●
独りの青年が叫んでいた。
「武器なんて物があるから、争いが起こるんだ!」
彼の思想は『武器があるから人を傷つける』『武器があるから人は傷つく』武器が無ければ平和になると言うのだ。
「武器を憎んで人を憎まず!」
そう叫ぶも、誰にも相手になされない。それもそうだろう。そもそも、武器という物、そのものが曖昧だ。道具と武器との境界線が曖昧な物も多い。鎌は武器か? 斧は? フレイルやヌンチャクも、元は脱穀用の道具だったという説もある。そもそも、一番原始的な武器は投石に使用する石だろう。
しかし、そんな彼に声をかけるモノが現れた。柱の影から、木魚をぽくぽくとさせながら……。
「素晴らしいですな」
「そうでしょう、武器が無くなれば平和になるのです!」
彼の意見を肯定した。その言葉に満面の笑みを浮かべた青年は答える。自分の意見に何も疑問を持っていい無い笑顔。彼は武器が無くなれば、人間は野生動物にだって勝てないという現実すら気づいていないのだ。
「君の考えは、闘争封殺絶対平和菩薩の心に通じるものがあります。戦いや競争がなければ、人は戦う事も競争する事もなくなり、心穏やかに生きそして死に絶える事ができるのです」
「そうです、平和になるのです!」
もはや、突如現れたモノ・カムイカル法師の言葉もはっきり聞いてていないのかもしれない。彼は本当に死に絶えていいのだろうか。しかし、自分の意見を肯定してくれる快感に酔いしれている。
「さぁ、闘争封殺絶対平和菩薩の教えを受け入れ、共に戦争と競争の化身、暴虐たるケルベロス達を迎え撃ちましょう」
「そうだ、彼らも武器を使う。彼らこそが、暴虐の徒だ!」
ケルベロスの中には徒手空拳で戦う者もいるが、それすら対象になってしまうのだろうか。すると、拳すら武器になってしまうのだろうか。
「おそらく、すぐに、ケルベロスが襲撃してくるでしょう。ケルベロスこそ、平和の敵、必ず打ち倒さねばならない、悪の権化なのです。勿論、闘争封殺絶対平和菩薩の配下であるワシと、恵縁耶悌菩薩の呼びかけに応えて強力してくれた、この者もお前を守るだろう」
と、カムイカル法師が言うと、一体のダモクレスが出現するのだった……。
●
「予知により、ビルシャナの菩薩達が恐ろしい作戦を実行しようとしている事が判明しました」
説明をしているのはチヒロ。その恐ろしい作戦とは『菩薩累乗会』。
強力な菩薩を次々に地上に出現させ、その力を利用して、更に強大な菩薩を出現させ続け、最終的には地球全てを菩薩の力で制圧するというものだ。
「ですが、その『菩薩累乗会』を阻止する方法が分かっていません」
物凄く申し訳ない顔をしながらチヒロは説明を続ける。
「今、私たちが出来るのは、出現する菩薩が力を得るのを阻止して、菩薩累乗会の進行を食い止める事だけです」
しかし、『菩薩累乗会』を阻止する方法が分からなくても、進行を食い止める事は出来る。
「現在、活動が確認されている菩薩は『闘争封殺絶対平和菩薩』です」
世界平和や競争の無い世界を求める人間を標的にし、人間の生存本能まで無くさせて人類を滅亡させようとする、恐ろしい菩薩。被害者の青年は、世界平和や競争の無い世界を純粋に求めているだけど、その結果がどうなるかには全く考えていないようなのだ。
「その上、完全平和の為には、ケルベロスを撃退しなければならないという、ちょっと頭の中がぐるぐるになっちゃっているようです」
なので、ケルベロスが現れれば、問答無用で襲い掛かってくると思われる。
この戦いでケルベロスが撃退されてしまえば、平和の名を借りて人類を滅亡させようとする教義が急速に広まってしまうだろう。
「そうさせない為にも、出来るだけ早く、何とかしないとダメなのです」
そう言って、ビルシャナとダモクレスについて説明を続けるのだった。
「今回の戦いは厳しいものとなります」
少し心配そうな表情のままチヒロは説明を続ける。敵はビルシャナ化した青年と、カムイカル法師、そして輝きの軍勢のダモクレスが一体。
「ビルシャナ化した青年を倒すとカイカル法師は撤退します」
少し淡々とした口調で説明をするチヒロ。ビルシャナ化した青年を倒せば、『菩薩累乗会』の進行を食い止める事は出来る。
「先にカムイカル法師を倒した場合は、ビルシャナ化した青年を救出する事も可能です」
その言葉に迷いがあるのは、それが難しい事を表していた。ビルシャナ化した青年は、ケルベロスを倒す事が平和へと繋がると信じている。それは、カムイカル法師を倒しても同じ。なので、ビルシャナ化した青年を助けるには、その上で説得が必要となる。その状況でも戦闘は継続されるし、輝きの軍勢のダモクレスはビルシャナの思想よりも、ケルベロスの撃破が目的だと思われる。その為、カムイカル法師とビルシャナ化した青年を倒しても、逃亡せずに戦闘を継続するであろう。
「平和は良い事です。武器なんて無い方がいい……でも、それでも」
上手く言葉に出来ないのか、言葉が続かないチヒロ。だけど、想いはなんとなく分かる。
「ともかく、後は皆さんにお願いするしかありません。被害を防ぐ事も大切ですけど……でも、皆さんとにかく無事に帰ってきて下さい」
そう言って後を託すのだった。
参加者 | |
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ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000) |
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542) |
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784) |
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896) |
アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909) |
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) |
月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429) |
ハンナ・カレン(トランスポーター・e16754) |
●
デウスエクスの出現予知を聞き、目的地へ向かう八人のケルベロスたち。
「『武器を持たなければ平和』を都合よく曲解させるなんて、性質の悪い相手だわ」
ユスティーナ・ローゼ(ノーブルダンサー・e01000)が静かに呟く。
「武器がなくなっても、争いなどなくなることはない」
その意見に同意するように、単刀直入な意見を言うのは神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)。
今回の相手は『カムイカル法師』によってビルシャナ化させられてしまった青年。彼の思想は『武器がなければ世界は平和になる』という考え方。
そのカムイカル法師は、そんな青年の純粋過ぎる考え方を都合よく利用し、ビルシャナにしようとしている。その為に、武器を持つ者を問答無用で排除しようという思考になってしまっている。
「平和を愛する心が争いの元になってしまうのも皮肉な現実だよね」
そんな、青年が平和を願っている想いを否定するつもりはないアストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)。ただ、それを利用されてしまっているだけなのだ。
「その覚悟は、戦うよりもずっと大変だけど、それでも」
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)も同意するように答える。
「人が信じている物を変えさせるのは、私には向いていない……と思います」
そんな青年の考えに様々な意見を出す皆を見ながら静かに呟くのはフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)。彼女自身は、人の考え……つまり『ココロ』を大切にしているからだ。だから、そんな青年の『ココロ』も大切にして欲しいと願ってしまうのだろう。
「けれど、足りない物を補うことならば、できるかもしれない」
青年の『ココロ』に足らない物がある。それを補えれば、決して彼の考え方が間違っているわけではないのだ。今、彼は目の前の武器を争いを持って排除しようという、矛盾の中にいるのだ。
そんな矛盾を抱く事はよくある事だ。そこから矛盾に気付き、考えていく必要がある。
「その為にもしっかり助けてあげたいな!」
平和を願う気持ちは必要だ。月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)も同意するように答える。
「さて、説得も大事かもしれないが、先ずは戦闘だな」
皆が説得や被害者の青年について思慮している中で、気を引き締めるように声を出すのはハンナ・カレン(トランスポーター・e16754)。
「そうだな。敵の戦力は高いんで、ちょいと厳しい戦いになりそうだ」
通常であれば、デウスエクス一体に対して八人で当たるのだが、今回は三体ものデウスエクスを相手にしなければならないのだ。
「あたしがガンガン削ってやるよ」
男前なハンナの態度に頼もしさを感じる仲間たちであった。
そんな皆の様子に武装白衣の襟を整えながら気合を入れるのはピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)。
「厳しい戦いになりそうだが、青年を取り戻そう」
厳しい戦いのなるのは間違いない。ピジョンの言葉に皆で頷き、戦いの場へ赴くケルベロスたちであった。
●
「ケルベロスだぁ! 貴方の言う通り現れた! 諸悪の根源、ケルベロスだ!」
ケルベロスたちが現れると同時に叫ぶビルシャナ化してしまった青年。
「そうです。ケルベロスこそ、平和への道を塞ぐ諸悪の根源。さあ、協力して倒しましょう!」
そんな青年の意見を肯定しながら背中から炎を燃え上がらせるカムイカル法師。そう言いながらも、青年の背後へ隠れるように動くのが姑息。
「カガヤキヘキエヨ!」
そんなビルシャナ達の行動よりも早く動くのは援軍として派遣された輝きの軍勢の量産型ダモクレス、輝きの書。手に持っている書を開くと、そこから小型のミサイルが出現する。
「こういう人もいるし、根本的に争いの心を何とかしないとだよね」
非常に好戦的なダモクレスに、苦言を呈すアストラ。しかし、青年の完全なビルシャナ化を防ぐには、カムイカル法師を先に倒す必要があるし、その障害として輝きの書も倒さねばならない。
「やっぱり、厳しい戦いになりそうだ」
ハンナの呟きと共に、戦いの火蓋は切って落とされた!
●
「先制攻撃をして、争いを否定するとは……」
少し呆れながらドラゴニックハンマーを振るい、ミサイルを叩き落としながら仲間を守る晟。同時にドローンを起動及び展開させ、仲間を守護させる。
「得ては接近戦ですが……姉さん……力、お借りします!」
普段は前衛で仲間を守る為に尽力するフローネだが、今回は相手に合わせ柔軟に対応する為、バスターライフルを構え、アームドフォートを展開する。
「トパーズキャノンにはこういった使い方もあります」
トパーズキャノンとアメジストシールド発生装置を連結させ、アメジストとトパーズによる砲撃を行うフローネ。
「ここにいるあたしらが何の為に武器を持っていると思う?」
フローネの攻撃に重ね、ドラゴニックハンマーを砲撃モードへ展開させるハンナ。
「平和を乱す為だろう!」
そんな言葉を根拠も何もなく否定する青年。
「違う! お前を助ける為だ!」
この戦場で誰よりも殺意のある攻撃を繰り出すダモクレスに砲弾を打ち込む。
「さあ、縫い止めろ、銀の針よ」
ピジョンの手には銀色にきらきらと光る針と糸。それが、輝きの書の足元から踊るように動き、足を縫い付ける。さらに隣でテレビウムのマギーが応援動画を流し支援する。
「それも……武器なのか?」
本当にケルベロスは何でも武器にする。彼の思想ではどうか分からないが、針や糸まで武器として排除してしまえば、服を作る事すら難しくなる。
「拳も武器かな? あと、涙も武器かな?」
難しい事を呟きながら、フェアリーブーツより星型のオーラを形成し、それを蹴り込む京華。
『涙』を武器という考え方は確かにあるだろう。幅広い意味で考えればそういう物すら武器と言われてしまう。
「ポンちゃん、私と同じ敵を狙うんだよ、いいね?」
ミライの言葉にしっぽをぱたぱたさせて答えるポンちゃん。
それを確認してからドラゴニックハンマーを構えるミライ。同時に先端が解放され砲撃モードへと変形する。
「絶対とか、封殺なんて言葉は、平和から最も遠い言葉でしょうがー!」
強い意志と共に放つ竜砲弾。それに追尾するようにポンちゃんがボクスブレスを放つ。
「いえ、絶対はあります。それは卑怯者の言い訳に過ぎません!」
ミライの言葉を否定するカムイカル法師。その言葉は良い言葉に聞こえるが、よく聞けば前半と後半の言葉につながりが無い、薄っぺらなもので、詐欺師が使うような言葉。
「そうだ! 『絶対』はある!」
そんな言葉に乗せられ、声高らかに叫ぶ青年。
「平和を求めるのはあなたの優しさね」
静かに歌うような声を響かせながら、オウガ粒子を放出し、仲間たちを支援するユスティーナ。さらに光り輝くオウガ粒子を翼であおぎ、浄化を行うウイングキャット。
「ケルベロスは悪だ! 平和の敵だ!」
しかし、そんなユスティーナの優しい言葉は青年には届かず、カムイカル法師の言葉に従い、怪しい言葉を放ちケルベロスたちを攻撃する。
「そうです、ケルベロスは平和の敵です」
青年の攻撃に続き、共に閃光を放ちケルベロス達を攻撃するカムイカル法師。
「そこ、弾幕薄いよ、なにやってんの!」
その閃光に耐える仲間たちに、改造スマートフォンでコメントの弾幕を超スピードで送信して、仲間を支援するアストラ。さらに、ミミックのボクスナイトが偽物の財宝をばら撒き、敵の注意を引く。
「これで頭を冷やせ! 武器がなくても念じるとなんか爆発するやつ!」
そんな青年の頭を冷やさせようと、精神を集中させ局部を爆発させるピジョン。
「ね、念じると爆発する……それも武器なのか?」
集中力すら武器にするケルベロスたちである。そんなケルベロスたちに早くも疑問を抱き始める青年。
「そうです。ケルベロスは全てを武器とする。故に諸悪の根源!」
「そうだ、ケルベロスは平和の敵だ!」
そんな青年にカムイカル法師は洗脳するように言葉を浴びせ、青年から冷静な思考を奪って行く。やはり、青年を説得するには、カムイカル法師をどうにかしないと無理のようだ……。
●
ケルベロスたちの攻撃を耐えながら、反撃を繰り出す輝きの書。自身の書をドリルに変形させ、それでハンナを攻撃する。
そこへ割り込むのはユスティーナ。
「私も武器の必要の無い世界なら素晴らしいと思うわ」
「それを邪魔するのがケルベロスじゃないのか!」
毅然な態度で攻撃を耐え、青年へ声をかけるが、理論も何もなく否定する青年。
「どんな暗闇でも、心に宿した光がある限り歩もう。魂が唄う限り♪」
静かに響く歌声が自身や晟やハンナ達を奮起させる勇気となる。
「う、歌も武器なのか?」
歌で攻撃している訳ではないが、それでも武器という概念が揺らいでいる青年にとっては、重要な問題であるようだ。
「悪いな、素手でもかなり重いんで覚悟してくれや」
そう呟きながらハンナは輝きの書の顔面を拳で打ち抜く。
「ギヤァァ!」
重く鋭いハンナの拳は輝きの書が、防ごうと広げた書ごと顔面を砕く。
「……」
一瞬の沈黙の後、輝きの書は爆発四散した。
しかし、戦いは終わらない。
「おのれ!」
仲間がやられた事に激怒しているのか、カムイカル法師が孔雀のような炎をまとい、炎を放つ。
「少しでも長く耐え抜くぞ。護りは攻撃への足掛かりだ!」
炎を受けても物ともせずに堅牢な龍の幻影を背に仲間を守る晟。
「まずは正気に戻ってゆっくりとみんなで考えたらと思うよ」
仲間を守る晟に優しい世界で支援するアストラ。
「肯定されただけで満足しないで!」
展開するトパーズキャノンから砲撃を行うフローネ。放たれた砲弾が黄色の輝きを散らしながら、カムイカル法師へと降り注ぐ。
「グフッ」
ケルベロスたちの攻撃に、ダメージが蓄積していくカムイカル法師。
「動くな」
そこへ響く京華の言葉。
「あ、足がぁぁ!」
その言葉は呪いでもある。呪いを受け、カムイカル法師が苦悶の表情を浮かべ悲鳴を上げると同時に、その動きが止まる。
(「今日はかくし芸をお披露目するのです!」)
そのチャンスに動いたのはミライ。
「振動よ止まって! この瞬間だけでも……!」
ミライが翼を羽ばたかせると同時に、苦悶の表情を浮かべていたカムイカル法師の動きが完全に停止する。
「……」
そして、そのまま時が止まったようになり……足元から砕けて消えていった。カムイカル法師の撃破だ!
●
「武器……ぶきとはナンダ……」
カムイカル法師が倒れ、洗脳が解け始めているのか、頭を抱え苦しむビルシャナ化した青年。しかし、その苦しむ反動なのか、むやみやたらに光線を放ち、ケルベロスたちを攻撃する。
「武器は戦いに助力するが、争いの本質ではない」
ビルシャナ光線を浴びながらも、微動だにせずに答えたのは晟。
「争いの……本質デハナイ?」
晟の言葉と気迫に押され、後ずさりする青年。
「誰かを守る為に武器が必要な時だってあるんだよ」
晟の言葉を後押しするようにアストラが声を響かせる。
「皆が、お前みたいな思想なら良かったんだけどな」
ハンナも青年の意見を否定しようとはしない。現実には彼と異なる思想の人が多いのも事実。
「相手を傷つける武器なんて無いほうがいいよね。私もそう思うよ。武器って、痛くて辛いよね」
京華も彼の意見に同意を示す。
「あなたの理想はこんなに短絡的な行動で実現するべきものじゃない。本当に自分が正しのか、もう一度考え直して」
ユスティーナの毅然とした言葉が響き渡る。
「……」
青年の事を否定しないケルベロスたちの言葉に揺れる青年。今までは『武器なんて必要無い』という彼の言葉に周囲は『無理だろ』『もっとよく考えろ』など、否定的な意見が真っ先に出た。それに言い返せるほどの強い言葉を持たなかった青年は絵空事と一蹴させてしまっていたのだ。
「君には平和の世界を目指して欲しい。私たちが『ココ』に持っている武器を使ってさ!」
自分の頭を指さしながら笑顔を見せる京華。『ココ』とは頭(思考)の事。よく考えて平和を目指して欲しいと京華は願う。
「デウスエクスとの戦いが終わったら、必要になるのは君みたいに真剣に平和を考える人だ!」
ピジョンの言う通り、今はデウスエクスとの戦いが激しいから難しいが、将来は平和を目指して真剣に考える必要が出てくるだろう。
皆の言葉に激しく動揺する青年。それを後押しするように、フローネとミライは武器を下に置き、ゆっくりと青年に近寄る。
「平和を想うココロ、とても大切で正しいと思います。でも、武器を捨てれば届くのですか?」
「この手は武器を握る為じゃない、この手は差し伸べる為にあるの」
武器を捨て近寄るミライを心配そうに見つめるポンちゃん。そんなポンちゃんの頭を優しく撫でて、ミライはもう一歩進む。
「ブキ……ブキは……」
激しく動揺しながらも、光線を放つ青年。それを真正面から受け止め、そして耐える二人。それでも歩みは止めない。
「今なら、まだ間に合うから……信じて」
「あなたのココロを大切にして下さい」
右手をミライが、左手をフローネが優しく包む。
「……」
次の瞬間、ビルシャナ化していた青年の身体が光り輝き、羽毛に覆われていた身体から、人間へと姿を取り戻す。
「……平和の為に、もっと考えてみます」
静かに呟くと同時に青年の身体から力が抜け、それをミライとフローネが支える。
厳しい戦いであったが、ケルベロスたちの勝利だ。
●
「やれやれ、キツイ仕事だった」
青年のビルシャナ化開放を確認してから、ハンナは静かにタバコに火を付ける。
青年を介抱しながら、ユスティーナは静かに呟く。
「とはいえ、ケルベロスもまた武器の一つ……私達も、自分の在り方に責任をもって力を使わないと、ね」
青年の言葉ではないが、ケルベロスは存在そのものが武器と考えられる。
「それもあるけど、自分の考えを押し付けない事が本当の平和への第一歩かな」
少し緩んだ雰囲気でアストラが呟く。そんなアストラの足をつんつんするミミックのボクスナイト。
「『自分の考えを押し付けない』……それも必要なのですね」
朦朧としているであろう青年が意識が曖昧ながらも、呟く。
「あ、あと情熱も! とても大事だと思うよ!」
そんな青年を激励するように胸を叩きながら京華が付け足す。
平和というのは、誰もが望みながらも叶わない一つの残酷な現実である。しかし、それでも目指して生きていくのが人間なのかもしれない。
「武器よりもマイクを握るほうが好きだから、後で一緒に歌いましょう?」
「……歌も……いいな」
ミライの言葉に静かに頷く青年。そんなミライの歌声を背に、ケルベロスたちは青年を救えた事に満足し、この場を後にするのだった。
作者:雪見進 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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