにもないよ?」
 オウガの母星・プラブータはまさに無い無い尽くし、不毛な大地が広がるだけ。まさに彼女の求めた『世界』……だが、現実はこうだ。
 冷たい風に晒され、清潔さの維持は難しく、排泄物が散乱していれば汚臭に満ちてもおかしくない。
 ――――それがグサリと刺さる。
「………………マジで?」
「当たり前だ!? 滅んだら菓子も食事も、ゲームもまともにできる訳ないだろうっ」
 『そんな事も想像できないのか』とコクマの怒りをこめた言葉が、ゲーマーの心にトドメを刺した。

「ゲームは大事だけどお菓子とジュースは必須でしょ……」
「なにを迷う!? お前の理想郷を築くのだろう!」
 動きを止めたビルシャナに、装束に無数の切れ目と弾痕を残す明王は怒りをぶつけた。再び洗脳されてはこれまでの努力が水の泡、いまこそ一気に決め打つ!
「黙れよ、茶番は終わりだ……3つ同時に火を吹くぜ!」
 三ツ首の番犬を思わすファルケの三連射が明王の大腿部を貫通し、勇名は黙々と着弾点に意識を集中させる。
「うごくなー、ずどーん」
 超低空飛行のミサイルは支援砲撃の爆風を突破し、風穴の開く明王の太股にさらなる発破をかけ、勇名の一撃は直撃と呼べるほど当たり所が悪かった。
「樹、いくわよ」
 グラリと片膝折れそうになった明王。
 翠輝く希望の西風を帯びたヒメの刺突で、樹の設置していた解体用の連鎖爆弾の射線上に押し込み、強引に装甲を弾き飛ばす。
「よもや、こんなところでぇ!!」
 女体じみた明王のあられもない姿に気をとられた者はいない。
 さんざ殴りつけられたお礼参りに、コクマが『秘剣』を発動させる。
「我が刃に宿るは光<スキン>を喰らいし魔狼の牙! その牙が齎すは光亡き夜の訪れなり!」
 青白き水晶が突き出すように生える。月光の如き輝く巨大なクリスタルはコクマの数倍にも肥大し、同時に支援砲撃が迫る。
「――――唸れ、スルードゲルミル!!」
 振り抜いた一撃は地対空ミサイルともども明王を両断し、耳をつんざくような爆音で包まれた。
 爆破に巻き込まれるように明王は消失し、残すはほぼ無傷のゲーマービルシャナのみ。とはいえ、迷いもあってか先ほどまでの俊敏さは落ちていた。
「あわわわ……!?」
 勇名の的確な狙撃を中心に、命中率を重視した追い込みからファルケが不或の鉄塊をバットのように構える。グラビティを込めれば柄から獄炎が切っ先へ……今この瞬間は『力』こそが全てだ!
「バイバイ、ビルシャナ!!」
 カチ上げるように豪快なスイングが顔面を捉え、ゲーマービルシャナはきりもみし…………落下したときには元の姿で痙攣していた。
「てこずらせおって!」
「負傷者の皆さんと彼女をボートに乗せてすぐに離脱しないと」
 制御を失った戦艦竜は海底へと帰ろうとしていた。
 ギルボーク達をボートに乗せ、ファルケ達は早急に離脱する。

作者:木乃 重傷:ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474) 峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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