
●春色行列と大きな牙
訪れた春を喜ぶように、暖かな日差しが照らすのは土曜日の駅前交差点。
行き交う人で賑わうその場所の中、特に目を引くのはある一角の長蛇の列。その先頭には、春色に溢れたポップを飾るフルーツパーラーがあった。
ピンクと白のストライプを背景に、描かれたのは苺づくしのメニュー達。
真っ白クリームと黄色いスポンジがスタンダードな、ショートケーキは素材にこだわり抜いた自慢の逸品。
ケーキと同じく飽きのこないよう作られた生クリームは、花咲くように盛り付けられた苺パフェにも使われている。
生地までピンクに染めたカップケーキはチューリップのように飾り切りされた苺がフォトジェニックだし、ミルフィーユは黄色いカスタードクリームと苺のコントラストが春らしい。
そんな苺だらけのスイーツが、期間限定で食べ放題。その魅力に誘われやってきた客は多く、フルーツパーラーの列が途絶えることはない。
特に今年は、フレッシュいちごの籠盛りが用意されたと話題になって。スイーツが得意でなくともフルーツなら食べられる、なんて男性を連れて訪れる女性が増えたから、例年よりも賑わっているようだった。
――しかし、そんな人の集まる場所だからこそ、招かれざる客がやってくる。
先に待つ苺達に期待膨らませる客の横、突如空より飛来したのは三つの巨大な牙。
ドスン、ドスンと重い音響かせアスファルトに突き刺さったそれは、たちまち鎧兜を纏った竜牙兵へと変化し人々へ刃を向けた。
「オマエたちの、グラビティ・チェインをヨコセ」
言葉紡いだデウスエクスは、そのまま振り上げた刃を手近な人間へと突き立てる。
響く悲鳴、逃げ惑う人々。その感情すらも糧にしようと、竜牙兵は殺戮を続ける。
そうして春の交差点は、瞬く間に血に染まっていったのだった。
●ベリーなビュッフェを守るため
「みんなきちんと並んで待ってるってのに、こいつらは横から襲ってくるんだもんな」
冗談交じりに、呟いて。高比良・怜也(饗宴のヘリオライダー・en0116)は、集まったケルベロス達に視得た事件を語り始めた。
「都内の駅前交差点に、竜牙兵が現れ人々を殺戮する事件がこれから起きる。現場までヘリオンで急行するから、お前達は敵の凶行を阻止してくれ」
竜牙兵が事件を起こす交差点には、多くの一般人がいる。竜牙兵が出現する前に避難勧告をすると、他の場所へ出現するようになってしまうため、事件を阻止することができずに被害を大きくしてしまう。そのため出現したところを攻撃し撃破する必要があるのだと、赤髪のヘリオライダーは告げる。
「竜牙兵が出現し、お前達がヘリオンから降下して戦場に到着した後なら、警察などによる避難誘導を始められる。そっちの手配は済んでるから、お前達には竜牙兵の撃破に集中してほしい」
竜牙兵の数は、三体。全員がゾディアックソードを装備しており、手当たり次第の攻撃をしてくる。連携をとることはなさそうだし、とにかく敵にダメージを与えることを第一として行動するようだ。
ケルベロス達との戦闘が始まれば竜牙兵達は撤退することなく戦い続けるので、確実に撃破しなければならない。一般人の命を守る大切な仕事だと語った怜也に、大きく頷いたのはドワーフの少女だった。
「任せて! そんなお邪魔虫、みんなでやっつけちゃうんだから! ……それで、終わったらみんなでそのいちごビュッフェに行けたら素敵、なんて思うんだけど」
行列店だって言うし、戦闘後に並んでも入れないかしら? そう首を傾げた愛月・かのん(夢歌・en0237)に、赤髪のヘリオライダーはにやりと笑う。
「そこは大丈夫、団体客専用の予約席があるって聞いたんで、俺が予約しておいたぜ」
「わっ、怜也やるじゃない! じゃあいちごをたっくさん食べるためにも、張り切らなくっちゃ!」
ぐぐっと拳を握りしめるかのん、その隣ではナノナノもご機嫌に体を揺らしていて。
そんな様子に笑み浮かべて、怜也はヘリオンの扉を開けた。
「よし、それじゃ行くぞ。きっちり戦って、ビュッフェも存分に楽しんでこいよ」
きっと、全力で戦った後の甘味は格別だから。言葉紡いだヘリオライダーは、信頼篭めた瞳でケルベロス達を送り出した。
参加者 | |
---|---|
![]() 巫・縁(魂の亡失者・e01047) |
![]() 天矢・和(幸福蒐集家・e01780) |
![]() 姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974) |
![]() 水無月・一華(華冽・e11665) |
![]() 除・神月(猛拳・e16846) |
![]() クララ・リンドヴァル(本の魔女・e18856) |
![]() アベル・ヴィリバルト(根無しの噺・e36140) |
![]() ドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117) |
●その牙を止めろ
行列で賑わう春の交差点に、突き刺さるは三つの牙。
それらは竜牙兵へと姿を変え、驚く人々へ刃向けるが――揮われるより先、上空より降下した天矢・和(幸福蒐集家・e01780)が敵を襲った。
ヘリオンより降り立つ、その勢いも足先に乗せて。流星煌めく蹴撃を竜牙兵のうち一体へ叩き込めば、敵は一斉に和へ視線向ける。
「ケルベロスだよ。ここは任せて早く逃げて」
ふわり、笑顔のまま声上げる。その言葉にはっとしたように、周囲の人々は竜牙兵から距離取ろうと走り出した。
そんな一般人達を守るように、竜牙兵の前へ立ち塞がったのは除・神月(猛拳・e16846)。彼女はグラビティを蜜色のエネルギーへ変え、周囲に展開する。満月に似た力が、受けたケルベロス達の神経を研ぎしまし、狩りを行う獣のような感覚を与える。
それは味方の命中率を上げるため。本当は前衛を支援したかったが、このグラビティは彼女と同じ中衛の仲間にしか及ばない。だが此度の布陣は妨害手が三人、十分に意義のある支援だ。
「おめーらイチゴを食いに来たって面じゃねーんだシ、とっとと帰ってドラゴン様に良い子良い子でもして貰ったらどーだヨ?」
嗤う女の漆黒の瞳には、蜜色オーラが月のように浮かんで。その挑発を受けるように、竜牙兵の一体がゾディアックソードを構える。振りかぶる、しかしその一撃は神月の前に躍り出た探偵服の少女が受け止めた。ドロッセル・パルフェ(黄泉比良坂の探偵少女・e44117)。彼女が金の瞳向ければ、敵が小さくうなり声上げる。
(「フルーツパーラーを襲うなんて許せませんね」)
胸中で呟き、手を揮う。呪われた刀より開放するのは、抑え込んでいた狂気。それは後方に位置する仲間達へと感染し、その身に力を与えていく。
「いちごビュッフェはこの命に代えても必ず守ります! そして勝利した暁には全力でスイーツを楽しんでやりますよ!」
ちらり、フルーツパーラーのポップ眺めて宣言した。その決意はどこか凛々しく、支援受けた姫百合・ロビネッタ(自給自足型トラブルメーカー・e01974)はそっとため息をつく。
(「あたし以外にも探偵さんがいるなんて! かっこいいな~」)
歳も近いし、憧れる。密かに抱いた感情に微笑みながら、ロビネッタは二丁の拳銃を構えた。
「ここであたしが大登場~!」
軽やかに、舞うように。撃ち出す全方位の射撃は、敵三体の体へ吸い込まれるように命中していく。
「現行犯で退治しちゃうよー!」
その明るく元気な声が気に障るのか、竜牙兵達はロビネッタを憎らしそうに見つめた。
仲間達の、力強い戦い。その後ろ姿に激励送るべく癒しの歌紡いで、愛月・かのん(夢歌・en0237)は傍らの癒し手へ視線移す。
「クララ? どうしたの?」
「……。あ、あの、すみません。週末はいつも図書館に籠ってるので、つい……」
従来であれば、人通りの多い駅前交差点。こんなところに昼間から出掛けることはなくて、戸惑ったのだと帽子を手で押さえながらクララ・リンドヴァル(本の魔女・e18856)は呟く。
しかし次の瞬間には頑張っていきましょうと言葉紡いで、彼女は爆破スイッチに手をかけた。
「『不変』のリンドヴァル、参ります……」
立ち上る彩りの爆発、それは前衛の背中押し、勢いとなる。爆風受けた相棒が士気高めるのを感じながら、巫・縁(魂の亡失者・e01047)はドラゴニックハンマーを構えた。周囲を見回す。一般人はすでに避難を完了し、ケルベロス達と竜牙兵以外、人影はない。
「これなら気兼ねなく貴様らを屠れるな」
言葉と共に、放つ砲弾。狙う相手は仲間と重ねて――一点に集中を。
よろめく竜牙兵、それとは別の二体が、反撃の剣を向ける。狙いはケルベロス側前衛、揮うのは冷気纏う星座のオーラ。
ドロッセルと、和のビハインドである愛し君、縁のオルトロスであるアマツが庇いに動くけれど、全ては受けきれない。氷が纏わりつくのを感じながら、それでも水無月・一華(華冽・e11665)は気迫に満ちた瞳を敵へ向けた。
「失礼。その首、頂戴いたしまする」
桜色の軍服ワンピースを翻して、駆ける。桜花舞うようなその動き、しかし揮う太刀筋はどこまでも鋭く。閃く青が、竜牙兵の体へ傷を生む。
(「グラビティチェインどころではありませぬ。苺と限定スイーツが呼んでいるのですわ」)
だから、邪魔する奴らは叩き斬らねば――決意と共に、敵から距離置いて。そんな一華へ、竜牙兵は敵意に満ちた声を投げかける。
「ケルベロスどもメ! オマエたちをタオシ、ゼツボウをいただくとシヨウ!」
振り上げられるゾディアックソード、身構えるケルベロス。支援巡らせた彼らの戦いは、ここからが本番だった。
●力ぶつけて
敵一体に狙い定めて、足止め織り交ぜながら攻撃重ねる。ケルベロス達の効率的な戦法に、攻撃一辺倒の竜牙兵達は押されていった。
三体全てが攻め手の敵、受けるダメージは大きかったが――癒し手のクララが的確にヒール施し、それをかのんと彼女のナノナノであるなっちゃんが手伝えば、危機的な状況は回避できた。守り手であるドロッセルもヒールを用意しており、緊急時には自己回復できたこともよかっただろう。
かくして、苛烈な攻撃を前に、一体目があっさりと倒れた。攻め手の数が多い敵に警戒していたロビネッタも、ケルベロスの優位を感じ安堵する。次に狙う敵にも、揮う戦法は同じ。足止めを織り交ぜ仲間の攻撃が確実に当たる状況を作り、攻撃を撃ち込んでいくだけだ。
「よーし、ここにサインを印そう!」
高らかな声、敵に向けるは『シェリンフォード改』。放たれる弾丸はより体力の減っていた個体へ撃ち込まれ、その連射に敵が身をよじる。
続けて敵陣へ飛び込むのは、アベル・ヴィリバルト(根無しの噺・e36140)。彼が振るうドラゴニアンの尻尾は、二体の敵を薙ぎ払い体勢を崩す。
その隙を見逃さず、和がリボルバー銃を構える。
「春の陽気はいいけど、君たちは迷惑だ」
『左手に薔薇』。そこに篭めるは、魔法の弾丸。
「その瞬間、僕は恋に落ちた事を知った。そして、この気持ちから……もう、逃れられない事も」
詠うよう紡ぐ、彼が手掛けた小説の一節。一目ぼれの瞬間を捉えたその言葉を体現するよう、恋の弾丸は敵を追いかける。
ただ、真っすぐに敵を目指し。胸を穿つ弾に、竜牙兵はたまらず倒れこんだ。
「あと一体! みんな、もう少し頑張りましょ!」
仲間を鼓舞し、かのんの振りまく歌が氷を砕く。
畳み掛けよう。『斬機神刀『牙龍天誓』』握りしめ、縁がその蒼き鞘を揮う。狙うは目の前の大地、叩きつけられた鉄塊剣が衝撃波を生み出して。
「奔れ、龍の怒りよ! 敵を討て! 龍咬地雲!」
言葉と共に再度剣揮えば、衝撃波が地を奔る。辿り着く先には竜牙兵の両足、絡みつくような攻撃が、敵の自由を奪う。よろめきながらも立て直そうとする敵、しかしそこへ魔力篭めた咆哮が響く。神月だ。
「グッ……!」
上がる声音には、確かに焦りが含まれていた。もう、こちらの回復は不要。クララは手にした本を静かに開き、竜牙兵の意識を絡めとる。
「御機嫌好う」
その声こそ呪文。瞬間、がくりと敵が大きく揺れた。今、彼の意識は精神世界にある。見せるは深夜のひと気ない図書館、現れる謎の大男、並ぶ本棚縫うように、逃げても逃げても追跡を受ける――果てにこちらへ戻ってきても、その心へのダメージは大きい。
ウゥ、と唸り、敵はここで初めて守護星座の癒しを揮った。しかし、もう遅い。その程度の回復量、すぐに凌駕してみせる。
地を蹴り、竜牙兵の懐へと駆ける一華の手には『prietoile』。慌てて敵が構えたゾディアックソードを弾き、返す如意棒を撃ち込んだのは敵の顔面。
大きく仰け反る敵を前に、アベルは藍紫色の龍を生み出す。ゆらゆら揺蕩う、その姿は時を待つように――そして。
「ほら、狩りと食事の時間だ」
男の声聞けば、それは咆哮した。今までとは打って変わった激しさで、竜牙兵へと突進し、その口を大きく開く。喰らう。それが識るのは、ただ獲物を求める行動のみ。
そうして、龍が満足して消える頃。そこに残ったのは、竜牙兵の持っていた剣だけだった。
●春色ビュッフェ!
デウスエクスによる脅威は退けられた。ケルベロス達が周辺をヒールする間に、避難していた人々も戻ってきて――お待ちかねの、ビュッフェの時間がやってくる。
「い・ち・ご! い・ち・ご! ゴーゴー♪」
上機嫌に歌うロビネッタと、そのリズムに体揺らすかのんを先頭に。フルーツパーラーへやってきた一同に、気付き手を振る者達がいた。
「おまたせ、恵くん。看板メニューのパフェで乾杯といこうか」
「討伐お疲れさん。そうだな、パフェで乾杯するか」
声かける和に、息子の恵は労いの言葉紡いで。その横では、戦い終えた恋人を、万里が心配そうに迎える。
「お疲れ様、怪我はないか?」
「んっふっふ。こう見えて全然元気ですよ!」
汚れをハンカチで拭いてくれる彼に、一華は満面の笑みで答えて。
「ばっちり戦闘を終えましたゆえ、レッツいちご!」
明るく恋人の腕引いて、店内へと入っていく。
ヒールから合流していた怜も、アベルの隣でそわそわ。入口から見えるカウンター、並ぶ苺スイーツ見れば心が躍る。
「全部食べてみたいです……時間は待ってはくれません、早く行きましょう」
弾む声、くいと引く手も楽しげで。伝わる幼馴染の心感じれば、アベルも誘ってよかったと思う。
期待を抑えられず、早足に。予約席へと案内されて、ケルベロス達は全員着席した。簡単な説明を受け、いざスタート。皆、目当てのものを求めてビュッフェカウンターへと向かっていく。
大食いの神月は、たくさんのスイーツを持ってきて食べ比べ。
量をそんなに食べられないクララは、看板メニューの苺ショートとコーヒーを取って。その王道かつこだわり抜いた姿に、感嘆の声を漏らす。
「まぁ、綺麗……」
「ああ、やっぱりショートケーキも素敵! ねえねえ、どんな味?」
身を乗り出し尋ねてくるのはかのん、こちらは苺色のカップケーキをおしゃれに盛り付け持ってきていた。売れていなくてもアイドル、記念写真の撮れそうなアイテムには目がないのだ。
ドワーフの少女に促され、クララはショートケーキを口に運ぶ。ふわり、溶けるようなスポンジと、優しい甘さの生クリーム。そしてそこに合わさる、新鮮な果実。
「ええと……苺ですね」
「うっ、それはわかってるってば! 次はそれ取ってこよう!」
そうしてカップケーキにかぶりつくかのんの隣では、ロビネッタが籠盛り苺を堪能中。
「良い苺はそのまま食べても美味しいよね」
でも練乳つけるのも大好きだし、クリーム添えも絶対試さなきゃ――あれこれ味の変わる添え物を一緒に楽しめば、宝石のような一粒一粒がどれも新鮮で。
全て食べつくしたら、次は一休みのドリンクだ。
「カクテルだって! お洒落でいいなー。ノンアルコールだし飲んでも平気かな?」
「あっ、それ絶対おいしいわよね! 私も頼みたい!」
かのんが主張すれば、悩んだ挙句ロビネッタは紅茶に決定。こういうものは、大人になった時の楽しみにとっておきたいのだとか。
楽しそうにスイーツ楽しむ女子勢を眺めながら、縁もショートケーキとコーヒーを楽しんでいる。その様子に、かのんはいっぱい食べられそう? と声かけて。
「人を連れてこようと思ったんだが、生憎都合がつかなくてな」
「あら、そうだったの。じゃあ、また今度その子と一緒に来れるわね」
春は、まだ始まったばかり。このビュッフェが終わるまでも、時間があるのだから。
そのために、今日は何がおすすめかいろいろ試しましょ。満面の笑顔で語るかのんに、縁は微笑みコーヒーへと口付ける。
「ねえねえ、このパフェお花みたい! こんなお花を髪に咲かせたオラトリオに会ってみたいよね」
「あーっ、やだもうそれもおいしそう……! ロビネッタ、私もとってくるから一緒に食べましょ!」
賑やかに、楽しげに。たっぷり食べたって、その後でたくさん運動すれば大丈夫。
スイーツと会話に笑顔の花咲かせ、穏やかな時間が流れていく。
●共に食べる味
ドロッセルの前には、店で一番大きい苺パフェ。通常の二倍はあろうかというグラスの上には、苺で形作った大輪の花が咲いている。
「どうぞ。ドロッセル、任務達成おめでとう」
「ありがとうございます、冰さん。やっぱりいいですねえ、フルーツパーラーのパフェは!」
スプーン受け取り、さっそく一掬い。花弁の苺と飾られた生クリーム、合わせて口に運べば甘酸っぱさが広がって。いつもは見せない、気の抜けた笑顔のドロッセル。大好きなスイーツを、満喫している証拠だ。
しかし、これはまだ前哨戦。目標は全メニュー制覇だと語れば、冰もこくり頷いて。
「冰は任務続きで大量のエネルギーを欲していた所。渡りに船」
そして二人は一通りのスイーツを皿に盛り、次々と食べていく。その食べ方にも理論がある、クリーム系は重くなるのでなるべく早めに、ドリンクは苺のノンアルコールカクテルのみに絞りなるべく水分をとらない。
さらに甘さがきつくなった時の秘策は、苺リゾットだ。
「スイーツビュッフェでは飽きが一番の敵ですからね、だから、間にこういったものを食べるといいんですよ」
ピンクに染まったお米に、飾られた苺。
「ユニーク……」
勧められるまま食べながら、冰は感想を呟く。ドロッセルの頬にクリームがつけば、冰がふきとり。二人の前の皿は、見る間に空になっていく。
「わぁぁこれこれ……! すっごい美しい……! テンション上がるー!」
「ほう……これはなかなか」
夢中で写真撮る和の横で、恵も感嘆の声。
見た目を堪能したら、次は味だ。花弁摘み取るように、苺を摘まんでぱくり一口。広がる甘酸っぱさに、和はおいしいと語る。
「一仕事した後のスイーツ最高! 疲れが取れるねぇ」
「そうか、染み渡るか。春の苺はご馳走だな」
そう感じるのは、きっと共に食べる人がいるから。喜ぶ父親見る恵の瞳は、どこまでも優しく細められていて。
ショートケーキ、ミルフィーユ。コーヒーと共に楽しみながら、ふと和は首を傾げる。
「苺スイーツって美しい飾り付けの方が受けるのかな? 可愛くは出来ないもの?」
「いや、いちごは色合いと形だけで十分愛らしくねぇか」
赤を見れば気持ちも春めき、ほどよい甘さに心も踊る。苺自体がかわいいと、語る息子に和は思いついた顔で。
「苺にゃんことかどう?」
「苺猫か……。苺ムースケーキに苺ソースをかけて、薔薇の飾切り苺を添えてみるか」
アイデア浮かべば、話は自然と自店のことへ。苺フェアをやろう、合うコーヒーを合わせて。語りながら食べる苺は、ますます美味に感じられる。
「やっぱり最初は籠盛りにすべきだと思うのです」
言葉と共に一華がテーブルに置いたのは、フレッシュ苺の籠盛り。その量を見て、万里は思わず疑問を投げかける。
「……一華、本当にそれ全部食べられるの?」
「やだぁ万里くんったら。これは前菜ですよ」
「えっ、前菜!?」
思わず瞳を瞬かせるが、彼女が大の苺好きであることは知っている。本当にどこに消えるのやら……。不思議に思うけれど、頑張って戦った一華へのご褒美、楽しんでくれるのが一番だ。
籠いっぱいの苺をぺろりと平らげ、アイスもケーキも、どれも美味しいと笑顔浮かべ。特に気に入ったのが春色のシフォンケーキで、一華はそれを万里に示しながら声かける。
「ねぇねぇ万里くん、この苺シフォンケーキってお家でもできるかしら?」
「え、趣味程度に菓子は作るけど……いやシフォンくらいなら、なんとか?」
一華にねだられて、万里はすっかり探求モード。いくつもシフォンケーキを皿に盛り、繰り返し食べては味を吟味する。苺だけじゃなく、ほんのり桜の香り。ならば、このささやかな塩気は桜の塩漬けだろうか?
それは全て、一華のために。彼女の望むことならば、どんなことでも叶えると誓ったのだから。
アベルと怜も、全制覇を目指し準備は万端。様々な苺スイーツ載せたプレートに、見ているだけで怜の頬が緩んでいって――つられるように、アベルも口元が緩んでしまう。
まずはパフェ。花弁崩すのがもったいないと零しつつ、怜は一掬いを口へ運ぶ。堪能。しかしふと視線を向ければ、アベルが見つめていることに気付いた。
感想を言わずとも、バレバレの表情。照れたように視線をパフェに向けスプーン動かす姿に、アベルは食欲と同じくらいに心が満たされるのを感じる。
「アベルさん、あーん」
掬ったスプーン突き出したのは、恥ずかしさ隠した悪戯心ゆえ。そんな幼馴染を微笑ましく思いながら、ぱくり。そしてアベルもまた、ショートケーキ載せたフォークを差し出した。
「――あーん、てな?」
返された悪戯、それもまたぱくり口にして。共有する甘酸っぱさに、笑顔が浮かぶ。
一つ一つ味わいながら、全種類制覇を。まだまだ、時間はたくさんある。
春色の店内、広がる苺スイーツ。それらに囲まれケルベロス達に浮かぶのは、おいしい気持ちと笑顔ばかり。
竜牙兵の脅威から守り抜いたこの平和は、きっと春の間ずっと続いていくのだった。
作者:真魚 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
|
種類:
![]() 公開:2018年4月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
|
||
![]() あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
![]() シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|