人気のいない海岸に、一人の男が立っていた。
男の名前は遠藤・鉄人。どこにでもいるような、ごく在り来りなゲーム好きの青年だ。
「ここが一生ゲームだけできる楽園か? リアルなサバゲーだったら真っ平御免だぜ」
訝しげに言葉を漏らす男の隣には、巫女装束を纏った鳥人間――ビルシャナがいた。
「案ずるな。お前の為に、最高の舞台を用意しておいた」
頭に三つ首の犬の冠を被ったそのビルシャナ――ケルベロス絶対殺す明王が、不敵に笑いながら指をパチンと鳴らして合図する。すると目の前の海が突然迫り上がり、海中から青い巨体が現れる。
背中に大砲などの武装で身を固めたその物体は――全長20mもある、オスラヴィア級戦艦竜だった。
「す、すげえ……これなら24時間365日、ずっとゲームし放題だ! ついでに邪魔する奴は、こいつの砲撃で皆殺しだぜ!」
戦艦竜の迫力ある姿に興奮し、鉄人の気分が舞い上がる。そして興奮状態が頂点に達すると、男の全身が、眩い光と共に羽毛に包まれて、ついにはビルシャナへと変貌してしまう。
新たに仲間入りした青年の姿を満足そうに見つめつつ。ケルベロス絶対殺す明王は、青年には聞こえない程の小さな声で、独り言ちるように呟いた。
「……お前達は、ケルベロスを招き寄せる餌に過ぎん。闘争封殺絶対平和菩薩が呼び寄せてくれた戦艦竜を使い、ケルベロスを絶対殺してみせる……!」
ビルシャナ達が実行している一大作戦『菩薩累乗会』。
地球全てを菩薩の力で制圧するという恐るべきこの作戦は、未だ止まることなく続けられており、今回更なる菩薩の活動が確認されたようである。
――その菩薩の名は『芸夢主菩薩』。
この菩薩はゲームと現実の区別がついてなかったり、俗世を離れてゲームだけをしていたいと願うゲーマーの人を導いて、ビルシャナにしてしまうという。
「もし芸夢主菩薩の勢力が強まれば、人々は現実とゲームの区別がつかなくなって、次々とビルシャナ化してしまう危険が生じてしまうんだ」
玖堂・シュリ(紅鉄のヘリオライダー・en0079)は、ビルシャナが招く事件の恐ろしさを危惧した上で、引き続き事件に関する説明をする。
芸夢主菩薩はこれまでの戦いで、菩薩累乗会を邪魔してきたケルベロス達を警戒しており『ケルベロス絶対殺す明王』と『オスラヴィア級戦艦竜』の戦力で以て、ケルベロスを襲撃せんと待ち構えているらしい。
その戦場となるのは、海岸近くの海上だ。
ビルシャナ達は戦艦竜の背に乗っているので、戦艦竜の砲撃を掻い潜り、戦艦竜に上陸して戦うことになりそうだ。
今回戦う敵となるのは、2体のビルシャナと一体の戦艦竜の計3体。
2体のビルシャナの内、ケルベロス絶対殺す明王は、閃光を放って威圧したり、腕に炎を纏って舞うかのように攻撃をする。
また、もう一体のビルシャナとなった青年は、シューティングゲームが好きらしく、主にライフル銃を武器に援護射撃をしてくるようである。
そして戦艦竜の方は、定命化によって弱まってはいるが、そうは言っても最強のドラゴンだ。高火力による砲撃を中心に、近付く者には牙で噛み砕こうと喰らい掛かってくるので、最大限に警戒して対策を練る必要がある。
ここでケルベロス絶対殺す明王を先に倒した場合、ケルベロス化した青年を救出できる可能性がある。
青年への説得は、『ゲームの世界に逃げずに、現実を見るんだ』的なことを言いながら、熱い想いを込めて叩きのめせば改心させられるだろう。
一方、戦艦竜の方はビルシャナ2体を撃破すると、闘争封殺絶対平和菩薩の制御を失って海底に帰っていくとのことである。
よってそのまま放置しても定命化で何れ死んでしまう為、無理に戦う必要はない。それでも戦艦竜をこの戦いで討ち取ろうと思うなら、ビルシャナ2体を撃破するより前に、戦艦竜を倒すこと。その為には卓越した作戦と、それぞれの覚悟が求められることになる。
戦艦竜を撃破しなくても、高威力の攻撃を受け続けながらの戦闘は、そう長くは耐えられないだろう。長期戦では不利になるのは明確だ。短期決戦でビルシャナ2体を撃破することが、ここでは最善の策と言えそうである。
「最終的にどうしたいのか、その判断はキミ達に全て任せるよ。でも、どうか一つだけ約束してほしいんだ」
絶対に、全員必ず無事に戻ってくると――そう言って、シュリは武運を祈りつつ、戦いに赴くケルベロス達の背中を見送るのであった。
参加者 | |
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レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931) |
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164) |
ローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948) |
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525) |
ギルフォード・アドレウス(咎人・e21730) |
レミリア・インタルジア(蒼薔薇の蕾・e22518) |
龍造寺・隆也(邪神の器・e34017) |
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376) |
●ケルベロス・ハント
ビルシャナ侵攻による恐るべき作戦『菩薩累乗会』。
これまでケルベロスの活躍によって、計画は悉く阻まれてきたのだが。
今度は戦艦竜を仲間に引き入れ、番犬達を抹殺しようと目論んでいる。
敵が待ち受ける海岸沿いの海上に、船で乗り込み戦艦竜への接近を試みるケルベロス達。
視界を遮るものなど何もない、広大な海を見渡せば。遠くからでも確認できる威圧感――巨大な戦艦竜の姿が目に飛び込んでくる。
戦艦竜の砲撃対策として、彼等はもう一隻の囮となる自動操縦の船を用意した。
囮の船で砲撃を分散させる心算であったが、開けた場所で戦艦竜とビルシャナ二体が警戒の目を光らせており、ケルベロス達の思惑は既に相手に見透かされていた。
戦艦竜の甲羅のハッチが開き、円筒型のミサイルが打ち上げられたと思ったら、番犬達が搭乗する船に向かって襲い掛かってくる。
「左舷前方からミサイルが飛んで来ます! 急いで回避を!」
砲撃にいち早く気付いた翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)が、声を張り上げる。彼女の指示に龍造寺・隆也(邪神の器・e34017)が反応し、舵を大きく右に切り、船を旋回させてミサイル群を回避する。
「……今のはどうやら威嚇射撃みたいだね。船で近付くのはここまでが限度かな」
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)は砲撃によって立ち上る水柱を眺めつつ、先の砲撃は警告の意味合いなのだろうと推測をする。
敵を欺き接近するのが不可能だと分かったならば、正面から乗り込む以外に手段はない。一行は覚悟を決めて船を降り、海を泳いで戦艦竜に近付いていく。
そんな戦艦竜に攻め込もうとする番犬達を、甲板上から監視している二体のビルシャナがいる。
「ケルベロス達は私が皆殺しにする。お前は援護射撃だけやってくれればそれでいい」
「一匹くらいは狩ってもいいんだろ? ゲームで磨いた銃の腕、たっぷり見せてやる!」
親指をグッと突き立て、得意気に笑うビルシャナ、遠藤・鉄人。
粋がる彼に対して絶対殺す明王は、苦笑しながら『期待しているぞ』とだけ言って。眼下に迫る番犬達を見下ろした。
海を泳いで向かうケルベロス達が次第に距離を詰めていく。そこへ再び戦艦竜のハッチが開き、今度は本気で彼等を沈めようと砲撃が放たれようとするが――その前に、風音が黒鎖を海面上に展開させて魔法陣を描き出す。
「――疾走れ! 遙か終焉に向かって! 堕ちろ! 深き極点に向かって!」
次いでリコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)が、戦艦竜の火力を抑え込もうと魔術を発動。腕に巻き付く彼岸花の攻性植物を媒介として、結界を創り出す。
「この世全ては廃され棄てられ……唯の一つと成り果てよ!!」
リコリスの唱える呪文に呼応するように、結界の中に錆びた歯車の塔が顕れて。朽ちた彼岸花の造花で覆う、退廃的な終末世界が戦艦竜を取り込んで。終わりの時間を刻む歯車が、敵の兵器を錆び付かせるように劣化させていく。
直後に発射されたミサイルの雨が、ケルベロス達に降り注ぐ。しかしリコリスの術の効果と、魔法陣から溢れる加護の光が砲撃の威力を軽減させて、彼等はこの場を耐え凌ぐ。
一方、防ぎ切れずに受けたダメージは、錆次郎が全身から光の粒子を放出させて回復し、同時に仲間の闘争心を研ぎ澄ます。
「俺がコイツを引き付ける、その間にお前達は先に行け!」
真っ先に辿り着いたギルフォード・アドレウス(咎人・e21730)が、海から飛び出た後に空中でもう一段高く跳躍し。斬霊刀に空の霊力纏わせて、断固たる意志を刃に込めて戦艦竜を斬り付ける。
ギルフォードの攻撃によって戦艦竜の意識が彼に向く。その間隙を縫うように、ケルベロス達は次々に竜の背中を駆け上がって上陸を目指す。
ところが甲板上で待ち構えていた二体のビルシャナが、上陸してくる番犬達を撃ち落とそうと攻撃に出る。
明王の閃光が、鉄人の銃がケルベロス達を狙い撃つ。だが緑の小竜、シャティレと隆也が前に出て、ビルシャナ達の射撃を身体を張って防いで被害を最小限に食い止める。
「今のうちに行け。ここはきっちり倒して、反攻に繋げるぞ」
盾役を担う隆也達の脇を摺り抜け、ローザマリア・クライツァール(双裁劒姫・e02948)が因果の太刀に雷宿し、明王目掛けて突撃を掛ける。
「私達の目の前で、これ以上好き勝手な真似はさせないわ」
ローザマリアの紫電の刃が、絶対殺す明王の肩を刺し貫いて。更に彼女の背後から、新たな一つの影が飛び掛かる。
「貴方達の思い通りにはさせません。私達の手で、鉄人さんは連れて帰ります」
レカ・ビアバルナ(ソムニウム・e00931)が軽やかに大きく跳ねて、ローザマリアの頭上を飛び越えて、重力を乗せた蹴りを明王に叩き込む。
レカの蹴撃に、絶対殺す明王が一瞬怯んで後退りする。その僅かな隙を、レミリア・インタルジア(蒼薔薇の蕾・e22518)は見逃さず。ブーツに理力を込めて、明王狙って蹴り込むオーラが星の礫となって放たれる。
華麗に蹴りを決めた後、レミリアは小指にそっと唇落とし、決意を込めた真剣な眼差しで明王達を睨み付ける。
「私達ケルベロスを絶対殺すと言うのなら、是非ともやって頂きたいですね。『勝てれば』の話ですが――」
●デッドライン・バトル
戦艦竜の砲撃を掻い潜り、ケルベロス達は全員上陸を遂げて次なる段階の戦いへと挑む。
眼前に立ちはだかる二体のビルシャナ。その内の一体、ケルベロス絶対殺す明王を討ち倒し、ビルシャナ化した鉄人を救い出す。それがこの戦いにおける彼等の選択だ。
「契約者を己が煩悩の為に利用するとは……幾ら何でも許せません!」
風音がビルシャナに向ける憤り。彼女の脳裏を過ぎるのは、嘗て弟がビルシャナと化し、家族と故郷を奪われた惨憺たる辛い過去。故に例え見知らぬ他人でも、ビルシャナと契約を交わすことには否定的な感情しか沸いてこない。
ナイフを持つ手に強い力が込められて、静かな怒りと共に振るう刃は影となり。身を躱そうとする明王を、逃さず捕らえて無音の刃で脾腹を斬り裂く。
「そうでなくては面白くない。私と戦艦竜の力で以て、お前達を地獄送りにしてやろう!」
自身の身体を傷付けられようと、絶対殺す明王は余裕の笑みを浮かべて身構える。紅蓮の炎を腕に纏い、舞うかのように繰り出される攻撃に、風音は守りの構えを取って耐え凌ぐ。
「アッハハハッ! 良いじゃないか。その『殺意』を、今度は俺の心の臓に突き立ててみろよ!!」
明王の歪んだ殺意に同調するように、ギルフォードの戦闘狂としての血が騒ぎ出す。
互いに傷付け合うような、命のやり取りを心の底から愉しんで。柄から刀身、鞘まで黒で統一された太刀を抜き、研鑽された剣技の鋭い一閃が、相手の殺意の炎を掻き消していく。
「!? ギルフォードさん、後ろです!!」
風音が突然、上を見上げて大声で叫ぶ。視線の先には、首を伸ばして舌舐めずりする戦艦竜がいて。鎌首擡げて顎門を開き、ギルフォードに喰らい掛かろうとする。
その時、隆也が間に割り込み盾となり、戦艦竜の攻撃を一身に受け止める。しかし獰猛な牙が深く食い込んで、骨まで砕かれ全身が噛み潰されそうになる。が――身に纏いし闘気が黄金色に輝いて、漲る気迫で竜の顎門を撥ね退ける。
「この程度では、俺はまだ倒れん。さて――覚悟はいいな」
恒星の如く煌めく隆也のオーラに、最強種族であるドラゴンすらも気圧されて。痛みを押し殺して威風堂々と立ち振る舞い、闘志を込めた蹴りを竜の首根に見舞わせる。
「待っててね。今すぐ僕が癒してあげるから」
回復役の錆次郎が、すかさず癒しの力を行使する。斧に宿りし破壊の力を変換し、治癒を齎す光を放って隆也の傷が瞬く間に癒える。
「私達は、そう簡単には倒せませんよ」
凛とした声を響かせながら、レミリアが螺旋の力を解き放ち、うねる氷の呪縛で絶対殺す明王を締め上げる。
「チッ、こっちだってやらせるかよ!」
戦艦竜の主砲の影に隠れるようにして、鉄人が後方から炸裂弾を撒き散らし、爆発の衝撃によって番犬達の加護の力が破壊される。
「向こうの援護が厄介ですね……。とにかく今は、耐えましょう」
鉄人の援護射撃を煩わしく思いつつ、リコリスの纏うオウガメタルが淡い光を発すると。消耗する仲間の体力を回復させて、更なる眠れる戦意を呼び覚ます。
「実際に誰かを撃つというのは、貴方の好きなゲームの類なんかじゃない。その銃弾で誰かの人生を奪った時、アンタはゲームプレイヤーから道を外して戻れなくなるわ」
主砲に身を隠している鉄人に忠告するように、ローザマリアが呼び掛ける。人を殺めてからでは遅過ぎる、だからその前に、明王を倒して彼を元に戻さなければならない。
ローザマリアは時空を操る力を発現し、生成された塊は時を凍て付かせる弾丸となって撃ち込まれ、明王の命の時の流れを凍結させていく。
「回復されると面倒ですからね。先に封じておきましょう」
明王に回復されてしまうと、長期戦になって苦戦は免れない。レカはウイルスを仕込んだ矢を番えて撃ち放ち、明王の全身にウイルスが駆け巡って蝕んで、治癒能力を封じ込める。
ビルシャナ二体に加えて戦艦竜まで相手にするという、過酷な戦いを強いられるケルベロス達。しかし今まで幾度も苦難を乗り越えてきた彼等なら、不利と思えるこの戦況も、必ず打破してくれるだろう。
敵と互角に渡り合い、凌いだ先に好機は訪れる。番犬達は互いに協力し合って戦線を維持しつつ、その機を窺いながら攻勢を掛けるのだった。
●リターニング・アライヴ
熾烈を極めた激しい戦いは、いよいよ佳境に差し掛かる。
火力重視の布陣を敷いた敵の攻撃を、ケルベロス達は持てる力を駆使してここまで耐えてきたのだが。蓄積された負傷も決して浅くなく、これ以上は長く時間を費やせない状況だ。
「後ひと踏ん張りだ。それまで持ち堪えれば……!」
隆也が禍々しい手甲に降魔の力を注ぎ込み、命を喰らう拳を戦艦竜に叩き付ける。
ドラゴンの攻撃を受け続けた隆也には、余力はもはや殆どない。それでも残った気力を振り絞り、必死に抵抗してきたが――戦艦竜の主砲が彼の方へと向けられて、充填された高出力の砲撃が、一欠片の容赦もなく火を噴いた。
「ここまで、か……」
猛るが如き光の奔流が、一瞬のうちに隆也を呑み込み灼き払う。この一撃で、体力潰えたドラゴニアンの青年は、膝を突き、糸が切れたように倒れ伏してしまう。
「油断大敵だ、余所見をしている暇などないぞ」
信頼していた仲間が倒れる姿を目の当たりにし、気を取られていたギルフォードに絶対殺す明王が迫り来る。炎を帯びた手刀がギルフォードの腹部を穿ち、真っ赤な血が明王の腕を伝って滴り落ちる。
床に広がる朱色が目に映り、意識が次第に薄らいでいく。ところが彼は、これもまた戦いなのだと悦に浸り。消えることなき闘争心が、肉体の限界までも凌駕して。懐からナイフの束を取り出し、不敵に口元吊り上げて、あらん限りの『悪意』をナイフに込める。
「さぁ『嘆き』を……! 噛みつけ!」
一斉投擲された刃が牙を剥き、絶対殺す明王を食い千切らんと、悪意の牙を突き立てる。
「己の末路の一つを刮目なさい。憎悪も哀しみも、この伽藍の歯車が全てを受け入れます」
疲労が著しいのは番犬達だけではない。絶対殺す明王もまた、度重なる攻撃に深手を負って、追い詰められた格好だ。
そこへリコリスが、歯車を連結させて剣に見立てた武具を振り被り、追い討ちを掛けるように上段から真一文字に斬り下ろす。そして回転する歯車は、相手を抉るように斬り刻む。
「この場に居合わせたことを悔やみなさい……全ては無へと帰すのです!」
この戦いに決着を付ける為。絶対殺す明王に引導を渡すべく、レミリアが白刃のコルセスカを携えながら、渾身の力を込めて勝負を賭ける。
青白い雷光奔る刃を振るえば、斬撃は稲妻纏う旋風を巻き起こし。暗天切り裂く轟雷が、最期の刻を告げるように鳴り響き――絶対殺す明王は、無念の言葉を残して命果て、真白き羽毛を舞い散らしながら消滅していった。
「……結局やられちまってるじゃねえか。クソッタレ……こうなりゃ俺が、アンタの分まで奴等を殺ってやる!」
面白味のない在り来りな人生を、ゲームで憂さ晴らしするだけの日々。ただ漠然と生きている自分に嫌気が差した時、この楽園に連れ出してくれたのが『彼女』であった。
大切なモノを目の前で奪われたという喪失感が、怒りに変じて増幅し。感情に流されるが侭に、鉄人は湧き立つ殺意を銃に込め、ケルベロスに向けて報復の引き金を引く。
戦場中に響き渡った怒りの銃声。凶弾に撃たれたのは狙った筈のレミリアではなくて――身を挺して彼女を庇ったシャティレであった。
直撃を受け、力尽きた緑の箱竜の、小さな体躯が気を失って地に落ちる。
「風精よ、彼の者の元に集え。奏でる旋律の元で舞い躍り、夢幻の舞台へ彼の者を誘え」
風音にとって、悲しみを支えてくれた小竜が倒れることは、何よりも辛い筈である。けれども今は、一刻も早く戦いを終わらせることを考えて。小竜の想いも共に込め、流れるように歌を紡ぐと風が舞い、悪戯好きな精霊が、鉄人の足を掬って転ばせる。
「ねぇ君、悟り啓くレベルでやってるみたいだけど。ここにいたら、もう新作なんてずっとできないよ?」
錆次郎が憐れむような口調で鉄人を諭す。今まで癒し手として戦線を支えてきた彼が、銃を手に取り鉄人に狙いを定める。
普段の穏やかな表情とは一変し、険しい顔付きになった錆次郎が自らの手で、『汚れ役』のトリガーを引いて、鉄人の銃を持つ手を撃ち抜いた。
「劒の媛たる天上の御遣いが奉じ献る。北辺の真武、東方の蒼帝、其は極光と豪風を統べ、万物斬り裂く刃とならん――月下に舞散れ花吹雪よ!」
因果と応報、対為す二刀を握り締め。ローザマリアは太刀持つ腕を重力から解き放つことにより、繰り出したのは不可視の超高速多段斬撃だ。
抜刀すら見せない程の劒速は、大気を裂いて、敵を逃さず無慈悲なまでに斬り捨てる。
「鉄人さん、帰りましょう。貴方のいるべき場所へ――」
レカが全ての想いを込めて弓を引く。彼が僅かでも、戻りたいと思う心があるのなら。
一縷の望みを矢に託し、弦から手を離して放たれた一撃は――鉄人の胸を射抜き、彼の邪なる心を貫いて。レカの内に秘めたる強い信念が、優しい願いが最後に届き、鉄人は『人』としての姿を取り戻していった。
青年を無事に助けたその瞬間、戦艦竜は雄叫びを上げて苦しそうにもがき出し、深い海の底へと還り着く。
勝利の女神はケルベロス達に微笑んで、この激戦に、見事終止符を打ったのだった――。
作者:朱乃天 |
重傷:ギルフォード・アドレウス(咎人・e21730) 龍造寺・隆也(邪神の器・e34017) 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年4月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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