病魔根絶計画~求む! 笑いを取れるツッコミ!!

作者:質種剰


 ビルの上層。
 広々とした会議室には、背広姿の壮年男性達が顔を突き合わせているも、誰一人口を開かない。
 重苦しい空気が流れる中、初老の男が咳払いをする。
「私は何も難しい事をお訊きしたつもりはありません」
 男達が互いに探り合うような目線を交わす。
「私が申し上げたいのは、ライバル社に引き抜きの打診をされていた社員がいなかったかと言う事です」
 ざわつく室内。
「営業部にはそのような話はありませんが」
「開発部にもございません」
「総務部にも全く」
 社長は、狼狽える役員達を見回してから、愛想笑いをした。
「私の杞憂なら結構」
 だが、問題はここからだった。
「ですが、私はみすみす有能な社員を放出するつもりはありません」
「はい」
「皆さんも口先だけの上手い引き抜き話に乗らないように注意して下さい」
「はい」
「乗るのも抜かれるのも女性だけにして欲しいものです」
「……は?」
 突然の全然上手くもない寒いだけのジョークに、場が凍りついたのは言うまでもない。
 それから数日後、社長は隔離病棟にいた。
「桃栗三年柿八年、桃は毛あれど穴は無し、柿も娘も熟れんと食えへん……いや待てよ」
 TPOを弁えずに『面白い事を言って笑いを取りたい』と言う衝動が抑え切れず、1人でいる時ですらギャグの練習をしているのだった。


「此度も皆さんにお願いしたいのは、病魔の討伐であります」
 小檻・かけら(麺ヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
「病院の医師やウィッチドクターの方々の御尽力で、病魔『慢性ユーモア過剰症候群』を根絶する準備が整ったのでありますよ」
 現在、慢性ユーモア過剰症候群の患者達が大病院へ集められ、病魔との戦闘準備を進めている。
「皆さんには、その中でも特に強い、『重病患者の病魔』を倒して頂きたいであります」
 今、重病患者の病魔を一体残らず倒す事ができれば、慢性ユーモア過剰症候群は根絶され、もう新たな患者が現れる事も無くなるという。勿論、敗北すれば病気は根絶されず、今後も新たな患者が現れてしまう。
「デウスエクスとの戦いに比べれば、決して緊急の依頼という訳ではありません。ですが、慢性ユーモア過剰症候群に苦しむ人をなくすため、必ずや作戦を成功させてくださいましね」
 かけらはぺこりと頭を下げた。
「さて、皆さんに討伐して頂く『慢性ユーモア過剰症候群』についてでありますが……」
 かけらの説明によると、慢性ユーモア過剰症候群とは虹色のグラデーションが鮮やかな頭部や手足を持ち、周りには小さなワラ人形や弾幕コメントが舞い踊る、非常に賑やかな姿だという。
 慢性ユーモア過剰症候群は、『笑いの神降臨(錯覚)』なるグラビティを繰り出して、敵1人へ頑健性に優れた破壊を齎す。
 しかも喰らった側は普段なら笑いそうにない寒いギャグにすら大ウケして笑ってしまう催眠効果に苦しめられるそうな。
 加えて、敏捷性に優れた『抱腹絶倒の囁き(自称)』を広範囲に響かせて、敵複数人を極寒の空気に叩き落とす事もできる。恐ろしい斬撃である。
「もし、戦闘前に慢性ユーモア過剰症候群への『個別耐性』を得られたなら、戦闘を有利に運べるでありますよ」
 個別耐性とは、今回ならば慢性ユーモア過剰症候群患者の看病をしたり、話し相手になってあげるなどの慰問によって元気づける事で、一時的に得られるようだ。
「患者さんの披露するギャグの観客役になって、『とにかくネタに走りたい』という衝動を発散させて差し上げれば、きっと喜んで下さるでしょう」
 ただ、演技だとばれると逆効果になる可能性はある。
「皆さんも患者さんと一緒になって『しょうもないけど面白いギャグ』を連発したり、患者さんのギャグに的確なツッコミを入れて盛り上げるのも、かなりオススメでありますよ♪」
 どうやら重症患者の笑いのツボは小学生低学年レベルになっている為、それを踏まえてネタを考えると良いだろう。
「個別耐性を得ると『この病魔から受けるダメージが減少する』ので、どうぞ積極的に狙っていってくださいね」
 かけらはそう補足して説明を締め括り、ケルベロス達を激励した。
「どうか、慢性ユーモア過剰症候群で苦しんでいる患者さんを助けて差し上げてくださいましね。病魔を根絶するチャンスでもありますから……」


参加者
ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)
ラズ・ルビス(祈り夢見た・e02565)
ルフ・ソヘイル(秘匿の赤兎・e37389)
トート・アメン(神王・e44510)
コロル・リアージュ(極彩コロリアージュ・e44660)
ルクシアス・メールフェイツ(この世の全てに癒やしを・e49831)
カンナ・リンドブルム(黒兎の忠犬・e55590)
穂村・花園(忌火・e56672)

■リプレイ


 隔離病棟。
「余は少々機嫌が悪い! だからつまらぬ事で笑える事など出来ぬと知れ!」
 トート・アメン(神王・e44510)は病室へ入るなり不機嫌そうに言うも、仲間達はそれが嘘だと知っていた。
 何故なら、彼は移動中、及川が慢性ユーモア過剰症候群に罹った時の様子を聞いただけで、大笑いしていたのだから。
「ご機嫌斜めと言う割にはヘリオンで……」
 続いて入ってきたルクシアス・メールフェイツ(この世の全てに癒やしを・e49831)など、呆れの中に諦観すら混じった表情である。
「うむ、かけらの胸は実に癒された!」
 トートも彼が何を言いたいのか解って、妙にすっきりした顔を向ける。
「社長とは王の様な者だろう。ならばしっかりと朝から栄養を取らねばならん。まして病魔と闘うならな」
 ともあれ、予め作ってきた手料理を及川へ振る舞うトート。
 ニンニクや青唐辛子等をオリーブオイルで炒めた後トマトで煮込み、塩胡椒、パプリカ等で味つけ。
 最後に卵を落とせばシャクシュカの完成。
「有難うございます。食欲が落ちて困ってたところでして……女の子なら幾らでも頂けそうですがね」
 やはり余計な下ネタを言わずにいられぬ及川は、頂きますと手を合わせ食べ始めた。
「余はそなたのギャグとやらを聞きに来た。だが心せよ……この神王たる余を笑わす事こそ至難と……ぶはっ!」
 それを聞いたトートは思わず噴き出して、堪えきれず笑い出す。
 元より重傷レベルで下ネタ大好きな彼だけに、いとも簡単にツボに入るのだろう。
「スパイシーで美味しいですね」
 及川は、美味しいシャクシュカを食べられる事以上に、自分の冗句でトートを笑わせられたのが何より満足なようだ。
「ご、ごめんなさい……うっ……くくっ……」
 彼の後ろでは、笑いの沸点が低いルクシアスも顔を背けてぶるぶる肩を震わせている。
「家ではこんなお洒落な料理、とても食べられませんから。変わり映えしない和食ばかりです」
「ほう、和食とな」
 舌も滑らかに喋り出す及川へ、トートが食いついた。
 純粋に日本の文化や風潮、風情へ興味津々な彼がしょうもないギャグでさえ笑ってしまうのも、そもそも日本の笑いに慣れてないせいだとか。
「肉じゃが、きんぴら、おでんと地味な茶色ばかりで……おっと、あくまで料理の話ですよ?」
「あーーっはっはっはっ!!!」
「同じ茶色でも熟れた柿なら美味しいんですけどねぇ」
 幾ら病魔が言わせていると雖も、意味を解した者はドン引きであろう。
「熟れても渋柿なら美味しくないじゃねぇっすか!」
 すると、ルフ・ソヘイル(秘匿の赤兎・e37389)がボケを華麗に決めて、終わらない下ネタ談義に歯止めをかけた。
「俺ボケるのとか上手くねぇんすよね……」
 実は、病室に入る前など密かに唸って頭を抱えていたルフだが、その心配は見事に杞憂で終わったと言えよう。
「ルフのにーさん、たぶん違う! 渋柿とかそういうところじゃない! それくらいは流石にわかるぜ俺!」
 穂村・花園(忌火・e56672)の勢いあるツッコミをしっかり引き出せたのだから。
 ちなみに花園は花園で、
「な、ルフにーちゃん。オッサンのギャグのネタってなんなんだよ? 俺だってガキじゃねぇつもりだぜ、知らないままってなんか、座りがわりぃっつーか……」
 ルフへこっそり訊いていたのもあってか、
「オッサン、もうちょっとわかりやすくボケろよ! ボケに説明がいるって何だよ!?」
 その巧みなツッコミの矛先は、及川へも向いていたりする。
「ふむ、判り易く言ったら何分カドが立つまいかと……」
 笑って応じる及川。
「ほっほーぅ、どうもシャッチョサーンは下ネタがお好きみたい? オッケーオッケー、駄洒落、下ネタ、どんと来い!」
 一方。コロル・リアージュ(極彩コロリアージュ・e44660)は、生来のノリの軽さを活かして気易く及川へ話しかけている。
「社長のギャグにあたしも全力で乗っかって、盛り上げてイくよ! おっと男性諸君、そこは盛り上げなくてもいいんだぜ☆」
 お調子者な性格と芸術家らしい自由な気質が相まってか、下ネタにもさして抵抗ないらしく、自ら一発かましているコロル。
「ぶはっ!!」
 及川だけでなくトートやルクシアスを悶絶させた。
「ん~……滑るのを気にせずギャグを出す……地味に怖い病気っすね」
 そんな彼女らの遣り取りを眺めてルフは、
「でもそれこそ俺のツッコミを見せるときっすね!」
 ますますツッコミという名のボケへやる気を滾らせた。
「笑いを取りたくなる病魔、ねぇ。師団の先輩方、罹患してねぇだろうな……」
 ふと、真顔になって心配する花園。
「そうか、あたしがしょーもない事ばかり喋ってるのもこの病気の仕業だったのか!」
 すると、コロルがさも今気づいたとばかりに、大仰なリアクションで驚いてみせた。
「あたしの体を治す為にも、やるしかねぇ!」
 勿論、コロルだろうと花園の先輩達だろうと実際に慢性ユーモア過剰症候群へ疾患している筈は無いのだが、生活に影響する程の重症でありながらそれだけ身近に感じる病魔というのも珍しい。
 病室の外まで洩れそうなぐらいずっと笑い声が絶えない——かように和やかな慰問が今まであっただろうか。
「もう社長、さっきから柿ばっかりじゃなく、栗ちゃんの事にも触れてあげて! 身持ちは堅いが脱ぐと凄い、燃えるじゃないっすか!」
 そして、かようにド直球な下ネタをぶちかました慰問が、未だかつてあっただろうか。
「あはははは、そうだね、触れてあげないと泣いてしまうね?」
「でしょう、脱ぐだけ脱がされて放っておかれたらそりゃぁ栗ちゃん大号泣っすよ~もう社長ったら悪い人なんだから!」
 このこの、と肘でつつく真似をするコロル自身、楽しそうで何よりである。
(「突然おかしなことを言いだす病魔ですか……真面目な方ほど色々なことを抑圧してしまい罹患しやすいのでしょうか?」)
 他方、カンナ・リンドブルム(黒兎の忠犬・e55590)は、ひたすらオトナな笑いで盛り上がる及川を見て、心配そうに眉根を下げた。
(「ともあれ、早く治して元の及川様に戻って頂きたいですね」)
 お嬢様と慕う家族へ従順に仕える、忠犬気質なウェアライダーの少女だ。
 カンナは及川の身を案じつつもずっと控えめに看病をしていたが、個別耐性を得るべく勇気を出してボケをかまそうと決意。
「熟れた果実……奥さまのことですか? ……お幸せですね!」
 狙って言っているのなら結構毒舌かもしれない賛辞を述べた。
「有難う。時々幸せを強要されてます」
 対する及川の返事も相当なものだが。
「うふふっ、あはははははっ!」
 そして我慢が出来なくなったルクシアスの笑い声である。
「もう、あまり奥様の悪口言っちゃ駄目ですよ?」
 やんわり諌めながら、器用にアルミ製のコマを掌の上へ乗せて、
「良いですか、紐を引くだけでくるくる回るのはコマと、せいぜい帯を引っ張られて『あーれー、おやめくださいお代官様』と回る娘さんぐらいなもんです。でも女性は回さず、優しくですね。コマも女性も絶妙な力加減で引っ張らなきゃです」
 彼なりに精一杯冗談を言ってみせた。内心では面白いボケが思いつかず泣きそうになっているなど誰も気づかない。
「ははは、そうだね、気をつけないと。女性を回したら自分が紐……じゃなくてお縄につかないといけなくなるし」
 それでも真心は自然と伝わるのか、幸い及川にはウケたようで楽しそうに笑っている。
「及川様、初めまして。花の盛りもいつしか過ぎて参りました、今日この頃……女の盛りも気付けば過ぎてしまうのではと仕事一筋の身に懸念を覚えております、ラズ・ルビスです」
 さて、ラズ・ルビス(祈り夢見た・e02565)は、自虐ネタを織り交ぜつつ漫談を始めた。
 と言うのも、笑顔をなかなか作れない——即ち、及川の冗談へ笑ってあげられない事を懸念した上で、自らボケへ回って笑わせる事に決めたのだとか。
 真面目で思慮深いラズらしい判断である。
「こちらは、エイド。その名の通り、色んな手助けをしてくれる、何とも利口な子なのです」
 ラズに紹介されたエイドが、小さな体を精一杯に反らせて及川へ手を振っている。
「先日お使いを頼んだ際も、渡したお金より随分と安く買ってきてくれたのですよ。まぁ、お釣りは使い込んだようなのですが……何とも利己な子なのです」
 そして、さらっと繰り出されるラズのボケに合わせて、エイドはテクテクとその場で歩いてお使いのジェスチャー。
 更にはお釣りの使い込みを表現してニヤつくも、すぐにバラされて手前にズッコケるなど、芸達者ぶりを発揮した。
「それ褒めてないっすね!? 実際褒められたこっちゃないけど!」
 ルフもきっちりツッコミを入れる。
「ちなみに何に使ったかというと節水仕様の蛇口ヘッド。何ともエコな子なのです」
 尚もラズがボケを重ねると、エイドはしっかり自分の体の中から件の蛇口ヘッドも取り出してみせた。
「ふっ、あはははは!」
 勿論、エイドのお使い部分は全てラズの創作だが、最初の自虐ネタばかりは本音だったりする。
(「『仕事が恋人』とはいくつまで許される言葉なのでしょう……」)
 ネタ出し中でも不意に悩んでしまうほど、本人は独り身である事を多少なりと気にしているようだ。
「お後が宜しいようで……」
 ラズに合わせてぺこりとお辞儀するのも可愛らしいエイド。
 及川だけでなくその場にいる皆を温かな笑いで和ませたのは言うまでもない。
(「カンナ先輩をこの依頼に誘った手前、ケガなんかさせたくねぇよなぁ……なんかあったら寮長さんに顔向けできねぇっつーか、俺のプライドが先ず許さねぇわ」)
 皆が順調に及川と仲良くなる中、花園はチラッとカンナの方を見やる。
 カンナはさっきまでの及川のリアクションを——少なくとも花園よりは——理解しているので、下ネタの最中はあくまで愛想良くにこにこ微笑むだけだったが、ラズの漫談へは素直に声を立ててクスクス楽しそうに笑っている。
「にしても、また変な病魔が居たもんですね……下ネタな患者さんを引き当てたのは、小檻さんのガチャ運の問題ですかね? 縁切り神社にもう1回連れて行って貰いましょうか……」
 続いて、ミリア・シェルテッド(ドリアッドのウィッチドクター・e00892)は、箸が転がっただけでもおかしい師団仲間を益々笑わせてから、及川へ優しく声をかける。
「そうですよ。ネタで回すのもダメなら乗るのもダメです。せめて乗るのは肩車とか一輪車とか、もう少し一般向けにしませんか……?」
 ミリア自身がボケるよりは及川の下ネタの改善に努める模様。
「ふむふむ」
「例えばヘッドハンティングにしても、狩られるのは頭とハンターだけにしましょう、とか」
 かと思えば、ゲームの人気シリーズを絡めて大ボケにも走るミリア。生来の天然ボケなお陰か、危なげない滑り出しに見える。
「……あれ? 頭を狩られたらデュラハンです?」
 それにしても、ようやくエロから逃れた先に待ち受けていたのはグロネタだったのか。
「そしたら他の社員の人に体をハントさせれば問題ねぇっすね!」
 すかさずルフがビッと親指を立ててミリアへ笑顔を向ける。
 頭を狩られたら身体も狩らせる。右の頬を叩かれたら左の頬を出しなさい——という至言でもあるまいに。
「ああ、それなら身体も狩られて万事解決……ってそんな訳あるかーい! どこの幸せな元金ピカ王子なんだよそれ! 自己犠牲にも程があるぞ!?」
「あははははは!!」
 ルフのボケは良い具合に花園へハリセンを使わせて、及川や仲間の爆笑を誘った。
「大体、幾ら上手いこと言ったって、どっちも結局カラダ目当てじゃない! ……例え一夜の夢だとしても、身体だけじゃなくて情も重ねるのが大人の色恋ってぇもんよ!」
 そしてボケへボケを重ねてドヤ顔するのはコロル。
「あははは、お嬢さんは上手い事言うねぇ!」
 及川は、下ネタでありながらも下品になり過ぎず笑いを取るコロルの話術を、心底面白がり、また羨んでいるようだ。


 全員が無事に個別耐性を得たところで、すぐミリアが病魔召喚を始める。
「……いい加減愛想笑いにも疲れましたので、鬱憤を晴らさせて下さいね?」
 死んだ目で呟くミリアを一体誰が責められようか。
 すぐに及川から慢性ユーモア過剰症候群が引き摺り出された。
「病魔の姿、見たことがあるような……」
 ルクシアスが呟く横を擦り抜け、ラズが及川の乗るストレッチャーを押して廊下へ避難させた。
「いや、お前なんか全体的に古めだなぁオイ!? わかるけども!? わかりやすいけれども!?」
 花園は、そんな見た事あるような病魔へ対してもキレのあるツッコミをかます。
 同時に、彼の纏っていた炎のオーラ——焔螭が意思を持つかのように慢性ユーモア過剰症候群へ襲いかかり、その派手な衣装を燃やし尽くした。
「貴方ね、存在が痛いんですよ! ユーモアはね、ここぞという時に発揮するから意味があるんです!」
 回し蹴りと共に、グラビティを練った竜巻で二段構えの攻めを仕掛けるのはルクシアス。
「ふと、今もウケを狙うようなセリフを考えそうになりましたが、もう良いんですよね……」
 カンナは真剣に第二のボケを考えていた意識を打ち切るように頭を振って、ブラックスライムを嗾ける。
 捕食モードに変形した黒い塊が大口開けて、病魔を丸呑みにせんと包み込んだ。
「……イカ食わねイカ?」
 慢性ユーモア過剰症候群は、抱腹絶倒の囁き(自称)を響き渡らせて、後衛と彼らを庇った花園やラズをクソ寒い空気に閉じ込めた。
「あーっはっはっは!!」
 ただ独り爆笑しつつトラウマボールを放つのはトート。彼の笑いの沸点はもはや氷点下の域だが、実際凍傷の痛みは受けてるだけに気の毒な話。
「……これは最優先で治療しなければ」
 すぐにミリアが薬液の雨を降らせて事無きを得た。
「……気休めにしかならずともやはり厚着すべきでした」
 ラズは強力な麻酔薬の塗られたメスを複数投擲。エイドは虹色の腕に噛みついている。
「距離、風速……もう全部OK! 俺は意思のある武器! 勿体ぶらずにドドンといくっすよ!」
 最後はルフが精巧な幻覚弾を大量に連射した後、本物の弾で病魔を貫き、遂にトドメを刺した。
「ユーモアも色恋も、押し付けすぎれば相手は冷めるもの……時には引くのも大事なのね」
 コロルは、これで快方へ向かうだろう及川へ、芸人もとい人生のアドバイスを贈る。
「一時の衝動に身を任せた代償は大きいけれど、社長さんならきっと取り戻せるわ」
 良い事を言って締め括ろうとしたものの、
「はい、コレ何でしょう?」
「コー、ヒーヒー言っても中々オレンジ……あれ、治ってない?」
 すかさずミリアが掲げた『スチール缶の上にあるオレンジ』を見て、またもボケてしまうのだった。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年4月20日
難度:やや易
参加:8人
結果:成功!
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