シュリンプフォートレス

作者:宮内ゆう

●山中にて
「お前の、最高の武術を見せてみなー!」
「うるせえ! エビフライぶつけんぞ!」
 勝てるわけなかった。

●戦え拳の限り
 白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)は黙っていた。
 クールで澄ました表情、しかしながらその顔は如実に語っていた。
 本当にあるのかよ、と。
「最も重要なこと、それはあのエビフライが食べられるかどうかですね」
 思考がバグったらしい。しばらくそっとしておこう。
 さて、彼女が何を予測したのかというと、エビフライをぶつける拳法があるのではないかということ。あってたまるかそんなもんと思っても実際あったのだから仕方ない。
 しかもそれがドリームイーターに目をつけられてしまったのならなお仕方ない。
「しかし、なんでみんな食べ物で戦いたがるのか……」
 ヘリオライダーの茶太はそう言うが、本人が最強と思えばそれが最強なのだ。
「それで、改めて状況を説明します」
 山奥でひとり拳法の修行をしていた男性が、ドリームイーターにその夢を奪われ昏睡状態。奪われた夢から生み出されたドリームイーターが人里に向かおうとしているので、事件を起こす前に撃破する必要がある。
 この辺りの説明はもう慣れた様子だ。
 だが今回はもうひとつ、エビフライ拳法についてちょっとだけ情報があるようだ。
「三種のエビフライを状況に応じて投擲する拳法、とか」
 『拳』法とは。
「……」
 茶太は顔を上げ、目を閉じ思案した。
 そしてしばし沈黙した後、言った。
「まぁ、食べ物ではないですね」
 今回も食べ物を粗末するドリームイーターはいないらしい。あんしん。


参加者
白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)
チェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)
トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
ユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365)
人首・ツグミ(絶対正義・e37943)
鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)
シュガレット・ルーネ(イノセント・e44237)

■リプレイ

●甲殻類
 世の中は得てして不条理なもの。
 では、ドリームイーターに狙われてしまったことはただの不幸といって差し支えないかもしれない。多感な年頃の少年が些細なことで家を飛び出すなど、それこそありふれた話なのだから。
 しかし、だからこそ気持ちが分かるのだ。好きなおかずを勝手に取られてしまう、そんな怒りが。
「でも、ちょっと羨ましいな……私、一人っ子だから」
 少し微笑みながらシュガレット・ルーネ(イノセント・e44237)は独りごちた。
 だからこそ、少年は救わねばならない。こんなありふれた話で犠牲になってはいけないのだ。
 とゆーわけなのだが、いまいち状況が把握できない。もう仕方ないので思い切って聞いてみることにした。
「え、と。ケルベロスの人達っていつもこんなお仕事してるんですか……?」
 なんかいろいろ機材を持ち込んでる面々を見て、不安しかわいてこない。でも、それに気付いてか鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)が肩にそっと手を置いてくれた。
「ふふ、あまり慣れてなくて緊張してるんですね~」
「ええ、はい……」
「大丈夫ですよ~。お姉さんが腕によりをかけてエビフライを作ってあげますからね~」
「ありがとうござ……エビフライ作るんですか!?」
「はぁ? 何を言っているんですかーぁ? よもや今日の仕事を忘れたわけではありませんよねーぇ?」
 これだから素人は、とでも言いたげに肩をすくめて人首・ツグミ(絶対正義・e37943)が言ってきた。とてもとても自信満々で。
「成功条件はエビフライの完食。その他被害は問いません。ですよーぅ」
 そんな話は初耳だった。
「それにしても疑問なんですが、山中でエビフライの修行って、エビはどうやって確保してるんですかね」
「毎日家に帰っていたそうだから、エビは僕達と同様持参じゃない?」
 エビフライ完食の単語が出たおかげで、白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)はふと疑問に思ったようだ。とはいえ、その問いにはティユ・キューブ(虹星・e21021)がスマートに返した。
 さて、この僅か一人一言分の会話の中にツッコミどころが多すぎる。なので、ここでは一点だけ。エビフライの修行とはいったいなんなのか。
「いっぱいいっぱいえびふりゃー、たのしみなぁん」
 ふたりの間にチェザ・ラムローグ(もこもこ羊・e04190)が飛び込んできた。
「さっゆのお手伝いでえびの背わたを抜いたりとか、下ごしらえしたんだよー。えらいやろ???」
 どやぁ。
「うんうん、えらいえらい」
 ボクスドラゴンのシシィさんやペルルさんもいっしょになでなで。いい感じ。
「それにしても、少し多すぎたかしら」
「いいや、この程度どうってことないぜ! エビフライのためだしな!」
 今回唯一の男手ということで皆の荷物運びを買って出たトライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)を、ユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365)が気遣う。
 とはいえ元気、反応もいまの通り。ボクスドラゴンのセイさんだって手伝って鍋をはこんでくれてる。でもあえていうなら、鍋は被るもんじゃない。
「ありがとう、それじゃこれはご褒美よ」
「わ、ちょ、なんかカサカサしたのが顔に!! 足かこれ、引っかかっていたたたた!!」
 伊勢エビだった。

●軟甲綱
 かくてケルベロスたちはドリームイーターに遭遇した。
 いつ戦いが始まるとも分からない緊迫した雰囲気が漂う。
「えぇ……」
 中でも、ツグミは誰よりも戦慄した表情をしていた。普段の様子からは考えられない顔だ。
「ドリームイーター……? 自分が食べたいのは夢ではなくエビフライで……」
「うるせえ! エビフライぶつけんぞ!!」
「え、エビフライ投げるんですかーぁ? じゃいきますぅー!」
「ええええ!? そのエビフライ――」
 一歩踏み込む。エビフライが飛んでくる。直撃する。吹っ飛ぶ。
「――食べられないって話ですよ!?」
 シュガレットがツッコミを終えるまでの間に、見事やられてた。
「あわわわ、まさか本当に当たりに……じゃなくてキャッチしようとするなんて……」
「エビフライ拳法……おかしいところが、1つありますぅ」
 ゆらりとツグミが立ち上がる。ややふらついてダメージが高そう。
「その名前で、食べられない攻撃とはどういう事なんですかーぁ?」
「この状況で食べようとしたんですか!?」
「当然ですよぅ。エビフライ拳法なんですから。そんな人の期待を裏切るなんて、悪でしかありません!」
「えぇ……」
 前言撤回。すごく元気そう。
 というか、シュガレットがついて行けなくなってる。強く生きろ。
「なっ、こ、これは……!」
 なにやらトライリゥトが声を上げた。投げられたエビフライを調べていたらしい。
「このエビフライ、ほとんど衣じゃねーか! 中身もエビじゃなくて鉛みたいな塊が入ってるし!」
 信じられないといった様子だ。セイさんもびっくりしてる。
 いやでもそれ武器だし。
「どうやら、今回も粗末にしない大丈夫な拳法みたいですね~。とても感心な事だと思います~」
 一方で紗羅沙はとても安心したようだった。
「それにしても疑問なんですが、なんで攻撃方法が油物なんですかね」
「きっとあつあつできたてだからだよー」
「なるほど。でもそれなら油そのものを使った方が熱くて攻撃力たかそうなものですが」
「それもそうだねー、エビフライだったらおいちくて回復してもいいとおもうの」
 なんて話をしている佐楡葉とチェザのふたり。
 だから根本的におかしい。
「や、ふたりともちゃんと話を聞いていたのかい?」
 流れを完全に無視するあたり、流石にティユが口を挟んだ。
 何が? みたいな視線を返された。解せぬ。
「まさか、この業界……」
「ふ、気付いてしまったようね」
 胸の下で腕を組み、ユーロが不敵に笑う。
「そう、言ってしまった者勝ちなのよ」
「ならば僕も……」
 ティユが、ばっと腕を開いて拳を構える。
「エビフライ座の闘士!」
「……」
「いやごめん、やっぱりやらない」
「ざんねん」
 ユーロは心底残念そうだった。
 なお、この一連のケルベロスたちがほぼ何にもしてない間、シシィさんとペルルさんが飛んでくるエビフライを弾き、積み上げていたことを忘れてはならない。

●十脚目
 いつまでもサーヴァントに任しておくのも忍びないので、戦闘開始。攻撃したり防御したり回復したり、戦いは激化の一途をたどる。
「ところで疑問なんですが……」
 たどっているはずである。
 今回話の導入が毎回そんな感じな佐楡葉。今度は一体何だというのか。
「結局ロブスターと伊勢エビの違いとはなんでしょう」
「そんなの、ロブスターはロブスターで、伊勢エビは伊勢エビなんだよー」
 ドヤ顔チェザ。
 いま聞く話じゃないし、聞く相手も間違ってる。
 でもなんか微妙に説明はまちがってない。
「ロブスターはザリガニの仲間で、伊勢エビは伊勢エビの仲間なんですよ~」
 わかりやすく答えたのは紗羅沙である。
 ロブスターはエビ目ザリガニ下目、伊勢エビはエビ目イセエビ下目。
「大きなちがいは、ロブスターのハサミと伊勢エビの触覚ですね~。そういえば、ロブスターはオマールエビとも言われていて、オマールはフランス語でハンマーのことなんですよ~」
「へぇ、てことはフランス人にはこのハサミがハンマーに見えたってことか」
 そう返すトライリゥトは何人なのか。いや、細かいことを考えてはいけない。
「高度に発達したエビはザリガニ、と。さらに進化してロブスターなんだな!」
「違います~」
 いったい何を聞いていたのか。
「はいはーい、みなさーん。もうちょっと真面目にやりましょーぅ」
 おおよそいちばん真面目に働いてなさそうに見えるひとに注意された。
 だが態度がそう見えるだけで、仕事自体はいつも正確、そんなツグミ。だが彼女にはいま、限界が来ている。
「もうこれ以上は耐えられそうにないんですよーぅ……」
 揺らめく動きでドリームイーターに近づき、右腕を鋭く突き刺す。
「え、エビぃ!?」
 ドリームイーターが文字通り目を丸くする。
「お! な! か! が! す! き! ま! し! たぁー!」
 どぎゃーん!
 ドリームイーターは派手にぶっ飛んだ。派手にぶっ飛ばすような技じゃないと思うけど吹っ飛んだ。
「そもそもの話なんだけれども」
 言いながら、ユーロが羽を開いた。
 悪魔の羽、色とりどりの宝石のようなものがちりばめられた、艶やかな羽だ。
「エビフライ取られたのが悔しいなら、エビフライ取り返す練習とか早食いの練習じゃなくて、エビフライ投げる方に逝くのはわけがわからないわね」
 いくの字がおかしい。
「本当は、エビフライ嫌い?」
 ドリームイーターが目を見開くのと、七色の光が放たれるのは同時だった。ドリームイーターの着地目掛けて放たれた光弾は直撃した。
「エビィィィィィフライィィィィィィ!」
「へっ、エビフライ愛を馬鹿にされて怒ってやがる!」
「あ、そーいうものなんだ」
 トライリゥトの言葉でティユは合点がいった。
「てめぇのエビフライ愛はその程度かー!」
「さらに煽り始めた!?」
「うるせぇ、エビフライぶつけんぞ!!」
 だが放たれたエビフライ(レーザー)をトライリゥトはいともたやすく両断した。
「投げるんじゃねぇ、抱きしめて愛でてみろ!! YOU! CAN! フライ!!」
「エビ、エビィィ……!」
「大丈夫、君の思いは伝わっている。少し間違ってしまっただけさ。だからそう……」
 ドリームイーターが落胆したところにティユが声をかける。
「もっと跳ねるエビの気持ちになって!」
「うおおおおお、エビフライぶつけんぞおおおおお!!!」
 なんかやる気復活しちゃった。
 このままでは大量のエビフライ(焼夷弾)であたりが火の海になってしまう。
 だが、勢いで回りを見失ったのが運の尽き、忍び寄った鎖がドリームイーターの身体に巻き付いた。
「つ、捕まえました!」
 シュガレットの縛鎖だ。隙を窺っていたのだろう、チャンスを逃さぬ攻撃は見事である。
「皆さん今のうちにあぁぁ~」
 だけどずるずる引きずられてる。
「あら~、お手伝いしますね~」
 でもここで紗羅沙の出した御業がドリームイーターをしっかりキャッチ。フォローありがたい。
「ううう、すみません~」
「エビフライは美味しいですしね~」
「どこにエビフライ要素が!?」
 なお、いまの流れ弾で飛んできたエビフライをシシィさんが庇ってくれたので、佐楡葉はシシィさんをめっちゃなでもふした。さらにペルルさんもした。おまけにチェザもなでもふした。
「もっふもっふ、衣ももっふもっふ~」
 めっちゃエールされたところで、改めてドリームイーターへ向く。
「あなたには、ひとつだけ、許せないことがあります」
 ざっ、と佐楡葉が構えた。冷静、というよりもとにかく冷たい表情。どこまでも冷酷になれそうな目がそこにある。
「え、エビッ!?」
「放擲されたエビフライを口で受け止めようとしていたのに、全く期待はずれです。だから、もういいです」
 魔力が剣を形作る。
「咲きなさい、せめてエビフライ色に――」
 ドリームイーターはエビフライ色の華に弾けて消えた。

●エビ亜目
 身も心もボロボロになってしまったが、無事討伐は出来たということで、シュガレットはようやく一息ついた。
「はぁ……ケルベロスって大変なお仕事なんですね」
 そう言ってちらりと目を見遣る。
「このまま本当にエビフライを作り始めるなんて」
「えびふらーぃ! えびふらーぃ!」
 ツグミがうるさい。急がないといい加減暴動が起きそう。
「エビフラーイ! エビフラーイ!」
 トライリゥトが同調してる、もっとうるさい。
「えびふらーい! えびふらーい!」
 被害者の少年まで騒いでる。誰か黙らせろ。
 あとセイさんの口からエビフライが生えてた。どうやら先につまみ食いしてるらしい。ずるい。
「はいはい、今作っていますよ。もうすこしまってくださいね。ティユさんの腕も期待してますよ」
「僕が以前特訓したのは天ぷらなんだけど……まあそれよりは楽か」
「もりつけはらっむがするんやで」
「あぃ」
 自らもエビフライを揚げながら、佐楡葉が指示を出していくと、合わせてティユもチェザもてきぱき動く。なんか戦闘よりも連携が上手い気がする。
「タルタルソースはこんなものかしらね」
「そうですね~、オイスターソースも作っておきましょうか~」
「いいわね。あとはサンドイッチでも作ろうかと思うんだけども」
「はーい、手伝いますね~」
 揚がったエビフライを一部切り分けて、さらに料理していくユーロと紗羅沙。
 そうして、程なくしてエビフライパーティーが開催されることとなった。
「熱々のエビフライが身に沁みます……」
「ふふふ~、そのエビフライは私が揚げたんですよ~」
 いろいろツッコミ入れていたが、結局順応してエビフライを食べるシュガレット。その様子に紗羅沙もにこにこ顔。
「あ、ソースとって下さい」
「は~い、オススメのオイスターソースですよー」
「タルタルじゃなかった! それはさておきエビフライはしっぽまで! しっぽまで食べられますからねっ!」
 ここでツグミ登場。
「はーい、エビフライ食べまーす」
 もしゃあ。
「もちろん、しっぽも食べまーす」
 もしゃもしゃあ。
「頭まで食べまーす」
「頭まで!」
 もしゃしゃあ。
「あ、ハサミとかまた別の食感でいいかんじですよーぅ」
「流石にそれは殻ごといくものじゃないとおもうんですが!」
 結局ツッコミはやめられなかった。
「お、フライをサンドイッチにするのもなかなかいけるな」
「でしょ?」
 ユーロのサンドイッチにトライリゥトも舌鼓を打つ。
「お前もこれ食って元気出せ」
 そういって少年の肩に手を回したりする。
「そうね、私もお姉様と食べ物取り合ったりするけど、分け合ったりもするし、結局仲直りするわね」
「そういうもんだよな」
「でも、これからは取られないように精進するべきよね」
「つまりどうするんだ?」
「速攻で殲滅よ」
 最後だけ物騒だった。
「うーん、タルタルソースもオイスターソースもおいちい」
 あむあむおいしそうにエビフライを咥えるチェザ。でも流石に伊勢エビ咥えるにはでかいと思う。シシィさんやペルルさんも真似し始めてる。
「ところで疑問なんですが」
「そのフレーズ今日何回目だっけ」
 ティユからツッコミ入ったが、とりあえず佐楡葉は続けることにして少年に尋ねた。
「結局、あなたは何がしたかったんですか?」
「えっ」
「……」
「……」
「エビフライ、食べたら家に帰るんですよ」
「……ハイ」
 感情とは本人の考えすらも置き去りにしてつき動くものである。
 まあ、エビフライにありつけることが出来たので、それだけでもよかったのかもしれない。

作者:宮内ゆう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 6/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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