その一撃避ける事能わず、必中の槍なり

作者:天木一

 日も傾き始め、山の木々の影が伸びてゆく。そんな中、剣道着を纏う坊主頭の男が立っていた。
「カー――――ッ!」
 空気が震えるような裂帛の気合が放たれ、男が十尺近くある木の棒を振るう。その先端には横に短い棒が十字に組まれていて、周囲の草を薙ぎ払う。
「ぜえええぃっ!」
 続けて後ろに跳躍しながら上から下へと突き入れる。そして十字の部分で刈るように引き戻す。
「ひょうっ!」
 次は踏み込みながら先端を回すように槍を捻じり、相手の武器を絡め取るようにして引くと腹を想定した場所に突き入れる。そして足を払い、その勢いのまま石突で突く。
「しっ!!」
 最後にどっしりと腰を落とし、槍を深く突き入れ素早く引き戻すと大きく息を吐いて構えを解いた。
「まだまだ柔軟さが足りんなぁ。この鎌槍の使い方を極めてゆけば、いずれ失伝した宝蔵院流槍術に届くはず……」
 首にかけたタオルで汗を拭った男は、かつて存在した槍の奥義に思いを巡らせる。その前にすっと幻武極が姿を見せた。
「誰だ!?」
 突然の出現に男は驚き槍を向ける。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 その言葉に操られるように、男は槍で胸を突き、そのまま連続して腹から顔まで幾度も槍を突く。さらには足を引っかけるようにして引き倒し、上から槍を振り下した。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 全くの無傷で立ち上がった幻武極は、突き出される槍を一歩の踏み込みで躱して手にした鍵を胸に突き立てる。男は意識を失い崩れるように倒れた。
 その場にもう一人、男と同じ姿をしたドリームイーターが生まれる。
「突けば槍 薙げば薙刀 引けば鎌 とにもかくにも外れあらまし」
 ドリームイーターが呟き真剣の十文字鎌槍を手にして振るう。風を切り裂く刃は草のみならず木をも断ち切り、槍を引き戻すと落下する木が引っ掛かり宙に飛ばす。そこへ捻じりながら突き入れると木が爆発するように弾け飛んだ。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 そんなドリームイーターに向かい幻武極が声をかけると、男は頷き槍を担ぐとゆっくりと町へ続く道へと戻り始めた。

「槍の使い手のドリームイーターが暴れる事件が起きるようです」
 無表情のまま霧島・絶奈(暗き獣・e04612)がケルベロス達に新しい敵の出現を告げる。
「幻武極が槍の稽古をしている人を襲い、欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとしたようです」
 隣に立ったセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が詳細な情報を提示する。
「今回の武術ではモザイクは晴れなかったようです。ですが武術家ドリームイーターを生み出し、人々を襲わせようとしています」
 襲われた男性の理想の技量を持ったドリームイーターは、その武を使い人々を虐殺してしまうだろう。
「このままでは多くの被害が出てしまいます。そうなる前に敵を撃破してもらいたいのです」
 今から向かえば敵が町に辿り着く前に迎撃する事が出来る。
「ドリームイーターは槍を使う武術家となり、十文字鎌槍を使用して戦うようです。宝蔵院流槍術の流れを汲む武術を使い、突き払い引くと、十字の刃を巧みに使った攻撃を得意としているようです」
 槍の長いリーチを使い、当てる事を得意として確実に相手に手傷を負わせ、避けられぬところへ致命の一撃を放つ。
「現れるのは奈良県の山の麓で、敵が来るルートは判明しているのでその場で待ち構える事になります。周辺の人々は既に避難を始めているので巻き込む心配はありません」
 周辺には民家も少なく存分に力を振るう事が出来る。
「武術家ドリームイーターは強敵との戦いで己が武を知らしめる事を目的としているので、戦いを挑めば逃げる事もなく、死闘に応じるでしょう。敵を倒して人々を守り、奪われた武を取り戻してあげてください」
 よろしくお願いしますとセリカが一礼し、出発の為にヘリオンの準備に入る。
「失われた武術を復興しようとするなんて浪漫がありますね。その武がどれほどのものなのか、こちらも武を以て確かめてみましょう」
 その無表情の中に僅かに狂気のような闘志を宿して絶奈が歩き出すと、ケルベロス達も戦いを前に心昂らせながら動き出した。


参加者
ガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)
マリアム・チェリ(カラカラ・e03623)
ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
円谷・円(デッドリバイバル・e07301)
八久弦・紫々彦(暗中の水仙花・e40443)
九十九・九十九(ドラゴニアンの零式忍者・e44473)
天淵・猫丸(時代錯誤のエモーション・e46060)

■リプレイ

●武芸者
 日がオレンジに染まり始めた山の麓にケルベロス達の影が伸びる。
「この前は薙刀だったけど、今度は槍術かぁ。カッコイイから武器としては好き、だからドリームイーターの餌食になんてさせないの!」
 以前に戦った敵を思い出しながら、円谷・円(デッドリバイバル・e07301)は今度も無事に助けてみせると拳を握る。
「音に聞こえし宝蔵院流槍術。まさか相対する日が来ようとは!」
 楽しみで仕方ないと天淵・猫丸(時代錯誤のエモーション・e46060)は興奮を抑え切れずにいた。
「これめっちゃお得やない?」
「失伝した武術の再現とは……どんな武術だろう、楽しみだな」
 同じ槍使いが相手と聞いて、ガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)は腕試しと槍術の研究もできるとわくわくし、八久弦・紫々彦(暗中の水仙花・e40443)も失われた武術との戦いに胸躍らせていた。
「強者と相対する絶好の機会。自分の力がどこまで通用するのか……試してみましょう」
 強き相手に己が腕を試せる好機とマリアム・チェリ(カラカラ・e03623)は気合を入れる。
「失われた伝説の武の頂を目指す。その熱意と情熱は確かに浪漫がありますね」
 その歴史に思い巡らせ、常に変わらぬ笑みを浮かべ霧島・絶奈(暗き獣・e04612)は物語性を感じる。
 鬼面で顔を隠した九十九・九十九(ドラゴニアンの零式忍者・e44473)はじっと敵の気配を探る。
「来たか」
 その視線が鋭く道の先に向けられた。そこには十文字鎌槍を担いだ坊主頭の武芸者の姿をしたドリームイーターが居た。
「武の道を極めんとする、高潔な武人の道を凶槍によって血で汚す事は、武に対する最大の侮辱であり禁忌の所行」
 ミスラ・レンブラント(シャヘルの申し子・e03773)が槍型の特殊兵器を敵に向ける。
「殺人術という修羅の道に堕ち、技を振るい人を殺める前に。その歪んだ凶槍、折らせて頂きます」

●宝蔵院流槍術
「ほう! 我が槍に挑戦する強者が現れたか!」
 嬉々として武芸者は槍を振り回して腰だめに構えた。
「こう見えて私も『槍』遣いです。私の技もある意味『失われた技』である故に、お手合わせ願えませんか? 雌雄優劣を競う為ではなく、互いの熱愛の為に」
 そう呼びかけた絶奈は鎖を敷いて魔法陣を描き、仲間達に守りを強固にする加護を与える。
「天淵流師範代、天淵猫丸。不肖の身なれど、この筆を以ってお相手致す! いざや、いざいざ! 尋常の勝負を!」
 名乗りを上げた猫丸がびしっと構える。そしてライフルの銃口を向けるとエネルギー光弾を発射してグラビティを中和して弱体化させる。
「我が宝蔵院流槍術を喰らわせてやろう!」
 武芸者の突き出す槍が、身を挺したテレビウムを貫き画面が割れる。
「ほーぞーいん流ってアレだよね、宮本武蔵と戦った……アレッそれって作り話だったっけ……よく覚えてないけど、まぁなんか名前だけは聞いたことある!」
 首を傾げた円はまあ倒してしまえば同じだと思い直し、ハンマーを砲に変えて発射した。砲弾が敵の足元で爆発し体がよろめく。
「槍と聞いちゃあ黙っておれん。そっちが斬って良しの十文字槍なら、こっちは圧して良しの突撃槍。尋常に勝負と行こうやないの」
 正面からガドが突撃槍を敵に向けると、背後で色とりどりの爆発が起こって仲間達の士気を高める。
 ボクスドラゴンのギンカクは割り込んで敵の攻撃を受け止める。
「手合わせ願います。無力な人を襲うより、我々ケルベロス相手のほうが戦いがいがあるでしょう?」
 そう呼びかけたマリアムは、植物の蔓を伸ばして敵の槍から腕へと巻き付ける。
「報復には許しを 裏切りには信頼を 絶望には希望を 闇のものには光を 許しは此処に、受肉した私が誓う “この魂に憐れみを”」
 ミスラが祈りの言葉を紡ぎ、祝福が光となって仲間達を包み加護を与える。
「さて、一勝負と行こうか」
 愛用の斧を担いだ紫々彦が踏み込んで振り下ろすと、敵は槍で滑らすように逸らす。そこへ紫々彦は脇腹に蹴りを叩き込んだ。
「何人いようと、打倒すのみ!」
 武芸者が槍を回転させて石突で腹を突こうとすると、横からウイングキャットの蓬莱がリングを飛ばして槍にぶつけ外させた。すると槍を回転させて蓬莱を石突で殴りつける。
「外れざる槍術は恐ろしきもの。だがしかし、知っていれば策もある」
 九十九は駆け出して一気に間合いを詰めていく。
「避けるという事を捨てるならば、尚の事だ。故に。夢喰いの名を持つ神の影よ、地獄に堕ちろ」
 そして跳躍すると覆いかぶさるように頭上から蹴りを放った。敵はそれを槍で受け止めるが、押し込まれて地に膝をつく。
「この突進を止めれるもんなら止めてみいや!」
 戦いに高揚したガドは朽ち果てた槍にオーラと爆破の炎、それに体の内から放たれた電撃を纏わせて敵に突撃する。炎と雷が螺旋を描いて突き出され、敵は槍で巻き上げようとするが失敗して逸れた先端が肩を貫き後方へと吹き飛んだ。
「勝負!」
 敵に向かってミスラが大きく跳躍する。そこへ向けて敵は待ち構えるように穂先を向け突き上げた。するとミスラは空を蹴ってもう一度跳び、虚を突いて槍を逃れると敵と隣に降り立ち、槍が迫る前に拳を脇腹に打ち込んで肋骨を砕いた。衝撃に息が吐き出され敵の動きが一瞬止まる。
「気が済むまで闘おうじゃないか、君の武術をもっと見せてくれ!」
 接近した紫々彦は迎え撃つ槍を斧を盾にして防ぎ、拳を胸に打ち込み敵を後退させた。だが離れながらも槍が伸びるように胸を狙い放たれる。
「決して町へ行かせるわけにはいきません! ここで倒します!」
 マリアムは槍を腕で弾こうとするが、逆に腕を巻き上げるように上に弾かれ、引き戻しながら鎌槍が肩を抉っていく。
「変幻自在の技による必中までのプロセスは確かに見事ですし魅力的です。私はそこまで器用でもありませんからね」
 敵の技量に絶奈が感心したように声を漏らす。
「ただ一つの技を極限に至るまで昇華し続けるのも浪漫があると思いませんか? ……私の技をお見せしましょう」
 天に伸ばした腕が宙に多重展開した魔方陣を描き、巨大な光の槍を生み出される。空から撃ち出された光が逃げる間もなく敵を覆う。衝撃に敵の体が吹き飛び地面を転がった。
「流石ほーぞーいん流っ! 本で読んだのと同じくらい強そうだね!」
 対して円は桃色の霧を放ってマリアムを包み込み、快楽エネルギーが痛みを和らげ傷を癒してしまう。
「ふっふ……」
 少し引き攣った笑みを浮かべた猫丸は、内心近代的な武器の扱いに不安を抱きながらも、黒い液体を飛ばして敵の脚に貼り付ける。
「守りを考えている技と、守りを捨てた技、どちらが勝るか言うに及ばず」
 九十九はバールのようなものに釘を生やしてフルスイングした。敵はそれを受け流そうとするが、スイングの威力が上回り肩に叩き込まれた。釘が食い込み血が噴き出る。
「否! その程度覆してこそ宝蔵院流よ!」
 低く構えた武芸者は槍で脛を薙ぎ払う。そこへ紫々彦は突くように横蹴りを放ち槍を押し留めた。すると槍を引き戻し鎌でその足を切り裂いた。
「なるほど……突く払う引くを自在に使う訳か、器用なものだ」
 紫々彦は血の流れる脚でもう一度蹴りを放つと、敵は槍で受けて衝撃で後方に下がる。
「流石です。ですがこちらも負けてはいません!」
 マリアムは操る植物を獣の口のように広げて敵に足に噛みつかせ傷口から毒を流し込む。
「こっちからも行くで!」
 オーラを掌に集めたガドは砲弾のように撃ち出し、敵が弾こうとした槍を躱して太腿の肉を抉った。
「どうでしたか私の槍は? そして槍以外の技もお見せしましょう」
 そこへ絶奈の足元から黒い液体が伝い、ガバッと立体に広がった液体が敵を呑み込む。
「突かれる前に懐へと飛び込み、渾身の一筆を浴びせるまで! 天淵流の筆捌き、その真髄をとくとご覧あれ!」
 これが己が技だと猫丸は筆を手にして飛び込み、敵の肩から腰へと線を一筆で描く。気迫溢れる墨はまるで実際に斬られたような痛みを与えた。
「次はそちらの流儀に合わせて槍合わせとゆきましょう」
 続いてミスラは槍に呪詛を込め横に大きく薙いで斬りつける。刃は敵の太ももを深く裂いた。
「ひょおっ!」
 武芸者は槍を縦横に振り回して周囲のケルベロス達を斬り払う。
「だいじょうぶだよ! どんな怪我もすぐに治療しちゃうから!」
 円は手套を嵌めた手を強く握る。すると色鮮やかな爆発が起こり追い風が味方を鼓舞する。
「その身を切り刻んでこの世から消し去ってやろう」
 篭手から爪を伸ばした九十九は、飛び掛かり幾重にも腕を振るい爪で敵を引き裂く。敵はそれを槍で凌いでいくが、防ぎきれぬ刃が体中に爪痕を残していく。敵は石突で地面を叩いて大きく跳躍し間合いを取った。

●必中の槍
「突けば槍 薙げば薙刀 引けば鎌 とにもかくにも外れあらまし」
 すっと息を整えた武芸者が槍を頭上に持ち、穂先を斜め下へ向け構える。
「槍は懐に飛び込まれるんが苦手やんな」
 ガドが懐に飛び込むと槍が喉元に突き出される。それをテレビウムが受けようとすると、敵は正確に最初と同じ傷跡に槍を通し、画面から背面へ槍が貫通した。その間にガドは掌打を腹に放ち、螺旋の力が敵の体内に伝わり破壊の渦が内臓を潰す。武芸者はよろめきながら槍を引き、ガドの首を掻き切ろうとするが、ギンカクが飛び込んで槍の側面にぶつかって軌道を逸らす。
「そこです!」
 踏み込んだミスラは槍を真っ直ぐ突く。すると敵はそれを巻き上げて上へと弾いた。
「そうくると思っていました」
 そこでミスラはもう一本の槍型兵器を手にして突き入れ腹を抉った。
「筆を扱うように振るえば! ……でにゃんす」
 駆け抜けながら猫丸はナイフを振り抜き、敵の腹の傷口を抉るように撫で切った。
「さあ、どちらが優れた使い手か勝負だ」
「我が槍で貫いてくれる!」
 斧を盾に紫々彦は近づくが、突き出される槍は寸前軌道を下げて太腿を貫く。
「攻撃を受けるのは覚悟の上だ、致命傷さえ受けなければ問題ない」
 それでも紫々彦は前に踏み出し拳を顔面に叩き込んだ。仰け反りながらも槍が突き出される。
「強いですね。ですが今度は止めてみせます!」
 それをマリアムは両手で掴む。そして巻き上がられる前に黒い液体を広げて敵を呑み込んで拘束した。
「いかに優れた術であろうと、こちらの連携は崩せまい」
 九十九はバールを腹に叩き込み、敵をくの字にさせて吐血させる。
「攻撃には必ず間がある、そこを突く!」
 武芸者は槍を振り上げるとマリアムを地面に叩きつけた。その目の前に飛び込んだ蓬莱がブレスを吐いて敵を怯ませる。
「好きにさせれば正に必中。厄介な槍ですね」
 ならばと絶奈は伸ばした鎖を四方から殺到させ、四肢に絡みつかせて拘束した。
「月よ、挫けない心を呼び起こして……!」
 その間に円は空に目を奪うような幻想の月を召喚し、月光がマリアムを照らして傷を塞ぎ癒した。
「呵呵ッ、心が猛ると気持ちがええねェ。穿たれ焦がされ、……両方味わえ」
 バックステップして距離を取ったガドは無自覚に凶暴な笑みを浮かべ、もう一度炎を雷を渦にして槍に纏わせ、止まることなど考えていない前傾姿勢で突っ込んだ。体当たりするような勢いで槍を突き出し、敵の腹を貫き背中への風穴を空けた。
「これが最後の一手です。その凶槍、折ってみせます!」
「たわけ! その技は一度見たぞ!」
 ミスラは先と同じように敵に向かって跳躍する。今度は敵は警戒し一歩引いて槍を構えた。そこへ横からマリアムは蔓を伸ばして敵の槍に巻きつけた。
「これほどの腕を持った武人が敵とは、残念です」
 マリアムは蔓を伸ばして敵の槍に巻きつけ、思い切り引き寄せる。敵もまた腕を膨らませて堪え膠着する。その隙にミスラは宙を蹴って急降下し拳を打ち下すと、敵が防ごうと掲げた槍を打ち抜き真っ二つにへし折った。
「槍が折れようとも心は折れぬ!」
 それでも短槍となった槍を持ち、武芸者は突きを放つ。
「ならばその命を断ち切ろう」
 身を低くして槍を躱した九十九は懐に入って拳を腹に打ち込む。その拳から爪が突き出し深く穴を穿つ。
「すごいね、宮本武蔵と戦う話しがあるのも納得できるかも、でもそれ以上槍を使わせないよ!」
 円が拳を握ると、敵の足元で爆発が起こり姿勢が崩れる。
「白魔よ、駆け抜けろ」
 紫々彦が斧を振るうと寒風が吹き荒れ激しく霰が降り、それが白い渦となり荒れ狂う獣となって疾走する。白き獣は敵の体中を貫き凍りつかせた。
「天淵流の一筆は、達人の一太刀に通ず!」
 するりと懐に入った猫丸は筆を横に一閃し、真っ直ぐに胴を横切る墨の太い線が走る。それは深く斬った傷と同じ激痛を敵に与えた。
「どちらの槍が上か、この一撃で雌雄を決しましょう」
 戦いを楽しむ狂暴な笑みを浮かべ、敵に向け手を伸ばした絶奈は巨大な光を放つ。
「我が槍は必中なり!」
 槍の如き光に対して武芸者も槍を突き出して突破しようとする。焼けつくような光に全身を負傷しながら後一歩で穂先が届くところまで踏み込み動きが止まる。光が消えると武芸者はそこで力尽きていた。槍を構えたまま息絶え体が幻のように消え去った。

●槍術
「いやはや修行が足らんかったなぁ、迷惑かけたようで申し訳ない」
 坊主頭の男性が頭を下げる。介抱され説明を受けてすぐの行動だった。
「再興しようとしてる武術の話を聞かせてもらえるかな?」
 好奇心を持って紫々彦が尋ねる。
「宝蔵院流槍術の本流は残ってなくてなぁ、何とかあれこれ文献を漁ったり、槍術を伝えてる流派なんかを訪ねたりしとるんだわ」
 頭を撫でながら男性が饒舌に説明してゆく。
「何れ貴方の武が望む頂に至れる事を願うばかりです」
 その情熱を応援するように絶奈が声をかける。
「自分の槍はどうだった? そこそこ宝蔵院流と言えるもんやったか?」
「強敵でした! 修行を続ければいずれ追いつけると思います!」
 真っ直ぐにマリアムは嘘偽りない気持ちを伝える。
「武の道を間違わず進んでください」
 一歩間違えば修羅の道が待っているとミスラが忠告する。
「正道を進めがいずれ辿りつけよう」
「書の道も一生かけて歩むものにゃんす」
 近道などないと九十九が告げ、猫丸もどんな事も月日が掛かるものだと例を挙げた。
「その通りだなぁ、焦っちゃいかんわな」
「槍術ってカッコイイよね。振るうところを見てみたいな」
 円がお願いすると、まだ未熟ではあるがと男性が棒を振るって槍術を披露する。
「……なんやったんかな、アレ」
 それを眺めながら、戦闘中は夢中で気付かなかったが、ガドが槍に今まで雷など纏った事は無かったとじっと自らの槍に視線を落とす。武の道はそう容易く理解できるものではないと、鍛えれば鍛えるほど解かってゆくのだった。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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