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茨城県の海水浴場--。
日曜の昼間、大勢の一般人がこの海水浴場を訪れていた。
潮干狩りをするためである。多くは小さい子どもが一緒の家族連れで、中にはおじいちゃんおばあちゃんも一緒になって、砂浜を道具で掘り返し、潮干狩りを楽しんでいる。
子ども達のはしゃぐ声が聞こえ、大人達はその声を聞いて笑い、実に幸せそうな休日の光景であった。
そのとき、大海原の上に広がる空にあやしい光が輝いた。
輝きは見る間に巨大な牙となり、砂浜に突き刺さる。それはたちまち三体の竜牙兵となった。
「オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ」
「オマエたちがワレらにムケタ、ゾウオとキョゼツは、ドラゴンサマのカテとナル」
竜牙兵は、そう言うと、周囲の人々を無差別に殺戮し始めた。
「グァァァハハハ」
血と臓物の溢れた砂浜の上で、竜牙兵の咆哮が響いていた。
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ソニア・サンダース(シャドウエルフのヘリオライダー・en0266)が集めたケルベロス達に説明を開始した。
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)は真面目に話を聞いている。
「茨城県の海水浴場に竜牙兵が現れ、人々を殺戮することが予知されました。急ぎ、ヘリオンで現場に向かって、凶行を阻止してください。竜牙兵が出現する前に、周囲に避難勧告をすると、竜牙兵は他の場所に出現してしまう為、事件を阻止する事ができず、被害が大きくなってしまいます。皆さんが戦場に到着した後は、避難誘導は警察などに任せられるので、竜牙兵を撃破することに集中してください」
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ソニアは説明を続ける。
「出現する竜牙兵の数は、3体です。装備している武器は簒奪者の鎌です。彼らの狙いは潮干狩りを楽しんでいる人々ですね」
ドレインスラッシュ理力近単斬撃+ドレイン刃に「虚」の力を纏って敵を激しく斬りつけ、傷口から生命力を簒奪します。
ギロチンフィニッシュ頑健近単斬撃+フィニッシュ刃に「死」の力を纏い、敵の首筋をめがけて振り下ろします。
デスサイズシュート敏捷遠単斬撃+【服破り】鎌を回転させながら投げつけます。回転する鎌は敵を斬り刻んだ後手元に戻ります。
レギオンファントム理力遠列破壊+【石化】両手の鎌に宿る怨念を解放し、亡霊の群れを敵へと放ちます。
「なお、竜牙兵は戦闘が開始されると敵に集中し、人々を襲ったり撤退するという事はありません。強さは我々ケルベロスと同程度と思われます」
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最後にソニアはこう言った。
「竜牙兵による虐殺を見過ごす訳には行きません。どうか、討伐をお願いします」
参加者 | |
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天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009) |
ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033) |
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024) |
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471) |
イーリス・ステンノ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16412) |
ルティア・ノート(ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e28501) |
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079) |
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359) |
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潮干狩りに竜牙兵が急襲してくる--。
その情報を得たケルベロス達は、迅速に行動を開始した。
目の前には大海原と砂浜が広がっている。
日曜の午後、三月の陽光の下で、大勢の家族連れが道具を片手に貝を捕ってを楽しんでいた。笑顔で走り回る子どもも居れば、楽しげな両親も、目を細めて孫を眺める祖父母もいる。心和む、のどかで優しい光景である。
(「こんな平和な家族の田の下を邪魔する敵は必ず倒してみせるよ」)
比良坂・黄泉(静かなる狂気・e03024)は罪のない一般人の笑顔を前に、気合いを入れていた。
ケルベロス達は予定の時間より少し早く砂浜に到着し、一般人達に紛れ込んでいるのである。
「またしても竜牙兵ですか……! 潮干狩りは私も大好きですから、いつも以上に全力で参ります……!」
天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)はそう呟いて唇を噛みしめた。
「潮干狩りは楽しいですよね。そんな中竜牙兵が現れるとは、見過ごすわけにはいきませんよ」
ミント・ハーバルガーデン(眠れる薔薇姫・e05471)もまた、憤りを感じているらしい。
「あぁ、なんか久しぶりに鳥以外に来たような気がするわ……専属のつもりもないけど、偶には他の相手もいいわよね♪」
イーリス・ステンノ(オリュンポスゴルゴン三姉妹・e16412)は、ビルシャナ続きで少し疲れているらしい。
「竜牙兵の行い、許せるものではありません。全て倒しきり、人々を守りましょう!」
ルティア・ノート(ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e28501)はひそかに武器を握り締めた。
「家族の楽しい時間か……そういえば、家族を殺された誕生日の日、悲劇が起こる前の俺も、あの子供達の様に笑顔だったような気がするな……俺の家族もそうだった。この笑顔に溢れる日常を踏み躙る輩を俺は絶対に許さん!」
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)は、遠い昔を懐かしみ、そして戦意を新たにした。
「……全く、いつも、いつも、無粋だ、ね」
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)は途切れ途切れに呟いた。潮干狩りの家族連れを狙うであろう竜牙兵に対して。
ケルベロス達は牙が落下する地点から少し離れて、竜牙兵を待っている。
午後一時直前。
春の澄み渡った空で不穏な光が輝いた。光は急激に大きくなりながら落ちてくる。
それは巨大な真っ白な白い牙であった。
『牙』が砂浜のど真ん中に突き刺さる!
つんざく家族連れの悲鳴。
悲鳴が上がる中、牙はたちまち3体の骸骨兵士に変身した。ドラゴンの尖兵、竜牙兵である。
「下等生物ドモ、ドラゴン様に平伏セ!」
「貴様ラノ、グラビティ・チェインコソ、我等ノ糧ダ!」
グラビティ・チェインを狙い、竜牙兵達は手にした簒奪者の鎌を振り回し、一般人に襲いかかろうとした。
泣き叫び、逃げ惑う一般人。
あらかじめ配備されていた警官達が飛び出て来て、警笛を鳴らしながら必死に避難誘導を開始する。
続いて十三が一般人の前に飛び出て竜牙兵の前に立ちはだかった。
「あなたたち、の、相手、は、こっちだ、よ」
黒兎杖から牽制の攻撃に火でできた兎を放ち、竜牙兵の注意をこちらに向け、一般人への被害を防ごうとする十三。
「念のため、だ、ね」
さらに殺界形成を使う。
イーリスもまた、警察官に仕事を任せつつ、殺界形成を張り巡らせて一般人の避難を促した。
「大丈夫です、私たちはケルベロスです。誰も犠牲者は出させませんので、安心して、落ち着いて逃げて下さい」
ミントは隣人力を使用し、警官の一人にそう声をかけて竜牙兵の前に走った。
「竜牙兵! 私達はケルベロスです。一般人を襲うならば、私達が相手になります!」
そう叫び、ミントはRULE of ROSE(リボルバー銃)を構えた。
カノン、恭介、黄泉やルティアも駆けつけてくる。
「皆さん、ケルベロスです! 警察の指示に従って、一旦避難してくださーい! 大丈夫、こんな奴らすぐに片付けますから!」
隣人力を使いながら、ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)もライドキャリバーのディートに乗って砂浜の上に滑り込んできた。
「ケルベロス……?」
竜牙兵達は暗闇の眼窩に怒りの炎を宿した。
「ここは、家族が潮干狩りをするための場所だ! 貴様らの狩場ではない! 消え失せろ!」
恭介が鋭く叫んだ。竜牙兵達は逆上した。
「小賢シイウジ虫ドモメ! 消エ失セロ!!」
「貴様ラニ用ハナイ!」
「邪魔ヲスルナラ、殺ス!」
竜牙兵達は口々に罵声を喚き立て、簒奪者の鎌を大きく振りかぶった。
竜牙兵Cr1は、簒奪者の鎌を大回転させながら放り投げた。鎌は恐ろしい勢いでぐるぐると周りながら恭介へと襲いかかる。
突然の攻撃に反応が遅れる恭介。
しかし、その彼の前にディフェンダーのカノンが飛び出た。
美しい翼の光を散らしながらカノンは鎌を防具で受け止める。
「くっ」
ダメージを半減していても、Crの威力は凄まじい。衝撃に片膝を砂浜に突くカノン。
続いてCr2が簒奪者の鎌の刃の先に「死」を纏いながら腕力にものを言わせて勢いよくルティアへと斬りかかる。
しかしヴィットリオがディートとともに前に飛び出てその攻撃を受け止めた。その威力にタイヤがスピンして砂を飛び散らせる。
Cr3がさらにギロチンフィニッシュでミントを狙う。しかし力任せの攻撃を、ミントは間一髪で身軽にかわした。
「回復します!」
カノンはオーロラのような光で自分と仲間達を包み込み、治療と回復を行った。
『青き薔薇よ、その神秘なる香りよ、深遠なる加護の力を以て癒しを与えよ』
ミントは、青薔薇の芳香を使い、アロマオイルの小瓶を開けて青薔薇から抽出した香りを周囲に振りまき、仲間を回復する。
ヴィットリオは稲妻を帯びた超高速の突きをCr1に繰り出した。神経回路までも麻痺させていく稲妻。
主の動きに合わせて、ディートはデットヒートドライブを炸裂させた。
「これでも喰らえ!」
黄泉は流星の煌めきを帯びながら重力の跳び蹴りをCr1へとぶちかます。
「潮干狩りで熊手がないからって鎌持って貝の代わりに、人を狩るのはどうなのかな~? まぁ、アタシたちは骨狩りだけどね♪」
イーリスは縛霊手の掌から、竜牙兵を滅殺するための巨大な光を撃ち出した。竜牙兵全体を麻痺させていく滅びの弾丸。
「まずは、その動き、止める、よ」
続いて十三も御霊殲滅砲を撃ち放ち、竜牙兵を立て続けに滅びの光で攻撃していく。麻痺に次ぐ麻痺。
「大丈夫です。今癒します」
ルティアは九尾扇を使い、カノンに幻夢幻朧影をかけて回復していった。
「動きを止める!」
恭介は緩やかな弧を描く斬撃でCr1を捕らえていく。
「グ……ク……」
打ち寄せる波のように途切れ目のないケルベロスの攻撃。
それに対して悔しげに顔を歪める竜牙兵達。
「大人シクシロ!」
「殺サレルシカ価値ノナイウジ虫メ!」
怒鳴り散らしてさらに攻撃を仕掛けてくる竜牙兵。
Cr1は刃に「虚」を纏いながらカノンに斬りかかるが、既に力を失っており空ぶった。華麗にかわすカノン。
Cr2はその死角から「虚」を帯びた刃でカノンに斬りかかり、肩口を切り裂くと一気に生命力を吸い取った。
Cr3もまた体力を回復しようとドレインスラッシュでヴィットリオを斬りつけ、生命力を吸い上げていく。
二人からほとばしる鮮血。
「効きません」
しかしカノンはルーンアックスを鮮やかに振りかざし、自らに「破壊のルーン」を宿して、魔術加護で回復していく。
「お返しさ!」
ヴィットリオは地獄の炎の弾丸をCr1に撃ち出した。地獄の炎がCr1の生命力を奪い返してヴィットリオの体力を高めていく。
ルティアは紅壱式-H。STear M。P-(鉄塊剣)に無数の霊体を憑依させ、そのままCr1を猛然と斬りつけた。傷口から汚染されていくCr1。
「がはっ……」
そんな声を立てたかと思うとCr1は砂浜の上に脆くも倒れ伏し、そのまま沈黙した。
「バ、バカナ!」
狼狽える竜牙兵Cr2、Cr3。
すかさずケルベロス達は畳みかける。
黄泉は空高く跳躍すると、ルーンアックスを振り上げ、重力も使ってCr2の脳天を叩き割ろうとした。
「きゃはっ♪ キミは、どうするのかな、かな?」
イーリスは螺旋手裏剣を投げる。
螺旋手裏剣は空中で無数に分裂し、雨霰のごとく竜牙兵達へと降り注いだ。
『【月喰み】解放……内なる、怨霊、今や、迷う故、無し……踊れ』
十六夜:妖兎・不迷(イザヨイ・ヨウト・フメイ)を使う十三。
「十六夜、敵を、全部、燃やし、呪って」
【月喰み】の内にある呪いに満ちながら迷いうごめく怨霊に、自身の敵に対する殺意を乗せて解放していく。解放された怨霊は何故か黒い兎の形をとり、縦横に跳ねて敵に襲い掛かり、混乱の渦に落とし込んでいくのだ。
その兎の力により今までの傷口を増しに増していく竜牙兵達。
「この飛び蹴りで、その機敏な動きを封じてあげます」
ミントはCr2に向けて、流星の光を纏いながら重力を乗せた跳び蹴りを撃つ。
「突き崩す!」
恭介は雷の霊力を帯びながら、日本刀で疾風のごとく突進し、Cr2の装甲を打ち砕いた。
「下等生物、下等生物ガァッ!」
怒り狂って吼える竜牙兵達。
「絶対ニ殺シテ、腸ヲ、ヒキズリダシテヤル!」
喚きながらCr2は満身創痍の姿でギロチンフィニッシュでヴィットリオに斬りかかる。
「砂浜だからって、ディートの動きが鈍くなるとは思わないことだね」
しかしヴィットリオはディートを前に出し、ライドキャリバーで攻撃を防いだ。
それを見て、Cr2は二本の簒奪者の鎌を春の空に天高く掲げた。
澄んだ青空を不気味な霊力が灰色へと変えていく。簒奪者の鎌から解き放たれるのは怨念、亡霊、凄まじい憎悪と怨嗟の声。
解放された亡霊達は一斉に、ケルベロス達へと襲いかかった。
カノンの腕が、ヴィットリオの足が、ミントの指が--次々と石化していく。
黄泉も、ルティアも、恭介も、レギオンファントムによる亡霊の力で石に変えられていく。
「こんなところで負けるものですか!」
完全に石化する直前、カノンは渾身の力を振り絞ってオラトリオヴェールを使った。オーロラのごときエフェクトが飛び散り、瀕死の仲間と自身を救っていく。
『燃え上がれ、活力の炎っ!』
ヴィットリオはセイクリッド・ホワイトフレアを使う。
体内のグラビティチェインを、生命力を活性化させる白色の炎へと変換し仲間達を包み込んだ。
前衛達は完全に体の自由を取り戻した。
「下等生物でもこれぐらい出来るんだよね」
黄泉はパイルバンカーを構えると螺旋力をジェット噴射、突撃。装甲ごとCr2をぶち抜いた。その瞬間、Cr2は噴射の勢いで遠い浜まで吹っ飛び脳天から落ち、動かなくなった。
ミントは電光石火で蹴りを撃ち放ち、Cr3を麻痺させていく。
「これで、とどめだ、よ」
十三は掌に「ドラゴンの幻影」を召喚し、その炎でCr3を焼き払っていく。
ルティアは地獄の炎を紅壱式-H。STear M。P-(鉄塊剣)に纏わせ、渾身の力をこめてCr3に叩きつけた。
『―――狙った獲物は、逃がさないかな♪』
刃纏いし七色鳩(ペリステラー・イリス)を使うイリス。
己が羽を刃に変えて、東奔西走す。―――狙った相手を追いかける七色に輝く刃を纏った鳩を召喚する。その刃がどこまでもCr3を追いかけて切り裂いていく。
『俺の剣が見えるか? 何回斬ったか分かるか?』
我流剣技・双剣乱撃無間斬(ガリュウケンギ・ソウケンランゲキムゲンザン)を放つ恭介。
鉄塊剣と刀による連続攻撃。その攻撃は、まるで絶え間なく続くかの如き猛攻で、敵は何回斬られたか分からないまま斬られ続けるしかない。
斬、斬、斬、斬--そしてCr3はトドメを刺され、動かなくなった。
●
戦闘後、カノンとルティアが中心となって、ケルベロス達は周囲にヒールと片付けを行った。
イーリスはわざとらしいほどやりきった! という顔をしていた。
無事に敵を倒し、事後処理も終えたので、黄泉は避難を行ってくれた警察官達にお礼を言いに行き、潮干狩りの一般客にもう大丈夫だと伝えた。
ミントも避難勧告が解けたのを喜んだ。
「せっかくですので、私達も潮干狩りを楽しみたいです」
ミントがそういうと、ルティアも言った。
「潮干狩りって私、したことないので興味があります。というわけで挑戦したいです!」
そういう訳で興味のあるものは次々に熊手を持って潮干狩りを始めた。
その周辺では戻って来た人々が楽しそうに笑いながら貝を獲ってる。
「家族、で、潮干狩、り……よく、わからない、ね」
十三は眠たげな無表情のままそう言った。
「潮干狩りもいいんだけど……いいんだけどさぁ! せっかくの海水浴場なのに……うう、夏ならなぁ!」
ヴィットリオは実に正直な事を言っていた。
恭介は家族が楽しく過ごしているこの光景を見て、悲劇を回避し、ごく普通の日常を守れた事を噛みしめた。
彼は安堵の表情で砂浜を立ち去った。
(「俺のような悲しみを負う家族が生まれなくてよかった--」)
何気ない日常のヒトコマにこそ幸せはある。
ケルベロス達はそれを守った。
だから、ケルベロス達も、幸せになっていいのである。
作者:柊暮葉 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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