ミッション破壊作戦～竜の牙

■リプレイ

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　ミッション破壊作戦、『軽井沢保養地域』－－。
　歴史ある避暑地、別荘地であるそこもまた、デウスエクスの魔手に落ちている。
　そこにある魔空回廊を破壊し、人の手に奪還するために、ケルベロス達はヘリオンを飛ばしている。
　ヘリオンの轟音を聞きながら、ケルベロス達はミッションについて話し合った。
「にしても、竜牙兵が、ねぇ……。テニスコートで爽やかに汗を流すんじゃなく、同族同士で命を流し合って合体するってんだから、世も末って奴だな。それにしても、竜牙兵ってのはあんな事をしないと強くなれないってのは可哀そうだな。下っ端は下っ端なりに苦労してるって事か。破壊出来たら、周辺や骨の山を調べてみるかな。なんせ、半端モンとはいえデウスエクスの端くれ、何か解るかも」
　水無月・鬼人（重力の鬼・e00414）は、ミッション地域の調査をするつもりだ。
「人を襲うだけが魔空回廊の役目じゃないってのは、よく考えられたものだがね。見つけちまえばこっちのもんだ」
　村雨・柚月（黒髪藍眼・e09239）は、日本刀を握り締めながら言った。
「竜牙兵もドラグナーもドラゴンも、私達オウガみたいに定命化すればいいのに。地球はこんなに良い所なんだから満喫しなきゃ損よ。死なない事ってそんなに大事なのかしら？」
　荒谷・つかさ（疾風迅雷の鬼娘・e50411）は、竜牙兵の事を考えて首を傾げている。
　そうしているうちに、ヘリオンは早くも目的地の上空に到着した。

　降下口に向かえば、眼下に半径30メートルほどのドーム型のバリアが張り巡らされている。ドームの内部が強襲型魔空回廊だ。その魔空回廊の内部で、竜牙兵が合体進化し続けているのである－－今も。
　デウスエクスの執念に戦慄を覚えるケルベロス達。
　だが、彼らは臆する事なく、一人一人、降下口へと降り立った。

「テメエらのしてる事は単なる破壊行為だ！」
　まずは月宮・朔耶（天狼の黒魔女・e00132）が一声高くそう叫んで、降下口から飛んだ。

「竜牙兵が何やってるかは知らないが、人様の星にまで来て、勝手に進化してるんじゃぁねぇ！　そういう事は迷惑にならない所で、勝手にやって、勝手に自滅してろ！　我流剣術、鬼砕き！　欠片も残さず砕け散れぇぃ！」
　鬼人はヘリオンから飛び降り、風を受けて急降下しつつ、オリジナルグラビティを使う。

「死の無いお前たちには、自らを破壊する事に躊躇はないんだろうね。だが、人間は違う。生も死も一度きりだ。だから、お前達みたいなやつらに奪われるのは許せないんだよ。何度、再生しようが、強く産まれ変わろうが、この地獄の炎にかけて、何度でもお前達を燃やし尽くしてやる！　絶対に負けやしない。必ず壊してやる！」
　ルベル・オムニア（至高の赤・e02724）は熱い決意をぶつけながらグラディウスを握り締め、飛び降りる。

「蒼き星の緑の大地、命の歌で満たされたこの世界を、殺戮の牙がもたらす朱、そして絶望と悲嘆の漆黒には染めさせん。天より飛来し忌まわしき竜の牙よ、貴様らを砕くのは我ら地獄の番犬の牙だ！」
　リィン・シェンファ（蒼き焔纏いし防人・e03506）は、鋭く叫び、ドームへと飛び降りた。

「竜牙兵からより強力な竜牙兵を作り上げる。ただでさえ竜牙兵は無尽蔵に存在するんだ。これを放置すれば精鋭部隊が次々に出来上がり、被害があっという間に日本全国に広がるのは目に見えている！　軌道に乗せてはいけない。思い上がらせてはいけない！　竜の眷属に希望を与えちまうなんて、バカな真似をする気は毛頭ないんでな！　今すぐお前らを叩き潰して全ての野望を砕いてやる！」
　柚月は光る小剣グラディウスを構え、まっしぐらにドーム型バリアに突っ込んで行く。

「あんた達が別に死んでるわけじゃないってのはわかってるんすけどね。骨の山から生まれた強きモノ、あんた達は、廃棄物から生まれた俺たちにちょっとだけ似ていて、決定的に敵だ」
　篠・佐久弥（塵塚怪王・e19558）は皮肉に口を歪めた。
「同胞よ――いまひとたび現世に出で、愛憎抱くトモを守ろう。ヒトに愛され、捨てられ、憎み、それでもなおヒトを愛する我が同胞達よ――！」
　呪うように笑いながら、佐久弥はグラディウスを握り締め、ヘリオンから飛び降りる。

「竜牙兵の改造施設……こんな物があっただなんて。デウスエクスが力をつけたら、また誰かが、誰かの大切な人たちが傷つけられちゃう……こんな危険な施設をそのままにしてなんておけない！　皆が笑顔でいられるように！　誰かにとっての大切な人が１日でも長く生きられるように！　こんなもの、私が今ここで絶対に壊してみせる！」
　長谷川・わかな（笑顔花まる・e31807）は、魂の叫びを上げると、グラディウスを手にドームへと急降下した。

「遥か彼方からやってきた私達を受け入れてくれた、優しい人達。プラブータには無かった、豊かな自然や面白い文化。そして何より、美味しそうなお酒（今はまだ飲めない）に美味しい食べ物（特にラクシュミ様も夢中のメロンパン）！　そのためだったらこの力！　全力で振るったげるわ！　私は！　この！　地球がっ！　大好きだあああああッッッ！！！」
　つかさは一段と大きな声で叫び、グラディウスを思い切りよく構え、ヘリオンからドームへ向かって飛び降りた。

　ケルベロス達が一人飛び降りる度に、グラディウスの先端がバリアへと触れる。
　高空から急降下する勢いもあるのか－－その度に、凄まじい爆炎と轟雷が巻き起こり、スモークが濛々と立ちこめた。
　立て続けに火柱は８回爆発し、同時に雷撃が辺りを飛び交った。スモークは全く、視界がきかないほどで、ケルベロス達はその中をくぐり抜けて敵の襲来を回避する。

「廃墟は探索も画像を見るのも好きだが…アレはないわぁ…」
　朔耶が強襲魔空回廊の方を振り向きながら言った。
「おい、見ろ」
　鬼人が合流した柚月に話しかけた。
　８人のケルベロスの目前で、半径30mのドーム型バリアに縦横無尽に亀裂が入るのが分かった。
　ドン、ドン、と自分達のものではない爆炎が起こり、火柱が燃え上がる。そして、彼らの見ている前で、轟音を立てながらドーム型バリアは崩れ去った。
　作戦、成功。
「どこにでもありやがるなホント……ま、ここはきっちり潰したぞ」
　柚月はそう言って笑った。
　ケルベロス達は歓声を上げて喜んだ。

　喜びも束の間、舞い踊る煙の向こうに無骨な影が宿る。
「ココニ、イタカ－－」
　煙をかき分けるようにして、３体の竜牙兵が現れた。
　竜牙猟兵（近接型）。
　竜牙猟兵（射撃型）。
　竜牙猟兵（魔術型）。
　それぞれ微妙に装備は違う。そして、ケルベロス達が今まで戦って来た竜牙兵達よりも体が一回り大きく、纏う空気も違っていた。
「ウジ虫ヨ、下等生物ドモヨ、貴様ラノ墓場ハココダ！」
「我等ノ力ヲ、オモイシレ！！」
「死ネ！！」
　ドームを破壊したケルベロス達を見つけた竜牙猟兵達は、一斉にケルベロス達に襲いかかってきた。
「ここは一気に切り抜けるぞ！」
　柚月が叫ぶ。

　近接型はナイフを取り出すと猛然とリィンに向かって放り投げた。リィンは防具で受け止めようとしたが間に合わず、流血する。
　射撃型は、手にした機関銃を構えると、ケルベロス前列全体に向かって物凄い勢いで乱射を行った。次々と撃ち抜かれていく前衛達。
　魔術型は暗黒の魔法の弾丸を作り上げ、それでもってルベルへと撃ち放った。ルベルは暗黒に飲み込まれて倒れ伏す。
　敏捷かつ強力な猟兵達の攻撃。

　ルベルは倒れながらもダメージを半減させていた。
『大丈夫、私が全てから護ってあげる』
　荊姫の鳥籠（イバラヒメノシロ）を用いてルベルは自身と傷ついた仲間を回復し、立ち上がる。
　続いてつかさが全身の装甲からオウガ粒子を飛ばして仲間達の超感覚を覚醒させ、回復を行った。
　わかなはドラゴニックハンマーで竜砲弾を撃ち出し、近接型を攻撃し始めた。
「骨の山から出てきたんなら、骨の山に送り返してやる！」
　柚月もまた、流星の煌めきと重力を利用して近接型へ跳び蹴りを行う。
　リィンも続いてスターゲイザーで近接型に足止めを行った。
「テニスコートはスポーツをする場所です！」
　朔耶は半透明の「御業」で近接型を鷲づかみにする。
　鬼人はそれらの傷口を絶空斬でなぞりあげて切り広げていった。
　そこに佐久弥が地獄の炎を纏った鉄塊剣“以津真天”で突進し、力いっぱい叩きつけた。
　猟兵を前にして、佐久弥は先程の叫びを思い返す。
（「骨（死骸）関連の妖怪は餓者髑髏、以津真天、火車……今回は鎧武者の念とベッドメリーの念を帯同した。俺たちは廃棄物（終わったもの）から生まれ、ひとに愛憎を抱くけれど、守るもの。ひとを害するお前らの敵だ」）
「か……はっ……」
　骨の喉から乾いた音を放ち、炎に巻かれたまま近接型は後ろへひっくり返り、動かなくなった。

「ウジ虫ノ分際デ……！」
　残された猟兵達が歯ぎしりをする。
　射撃型は鬼人へとスナイピングを行った。凄まじい狙撃の衝撃に鬼人が地面へと膝を突く。
　魔術型は、竜牙兵にしか理解出来ない言語で何事か詠唱する。それは、呪詛であった。呪いの力がケルベロスの前衛達に襲いかかる。
　手足の指先から順番に石化していく前衛達。

　つかさが癒しのグラビティを駆使して懸命に仲間達を回復していく。
　ルベルもオラトリオヴェールを用いた。
　その一方で、射撃型も魔術型も、回復の技を持っていた。そのために力は均衡し、ケルベロスと竜牙兵は数ターンの間、技の応酬を行った。
（「普段は常に冷静であれと教えられてはいるが今日ばかりはそうもいかないな」）
　リィンは竜牙兵を前にして熱くなっていく自分を感じていた。
　脳裏を過るのはペンダントを身に付けていた亡き友の記憶だ。竜牙兵の凶刃にかかってこの世を去った友。あの日脳裏に刻まれたのは、紅色の慟哭と漆黒の憎悪。それを胸に生きて来た。
　リィンが記憶を呼び戻す間も、ケルベロス達はじわじわと射撃型の体力を削り取っていった。

　つかさが何度目かにメタリックバーストを行い、傷ついた前衛達を回復していく。
（「地球を守りたいのは本当。だけど私もついこの間までデウスエクスだった。この猟兵達と、私は何が違うんだろう……」）
　戦いながら、まだ外様意識が抜けきらないつかさだった。
　リィンは胸のペンダントトップに触れた。
『この剣舞は炎の舞、貴様を地獄へと誘う死出の舞！　塵も遺さず消え失せろ！』
　神威焔舞（カムイホムラマイ）。
　リィンは燃えたぎる炎を乗せた連撃から、最後に高く飛び上がって頭上高くからの袈裟斬りを放つ。その連続攻撃の美しさは正に炎の舞。
　宿業の炎に燃え上がり、射撃型は後ろにのけぞり、声も立てずに倒れ伏し、沈黙した。
「グッ……ヨクモッ……」
　詰まった声でケルベロスを詰ろうとする魔術型。
　しかしその暇も与えずにルベルは地獄の炎を巻き付けた縛霊手で魔術型に殴りかかる。叩きつけられる地獄の炎、その熱さに悶絶する魔術型。
　朔耶はオウガメタルを「鋼の鬼」と変え、疲れ果てた魔術型に特攻を行い、その装甲を撃破した。
「今だ！」
　佐久弥が声を上げる。そこからケルベロス達は一気に魔術型に畳みかけていった。
『天より降り来る天ツ狗――万物喰らい万象呑まん』
　佐久弥は天意火槌落撃（メテオフォール）を使った。
　大跳躍からの落下速度に加えてグラビティを操作して宙を蹴り加速、突撃。二本一対の鉄塊剣を機構により変形合体させた一振りの大剣、その随所より炎血を噴霧し纏い、加速に加速を重ねて叩きつけ、その瞬間に解放された炎血の爆圧によりさらに叩き潰す。
　彼の魂の叫びはこのオリジナルグラビティと関連している。
『悪い子には、ちょっと痛い目にあってもらわなきゃね！』
　わかなは斬撃の戦舞（ハリケーン・ダンシング）を使った。
　くるくると踊るように武器を振るい、魔術型の傷口を切り広げていく。
（「誰かが傷つく事を仕方ないなんて割りきりたくない。まだ子どもなのかもしれないけれど。自分の無力さを分かっているけれど、それでも前を向くよ！」）
『蘇れ虚ろなる幻想！　顕現せよ！　ゴーストトリック！』
　柚月は幽川乃沙（ユウゼンノスナ）で魔術型を攻撃する。
　大いなる幽幻の力を秘めたカードだ。発動することで菫色の冷たいオーラを纏う。オーラには敵の生命力を削る効果があり、物理攻撃やオーラ自体を飛ばす等で敵に触れさせると、敵の動きを鈍らせることができる－－。
「砕けろぉ！」
　柚月は右の拳で動きの鈍った魔術型の顔面を殴りつけた。
『我流剣術「鬼砕き」、食らいやがれ！』
　鬼人は鬼砕き（オニクダキ）で魔術型を屠る。
　刹那の間に、左切り上げ・右薙ぎ・袈裟の順に斬り、その三撃の刃筋が重なる中心を刺突でぶち抜く荒業。いかに強固な鎧を纏っていようが、斬撃の重なりで弱くなった一点を打ち抜く為、必ず相手を仕留める事が出来る。
　その鬼砕きにより魔術型はトドメを刺され、地に崩れ落ちて、正に骨くずと化した。

「何も、見つからないか－－」
　そこにあった骨の山などをざっと調べた末に、鬼人が呟いた。
「半端もんとは言えデウスエクスの端くれ、何か分かるかと思ったが……」
　漂う煙に息が詰まりそうになりながら呟く。
「もうすぐ春だし…此処も解放は早い方がいいかもな」
　朔耶がそう言った。
　長居はしていられない。また新たなデウスエクスが登場するかもしれないから。
　強襲魔空回廊のドームは破壊し、猟兵達は倒した。
　その戦果を手にして、ケルベロス達はまだ漂うスモークの中を走った。
　今日の勝利が、必ず明日の勝利に繋がるかは分からない。だが、この一つ一つの勝利の積み重ねが、未来の希望を繋ぐのだ－－。

作者：柊暮葉	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年3月21日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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