菩薩累乗会~ザ・リアルファイト

作者:森高兼

 普段から人が来ない海岸沿いに、ビルシャナの『ケルベロス絶対殺す明王』と一般人の男はわざわざ足を運んでいた。
 いかにも喧嘩に弱そうなひょろ長い男が、戸惑った様子で明王に問う。
「……こんな所に究極の格ゲーがあるんですか?」
 明王は海に向かって開いた片手を仰々しく突き出し、サポートキャラクターを召喚するようなポーズをとった。それは合図だ。
 穏やかだった波を荒れさせ、20メートル級の『戦艦竜』は水飛沫を上げて海底から急浮上してきた。
 男がずぶ濡れになったことを意に介さずに目を輝かせる。
「俺も使ってみたい!」
 明王の演出によって格ゲーの世界に導かれたとでも思い込んだのか、ビルシャナへと変化していった男。
「うぉー!」
 男のビルシャナ化を見届け、明王が彼の背後で呟く。
「お前達はケルベロスを誘い出す餌よ。『闘争封殺絶対平和菩薩』が呼び寄せてくれた戦艦竜も使い、ケルベロス達を絶対殺すわ」
 明王から漏れ出た本音の言葉は……興奮して大声を上げているビルシャナの耳には入らないのだった。

 ビルシャナの恐ろしい作戦『菩薩累乗会』は一向に終結する気配が無い。依然として、菩薩出現の連鎖による地球制圧の危機が続いているのだ。
 これまでの『菩薩累乗会』に関する資料を並べ、サーシャ・ライロット(黒魔のヘリオライダー・en0141)は嘆息してきた。
「残念ながら、『菩薩累乗会』を完全阻止する方法は判明していない。私達は菩薩に力を与えず、その進行を食い止めることしかできないわけだが……。新たに『芸夢主菩薩』の活動が確認された」
 『芸夢主菩薩』がビルシャナ化させるのは、常識から外れてしまった重度のゲーマー。
「この勢力が拡大すれば、大勢の一般人が現実とゲームの区別をつけられなくなる。それによって次々とビルシャナになってしまう可能性があるらしい」
 ケルベロスの妨害を警戒し、『芸夢主菩薩』はドラゴンの『戦艦竜』をも戦力に加えてきたという。そして、『ケルベロス絶対殺す明王』と誕生するビルシャナを含めた3体に皆を待ち構えさせてくる。
「戦艦竜の砲撃を掻い潜り、奴の背に上陸してビルシャナ達と戦ってくれ」
 サーシャは海岸周辺の地図を広げてきた。
 海岸の反対側には森しかなく、ある海岸の傍に印がついている。そこがビルシャナ達を上陸させるために戦艦竜の接岸する地点か。
「君達は印の場所を目指してほしい。互いの姿が見えた瞬間、戦端が開かれることになるはずだ」
 最低目標はビルシャナ1体以上の撃破となっている。
「明王を先に倒すと、ビルシャナに変化してしまった者を救えるぞ。此度の相手は……まぁ、少々目を覚まさせてやるくらいの説教でも死なせずに済むだろうな」
 戦艦竜はビルシャナが生存する限り退かないため、その際の撤退についても思案しておかなければならない。
「さて、各敵のグラビティだが……何せ3体分の情報になる。口頭では簡潔に伝える程度にしておこう。まず、全ての敵は攻撃一辺倒だ」
 そう前置きしてから、一気に敵の情報を述べてくるサーシャ。
「明王は長く伸びた羽による斬撃、炎や呪詛で全体的に攻撃できるぞ。もう一体のビルシャナはパンチやキックを繰り出したり、小さな戦艦竜の幻影を出現させる。それと必殺技のような一撃だな。戦艦竜はやはり砲撃特化だ」
 詳細は資料に箇条書きで纏められていた。それを基に戦略を練ると良いだろう。
 説明に移る前こそ嘆息してきたものの、サーシャが艶やかに微笑んできた。
「戦艦竜の砲撃に晒されながらビルシャナ達と戦うのは、確かに大変なことだろうが。今更、ドラゴンがいるからと怖気づく君達ではないか。私も君達を信じ……全員の帰還を待たせてもらうとしようか」


参加者
シエイラ・レマトゥーニ(隠れ筋肉系女子・e00728)
大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)
片白・芙蓉(兎頂天・e02798)
葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)
アトリ・セトリ(スカーファーント・e21602)
エドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)

■リプレイ

●イベントムービー?
 ケルベロス達は木々の間から小さく『戦艦竜』が見え隠れする中、森の端を走っていた。
 突撃の起点に良さそうな場所を見かけて立ち止まり、大義・秋櫻(スーパージャスティ・e00752)が淡々と呟く。
「リミッター解除。戦闘モードへ移行します」
「えと……こ、これ以上……」
 シエイラ・レマトゥーニ(隠れ筋肉系女子・e00728)は恥ずかしがり屋さんなのに、露出度の高い服装でおどおどしていた。だが戦闘に臨むために気合いを入れて、別人のように自信満々となる。
「ビルシャナ達の好き勝手を許すわけにはいきません……!」
 戦場となる場所に目を凝らした片白・芙蓉(兎頂天・e02798)が、少し過剰に明るく振る舞う。
「不安定そうな足場で熱いことね。フフフ、可愛い私がばっちり支援よー!」
 そう言いながらも強敵を前にして内心緊張気味だった。
 一方、ドラゴンとの戦闘経験を積めることを喜んでいる者もいる。
「強そうですなぁ」
 ビルシャナ勢力の思惑を挫く意志は持ちつつ、エドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136)は期待していた。
 無表情で戦艦竜を見つめ、敵には容赦なさそうな葛籠川・オルン(澆薄たる影月・e03127)。だが実際は救える者は救いたいと心で願い、日々多くの者を救おうと戦う青年だ。
 ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)が葉巻をふかす。
「……いくか」
 戦場内でガジェットスチームやバイオガスを目くらましに使えない事は解っていても少し残念がりながら、海岸に皆と飛び出した。

●バトル開始!
 ケルベロス達が姿を晒すと、戦艦竜は海の波を荒らげてきた。先陣を切っている秋櫻達に砲撃し、海岸の砂を空高く舞い上がらせる。『ケルベロス絶対殺す明王』は、殺気の陣で彼女達の精神を蝕んできた。
 ケルベロス達が戦艦竜の甲板に順次乗り込んでいく。
 次弾や皆の攻撃に備えたように……不気味な程に大人しくなる戦艦竜。明王は殺意剥き出しの前のめりだった。逆に、ビルシャナはヒットアンドウェイスタイルのようで明王の奥にて身構えている。
 立ち位置だけを見れば、明王はビルシャナに接近はさせないようにしている感じだが。
 愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)が勝気に宣言する。
「あんた達が地球の人達を救済しようだなんて、全くのウソ。望み通り来てあげたけど、あたし達は絶対負けないわ!」
 自分とてエドワードやヴィクトルと共に隙を狙う側で、ウイングキャット『プロデューサーさん』やヒールに専念する芙蓉も……単独中衛のオルンより戦線を下げているが。それはちゃんと皆で話し合って定めた戦略だ。
 気を抜けば誰彼構わず傷つけたくなる衝動に惑わされなかったアトリ・セトリ(スカーファーント・e21602)が、明王に凛然と言い放つ。
「今日を以て、お前はケルベロス絶対殺せない明王に改名だよ」
 芙蓉の足元に木の葉を伴ったそよ風を起こした。
「舞い上がれ、快癒の風!」
 魔力を帯びた木の葉が瞬時に霧散して芙蓉の治癒能力を高めていく。
 仲間の盾となる自身や主のため、ウイングキャット『キヌサヤ』は羽ばたいて邪気を祓う風を発生させた。
 芙蓉が仔うさぎのエネルギー体を呼び出す。
「お前達、各自ファイトよー!」
 守り手をさせるテレビウム『帝釈天・梓紗』やアトリとキヌサヤ、前衛の秋櫻とシエイラに仔うさぎが飛びついた。汚染された空気を食べるかのように、虚空に向かって愛らしくはみはみ。
 筋肉質のシエイラへと、梓紗はますます気合いが入りそうな筋肉関連動画を流した。プロデューサーが皆を見渡せる戦場の端から、前衛陣に清浄の風を吹かせていく。
 秋櫻が『SJ7・DRAGON-CANNON』の背面に備えられた2門のキャノンの砲口を明王に向けた。それは彼女用に調整されたアームドフォートだ。
「敵性体を排除します」
 一撃の重さと破壊力を重視させた砲弾を一斉に叩き込む。
 ビルシャナの召喚してきた戦艦竜の幻影は、若干デフォルメチックだった。縮小のせいか、はたまた彼の想像力が足りなかったのかもしれない。
 芙蓉が不覚にも反応してしまう。
「くっ、可愛いじゃない!」
 戦艦竜の砲台は常に動いており、オルンは遮蔽物にできるような位置取りでポジショニングを行った。エドワードが明王の足止めに射撃していく。
 シエイラが黒色の魔力弾を生み出した。
「悪夢を見てもらいます……!」
 当ててやることには成功したものの、明王の側に現れた『トラウマ』を視認することはできない。もっとも、予想はつきそうか。
 続けて、ヴィクトルは明王に竜砲弾を撃った。
 戦艦竜の砲撃対象を逸早く察知したキヌサヤが、射線上に飛び込んで秋櫻を守る。あまりの威力に地面へと落ちかけながらも体勢を立て直した。
 明王が虫を払うように腕の羽を振るう。
「鬱陶しいケルベロスね」
 明王のトラウマは9人目のケルベロスらしい。ハエ扱いしたところで消す手段は無く、苛立ったまま秋櫻を袈裟懸けに斬りつけてくる。
 アトリのオウガメタルから粒子が溢れた。『submissive』は何時も忠実に戦ってくれる存在。彼女のために惜しみなく装甲からオウガ粒子を出し、前衛陣に超感覚の覚醒を促していく。
 黒き鎖を長く伸ばし、芙蓉は前衛陣を守護する魔法陣を描いた。
 瑠璃が甲板の端より最大級の助走をつけて跳び上がり、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを明王に炸裂させる。
「外してなんかいられないわよ!」
 明王の機動力をある程度削いだ後は、攻撃方法を切り替えるつもりだ。エドワードも同様のことを考えているという。
 微妙に機械的な挙動で、ビルシャナはパンチ、キックキック、パンチのコンボをシエイラに決めてきた。最初にくらえば最後までくらってしまうから性質が悪い。
 オルンがリボルバー銃に弾丸を装填すると、大胆にも戦艦竜の砲の先端にジャンプした。内部に早撃ちしてから颯爽と離れていく。
 エドワードはドラゴニックハンマーを『砲撃形態』にさせ、空いている手で黒ヒゲをさすった。
「デュフフフ……とんだ困ったちゃんですなぁ」
 どことなく怪しげに笑いながら、ゲームと現実の境を取っ払って男をビルシャナにしてくれやがった明王に竜砲弾を撃ち込む。
 改めて明王を一瞥すると、ヴィクトルが何かを試すように尋ねる。
「お前さん、なかなか良い身体してるな。今夜一晩……というわけにもいかんかね」
「ケルベロスは殺す!」
 ハードボイルドな男はまず美女を口説くべきかはさておき、語気はそこはかとなく強かったかもしれない。
「恥ずかしげな反応なら可愛げはあったんだがな」
 わざとらしく肩を竦め、明王の鋭利な羽に礫を放った。

●第1ラウンド終了
 戦艦竜は前衛陣が駆け巡る一定範囲に砲弾の雨を降らせてきた。
 被弾直後のアトリが、危機の迫ったシエイラを安全圏に突き飛ばして2発目の餌食となる。
 そして、再び狂気を振り撒く陣を発動させてきた明王。
 ケルベロスチェインを地面に展開させ、アトリは守護を強化した。
 エドワードが悪戯好きの子供みたいに告げる。
「拙者、嫌がらせのような足止めかますのだーいすき!」
 口調はふざけていながら、行動は確かに明王を制するものだ。前進には後退を、後退には前進を、停止には停止で一定距離を維持し……小銃で牽制していく。
 明王への呪力は蓄積しているため、オルンが立ち回りにも注意して死角から肉迫した。
「捉えました」
 すでにブラックスライムを捕食モードに変形させており、そのまま食らいつかせる。
 シエイラは無数の隕石のように両拳で息をもつかせぬ殴打を繰り出した。それは高速……いや、光速に等しい連打だ。
「倒れるまで……!」
 そろそろ仕留めたいところだが、まだ明王は倒れてくれそうにない。右腕に魔力を纏わせると、最後は渾身の右ストレートで拳を腹に減り込ませる。
 腹部を押さえながら、明王が膝を突きそうになる。今のはかなり堪えたらしい。密かに指示でも出したのか、戦艦竜に邪魔な守り手のアトリを大火力の標的とさせ、羽の斬撃で襲いかかってくる。
 芙蓉は満月に似たエネルギー光球でアトリの傷を癒し、瑠璃が予定通りにバスターライフルにて対象の熱を奪う冷たい光線を発射した。
「敵性体捕捉」
 秋櫻が三連式超大型ガトリング砲の銃口を、明王に触れそうな至近距離から突きつける。執行者の名を持つ『SJ7・GC・J-Enforcer』で耳をつんざくような凄まじい銃撃を見舞った。
 戦場に刹那の静寂が訪れた瞬間、オルンが全ての粒子を静止させるような冷気を解放する。
「寄越してください、その存在を」
 あくまで敵には、冷淡に、冷徹に……明王の四肢を凍てつかせていった。
 現状を考慮した上で攻撃パターンを変える頃合いだと判断し、明王に星型のオーラを明王に蹴り込むエドワード。ヴィクトルも見切らせないために礫ではなく、竜砲弾をぶっ放す。
 戦艦竜は複数の砲台を繊細に操作してきた。
 滅茶苦茶に放たれた砲弾に釣られないで、梓紗がアトリの正面に立つ。それから砲弾が命中して画面に一瞬ノイズが走った。もちろん、割れたりはしていない。
 明王は荒々しく舞い、シエイラ達に殺意を込めた孔雀炎をばら撒いてきた。
 先程は難を逃れたものの、依然として危ういアトリ。
(「せめて明王を討つまでは……」)
 息を合わせることができたヴィクトルのガジェットを警戒する明王に、『見えない爆弾』を貼り付けて爆破した。
 ガジェットを大型バスターライフルめいた銃に変形させたヴィクトルが、銃の内部に高圧電流を生み出していく。
「……Take zis ze ultimate veapon! こいつはビリっとくるぞ?」
 『Blitz Falka』は祖父の遺品から発見し、亡き兄の詩集から名付けたガジェットだ。強烈な電撃を撃ち、明王の身体に痺れを残させる。
 芙蓉は痛手を負った者を優先的に治療しており、今度は梓紗に癒しの光球をぶつけておいた。
 ドラゴニックハンマーを低く構え、瑠璃が明王の懐に踏み込む。
「これで終曲よ!」
 その一撃によって甲板から追い出すように薙ぎ払った。
 明王の死は、『進化可能性』を奪い凍結させる超重の一打で確定したようだ。ケルベロス達に敗北を喫し……鬼のような形相で消滅していった。

●ファイナルラウンド
「いてぇー!?」
 ビルシャナは秋櫻の格闘技を受け、大袈裟に痛がってきた。明王に攻撃が集中していたから、それが初めての激痛だ。何はともあれ、説得の言葉が届くようになった証拠だろうか。
 焦り出しながら、戦艦竜の幻影にシエイラを砲撃させてくる。
 オルンは甲板にライトニングロッドを思い切り突き立てた。
「僕は戦艦竜を抑えておきます」
 男は仲間が説得してくれる。自分の仕事は戦艦竜を抑えることであり、いかにドラゴンが巨躯であろうとも抗えない呪力を付与するために雷を迸らせた。
 最終的には一旦討つ必要があるため、エドワードが明王にやったようにビルシャナへと嫌がらせする。シエイラも戦艦竜の相手をオルンに任せ、降魔の力をビルシャナに放った。
 戦艦竜が回復手の芙蓉に砲撃の照準を合わせてくる。
「させません」
 己しか間に合わず、アトリは芙蓉を全力で守った。加護と砲身の損傷という要因に加え、甘い砲撃だったおかげで最大威力ではない。だが後は無さそうで取り急ぎ、男の説得にかかる。
「このラウンドで負けたらどうするの?」
「そりゃあコンテ」
 聞き分けが悪そうなビルシャナに、普段から携帯している拳銃によるクイックドロウで応じた。
「……で、まだ戦うつもり?」
 アトリに反論は止めてきたビルシャナ。男を死なせないため、皆の攻撃と説教は終わらない。
「人生は何時もクリアできるとは限らないけど……それでも、夢に目指して生きていくものなのよ」
 そんな現実の厳しさもちゃんと思い出せるように、ビルシャナに凍結光線を浴びせたのは瑠璃だ。
 エドワードがビルシャナに怒鳴り散らす。
「テメェこの野郎、まだゲームと本物の区別もつかねぇのか! 区別もつかねぇならボコボコにしてやる!」
「蹴りかよー!?」
 殴られると思っていたのか、ビルシャナは星型オーラの痕がついた顔でツッコミしてきた。
 戦艦竜が多数の砲弾を飛ばし、アトリの意識を吹き飛ばす。次の誰かを戦闘不能にするためか、彼女に追い打ちをかけようとする様子は無い。
 気絶したアトリを後方に避難させてから、芙蓉はビルシャナに同情的な視線を送った。
「ゲームばっかりしていたら、ゲームが出来なくなるわよ。ゲームを楽しむのには現実と向き合わないといけないって、本当は解ってるんでしょう?」
 芙蓉もゲームが好きで、男が唆されたのを一切理解できないわけではない。
 ビルシャナがキヌサヤに巨大なエネルギー体の拳を放出させてきた。
 見た目は派手な光拳の衝撃にはやられなかったキヌサヤだが、戦艦竜の砲撃は耐え切れなくなっただろうか。
 ヴィクトルはローラーダッシュでビルシャナに接敵し、摩擦による熱でエアシューズに炎を纏って激しい蹴りを放った。
「お前さん、飯も水もないんじゃ一週間もゲームなんてできないんじゃないか?」
 先刻まで一般人の男だったこともあり、ビルシャナが一度頷きかけて頭を振るってくる。
 梓紗は今回の戦いで恐らく最後となる戦艦竜の砲撃からキヌサヤを庇い、しっかりと助けて消えさせなかった。
 ビルシャナに攻撃のチャンスを与えまいと、秋櫻がシエイラに呼びかけて彼女と一緒に説教を進める。
「現実は辛いことも多いですが、特に体を壊すことが怖いですね。あなたの今の姿のように」
「それでは、いざという時大切なものも守れないではないですか……!」
「……まだ理解できないのならお仕置きです。近接高速格闘モード起動。ブースター出力最大値。腕部及び脚部のリミッター解除」
 打撃技と足技を織り交ぜ、超光速でビルシャナの全身にありとあらゆる技を打ち込んでいった。
 足がもつれたビルシャナに、シエイラが畳みかける。
「身体を鍛えることの素晴らしさを……その身を持って、思い知らせてあげます……!」
 鍛え上げられた筋肉で拳を振るい、ビルシャナに止めを刺した。
 ビルシャナ化が解けた男が、甲板に大の字でぶっ倒れる。それと同時に、使命を失って海岸から離脱し始める戦艦竜。
 秋櫻は殿を務める役割の代わりに男を連れ、皆と海岸に降り立った。
 運んだアトリを砂浜に寝かせて、もう気弱な性格に戻っていたシエイラ。ただ一般人を含めて全員無事で、すっきりしたような雰囲気を醸し出している。
 ケルベロス達に見送られ、戦場でもあった甲板を背に乗せた戦艦竜は静かに海へと潜っていった。

作者:森高兼 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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