菩薩累乗会~和を乱せしは

作者:幾夜緋琉

●菩薩累乗会~和を乱せしは
「……そんなの、おかしいよ!! 何でみんな争うんだよ!! この世界に戦争なんて、あっていいはずがないんだ!!」
 と、高校生位の少年が、テレビに移る国同士の諍いを見て、声を荒げる。
 ……国同士の諍いなんて、色んな所に現れては消えてゆくもの。
 しかし彼は、そんな戦争など、あってはならない……と言う。
「きっとこれは、あくどい人が軍需で設けるために嗾けたに違いない! そんな武器を使う部隊がなければ、きっと日本は平和になるハズなんだ。そうだ、軍隊を持たなきゃ、日本はきっと良くなるんだ!!」
 純粋たる彼の気持ち……勿論そんなきれい事では、国など成り立たない訳で。
 ……しかし、そんな純粋な彼の気持ちに答える者。
『ポク、ポク、ポク……』
 心落ち着ける、木魚の響き。
 その響きと共に姿を現わすのは……『カムイカル法師』。
「ふむ……素晴らしいですな。君の考えは、闘争封殺絶対平和菩薩の心に通じるものがある」
「……?」
 きょとんとしている少年だが、更にカムイカル法師は。
「ええ、貴方の考える、戦いや競争を無くす事で、人は戦う事も、競争する事も無くなるでしょう。そうなれば、心穏やかに生き、そして死に絶えることが出来るのです」
「……! う、うん、そうだよ!! 心穏やかに生きる、それが一番なんだよ! その為には、争いなんてあって良い筈が無い!!」
「ええ……さぁ、闘争封殺絶対平和菩薩の教えを受け入れ、共に戦争と競争の化身、暴虐たるケルベロス達を迎え撃ちましょう。我々は……仲間です」
 手を差し出すカムイカル法師……そして、その手に触れると共に、ビルシャナ化してしまう彼。
 ……そして、変化した彼へ、カムイカル法師は頷き。
「恐らく、すぐにケルベロスが此方へと襲撃してくる事でしょう。しかしケルベロスこそ、平和の敵です。必ず討ち倒さねばならない、悪の権化なのです」
 柔和な笑みを浮かべた後。
「心配しなくてもいいのです、闘争封殺絶対平和菩薩の配下であるワシと、恵縁耶悌菩薩の呼びかけに応え、協力してくれたこの者も、お前を護るのですから」
 と、鎌を持ちしダモクレスがその脇からすっと姿を現わし……こくり、と頷くのであった。

「皆さん、集まって頂けましたね? それでは、説明を始めます」
 と、セリカ・リュミエールは、集まったケルベロスを見渡し、早速。
「ビルシャナの菩薩達が実行しようとしている作戦、菩薩累乗会がまたも予知されたのです。これは、強力な菩薩を次々に地上へと出現させ、その力を利用し、更に強大な菩薩を出現させる……そして、最終的には地球全てを菩薩の力で制圧しようという、恐ろしい作戦です」
「この『菩薩累乗会』を阻止する方法は、今の所判明してはいません。ですが、我々の今できる事……出現する菩薩が力を得るのを阻止し、菩薩累乗会の進行を食い止める事なのです」
「今、活動が確認されている菩薩は『闘争封殺絶対平和菩薩』。世界平和や競争の無い世界を求める人間を標的とし、人間の生存本能まで無くさせて、人類を滅亡させようとする恐ろしい菩薩です」
「彼の被害者は、世界平和や競争の無い世界を純粋に求めているだけですが……その結果がどうなるか、まで考えが至っていない様です。更に完全平和の為には、ケルベロスを撃退しなければならない、というある意味矛盾した考えが刷り込まれている様で、ケルベロスの皆さんが現れれば、問答無用敵対者と言う事で襲いかかってくる事でしょう」
「ビルシャナ化された一般人は、自分を導いたカムイカル法師と共に自宅に留まり、ケルベロスの襲撃を待ち構えています。この戦いでケルベロスが撃退されてしまえば、平和の名を借りて人類を滅亡させようとする教義が急速に広まりかねません。そうさせない為にも、出来るだけ早く、事件を解決して頂きたいのです」
 続けてセリカは、詳しい状況について。
「今回相手にする事となる相手は、ビルシャナ二体と、輝きの軍勢のダモクレスが一体です」
「ビルシャナの一体目である、カムイカル法師ですが、彼はその手にある木魚から奏でるメロディを武器としている様です。いわば、サウンドソルジャーの方に似ている……といった所かと思います」
「その攻撃の効果に皆さんへ眠くしたり、催眠効果を付与する効果、対し仲間達には盾アップ、癒アップの効果を与えつつ、回復する事も可能で……後衛寄りのポジションを取る様です」
「又、もう一人のビルシャナである青年ですが、平和を乱すケルベロスは敵、と言う事を刷り込まれている為、彼は逆に前衛の戦闘よりで仕掛けてくる様です。攻撃手段は、というと……平和を愛する心から出た闘気……バトルオーラを纏い、攻撃を主軸に仕掛けてくる模様です」
「このビルシャナのどちらかを倒せれば、拡大を防ぐ事が出来たと言えるでしょう……ただ、青年を先に撃破すれば、カムイカル法師は逃げてしまう様です。逆にカムイカル法師を先に倒した場合は、青年を救う事も可能ですが……説得が必要ですので、難易度は高いと言わざるをえません」
「特に青年は、平和を愛する心が強く、武器を持つのは悪、と考えて居る様です。その考えを論破した上で、真に平和や競争の無い世界を実現するための方法を説けば、きっと……救出出来ると思います」
「尚、このビルシャナの他、輝きの軍勢と呼ばれる量産型ダモクレスが一体居る様です。このダモクレスはその手の鎌を縦横無尽に振り回し、高い攻撃力で一閃してきます」
「とは言え、量産型のダモクレスですから、戦闘能力はそこまで高いとは言えません。ただ、ダモクレスはケルベロスを殺害することが目的になりますので、熾烈な攻撃は覚悟しなければならないでしょう」
 そして、セリカは最後にもう一度皆を見渡し。
「世界平和自体は良い事であると思いますし、行き過ぎた競争等も止めるべき事だと思います。しかし、競争自体は生き物の本能の一つ……競争が全く存在しない世界ならば、次の世代に子孫を残すことも出来ず、滅亡しかないでしょう」
「高校生の彼には、その事を理解するのは難しいのかもしれません。ですが……ここで止めない限り、彼の将来もありません。どうか、決着を付けてきて頂ける様、お願いします」
 と、頭を下げた。


参加者
寺本・蓮(幻装士・e00154)
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)
浜野・真砂(本の虫・e41105)
大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069)
アルフレッド・イングラム(黒騎士・e46807)

■リプレイ

●二つの牙
 テレビに映るは、国同士の諍い。
 人を殺す兵器により、断たれる命と、泣き叫ぶ子供。
 ……しかしそれを正当化するのは、自国こそ被害者である、と言う事を声高らかに叫ぶ国や、力こそ全て、と訴える国、等。
「……また、ずいぶんと傍迷惑なのが出て来たな」
 と、深い溜息を吐く、空飛・空牙(空望む流浪人・e03810)。
 それにこくり、と頷いた喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)は。
「そうね。確かに平和を願うことは悪い事ではないと思うんだけど……非暴力暴力に結びつけようとしているカムイカル法師を許す事は出来ないわね」
「そうだな……正直、面倒事はごめんなんだがなぁ……」
 更にもう一つ、深い溜息を吐く空牙。
 勿論他の仲間達も、今回の話……ビルシャナ化させられた彼に対し、同情とまでは言わないが、複雑な気持ちを抱いているのも居る訳で。
「……」
 無言で、難しい顔をしているのは、大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069)。
 そんな彼に、寺本・蓮(幻装士・e00154)は肩を叩きつつ。
「どうした? 魔王からして、助けるのはなぁ、って感じなのかな?」
「いや、違う。今回のビルシャナは、純粋な青年の優しい気持ちを利用しようとしている。その様な事、許し難いのである」
 尊大な態度と口調ではあるが、実のところは優しい悠斗……いや、蓮もそこは理解為た上での発言であろう。
 そして、ラジュラム・ナグ(桜花爛漫・e37017)とイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が。
「この様に平和を望み、行動する事は素晴らしい事だ。だが、そのやり方や平和の概念がちと問題だな。それを正しい方向に導いていかねばならん」
「そうですね。心を冒涜し搾取する敵を許す事は出来ません。幼気な高校生にはその契約を破棄し、平和を模索出来るよう、成長して欲しい……そう、思います」
 イッパイアッテナの言葉は、優しげではあるものの、内心は強い怒りに震える。
 そしてアルフレッド・イングラム(黒騎士・e46807)も。
「ええ、私もそう思います強い正義の心を持った彼には、どうにかして立ち直って欲しい。そして……彼を狂わせたカムイカル法師と、それを守る量産型ダモクレスは、この手で確実に仕留めます」
 と、そんな仲間達に浜野・真砂(本の虫・e41105)は。
「……戦う事もそうですが……説得も、難しい事になりそうですね……ですが……絶対に、負けられません……」
 大人しそうな中にも、強い意思を秘めた一言。
 そして、ケルベロス達は、カムイカル法師と、ビルシャナ化した少年の居る部屋へと急ぐのであった。

●平和の刃
 そして、ケルベロス達は、部屋の中へと突撃。
 突然侵入してきたケルベロス達に、当然ながら驚く少年。
『わ、わっ……な、何だよ、この人達は!』
 そんな少年の言葉に、カムイカル法師はすぐ。
『ほう……思ったよりも早く現れましたねぇ。彼らはケルベロス。平和の敵、必ず討ち倒さねばならない、悪の権化……平和のためには、彼らを倒さねばならないのです」
 と、指さす彼、それと同時に、仲間達を護るかの様に、輝きの軍勢である、鎌持ちの量産型ダモクレスが更に一歩前に進み出て、鎌を構える。
 そして……流れる様な鎌の一閃を放つダモクレスに、身を呈し庇うはイッパイアッテナのミミック、ザラキ。
 勢いに跳ね飛ばされるザラキ……だが、すぐに回復を行う事は無く、ケルベロス達は真っ正面に対峙。
「なぁ、少年……そこの鳥は『平和にする』って、ちゃんと言ったか? 闘争のない社会に訪れるのは、平和じゃなく堕落と衰退だ……そして、ひいては緩やかな滅亡が待って居る。それにそいつらなんて、平和菩薩とか名乗っているが、名ばかりの死神なんだぜ?」
 と、敢て挑発する様に言い放つ空牙。
 そして波琉那、憐、真砂やアルフレッドらも。
「そうだね。私達は確かにケルベロス……そこのダモクレスや、カムイカル法師の様な、平和を脅かすのを倒さなければならない……でも、キミと同じ、平和を愛する気持ちだって持って居るよ?」
「ええ。私達は、貴方を争いたいと思ってきた訳ではありません。貴方の平和を愛する気持ちは重々解ります。そこのカムイカル法師に、貴方は騙されているのです」
「……ん。そう、です。カムイカル法師は、闘争は罪と言っていますが……私達を倒さなければならない、と闘争を促しているのではないでしょうか?」
「そうです。どうか、私達の言葉を聞いて頂けませんか? 私達は、貴方と闘いを臨んではいません」
 次々と、ケルベロス達が説得の言葉を掛ける……その言葉に彼は。
『う……』
 と、ちょっと戸惑う。
 が、そんなビルシャナ化した彼に、その手の木魚をポクポクと鳴らしつつ。
「騙されてはなりません。彼らは柔和な振りをして、闘争を求める者達なのですから……突然現れた彼らを、貴方はすぐに信じる事が出来るのですか? それだから、皆に騙されてしまうのですよ?」
『だま……される……』
「そうです。名乗りも上げずに平和を説く彼らを信じるなど、愚の骨頂です!」
 ……と、更にカムイカル法師は指摘していくが、それに悠斗が。
「ふっ。我輩達はシャドウエルフのぉ~~……大道寺・悠斗!! 確かに名乗りを上げなかったのはすまない。だが、同じ言葉をそこの者にも言えるのではないか?」
『ううう……』
 確かに言うが通り。
 が、そんな彼に、更にカムイカル法師は、木魚の音を強くして。
『ダメです。騙されてはなりません! さぁ……私と共に、彼らを倒すのです、平和の為に!』
 一定のリズムを刻む木魚の音に……目がトロンとしていく彼。
 そして……虚ろな視線と共に、平和を愛する闘志をその背後に燃え上がらせて……構え、殴り掛かる。
 ビルシャナ化した彼の攻撃を、その身で受け止めるアルフレッド。
「っ……駄目、ですか。であれば、仕方ありません……!」
 と、己に全身防御のパワードアーマーを纏うアルフレッド。
 そしてそれを尖端として、ラジュラムも。
「悲しいかな! 平和的解決とはいかぬか! ならば、やむなし!」
 と心眼覚醒による自己強化。
 更に空牙の分身の術に、蓮が気力溜め、波琉那のメタリックバースト、イッパイアッテナは黄金の果実に、悠斗のスチームバリア、とそれぞれが自己強化を施す。
 一方、ミミックには真砂が。
「きたれ、極夜よりの魔弾」
 と、『砂漠の宝』にて、回復を施し、回復を受けたザラキはカムイカル法師に飛びかかり、ガブリングで食らい付く攻撃。
 と、そんなザラキの攻撃に、カムイカル法師は。
「ほら、言ったでしょう? 私を傷付け様と噛みついてきたではないですか!」
 と、痛がる素振りと共に、大きな仕草でアピールするカムイカル法師。
 しかし、そんなカムイカル法師の言葉には敢て何も応えず、空牙は。
「そんじゃ……狩らせてもらうぜ? お前らの薄っぺらい平和思想ごとな!」
 と、後衛に控える相手への螺旋氷縛波を放つ。
 更に続けざまに、悠斗が。
「兎も角、お前は黙っていろ」
 と、ディスインテグレートの遠隔攻撃を仕留め、波琉那もファミリアシュートによるジグザグ効果を付与。
 その一方、前衛陣に立つ仲間は、攻撃を遅らせる。
 そして、鎌を持つダモクレスは当然ながら明確な意思もなく、ただ目の前の者を殺害するべくに鎌を振り回し、確実にダメージを。
 そしてカムイカル法師に突き動かされたビルシャナ化した彼は、闘志を燃え上がらせて迎撃。
 そして、カムイカル法師は、ケルベロス達に向けて木魚を鳴り響かせ、ケルベロス達を催眠効果で一網打尽にしようとするが……流石に、その催眠に簡単に掛かる訳にはいかない。
「させません……」
 と、メディックの真砂がすぐ、前衛列にオラトリオヴェールを掛けて、催眠効果からのキュア。
「ふぅ……サンキュ、真砂ちゃん!」
 と、ラジュラムは手を上げて感謝の意を伝えつつ、対峙。
「本当、仕方ありません……言葉でも、判って頂けない様であるなら……」
 と、唇を噛みしめながら、蓮はヴォルフブリットを仕掛け、同時にラジュラムもサイコフォースの遠隔攻撃。
 一方ディフェンダーのイッパイアッテナがファミリアシュートの遠隔、アルフレッドが旋刃脚で立ち塞がるダモクレスを蹴り叩く。
 ……勿論、簡単に倒れるようなカムイカル法師ではなく、中々削りきれない。
 又、その木魚の音を変えて、自己回復も行う為、中々体力は減らない。
 ただ、鎌持ちダモクレスと、彼の攻撃を受け手から攻撃する事で、仕方なく応戦している、という雰囲気を描く。
 そして、カムイカル法師への攻撃開始より、数分。
 少しずつ削られていたカムイカル法師だが……流石にケルベロスの攻撃重視の前には、ジリ貧。
 そして。
「取り合えず、お前は百害あって一利なしだ。倒れろ!」
 と蓮の渾身の力を込めたバール投げが、カムイカル法師を潰す。
 そして、カムイカル法師を倒された彼……その支配力が弱まった様で、僅かに視線は光が灯る。
 ただ、その闘志に変わりは無く、ケルベロス達への攻撃はダモクレスと共に止むことは無い。
 ……しかし、そんな攻撃を、その身で受け止めながら、アルフレッドから。
「戦いや競争を嫌い、平和を愛する心、それは尊ぶべき美徳です。しかし、今のあなたはその心を利用されています。我々が、武器を手に取るのは、そんな輩から人々を護る為です。あなたには、そうして切り拓いた、平和の世に生きて欲しい……そう思います」
 真摯な彼の言葉に、揺れ動く心。しかし、支配は解けない。
 更に悠斗、波琉那、蓮らも。
「平和主義と無抵抗主義は違うのである。拳を振り上げ、力無きものを蹂躙するデウスエクス……我輩達はその振り上げられた拳から君達を守る為に戦う……番犬なのである。他者を蹂躙する力に対し、力で対抗するのは悪ではあらん。略奪を『しかたない』とか『争いを争いで抵抗するのは良く無い』……それは、次の被害者を呼ぶのである。それもまた、悪と呼べるものなのである」
「そう。ビルシャナは争いを無くしたいのなら……何で言葉を尽くさずに私達を敵として迎え撃つ様にしたのかな? それは、彼らの正義は『敵を駆逐して一人勝ちの平和』……君の理想とは真逆じゃない? 軍隊を持たなければ良くなる、って考えは私好きよ。互いを高め合うスポーツや学問と違って、人は欲を満たす為に戦争をしちゃう……だからこそ、その人達への説得力のある言葉として伝える方法を、君と一緒に考える時間とチャンス、貰えないかな?」
「そう。確かに君は純粋に平和を願っているのだろ? 正義の敵は別の正義って……誰の言葉だったかな、と。いや、まぁ真面目な話をしよう。相手の意見を否定して、自らの意見に従わせるのは、意思の強制だろう? 仮にそれが通っても、それはやがて争いの火種になる。だからこそ、否定から入るのではなく、相手の言い分を聞き、対案を出し合い、互いに納得出来る所を探る……それこそが大事なんじゃないか?」
 そんなケルベロス達の言葉に、心は更に揺さぶられ……僅かに、闘志は弱まる。
 そして、そこに更にラジュラムとイッパイアッテナが。
「お前さんが本当に目指すべきは、武器を捨てて対話の場を設ける事だろう? 武力を行使せず、お互い心から向き合う……その場を作る事こそ平和への道。真に目指すべき平和をはき違えるな!」
「目を向けるべき争いは、争いの理由と防ぐ方法。侵略を受ける情勢で多国間の諍いから関心を持てたあなたに……人間として生きて欲しい」
 ……その眼の光が、明らかに灯る。
 そして。
「良し……それじゃ、後はダモクレスを倒し、彼を人間に引き戻すぞ!」
 とラジュラムが仲間達に力強い声を掛け……ケルベロス達はダモクレスへと猛攻。
 程なくダモクレスは倒れ、そして……残る彼へ。
「いいか、覚えとけクソガキ。平和ってのはな、綺麗ごとじゃねえんだよ」
 と空牙の『螺旋不意討重』が懐深く決まると共に、ラジュラムが黒煙を撒きながら。
「ぶち抜け! デットエンドインパクト!!」
 と、渾身の一撃と共に、彼を討ち倒すのであった。

●牙折れし平和の証
 そして……ビルシャナが倒れた後。
 パワードアーマーを解除したアルフレッドが。
「ふぅ……っ。なかなか堪えますね……精進せねば……」
 と足元を踏ん張りながら、一言。
 その一言にイッパイアッテナが。
「ご苦労様です。さて……後は、少年が目覚めるか、ですが……」
 呼吸と、脈拍を確認……確かな鼓動。
 倒した後に生きているという事は……恐らく、彼は。
『……う……』
 僅かに身じろいだ後、ぼんやりと眼を開ける彼。
 先ほどの、カムイカル法師の前でケルベロス達に向けていた表情とは違う、何処かあどけなさの残る表情に……取りあえず、一安心。
「どうやら、無事に救出出来た様ですね」
 にっこりと笑う蓮に対し、彼はえ、っと……と下を向く。
「ん、大丈夫だよ」
 と、そんな彼の真っ正面にしゃがんで、目線を出来るだけ合わせる様にした波琉那が。
「今は、ね。自分の理想を上手く言葉に出来ないだろうから、腑に落ちないかもしれない。けど……君の理想は素晴らしいと思うんだ」
 ……と言いながら、彼の頭を軽く撫でる波琉那。
 更に真砂が。
「ええ。戦争は、残念ながら無くなりません。これまで多くの人が、歴史が、繰り返してきた事です。解決出来るのならば、既に戦争は無くなっている筈なのですから……」
『……』
 悲しそうに俯く彼、だがラジュラムが。
「言われたから諦めてしまうのか? キミの平和への想いは、その程度じゃないだろう?」
『……う、うん……きっと、争わなくていい方法が、ある筈だもん……』
「そうだね……そんな世界にする為に、頑張るから。頑張って、君の理想に応えられる様にするから……だから、私達ケルベロスを信じて欲しいな?」
「ええ……そうですね。貴方に平和を諦めない心があるのなら、歴史を学んでみて下さい。歴史は、人類が幸せを求めた足跡です。その足跡の先を、貴方が引き継いでいく事は出来ますから」
 波琉那、真砂の言葉へ、こくっ、と頷く彼。
 そのまっすぐに澄んだ眼差しに、ニッ、と笑ったラジュラムが。
「そうだな。懲りずに平和を目指すなら、これから忙しくなるぞ!」
 と言いながら、少年の肩を叩き、そしてイッパイアッテナも。
「そうですね……困った時には、これを使って下さい。きっと、役に立つ筈ですから」
 と微笑み、ケルベロスカードを渡す。
 そして。
「何にせよ頑張れ、って所だな。ま、応援はすっから」
「うむ。青年、強くなれ。その平和を愛する心があれば、必ずや強くなる!」
 空牙、悠斗二人も、彼の肩を叩き、応援の声を掛けるのであった。

作者:幾夜緋琉 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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