●平和を騙る鳥
陽もまだ見えない、早朝のとある田舎の一軒家。
散歩していたのか、一人の青年がその家へと近づいてくる。その顔はすぐれない。
「はあ……こんなことをしていていいのかな。来月仕事が始まる前に、時間のあるうちに何か……」
就職を間近に控えたその青年、江場・薫は頭を抱える。
「お金があってそれが足りないから競争が必要になる。溢れるぐらいにお金を皆が持って、好きなものを好きなだけ手に入れられたら競争なんて必要なくなるのに」
「――素晴らしいですな」
ぽくぽくぽく。木魚を叩く音と共に、家の陰からずんぐりとしたミミズクのような鳥人間がひょっこりと姿を現す。
「君の考えは、闘争封殺絶対平和菩薩の心に通じるものがある。戦いや競争がなければ人は戦う事も競争する事もなくなり、心穏やかに生き、そして死に絶……」
「そうそう! 競争なんていらない、穏やかに生きるのが一番だ!」
教義を語るビルシャナの言葉の言葉に食い気味に青年は賛同する。最後の一言は耳に入っていないようだ。
「ほー、ほう。さぁ、闘争封殺絶対平和菩薩の教えを受け入れ、共に戦争と競争の化身、平和の敵、暴虐たる悪の権化であるケルベロス達を迎え撃ちましょうぞ」
厳かな言葉と木魚の音、ビルシャナの言葉が終わったときには薫は鳥の混じったような姿となっていた。
「闘争封殺絶対平和菩薩の配下であるワシと、恵縁耶悌菩薩の呼びかけに応えて協力してくれたこの者もいれば、ケルベロスも必ずや打ち倒せるに違いない」
そう語るビルシャナの背後には、書を手にした無機質な表情のダモクレスの姿があった。
「また『菩薩累乗会』に関する事件が予知されたんだ」
これで三度目になるが、と頭を抱えた雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)が話し始める。
強力な菩薩を次々に出現させてその力を利用してさらに強大な菩薩を出現させ続けて地球全てを制圧する『菩薩累乗会』だが、現時点で阻止する方法は判明していない。
「これまで通り、今できるのは出現する菩薩が力を得ることを阻止して進行を食い止める事だけだ。……今回活動が確認されたのは『闘争封殺絶対平和菩薩』という名の菩薩で、世界平和や競争のない世界を求める人間を標的にしている。闘争や競争、そして命の一切を奪う事を禁じるその教義の行き着く先は、生存本能まで無くさせての人類滅亡になる」
今回の被害者も純粋に平和な競争のない世界を求めているが、そうなった場合の結果までは考えが至っていない人たちだ。そういう人々の下に配下のカムイカル法師を送り込み、被害者の自宅でケルベロスの襲撃を待ち構えさせているのだと知香は言う。
「ビルシャナ化させられた一般人は完全平和のためにはケルベロスを撃退しなければならないって矛盾した考えを刷り込まれている。この戦いでケルベロスが撃退されてしまうと……闘争封殺絶対平和菩薩の教義が急速に広まってしまうだろう」
そうなる前に、何とか事件を解決してくれ。そう告げた知香は資料を広げ始める。
「事件が起こるのはとある田舎の一軒家で、民家がまばらで人通りもなく人払いはなくて大丈夫だろう。家の玄関から入ってすぐのリビングにビルシャナ達が待ち構えている。今回相手にすることになるのはビルシャナが二体、それからダモクレスである輝きの書が一体だ」
輝きの書は恵縁耶悌菩薩と同盟を結んだ輝きの軍勢の一体で、魔導書に似たグラビティを使ってくる。量産型だが戦闘能力は低くなく、ケルベロスの撃破を狙って戦うようだと知香が説明する。
「それからビルシャナの方になるが、カムイカル法師はミミズクのようなビルシャナで、木魚の音や経文を唱えてこちらの攻撃を妨害してくるみたいだ。あと集中して傷を癒やしつつ攻撃力を高めてくることもあるようだ」
こちらは基本的に攻撃に専念し、被害者が先に倒れると遠慮なく切り捨てて逃走してしまうのだと、知香は言う。
「被害者の方の名前は江場・薫。光や真言でこちらの行動を妨害するスタイルで攻撃してくるが、こちらは仲間がいる間は基本的に鐘の音での回復を優先しているみたいなんだ。人となりについては……甘くて浅い。被害者がそういう傾向の人たちだからなんだが、すべての人が満足できるぐらいに金を持てば、与えれば競争とかのない平和な世の中になると信じている」
本人的には色々考えているのかもしれないが、それが実際にどういう結果をもたらすのかについては考えが至っていないのかもしれない。その辺りを突っ込んで適切な言葉をかければ説得しやすいかも、と白熊が言う。
「カムイカル法師が健在の内は説得も通じないが、いなくなれば、適切な説得をかけることができれば撃破した時に人間に戻れる可能性はある」
そこまで説明すると、知香は資料を閉じる。
「世界平和は確かにいい事だろうし、過剰な競争もやめるべきではある。けれど、それそのものを禁止してしまうのは停滞、そして衰退と滅亡へとつながってしまうのかもしれない」
『菩薩累乗会』も徐々に厄介になってきているが、あんた達ならきっとなんとかできる。
そう締めくくると、知香はケルベロス達を送り出した。
参加者 | |
---|---|
瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044) |
空木・樒(病葉落とし・e19729) |
風戸・文香(エレクトリカ・e22917) |
ルーナ・エフェメリス(月の星読み・e43420) |
鋳楔・黎鷲(天胤を継ぐ者・e44215) |
鷹崎・愛奈(天の道を目指す少女・e44629) |
エリザベス・ナイツ(駆け出しケルベロス・e45135) |
ヴァルーシャ・ジノ(コルタナの戦鬼・e50435) |
●平和のために
田舎の一軒家に怪しげな経文が響いている。
太めのミミズクのようなカムイカル法師とビルシャナになってしまった江場・薫。そしてその二人を無表情に見ているダモクレスという異様な光景がその家の一室に成立していた。
突如、玄関から派手な音が響く。それからほとんど間を置かず、突如ダモクレスの目前が爆発。
「エリザベス参上よ! 覚悟しなさい」
言葉と共に飛び込んだエリザベス・ナイツ(駆け出しケルベロス・e45135)がそう宣言すると、続いてケルベロス達が部屋へと飛び込む。
反撃に書物から粘菌を召喚するが、それは空木・樒(病葉落とし・e19729)に阻まれ、続く怪しげな木魚の音が響くが、こちらはルーナ・エフェメリス(月の星読み・e43420)に妨げられ、彼女が展開した星座の結界、そして白竜のアルマの治療により傷は塞がれた。
さらに年若いオウガの女が縛霊手から紙兵を取り出しばら撒く。超えた死線は数知れず、けれどもケルベロスとしては初陣の彼女、ヴァルーシャ・ジノ(コルタナの戦鬼・e50435)はマイペースに室内の状況を見遣る。
守りを固める間に赤い翼の少女、鷹崎・愛奈(天の道を目指す少女・e44629)が旋風の如き蹴りを輝きの書に叩き込む。金属の翼を盾に直撃を防いだものの、続く瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)が腕だけ黒い狐のそれをダモクレスに高速で叩き込む。さらにその後ろから小柄な影が飛び出し、大地を断ち割るような一撃を打ち下ろす。風戸・文香(エレクトリカ・e22917)の正確な一撃は、ダモクレスの機動力を殺ぐ。
そこに鐘の音が響き。ダモクレスの破損は修復されてしまう。
鐘の主は被害者である薫。
「平和の敵ですね。お金で満たして争いを封殺する、その為に貴方達を撃退しなければなりません」
狂信染みた言葉を言い放った。
「金、金、金か。俗世は金で回っていると言うが、辟易するな」
くだらん、と吐き捨てるように仮面の剣士は鋳楔・黎鷲(天胤を継ぐ者・e44215)。
「お主達の好きにはさせんぞ!」
カムイカル法師が声を上げ、戦いが始まった。
●輝きと鳥達
「見える手札だけが、戦いのすべてではありません」
微笑を崩さぬまま、樒が薄明るい粉末、自作の薬を黎鷲に振りまき纏わせる。
そのタイミングを埋めるよう文香がビルシャナ達へと鋼の鞭を伸ばすが、相手はまだまだ涼しい顔。
ダモクレスが書を捲り、圧縮言語を口にして己の力を高める。それを妨害しようと内蔵のジェットエンジンで急加速した千紘の拳が放たれるが、それは回避される。けれども連携して動いていた愛菜の音速の拳が追撃し命中、加護は砕かれた。
「薫ちゃん、内定ブルーというやつかしら?」
飛びのきながら薫を見やり、千紘が小声で推測。
「進路というか仕事の悩みが変な方向に出ただけ、とは思いますが……」
文香が応えるが、実際その辺りの不安も付け込まれる隙になったのかもしれない。
オウガの女が長い髪を靡かせ、前衛のケルベロス達の体表に流れるように指を走らせれば、そこに豊かな色彩が描かれ、その力を増幅する。
「――力を解き放て。倒すべき敵はここにいるぞ」
それに重ねて黎鷲が指先を軽く切り、半ばから折れた紅く錆び付いた天胤剣に自らの血を与えると、それに反応した前衛の武具が力を増す。彼の言葉通り、まるでそこに討つべき邪悪を見出したかのように。
「ほーほう!」
膨れた羽毛の中から取り出した経典を法師が唱え始める。近くにいたケルベロス達を縛ろうとするそれは、ルーナとアルマが千紘とエリザベスを庇うと、白竜の少女が幻影を纏わせ、白竜は属性インストールによりその傷を癒やす。
暫く膠着したまま戦闘は続く。
赤い少女が翼を広げ舞い上がり、ダモクレスの脳天に斧の一撃。機械の翼にめり込み、その機能を幾許か奪う。
「フォーリングスター!」
擬似的な流星群を創造し、敵に降り注がせる禁呪をエリザベスが発動。鮮やかな光の矢はダモクレスの輝きにも負けず損傷を与える。さらに文香のスピニングドワーフの突撃と黎鷲の洗練された達人の一撃が続き、金属のボディの守りを貫く衝撃を与えた。
文香は最初カムイカル法師を狙おうとしていたが、遠くの相手を狙う手段を一つしか準備していなかった事、そして仲間と共に輝きの書を狙う方が早いと標的を切り替えている。
輝きの書が翼から光線を放つ。標的となったヴァルーシャが大棍棒を盾に防ごうとする。しかしその前にアルマが割り込み防ぎきる。
「サンキュ!」
礼と共に拳を向け、同時に動いたルーナが飛ばしたオーラと合わせアルマの負傷と呪縛を消し飛ばす。
薫も光線を放つも、此方は樒が射線に割り込み流れるような動きで一部を受け流し逸らす。
「わたくしの護りを突破できるなどと、思わぬ方が賢明です」
余裕を崩さず、冷静に彼女はそう言い放つ。
護り手の連携は万全。その上癒し手二人、そして護り手の一人であるルーナが回復に専念している事、そして序盤に樒によって癒しの力を高められている事もあり、強力なデウスエクス達の攻撃を受けてもそう簡単に崩されるようなことはない。
攻撃に移る余裕を見て取った樒が影の如き斬撃を見舞う。全員が回復手段を持つとはいえ、守りを崩され集中攻撃を受けては輝きの書にもダメージは相当蓄積される。一旦後退しようとした輝きの書の腕が掴まれ、ぐいっと引き寄せられる。
「せーのっ!」
引き付けたのは千紘、掴んだ側の光とは対照的な闇の気を纏った拳がダモクレスを砕いた。
「次はこっちね!」
エリザベスが精神を集中させ、爆発を引き起こすがそれは標的からは僅かにずれた場所。
「ええい、まだまだ!」
ルーナにビルシャナ達の経文と真言が向けられるが、白竜の少女は耐える。相手が強敵でも自分が倒れても仲間を信頼しているから、皆がきっと助けてくれる。独りじゃないとわかっているから、
(「決して諦めない……の」)
そんな彼女に拳圧、そして黎鷲の光の盾が彼女を癒やし、そして防護する。
輝きの書が破壊され、直接法師を叩けるようになると一気に戦況は傾いた。
眼光鋭く火力を高めてもそれは砕かれ、突如引き起こされる爆発は火力を削る。その分、回復に回っていたケルベロスが攻撃に回る余裕もできる。
「クロックアップ!」
その言葉を愛奈が宣言した直後、彼女だけ時間を超加速したように高速移動し、そのまま法師への連撃へと繋げる。誰かのために頑張る者を惑わせる悪い奴、手加減など無用とばかりの攻撃だ。
「今日は帰さないですよ♪」
連撃が終わった瞬間、法師の額に強烈な衝撃、たっぷり力を貯めた千紘の雷光昇華が額を打ち、法師を錐揉み回転させ吹き飛ばした。
薫が法師を回復するが、黎鷲がその仮面の下に纏わる呪いにより彼を縛る。
「面倒をかけてくれる。易々とビルシャナの甘言に乗るとは……大人しくしていろ」
戦いは我等ケルベロスの領分だ、そう言い放つと彼は法師の方へと視線をやった。
「甘言など……平和を求める心、それは彼の真より出でしものなのですぞ」
「如何なる思想を持とうが個人の自由、少なくともビルシャナの教えに感化を受ける筋合いはありません」
よろよろと立ち上がったカムイカル法師の言葉に樒が静かに反論し、加速させたハンマーで打ち据える。彼女にとって普段使いではない武器だが、不慣れを感じさせないのは鍛錬の成果ゆえか。
「開放します! サン・ニー・イチ・開放!!」
文香の手に持つ棒がカムイカル法師の頭上に伸ばされ、そのまま引き下ろされる。鳥の瞳は脳天割りの衝撃に備えたが衝撃はない、代わりに何故か体が倦怠感に襲われたように動きを鈍らせる。
「そこっ!」
エリザベスが黒曜石製のロッドでカムイカル法師を指し示すと、流星が降り注ぐ。動きを鈍らされた法師はそれを避けることもできず、その翼を散らした。
これでようやく、薫に言葉が届く。
●理想の為には
「金だけでは得られないものがある、少なくとも、我等はそれを知っている筈だ」
だからそれを奴に教えてやればいい、と黎鷲がビルシャナに傲岸不遜に真正面に立つ。
「理想を変えるつもりなど……ぐはっ!?」
薫の顔面に、いきなり千紘の漆黒を纏った右手がめり込む。無言のままの一撃は、ビルシャナの影響があるとはいえども彼の考え方への怒りでもあった。
「確かに、皆がいっぱいお金を持っていれば競争はなくなるかもしれない。でも、そのお金ってどうやって手に入れるの?」
生活に最低限のお金を行き渡らせる事でさえお金の確保は大変だって聞いたことあるけど、と現実的な視点から愛奈が問う。
「だからこそ菩薩様のお力に縋って行き渡らせればいいんじゃないか」
なにを当然の事を、とでも言うかのように薫が答える。
「言いたいことはわかるんだけどサ、それだと経済が回らんのよ」
どこか砕けた口調でヴァルーシャが続ける。
「そもそもお金なんて必要ないってことになっちゃうだろ? 穏やかに生きるも結構、だがそんな植物みたいな生活が本当に楽しいか?」
少なくとも私はごめんだな、と切り捨てる。
「人は……好きなものを選びたい」
ルーナが静かに言葉を紡ぎ始める。
「欲しいものを手に入れたい……から競い合うの。好きなものを好きなだけ手に入れること……それ……が競争だと思うの」
もし競い合わないなら、好きなものも我慢しないといけない、それが彼女の考えだ。
「それがあなたの幸せ……なの? 望みなの? 競争は辛い……比べられるのは……怖い」
それは自分もわかると、そう言う。
「だけど、優劣があるから、比べられる……から頑張る……の。良くない争いもある……けど」
好きだからこそ拘りたい、吟味して選びたい、あなたは違うの? と薫に問いかける。
「……争いのない以上に素晴らしい事は、ない」
薫はそう言い切り、真言を唱える。けれどもアルマがそれを防ぎ、己の傷を癒やす。説得の間も戦闘は続くが、全ての言葉をかけ終わるまではとケルベロス達は守りを厚くしている。
「皆が皆、お金持ちになったって戦いは無くならないと思うの。状況がね、変わっただけじゃ、人の心はまた別のものを求めて結局争っちゃうと思うの」
エリザベスはそう、彼の夢想を否定する。
「平和な世界、良いものですね」
樒が薫の思想に同意するような言葉を口にする。
「ところで、まずもって皆が満足できるぐらいのお金はどこから出てくるのでしょうか?」
「だから菩薩様のお力で……」
「そして貨幣量の増加の先には何が起こりますか? それは物価の上昇、インフレーションです。好きなものを好きなだけ購入するなど、決して不可能ですよ」
薫の思想をバッサリと切り捨てる。
そもそも樒にとっては聞き飽きた主張、フラットに何も響いていないのだ。
「金があっても争いはなくならん。落差がなくなれば他人よりももっと多く、もっと裕福にと求める者が必ず出てくる。そうなればすぐにまた競い合い争い始めるだろう」
つまり、決して平等にはなりえない。傲岸不遜に黎鷲ははっきりと言い切る。
「それに金では決して揺るがせないもの、買えないもの、誰もが持っているはずだ。お前が今まで育んできた絆やお前自身の心は、金で買えるのか?」
買えないものがあるならば、満たしつくす事もできない。金は万能ではなく、争いを完全になくす道具にもできない。
「好きなものを好きなだけお金で買って満たされる世界が実現するなら、千紘の死んだお友達の命を買い戻してくださいませ」
千紘は幼く見られがちだが、体験してきた出来事は数多い。
友達の命と引き換えに護られた世界、それをひと目で良いから見せてあげることができたなら。そんな憧憬が彼女に言葉を続けさせる。
「人の心が、命が、お金で買えると思っているなら大間違いですよ。この愚か者が……」
最後の方は涙声で擦れ。友の死の辛さを思い出し涙が零れ落ちるが薫から目を逸らしはしない。
悲しむ人を増やさないために、彼を人間として戻れるようにするのだから。
「結局は自分の、家族の穏やかな時間を得るためにも、頑張って、競って、働いているんだと思う。あたしもそうやってお父さんやお母さんが頑張ってくれたから幸せに生きてこれたんだと思うの」
割と裕福な家庭で育ってきた愛奈だが、その生活を努力し、他の誰かと競争してきた結果作ってくれた両親を想い、言葉にした。
「賄賂だの安全性無視だの、お給料を不当に安くする等『正しくない競争』は論外ですが……」
星座の力を護りとし、文香が声をかける。
「電化製品というか、電気をより便利に、安全に使うが為に日々メーカーの方々は、競争しています」
より少ない電力で、より明るく、速く、いい音で。あるいはより静かに、揺れなくて、強力に。
そんなよりよい未来の為に努力するのも、また競争による恩恵の一つだ。
「ある意味、文明というか電化製品の進歩は切磋琢磨すること、『正当な競争』によるもの。電気店の娘の私だって、私のところなら間違いはない、直したオーディオは末永くいい音が出せると人々に任せられ、喜んで貰う為に研鑽してるんです!」
それすらも否定するのかと、薫に迫る。
「本当は貴方もビルシャナの力を借りて無理やり状況を変えたって、争いが本当の意味で無くならないなんて気づいてるでしょ?」
エリザベスが薫の迷いを指摘する。
「『生きること』それそのものが競争、その事実から目を背けて逃げちゃだめだぜ?」
ヴァルーシャが薫が見ないようにしていた急所を突く。
「世界平和を唱えなくても、みんな、それなりに幸せなんです」
どうか、不幸を押し付けないで。そう涙を拭った千紘が言葉にする。
そこに至って、言い返せなくなったのか薫が反撃を止める。程なくして薫は倒れ、人の姿を取り戻した。
●地道に一つずつ
ルーナとヴァルーシャが薫の無事を確認し、樒と文香が部屋の壁や機械類にヒールをかけ修復する。
意識を取り戻した薫は冷静さも取り戻したようで、頭を抱えていた。
「お仕事、頑張ってください!」
そんな彼を愛奈が励ます。
「私も的確な答えは出せないけど、もっと一緒に考えましょう?」
エリザベスも励ますように言葉をかける。その問題は複雑。一朝一夕に片付くものではないが、他者と考え続ける事で少しずつ解けていくのだろう。
そんな彼の様子を見て黎鷲の雰囲気が少しだけ柔らかくなる。傲岸不遜な彼も正しい努力は真っ当に評価するのだから。
「実は、ちょっぴり姿を変えてお友達は戻って来てくれました」
千尋が薫に小声で内緒話。それが比喩なのかはたまた真実なのか、それは金狐の彼女のみぞ知る事。
(「でも、あんなに悲しいお別れはこりごりですよ」)
平和を求め道を踏み外しかけていた青年は、こうしてケルベロス達に救われたのだった。
作者:寅杜柳 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 4
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