アガーテの星

作者:深水つぐら

●逢瀬
 降る星を口火に男の手が動く。
 その一閃を読んだもう一人の男は、自身の手に持つステッキを振るとその柄を眺めて愚痴を零した。
「生者となると厄介だねぇ」
 それは男が死者を必要としているからか。こんな丘の上にある墓所では生者に用事のある者も少ないだろうが、それでもステッキを持つ男――『魔弾の悪魔』ザミエルは自身の帽子の鍔を持つと困った様に口元を緩めた。
「手駒は多いに越した事は無い。そういう事か」
 そう呟いたメイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)の双眸が暗く御し難い怨嗟に燃えた。
 この男は知る由もない。
 過去に行ったサルベージによって不幸な出来事が生まれた事実を。
 傷を自分だけが負っている――思考の痛みに溺れぬとメイザースは得物を構えたままで、視線を周囲に投げて人影がない事を確認する。大小様々な墓標はあれど、身を隠しながら戦えば勝機はあるか。そうメイザースが考えている間にザミエルは事も無げに呟く。
「私と一戦交えられるとは君は光栄だよ」
「吠えるな」
「……威勢がいいのは悪くないが、あまり手間取らせてくれるな」
 死神が手にしたステッキを振るとその切っ先が刃と変わり星明りに映えた。その目が爛と開かれ獲物を食らう獣の如く燃える。
「さあ、良い声で啼いてくれ。私のアガーテ」
 それが誰であろうとも、かの死神にとっては駒と言う星――ケルベロス故に殺めよう。

●アガーテの星
 見えた光を掴まねばなるまい。
 ギュスターヴ・ドイズ(黒願のヘリオライダー・en0112)の告げた話は、星と散るには理解し難い物だった。それはメイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)へ襲撃――その主は彼の宿敵である死神ザミエルであり『魔弾の悪魔』という異名を持つ者だという。その目的は不明だが、予知が見えた段階でメイザースに告げようとした所、連絡は取れなかった。
 つまり、彼は一人でデウスエクスと対峙する事になる。
「因縁の戦いに水を差すのは無粋、などとは言えん状態だ。今は一刻の猶予も無い。君らには至急メイザースの救出に向かってもらいたい」
 そう告げたギュスターヴは手帳を捲ると事件となる場所の説明を始めた。
 襲撃の舞台は見晴らしの良い郊外の墓地でその最奥にある広場だ。どうやらメイザースは夜にひとりで縁者の墓参に来ていたらしく、人気を避けての行動が裏目に出た様だった。どうしてそんな不用心な――今はその理由を聞く暇と術はない。
「おそらく君らが到着するのはメイザースと死神の交戦により、周辺の墓石が破壊されて隠れる場所を無くしている頃だろう」
 つまり、救出する者は二人が対峙している所に突入する。それはヘリオンでの急降下が有効に感じたが、ギュスターヴは狭い墓地である点と応援に気づいた死神からメイザースへの攻撃が早まる危険性を上げて困難だと告げた。
 つまり、最速での正面突破。ポイントは合流直後の行動だろう。メイザースと死神の間には数メートルの距離があり攻撃が届くまでに僅かな時間がある。
 何を、どう行うかの選択の正確さがその後の戦の明暗を分けるだろう。それが上手くいかなければ相手の厄介な攻撃に囚われる可能性が高くなる。
 厄介な攻撃――それは均等な力に支えられた攻撃力と魔弾の魅せる幻影だという。
「ひとつひとつの攻撃は重い。故に侮るなかれと」
 ひとつでも迂闊な動きがあれば正確に捉えて会心ともいえる一撃を繰り出してくる。それは正に魔弾の射手と言うにふさわしい。
 そこまで話を進めるとギュスターヴは改めて一同へと視線を向けた。茶の瞳が望むのはケルベロス達への願いと、そして期待を込めたものだった。
「君らの同志を救って欲しい――いや、手を貸してやって欲しい」
 如何なる縁をメイザースが持つかはわからない。もしかするとギュスターヴには何かしら視得たのかも知れないが、それでも黒龍はただ願った。
「己が願いをどう果たすかは彼次第だが、ね。だから私は君らに頼む」
 告げた言葉に熱が散る。ただ何も出来ぬ事を忌む様に。
「君らは希望だ。何も取りこぼさぬ様に」
 呪いが隠す殺意が痛みと消えるその前に。


参加者
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
メイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)
リリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)
ウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)
神居・雪(はぐれ狼・e22011)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)
メィメ・ドルミル(夢路前より・e34276)

■リプレイ

●星ひとつ
 流星に見えたのは煌めきを帯びていたからだ。
 飛来した複数の光を飛び退る事で回避した男は手にしたステッキをくるりと回して柄先の鳥を慈しむ様に撫でた。その視線が眼前に現れた者達へ移ると興味深げな顔をする。
「どんなに隠そうとしたって悪いことはわたし達にはお見通しなのです。とゆーことで! メイザースのおじちゃんを助けに来ましたよ!」
 高らかに叫んだリリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)は星明りの下に留まるメイザース・リドルテイカー(夢紡ぎの騙り部・e01026)の前でうんっと気合を入れ、その身が無事な事に安堵する。
 敵に攻撃が当たらずとも引き離すだけでも十分だ。そう結論付けた神居・雪(はぐれ狼・e22011)も進み出ると得物を構えて前方を睨んだ。
「詳しい事情は知らねぇが、見てみぬ振りって訳にはいかないよな」
 それはこの戦を独りで背負わせないという事。同じ様に男へ視線を向けた御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)は己が得物をだらしなく下げながらも、射殺すような気配を漂わせていた。
「死を撒くモノは冥府にて閻魔が待つ――潔く逝って裁かれろ」
 言って 白陽の藍の目がゆらと煌青色の瞬きを見せる。その隣では周囲へ注意を向けたレスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)がその惨状に自身の眉を顰めていた。
 周囲は死者の眠りを妨げと言える惨状で、それが知人の縁者に降りかかる厄災であると言うのなら見過ごす訳にはいかなかった。
「しかし、魔弾の悪魔とは大層な二つ名だね。だけど生憎こちらも魔弾の腕前には自信がある」
 そうレスターが告げると男――ザミエルという死神は楽しそうに微笑んだ。その笑みは相手の余裕という訳か、ケルベロス達に警戒を強めさせる。恐らく持参した光源を遮断物なしで運んだ事で接近者の存在を知らせてしまったのだろう。奇襲は失敗に終わったが、それでも負傷者の状態を確認するには都合がよかった。
「大丈夫? 今癒すからね……」
 シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)が風精の助力により癒しと加護をメイザースに施せば落ち着いた声で礼が返った。その様子を確認した後でメィメ・ドルミル(夢路前より・e34276)は改めて死神へと目を向けると相手の細い得物の切っ先を見据えながらほろりと独り言ちた。
「ふん、“望みを叶える”――御鉢をとられるわけにはいかねえんだよ」
 人の夢、望みを言葉の中にはまじない屋を営む青年の言葉に、死神は未だ口を開かず楽しそうに見つめ返してくる。そんな相手にウィッカ・アルマンダイン(魔導の探究者・e02707)は赤の瞳にはっきりと強い意志を見せた。
「死者には安らかな眠りが与えられるべきです。断じて死神の玩具とされていいものではありません」
 こんな非道な行いを認める訳にはいかない。それはシルも同じであり心に秘めた矜持でもあった。そんな彼女は死神を見据えると静かな声で死神へ告げた。
「死神さん、初めまして、ケルベロスです。戦う前にどうしても言いたいことがあるの」
 その言葉に死神は考えるようなふりをしたがすぐに促す様に手を動かした。仕草を受け散れシルが得物を握るとその口が大きく開く。
「……人の想いを弄ぶんじゃないっ! 覚悟してもらうからね!」
 気合の入った言葉と共に彼女の得物が死神を向けば、相手は不意に大きく笑って自身の帽子に触れた。
「知ったこっちゃあない、と言いたい所だがね。可笑しいかな君らに事情があるように私にも事情があるのだよ」
 それは一体――問いただす前にメイザースが立ち上がると死神の口元が困った様に歪む。まるで『これまで逃げの一手だった者に何ができる』という様な死神に騙り部は赤い瞳を滾らせて小さく言葉を漏らした。
「捜していた、ずっと」
 それは恋焦がれる様に。されど、あらず感情に燃え盛るものだ。
 だからこそ、まさかここで会う事になるとはと悔やみ悼む。かの夢紡ぎの騙り部が身内の眠る場所、そこで出会う事に奇妙とも言える縁を感じる。
「――これ以上、貴様に勝手はさせんぞ、ザミエル!」
「不愉快だよ、マックス」
 それはからかいの色を散りばめた皮肉。口元を歪めた死神は今この時間を楽しむ様に素早くステッキを振った。

●迷い星
 歪みは死神の捻じれた願いの様だと思った。
 デウスエクスの微笑みの裏に見えた物をウィッカは冷静に判断すると、その手に握る得物を味方の背に向ける。
(「導かれし縁がその悪意に終止符を打つのを私の魔術でサポートいたしましょう」)
 決意を胸にウィッカの長剣が描くのは守護星座――その光が最前列の仲間の足元を照し、同時にメィメの編み上げた猟犬の鎖が更なる加護を与えていく。
 その合間に飛び出したリリウムは尾を流星の様に引きながら素早く地を駆けると敵の前で跳躍する。放たれたのは流星の煌めきと過重力の蹴り――芯を捉えた一撃を相手の肩に叩き込んだリリウムは飛び退りながらよしと笑った。
 その微笑みの後に黒髪の剣士が走る。
 手に持つは七つの月と影。その一閃は一時の世界に溶け存在と生命の根源を脅かす傷となる。
「死にゆく者は無知であるべきだ。要らぬ煩悶は捨てて逝け」
 言葉に揺らぐ影ひとつ。描いた軌跡が死神の腕に斬撃の跡を閃かせる。その様に死神の口元から苦痛の声が漏れるも、すぐにその手がステッキを握り直した。白陽が気が付いた時にはすでに抜身の仕込み剣が朧げな光と共に迫っている。
 死神の描く剣の軌跡が二度三度と白陽の身を斬り付け、周囲を照らす光達が舞った血潮を鮮やかに浮かび上がらせた。その様に回復役を担うシルが気が付き動こうとした次の瞬間、鮮血は細かな光となって死神の傷へと殺到する。
「吸収回復か……!」
 メィメの呟きにいち早く意味を悟ったシルは自身のプロミスリングに触れると風精へと呼び掛けた。
「……力を貸してね……みんなに、精霊の祝福を……」
 願いの言葉に応えた風精の癒しが白陽を満たし、負った傷を回復させていく。その間に死神は間合いを取ると大層楽しそうに仕込み剣の先に濡れた血を眺めるとにまりと笑った。
 吸収回復――ドレインと呼ばれる厄介な回復方法だがそれでも攻撃の手を緩める訳にはいかない。そう感じたのかレスターは自身の得物に炎を点すと戦場を駆けた。
「メイザースと因縁浅からぬようだけど、人の願いを曲解するなんて随分と悪趣味だね」
 自身は手を汚さないとなればなおさらだ。見据えたのは相手の胴、間合いを詰めたレスターが地獄の炎と共に得物を叩き付ける。しかし、死神は確かにダメージを負った様だったが、その口元には笑みを浮かべていた。
「馬鹿と鋏は使いようだよ、そうあるだけさ」
 告げた死神は楽し気に微笑み、飛来したオラトリオの得物を手にした己の仕込み剣で受け止めた。
 襲撃者――メイザースの腕に咲いたのは美しい紅の花を咲かせる攻性植物であった。義憤の女神の名を持つ彼の植物は赤い花弁を大小揺らしながら眼前の死神と鍔迫り合いを仕掛けている。
 交差する瞳に殺気と狂気を孕ませてオラトリオは死神をねめつけた。
「一つ、聞かせろ……この墓からサルベージした少年はどうした?」
 押し殺す様な言葉に死神は一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐににたりと笑った。
「私の可愛い駒として地球人をたくさん殺してくれたよ」
 その言葉はケルベロス達の顔に緊張の色を走らせる。
 それは真実なのだろうか。それとも偽りなのだろうか。いや、真実であったとすれば、繋がりを持つ者にとってこれ以上ない程の屈辱。否々、それでも真相はわからない。
 ケルベロスの間に不安の気配が起こるが当人は至って冷静に唇を開く。
「戯言はいらん」
「……生憎だなあ、この魔弾から離れた捨て駒を覚えているものか」
 はっきりと告げた言葉は明らかに目の前の男をからかっている。眉間の皺が深くなり怒りに手を震えさせた彼の姿を心配げに眺めていたリリウムはこてんと小首を傾げて考えたがすぐに首を振った。
「人を騙す人はとっても悪い人です。その中でも、困っている人を騙す人は一番、一番悪い人だってパパが言ってましたっ!」
「……だよな。黙って聞いてりゃ人の思いを弄びやがって。覚悟しておけよ、てめぇみたいなのが一番嫌いなんだ!」
 リリウムの言葉を口火に雪はそう吼えると得物を携えて地を蹴った。金の瞳が相手を捉え鍔迫り合いを解いた身に肉薄する。側に沿って走るのは紫銀のボディに星明りを映す彼女の相棒であるライドキャリバーの『イペタム』――激しいスピン攻撃が死神の体に当たった瞬間、雪の纏う義骸竜手が強かに一撃を追加した。

●アガーテの星
 星を眺めるには些か騒がしい夜だった。
 地上の僅かな光を頼りに猟犬達が踊りかかるのは星屑を払う死神だ。その攻防の一手として蔓触手形態に変化させたメイザースの攻性植物が死神の足元へ巻き付くと強く肉を縛り上げる。
「ぐっ」
 僅かに漏れた苦痛の声を白陽は拾い上げて口端で笑った。雷を帯びた刀を携えた白陽が死神の身を斬り上げひゅういと口笛を鳴らす。それは動きの鈍くなり始めた死神を挑発する様な音。
「貴様ッ……」
 既に余裕がないのだろう。声を荒げた死神がステッキを繰り射止めようとした瞬間、守る様にメィメが前へ出る。ふと、その様に死神が笑った。
「人形にはちょうどいいか」
 その意味を理解する間も有らばこそ。告げた言葉の後でメィメの視界へ蜃気楼に似た感覚が開いた。次いで彼の胸に飛来したのは縛り付ける様な痛み――。
「か……」
「飛び込んできた子羊君、さあ願いは?」
 笑いを含む死神の言葉は明らかにメィメの苦痛を楽しんでいた。
 息が詰まる。痛みが走る。
 庇い立てた事で直に受けたメィメは一度だけ喘いだが、すぐに歯を食いしばる。
「……笑わせる。あんたの望みは、ここで潰える。少なくとも、おれは応えねえよ」
 ――ねじ曲がった望みの解釈をする奴なんざ、おれと同じようにふるまうことさえ許せねえ。
 それは望みに応える事を至上とし依頼者の望みに応えたいとする彼の矜持だった。絶望もせずただにいと笑うメィメに死神は舌打ちをして得物を構えた。次と動く死神の前に解き放たれたのはレスターが導く夢喰いの巣網。
「悪夢を掬い、悪夢を救う」
 告げた言葉の後で蜘蛛の巣状に展開した網が死神の身を絡め取った。その間にレスターは鋭く声を飛ばした。
「キミの魂は悪魔に売り渡すほど安くないだろう? さあ、遺恨を晴らしてくれ!」
 その言葉にメイザースの目が凛と開く。その先に祝福あれと言うように光を点したのは、柘榴の様な赤い瞳で相手を見据えたウィッカだ。彼女の唇ははっきりと告げる。
「死者には安らかな眠りが与えられるべきです」
 そう、断じて死神の玩具とされていいものではない。
 言葉は異なる物を呼び寄せ、そして超常の力を組み上げる。死神の周りに眩い五芒星が生まれ、二重三重と魔法結界を発生させれば死神の顔に焦りの色が見えた。その瞳に更なる光が見えたのはリリウムの広げた絵本からだった。
「きょうのえほんは! こちらです!」
 導きと共に現れたのはそれはリリウムによく似たけれどもお姉さんな少女――少し生真面目で優しくて困った人を見捨てない性質の様な――かの者が放つ星光纏う矢は死神の胸へと突き刺さる。
 ふら付きを見せた死神のよそに雪はメイザースへ視線を送ると、恵み分け与える豊河に祈り青空の元に映えるミモザの様な輝きを生み出す。それは彼を守る加護となり、その背中を押す激励となる。
「詳しくは分かんねぇけど、なんか因縁あるんだろ? 決めてこいよ!」
「後は、お願いしますねっ!」
 続いたシルの言葉に小さく頷いたメイザースは告げ掛けた感謝の言葉を飲み込むと地を蹴った。
 戦場を進む間に騙り部の髪が流星の様に躍る。その間に死神の剣が輝くと星に似た魔弾が彼の肩を射抜いた。
 しかし。
「生憎、私はアガーテでもマックスでもないのでな、白薔薇の守りも魔弾の導きも不要だ」
「なにっ?!」
 痛みはあった。だが、そこから生まれるはずの在りし日の幻影は見えない。それはこれまで仲間達が施した加護があるからで、昔話の中に見える導きではないのだ。絆があったからこそ活きた事。
 肉薄した男は義憤の女神の名を冠した彼岸花を『魔弾の悪魔』ザミエルの首を掴んで叫ぶ。
「罪咎に報いを――灼き尽くせ、咲き誇れ!」
 花が咲く。魔と血に泳ぎ与えられた獲物の体内を攻性植物は駆け巡り、己が肉へと変える為に。
 巡る因果を焼き尽くす様に季節外れの曼珠沙華の花は赤く鮮やかに死神の体を貫き咲いた。

●星漁り
 立夏を迎える頃合いとはいえ夜半を過ぎては肌寒い。
 周囲の修復を終えた頃にはすっかり深夜を回っていた。墓石のひとつから砂を除き終えたシルはそっと胸元で手を組むと騒がせてしまった無礼を詫びた。
(「騒がせてごめんね」)
 閉じた目をシルが開けば反対側の修復に向かったウィッカと白陽が戻ってくる姿が見えた。同じ様に周囲を見回していた雪がウィッカと視線を合わせると、大丈夫だと頷きが返ってくる。
「少しファンタジーちっくかね」
「仕方ないです。その辺りはご勘弁いただきましょう」
 ウィッカの言葉に雪が頷いた時、ちょうど祈りを終えたレスターが立ち上がった。
 悪魔を退けもたらされた永久の眠りが何者にも脅かされる事のない様に祈る――願いとも言える祈りを終えた彼がふと顔を上げれば、星が一層輝いている事に気が付いた。
「流れ星だ」
 釣られて空を眺めたメィメが呟くとケルベロス達の視線が空へと昇る。そこに草を踏む足音が響いた。
「来てくれてありがとう、帰ろうか」
 メイザースの言葉は穏やかだがどこか寂しげだった。促された仲間が歩き始める中で彼は振り返ると墓地の最奥へと視線を向ける。
 最初で最後の愛弟子。『一人前になったら勝負する』という果たせなかった約束。心の中に渦巻くのはどうしてもそんな過去ばかりだ。それでもやはり思い返す事は止められない。
 あの子を見つけてやらないと。それが『師匠』として私がしてやれる事だ。
「――だから今度はあの子を探さないとね」
「んみゅ、メイザースのおじちゃん、どうしましたか?」
「何でもないよ、さあ行こうか」
 声を掛けてきたリリウムに微笑んだ男は少女の背中を押すと再び歩き出す。はあいと聞こえた朗らかな声は柔らかい幼子の愛おしさでゆるりと男を包んでくれた気がした。

作者:深水つぐら 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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