季節外れのソフトクリームサーバー

作者:白黒ねねこ

●外れた季節に目覚めたそれ
 とあるチェーン飲食店の故障した機器が集められた、回収倉庫。市街地から外れた所にあるそこに、一台のソフトクリームサーバーが運びこまれた。
 どちらかと言えば小型で、セルフサービスで使われる様なソフトクリームサーバーはビニール袋に包まれたまま、入り口近くに置かれる。そうして時間が経ち、人気が無くなった頃、ソフトクリームサーバーに近づく小さな蜘蛛が一匹。
 否、それは赤い宝石の様な物に足が生えた、蜘蛛の様な何かだった。
 それはソフトクリームサーバーへ近づき、袋の隙間から中へと侵入し、ソフトクリームサーバーの中へと入りこむ。
 少しの間を置いて、ソフトクリームサーバーが変化を始めた。ガチャガチャと変形し、本来の大きさよりも巨大化した。そうして生まれたのは、ソフトクリームサーバーの面影を持つ全長四メートルのロボットだった。
「オキャクサマ……オキャクサマハドコォ?」
 片言の合成音で呟きながら、ロボットは倉庫の扉を破壊して、外へと出ていった。

●サーバーロボを討伐せよ
「さて、来てもらった理由っすが……」
 言葉を切った黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は目の前に座るウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)を見つめた。
「ウォリアさんは前に言ってたっすよね? 業務用のソフトクリームマシンがダモクレス化するかもしれないって」
「フム、かなり前だが言ったナ」
「残念ながら当たってしまったっす」
 頷いたウォリアにダンテは苦笑した。そのまま、ペラペラと資料を広げる。
「とあるチェーン飲食店の修理機器の回収倉庫で、ソフトクリームサーバーがダモクレス化する事件が、発生してしまったっす。被害が出ないうちに、討伐して下さいっす!」
「うむ、任されたゾ」
 その返答にダンテは微笑む。
「では、確認っすが、敵はダモクレス一体っす。配下といった仲間は居ないっすよ。見た目は……ソフトクリームサーバーの面影を持つ、ロボットっす。ただし、口調は片言メイドっすが。主な攻撃方法は、コーン型ミサイル、温まったソフトクリーム弾の発射、カップ型ドリルの三つっす」
「聞いてイルだけなら、子供ガ喜びそうダナ」
「いや、温まったソフトクリームは誰も喜ばないっす。それぞれ、マルチプルミサイル、スパイラルアーム、ゼログラビトンと同じ効果のあるグラビティっすよ」
 それと、とダンテは地図を指さした。
「幸いな事に、この回収倉庫は市街地から離れていて、周りは田んぼや畑、空き地がほとんどなんっす。ただ、回収倉庫には他の修理待ちの機器がある他、職員も数人居るっす。なので回収倉庫から離れた位置へ誘き出して、戦闘して欲しいっす。ただ、誘導先の人払いは念のためしておいて下さいっす!」
 以上、とダンテはそう締めくくった。
「しかし、何で温まったソフトクリームなんっすかね? まぁ、何であれ脅威である事は確かっす。ウォリアさん、討伐、よろしくお願いしまっす!」
「確かに引き受けタ」
 頷いたウォリアは立ち上がり、部屋を後にする。廊下を歩きながら、はて? と、首を傾げた。
「以前にモ、同じような事があったヨウナ?」


参加者
クリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)
ラピス・ウィンディア(ビルシャナ絶対殺す権現・e02447)
ウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)
カヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)
ルフィリア・クレセント(月華之雫・e36045)
黒岩・詞(エクトプラズマー・e44299)
鹿島・信志(亢竜有悔・e44413)
斎藤・大吾郎(ここ掘れワンワン・e45941)

■リプレイ

●敵を誘導せよ
 一部の仲間を誘導先の空き地に残し、現場となる回収倉庫の入り口近くに潜んだケルベロス達。警戒しつつ、敵が現れるのを待っていた。
「職員達に話をつけてきたぞい、しばらくはこっちへ来ないそうじゃ」
 テレビウムのアイボウを連れたカヘル・イルヴァータル(老ガンランナー・e34339)は仲間達に笑いかけた。
 皆が頷いてから一拍置いて、倉庫の扉が内側から吹き飛ぶ。全員が緊張して、そちらへと視線を向けると、全長四メートルの全身真っ白のロボットがのそのそと出てくる所だった。
「オキャクサマ……オキャクサマハドコォ?」
 ソフトクリームサーバーの面影を持つロボットは片言の合成音を紡ぐ。その様子はどこか虚ろに感じられた。そんなソフトクリームサーバーの前に、ケルベロス達は飛び出す。
 足を止めた彼女? はケルベロス達を見つめた。
「あー、その、少しいいか?」
 鹿島・信志(亢竜有悔・e44413)が少し言いにくそうに声をかけた。
「ソフトクリームを一つ……いやこの場合は一升やら一斗などの方が適切だろうか?」
「こちらもソフトクリーム一つ注文じゃ、お代はいくらかのう?」
 二人の言葉にソフトクリームサーバーはキョトンとしているのか、首を傾げた。
「ゴチュウモン……ミナサマハ、オキャクサマ?」
「あぁ、そうダ」
 ウォリア・トゥバーン(獄界の双焔竜・e12736)が頷くと、ソフトクリームサーバーは嬉し気な声を上げた。
「イラッシャイマセ! ゴチュウモンハ、ソフトクリームフタツで、ヨロシイデスカ?」
 一礼したソフトクリームサーバーにクリム・スフィアード(水天の幻槍・e01189)は表情を緩めた。
「あなたはお客様を探しているんだね。それなら、もっと沢山のお客様が居る場所を知っているんだ。私たちが案内しよう」
「ほら、向こうでお客さんが沢山、待ってるわ。早く早く!」
 黒岩・詞(エクトプラズマー・e44299)が促し、全員が歩き出すとソフトクリームサーバーはケルベロス達について歩き始めた。その足取りは軽い。
 回収倉庫から離れた位置にある空き地の一つ、キープアウトテープで囲われたそこには一般人なら逃げ帰ってしまいそうな緊張感が漂っている。
 そこに佇むのはラピス・ウィンディア(ビルシャナ絶対殺す権現・e02447)とルフィリア・クレセント(月華之雫・e36045)、斎藤・大吾郎(ここ掘れワンワン・e45941)の三人だ。
 誘導組について来たソフトクリームサーバーは訝し気な反応をした。
「オキャクサマハ、ドコカシラ?」
 辺りを見回し、客を探していたが居ない事を理解したのか、それとも騙された事に気が付いたのか、ソフトクリームサーバーの目が赤く光った。

●戦闘開始!
 ケルベロス達がそれぞれの位置に散ったのと同時に、ソフトクリームサーバーも後退し距離を取る。
「コウゲキモードへ、イコウ。ウソキツキヲ、ソウジイタシマス」
「……どうでもいいがナンだその口調……確か都会にある、きっさてん、とかにいる店員の口調ダロ……? テレビでやってたゾ」
「ソレガワタシノ、アイデンティティ、デス」
 しれっと言い返したソフトクリームサーバーとウォリアの間に、奇妙な沈黙が下りる。咳払いと共にそれは破られたが。
「まぁ、イイ。こちらから、いかせてもらうゾ」
 そう言った彼は高く跳躍し、ソフトクリームサーバーへ体重をかけた蹴りを繰り出した。左腕で受け止めるが、その攻撃の重さによってソフトクリームサーバーの両足がミシッと音を立てる。
「モクヒョウホソク、ロック、シュート」
 ソフトクリームサーバーは構えた銃口をルフィリアに向けて、ソフトクリーム弾を発射する。彼女に着弾する寸前、それは飛び込んで来た存在によって切り裂かれた。
 真っ二つにされた事で中身が飛び出し、乱入者に白い液体こと温まったソフトクリームが掛かった。
「うわ、思ったより匂いが強いな」
 乱入者……クリムは頬についたソフトクリームを拭いながら、顔をしかめた。
 その横をルフィリアがすり抜けて走って行く、すれ違いざまに礼の言葉を呟き、ソフトクリームサーバーへと向かって行った。
「使われなくなり、捨てられた事には憐れみを感じます。が、迷惑をかけるなら倒すです。何より、食べ物で攻撃する等いけないと思うのです」
 淡々としつつも強い視線を向け、さらに言葉を重ねた。
『魂の門を通り、結んだ絆を辿りて来たれ。あなたの姿は、炎と氷を纏いし狼』
 現れた光の粒子は、上半身に炎を下半身に氷を纏った狼へ姿を変え、すぐに主と融合しそれぞれの腕に炎と氷を纏わせた。ソフトクリームサーバーにそのまま突っ込み、二色の拳を連続で叩き込む。
 衝撃によってソフトクリームサーバーは後退する。両足が再び軋んだ音を立てた。
「従者というのなら、冥土で真摯な接客を学ぶことね。さあ、踊りましょう」
 足元に二振りの刀を突きさし、髪飾りを外した。その存在をラピスは解放する、砲台である己と砲身を繋ぐのは巨大化した羽根飾り、両肩の上を通るのは同じく巨大で長く伸びた砲身だ。
『ビクターキャノン展開……グラビティ集中、バースト。バック固定、ターゲットインサイト。砲身加圧……チャージ完了……終わりにしましょう!』
 圧縮されたエネルギーが放たれるが、反動が大きいのか放った本人は大きく後退し、照準がズレてしまったのか、ソフトクリームサーバーが避けたせいなのか、当たる事は無かった。
「ほー、派手にいったのぅ。ところでクリムさんや」
「はい?」
「こんな時に何じゃが、そのソフトクリーム……どんな感じなんじゃ? もの凄く甘そうな匂いがしておるが」
「どんな感じも何も……ベッタベタとしか……」
 困惑する彼をよそにカヘルは槍についたソフトクリームを指で掬い取る。
「温かいソフトクリームじゃな、どれどれちょいと味見は……やめておこうかの」
「そうして下さい」
 苦笑したクリムは武器を持ち替え、杖から雷撃を放つ。直撃したソフトクリームサーバーが悲鳴を上げるのと同時に、カヘルのリボルバーから弾が数発放たれた。ソフトクリームサーバーの持つ銃に当たるが、まだまだ使えそうだ。
「私は甘いものは嫌いではないが、別に得意というわけでもないんだがな」
 甘い匂いに顔をしかめた信志はため息を吐き眼鏡を外しながら、ソフトクリームサーバーを睨みつけた。
「さて、メイドはメイドらしく、大人しく冥途へと帰ってもらうとしよう」
 放たれた黒い液体がソフトクリームサーバーに襲いかかるが、避けられてしまった。
 エクトプラズムを前衛組に飛ばし、耐性をつけさせた詞は眼鏡をポケットにしまい、ソフトクリームサーバーに目を向け鼻で笑う。
「はっ、ぶっ壊れてるんだろーが、食べ物を粗末にするんじゃねぇ!」
 怒号に近いその声にソフトクリームサーバーは彼女の方を見た。
 無言で見つめてくるその様子は、怒っていると伝えてくる。だが。
「ほほう。ソフトクリームか、おいちゃんはアイスクリームが良かったなぁ」
 この一言に反応し、ギュルンと音が付きそうな勢いで声の主を向いてしまった。
 片耳をピコピコと動かしながら大吾郎が、ガッカリしましたと言わんばかりに肩を竦めた。
「アイスクリームなら多少溶けてても、美味しくメロンクリームソーダにしたのになぁ、おいちゃんをガッカリさせた罪は重いぜ?」
「キキズテナリマセン、ソフトクリームヲノセテモツクレマス。ナニヨリ、アイスクリームヨリ、ソフトクリームノホウガオイシイデスワ!」
「いーや、アイスクリームだね!」
 二人の間に火花が散った。
「なら、聞かせてやるよ。おいちゃんのアイスクリームを乗せたメロンクリームソーダ愛をなぁ!」
 大きく息を吸い込み、魔力のこもった咆哮を上げる。愛を叫ぶというより、遠吠えなのだがソフトクリームサーバーは気圧されたかの様に、足の動きが遅くなったのだった。

●おのれ、アイスクリーム
 それからの戦いは一進一退だった。ダメージを与えれば、与え返される。詞とアイボウが回復に回り、時には自分で回復したりしたが、だんだんと疲労が溜まっていった。
 時には女性陣にソフトクリームが掛かり、一部、アウト! と聞こえてきそうな事になったりもしたが。
 そして今、ボロボロになったソフトクリームサーバーが、ブツブツと呟きながら立っている。
「ワタシハ、ステラレテイナイ、アソコハシュウリサレルノヲ、マツバショダモノ。ソシテワタシハ……ナオッタノ」
 ノイズが混じり始めた合成音だが力強さがあり、気力だけで立っている事を感じさせた。
「その闘志、敵ながら天晴だが……そろそろ、終わりにさせてもらおう」
 信志は血濡れた右手に力を流し込む、一方で握られた刀が引き寄せるように血を纏っていく。
『我が血は邪道也、されど、我が剣は正道也。切裂き抉るは我が化身。その魂を持って贖え』
 構え、刀を一閃する。放たれた血飛沫と剣圧が混ざり合い、血龍となってソフトクリームサーバーに襲いかかった。
 悲鳴を上げたソフトクリームサーバーの身体が、崩れながら傾く。倒れ切る寸前、あの合成音が響いた。だが、それは言葉になっておらず、何を言ったのかは誰にもわからなかった。

●氷菓は冷たい方がおいしいです
 戦いが終わり、後片付けしているケルベロス達。
 そんな中、考え込んでいたラピスがポツリと呟いた。
「温かいアイス……真冬に出せば売れるヒット商品の予感がするわね」
 この一言を聞いた彼女の家の居候はぎょっとして振り返り、慌てて首を横に振る。不思議そうにしている彼女に仲間からツッコミが入り、ツッコミを入れられる側にウォリアや大吾郎が加わるのは、それから数分後の事である。

作者:白黒ねねこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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