中心一点突破

作者:宮内ゆう

●森の奥の甘いもの
 深い深い森の奥、ふたつの人影が向かい合っていた。
 小柄な少女と屈強な男。争っているようだが、膝をついているのは男の方だった。
「お前の武術、それで終わりか?」
「まさか。だが認めよう、貴様は強い。故に我が奥義を見せてくれるッ!」
 男が立ち上がり、地面を踏み抜く。
 ドンッ、と地鳴りがするほど。しかし相手は微動だにしない。
「ジェリーストライクッ!!!」
 真っ直ぐ拳を打ち込む。体内に直接気を叩き込む技だが、通用しないのは承知の上。
「続けてツイストパニッシャーッ!!」
 身体ごと回転させて、拳で鋭く相手を穿つ。畳みかけるならいまだ。
「そしてこれがトドメの……リングエンドインパクトぉッ!!」
 一度身体を引き、反動をつけての渾身の一撃。これほどの衝撃を受けては、並大抵のものならば、中心に風穴が開いてしまうことだろう。
「……化け物め」
 忌々しそうに男は吐き捨てた。
 通じなかった。自分の力が、これまでの修行の成果が、すべてが。
 それもそのはず、相手は少女の姿をしながらも、その実体はドリームイーターなのだから。
「そう言うなよ。お前の武術は素晴らしかったよ。ただ、僕のモザイクは晴れなかった。それだけ」
 鍵を突き刺されて男は力尽きた。
 そして、その背後から新たなドリームイーターが生まれたのである。

●おまえもドーナツにしてやろうか
 なんでか鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)はぽやぽや微笑んでた。
「世の中は広いですね~、ほんとにドーナツ殺法なるものが存在するとは思いませんでした~」
 予想しておきながらそんな言い分。
 でも無理はない、誰がドーナツと武術を組み合わせるというのか。
「きっとドーナツがとっても好きな方なんですね~」
「いやでもなんだか見た感じ物理で殴ってるだけでしたよね」
 どこか遠い目をしながらヘリオライダーの茶太がいう。
 技の名前だけドーナツっぽくしておけばいい感がひどい。
「まあ、とりあえずドリームイーターの仕業です」
 もう説明もめんどくさそう。
 原因となったドリームイーターはすでに姿を消しており、残りの男から生まれたドリームイーターが人里に向かっているので、撃破して欲しいということだ。
 場所も森の中で、人が来るような場所ではないので回りは気にしないでいい。
「さっきも言いましたけど、見た感じはただの拳法家みたいですね」
 印象としては、卓越した肉体から放たれる一撃はどれも強力そう。
 それぐらいである。
「……で、何がドーナツなんですかねぇ」
 何はともあれ、ドリームイーターの撃破をお願いしますと茶太は頭を下げた。
「ドーナツと聞いてッ!!」
 一体どこから聞きつけたのかセティが飛び込んできた。
「こうなったら私も行くしかありません、ドーナツのためにっ」
 ドーナツ関係なさそうとは誰も言わないやさしさ。
 ただルシエドが目頭抑えてため息をついていた。


参加者
ラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)
エルトベーレ・スプリンガー(朽ちた鍵束・e01207)
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)
リリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)
鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)

■リプレイ

●繋がる輪
 森の中を進んでいくと、やがて開けた場所に出た。この辺りに敵はいるに違いないということで、ケルベロスたちは一息つくことにした。
「ドーナツ殺法が食べ物を粗末にしない拳法でホッとしましたー」
「殺法? 拳法?」
 胸を軽くなで下ろしながら鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)が言ったところ、セティ・フォルネウス(オラトリオの鹵獲術士・en0111)は首をかしげた。
「え、ドーナツ食べにきたんじゃないんですか?」
「えっ」
 わりと真顔。
「どーなつが食べられるって聞ぃた……違ぅ?」
「きょうはどーなつ食べほうだいっていってたじゃないですかー!」
 ドーナツ表記がひらがな組、ラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)とリリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)も話に便乗。なお地団駄踏むあほ毛をルシエドがなだめてたりする。あとミミックのリリさんがめちゃくちゃ震えてるけど大丈夫なのか。
「こういう反応なだけマシなのよね」
 ぽつりと古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)が零す。何故そう言うのかといえば、彼女らはまだケルベロスの仕事をした上で、ドーナツを食べるという意識があるからだ。まあ実際に働くかはおいといて。
「……」
 無言でエルトベーレ・スプリンガー(朽ちた鍵束・e01207)のほうを見た。
「……ところでサッポウとかケンポウってショウロンポウの仲間ですか? 中華風ドーナツ? あ、じゃあドリームイーターっていうのもドーナツの名前なんですね!」
「あー……コーヒーが飲みたいわ」
 説明するのもめんどくさくなった。しかして、その言葉を聞きつけたのがアンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)である。
「よしきた、ブラックでいいかい」
「構わないわ」
「ドリップとサイフォン、どっちがいい?」
「サイフォンで……え?」
「常に全力を怠らない、それが騎士道というものさ。たとえコーヒーであっても!」
 なんか漏斗とフラスコ取り出してたりする。もうこれ以上余計なことをいうのはやめることにした。
「これが俗にいう腹が減っては~、ってことなんでしょうかね。ある種の高度な戦術的行動……」
「いやぁ、そーゆーこと言うもんじゃないと思うなあ」
 納得顔で頷くカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)に颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)はちょっとだけ諫めるような様子で言った。
 ちょっと見回すと、いままで賑やかだった皆様方が大人しくなってじっとこっち見てた。
「あれぇ、なんか僕が水差したみたいになってません!?」
「いや、うん。わかる、わかるよ。でもね……学んだんだよ。こんなときは思考を放棄したほうが幸せだって……」
「そう、ですか……」
 立って向き合う。それは互いに踏み込める一刀必殺の距離。
「ドーナツ!」
「ドーナツ!」
 パァン、とハイタッチの音が辺りに響き渡った。
 その様子を身守っていたライドキャリバーのちふゆさんは、この流れに突っ込むか同調するかを本気で悩んでるようだ。

●ドーナツ失踪事件
 ふぁさりとほのかな羽音と灯とねこのアナスタシアさんが降りてきた。
「私は花の女子高生……いえ、今日は縁の下の力持ち。皆さんに癒しとお菓子を給仕する、えんじぇりっくメイドです!」
 どーんと仁王立ち。
「まあ、これといってお菓子は用意してないんですけどね!!」
 何故か偉そう。
「じゃあ、みんなに配るの手伝ってもらおうかな」
「ヒィッ!」
 ちはるが言った瞬間、えんじぇりっくは2メートルほど飛び退いた。
「えぇ……なんでそんなに怯えるかなぁ」
「もちろん裏社会の組織の工作員が……」
 ばたん。
 なんかだれか言いかけた瞬間、箱の閉じる音がした。
「意外にはいっちゃうものなんだね」
「ぎゃーん、さむいですー! つめたいですー!」
 リリウムインリリ。
 さっきまでガタガタ震えてたリリさんがいまはめちゃくちゃじたばたしてる。
 入れられたのか、元から入っていたのを閉められただけか、どっちなのだろう。
「これはいったいどういうことなのかしらね」
 状況がよくわからず、るりは思案顔。答えたのは主人であるラトゥーニだ。
「リリには、保冷剤ぃれとぃた」
「ああ、冷たい飲み物も用意しておいてくれたのね」
 よく見るとリリさんからあほ毛が生えてた。合体したのかもしんない。
「ああもう!」
 耐えかねたようにエルトベーレが声をあげた。
「せっかく森にピクニックにきたんです、早くドーナツにしましょう!」
 ピクニックにきたわけでは決してない。
「セティちゃん、ミルクティも用意してきたんです、この準備の良さを褒めてください!」
「ベーレさん、素敵です! いい子いい子、なでなで」
「えっへん! ドーナツもお洒落にミルクティ風、アールグレイを練り込んだ生地にホワイトチョコ……」
 ボックスを開けたら空っぽだった。
「りっちゃん……」
 いきなり疑いの目を向けられるファミリアのリヒトさん。心外とばかりに首を振る。ほんとに食べてないらしい。
「落ち着いてください、ベーレさん。ここはドーナツ探偵の私に任せてください!」
「セティちゃん!」
「代わりに私の作ってきた分をあげますから」
「わぁい、交換こですね!」
 出てきたのはチキンカツ、フライドチキン、かしわ天だった。
「鶏ばかり! なんでドーナツを揚げなかったんですかあああああ!!」
「そう、ポイントはそこです。なくなっていたのはドーナツのみ。つまりこれは鹵獲ドーナツ士の犯行。そしてもうひとつのヒント……」
 ボックスの隅を指ですくう探偵。
「ホワイトチョコレートです。ねぇカルナさん、好きですよね?」
「ふっ、僕がチョココーティングのドーナツが好きだとよくご存じで」
 認めたかのようにカルナは頷いた。
「いえ、いつも言ってますし」
「そうでしたっけ。まあバレては仕方ありません。このドーナツどうしてくれましょう」
「くそっ、貴様裏切ったのか!!」
 臨戦態勢でアンゼリカが拳を構える。
「裏切ったとは心外な。僕はこちら側なんです、もともとね」
「なっ、皆の気持ちを弄んでいたということか……ゆるさんぞ、こうなれば仕方がない。いつかこんな日が来るかもとは思っていたが……今日がお前の命日だ、決着をつけよう、ブリザードドラグーン!」
「ちょ、せっかく沈静したネタを蒸し返さないで!?」
「あの~、ノリにノリで返して楽しんでいるとこ申し訳ないんですが~」
 ひょこりと紗羅沙が割り込んだ。
「今のままだと、ドーナツ盗んだ悪い人でしかないですよ~?」
「あっ」
 結果的に言うと、ただ単純に持ち寄ったドーナツを集めてみんなで分けようとしていただけで、ついでにすでにドーナツ渡してたのを忘れたとゆーこと。
「あ、ちなみにちはるちゃんのドーナツはまだしまいっぱなしだったよ」
 などと言いつつ、ちはるはちふゆさんの収納スペースからあんドーナツを取り出した。
 いつの間に入れてたの!?
 なんてかんじでちふゆさんがめちゃくちゃ驚いてた。
 というわけで、ドーナツのほかコーヒーや紅茶、冷たいお茶なんかも用意されて、すっかり森のお茶会の様相になった。
「……きた」
 ドーナツを頬張りながら、ラトゥーニが言った。周囲の空気がはりつめたようなまるで変わっていないような。
「え、え?」
 エルトベーレだけよく分かってない様子なのでハイルさんがほっぺひっぱたいた。
「いたっ、なにするんですか!」
「それじゃあじゅんびしますですー」
「続きはまたあと、ということね」
 食べかけのドーナツをおいてお口ふきふきするリリウムと、コーヒーカップを置いて立ち上がるるり。
「え? え?」
「これから戦闘ですよ~」
「はい? せん、とう……?」
 紗羅沙に言われてもまだ、合点のいかない。
「ほら、もういるだろ。ドリームイーター」
 アンゼリカが指をさす。
 いや、気付いてはいるのだ。
 目の前にドリームイーターが現れていることには。
 でも今日はドーナツじゃなかッたっけ、と考えているだけである。

●戦士の檄
 拳を構えるドリームイーターの前にエルトベーレは誰よりも早く立ちはだかった。
 それこそディフェンダーの面々よりも早く。
「話は(いま)すべて聞きました! お仕事を辞めてまでドーナツを極めようとは見上げた心意気……まさに世に言う、ドーナツの穴より深いドーナツ愛……」
 それ貫通してるだけで浅いのでは、などと言ってはいけない。
「私は、あなたを戦友(とも)と認めましょう! さあ、あなたのドーナツを見せてください!」
 いきなりドリームイーターの一撃が直撃した。吹っ飛んだ。容赦ねえ。
「ベーレ……信じる心を……立ち上がる力を失わないで……! 女子力ふるちゃーじ!」
 えんじぇりっく灯がすかさずフォロー。このタイミングで女子力もおおかたわからないけども、おかげでドーナツが出来た。幻影だけども。
 それで回復させつつ、ファミリアたちがエルトベーレを引っ張っていった。その後カイさんがちょいと戻ってきて、こっちはこっちでやっておくのであとよろしくって顔してた。
 いきなりの展開で押し黙っていたその他ケルベロスたちとドリームイーター。
 かくして、次に動いたのはラトゥーニだった。
「おなかぃっぱぃ、ねる」
 いままでの流れも、目的さえもすべて無視。躊躇なく寝転んだところを隙とみたのかドリームイーターが迫る。
 そこはもう完全に狙い澄ませたかのように、リリさんが吹っ飛んできた。内部に風穴開けられてはたまらないので必死に噛みつく。
「おっと、思わず動くの忘れてたよ、ちふゆちゃん!」
 ちはるが蹴りで星形のオーラを飛ばして注意をひきつつ、攻撃が集中しないようちふゆさんが割り込んでフォロー。
「援護しますよ~」
 ドリームイーターの攻めが本格化する前に、紗羅沙が守りを固めて態勢は十分。攻撃されても、すぐさま状況を立て直すことが可能になった。
 そのしばらく攻撃の打ち合いが続くも、ドリームイーターは攻めきれない様子だ。
「一撃一撃は強力な印象だけれど……押さえ込めればそう脅威でもないわね」
 ある程度のところで見切りをつけて、仕留めるべくるりが無貌の従属を放つ。
「もっとも、こんな阿呆にトラウマがあるかどうかも疑問だけど……」
「ぐ、う、おおおおおおおお!」
 ドリームイーターが悶え始めた。きっとこれは本来の男の記憶、抱え込んだトラウマに違いない。
「コ、コマンドが……昇竜が、出ない! なんだと、このまま20連敗、だと……!?」
「……」
 どんなトラウマかさっぱり分からない。
「格ゲー脳じゃないか! ドーナツへ対する思いはどこへ行ったんだ!」
「ドーナツに対してトラウマなんぞあるか! 大好きなんだよ!!」
「その心意気やよし!」
 そこはぶれないらしい。むしろトラウマがあるのは格闘に対しての方のようだ。
 アンゼリカが真っ向からドリームイーターの攻撃を受け止め、はじき、反撃を加えていく。しかしタイマンであればドリームイーターが優勢になるのは至極当然だ。
「くははは、ドーナツ殺法は世界一ィ!」
「来る……!」
 ドリームイーターが腰を低くし、腕を引いて構えた。あの一撃だ。
「なら、ライバルのとうじょうですー!」
 とっさにリリウムが絵本を開いた。
 それは不思議な不思議な物語。
 怪奇現象を解明するべく旅に出た少年が、旅先で多くの出会いを経て、8つの旋律を集めて真実へ辿り着く。
 その旅の最中、少年はある場所へと赴く。
 シュークリーム動物園。そこで彼は真っ白な人型に出会う。
「PKシュークリームストリームですー!!」
「ドーナツでなければライバルすらも関係ねエエエエ!!!」
「じゃあPKなサンダーをじぶんにあててタックルですー!」
「ほげぇ!」
 ドリームイーターは物理で吹っ飛んだ。
「ははあ、なんだかんだで結局殴って倒せばいいんですね」
 倒れ込んだドリームイーターのもとにカルナが歩み寄った。
 確かに、ドーナツだなんだ言ってもただの拳法家だ。といってもほぼ実力見せることなく完封されているわけだが。
「では甘味な夢を抱いて永遠の眠りに沈むがよい……ドーナツゲイザー!」
 ただの踵落としが直撃して、ドリームイーターは動かなくなった。

●森の昼下がり
 無事ドリームイーターを倒すことが出来たので森のお茶会再開。
 森を汚すわけにはいかないので、ラトゥーニは寝てる合間に、ゴミをリリさんに流し込んでたりする。
「環境に、やさしぃゎたし」
 ふぅ、と働いた感アピール。そろそろリリさん泣きそうな気もする。強く生きろ。
 そして主人はまた寝た。
「はなしがちがうじゃないですかー!」
 なんか今日のリリウムはぷりぷりしてばかり。
「どーなつがいっぱい飛んできたり、ふってきたりするんじゃなかったんですかー!」
 どこ情報なのか、それ。
 べしべし叩かれてやつあたりの標的にされてるルシエドがちょっとかわいそう。
「そんなにプリプリしないで~。ドーナツ食べ放題ですよ~」
「わーいわーい、うれしいですー!」
 ナイスフォローの紗羅沙、チョロい。
「みなさんでドーナツ楽しもうと思うんですけど~……ほんとにいいんですか~?」
「だって、これは、これはセティちゃんが、私のために、ためにっ!」
「いやだからってそんなに無理しなくても……」
 自分のために作ってきてくれたのが嬉しかったのだろう。
 うれしさ満面で鶏の揚げ物を頬張るエルトベーレの姿がそこにあった。
 だけど流石に量が多くてしんどい、ドーナツを食べる余裕がはっきり言ってない。
「持って帰ればいいのに」
「はッ」
 ぼそりとセティが言う。そこまで気が回っていなかった。
 いま食べなきゃいけないと何故か考えていたのが間違いなのだ。だが、ハイルさんがしっかり働いてくれていた。
 どう見ても全部乗せ、チキンカツフライドチキンかしわ天丼を差し出してきたのである。
「もー、ハイルさん厳しすぎです! ルシエドさんくらい心が広くても良いんですよー!」
 ルシエドもふもふ。
 心が広いというか、ひとさまの娘さんに厳しいことはいえないというだけである。
「最近気になってることがあるんですが」
「うん」
 カルナとちはるが真面目な顔で話し合っている。
「ハニーチュロスはドーナツに分類されるものなんでしょうか」
「しらんがな」
「ええ、同じ揚げ菓子ですよ、気になるじゃないですか」
「でもさあ、そんなこと言ったらこれだって」
 そういって自分の作ってきたあんドーナツを一口ぱくり。
「これ、どちらかと言えばパンでしょ」
「ならドーナツとそうでないものの境界は一体どこに……」
「どこでもいいじゃんね、美味しいんだからさ」
「確かに、美味しければ問題はありませんね」
「あ、ちふゆちゃん。紅茶飲む?」
 いらんがな、って感じでちふゆさんは給油口を守った。
「セティちゃんやルシエドちゃんは?」
「あんドーナツください」
 即答。
「ドーナツの定義か……そういえば私はドーナツじゃなくてドーナッツっていっていたんだが間違いなのか?」
「どっちでもいいのよ」
 アンゼリカの問いにるりがさらりと答える。紗羅沙もここでちょいと知識披露。
「昔は砂糖天ぷらとも言われていたらしいですよ~」
「そうなのか!?」
「よく知ってるわね。さて、みんなちょっと忘れているんじゃないかしら」
「?」
「なんでしょう」
 リリウムもカルナも首をかしげるが、ため息混じりにアンゼリカが言った。
「被害者の男性のことだよ」

 すぐにもう少し奥の方まで行き、男性を発見。軽く介抱しただけですぐに目を覚ました。
「おじさん大丈夫?  ヒール要る?  リンゴ食べる?」
 とりあえずちはるが声をかける。矢継ぎ早に。
「ドーナツ持ってる? 無ければ作れる?」
「そうですドーナツです! ドーナツのおじさん! おじさんのドーナツ食べさせてくださいー!」
「ちょちょちょちょまままま」
 エルトベーレがめちゃくちゃ肩を揺らす。おちつけとファミリアたちが引き剥がした。
「いや、いまはないよ」
「ないんですか、うそつきです!」
 リリウムが非難した。至極当然のことを言ったのに、扱いがひどい。これには男性もしょんぼり。なら慰めてあげないととるりは決心した。
「ドーナツ屋になるの? フランチャイズではなく?」
「ああ、そのつもりだ」
「それは大変な道でしょうけど、素敵な事だわ」
「ありがとう、がんばるつもりだよ」
「起業するなら家族の応援も力になるはずよ。例えば反対している奥さんがいるなら、その説得から始めるべきだと思うの」
「いや……」
「え、まさか……独身? あっ」
 なんかきまずいふんいき。
 ぱん、と紗羅沙が手を叩いた。
「ドーナツパーティーの続きをしましょう~。そうすれば38歳無職独身さんも寂しくならないと~……」
 無職は力尽きた。いいトドメだった。
「こういうときにすべきこと、私は学んだ気がします」
「ほう?」
 セティの言葉にアンゼリカが聞き返した。
「思考を放棄します! そしてドーナツをたのしみます!」
「コーヒーもどうぞ。ああ、のんびりティータイム……皆と楽しむのは最高だよね」
 まだまだ昼時、森のお茶会は始まったばかりだ。
「ところで全く起きる様子がありませんね……」
「ぐぅ……どーなつ……ぱくぅ」
「ぎゃー!!」
 ラトゥーニのほっぺをつっついてみようとしたカルナは手首辺りまでもっていかれた。

作者:宮内ゆう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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