桜並木のある公園。暖かくなり、桜は一気に満開になっていた。
どこを見ても満開の桜の下には、花見と称した宴会が繰り広げられている。
はぁと、ため息をつきながら男性が一人、落ち着いて花見を出来る場所を探していた。
「あれ? ここは……」
しばらく歩くと、そこだけ他よりも人の数が少ない。
男性が桜の樹を見上げる。
「あああああ! そう! これだよ、桜は七分咲きくらいが一番美しい! まさに大正義ぃいいー!」
男性は瞬く間にビルシャナへと姿を変え、叫んだ。
「だからボクの言ったとおりだったでしょ?」
季節的にそろそろ、桜に関係したビルシャナの事件が起こりそうだと予想していた、志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953)が得意気に話す。
「桜に対しての『大正義』を目の当たりにした一般人が、その場で、ビルシャナ化してしまう事件が発生します」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が説明を始める。
「このまま放置すると、その大正義の心でもって、一般人を信者化し、同じ大正義の心を持つビルシャナを次々生み出していく為、その前に、撃破する必要があります」
大正義ビルシャナは、出現したばかりで配下はいない。だが、周りには花見客の一般人がいる。大正義に感銘を受けて信者になったり、場合によってはビルシャナ化してしまう危険性がある。
「大正義ビルシャナは、ケルベロスが戦闘行動を取らない限り、自分の大正義に対して賛成する意見であろうと反論する意見であろうと、意見を言われれば、それに反応してしまうようですので、その習性を利用して、議論を挑みつつ、周囲の一般人の避難などを行うようにしてください」
本気の意見でなければ、賛成意見にしろ反対意見にしろ、無視して他の一般人に向かって大正義を主張し信者としてしまうだろう。議論を挑む場合は、本気で挑む必要がある。
避難誘導時に『パニックテレパス』や『剣気解放』などの、能力を使用した場合は、大正義ビルシャナが『戦闘行為と判断してしまう』危険性がある。できるだけ能力を使用せずに、避難誘導するのが望ましい。
「桜の周りには、花見の客が20名程居ます。基本的に避難指示は素直に聞いてくれるとは思いますが、酔いつぶれていたり、酔って素直に話を聞いてくれない人も居るかもしれません」
そういう人達をどうやって避難させるか、考える必要があるだろう。
「ビルシャナ化したばかりか、戦闘力はあまり高くはないようです。桜は七分咲きのまだ少し蕾が残っているほうが綺麗だと主張していますね」
大正義ビルシャナは強い心でビルシャナ化した為、説得して一般人に戻す事は出来ない。
「事件が片付いたら、みんなで花見なんてのも楽しそうだよね」
説明を聞き終わった藍がそう提案する。
「はい、折角桜並木に行くのですから、任務後に皆さんで花見を楽しむのもいいかと思いますよ」
報告はその後で構いませんよと、セリカは微笑んだ。
参加者 | |
---|---|
八代・社(ヴァンガード・e00037) |
眞月・戒李(ストレイダンス・e00383) |
綾崎・渉(猫好きガンスリンガー・e04140) |
アーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574) |
志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953) |
月影・環(神霊纏いし月の巫女・e20994) |
レオンハルト・ヴァレンシュタイン(ブロークンホーン・e35059) |
翔羽・水咲(産土水に愛されしもの・e50602) |
●
「桜は七分咲きくらいが一番美しい! まさに大正義ぃいいー!」
ケルベロス達が公園に到着すると、最初に目に入った光景はビルシャナが現れているにもかかわらず、宴会に夢中になっている一般人の姿。
「桜の美しいこの季節に、なに空気読まないで現れているんだかニャ」
志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953)がビルシャナ、花見客、双方に呆れている。
避難指示と時間稼ぎ、二手に別れる。避難指示組が行動を始めたのを確認し、
「何やら桜の咲き具合にこだわりがあるらしいのう。それはいいんじゃが、他を否定したがるのがビルシャナの面倒なところじゃな」
「好みはあるじゃろうが、毎度押し付けがましいのぅ……ちなみに余は満開から過ぎて散り始めが好きじゃな。まぁさっさと片付けて、こちらも花見と行きたいものじゃ」
レオンハルト・ヴァレンシュタイン(ブロークンホーン・e35059)とアーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)は言葉を交わしながらビルシャナの元へと向かった。
「桜は満開で桜の花吹雪が舞うところが、一番最高にきまっているにゃ!」
真っ先にビルシャナの元へとたどり着いた藍が声をかける。
「桜吹雪が一番絵になるにゃ。それが日本人の心に一番感動を与える。そんなことも判らないのかニャ」
「折角、花を楽しんでいる所に何だお前達は!」
花見を邪魔され、不機嫌そうに睨みつけるビルシャナ。しかし知った事ではない。こちらとしては、一般人が狙われないのならそれでいいのだ。
「桜の咲く様は……その一部だけじゃなくて、その過程みんながそれぞれ趣がある思います」
ビルシャナの様子を無視し、翔羽・水咲(産土水に愛されしもの・e50602)が意見をぶつける。言いたいことを言い合って、そのどれかに反応すればよし。
「つぼみが見られれば春の訪れを感じ、日に日に開いていくのを見れば心も花開く……満開になればみんなその下で魅せられて、そして、散っていく様にも美しさと儚さを……」
水咲が語る中、最後にやってきたアーティラリィが口を開く。
「桜なぞ、開花から散るまでの移り行きを楽しむものであろう。確かに満開に向かう咲き誇りは見事なものじゃろう……じゃが、散り始めた頃の見事な桜吹雪の桜並木は素晴らしいぞ?」
「蕾と花びらの共演、あのバランスがいいんじゃないか」
「そうは言うが、散り往く桜もまた美しい。儚げさを体現した美とはまさにこれよ」
ビルシャナの言葉に、反応するレオンハルト。
そしてアーティラリィとレオンハルトが休みなく語っていく。
「これから咲こうとしてる三分、五分咲きも良い物であろう。一つに固執して、他の良き物を見もせず否定するのは悲しいぞ?」
「誤解せんで欲しいが、七分咲きが駄目という話ではない。むろん四分咲きや満開などだってよい、桜はいつだって美しい、そうは思わぬか? それを正義だなんだと風情がないにもほどがあろう」
●
ビルシャナに気が付かなかった事で、パニックにならずに良いと取るか、危険な場所に留まっていると悪いと取るか、何とも微妙なところ。
「桜は、咲き始めも満開も散り始めもみんなきれい、ですよ」
聞こえてきている会話に避難指示を始めようとしていた、月影・環(神霊纏いし月の巫女・e20994)が呟く。
「えー、こちらケルベロスです。もうすぐ戦闘が発生します。一般の方々はただちに避難ねがいまーす」
まず今の状況を理解してもらうため、綾崎・渉(猫好きガンスリンガー・e04140)が声を張り上げる。
「おれたちが来たからにゃもう安心だ。一人も傷つけさせない。ここは危険だ、避難に協力してくれ。修羅場が終わったら、飲み直しでも何でもしていいからよ」
危険だが安心してくれと、八代・社(ヴァンガード・e00037)。
「こちら側に避難、お願いします」
不満そうにしながらも、移動を始めてくれる一般人達を環が誘導していく。
「あぁー? いい気分で飲んでるんだぁー邪魔すんじゃねぇよ!」
「駄々こねんなよ、あとで一杯奢ってやるからさ」
文句を言う酔っぱらいを、社がどうにか宥めるが、酔ってまともに歩けない様子を見て背負って運ぶことに。
「ほらおじさん、あとで良いことしてあげるから一緒に向こう行こうね」
事件が片付いたら、お酌くらいはしてあげようかくらいの考えで、眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)が酔っぱらいに声をかけながら肩を貸し運んでいく。
残りは酔い潰れて眠ってしまって居る人達。何とか起こそうと環が声をかけるが、起きる気配はない。
仕方なく手分けして抱え、安全な場所へと運んでいく。
避難を終わらせ、合流すると――。
「第一、頭に向日葵乗せながら桜を語るんじゃねぇ、このロリバ……」
「てぇい!」
「げほっ」
議論が白熱したのか、喧嘩腰になっていたビルシャナの言葉に反応し、アーティラリィが蹴りを入れていた。
「しもうた……つい」
やってしまったとアーティラリィ。合流したメンバーを軽く見ながら、避難も終わったようだしいいんじゃないかと、レオンハルトが苦笑する。
「さて……竜王の不撓不屈の戦い、括目して見よ!」
パチン――レオンハルトは扇子を閉じ、ビルシャナへと突きつけた。
●
戒李が怒りを雷に変え――放つ。
「くらえ……にゃ!」
雷に撃たれるビルシャナへと、藍の獣化した手が襲い掛かる。
「休む暇は与えんよ、ゴロ太!」
レオンハルトの拳がビルシャナにめり込み、呼びかけに答えるようにオルトロスのゴロ太が口に咥えた剣を横に振るう。
ビルシャナが距離を取り回復している最中、水咲と渉のウイングキャット、ダイゴロウが仲間に支援効果を与えていく。
「こいつをくらいな」
社が喰霊刀『残照』を構え、一突き。刃から流れ込む呪詛がビルシャナを蝕んでいく。
「ぐあああああっ」
「これもくらうのじゃ」
アーティラリィが如意棒『神鉄如意』を振るい腕を撃つ。
「このっ喰らえ! 桜吹雪ぃぃ」
桜の花びらが飛んでくるのかと身構えるが、花びらだけでなく氷のつぶてまでもが一緒になって襲い掛かってきた。桜の花びらが視界を遮り、氷のつぶてが身体を撃つ。
攻撃が止み、環が薬液の雨を降らせると、氷が解け傷口が塞がっていく。
「そっちが大量の氷なら、こっちは大量の銃弾をくれてやる」
渉が弾丸を連射。魔力が込められた弾が一発、二発とビルシャナに命中する度、爆炎が上がる。
戦闘の余波で桜の花びらが舞う。このままでは戦闘が終わったときには花が全て散ってしまった。なんてことになりかねない。ビルシャナが丁度、桜並木の中央辺りへと移動した時――アイコンタクト。一同頷くと一気に勝負を決めようと動き出した。
「M.I.C、総展開! 終式開放ッ!!」
社が魔力を拳に収束させる。
「逃げてもいいよ ボクの間合いから、逃れられるものなら……行くよヤシロ」
「おう!」
戒李が居合い抜きの動作から透明な刃を放つ。続けて社が収束させた魔力を光弾に変えて撃つ。
ビルシャナを刃が斬り裂き、光弾が撃ち貫く。
傷を負いながらもビルシャナが反撃するが、
「アーティ殿、怪我はないかの?」
レオンハルトが受け止める。頷くとアーティラリィが詠唱を始める。
「悠久なる日輪の輝き、余の光、希望を照らすと光なり我が敵を討ち滅ぼさん」
「にゃぁぁぉぅ」
光がビルシャナ目掛け降り注ぎ、続けて渉が電撃光線を放つ。
「産土水様……その御身を、その御力を疾き矢とし、彼の者に裁きを与え給え……!」
更に水咲が氷の矢を放ち、ビルシャナを凍らせていく。
「此処は月の庭、私の領域、です」
環の魔力で周囲の蔓草が茨へと姿を変え、ビルシャナを締め上げていく。
「藍さん、今、です」
「とどめ……にゃー!」
藍の電光石火の蹴りが急所を捉え、ビルシャナはその場に倒れ動かなくなった……。
●
「お弁当作ってきたので、お花見していきましょう」
周囲の桜の無事を確認し、環が弁当を掲げ微笑んだ。
その提案に皆賛成し、空いているスペースを確保すると、準備を始める。
「こうして皆さんとご一緒できましたし、ここからこうして縁を深めていければ何よりです」
水咲が用意してきた弁当を広げていく。
「あまり凝った物じゃないですけど、こちらの方、お気に召していただければっ」
派手さはないですし、味もそれなりですがと。
環が重箱を開き並べていく。中には稲荷寿司に太巻き、鶏の唐揚げにだし巻き卵など。
「遠慮なくどうぞ、です♪」
「ま、好きに食ってくれ。味はそこそこだろうからよ」
社も用意していた重箱を取り出す。アスパラと人参の豚肉巻き、鶏の唐揚げ、ミートボールのトマトソース煮、菜の花のからし和え、肉じゃが。彩りよく詰められている。
別の段には箱いっぱいにおにぎりが詰め込まれている。
渉はお菓子を並べ、飲み物を配っていく。
「食べやすいように、サンドイッチを作ってきたよ」
戒李が用意したのは、菜の花と胡瓜、人参と鶏ささみのサンドイッチにエビとアボカドに卵を入れたトーストサンド。更にはデザート用にいちごとホイップクリームのサンド。
「どうぞ、召し上がれ」
戒李から渡されたサンドイッチを受け取り、かぶり付く社。
「人の作った飯は旨えよな。……ほら、お前も食えよ」
お返しにと社は紙皿に重箱の中身を盛りつけ、戒李へと渡す。
「君に褒めてもらえると自信が出るね」
嬉しそうに笑うと、渡された料理を口に運ぶ。
「さすがプロ……すごい美味しいよ」
「社殿の料理の腕は聞き及んでおる、楽しみじゃのう。戒李殿も用意している? それは重畳、期待が膨らむんじゃ」
レオンハルトがいくつかの料理を紙皿に乗せ、食べ始める。
すすすと、いつものように自然に、レオンハルトの隣に座るアーティラリィ。
「せっかくなので作ってみたのじゃが……どうじゃろうか?」
レオンハルトへと手作りの桜餅を差し出すアーティラリィ。受け取り一口。
「これは美味いのう。それに桜を楽しみながら向日葵を愛でる、これはなかなかできぬじゃろう」
アーティラリィの頭上の向日葵を見ながら笑いかけた。
「まぁ、桜の下に向日葵など少々無粋かもしれんがの……じゃが、そう言われるのも……悪くはないの」
アーティラリィは満足そうに微笑んだ。
「花見といったら弁当だよね」
弁当作るなよって言ってたけどフリだよねと、笑顔で弁当箱を取り出す藍。
「ご期待に応えて弁当作ってきたニャ」
蓋を開くとそこには……料理とは思えない爽やかな青色一色。
「ちょっと待て藍! 俺はガチで作るなと言ったんだー。この消化の概念に反逆した色合いのナニカはなんぞ!?」
渉は既に見た目だけで危険を感じるそれを指さし叫ぶ。
そして皆の胃をまもるため、渉が意を決し弁当を手に取る。
震える手でおかずを摘み一口。なんだかよくわからない味が口いっぱいに広がる。
ガツガツガツ。一口毎に視界が歪む。
「皆にたべてもらいたかったにゃ」
弁当を食べる渉を横で見ながら藍が呟く。
――そしてついに完食。
「ふふふ……ビルシャナより手強かった……ぜ、ぐはっ!」
青い顔をして渉はその場に倒れた。
「にゃー!?」
こうしてケルベロス達の宴会は、幕を閉じたのだった。
作者:神無月シュン |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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