菩薩累乗会~争いをなくそう!

作者:天枷由良

●闘争封殺絶対平和菩薩の教義
 世界平和について自宅で二時間くらい考えた結果、前田・寿子は一つの答えに至った。
「争いの原因は不平等よ! だから皆で全てを分かち合えばいいんだわ! 食べるものも着るものも家もお金も何もかも! そうすれば誰もが同じ、つまり全世界平等になるわ! 皆が平等だったら、争う理由なんてないはずよね!」
「なるほどなるほど。素晴らしいですな」
 すっかり政治家気分で熱弁を振るっていると、柱の影から僧侶みたいな鳥人が姿を現す。
「君の考えは、闘争封殺絶対平和菩薩さまの心に通じるものがあります。確かに皆が同じであれば戦いや競争など起こらない。争わなければ皆、心穏やかに生き、そして死に絶える事ができるでしょう」
 穏やかな低音ボイスと規則正しく鳴る木魚の音が、寿子の脳に染み渡っていく。
「さぁ、闘争封殺絶対平和菩薩さまの教えを受け入れ、共に戦争と競争の化身、暴虐たるケルベロス達を迎え撃ちましょう。ケルベロスはもうすぐそこまで迫っているはずです」
「なんですって!? 大変! 争いをなくすためにも戦わなきゃ! 平和が一番大事! 平和が一番、大事なんだからー!!!」
 菩薩の加護を得た鳥人『カムイカル法師』に唆されるまま、あれよあれよと言う間に寿子はビルシャナと化した。
 しめしめと笑いつつ、カムイカル法師は何かを知らせるように木魚を叩く。
 すると何処からか、大鎌を持つ女性型ダモクレスが現れた。
「恵縁耶悌菩薩の呼びかけに応じて頂き、感謝しますぞ」
 あくまで腰低く語る法師に、ダモクレスは頷く。

●ヘリポートにて
 ビルシャナが進める一大作戦『菩薩累乗会』はまだ止む気配をみせない。
「強力な菩薩を次々と地上に出現させた後、その力を利用して更に強大な菩薩を喚ぶ。そして最終的には地球全てを菩薩の力で制圧する。この恐ろしい菩薩累乗会に対して、今できるのは関連する事件を阻止することだけ。歯がゆいわね」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)はそう語ると、また新たに『闘争封殺絶対平和菩薩』なる菩薩の出現が確認されたと続ける。
「この菩薩は世界平和や競争の無い世界を求める人間に、配下の『カムイカル法師』を接触させて教義を広めるわ」
 なまじ耳障りがいいだけ、この教義は夢見がちな若者や市民団体などに広まりやすいだろう。しかし教義の行き着く先は争いを徹底的に避けたがゆえの緩慢な死である。
「ビルシャナとカムイカル法師は、ダモクレスの援軍と共に自宅へ留まっているわ。一刻も早く撃破して、教義の拡大を防ぎましょう」

 戦場はビルシャナ化した女性、前田・寿子の部屋。周囲の人払いを考える必要はない。
「敵はビルシャナ化した寿子さんと、カムイカル法師、さらにダモクレス『輝きの軍勢』から援軍としてきた『輝きの鎌』の三体よ」
 輝きの鎌はケルベロスを撃破するためにビルシャナを利用するつもりのようで、先に二体のビルシャナが倒れても撤退することはない。
「そのビルシャナ……まず寿子さんの方は、平和のためにケルベロス絶対殺す! と凶暴化しているわ。輝きの鎌と一緒になって暴れまわるはずだから、大きなダメージを受け続けないように対策を講じておきましょう」
 一方、カムイカル法師は完全な支援役としてビルシャナや輝きの鎌を援護するようだ。法師に強化された敵はさらに強力な攻撃を繰り出してくるので、破剣やブレイクといった手段が必須となるだろう。
「そしてカムイカル法師は、長時間の戦闘や形勢不利を察すると撤退するかもしれないの。敵を全滅させようとすれば、難しい戦いになることは間違いないでしょう」
 しかし法師を退けた後なら、ビルシャナになってしまった寿子に『適切な言葉をかける』ことで『救出』できる可能性が生じる。救出を目指すかはケルベロス次第だが、そこまで狙うならさらに困難な戦いとなるだろう。
「寿子さんの発言には何の根拠もないし、彼女は自分の財産も他人に分けられることなんて露程も考えてないと思うわ。その辺りを突いてあげれば、説得できると思うのだけれど」
 どちらかといえば、説得にあたるより前の段階で骨が折れそうねと、ミィルは呟いた。


参加者
アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)
大成・朝希(朝露の一滴・e06698)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
神居・雪(はぐれ狼・e22011)
椿木・旭矢(雷の手指・e22146)
水神・翠玉(自己矛盾・e22726)
燎・月夜(雪花・e45269)

■リプレイ


 戦場となる部屋に踏み込んだ瞬間。
「来ましたよ! あれこそ戦争と競争の化身、ケルベロスです!」
 法衣を纏ったフクロウ風のビルシャナ・カムイカル法師が木魚を連打して叫ぶと、強烈な殺気がケルベロスたちの肌を撫でた。
「――!」
 咄嗟に反応した神居・雪(はぐれ狼・e22011)が最前へと躍り出て、それを受け止める。しかし平和の為にと実力行使するビルシャナから放たれた謎の光線は、守勢に立つ雪ですら呻かせるほどの威力。
「……すぐに……回復を……」
「ボクに任せて、みんなは法師を!」
 全て演技とは言い難い焦燥を滲ませる水神・翠玉(自己矛盾・e22726)に、アンノ・クラウンフェイス(ちっぽけな謎・e00468)が応えて黒鎖を操る。そして地に描かれた陣が雪を癒やすのに合わせ、スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)もカラフルな爆発を喚び起こして前衛の仲間たちを煽る。
 押し出されるように進み出た影は三つ。まずはスズナに従うミミック・サイがエクトプラズムで具現化した武器で襲いかかり、つれて雪の一輪バイク・イペタムが主人の分まで反撃せんと全身に炎を纏って突撃。
 さらには藍白の髪に桜の花を咲かせる儚げなオラトリオの少女、燎・月夜(雪花・e45269)が二体のサーヴァントに続き、口を結んだまま淡々と、しかし勢いよく法師に殴り掛かる――が、オウガメタルで包んだ拳は空を切った。
 月夜は眼力が示す数値の頼りなさに相手が格上であることを実感しつつ、後ずさりながら喰霊刀に手を添える。
 しかし、それを追ってダモクレス・輝きの鎌が攻勢に出る。名の通りに煌めく刃は刈るという言葉を体現するように広く大きく振るわれて、再び仲間を庇いに出た雪や、サーヴァントたちの命を削り取っていく。
(「っ、お前の相手は此方だ!」)
 すぐさま大成・朝希(朝露の一滴・e06698)が輝きの鎌を一睨み。緑の眼光でもって敵の狙いを後衛の自分に引きつけようとするなか、二度の攻撃を受けた雪は霊弓を手に“川のカムイ”へと祈りを捧げ、自らの治癒に努める。
 その様子を一瞥しつつも、九尾扇を握る椿木・旭矢(雷の手指・e22146)は法師包囲の陣形を見出して、後衛の仲間たちに強大な破魔の力を付与しようと試みた。それはほぼ目論見通りとなり、自らバレットタイムによる感覚増幅を行っていた翠玉は、カムイカル法師の強化術をまず間違いなく打ち砕けるだろうと確信を抱く。
 だが、それ以上に頭を悩ませる光景が翠玉の前で繰り広げられる。心刃一体の集中を終えた風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)が引き起こす爆発を、法師はまた間一髪のところで潜り抜けていた。
 さすがに二度、三度といつまでも避けられはしないだろうが、しかし十分と言い難い命中率を無視して戦うわけにもいかない。翠玉は時空の調停者たるオラトリオの力で法師を足止めしようと構え――自らの眼力に見切りという事実を突きつけられる。
 後衛から狙い澄ましても、半減すれば恵や月夜と変わりない値。やむを得ず、翠玉は次善の策として時空凍結弾を法師の身体に撃ち込む。
 そこで彼女に代わって不安を晴らしたのは、旭矢であった。
 全身を覆うオウガメタルから光り輝く粒子が放たれて、前衛陣に染みていく。その効果で覚醒した感覚を頼りに月夜が振るった刃は、今度こそ法師の羽を斬り裂いた。
「世界平和を乱す敵め! 法師様に何を!!」
「――サイっ!」
 猛然と突進してくるビルシャナには、スズナの一声で飛び出した古い木箱型のミミックが立ちはだかる。
 使役修正での耐久力不足を案じられることの多いサーヴァントだが、幸いにも今日のビルシャナとはサイもイペタムも相性がよい。自身の耐性と合致する蹴技を受け止めたサイに、スズナはすぐさまエネルギー光球をぶつけて治癒を施し、攻防両面でのさらなる奮起を促す。
 一方、輝きの鎌は朝希の術中に嵌り、彼目掛けて追尾性の弾丸を撃ち放っていた。
 さすが機械というべきか、まだ正確さを維持する射撃は避けられそうにない。
 しかしそれしかこないと分かっているのなら、対応するのも容易いこと。防具で備えた朝希へ致命傷を与えるには程遠く、朝希は余裕を保ったままで法師に向かって殺神ウイルスを投げつける。
「くっ……」
 唱え始めたばかりの経文が本来の治癒力を発揮せず、渋面を作る法師。
 其処に襲い来る新たな苦難。イペタムの猛烈なスピンで足止めされたところに、鎧装騎兵の演算力で柔い一点を見抜いた雪が矢を撃ち込んでくる。
「来なよ、フクロウ野郎。その喉笛噛み千切ってやる!」
 まだ残る傷をアンノの生み出した光盾に癒やされながら、雪は獲物を前にした獣の如き眼光で吠えた。


 しかしそれ以降、雪に攻撃を仕掛ける機会は殆ど与えられなかった。
 最たる理由は彼女自身が早期の回復を心がけていたことにあるが、それを置いてもビルシャナの猛攻が凄まじい。
 雪とサーヴァントで構成される三枚の盾を少しでも長く戦場に留まらせるため、アンノとスズナは治癒に奔走する。加えて翠玉が攻勢の合間を縫う形で、ビルシャナにかけられた強化術を解きながら攻撃力低下まで狙う。
 だが、法師も負けじと木魚を連打してビルシャナを煽り立てる。自身を蝕むウイルスとダモクレスの不安定な動きを見て、法師はビルシャナを強化することこそが現状の打破に繋がると考えたのだろう。
 ならば、と旭矢が起こした色鮮やかな爆発で士気を高めて、ケルベロスたちはより一層強烈な攻撃を法師に叩き込んでいく。戦場は“誰が真っ先に倒れるか”を競うような激しい応酬で満たされ、立つ者全てに舞台が人家の一室であることすら忘れされる。
(「なんというか……否定はできないかもしれません」)
 間違いなく、今此処で自分たちは闘争を生み出す一因となっている。盾役の仲間たちを癒し続けながら、スズナはそんなことさえ考えた。
 そして瞬く間に数分という時が経ち――苛烈さを増すばかりの戦いは、法師に早めの決断を強いた。
「ああ、これ以上は耐えられん! もう菩薩様の元に帰らせて頂く!!」
「法師様!?」
 自らを導いた者の宣言に、さすがのビルシャナも目を剥く。
 だが法師の決意は揺るがず、その行動は全力で撤退に傾けられる。ケルベロスの中には苦戦を言葉にして翻意や油断を誘おうとする者もいたが、集中攻撃に身の危険を感じている相手は歯牙にもかけない。
 ただひたすら、鳥人の癖にみっともなく地べたをひた走り、法師は包囲を掻い潜って戦場からの離脱を目指す。恵が超集中で起こした爆発に煽られ、朝希から翼に新たなウイルスを浴び、月夜の斬撃と翠玉のナイフに映る惨劇の鏡像を目にしつつも――まだ倒れない。
(「逃すか……!」)
 ついには癒し手で居たアンノまでもが目を見張り、逃げ道ごと法師を滅ぼさんと反発する二つの領域を展開したが。
 其処へサーヴァント二体の攻撃を喰らっても、法師はしぶとく死の淵で留まって危機を脱してしまった。
 様々な力で強化されていた今のケルベロスであれば、あと一手、二手で届いただろう。だがケルベロスたちの意志はビルシャナ化した被害者の救出でこそ一致すれど、法師の撃破にはそうでもなく。その些細な歪みを、カムイカル法師はすり抜けてしまったのだった。
 しかし逃したものにいつまでも気を取られてはいられない。
 ケルベロスたちは次なる目標のダモクレスに向き直り、戦闘を続ける。
 その最中、サイが限界を迎えて散った。ついでイペタムも倒れ、姿形を一時的に失う。
 それは盾役として奮闘した結果であり、五分五分という確率ゆえ完全に朝希へと引きつけられたわけではない輝きの鎌が、度々前衛陣を刃で薙ぎ払ったからでもあった。
 だが幸いにも、次なる犠牲が出る前にケルベロスたちは輝きの鎌を打ち砕く。強化に強化を重ねただけあって、攻撃を集中させてしまえば撃破にそれほどの時間はかからなかった。
 そして粉微塵と化した残骸を見やるときだけ、アンノはまた目を見開く。それは輝きの軍勢を遣わせたのが王の名を冠する宿敵であるからだが、菩薩累乗会という大作戦の一画に加わった一兵卒の名残からは何も読み取れない。


 一方、残されたビルシャナは金切り声を上げる。
「凶悪すぎるわ、ケルベロス! 命を賭しても此処で皆殺しにしないと!」
 未だ敵意も戦意も十分。しかし教義を説いた法師がいなくなったことで、ビルシャナには言葉が通じるはず。
「おい……!」
 疲労困憊となりながらも、雪が声を絞り出す。
「確かに不平等は争いの原因になってるかもしれねぇ……でもよ、争いを競争って言い換えたらどうだ……?」
「なによそれ! 同じことじゃない!」
 一喝され、二の句は継げない。それに続けたところで、競争を認めるような物言いには耳を貸さないだろう。
 口を噤む雪。代わって、月夜が語る。
「頑張ってる人も怠けている人も平等になってしまうと、頑張ってる人も頑張る理由が無くなってしまいます。頑張った分だけ自分にご褒美がある。だから人は頑張れるのではないでしょうか。貴方は皆の『頑張ったからこそ得られる幸せ』を奪おうとしているのですよ」
「頑張ったからって幸せが得られるとは限らないでしょう!? それとも幸せになれない人は皆怠けているっていうの!?」
 叫ばれては返す言葉もなく、月夜もまた押し黙る。
 色々な人がいるからこそ世の中は面白いと思う彼女も、果たしてビルシャナとなった寿子の身勝手な論理を聞いてまで、そう思い続けられたかどうか。
「分かち合って、世界は平和になるかもしれません。飢える人も、報われない人も、いなくなるかもしれません」
 次に口を開いたのはスズナ。
「ですけれども! グラビティチェインは、絶対に分かち合えません! 特に、人の命を軽々と奪う、デウスエクス達にはっ! ビルシャナとして活動するつもりなら、容赦しませんからね!」
「ああそう! こっちだってケルベロスになんか容赦しないわよ!!」
 ビルシャナは激高して拳を振り上げた。
 微妙に肯定するような切り口と、ケルベロスからデウスエクスへの宣戦布告とも取れる台詞では、敵を返って煽り立ててしまったのだろう。
 その矛先は後衛ゆえに向けられないスズナに代わって、最後の盾として残っていた雪にぶつけられる。
 もはや多少のヒールを施したくらいではどうにもならない。アンノは力尽きた彼女から敵に目を戻して、しかしあくまで笑顔を保ったまま切り出す。
「キミの考え、結構面白いと思うけど、完全な平等なんて最初から不可能なんじゃないかな? だって、キミとボクは違うんだもん。見た目も、種族も、もちろん心も。それに、みんな違うから一緒にいようと思えるし、足りない所を補えるんだよ? みんな自分と同じ顔で、同じ事をして、頑張る事もサボる事もできない……そんなのつまらないよ」
「つまらなくても争いにはならないでしょ!」
 皆違って皆良い。そんなことより均一になって平和を築く方が大事。
 アンノの言葉もまた狂的なビルシャナの奥深くには届かず。徐々に募る焦りから戦場に揺蕩い始めた嫌な沈黙を裂いて、朝希が口を開く。
「アンノさんの言う通り、皆違う。世界中で暮らし方も違うのだから、全く同じ衣食住なんてそれこそ不平等です。熱帯の人に合わせて真冬も半袖とか言われたら、寿子さんは納得しますか?」
「はぁ!? そんなわけないでしょ! 寒かったら着込むわよ!」
「それでは皆同じになれませんよ」
「……んん?」
「大切な事を見失ってませんか? そんなにも強く平和を願った切欠は? 無理のある平等より隣人への小さな親切の方が、よほど世界平和への近道だと思います!」
 熱弁を振るう朝希を余所に、ビルシャナは何かを考え込む。
 そして、それを遮るように恵が進言した。
「平等が平和と仰るのなら、まず貴女自身の財産をより貧しい人達に分け与えてみては如何でしょう?」
「なんであたしの財産を!?」
 ビルシャナは目を剥く。其処に好機を見出して、恵は畳み掛ける。
「貴方の語る手段が平和に繋がると本当に信じるなら、自分から実践するのが筋ですよね。それが出来ないのなら貴女自身、そのやり方では平和にならないと心のどこかで思って居るのでは?」
「そんなことは……!」
「世界には……今日の食事もなくて……困ってる人が……います」
 翠玉が言葉を重ねた。
「平等を……謳うなら……彼らに全財産……差し出せますね……?」
「全部だなんてそんな――」
「できない……のでしょう……? 貴方の掲げる……平等は……それをすること……ですよ?」
 淡々とではあるが、翠玉の追求は厳しいものだった。
 下手に倫理道徳を説いても暖簾に腕押しだが、より身近な、己に関わる話であれば突き刺さる。
 僅か二時間で築かれた理想の脆い足元を刺激され、反論に窮するビルシャナ。
 そして旭矢が、最後の一手を打った。
「あんた、バーゲンセールは好きか?」
「何を言ってるのよ! 当たり前じゃない!」
「なら、そのバーゲンセールを思い出せ。一枚のTシャツを奪い合い、やがては連帯意識の生まれ行く祭みたいなものだが……あんたの言うとおりの世界じゃ、せっかくあんたがゲットしたものも分けてやらねばならん。むろん、連帯意識の生まれようはずもない」
「なんであたしの戦利品をわけてやらなきゃいけないのよ!!」
「なんでもなにも、あんたの言っていることはそういうことだ。もちろん、バーゲン以外でもな」
 旭矢はさらに、ちょっとくらいぶつかり合わないと、友達も出来ない。友達もいない世界は平和に程遠いと説く。
 だが、もはやそんなことはどうでもよかった。カムイカル法師の影響下から離れたビルシャナ改め中年女性の前田・寿子は、発作的な世界平和への理想を、極々単純な自身の損得勘定で捨て去った。
「ふっざけんじゃないわよー!!」
 まだ鳥人の姿でありながら、その叫びは完全に地球人のおばさんが上げるもの。
 ケルベロスたちは寿子が教義から脱したのだと確信して、残る力を振り絞った。


 そして程なく、この戦いは終結した。
 盾役総倒れの状況から見れば決して楽な戦いではなかったが、ケルベロスたちの最優先事項である寿子の救出は成し遂げられた。
「あー……だいぶ部屋荒らしちまったな。その、すまん」
 激戦の名残に、回復した雪が気まずそうな顔で言う。
 だが、呼びかけた相手――人に戻った寿子はというと。
「あんたが人に戻ってくれたおかげで、地球は一歩平和に近づいた。それにあんたもあんたなりに、一生懸命世界のために考えたんだよな。その真心は酌みたい」
「……はい」
 やたら真摯に応対する旭矢に、手を取られたまま熱っぽい視線を向けているのだった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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