●少女の罪
「……どうしよう……」
自室で、幼い少女は悩んでいた。
少女……上山加奈子は先ほど、親友とケンカをしてしまったのだ。
きっかけは、加奈子の一言だ。親友が持っていた古いお守りを、何の気はなしに貶してしまった。古いね、捨てないの、と。
それは親友が大切にしていたもので、そのことから親友は怒ってしまう。売り言葉に買い言葉、自分が悪いと思いつつも、加奈子も口論をやめず、気づいたら、お互い口もきかずに別れてしまった。
分かっているのだ。自分が悪いという事は。
だが、自分が悪いと分かっているからこそ、自分の無神経な一言が、親友を傷つけてしまった事を理解しているからこそ、加奈子は罪の意識にさいなまれているのだ。
と。
「ええんやで……」
声が聞こえた。
「だ、誰……!?」
驚く加奈子の前に現れたのは、大量のひよこを纏った、一匹のビルシャナであった。
「ええんやで……ええんやで……苦しまなくてもええんやで……。
恵縁耶悌菩薩は『ええんやで』とおっしゃいました。
あなたの罪は許されたのです。
ええんやで……ええんやで……悩まなくてもええんやで……。
さぁ心を罪から解放し、恵縁耶悌菩薩の羽毛に抱かれましょう。
恵縁耶悌菩薩の羽毛はふわふわで、とても気持ちが良いものです」
罪が許された。その根拠はどこにもない。本来ならば、その言葉に耳を貸すことはないだろう。だが、罪の意識にさいなまれる加奈子にとって、その言葉は救いだったし、そういう『罪の意識に苦しむ人間』を、このビルシャナは狙っているのである。
「許された……わたし、許されたんだ……!」
嬉しそうに、加奈子が言った。その途端、加奈子の姿は、ひよこのようなビルシャナへと変わっていた。
「ですが、気を付けなさい……。
おそらく、すぐに、ケルベロスが襲撃してくるでしょう。
ケルベロスは、あなたの罪を償わせようと襲い掛かってくるのです。
だからあなたは戦わねばならない。
あなたは罪を許されたのに、何故償わなければいけないのでしょうか?
それっておかしいですよね?」
その言葉に、加奈子であったひよこビルシャナはこくこくと頷いた。
「戦うのは、あなた一人ではありません。
恵縁耶悌菩薩の配下たる私も共に戦うから、きっと勝てますよ。
更に、自愛菩薩の力により新たに配下とした、この者もあなたを守ってくれます」
その言葉に応じるように現れたのは、1人の螺旋忍者である。
「さぁ、皆で力を合わせ、ケルベロスを撃退しましょう……!」
ビルシャナの言葉に、ひよこビルシャナは、羽をパタパタとさせながら、賛同したのだった。
●罪の在りか
「ビルシャナの菩薩達が、『菩薩累乗会』と言う作戦を実行しようとしていることが予知された」
ブリーフィングルームに集まったケルベロス達へ向けて、アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)はそう告げた。
菩薩累乗会とは、強力な菩薩を次々に地上に出現させ、その力を利用して、更に強大な菩薩を出現させ……と次々に菩薩を出現させてゆき、最終的には地球全てを菩薩の力で制圧するというもののようだ。
この菩薩累乗会を阻止する手段は、現時点では判明していない。その為、出現する菩薩が力を得るのを阻止し、菩薩累乗会の進行を食い止める事でしか、この作戦を阻止する事は出来ないのだ。
「今回現れた菩薩は『恵縁耶悌菩薩』。罪の意識を持つ人間を標的とし、罪の意識を消し去る事と引き換えにして、その存在を自らに取り込んでしまう……と言う菩薩のようだ」
被害者は罪の意識にさいなまれている人間だ。配下のビルシャナである『デラックスひよこ明王』により、被害者はビルシャナにされてしまっている。
被害者は、自らを導いたデラックスひよこ明王と共に自宅にとどまり続け、羽毛に抱かれながら罪の意識から逃げ続けているという。
「罪の意識を利用し、自らの糧として取り込む……何とも卑劣な相手だな。このまま放置していては、被害者は恵縁耶悌菩薩の一部にされてしまう。だから、速やかに、事件を解決する必要があるんだ」
アーサーはヒゲを撫でながら、言った。
さて、敵となるのは、ビルシャナである『デラックスひよこ明王』、そして被害者が変化した『ひよこビルシャナ』。それから、『幻花衆』と言う螺旋忍軍の一派の戦闘員だ。
「どうやら、幻花衆は、このビルシャナたちと利害が一致しているらしい。その為、今回、協力体制をとったようだ」
つまり、今回相手取る敵の数は、3体という事になる。
さて、もしひよこビルシャナを先に倒した場合、デラックスひよこ明王は撤退する、と予知されている。先にデラックスひよこ明王を倒すことができた場合、ひよこビルシャナを適切に説得・励ますことができれば、ひよこビルシャナを倒した後に、元の人間の姿に戻すことが可能であるとも予知されている。
「敵三体を相手取り、さらに被害者を説得し、倒す……もし被害者を救おうと考えるならば、作戦の難易度は跳ね上がるだろう。作戦の方針は君達に任せるが……くれぐれも気をつけてくれ」
なお、幻花衆の戦闘員は、ビルシャナが2体とも撃退された時点で撤退するようだ。
「罪の意識を持つ……人間としては当たり前のことだ。苦しんでいる人々を利用し、自らの力にしようなど、許される事ではない……と私は思うよ。君達の無事と、作戦の成功を、祈っている」
そう言って、アーサーは、ケルベロス達を送り出したのだった。
参加者 | |
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ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720) |
西水・祥空(クロームロータス・e01423) |
小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080) |
コマキ・シュヴァルツデーン(謳う銀環・e09233) |
喜界ヶ島・鬱金(凡天・e10194) |
桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767) |
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570) |
惟任・真琴奈(素顔内在証明・e42120) |
●幻の華、そしてひよこ
「こがらす丸、一気に攻めますよ!」
相棒のライドキャリバー『こがらす丸』へ声をかけながら、北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)は、『バッシュ・シリンダー』を携え突撃した。すかさず放たれるは、達人にしか放てぬ見事な一撃。合わせるように、こがらす丸は追撃の突撃を幻花衆戦闘員へお見舞いする。
ケルベロス達が現場へと到着した瞬間に、戦いは始まった。すでにケルベロスが来ることを予期していた幻花衆戦闘員とデラックスひよこ明王、そしてひよこビルシャナは、まさにケルベロス達の到着を待ち構えていたのである。
だが、ケルベロス達も、そういった状況は予測している。すぐさま構え、戦闘態勢に入ったのだ。
敵は3体。ケルベロス達が最初に狙ったのは、幻花衆戦闘員である。最終的な目的は、デラックスひよこ明王を撃退し、ひよこビルシャナと化した少女、加奈子を救う事にあったのだが、そのためには、2体のビルシャナを援護し、守る、この幻花衆戦闘員の存在は障害となる。
ビルシャナを倒せば撤退する、と言う情報はあったが、放置していい存在でもない。速やかに排除しておくのが無難であろう。
「黒曜牙竜のノーフィアより累乗絵の尖兵達へ。汝らが主の祝福を。……その上で、食い破るっ!」
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)が『黒曜斬剣”猛き牙のジャガンナータ”』を構え、宣言した。ボクスドラゴン『ペレ』がその言葉に応じる様に吠え、ノーフィアが駆ける。剣による重い一撃が幻花衆戦闘員を切り裂き、ペレによる追撃のブレスが幻花衆戦闘員を焼いた。
「幻花衆がなんでこんなところにおるんや? いつから仲間になったんや」
すかさず、小山内・真奈(おばちゃんドワーフ・e02080)が追撃の蹴りを放つ。その蹴りを食らい、幻花衆戦闘員が後方へ跳躍。幻花衆戦闘員は無言を貫いている。
「ま、聞いて教えてもらえるなんて思ってへんよ」
と、苦笑しつつ、真奈。
「人の罪悪感に付け入る……!」
西水・祥空(クロームロータス・e01423)は、『ワイルドハントリーダー・ヘカテー』を構え、デラックスひよこ明王へと対峙していた。
幻花衆戦闘員の攻撃は急務だが、同時にデラックスひよこ明王への抑えが必要だと判断したケルベロス達は、祥空、そして喜界ヶ島・鬱金(凡天・e10194)をそれに回した。
「苦しむ人々の心を弄び、利用するとは……ましてやこのような子供を!」
ワイルドハントリーダー・ヘカテーより放たれた砲弾が、デラックスひよこ明王へと直撃。ぴよぴよと悲鳴をあげつつも、
「老若男女など関係ないのです。すべては救われ、一つとなるべきなのですから」
ぴよぴよ、と笑うデラックスひよこ明王。
「偽りの救いを与え、自らの糧とするとは、醜悪極まりないですね……!」
思わず苦い顔をする祥空へ、
「まったくだ、西水。流石の私も気分が悪いぞ! いいか、ビルシャナ。貴様ら等に救われなくとも、人は人を救えるのだ!」
祥空とのコンビネーションで、鬱金が鋭い蹴りの一撃を加える。
「ましてや此度の件、彼女を許すのは貴様ではなく、加奈子のダチ公だ!」
「ともだち……?」
ひよこビルシャナがぴより、と声をあげる。
「耳を貸してはいけません、ひよこビルシャナよ。あれはケルベロス達の甘言。貴女は許されました。これ以上、誰に許されるというのですか?」
ぴよぴよとさえずるデラックスひよこ明王。ぴより、とひよこビルシャナはうなづき、ケルベロス達をにらみつける。
やはり、デラックスひよこ明王がいる限り、ひよこビルシャナに――加奈子に、ケルベロス達の言葉は届かないのだろう。
「ぴーよぴよぴよ。愚かなケルベロス達よ、わがひよこの秘儀を食らいなさい」
デラックスひよこ明王は、身体にまとわりつくひよこを一匹、取り出すと、ケルベロス達へ向かって投げつける。
「へぇ、可愛い……敵じゃなかったら確かに、羽毛に埋もれたいかもね?」
桜庭・萌花(キャンディギャル・e22767)が、自身にまとわりつくひよこを見ながら言った。勿論、可愛いだけではなく、しっかりと肉体的なダメージも与えてくる。
「マスコットみたいな見た目なのに、やる事はひっどいんだよね、ビルシャナって」
萌花の言葉に、
「ひどくない……みょうおうさまはひどくないよ……」
と、ひよこビルシャナがぴよぴよと答える。
「私を許してくれた……救ってくれたの……」
ぴよぴよ。その鳴き声が、幻花衆戦闘員の傷を癒す。
「でも、加奈子ちゃん。それは偽りよ」
そして響くは魔女の呪歌。ソプラノの歌声で惨劇の記憶から力を抽出し、その力を以て再生の力とする。死霊魔法による治療を行いながら、コマキ・シュヴァルツデーン(謳う銀環・e09233)が言う。
「今はあなたには届かないかもしれない。けれど、待っていて。貴女を本当に救って見せる」
「そういうことね」
萌花が古代魔法を放つ。からめとられた幻花衆戦闘員は、まるで体が石になったかのように、その身体の動きがぎこちなく、硬くなっていく。
「まぁ、その前に、まずはアナタ。いつまでも飛び回らせたりしないから」
くすり、と挑発する様に、萌花。幻花衆戦闘員が、くやしげに呻く。
「動きを止めましたね」
惟任・真琴奈(素顔内在証明・e42120)が『ステラクラフト【量産型】』を携え、駆けた。刃が幻花衆戦闘員の傷をさらに広げる。
「我、流るるものの簒奪者にして不滅なるものの捕食者なり。然れば我は求め訴えたり、奪え、ただその闇が欲する儘に」
ノーフィアが指し示した先に、立体的に描かれた魔法陣で構築された漆黒の球体を生成された。幻花衆戦闘員が、その球体へと引きずり込まれる。
「一つ区切り! ちょっと派手に決めるよ……『収縮する世界(デモリションスフィア)』!」
ノーフィアが宣言したと同時、圧壊が始まった。漆黒の球体内で発生する超重力場に飲み込まれれば、ひとたまりもあるまい。幻花衆戦闘員は引き裂かれたような傷跡を残し、その活動を停止した。
「ぴよぴよ……この程度とは……」
デラックスひよこ明王が吐き捨てるのへ、
「よそ見している暇はありませんよ、次はあなたの番だ!」
計都が叫び、こがらす丸が走る。
「六発! 同時に撃ち込みます!」
宣言、同時に撃ち放たれるは六発の弾丸。グラビティを込め、威力を高めたそれは、敵の急所や関節などに、同時に撃ち込まれる。『ヘキサバースト』。計都の秘儀だ。それに合わせ、こがらす丸がタイヤでデラックスひよこ明王をひきつぶす。
「むぅ!」
たまらず呻くデラックスひよこ明王へ、
「みょうおうさま!」
ひよこビルシャナが悲鳴をあげる。
「大丈夫です、ひよこビルシャナよ。私はまだまだ倒れません」
しかし、その動きはどこか緩慢だ。計都の一撃がきいているのだろう。
「ぴよぴよ。我らは恵縁耶悌菩薩により許しを得た身。敗北などありえません」
「許す許さないを決めるのは、お前達じゃない……当事者自身が決めることだ!」
計都が叫ぶ。
「同感やな」
真奈が釘をはやしたバールで、デラックスひよこ明王を思い切り殴りつける。
「あんたらのやってる事は、おばちゃんから言わせてもらえば、逃げてるだけや。それじゃ本当の救いなんてものにはたどり着けへんよ」
「逃げてる……?」
ひよこビルシャナが顔を曇らせる。
「聞いてはいけません、ひよこビルシャナよ」
そう言うデラックスひよこ明王へ、
「甘言を弄するのは……やめなさい!」
祥空の『アンダーワールドダーク・エレボス』より放たれる蹴りの一撃は、円形の虹、まるで天使の輪の様なそれを描き、デラックスひよこ明王へと直撃する。
「ええい……ケルベロス達め!」
デラックスひよこ明王が、大量のひよこを召喚し、ケルベロス達を襲わせた。ひよこビルシャナは、ぴよぴよと鳴いてデラックスひよこ明王の傷を癒すが、流石に焼け石に水と言った所だろうか。
「いい加減、諦めなさい」
コマキ・シュヴァルツデーン(謳う銀環・e09233)が、高らかに呪歌を歌い、『コロナ・ボレアリス』より発生した光の環をデラックスひよこ明王へ放つ。
「その娘は、返してもらう!」
鬱金が鉄塊剣で、デラックスひよこ明王を思い切り斬りつけた。全重量を乗せた一撃が、デラックスひよこ明王を切り裂く。
「ぴよっ……!」
デラックスひよこ明王がぐらり、とよろける。
「救い。希望。あなたが謳う、そういうもの。今からぜーんぶ、絡めとって、溶かして、蕩けて――ダメにしてあげる。至上にして最高、とっても甘くて、綺麗な――絶望を」
萌花がくすくすと笑う。とたん、デラックスひよこ明王に、白い茨がまとわりついた。
「ぴよっ!?」
悲鳴をあげ、それを振り払おうとする。だが、それは決してからめとった相手を逃がしはしない。白茨。それが見せるは、甘い甘い、至高の絶望。すべてが絶望をと塗り替わる、甘美なる背徳。破滅への恍惚。
「『World's End Nightmare(ワールズエンドナイトメア)』。心地よい、悪夢(ユメ)を」
萌花は人差し指をたてて、自身の唇に触れた。同時に、白茨が消滅する。
果たして、デラックスひよこ明王が見た絶望とは何だったのか。それは、本人にしかわかるまい。そして、今やそれを確かめるすべはなくなった。デラックスひよこ明王はぐらりと倒れ、その身を消滅させたのだった。
「さて」
萌花はウインク一つ。
「少しお話ししよっか、加奈子ちゃん?」
その表情は優しく、飛び切りの笑顔で。
萌花はそう言った。
●ツミと、贖いと
「では、僭越ですが、ボクから」
と、真琴奈が言う。まっすぐ加奈子を見つめて、
「さて、許されたのなんだの言っているようですが――貴女自身、喧嘩したという方との和解が今一番欲しいものなんじゃないですか?」
そう言った。加奈子はこくり、と頷いた。
「なら、許す許されるの問題じゃありません。まず面と向かって謝ってみる。その為の一言が一番大事です。それは恐ろしいことではない。そこはボクが保障します。だって、友達なんでしょう? ちゃんと謝れば、仲直りできますよ」
「でも……」
ぐずる加奈子へ、
「本当にすまないと心の底から思っているのなら、今からだってごめんなさいと謝りに言ったっていいはずです……! 悪いと思ったなら、謝ればええんやで!」
計都が言った。
「あなたはまだ、何もしていない……あなたがお友達を傷つけてしまった自覚があるからこそ、ええんやでという言葉に乗ってその姿になってしまったんですよね。その姿こそ、自分が悪かったと思っている証拠。ならば、やるべきことは、許しを請う事ではなく、まずは謝る事ですよ」
「もふい羽毛いいよね……!」
ノーフィアが続ける。
「そんなのに包まれてたらそのまま丸まってたいよ。誰だってそーなる。私やペレだってそーなっちゃうさ。けど、そこでじっとしてちゃ友達と仲直りはできないのだよ。羽毛に包まって少し休んだら、ちょっとだけ勇気出して。大事なお友達に許してもらお? 大丈夫。お友達だって仲直り、したがってるよ」
ノーフィアの言葉に、ペレが鳴いて、同意する。
「そう、かな……?」
「あんたの親友だって、言い過ぎたって罪を感じてる頃やで」
真奈が続けた。
「あんたは優しい子や。そんなあんたの友達だって、優しい子に決まってる。きっと今、苦しんでるはずや。あんたと同じようにな。だから、今度はあんたが謝って、それから友達を許してやるばんや」
「親しい相手を傷つけてしまったときの消え入りたくなるような心持ち、よく分かります」
と、祥空。
「それはお友達もきっと同じなのではないでしょうか。あなたが本当に許してほしい相手。あなたが本当に謝りたい相手。それが、お友達のはずです。……もしご自分だけでは勇気が出ないのでしたら、私もご一緒いたします。どうか、勇気を」
「あのね、言葉って無力だけど時には鋭いナイフになるっていうのは私も分かるわ」
頬に手を当てて、コマキが言う。
「それに今の身体はふわふわもふもふしていてとても素敵よ。すがりたくなっちゃうのもわかる。……でもね、それを、克服してこそ、の人間だもの……」
そう言って、コマキが微笑んだ。
「すこぅしだけ、お外に出ようかと思ったくれたら嬉しいわぁ。きっと、明日は素敵で良い日よ」
「いいか、お前はお守りをダチ公が大事にしていることなど知らなかったのだ!」
ガン、と鬱金が言った。
思わずビクリ、と加奈子が身を震わせるのへ、
「む? すまない、驚かせたか。性分でな、許してくれ! さておき、そもそもの発端は、仕方あるまい! お前は知らなかったのだぞ!? だがその後、勢いで喧嘩してしまったのがお前の失敗だ。そしてそれは同時にダチ公の失敗でもある」
うむ、と頷き、鬱金が続ける。
「だから――そいつも、お前と同じように、仲直りしたい、許してほしい、そう思っているはずだ! 本当はわかっているのだろう? お前を一番許していないのは、お前自身だ。さあ、友達と話をしに行こう!」
「加奈子ちゃん、喧嘩しちゃったお友達、仲良しなんだよね」
萌花が続ける。
「だったらさ、仲直りしたくない? 悪いこと言っちゃったなって思ったから、許されたいんだよね?」
うん、と加奈子が頷いた。
「お友達のこと、嫌いになっちゃったわけじゃ、たぶん、ないじゃん」
うん、と加奈子が頷いた。
「だからさ、ごめんって謝ってみようよ。仲直りしたら、前よりもっと仲良しになれるよ」
ぽんぽん、と、萌花が加奈子の頭をなでる。
「うん……謝る……わたし、ちゃんと、謝るから……」
瞳を潤ませて、そういう加奈子へ、
「よくできました」
真琴奈が言った。
「すこし、目を閉じていてください。……さて、あなたの威とやら、借りておきますよ。その威を以て、彼女の背中を押してください」
真琴奈が呟くと、真琴奈の居候である存在の残霊が現れる。その力を借りて放たれるは紫の光。流星。常なれば必殺の一撃であるはずのそれは、今は、悪い夢から少女を目覚めさせる、目覚ましの一撃となった。
●目が覚めたら
すぅ、すぅ、と寝息を立てる加奈子の姿を見て、ケルベロス達は安堵の表情を浮かべた。
体力を消耗しているのだろう、加奈子が目覚める様子はまだなかったが、命に別状はなく、傷などもない様だ。
とにかく、今は休ませておくべきだろう。目が覚めたら、彼女は勇気を振り絞って、大切な友達に会いに行くのだ。
もちろん、彼女が望むのならば、ケルベロス達は最大限のバックアップを惜しまないだろう。
ビルシャナを倒し、少女を救う。
ケルベロス達は、その最良の結末を、見事に勝ち取ったのだった。
作者:洗井落雲 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年3月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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