菩薩累乗会~争いのない世界を目指して

作者:なちゅい

●全ての争いをなくす為に
 女子高校生、木内・露花は今時珍しいほどに平和主義者だ。
 可能な限り、他者とは衝突をしない。自身と他者と力を比べたりもしない。
「戦争なんてもってのほか。できるなら、運動会の徒競走なんてやりたくないし、ボードゲームやカードゲーム、じゃんけんですらもやる必要を感じないわ」
 他者と力を比べる行い全てを否定しようとする彼女は、自宅の自室にてそんなふうに呟く。
「素晴らしいですな」
 そこへ、ふらりと姿を現したのは、大柄な梟を思わせる人影だ。
「君の考えは、闘争封殺絶対平和菩薩の心に通じるものがあります」
 木魚をぽくぽくと叩きながら歩み寄ってくるそいつは、ビルシャナ、カムイカル法師という。
 彼は、『戦いや競争がなければ、人は戦う事も競争する事もなくなり、心穏やかに生きそして死に絶える事ができる』と説いてくる。
「さぁ、闘争封殺絶対平和菩薩の教えを受け入れ、共に戦争と競争の化身、暴虐たるケルベロス達を迎え撃ちましょう」
 両手を広げるカムイカル法師。すると、露花の体が見る見るうちに鳥人間……ビルシャナの姿へと変貌してしまう。
「平和の為なら、戦争なんて辞さない。競争をなくす為なら命なんて惜しくない……!」
 その姿にうんうんと頷くカムイカル法師がさらに、露花へとこう話す。
「おそらく、すぐにケルベロスが襲撃してくるでしょう」
 ケルベロスこそ平和の敵、必ず打ち倒さねばならない悪の権化。
 カムイカル法師の言葉をビルシャナとなった露花は受け入れ、ケルベロスが敵との認識を疑わない。
「勿論、闘争封殺絶対平和菩薩の配下であるワシと、恵縁耶悌菩薩の呼びかけに応えて協力してくれた、この者も君を守るでしょう」
 部屋へと入ってきたのは、白銀に煌く身体を持つ女性型ダモクレス。そいつは小さく露花に向けて頭を下げて見せたのだった。

 度重なるビルシャナの菩薩達による恐ろしい作戦、『菩薩累乗会』。
 強力な菩薩を次々に地上に出現させ、その力を利用して更に強大な菩薩を出現させ続け、最終的には地球全てを菩薩の力で制圧するというものだ。
「この『菩薩累乗会』を阻止する方法は……、残念だけど現段階では不明だね」
 ヘリポートで、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)はすまなさそうにケルベロス達へと謝る。
 ここで今ケルベロスができることは、出現する菩薩が力を得るのを阻止して菩薩累乗会の進行を食い止める事しかない。
「今、活動が確認されている菩薩は、『闘争封殺絶対平和菩薩』だね」
 世界平和や競争の無い世界を求める人間を標的にし、人間の生存本能まで無くさせて人類を滅亡させようとする恐ろしい菩薩だ。
 被害者は世界平和や競争の無い世界を純粋に求めているだけだが、その結果がどうなるかには考えが至っていないようだ。
 さらに、完全平和の為にはケルベロスを撃退しなければならないという、ある意味矛盾した考えを刷り込まれている。ケルベロスが現れれば、問答無用で襲い掛かってくるだろう。
「ビルシャナとなった一般人は自分を導くカムイカル法師と共に自宅に留まり続けていて、皆の……ケルベロスの襲撃を待ち構えているよ」
 この戦いでケルベロスが撃退されてしまえば、平和の名を借りて人類を滅亡させようとする教義が急速に広まってしまうだろう。
 そうさせない為にも、出来るだけ早く事件を解決する必要がある。
「敵は、ビルシャナ2体。それに、援軍としてダモクレス『輝きの軍勢』1体が戦闘に加わるよ」
 まず、ビルシャナ。カムイカル法師はクラッシャーとなり、主に光を放って戦う相手を牽制しようとしてくる。
 ビルシャナとなった一般人の女性は、与えられたビルシャナの力のよる祈りで相手の動きを遮ろうとしてくるようだ。
 さらに、ダモクレス、輝きの書はスナイパーとして魔導書のグラビティを使ってくる。こちらはケルベロスの使用するものと同一だ。
「戦況としては大きく、ビルシャナ化した人の撃破、カムイカル法師の撃破とに分かれることになるけれど……」
 ビルシャナ化した人を先に撃破した場合、カムイカル法師は逃げ出してしまう。
 カムイカル法師を先に倒した場合は、ビルシャナ化した人の救出の可能性も出てくるが、この場合の難易度は高くなる。
「カムイカル法師を先に倒した後、『彼女の考えを論破して、真に平和や競争の無い世界を望む為の方法について相手に理解を示させ、教義を捨て去ることができれば……」
 その場合、女性を救出できる可能性が生まれるようだ。
 また、輝きの軍勢は量産型のダモクレスだが、戦闘力は低くはない。
 彼女らの目的は、ビルシャナ2体を利用したケルベロスの撃破だ。
 今回はスナイパーとして後方から援護するように立ち回るが、ビルシャナ2体を先に撃破した場合でも輝きの軍勢は最後まで戦い続けると見られている。
 話を一区切りさせ、リーゼリットは一息ついてからさらに話を付け加える。
「カムイカル法師が戦場にいる限り、闘争封殺絶対平和菩薩の影響力が強くビルシャナ化した人の説得は不可能となるよ」
 救出を目指すならば、カムイカル法師を撃破するか撤退させる必要があるだろう。
「ビルシャナの菩薩が引き起こす事件。うまく止めたいところだね」
 全てをいい形で終わらせようとするなら、それなりの作戦が必要になる。
 ただ、ケルベロスであれば、それも不可能ではないはずだと彼女は皆を信じて。
「皆の活躍、期待しているよ」
 どういった結果となるのかは皆の頑張り次第。彼女はそう告げ、話を締めくくったのだった。


参加者
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
スレイン・フォード(ロジカルマグス・e00886)
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)
イピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)
神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)
エクレール・トーテンタンツ(煌剣の雷電皇帝アステリオス・e24538)
エストレイア・ティアクライス(野良メイド騎士・e24843)

■リプレイ

●その世界は肯定できない
 ヘリオンから降り立つケルベロス達は、現場へと急ぐ。
「余こそは、雷電皇帝アステリオスである!!」
 ソノ最中、名乗りを上げるは、エクレール・トーテンタンツ(煌剣の雷電皇帝アステリオス・e24538)。彼女は仲間達に皇帝、もしくはアステリオスと呼ぶよう徹底させていた。
 さて、一行はビルシャナの討伐を目指し、作戦を決行するのだが。
「『争いのない世界』。きっとこの言葉の意味を巡ってでさえ、『争い』は生まれるのでしょうね……」
 清楚な印象を抱かせるイピナ・ウィンテール(眩き剣よ希望を照らせ・e03513)が表情を翳らせて呟くと、巫術服姿の神宮寺・結里花(目指せ大和撫子・e07405)が両手をあげて嘆息する。
「侵略者が世界平和を説くとか、世も末っす。いやー、乱世乱世」
「人間の魂を喰らって、世界平和を謳うか。実にビルシャナらしい独善主義だ」
 一見すれば、無表情、朴念仁といったスレイン・フォード(ロジカルマグス・e00886)。
 だが、人間の自由意志を尊び、それを奪い去るビルシャナに対して、彼は無意識ながらも怒りを内に秘めていたようだ。
「ビルシャナの攻め方が激しくなったねー」
 菩薩累乗会を引き起こすビルシャナ。
 戦力を投入している今の状況は、一番力があるのだろうかと東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)は分析する。
 ツインテールの少女に見えて、齢を重ねたドワーフの彼女は、人の弱みや想いを突いて同胞を増やすビルシャナは許せないと語る。
「ここで倒して、他に被害が出ないようにしよー」
「ただ、被害者はまだ手遅れになる前なら、助けられる可能性があるらしいね」
 それに頷くのは、髪にエーデルワイスを咲かせたジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)だ。
 今までに無い規模の侵攻だが、なんとかしてあげたいとジューンは本音を漏らす。
「ビルシャナ達は撃破、被害者は救出を目指します!」
「そうだねっ、相手は強敵だろうけど、助けられるようがんばるよっ」
 エストレイア・ティアクライス(野良メイド騎士・e24843)がテンション高く意気込むと、苺もそれに続いて気合を入れていた。
 ただ、結里花も救助に全力は尽くすのだが。
「無理なら、ビルシャナとして処理するっす」
 その覚悟を、皆が抱く。
 説得できず、人に害なす存在と成り果てたなら……倒すまで。

●平和の為に……?
 現場となる被害者宅。
 互いの準備の完了を確認し合い、一行は突入する。
 そこには、祈りを捧げていたビルシャナが2体。そして、機械天使の姿をしたダモクレス、輝きの書の姿があった。
 後方の女性がビルシャナとなった女子高生、木内・露花に違いない。
「やはり来ましたか」
 そして、梟を思わせる姿をしたビルシャナ、カムイカル法師。今回の事件を引き起こす元凶でもある。
「鎧装天使エーデルワイス、いっきまーす!」
 ジューンはケルベロスコートを脱ぎ捨てフィルムスーツスーツを露わにし、翼を広げて突撃する。
 互いに戦闘態勢へと即座に入り、蒼い燐光を放つ翼を幅かせたレクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)が速攻で仕掛けていく。
「まず、貴方には早々にお引き取り願いましょう」
 飛び上がったレクシアは法師目掛け、重力の宿す蹴りを食らわせる。
「ならば、これでどうです?」
 法師は自らの背後から後光を発し、メンバー達を威圧しようとしてきた。
 法師だけでなく、輝きの書は水晶剣の群れを呼び起こし、ケルベロス目掛けて解き放ってくる。
「一旦落ち着きましょう」
 そして、後ろの少女ビルシャナ。
 今回の救出対象なのだが、少女もまたビルシャナの力を使って、こちらの足止めを行ってきた。デウスエクスとなりかけた彼女の攻撃もまた、かなりの威力である。
「あなた方は前座です、さっさと退場していただきます!」
 法師、輝きの書に言い放ったイピナは、翼から放たれる光を浴びせかけていく。
「我が首級を上げ、武功を獲んと欲する者よ。恐れず向かって来るがよい!」
 敵の注意を引き、盾となるイピナは敵の攻撃をナイフで受け止めようとするが、そう簡単にはいかない。
「やはり、そらしきれるものではありませんか……!」
 盾となるイピナを、エストレイアが援護する。
 第二星厄剣アスティリオを操る彼女は、牡牛の星座を地面に描いて仲間を包み込む。
 相手の攻撃は異常攻撃も多い。だからこそ、エストレイアが優しく張り巡らす守護が仲間達を護っていく。
 さて、カムイカル法師を最優先に叩くケルベロス達。
 自身の内なる怒りをスレインは雷へと変え、法師目掛けて浴びせかける。
「やりますね……」
 法師も平穏を説いてケルベロス達の攻撃の手を止め、さらに安らかな空間に包み込み、その身体を硬直させようとする。
 しかし、ケルベロスはそれしきでは止まらない。
 後方から派手に踊り込んで来るジューンは飛びあがり、痛烈な飛び蹴りを法師へと見舞った。
 鋭く狙い済ませた一撃は相手の大きな胴へと叩き込まれ、動きを鈍らせてしまう。
 追い込もうとするメンバー達。しかし、輝きの書と少女ビルシャナが邪魔をする。
 苺はディフェンダーとなり、仲間達の前に立つ。
 そうして、初撃こそ相手の足止めの為に攻撃した苺は、気力を自分達前列メンバーに撃ち出し、戦線の維持に努める。
 彼女と共にいる箱竜マカロンも、属性注入で回復の援護をしてくれていたようだ。
 自称雷電皇帝のエクレールも、テレビウム「雷光の従者」を引き連れて壁役を担う。
 どちらかといえば、攻撃寄りの立ち回りを見せ、彼女は炎を纏った蹴りで法師を攻め立て従者も凶器で殴りかかる。
 戦闘に入り、清楚な口調で相手に攻撃を仕掛けていく結里花は、ここぞと法師を攻め立てて。
「そこです! 逃がしませんよ!」
 食らいつく気の弾丸がカムイカル法師を襲い、その身へと抉りこまれる。
 ただ、この場は敵の方が戦況をよく見定めていたようだ。
「甘いですな」
 にんまりと微笑んだカムイカル法師は、翼を羽ばたかせて飛び立つ。
 相手を追い込んだケルベロスだったが、法師は戦闘を放棄してこの場から飛び立ち、逃げ去ってしまったのだった。

●説得と合わせ攻撃を……!
 窓を破壊し、逃げ出すカムイカル法師。
 追いかけたくとも、この場の2体が追いすがって邪魔をする。
「漁夫の利狙いでしょうか、そう簡単にはいかせません」
 やむを得ず、速攻撃破を意識していたレクシアは輝きの書に攻撃対象を変え、オーラの弾丸を撃ち放つ。
 その間に、イピナは法師がいなくなったことで、ビルシャナとなった少女への説得を開始していた。
「大切なのは、互いを尊重する心です!」
 ――それがあれば、競争からも信頼、成長など大切な物が得られます。
 前に立つイピナは翼を広げ、オーロラの光で仲間の回復へと当たりながら呼びかける。
「人は一人一人違うのです。そこから生じる争い全てを禁じるのなら……人は、独りぼっちでしか生きられなくなります!」
「冷静になってください」
 言葉は届いているはずだが、少女は反応を見せずにビルシャナの力でケルベロスを氷付けにしようとしてくる。
「痛みだけはどうにもなりませんね……!」
 翼を使い、身体を覆うイピナは小さく嗚咽を漏らす。
 皆の体のあちらこちらが氷に包まれるのを、エストレイアも是とはしない。
「互いに競い合うからこそ力を研鑽し高め合い、よりよい自分になれるのです!」
 また、エストレイアは、少女の今のあり方もまた否定する。
「戦う事をやめないで下さい。貴女を誘惑する敵に立ち向かって下さい!」
 その証拠に、口車に少女を乗せたカムイカル法師は、この争いを放棄して逃げ去ったではないか。
 完全に騙されており、考えと行動の矛盾があるとエストレイアは指摘する。
「あの鳥みたいなのこそ、平和を脅かす敵なのです!」
 スレインもバスターライフルを構え、輝きの書に凍結光線を撃ち出す直後、少女に言葉を投げかける。
「人々が争うのは、利得を求めるがゆえ」
 その利得は有限で、飽和させることは不可能。
 なればこそ、争う価値がないと脅威となるしか平和を導く方法はないと、スレインは説く。
「お前には、その覚悟は有るか」
「うう……」
 淡々と語るその言葉に、少女は苦悶する。
 この場で応戦を続ける輝きの書も、カムイカル法師の離脱には思う事があった様子だが、こちらは応戦の手を止めずに緑色の粘菌を呼び出してこちらに浴びせかけてきた。
「勇敢なる戦士に、戦う力を与えたまえ!」
 苺がそこに飛び出し、自らのトラウマと対しながらも、自らの生命力を高めることで払拭する。
「できれば、怪我もないよう救出したいよね」
 現実はそう簡単にはいかない。それでも、苺もまた少女へと呼びかけて。
「争いが嫌いなのは優しくていいかもしれないけど、それだけじゃ手に入らないものもあるんじゃないかなー」
 勝ち負けのあるゲームは盛り上がるし、真剣に競い合うことで磨ける魅力もある。
 また、争わないというのは、妥協を伴う。想い人などは特に。
「この一撃を受けてみろ!」
 後方から輝きの書に向け、大仰なポージングをしたジューンがヒーローよろしくドロップキックを浴びせかける。
 そうして、着地したジューンは処女の方を振り返って。
「キミに、心から『大切』だと思うものは無いの?」
 全てを平等に扱うということは、その大切なものと嫌いなものを同列に扱うということだと、彼女は主観を語る。
「争いを避けるって言うのは、他の人の『大切』を尊重して自分の『それ』を押し付けないことだとボクは思うな」
「う、うぅ……」
 少女は少しずつ、自分とは異なる考えを突きつけられ、苦悶する。
「競い合うことからこそ己の力は磨き上げられる、宝石のようにな」
 エクレールも競争の大事さを語り、少女を説き伏せようとしていく。
 自らのみで磨く業など、甘えや妥協に満たされ、何も輝きはしない。形だけ競争を捨て去ることに、意味などないとエクレールは主張する。
「真の平和とは競った相手とも敬意を払い、手を取り合えることを言うのだ!」
 そこで、結里花も持論を語る。
「争いのない世界の本質は孤独と無関心。それは生きた世界とは言えません」
 目の前の戦いを放棄するなら、それは相手への隷属を意味すると彼女は口にした。
 そこに、心の平穏はおろか、命の保証すらもない。
「平和は争いの果ての落としどころです。争った結果による納得です」
 お互いの納得なしに、平和なんて訪れるはずが無い。それが結里花の持論だ。
「だから私達は戦う。納得ができる落としどころを見つけるために」
 もちろん、その間も輝きの書に対する攻撃の手は、ケルベロス達も一切手を緩めてはいない。
 エクレールはゲシュタルトグレイブを振るい、輝きの書の腹を突いて装甲を砕く。
「迅きこと、雷の如く!! はためけ! 雷装天女よ!!」
 そして結里花がここぞとバトルオーラを雷の羽衣のように変形させ、相手へと突撃していく。
 天女の如く舞う彼女は華麗なる舞いを見せ付けながら、ダモクレスに連続殴打を見舞う。
 幾度目かの打撃の直後、ダモクレスの体から爆発が起こって。
「コ、ココマデ……カ……」
 機械音を発し、そいつは一際大きな爆発と共に砕け散っていった。
 あとは、少女をビルシャナの力から解放するのみ。
「それでも争うなら」
 ただ、少女はビルシャナの力を使い、強引にケルベロスの動きを問えようとしてくる。
 主に気を引くイピナに向けられるが、苺、マカロン、エクレール、雷光の従者が代わる代わる攻撃を受け止め、個人に突出して負担が増えないよう配慮する。
 苺は前線メンバーの傷を大地の恵みによって癒し続け、回復役のエストレイアも光の盾を展開し、支援と回復を続ける。
「第一他者との比較がなければ、頂点に君臨する雷電皇帝たる余の威光にも翳りが出よう!!」
 先ほどの説得が台無しにもなりそうな言葉と共に、エクレールはビルシャナへと流星の蹴りを浴びせかけ、その動きを止めようとする。
 妖精弓を携えたイピナも隙あらば、相手の時間を止める一矢を射放ち、ビルシャナの体の一部を氷に包む。
 説得は成功しただろうか。煩悶とするビルシャナを抑えようとジューンも重力を宿す一蹴を叩き込むが、少女の動きは止まらない。
(「神宮寺の戦巫女として、退魔のプロとして」)
 結里花は最悪の状況も想定している。人に害なす存在と成り果てたなら、ケルベロスは人を護る為に行動するべきだと考えていたのだ。
「隙だらけです……よ!!」
 正面から結里花が電光石火の蹴りを浴びせ、直後にスレインが相手に掴みかかる。
 その腕から振動を浴びせ、相手の体を痺れさせていく。スレインの独自技『励起絶唱』だ。
「覚悟は……有るのか」
 スレインは再度、自らの問いを繰り返す。
「戦う事をやめなかった先人たちが居たから、今があるんです。いつか平和になるって信じて戦い続けられるんです!」
 完全には動きを止めぬビルシャナへ、レクシアが最後に言葉を投げかけた。
「戦う事をやめてしまったら、それで訪れなくなる平和もあるんです!」
 デウスエクスとの戦いはこれまで繰り返されており、さらに、現在も目まぐるしく情勢は変わっている。
「何故戦うのか、何の為に戦うのか、それを誤らなければ平和を導くための力になるはずです!」
 ――平和な世界の為に。
 レクシアは竜鎚を手にし、少女の目を覚ますべく強く打ち込む。
 次の瞬間、全身の羽毛が弾けて人間に戻った少女はがっくりと膝を折って倒れる。
 身構えていたイピナも最悪の事態を逃れたことに、安堵していたのだった。

●激戦を終えて
 強敵との戦いに、ケルベロス達は息をつく。
「皆様、お疲れ様でした!」
 エストレイアが仲間を労い、声をかける。
 事態を悪化させることは防いだものの、カムイカル法師を取り逃がしてしまった。
 新たな悪事に動くことを考えれば、ここで仕留めるべき相手だったが、それでも女子高生を救い出せたことは大きい。
「戦いって、こうして誰かを助ける事だって出来るんですよ」
 レクシアがその少女、木内・露花へと語りかける。
「……そうですね」
 ケルベロスに感謝を示す彼女だったが、やはりこうした争いにはいい感情を抱かぬ様子。
 徐に、エストレイアが平和な世界を、いつか作り出せるでしょうかと呟いて。
「その為にも、私達ケルベロスが頑張らないといけませんね!」
 ――デウスエクスの脅威をなくす為に。
 皆、エストレイアの言葉に同意し、次なる戦場へと赴くのである。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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